説明

幻肢痛を治療し義肢から被切断者に感覚フィードバックを与える電気刺激システム

【課題】切断手術を受けた者の幻肢痛を軽減し、切断手術を受けた者に義肢からの感覚フィードバックを与えるシステムに関し、幻肢痛を軽減し欠損した手足から失った感覚機能を取り戻すシステムを提供する。
【解決手段】該システムは埋め込み可能な多チャネルの多室性インターフェース構造、即ち神経カフ30を使用する。この埋め込まれた神経カフは、電極14を備える。電極14は信号発生器12から発生した信号を神経20に送信し、感覚信号を大脳皮質に送信するよう特定のニューロンの反応を増大させ、切断手術を受けた者に感覚を示す。このような信号は、正常に神経支配されている四肢の皮質に認識される信号の列に近似して直接信号発生器から発せられるか、或いは義肢のセンサ(50a〜c)から発せられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体組織の電気刺激のシステムに関し、特に、切断手術を受けた者(以下、被切断者とする)の幻肢痛を軽減する為に神経を刺激するか、または被切断者が装着した義肢からの感覚フィードバックを提供するかの少なくとも一方を行う為のシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
手足すなわち四肢の切断は3つの主要なタイプの機能障害を引き起こす。この機能障害のうち2つは即時に起こる、切断の直接的結果である。つまり、切断面以下での運動機能の喪失と、切断面以下の欠損した手足から生じる感覚フィードバックの喪失である。
【0003】
3つ目の機能障害は、切断のより間接的な機能障害の結果であり、「幻肢」感覚としてよく知られているものである。この感覚は切断直後または切断後の様々な時間遅れて発生し得る。このような感覚がある被切断者は依然として自身の切断された手足を本来の場所に「感じる」場合がある。特に問題となるのは、被切断者に元の手足から生じるように思われる痛覚が感じられる幻肢痛である。
【0004】
大多数の手足の被切断者が訴えるしばしば非常に鮮烈で心乱される幻肢感覚の原因は、完全にはわかっていないが、幾つかのプロセスが原因であると考えられている。正常な末梢感覚神経の入力の喪失に続き、大脳皮質の領域のニューロン、特に切断された手足に関連する一次感覚野のニューロンが、手足の断端に残存し現在は感覚の終末器官との連絡が切断されている感覚神経から生じるシナプスの入力の受容性を非常に増大させる可能性がある。
【0005】
皮質のニューロンは身体の他の領域から生じる感覚の入力、特に本来切断された手足や身体の部分専用の皮質領に隣接する皮質の部位に通常投射する領域から生じる感覚の入力にも更に大きな受容性を持つようになる可能性がある。“cortical plasticity”(Ramachandran, V.S.,及びHlrstein, W.(1998) The Perception of Phantom Limbs. The D.O. Hebb lecture Brain 121: 1603−1630)に記載されているこの皮質の反応プロセスは、動物モデルでは実験用の指の神経切断後2時間の早さで発現し(Merzenich MM, Kaas JH, Wall JT, Sur M, Nelson RJ. Felleman DJ.(1983)のProgession of Change Following Median Nerve Section in the Cortical Representation of the Hand in Areas 3b and 1 In Adult Owl and Squirrel Monkeys. Neuroscience 10(3):639−65); (Kaas JH. (1998) Phantoms of the Brain. Nature 391 (6665):331, 333)、末梢神経が横切されたままで本来のまたは他の適した標的器官との接触が回復不可能な場合は、何週間も何ヶ月も発展し続ける。
【0006】
この非常に増大された皮質の神経の不適当な感覚入力への応答性は、少なくとも部分的に幻肢感覚の原因になっていると考えられている。このように、他の身体領域の感覚受容器により、また切断された手足の断端の連絡が切断された感覚器終末の任意の活性により感覚が引き起こされても、幻肢感覚は欠損した手足や指から生じると解釈される。
【0007】
このような幻肢感覚は痛みの成分を含む場合と含まない場合がある。痛みがある場合、その激しさは時には耐え難くなったり極度に被切断者を無力にしたりするほどである。幻肢痛の発生の理由を説明しうる1つの可能性は、感覚受容器(例えば、低閾値の皮膚受容体や筋肉受容体)の他の様相から生じ径がより太い有髄の軸索により運ばれる感覚の情報の正常な流れが、切断により排除されたり非常に妨害されたりすることである。これらの感覚軸索は通常、固有受容性である皮膚の起点の無痛性の情報、例えば触覚、圧力、温度、筋肉の長さ、腱の力、関節の位置などを伝達する。
【0008】
痛みの学術文献の重要で画期的なものに、痛みの「ゲートコントロール説(Gate Control Theory)」を1960年代に提唱したWallとMelzackの研究((1965) Pain Mechanisms: A New Theory. Science 150(669):971−9)があり、それによって径が太い触覚のAb神経線維の活性が、より細いAδ線維及びC線維により脊髄に運ばれる痛みの活性情報の中枢的な伝達を減少させると仮定された。この仮説には議論の余地が残されているが、この仮説は、異なる様相の平行した感覚入力間に存在し得る複雑な相互作用や、痛みの中枢的な知覚に寄与し得る様々な中枢的な因子や末梢性の因子に焦点を合わせた。現在では一般に、径が太い感覚神経線維と径が細い感覚神経線維の活性のバランスが脊髄と脳の中枢での痛みの伝達において重要であることが認められている。
【0009】
WallとMelzackが提唱する中枢神経系のシナプスの結合性に関する1つの理論では、太い有髄の感覚神経線維からのシナプスの入力は通常、痛みの経路情報を媒介しより径が細い無髄の感覚神経線維で行われる痛覚の伝達を抑制する傾向がある介在ニューロンに収束する。痛みの伝達を抑制する可能性のある固有受容性である皮膚の情報が無いので、痛みの経路は開放されている。他の身体領域から感覚受容器を介して、また切断された手足や指の神経の断端での痛みの求心性神経における任意の活性を介して感覚が引き起こされても、皮質に到達する痛みの感覚は、欠損した手足や指から生じると解釈される(従ってその用語は「幻肢」痛という)。
【0010】
切断された手足の神経線維の運命に関しては、切断された神経の全ての神経線維は線維の直径が減少するという意味ではある程度萎縮するが、引き続き電気的インパルスを伝導しシナプスの結合性のパターンを保持するという意味では神経細胞は一般に生存可能なままであることがよく知られている。感覚神経線維が運動神経線維よりも相対的に萎縮すること(Hoffer, J.A., Stein, R.B.及びGordon, T. (1979) Differential Atrophy of Sensory and Motor Fibers Followjng Section of Cat Peripheral Nerves. Brain Res. 178:347−361)、更に、径が太い感覚神経線維が一般に径が細い感覚神経線維よりも萎縮することも既知である。同様に、径が太い運動神経線維は一般に径が細い運動神経線維よりも萎縮する。切断し300日の期間にわたって結紮された猫の後肢の神経の場合、Milner他((1981) The Effects of Axotomy on fhe Condition of Action Potentials in Peripheral Sensory and Mortor Nerve Fibers. J Neurol Neurosurg Psychiatry 44(6):485−96)は、太い感覚神経線維の伝導速度(CV)が60%減少し、細い感覚神経線維のCVが約45%減少し、太い運動神経線維のCVが40%減少し、細い運動神経線維のCVが約20%減少したことを発見した。従って、切断された神経では、「太い」神経線維と「細い」神経線維の直径は徐々に近づくようになり、その結果、電気刺激の閾値も近くなる。
(従来技術の説明)
幻肢痛の治療の為に様々な薬理学的な解決方法が提唱されてきた。鎮痛薬は一般にこのような痛みに不利には作用しない。抗うつ病の投薬は痛みの感覚を減少する可能性を持ちはするが、深刻な副作用があり適用範囲が制限されている。望まれない副作用を伴わずに幻肢痛を安全かつ効果的に治療すると認められている認可薬は現時点では存在しない。別の解決方法は断端への交感神経の供給の遮断または除去であり、これは幻肢痛の一時的な減少をもたらす可能性はあるが、効果は切断後どれだけ早く手順を踏むかに依存し、持続性がない場合がある(Livingston KE (1945) Phantom Limb Syndrome. A Discussion of the Role of Major Peripheral Nerve Neuromas. J. Neurosurgery 2:251−5)。
【0011】
神経構造への電気刺激が特定のタイプの末梢性の痛みを軽減させることに効果的であることが知られている。現在までに使用されている2つの主要な方法は、経皮電気神経刺激(TENS)及び脊髄後索刺激(DCS)である。これらの治療の作用様式は、手足の神経(TENS)または脊髄(DCS)における径が太い感覚神経線維の刺激を伴い、ゲートコントロール説で述べられている中枢経路での痛みの伝達を減少させる。
【0012】
しかし、これらの電気刺激技術の応用は、被切断者の幻肢痛の治療においてはささやかな成功を収めたに過ぎない。切断された神経の感覚神経線維が徐々に細くなるにつれ、TENSは効果的でなくなると思われる。そうなる場合、電気的閾値は、線維がTENSでは効果的な反応の増大が不可能な程度まで徐々に上昇する。
【0013】
電気刺激を与えることにより被切断者の切断神経のうち径が太い感覚神経線維を選択的に刺激することが可能であるという限定された証拠もあり、その結果、付随して痛覚を引き起こすことは一切なく触覚を誘発する。Stein, R.B., Charies, D., Hoffer, J.A., Arsenault, J., Davis, L.A., Moorman, S., and Moss, B.(1980) New Approaches to Controlling Powered Arm Prostheses, Particularly by High−Level Amputees. Bull. Prosth. Res. 17:51−62は、被前腕切断者の前腕断端内部の結紮された末梢神経の感覚軸索を電気的に刺激することで、被切断者が切断された手足から生じると解釈した感覚は、誘発が可能であることを示した。腕が30年以上前に切断されていても、対象である被切断者は刺激を明白に感じることができ、被切断者は幻肢の尺骨の側面から生じる、特に通常尺骨神経に神経支配されている感覚野である薬指や小指から生じる、無害のチクチクする感覚を訴えた。被切断者は主観的に単一パルスから10〜20Hzまでの定常割合に達する刺激の周波数を識別することができた。周波数が20Hzよりも大きい場合、感覚は消えたかまたは無いと報告されたが、これは神経線維がその患者内部の高周波数の刺激により疲労をきたした可能性を示す。この文献は、被切断者の切断された感覚神経線維が感覚終末器官との適した結合が無い状態で30年以上生き残る可能性を示唆している。
【0014】
Sculman(米国特許番号4,232,679)及びSchwabe(WO 98/25552)に人の組織に刺激を与えるシステムが記載されているが、本発明に提供される利点は無い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、幻肢痛を軽減し欠損した手足から失った感覚機能を取り戻すシステムを提供する。
径が太い感覚神経線維に沿って中枢を流れる活性は、径が細い線維が伝える痛みの情報の中枢知覚を助けて抑制させる可能性があり、当然の結果として、通常径が太い感覚神経線維、例えば末梢感覚器官との連絡が切断された触覚の受容体の求心性神経に発生する活性が無い場合、痛覚が意識される機会はより大きい。被切断者に痛覚がある場合、この状態は例えば、このように線維内の感覚の交通量を回復する為に太い感覚神経線維を選択的に電気刺激することにより逆になる場合があり、従って、径が太い線維と径が細い線維の活性のより正常なバランスが回復され、中枢的な経路における痛みの情報の過剰な流量を再度平衡させる。
【0016】
特に、本発明は、切断された手足の近位の断端内部に留置された切断された末梢神経の断端の内部に周囲にまたは近くに単数または複数の電極が配置されかつ埋め込まれた、幻肢痛を軽減するシステムを提供する。適切に選択された電気刺激パラメータは、以下の望ましい目的を達成する。
1)義肢のパラメータ、例えば触覚、圧力、力、すべり、関節の位置、温度情報などに関する感覚フィードバックの提供、または
2)幻肢痛を治療する効果的な方法の提供、の少なくともどちらか一方を達成する。
【0017】
より具体的には、本発明は手足に断端を有する被切断者の幻肢痛を軽減するシステムであって、前記手足の断端に埋め込まれ、被切断者の手足の断端における切断された感覚神経の近傍に配置され、電流が印加された場合に電気刺激を前記神経に与える複数の電極と、変動する電気信号を各電極に伝えるよう作成された電気信号発生器とを備えたシステムを提供する。好適な実施の形態では、前記神経の一部の周囲を取り囲むように前記手足の断端に埋め込まれるよう作成された管状の神経カフ内部に前記電極が組み込まれる。
【0018】
更なる実施の形態では、神経カフが多室性で、前記電極の各々は神経カフの1つの室に分離され、その結果電極の各々は前記神経の異なる部分の近傍に設置される。
代替的に、1つ以上のカテーテルが痛みの治療の為に選択的に薬物を神経の断端に送達し得る。
【0019】
1つの実施の形態では、本発明は特定の多チャネルのインターフェース構造を持ち、神経等の身体組織の内部における複数の部位または感覚の様相を刺激可能にする為に埋め込まれ、加えて化学物質を選択的に注入する。インターフェースは神経カフの形式であり得る。インターフェースは電気的結合、化学的結合または光学的結合のうちの少なくとも1つを選択された身体組織に供給する。
【0020】
本発明の好適な実施の形態は、神経の断端上に直接的にまたは神経の断端に近接して電極を切断された手足の内部に埋め込むことで、切断された手足における切断された神経の断端の太い感覚神経線維を電気刺激して選択的な反応増大の有効性を高める。直径が異なる神経線維は異なったように萎縮するので、太い神経線維と細い神経線維の電気刺激の閾値は共に徐々に近よる傾向がある。刺激用の電極を神経に近づけて設置することが、神経の切断の結果として太い神経が萎縮した後でも選択的に太い神経を刺激する為の改良された手段を与える。
【0021】
より具体的には、本発明は手足に断端を有する被切断者の幻肢痛を軽減するシステムであって、前記手足の断端に埋め込まれ、被切断者の手足の断端における切断された感覚神経の近傍に配置され、電流が印加された場合に電気刺激を前記神経に与える複数の電極と、変動する電気信号を各電極に伝えるよう作成された電気信号発生器とを備えたシステムを提供する。好適な実施の形態では、前記神経の一部の周囲を取り囲むように前記手足の断端に埋め込まれるよう作成された管状の神経カフ内部に前記電極が組み込まれる。
【0022】
更なる実施の形態では、神経カフが多室性で、前記電極の各々は神経カフの1つの室に分離され、その結果電極の各々は前記神経の異なる部分の近傍に設置される。カフ電極は所望の刺激を供給する他のタイプの電極よりも、容易に設置でき、より効果的であると考えられる。多チャネルの電極も所望の感覚神経の様相を電気刺激で選択的に反応増大するにはより効果的である。多室性の神経カフは多チャネル刺激を供給するのに最も好適な設計である。
【0023】
本発明の別の側面は、中枢経路での痛覚の伝達を困難にしたり抑制したりするのに役立つ、切断された神経の断端における太くて閾値がより低い有髄感覚軸索への無害な電気刺激の応用方法を提供する。これらの刺激方法は、「幻肢」感覚、特に「幻肢」痛覚、の原因であり得る、手足切断後に感覚野で発生すると考えられるシナプスの変化の発展を、阻止するか低下させるよう作用する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、手足に断端を有する患者の幻肢痛を軽減するシステムであって、切断された手足の神経の1つ以上の選択された感覚神経繊維を刺激するための電気刺激信号を生成する信号発生器であって、該電気刺激信号は、切断される前の、正常に神経支配されている手足から受け取られる感覚のパターンに近似することと、幻肢痛を軽減するために、前記信号発生器に前記電気刺激信号を発生させ、該電気刺激信号を前記1つ以上の選択された感覚神経繊維に送るようにプログラムされたマイクロプロセッサであって、前記電気刺激信号の選択が患者からのフィードバックに基づくものであることと、前記電気刺激信号を、前記選択された感覚神経繊維に送信する手段とを備え、前記電気刺激信号を、前記選択された感覚神経繊維に送信する手段は、切断された手足の神経の近傍に埋め込まれるように適合された複数の電極から成り、該電極の各々は前記切断された手足の神経の異なる感覚神経繊維の近傍に配置されるシステムを提供する。
【0025】
請求項2に記載の発明は、前記信号発生器およびマイクロプロセッサが身体の外部への配置用に適合されている請求項1に記載のシステムを提供する。
請求項3に記載の発明は、前記信号発生器およびマイクロプロセッサが義肢の内部への配置用に適合されている請求項1に記載のシステムを提供する。
【0026】
請求項4に記載の発明は、前記電気刺激信号を送信する手段が遠隔送信手段である請求項1に記載のシステムを提供する。
請求項5に記載の発明は、前記遠隔送信手段が、前記信号発生器に結合された送信アンテナと、前記電極に結合された受信アンテナとを含む請求項4に記載のシステムを提供する。
【0027】
請求項6に記載の発明は、前記電気刺激信号を送信する手段が、前記1つ以上の電極と前記信号発生器との間に延びるケーブルを有する請求項1に記載のシステムを提供する。
請求項7に記載の発明は、前記電気刺激信号が、10〜1000μsの持続時間を有するインパルスである請求項1に記載のシステムを提供する。
【0028】
請求項8に記載の発明は、前記電気刺激信号が単相である請求項1に記載のシステムを提供する。
請求項9に記載の発明は、前記電気刺激信号が二相である請求項1に記載のシステムを提供する。
【0029】
請求項10に記載の発明は、前記電気刺激信号は、痛覚神経刺激の反応増大を起こさずに径が太い感覚神経繊維の反応増大を起こすために必要な閾値電流の1〜10倍になるように選択された電流の振幅を有する請求項1に記載のシステムを提供する。
【0030】
請求項11に記載の発明は、前記信号発生器は電気刺激信号の振幅を調整可能である請求項1に記載のシステムを提供する。
請求項12に記載の発明は、前記信号発生器は電気刺激信号の周波数を調整可能である請求項1に記載のシステムを提供する。
【0031】
請求項13に記載の発明は、前記電極は、埋め込まれた時に切断された手足の神経の周囲を取り囲む絶縁神経カフ内に組み込まれ、該神経カフ内の各電極は、切断された手足の神経の異なる感覚神経繊維の近傍に位置する請求項1に記載のシステムを提供する。
【0032】
請求項14に記載の発明は、前記神経カフが多室性であり、電極間の絶縁を提供する並列した複数のリッジを有する管状の神経カフである請求項13に記載のシステムを提供する。
【0033】
請求項15に記載の発明は、埋め込まれた時に切断された手足の神経の周囲を取り囲む神経カフを更に備え、該神経カフは、複数の分離された室と、前記切断された手足の神経の感覚神経繊維に薬物を選択的に送るために該室の各々に関連するカテーテルとを有し、前記電気刺激信号を選択された感覚神経繊維に送信する手段は、薬物を1つ以上のカテーテルに送る請求項1に記載のシステムを提供する。
【0034】
請求項16に記載の発明は、前記電気刺激信号を手足の断端の感覚神経繊維に送信する手段は、光学送信リンクからなる請求項1に記載のシステムを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の特定の実施の形態の1つを図に示す。
図1に示すように、手に断端10を持つ被切断者の幻肢痛を軽減する本システムは、手の断端10に埋め込まれた複数の電極14(図2と図3により詳細に示す)を備えている。電極14は、切断された手の断端10において、切断された手を神経支配している「感覚」神経20に近接している。
【0036】
電気信号発生器12等の電気刺激システムは、電気信号を電極14に伝えるよう作成されている。信号発生器12は手足の断端10に埋め込まれ適切な生体適合性のケーブル線(図示せず)を介し電極14に直接接続されてもよいし、図1に示すように、信号発生器12は被切断者の体外にあってもよい。
【0037】
この場合、信号発生器12により電極14に伝えられる信号は、ケーブル線が被切断者の皮膚を貫通しないよう望ましくは部分的に遠隔測定により伝達される。図1に示すように、本発明の好適な実施の形態では、信号発生器12からの信号は外部ケーブル18を通って送信アンテナ22Aへ伝わり、被切断者の皮膚を横断して受信アンテナ22Bへ行き、その後ケーブル16を通過して電極14に至る。
【0038】
上述の通り、各電極14は神経20に近接して手足の断端10に埋め込まれる。図2と図3に示すように、神経20は複数の神経束28及び個々の神経軸索29を含み、全て神経周膜27で包囲されている。
【0039】
電極14が神経20に与える電気信号は、神経20の特定の部分(即ち、特定のニューロン)を刺激または反応増大して、その部分に活動電位の形で神経信号を与えると判明した。本明細書の文脈では、「神経20に近接して」とは、信号発生器12で生成された電気信号を伝達することで信号を神経20で生成するのに十分なだけ短い間隔を神経20に対し空けて電極14が埋め込まれることを意味する。従って、電極14は神経20に直接埋め込まれてもよいが、信号発生器12で生成された信号が電極14により伝達されることでなお活動電位の形で神経信号が神経20で生成され神経20に沿って伝導される限りは、神経20の表面に直接置かれてもよいし、神経20の表面から少し離れていてもよい。
【0040】
本発明の好適な実施の形態では、本システムの電極14は埋め込まれる際に神経20の周囲を取り囲むよう作成された神経カフ30に組み込まれる。このような神経カフ30が図2と図3に詳細に示される。
【0041】
共に参照により本願に組み込まれるカレソー他の米国特許番号5,487,756及びホファー他の米国特許番号5,824,027に記載の通り、神経カフは一般に管状の構造であり、カフ壁により区画形成されたルーメン内で問題の組織即ち神経を生体内で電気的に絶縁するよう使用される外壁を備えている。長期埋め込み用に設計されている神経カフは、医用グレードのシリコーン等の適切な生体適合性の材料で形成される。
【0042】
神経カフ30はいかなる適切な設計でもよいが、図に示すように、好適な神経カフは多チャネル(即ち複数の電極を持つ)で多室性の神経刺激カフである。好適な実施の形態では、電極14及びカテーテル25用の様々な開口が、備わっている場合には、カフ壁にレーザで切り込まれる。カテーテル25の意義を以下に論じる。
【0043】
図2と図3は、切断された手足の切断された神経の周りに設置された本発明の好適な神経カフを示す。好適な多チャネル神経カフ30には、カレソー他に記載された互いにかみ合わされた管状部材32を有する囲いがある。神経カフ30は、互いにかみ合わされる際に長尺部材31が管状部材32の中を端から端まで伸びることで閉じられている。
【0044】
先行技術で教示したように、複数の電極14が神経カフ30内部の個々の室23の内部に配置されている。室23は神経カフ30の管腔内を伸びるリッジ24により形成されている。室23はカフ30に収容された神経20に向けられる電気刺激の選択性の向上に役立つ。特に、多チャネルで多室性の神経カフ30を用いると、電極14の各々により与えられた電気信号は相対的に互いに絶縁され、一電極または特定の一組の複数電極からの信号は、特定のニューロン(一般に、信号を与える電極を収容している特定の室に近接したニューロン)のみの反応を増大させ、神経信号を生成する。このようにして、特定の電極を介して信号を与えることで、選択的ニューロンの反応は増大され、神経信号が生成される。
【0045】
「感覚信号」を送信するニューロンの反応が増大されることに依存する種々の感覚を被切断者が正しく認識し得ることは十分理解されるであろう。指先の触覚検出器を神経支配していたニューロンが刺激された場合、例えば、被切断者にはこの接触の感覚がある。
【0046】
本発明者により、複数の信号を信号発生器12で発生して電極14に送信し、その結果神経20のさまざまな部分を刺激し得ることが判明した。これには被切断者に適用された際に幻肢痛が軽減する場合があるという効果があるが、その理由は、一定流量の感覚情報の大脳皮質への供給及び太い感覚神経線維と細い感覚神経線維の活性のバランスの回復が、被切断者の脳の感覚野への痛覚の過度の伝達を抑制する傾向があるためである。
【0047】
一般に個人特有な刺激の特定パターンが、他のパターンよりも幻肢痛の軽減において効果的になることも発見された。特に、正常な神経支配されている手足から受信される信号の列に近い信号のパターンは、特に効果的であることが発見された。本発明の好適な実施の形態では、このような刺激パターンを最適化するようにシステムがプログラムされたり、被切断者が刺激パターンの選択を制御したりし得る。被切断者が信号の振幅や周波数を調整したり、例えば、どのチャネル(即ち電極)がどの信号を伝達するかを選択したりし得る。
【0048】
1つの方法では、刺激インパルス当たりの電圧、電流、電荷密度の持続時間の範囲が望ましくは10〜1000μsで、単相の場合は望ましくは負極であり、二相の場合は望ましくは負極/正極であり、径がより細く閾値がより高い線維に痛みを増大しないために、電流の振幅は望ましくは径が太い感覚神経線維の第1の反応増大の閾値電流の1〜10倍の範囲である。閾値は、皮膚の感覚や固有受容性の様相を引き起こす被切断者に認められる最も低いレベルの刺激により決定される可能性がある。使用する最大の刺激を決定する別の方法は、有害または有痛性の感覚を引き起こさない最高レベルの刺激を被切断者に報告させて刺激を痛みの閾値レベル以下で安全に続けることである。
【0049】
更に、好適な方法では、被切断者に合しない強直痙攣として知覚される最大の周波数までの範囲の列で刺激が与えられ、10〜20Hzの高さまたは300Hzの高さ(1秒当たり300インパルス)である。刺激は一定周波数の列、一定周波数の刺激の一定のバースト、任意のバースト、徐々に増加または減少する周波数のバーストとして与えられるか、被切断者に起こって訴えられる感覚や被切断者の表明した好みにより部分的に決定されるその他多くのパターンで与えられ得る。
【0050】
更にまた、本発明の電気刺激システムは、発生した信号が効果的に電極14に送信される限りどこにでも配置可能であるが、本発明の好適な実施の形態では、図1に示すように、信号発生器12を義肢40の内部に組み込むのが便利である。義肢40は複数のセンサ50(3つのセンサを50A、50B、50Cと標識して図1に示す)及び様々なモータ60を備える場合もある。
【0051】
上述の通り、神経20に送信された信号を神経支配されている正常な手足から生じていると皮質に一般に認識される信号のパターンと列に概ね近似すると、該信号が幻肢痛を軽減する為に効果的であることが判明した。従って、正常な流れに近似した信号の流れを神経20に与えることが望ましい。このことは、義肢40のセンサで生成された信号が神経20へと「通過する」ことにより効果的に達成可能である。従って、発生器12は義肢のセンサ50から発生器12への情報の流量に依存し該流量に近い電気刺激のパターンを神経20に与えることが可能である。
【0052】
好適な実施の形態では、このことは、センサ50で生成された信号を受け入れるようプログラムされたマイクロプロセッサを信号発生器12と共に備えることで達成される。信号発生器12がセンサ50で生成された信号を神経30に送信される電気信号へと変換する。センサ50からの感覚信号は直接的に義肢の送信機から断端に埋め込まれた受信機(図示せず)へと遠隔計測器で伝えられてもよいし、人工器官に含まれるトランスデューサ及び送信機で変換が行われてもよい。義肢40の使用時、感覚フィードバックシステムは、他の日時(例えば、被切断者が眠っている時)にオンに切り換えられる上述の幻肢痛治療の刺激装置による背景活性を無効にし、これに取って代わる。
【0053】
義肢40の特定のセンサの作動時に神経30に送信される信号が「適切な」感覚を被切断者に与える場合、感覚フィードバックシステムが最も効果的に動作することは十分理解されるであろう。皮質はゆっくり時間をかけて少なくとも部分的に「不正確な」感覚に適応するのではあるが、例えば、義肢40の指先の触覚センサが刺激された場合に、何か別の感覚よりも、被切断者が何かに触れた指先に感覚を得ることが望ましい。マイクロプロセッサはセンサ50から受信した特定の信号に依存して適切な信号を適切な電極14に送信するようプログラムされ得る。このことは簡単に神経30の異なる部分(即ち異なる電極)の刺激に際しどの感覚を覚えたかに関する被切断者からのフィードバック、及び適切な適合がマイクロプロセッサにプログラムされていることを必要とする。
【0054】
本発明の更なる実施の形態では、システムがマイクロプロセッサに備え付けられている場合、被切断者が発する様々な自発的な指令信号を義肢40のセンサ50から届く感覚情報流量と共に監視するようプログラムされ、従って義肢の関節と指の位置および動きを制御する義肢40内に設置されたモータ60の動作を制御し得る。
【0055】
操作中、目的が義肢から生じる感覚フィードバックを与えることである場合は、望ましくは義肢40が接続され使用されている期間中は刺激が継続的に加えられる。使用されていないときも、被切断者に痛覚を解されないよう皮質の刺激を与える為に依然として信号発生器12で刺激を加え得る。
【0056】
刺激は望ましくは義肢のセンサに監視されている任意の感覚の入力の強度と関連付けられる。例えば、フィードバックの1チャネルに関し、監視されている入力は親指と人差し指の間の握力即ち圧力である可能性がある。このような場合、神経の刺激の強度は使用可能な動的範囲内で監視する強度の範囲まで等級分けされる。例えば、0〜10Nの範囲の握力が監視され被切断者に認められる刺激の周波数の動的範囲が0〜20Hzの場合なら、1Hz増分ごとに0.5Nの増加が相当し、0〜20Hzの刺激の周波数範囲が0〜10Nの握力範囲に相当するように、刺激は概算され得る。
【0057】
多チャネルのシステムの場合、本質的に同一のパターンが使用されるが、刺激パラメータがチャネル毎に全て異なり独立して制御されるように各チャネルとは独立してこれらのパターンが与えられてもよく、また各チャネルは異なる感覚様相を表現する為の専用にしてもよい。例えば、4つの感覚チャネルが手の人工器官からのフィードバックに利用可能である場合、親指の握力、親指のすべりの検出、手関節の角度、手のひらで知覚される熱を表す為に割り当てられ得る。4つの感覚入力は各々、義手や義手の手首に構築された適切なセンサで与えられ、上述の通り独立して単一チャネルフィードバックシステムにコード化される。
【0058】
本発明のシステムは、切断に引き続いて起こる皮質の変化を最大限抑えるよう、最大のメリットをもたらす為に手足の切断後できるだけ速やかに(またはその前でも)埋め込まれるべきであると考えられる。
【0059】
前述の開示を鑑みれば当業者には明白なように、本発明を実施するにあたり本発明の範囲や精神を逸脱せずに多くの変更や改変が可能である。例えば、信号発生器が生成した電気信号が神経20に電気的に送信されることは本発明に不可欠ではない。神経カフ30は1つ以上の信号トランスデューサ、関連している導体、関連している信号処理装置の機械的な固着を支持する場合がある。例えば、ニューロンの反応を増大する為に神経30に信号発生器12からの信号を変換するには、電気化学のシステム、薬理学的システム、または光学的システムのうちの少なくとも1つを持つことが適切である。カテーテル25を含むこのような薬理学的システム70もまた図1に示す。
【0060】
更に、本願に記載のシステムを被切断者への特定の応用例により記載したが、切断により他の末梢神経の損傷が引き起こされた被切断者で作用させるには、適宜適切な改変をしてもよい。
【0061】
従って、本発明の範囲は請求項により定義された内容に従って解釈されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】被切断者の手の断端と、幻肢痛を軽減し本発明の方法を実施するシステムが備え付けられた義肢との略図。
【図2】被切断者の手足の断端における切断され結紮された神経を取り囲む多チャネルの神経カフの斜視図。
【図3】被切断者の手足の断端における切断され結紮された神経を取り囲む多チャネルの神経カフの断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手足に断端を有する患者の幻肢痛を軽減するシステムであって、
切断された手足の神経の1つ以上の選択された感覚神経繊維を刺激するための電気刺激信号を生成する信号発生器であって、該電気刺激信号は、切断される前の、正常に神経支配されている手足から受け取られる感覚のパターンに近似することと、
幻肢痛を軽減するために、前記信号発生器に前記電気刺激信号を発生させ、該電気刺激信号を前記1つ以上の選択された感覚神経繊維に送るようにプログラムされたマイクロプロセッサであって、前記電気刺激信号の選択が患者からのフィードバックに基づくものであることと、
前記電気刺激信号を、前記選択された感覚神経繊維に送信する手段とを備え、
前記電気刺激信号を、前記選択された感覚神経繊維に送信する手段は、切断された手足の神経の近傍に埋め込まれるように適合された複数の電極から成り、該電極の各々は前記切断された手足の神経の異なる感覚神経繊維の近傍に配置されるシステム。
【請求項2】
前記信号発生器およびマイクロプロセッサが身体の外部への配置用に適合されている請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記信号発生器およびマイクロプロセッサが義肢の内部への配置用に適合されている請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記電気刺激信号を送信する手段が遠隔送信手段である請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記遠隔送信手段が、前記信号発生器に結合された送信アンテナと、前記電極に結合された受信アンテナとを含む請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記電気刺激信号を送信する手段が、前記1つ以上の電極と前記信号発生器との間に延びるケーブルを有する請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記電気刺激信号が、10〜1000μsの持続時間を有するインパルスである請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記電気刺激信号が単相である請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記電気刺激信号が二相である請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記電気刺激信号は、痛覚神経刺激の反応増大を起こさずに径が太い感覚神経繊維の反応増大を起こすために必要な閾値電流の1〜10倍になるように選択された電流の振幅を有する請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記信号発生器は電気刺激信号の振幅を調整可能である請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記信号発生器は電気刺激信号の周波数を調整可能である請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記電極は、埋め込まれた時に切断された手足の神経の周囲を取り囲む絶縁神経カフ内に組み込まれ、該神経カフ内の各電極は、切断された手足の神経の異なる感覚神経繊維の近傍に位置する請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記神経カフが多室性であり、電極間の絶縁を提供する並列した複数のリッジを有する管状の神経カフである請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
埋め込まれた時に切断された手足の神経の周囲を取り囲む神経カフを更に備え、該神経カフは、複数の分離された室と、前記切断された手足の神経の感覚神経繊維に薬物を選択的に送るために該室の各々に関連するカテーテルとを有し、前記電気刺激信号を選択された感覚神経繊維に送信する手段は、薬物を1つ以上のカテーテルに送る請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記電気刺激信号を手足の断端の感覚神経繊維に送信する手段は、光学送信リンクからなる請求項1に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−239447(P2006−239447A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129003(P2006−129003)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【分割の表示】特願2001−507542(P2001−507542)の分割
【原出願日】平成12年7月5日(2000.7.5)
【出願人】(502008982)ニューロストリーム テクノロジーズ インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】NEUROSTREAM TECHNOLOGIES,INC.
【Fターム(参考)】