説明

広帯域レーダ装置

【課題】 距離の離れた目標物を精度よく検出することができる広帯域レーダ装置を提供する。
【解決手段】 生成する信号の周期が連続的に又は段階的に小さくなる受信クロック信号を生成する受信クロック生成部115と、受信クロック信号に同期したゲートパルス信号を発生するゲートパルス信号発生部221と、UWB送信パルス信号の反射波を受信アンテナ部210で受信した受信パルス信号を、ゲートパルス信号の信号レベルが所定レベルにある期間に検波して、受信パルス検波信号を出力する検波部222と、検波部222で検波した受信パルス検波信号を積分して信号を取り出す積分部223と、積分部223で取り出された信号に信号レベルの減衰分を補正する係数を積算して時間感度制御を行う時間感度制御部241と、信号レベルを補正した信号の所定時間ごとの差分を計算して、目標物の移動を検出する差分計算部242とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域レーダ装置に関する。特に、本発明は、超広帯域(以下、UWB:Ultra-Wide Bandと略記する)の電波を送受信して移動物体等の目標物(以下、ターゲットと呼ぶ)の位置を高精度に検出する広帯域レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超広帯域の電波をターゲット等に出力して、反射波からターゲットの位置(距離、方位、高さ)を高精度で検出する広帯域レーダ装置が知られている。UWBの電波を使用した広帯域レーダ装置は、超高距離分解能で高精度の位置評定が可能となる。また、UWBの電波は、電波の周波数が数GHz以下の低い帯域が含まれる場合、コンクリートや木材等の非金属(減衰媒質)を透過する性質がある。これら2つの特徴を活かして、広帯域レーダ装置は種々の装置への適用が検討されている。
例えば、超高距離分解能と減衰媒質透過性の2つの特徴を活かした広帯域レーダ装置として以下に示すものが検討されている。
建物内や部屋内の不正侵入者の動きを壁越しに検知するUWBレーダ(壁透過レーダ、スルーウォールレーダ)
森林に潜む危険動物等の動きを植林や植栽を透過させて検知するUWBレーダ(森林透過レーダ、群葉透過レーダ、FOPENレーダ(Foliage Penetration Radar))
瓦礫や土砂等の下に埋もれた生存者を検知するUWBレーダ(生存者探知レーダ)
施設等の侵入者が危険物を隠し持っていないかを服越しに検知するUWBレーダ(セキュリティゲート用危険物探知レーダ)
自動車のフロント内部に設置して非金属のバンパーやフロントグリル越しに前方を走行する自動車や停車する自動車、駐車場の壁等との距離を高精度に計測するUWBレーダ(衝突防止レーダ)
【0003】
また、UWBの電波を使用した広帯域レーダ装置においては、ターゲットからの反射波の波形を再現するために等価時間サンプリングという方法が用いられている。等価時間サンプリングとは、ターゲットに向けて送信した送信パルス信号の応答波に対して、1周期毎に一定時間ずつオフセットした時刻でサンプリングを行う方法である。複数の送信パルス信号の反射波からサンプリングを行い、反射波の波形を時間軸上で再現していく。図1には、1周期ごとにΔt時間ずつオフセットした時刻でサンプリングを行い、送信パルス信号の反射波を再現する様子を示す。
【0004】
特許文献1には、物体により反射された反射波のピーク位置を検出して、ピーク位置近傍の範囲の反射波のサンプリング間隔を密に設定してサンプリングを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許番号第3433718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射波の波形の再現性能は、サンプリング回数を増やすことで高めることができる。しなしながら、等価時間サンプリングでは、送信パルス信号の1周期分の反射波を再現するためにサンプリングする回数は常に一定である。このため、広帯域レーダ装置とターゲットとの距離が離れると、ターゲットからの反射波の信号レベルが小さくなってノイズ成分が大きくなり、反射波の波形の再現性能が低下してしまう。
図2(A)に、送信装置から送信されたUWBの送信パルス信号の信号波形の一例を示す。図2(B)に、ターゲットで反射された送信パルス信号を受信装置で受信した受信パルス信号の波形の一例を示す。図2(C)に、受信した受信パルス信号を取り込んで検波するタイミングを示す受信パルス検波信号の波形の一例を示す。図2(D)に、受信パルス信号に検波、積分等の信号処理を施して取り出したベースバンド信号の信号波形を示す。図2(E)に、ベースバンド信号に、ベースバンド信号の信号レベルの減衰分を補正する時間感度制御を施した信号の波形を示す。なお、等価時間サンプリングであるため、図2(C)に示す受信パルス検波信号の周期は、送信パルス信号の1周期毎に一定時間(図2(C)に示すΔf)ずつ周期が大きくなっている。また、図2(E)に示す時間感度制御を施したベースバンド信号は、広帯域レーダ装置からターゲットまでの距離が遠くなるに従ってノイズが大きくなっていることが分かる。
【0007】
また、特許文献1の開示技術は、等価時間サンプリングに関する技術ではなく、反射波の信号レベルがピークの位置でのサンプリング回数を増やすものである。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、距離の離れた目標物を精度よく検出することができる広帯域レーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示の広帯域レーダ装置は、周期一定の送信クロック信号を生成する送信クロック生成手段と、前記送信クロック信号に同期したパルス信号を発生するパルス発生手段と、前記パルス発生手段で発生させたパルス信号を対象エリアに放射する送信アンテナと、前記送信アンテナにより送信したパルス信号の対象物での反射波を受信パルス信号として受信する受信アンテナと、生成する信号の周期が連続的に又は段階的に小さくなる受信クロック信号を生成する受信クロック生成手段と、受信クロック信号に同期したゲートパルス信号を発生するゲートパルス信号発生手段と、前記受信アンテナで受信した受信パルス信号を、前記ゲートパルス信号の信号レベルが所定レベルにある期間で検波して、受信パルス検波信号を出力する検波手段と、前記検波手段で検波した受信パルス検波信号を積分して信号を取り出す積分手段と、前記積分手段で取り出された信号に信号レベルの減衰分を補正する係数を積算して時間感度制御を行う時間感度制御手段と、信号レベルを補正した信号の所定時間ごとの差分を計算して、前記対象物の移動を検出する差分計算手段とを備えている。
従って、本明細書に開示の広帯域レーダ装置によれば、ターゲットまでの距離が遠く、ターゲットで反射した受信パルス信号の信号レベルが小さくなってしまう場合であっても、受信パルス信号のサンプリング回数を増やして、信号レベルの低下を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0010】
本明細書に開示の広帯域レーダ装置によれば、距離の離れた目標物を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】等価時間サンプリングを説明するための図である。
【図2】従来の広帯域レーダ装置から出力される送信パルス信号の波形と、ターゲットで反射した反射波を広帯域レーダ装置で受信して処理した信号の波形とを示す図である。
【図3】実施例1の広帯域レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図4】実施例1の広帯域レーダ装置において処理される信号波形を示す図であり、(A)はUWB送信パルス信号の波形を示し、(B)は受信したUWB受信パルス信号の波形を示し、(C)はUWBゲートパルス信号の信号波形を示し、(D)は受信パルス検波信号の波形を示し、(E)はベースバンド信号の波形を示し、(F)は信号レベルを補正した時間感度制御信号の波形を示している。
【図5】検波部に入力される入力電力と、検波部から出力される検波電圧との関係を示す図である。
【図6】処理部のハードウェア構成を示す図である。
【図7】(A)は、時間感度制御部に入力されるデジタルのベースバンド信号の波形を示し、(B)は、RAMに記録されるSTC係数テーブルの一例を示し、(C)は、ベースバンド信号にSTC係数を掛け合わせ、信号レベルを補正したベースバンド信号の波形を示す図である。
【図8】ベースバンド信号から移動物体成分を検出する方法を説明するための図である。
【図9】時間感度制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】実施例2の広帯域レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図11】実施例3の広帯域レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図12】実施例4の広帯域レーダ装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例を説明する。
【実施例1】
【0013】
実施例1の広帯域レーダ装置1Aについて、図3を参照しながら説明する。本実施例の広帯域レーダ装置1Aは、送信側装置100として、制御部110と、UWBパルス発生部120と、送信アンテナ部130とを有している。また、受信側装置200として、受信アンテナ部210と、受信部220と、データ編集部230と、処理部240と、データ表示部250とを備えている。以下、各部について説明する。
【0014】
制御部110は、第1基準クロック生成部111と、送信クロック生成部112と、第2基準クロック生成部113と、時間遅延制御部114Aと、受信クロック生成部115と、受信トリガ生成部116とを備えている。
【0015】
第1基準クロック生成部111は、ターゲット検出に使用するUWBパルス信号を生成するための基準クロック(以下、送信基準クロック信号と呼ぶ)を生成する。第1基準クロック生成部111は、生成した送信基準クロック信号を送信クロック生成部112と時間遅延制御部114Aとに出力する。
【0016】
送信クロック生成部112は、第1基準クロック生成部111から出力された送信基準クロック信号を入力して、この送信基準クロック信号を分周又は逓倍した送信クロック信号を生成する。送信クロック生成部112は、生成した送信クロック信号を受信トリガ生成部116と、UWBパルス発生部120とに出力する。
【0017】
第2基準クロック生成部113は、受信部220でUWBパルス信号の受信に使用する基準クロック(以下、受信基準クロック信号と呼ぶ)を生成する。第2基準クロック生成部113は、生成した受信基準クロック信号を時間遅延制御部114Aに出力する。
【0018】
時間遅延制御部114Aは、第1基準クロック生成部111から出力された送信基準クロック信号と、第2基準クロック生成部113から出力された受信基準クロック信号とを入力する。時間遅延制御部114Aは、入力した受信基準クロック信号の信号繰り返し周期を連続的に小さくする時間遅延制御を行う。また、時間遅延制御部114Aは、受信基準クロック信号の信号繰り返し周期を連続的に小さくしていく期間を送信基準クロック信号と受信基準クロック信号との位相に基づいて決定する。この処理の詳細については、受信クロック生成部115の説明において行う。時間遅延制御部114Aは、信号繰り返し周期が連続的に小さくなるように調整した受信基準クロック信号を受信クロック生成部115に出力する。
【0019】
受信クロック生成部115は、時間遅延制御部114Aから出力された受信基準クロック信号を入力する。受信クロック生成部115は、入力した受信基準クロック信号を分周又は逓倍して受信クロック信号を生成する。
例えば、送信クロック生成部112で生成される送信クロック信号の信号繰り返し周期が100[ns]であったとする。受信クロック生成部115は、受信基準クロック信号に基づいて、例えば、200[ms]の間に、信号繰り返し周期が100.0008[ns]から100.00005[ns]に連続的に変化する受信クロック信号を生成する。
すなわち、200[ms]の期間の最初には、受信クロック生成部115は、信号繰り返し周期が100.0008[ns]の受信クロック信号を生成する。その後、受信クロック生成部115は、受信クロック信号の信号繰り返し周期を連続的に小さくしていく。そして、200[ms]の期間の最後には、受信クロック生成部115は、信号繰り返し周期が100.00005[ns]の受信クロック信号を生成する。200[ms]を経過すると、受信クロック生成部115は、最初に戻って信号繰り返し周期が100.0008[ns]の受信クロック信号を生成する。受信クロック生成部115は、生成した受信クロック信号を受信部220のゲートパルス信号発生部221と、受信トリガ生成部116に出力する。なお、200[ms]の期間は、時間遅延制御部114Aで決定される。時間遅延制御部114Aは、送信基準クロック信号と受信基準クロック信号との位相が一致してから次に一致するまでの時間に基づいて受信クロック信号の信号繰り返し周期を変化させる期間を決定する。
【0020】
受信トリガ生成部116は、送信クロック生成部112から出力された送信クロック信号と、受信クロック生成部115から出力される受信クロック信号とを入力する。受信トリガ生成部116は、送信クロック信号と、受信クロック信号とを用いてデータ編集部230のデータ読込部231がデータ読み込みに使用するトリガ信号を生成する。受信トリガ生成部116は、受信クロック信号の位相が送信クロック信号の位相に一致するタイミングで信号レベルが変化するトリガ信号を生成する。受信トリガ生成部116は、生成したトリガ信号をデータ編集部230のデータ読込部231に出力する。
【0021】
UWBパルス発生部120は、制御部110から出力された送信クロック信号を入力する。UWBパルス発生部120は、入力した送信クロック信号の信号繰り返し周期に同期させて、UWB送信パルス信号を送信アンテナ部130に出力する。例えば、送信クロック信号の信号繰り返し周期が100[ns]であれば、UWBパルス発生部120からはパルス繰り返し周期が100[ns]のUWB送信パルス信号が送信アンテナ部130に出力される。
UWB送信パルス信号は、送信アンテナ部130からターゲットに向けて放射される。図4(A)に送信アンテナ部30から放射されるUWB送信パルス信号の一例を示す。
【0022】
送信アンテナ部130から放射されたUWB送信パルス信号は、ターゲットで反射する。広帯域レーダ装置1Aは、ターゲットで反射したUWB送信パルス信号を受信アンテナ部210で受信する。受信アンテナ部210で受信したUWB送信パルス信号の反射波(以下、UWB受信パルス信号と呼ぶ)の波形の一例を図4(B)に示す。UWB受信パルス信号は、UWB送信パルス信号がターゲットで反射した反射波であるため、送信クロック信号の信号繰り返し周期ごとに受信アンテナ部210で繰り返し受信される。
【0023】
受信部220は、ゲートパルス信号発生部221と、検波部222と、積分部223と、ベースバンド信号増幅部224とを備えている。
【0024】
ゲートパルス信号発生部221は、制御部110の受信クロック生成部115が生成して出力した受信クロック信号を入力する。ゲートパルス信号発生部221は、入力した受信クロック信号に同期したUWBゲートパルス信号を発生させる。受信クロック信号の繰返し周期が200[ms]の時間間隔で100.0008[ns]から100.00005[ns]への連続的な変化を繰り返すため、UWBゲートパルス信号の発生タイミングは、受信クロック信号同様、200[ms]の時間間隔で100.0008[ns]から100.00005[ns]への変化を繰り返す。UWBゲートパルス信号の信号波形の一例を図4(C)に示す。ゲートパルス信号発生部221は、発生させたUWBゲートパルス信号を検波部222に出力する。
【0025】
検波部222は、ゲートパルス信号発生部221から出力されるUWBゲートパルス信号と、受信アンテナ部210で受信したUWB受信パルス信号とを入力する。検波部222は、例えばS帯検波用ショットキーバリアダイオードを用いた検波器で構成される。検波部222は、UWBゲートパルス信号の信号レベルが、例えばハイレベルの期間のUWB受信パルス信号を取り込んで、図5に示すようにUWB受信パルス信号の入力電力レベルに応じた検波電圧(出力電圧)を出力する。検波部222から出力される検波電圧は、受信パルス検波信号として積分部223に出力される。図4(D)に受信パルス検波信号の信号波形の一例を示す。
【0026】
積分部223は、ゲートパルス信号発生部221から出力されるUWBゲートパルス信号と、検波部222から出力される受信パルス検波信号を入力する。積分部223は、入力した受信パルス検波信号を積分する。積分部223の積分は、UWBゲートパルス信号の信号立ち上がりタイミングがUWB受信パルス信号のパルス繰り返し周期の開始タイミングに一致するまで行われる(等価時間サンプリング)。すなわち、上述した例では、UWBゲートパルス信号の立ち上がりタイミングがUWB受信パルス信号の信号繰り返し周期の開始タイミングに200[ms]の周期で一致する。従って、積分部223から出力される信号は、時間軸が2000000倍に拡張された信号となり、信号の周期は200[ms]となる。積分部223は、積分したUWBゲートパルス信号をベースバンド信号としてベースバンド信号増幅部224に出力する。
【0027】
ベースバンド信号増幅部224は、オペアンプ等のデバイスからなり、積分部223から出力されたベースバンド信号を入力して増幅する。ベースバンド信号増幅部224で増幅後のベースバンド信号の一例を図4(E)に示す。
【0028】
データ編集部230は、データ読込部231と、AD変換部232とを備えている。
【0029】
データ読込部231は、制御部110の受信トリガ生成部116で生成されたトリガ信号と、ベースバンド信号増幅部224で増幅されたベースバンド信号とを入力する。データ読込部231は、トリガ信号の立ち上がりタイミング又は立ち下がりタイミングに合わせてベースバンド信号を読み込む。データ読込部231で読み込まれたベースバンド信号は、AD変換部232に出力される。
【0030】
AD変換部232は、データ読込部231から出力されたアナログのベースバンド信号を入力してAD変換を行う。例えば、AD変換のサンプリングレートを3000[サンプル/秒]とすると、ベースバンド信号の周期200[ms]当たり600サンプルのデータとなる。UWB送信パルス信号のパルス繰り返し周波数が10MHzであることから、最大探知距離は15m(光速3×10[m/s]×10[MHz]×2)であり、距離分解能が0.025[m]のディジタル信号となる。AD変換部232は、AD変換したデジタルのベースバンド信号を処理部240に出力する。
【0031】
処理部240は、時間感度制御部241と、差分計算部242とを備えている。処理部240は、ハードウェアと、ソフトウェアとの協働作業によって実現される。処理部240は、ハードウェアとして図6に示すCPU260、ROM261、RAM262、入出力部263、グラフィックインターフェース264を備えている。CPU260がROM261に記録されたソフトウェアを読み込んで、読み込んだソフトウェアに従った制御を実行することで、図3に示す時間感度制御部241と、差分計算部242とが実現される。なお、RAM262には、CPU260が演算に使用するデータが保存される。例えば、後述するSTC(Sensitivity Time Control)係数のデータが記録されている。また、入出力部263は、データ編集部230から入力したデータをCPU260に出力したり、CPU260によって処理されたデータを外部装置に出力する。
グラフィックインターフェース264は、CPU260によって処理されたデータをデータ表示部250のディスプレイに表示させるためのインターフェースであり、ディスプレイにグラフィックデータを表示させるためにグラフィックデータを波形電気信号に変換する。
【0032】
時間感度制御部241は、AD変換部232から出力されたデジタルのベースバンド信号に時間感度制御を行い、時間感度制御信号を生成する。
時間感度制御は、例えば、UWB送信パルス信号を送信してからUWB受信パルス信号を受信するまでの信号到達時間(距離)に対応して設定されたSTC係数を、デジタルのベースバンド信号に対して掛け合わせる処理を行う。図7(A)にデジタルのベースバンド信号の信号波形を示す。図7(B)にベースバンド信号に掛け合わせるSTC係数を記録したテーブルの一例を示す。このテーブルは、図6に示すRAM261に記録されている。図4(F)、図7(C)に、ベースバンド信号にSTC係数を掛け合わせ、信号レベルを補正した時間感度制御後のベースバンド信号の波形の一例を示す。UWB送信パルス信号の信号レベルは、大気中を伝播する際に距離に応じて減衰するので、STC係数は、UWB送信パルス信号の伝播距離に応じた減衰分を補正するような係数に設定されている。時間感度制御部241は、時間感度制御したベースバンド信号を差分計算部242に出力する。
【0033】
差分計算部242は、時間感度制御部241から出力されたベースバンド信号を入力する。差分計算部242は、時間感度制御部241から今回取得したベースバンド信号と、前回取得済みのベースバンド信号との差分を求め、ベースバンド信号の差分により移動物体成分を検出する。図8(A)にはあるサンプリング時刻t1におけるベースバンド信号の信号波形を示す。また、図8(B)には、次のサンプリング時刻t2におけるベースバンド信号の信号波形を示す。さらに図8(C)には次のサンプリング時刻t3におけるベースバンド信号の信号波形を示す。差分計算部242は、例えば、図8(D)に示すように時刻t1と時刻t2のベースバンド信号の差分を求める。また、図8(E)に示すように時刻t2と時刻t3のベースバンド信号の差分を求める。このようにしてベースバンド信号の差分を求めることで、静止物体からの応答成分は消去され、移動物体からの応答成分のみが検出される。差分計算部242(CPU260)は、検出した移動体成分をデータ表示部250に出力する。データ表示部250は、ディスプレイを備え、差分計算部242から出力されたベースバンド信号の移動体成分を表示させる。
【0034】
ここで、図9に示すフローチャートを参照しながら、時間遅延制御部114Aの処理手順を説明する。
時間遅延制御部114Aは、まず、第1基準クロック生成部111で生成した送信基準クロック信号と第2基準クロック生成部113で生成した受信基準クロック信号とを入力する(ステップS1)。これらの信号を入力した場合には(ステップS1/YES)、時間遅延制御部114Aは、入力した受信基準クロック信号の信号繰り返し周期が経過時間に応じて連続的に小さくなる受信基準クロック信号を生成する(ステップS2)。時間遅延制御部114Aは、生成した受信基準クロック信号を受信クロック生成部115に出力する。例えば、受信クロック生成部115は、入力した受信基準クロック信号に基づいて、繰返し周期が100.0008[ns]から100.00005[ns]に連続的に変化する受信クロック信号を生成する。
【0035】
次に、時間遅延制御部114Aは、第1基準クロック生成部111から入力した送信基準クロック信号と、第2基準クロック生成部113から入力した受信基準クロック信号の位相を比較する(ステップS3)。受信基準クロック信号と、送信基準クロック信号との位相が一致すると(ステップS3/YES)、時間遅延制御部114Aは、生成する基準クロック信号の繰り返し周期を初期状態(100.0008[ns])に戻す(ステップS4)。また、受信基準クロック信号と、送信基準クロック信号との位相が一致していない場合には(ステップS3/NO)、時間遅延制御部114Aは、ステップS2の処理を繰り返す。また、送信基準クロック信号と受信基準クロック信号とを入力することができなかった場合には(ステップS1/NO)、この処理を終了させる。
【0036】
このように、本実施例は、受信基準クロック信号の信号繰り返し周期が所定期間ごとに連続的に小さくなるようにしている。このため、受信したUWB受信パルス信号のサンプリング間隔を規定する受信クロック信号の繰り返し周期も所定間隔内で連続的に小さくなるように設定できる。従って、ターゲットまでの距離が遠く、反射波の信号レベルが小さくなってしまう場合であっても、受信したUWB受信パルス信号のサンプリング回数を増やして、信号レベルの低下を防ぐことができる。このため、ターゲットが広帯域レーダ装置から遠く離れている場合であっても、ターゲットからの反射信号がノイズに埋もれることなく、目標検出の確度を高めることができる。
【実施例2】
【0037】
添付図面を参照しながら実施例2の広帯域レーダ装置について説明する。
図10に実施例2の広帯域レーダ装置1Bの構成を示す。なお、実施例1の広帯域レーダ装置1Aと同一の構成部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施例は、図10に示すように時間遅延制御部114Aに代えて、段階的時間遅延制御部114Bを設けている。段階的時間遅延制御部114Bは、第2基準クロック生成部113が生成した受信基準クロック信号の信号繰り返し周期を一定時間間隔毎に段階的に遅延させる制御を行う。例えば、上述した実施例1では、受信クロック信号を、200[ms]の間に、信号繰り返し周期が100.0008[ns]から100.00005[ns]に連続的に変化させていたが、本実施例では、200[ms]のうちの40[ms]ごとに、受信クロック信号の周期を100.0008[ns]、100.0004[ns]、100.0002[ns]、100.0001[ns]、100.00005[ns]と段階的に小さくしていく。
【0038】
このように本実施例は、受信基準クロック信号(受信クロック信号)の繰り返し周期を一定時間間隔毎に段階的に小さく制御であるので、時間遅延制御が容易になる。また、上述した実施例1と同様にターゲットが広帯域レーダ装置1Bから遠く離れている場合であっても、ターゲットからの反射信号がノイズに埋もれることなく、目標検出の確度を高めることができる。
【実施例3】
【0039】
添付図面を参照しながら実施例3の広帯域レーダ装置について説明する。
図11に実施例3の広帯域レーダ装置1Cの構成を示す。なお、本実施例も実施例1の広帯域レーダ装置1Aと同一の構成部分には、同一の符号を付し説明を省略する。
【0040】
本実施例は、実施例1の時間遅延制御部114Aに変えて、距離別時間遅延制御部114Cを設けている。距離別時間遅延制御部114Cは、第2基準クロック生成部103が生成した受信基準クロック信号を入力し、ターゲットまでの距離に応じて、サンプリング数がターゲットまでの距離の4乗に比例して増加するように信号繰り返し周期を設定した受信クロック信号を生成する。
電波の強度は、大気中で距離の4乗に比例して減衰していく。このため、距離別時間遅延制御部114Cは、ターゲットまでの距離の4乗に比例してサンプリング数が増加するように受信基準クロック信号の信号繰り返し周期を設定する。
サンプリング数がターゲットまでの距離の4乗に比例して増加するように受信基準クロック信号の繰り返し周期を設定しているので、時間感度制御した信号のノイズ成分がターゲットまでの距離によらず一定となる。従って、ターゲットが広帯域レーダ装置1Cから遠く離れている場合であっても、目標反射信号がノイズに埋もれることなく、目標検出の確度を高めることができる。
【実施例4】
【0041】
添付図面を参照しながら実施例4の広帯域レーダ装置について説明する。
図12に実施例4の広帯域レーダ装置1Dの構成を示す。なお、本実施例も実施例1の広帯域レーダ装置1Aと同一の構成部分には、同一の符号を付し説明を省略する。
【0042】
本実施例は、第1基準クロック生成部111の生成する基準クロック信号に基づいて送信基準クロック信号と受信基準クロック信号とを生成する。すなわち、第1基準クロック生成部111の生成する基準クロック信号を送信クロック生成部112に出力して送信クロック信号を生成する。また、第1基準クロック生成部111の生成する基準クロック信号を時間遅延制御部114Dを介して受信クロック生成部115に出力し、受信クロック信号を生成する。このため、実施例4の広帯域レーダ装置1Dは、実施例1〜3の広帯域レーダ装置1A〜1Cの備える第2基準クロック生成部113を備えていない。
時間遅延制御部114Dは、第1基準クロック生成部111の生成する基準クロック信号を入力する。時間遅延制御部114Dは、入力した基準クロック信号から、送信基準クロック信号と受信基準クロック信号との位相のずれ分も含んだ受信基準クロック信号を生成する。
このように本実施例は、基準クロック生成部を1つにすることができ、装置の小型軽量化が可能となる。また、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0043】
上述した実施例は、本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1A〜1D 広帯域レーダ装置
100 送信側装置
110 制御部
114A、114D 時間遅延制御部
114B 段階的時間遅延制御部
114C 距離別時間遅延制御部
120 UWBパルス発生部
130 送信アンテナ
200 受信側装置
210 受信アンテナ部
220 受信部
230 データ編集部
240 処理部
250 データ表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期一定の送信クロック信号を生成する送信クロック生成手段と、
前記送信クロック信号に同期したパルス信号を発生するパルス発生手段と、
前記パルス発生手段で発生させたパルス信号を対象エリアに放射する送信アンテナと、
前記送信アンテナにより送信したパルス信号の対象物での反射波を受信パルス信号として受信する受信アンテナと、
生成する信号の周期が連続的に又は段階的に小さくなる受信クロック信号を生成する受信クロック生成手段と、
受信クロック信号に同期したゲートパルス信号を発生するゲートパルス信号発生手段と、
前記受信アンテナで受信した受信パルス信号を、前記ゲートパルス信号の信号レベルが所定レベルにある期間で検波して、受信パルス検波信号を出力する検波手段と、
前記検波手段で検波した受信パルス検波信号を積分して信号を取り出す積分手段と、
前記積分手段で取り出された信号に信号レベルの減衰分を補正する係数を積算して時間感度制御を行う時間感度制御手段と、
信号レベルを補正した信号の所定時間ごとの差分を計算して、前記対象物の移動を検出する差分計算手段と、
を有する広帯域レーダ装置。
【請求項2】
前記受信クロック生成手段は、前記対象物までの距離に応じて受信クロック信号の周期を変更する請求項1記載の広帯域レーダ装置。
【請求項3】
前記送信クロック生成手段と前記受信クロック生成手段とは、1つの基準クロックに基づいて送信クロック信号と受信クロック信号とをそれぞれ生成する請求項1又は2記載の広帯域レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−190831(P2010−190831A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37706(P2009−37706)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】