説明

幹細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制剤及び塩基性線維芽細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制剤

【課題】SCFmRNA発現上昇抑制作用又はbFGFmRNA発現上昇抑制作用を有する物質を見出し、当該物質を有効成分とするSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤及びbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供する。
【解決手段】SCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤及びbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤に、アンペロプシンを有効成分として含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制剤及び塩基性線維芽細胞増殖因子mRNA発現上昇抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞増殖因子(Stem Cell Factor,SCF)は、Must Cell Growth Factor、C-Kit Ligand、Steel Factor等とも呼ばれ、角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨髄ストローマ細胞等から産生されるタンパク質である。SCFは、多能性造血幹細胞、生殖細胞、肥満細胞、巨核球系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ系前駆細胞、色素細胞等の増殖や分化を促進する作用を有することが知られている。また、SCFは、シミ部位や紫外線照射等によって発現が亢進することが知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
SCFとしては、273のアミノ酸残基からなる膜結合型SCFと、タンパク質分解酵素の作用により切断され、膜から遊離する分泌型SCFとが知られている。膜結合型SCFは、角化細胞等に結合したまま色素細胞のSCFレセプターに結合し、色素細胞の増殖を促進する。また、分泌型SCFは、その結合部位にて切断され、細胞膜から遊離し、色素細胞のSCFレセプターに結合することによって、色素細胞の増殖を促進する。さらに、SCFは、急性骨髄性白血病患者において、インターロイキン−3(Interleukin-3,IL−3)や顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage Colony Stimulating Factor,GM−CSF)の共存下で骨髄芽球の増殖を促進することが知られている(非特許文献2参照)。
【0004】
塩基性線維芽細胞増殖因子(basic Fibroblast Growth Factor,bFGF)は、FGF−2とも呼ばれ、紫外線照射により角化細胞からの遊離が促進され、遊離されたbFGFが色素細胞に作用してメラニン合成を促進し、かつ色素細胞の細胞分裂をも促進すると考えられている(非特許文献3参照)。また、bFGFは、血管新生促進因子として知られており、腫瘍細胞(特に、悪性腫瘍細胞)における血管新生を促進すること等が知られている。
【0005】
そのため、SCF及びbFGFの異常産生は、色素細胞の異常増殖につながり、メラニン産生を亢進させ、シミ、ソバカス、くすみ等の原因となると考えられる。また、SCFの異常産生は、骨髄芽球の異常増殖につながり、それにより骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病(AML)等の疾患を引き起こすものと考えられ、bFGFの異常産生は、腫瘍細胞における血管新生を促進し、それにより腫瘍細胞の増殖につながるものと考えられる。
【0006】
したがって、SCFmRNA及びbFGFmRNAの発現上昇を抑制することは、色素細胞の増殖を抑制し、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制し、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等の予防又は抑制に有用であると考えられる。また、SCFの発現上昇を抑制することは、骨髄芽球の異常増殖を抑制し、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の予防又は治療に有用であると考えられ、bFGFの発現上昇を抑制することは、腫瘍細胞における血管新生を抑制し、腫瘍細胞の増殖を抑制することで、がん治療等に有用であると考えられる。
【0007】
このような考えに基づき、SCFの産生・放出を抑制する作用を有するものとして、例えば、バラエキスローズ水、チャエキス、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、シラカバエキス、ケイヒエキス、チョウジエキス、アルニカエキス、ボタンエキス、ボダイジュ、クロレラエキス、ローマカミツレエキス、紅茶エキス、ユーカリエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、アセンヤクエキス、ブドウ葉エキス、ボウフウエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、ダイズエキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス、オトギリソウエキス及びヨモギエキス等が知られている(特許文献1参照)。また、bFGFの作用を抑制し得るものとして、例えば、オノニスエキス等が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−194809号公報
【特許文献2】特開2005−104904号公報
【非特許文献1】Hachiya A et al.,J. Invest. Dermatol.,No.116,2001,p.578-586
【非特許文献2】Virginia C. Broudy et al.,Blood,Vol.80,No.1,1992,p.60-67
【非特許文献3】Halaban R. et al.,J. Cell. Biol.,No.107,1988,p.1611-1619
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、SCFmRNA発現上昇抑制作用又はbFGFmRNA発現上昇抑制作用を有する物質を見出し、当該物質を有効成分とするSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤及びbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤又はbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤は、アンペロプシンを有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シミ、ソバカス、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等を予防、治療又は改善可能なSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤及びbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤又はbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤は、アンペロプシンを有効成分として含有する。
【0012】
アンペロプシンは、フラボノイドの一種であり、アンペロプシンを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することができる。なお、本発明において「抽出物」には、植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0013】
アンペロプシンを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって、アンペロプシンを含有する植物から得ることができる。アンペロプシンを含有する植物としては、例えば、藤茶(学名:Ampelopsis grossedentata)等が挙げられる。
【0014】
藤茶(Ampelopsis grossedentata)は、ブドウ科に属する多年生の植物である。中国ではこの植物の葉部を飲料として利用する地域がある他、根部又は全草が黄疸性肝炎、風邪、のどの痛み、急性結膜炎症等の治療のための民間薬として利用されている。抽出原料として使用し得る部位としては、花部、花穂部、果皮部、果実部、蕾部、茎部、葉部、枝部、枝葉部、幹部、樹皮部、根部又は地上部等が挙げられるが、これらのうち、枝葉部を使用するのが好ましい。
【0015】
藤茶抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0016】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0017】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0018】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0019】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合することが好ましい。
【0020】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0021】
以上のようにして得られた藤茶抽出物からアンペロプシンを単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、藤茶抽出物を、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、水、アルコールの順で溶出させ、アルコールで溶出される画分として得ることができる。
【0022】
カラムクロマトグラフィーにて溶出液として用いられるアルコールは、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール又はそれらの水溶液等が挙げられる。
【0023】
さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られたアルコール画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液−液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0024】
以上のようにして得られるアンペロプシンは、SCFmRNA発現上昇抑制作用又はbFGFmRNA発現上昇抑制作用を有しているため、それらの作用を利用して、SCFmRNA発現上昇抑制剤又はbFGFmRNA発現上昇抑制剤の有効成分として使用することができる。
【0025】
また、アンペロプシンは、そのSCFmRNA発現上昇抑制作用を利用して、SCFの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤(例えば、骨髄異形成症候群予防・治療剤、急性骨髄性白血病予防・治療剤、抗腫瘍剤等)の有効成分として用いることもできる。
【0026】
さらに、アンペロプシンは、そのbFGFmRNA発現上昇抑制作用を利用して、bFGFの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤(例えば、血管新生抑制剤、抗がん剤、抗腫瘍剤、がん細胞の転移を抑制する医薬組成物等)の有効成分として用いることもできる。
【0027】
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤又はbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤は、アンペロプシンのみからなるものでもよいし、アンペロプシンを製剤化したものでもよい。
【0028】
アンペロプシンは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。アンペロプシンを製剤化したSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤又はbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤の形態としては、例えば、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等が挙げられる。
【0029】
なお、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤又はbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤は、必要に応じて、SCFmRNA発現上昇抑制作用又はbFGFmRNA発現上昇抑制作用を有する天然抽出物等を、アンペロプシンとともに配合して有効成分として用いることができる。
【0030】
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤又はbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤、bFGFmRNA発現上昇抑制剤、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤又はbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0031】
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤は、アンペロプシンが有するSCFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、SCFの発現の上昇を抑制することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。また、アンペロプシンが有するSCFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、骨髄芽球の異常増殖を抑制することができ、これにより骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の疾患を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもSCFmRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0032】
本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、アンペロプシンが有するbFGFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、bFGFの発現の上昇を抑制することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。また、本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、アンペロプシンが有するbFGFmRNA発現上昇抑制作用を通じて、腫瘍細胞における異常な血管新生を抑制し、がん等の疾患を予防、治療又は改善をすることができる。ただし、本発明のbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもbFGFmRNA発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0033】
本発明のSCFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤は、アンペロプシンが有するSCFmRNA発現上昇抑制作用を利用して、SCFmRNA発現上昇に起因する疾患(例えば、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等)を予防・治療することができる。
【0034】
本発明のbFGFmRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤は、アンペロプシンが有するbFGFmRNA発現上昇抑制作用を利用して、bFGFmRNA発現上昇に起因する疾患(例えば、癌等)を予防・治療することができる。
【0035】
なお、本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤又はbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0036】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の試験例に何ら制限されるものではない。
【0037】
藤茶の葉部の粉砕物1000gを50容量%エタノール(水とエタノールとの容量比=1:1)5000mLに投入し、穏やかに攪拌しながら3時間、80℃に保った後、熱時濾過した。濾液を40℃で減圧下に濃縮し、さらに減圧乾燥機で乾燥して粉末状の藤茶葉部抽出物を得た。抽出物収率(質量%)は、17.6質量%であった。
【0038】
得られた藤茶50容量%エタノール抽出物5.5gをメタノール:水=3:7(容量比)の混合溶媒に溶解し、ODS(商品名:クロマトレックスODS DM1020T,富士シリシア化学社製)を充填したガラス製のカラム上部から注入して、ODSに吸着させた。次いで、移動相としてメタノール:水=3:7(容量比)を流し、その溶出液を集め、脱溶媒した後、水/メタノールにより再結晶を行い、結晶を濾別した。得られた結晶を減圧乾燥機で乾燥して、精製物2.2gを得た。得られた精製物(試料1)を13C−NMRにより分析した結果を下記に示す。
【0039】
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):DMSO−d
71.9(d,C-3),83.6(d,C-2),95.4(d,C-8),96.4(d,C-6),100.7(s,C-10),107.4(d,C-2',C-6'),127.6(s,C-4'),133.6(s,C-1'),145.9(s,C-3',C-5'),162.9(s,C-9),163.4(s,C-5),167.0(s,C-7),197.4(s,C-4)
【0040】
以上の結果から、得られた精製物が、アンペロプシン(試料1)であることが確認された。
【0041】
〔試験例1〕SCFmRNA発現上昇抑制作用試験
上記アンペロプシン(試料1)について、以下のようにしてSCFmRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0042】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を集めた。
【0043】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON社製)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度:10μg/mL)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0044】
この総RNAを鋳型とし、SCF及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A,タカラバイオ社製)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。SCFのmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加および紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりSCFmRNA発現促進率(%)を算出した。
【0045】
mRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。
【0046】
上記試験の結果、アンペロプシンのSCFmRNA発現上昇抑制率(%)は、54.4%であった。このように、アンペロプシンは、優れたSCFmRNA発現上昇抑制作用を有することが確認された。
【0047】
〔試験例2〕bFGFmRNA発現上昇抑制作用試験
上記アンペロプシン(試料1)について、以下のようにしてbFGFmRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0048】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK)を80cmフラスコで正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)において、37℃、5%CO−95%airの条件下で前培養し、トリプシン処理により細胞を集めた。
【0049】
EpiLife-KG2を用いて35mmシャーレ(FALCON社製)に40×10cells/2mL/シャーレずつ播き、37℃、5%CO−95%airの条件下で一晩培養した。24時間後に培養液を捨て、HEPES緩衝液1mLを加えてUV−B照射(50mJ/cm)を行い、その後EpiLife-KG2で必要濃度に溶解した試験試料(試料1,試料濃度は下記表1を参照)を各シャーレに2mLずつ添加し、37℃、5%CO−95%airの条件下で24時間培養した。培養後、培養液を捨て、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat.no.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0050】
この総RNAを鋳型とし、bFGF及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No.RR063A,タカラバイオ社製)によるリアルタイム2 Step RT-PCR反応により行った。bFGFのmRNAの発現量は、紫外線未照射・試料無添加、紫外線照射・試料無添加及び紫外線照射・試料添加でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基にして、GAPDHの値で補正値を求め、さらに紫外線未照射・試料無添加の補正値を100とした時の紫外線照射・試料無添加および紫外線照射・試料添加の補正値を算出した。得られた結果から、下記式によりbFGFmRNA発現促進率(%)を算出した。
【0051】
mRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中Aは「紫外線未照射・試料無添加時の補正値」を表し、Bは「紫外線照射・試料無添加時の補正値」を表し、Cは「紫外線照射・試料添加時の補正値」を表す。
結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、アンペロプシンは、優れたbFGFmRNA発現上昇抑制作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のSCFmRNA発現上昇抑制剤及びbFGFmRNA発現上昇抑制剤は、シミ、ソバカス、皮膚の色黒(皮膚色素沈着症)等の予防・改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンペロプシンを有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇抑制剤。
【請求項2】
アンペロプシンを有効成分として含有することを特徴とする塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇抑制剤。
【請求項3】
アンペロプシンを有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤。
【請求項4】
アンペロプシンを有効成分として含有することを特徴とする塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)mRNA発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤。

【公開番号】特開2009−209050(P2009−209050A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50737(P2008−50737)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】