説明

床の補修方法及び床

【課題】帯色水溶液の発生を、安価かつ簡単に、確実かつ効果的に防止可能な床の補修方法及び床を提供する。
【解決手段】コンクリート床2の表面3に接着剤4を介して床材5が貼り付けられ、接着剤4中のポリ酢酸ビニルとコンクリート床2に含まれていた水酸化カルシウムとが水により鹸化反応を起こすことで生成された水溶性樹脂と接着剤4中の帯色物質とが鹸化することで帯色水溶液が生成される条件を有した床1の補修方法において、床材5の表面6からコンクリート床2の表面3に到達する孔7を形成し、この孔7を介してコンクリート床2からの水分を大気に発散させてコンクリート床2の表面3と床材5との間の水分滞留を防止することにより帯色水溶液の発生を防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート床の表面に接着剤を介して床材が貼り付けられ、接着剤中のポリ酢酸ビニルとコンクリート床に含まれていた水酸化カルシウムとが水により鹸化反応を起こすことで生成された水溶性樹脂と接着剤中の帯色物質とが鹸化することで帯色水溶液が生成される条件を有した床において、帯色水溶液の発生を、安価かつ簡単に、確実かつ効果的に防止可能な床の補修方法及び床に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート床の表面に接着剤により床材を貼り付けて構成された構造の床が知られている。当該構造の床においては、床材が、コンクリート床の毛細管空隙を辿って上昇する水分量よりも透水量の小さい材料である場合、または、床材を複数層に設置することによりコンクリート床の毛細管空隙を上昇する水分量よりも透水量が減少した場合、または、遮水材である場合、コンクリート床の毛細管空隙を辿ってきたアルカリ性の水分が、コンクリート床の表面と床材との間に滞留し、大気中に発散しない。即ち、コンクリート床内の水分がコンクリートの毛細管空隙を辿ってコンクリート床の表面に到達し、コンクリート床の表面と床材との間に滞留する。特に、土上に形成された土間コンクリート床の場合には、土中に含まれる水分もコンクリートの毛細管空隙を辿ってコンクリート床の表面に到達するので、コンクリート床の表面と床材との間にアルカリ性の水分が滞留しやすくなる。当該構造の床の場合、コンクリート床の表面と床材との間に位置する接着剤中のポリ酢酸ビニルとアルカリ水中の水酸化カルシウムとが水により鹸化反応を起こすことで生成された水溶性樹脂と接着剤中の帯色物質とが鹸化することで帯色水溶液(タバコジュースと呼ばれることがある)が生成される。すなわち、図6の化学反応方程式に示すように、接着剤のポリ酢酸ビニルとアルカリ水中の水酸化カルシウムとが鹸化反応を起こし、酢ビ樹脂がポバール(ポリビニルアルコール)という水溶性の樹脂に変化し、酢酸カルシウムという一種の塩が生成される。ポバールも酢酸カルシウムも無色物質であり、水に溶解しても発色しないが、接着剤の酢酸ビニル以外の添加樹脂(ロジン系やクマロン系)などの帯色物質が鹸化して水に溶け込むので帯色水溶液が生じる。
上記構造の床においては、薬品臭が発生する場合がある。そこで、コンクリート床に床材を貼り付ける前に、コンクリート床の表面側に樹脂塗膜やシートにより形成される樹脂層を設けるようにしたことにより、上記鹸化反応を防止して薬品臭の発生を防止するようにした方法が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−147948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、樹脂層を施工しなくてはならず、樹脂層施工にかかる施工手間、施工コストが増えるという問題点があった。また、特許文献1の方法では、樹脂層の施工が完全でなかったり、樹脂層の経年劣化などにより、樹脂層の下から水酸化カルシウムを含んだ水が床材の下面に位置する接着剤に到達する可能性があり、この場合は、帯色水溶液が生成されてしまうという問題点があった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、上記構造の床において、帯色水溶液の発生を、安価かつ簡単に、確実かつ効果的に防止可能な床の補修方法及び床を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る床の補修方法によれば、コンクリート床の表面に接着剤を介して床材が貼り付けられ、接着剤中のポリ酢酸ビニルとコンクリート床に含まれていた水酸化カルシウムとが水により鹸化反応を起こすことで生成された水溶性樹脂と接着剤中の帯色物質とが鹸化することで帯色水溶液が生成される条件を有した床の補修方法において、床材の表面からコンクリート床の表面に到達する孔を形成し、この孔を介してコンクリート床からの水分を大気に発散させてコンクリート床の表面と床材との間の水分滞留を防止することにより帯色水溶液の発生を防止したので、帯色水溶液の発生を、安価かつ簡単に、確実かつ効果的に防止可能な床の補修方法を提供できる。
孔は下部孔と下部孔よりも径の大きい上部孔とを備え、通気孔を有した蓋を上部孔に設置したので、床面の収まりや見栄えを良好にできる。
本発明に係る床によれば、コンクリート床の表面に接着剤を介して床材が貼り付けられ、接着剤中のポリ酢酸ビニルとコンクリート床に含まれていた水酸化カルシウムとが水により鹸化反応を起こすことで生成された水溶性樹脂と接着剤中の帯色物質とが鹸化することで帯色水溶液が生成される条件を有した床において、床材の表面からコンクリート床の表面に到達するように形成した孔を備えたので、帯色水溶液の発生を、安価かつ簡単に、確実かつ効果的に防止可能な床を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の床の断面を示す図。
【図2】蓋、孔、固定具取付部を示す斜視図。
【図3】本発明の別の床の断面を示す図。
【図4】本発明の別の床の断面を示す図。
【図5】本発明の別の床の断面を示す図。
【図6】ポバールと酢酸カルシウムとが生成される場合の化学反応方程式を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1に示すように、本形態による床1は、コンクリート床2の表面3に接着剤4を介して床材5が貼り付けられ、接着剤4中のポリ酢酸ビニルとコンクリート床2に含まれていた水酸化カルシウムとが水により鹸化反応を起こすことで生成された水溶性樹脂と接着剤4中の帯色物質とが鹸化することで帯色水溶液が生成される条件を有した床であって、床材5の表面6からコンクリート床2の表面3に到達するように形成した孔7を備え、この孔7を介してコンクリート床2からの水分が大気に発散することで、コンクリート床2の表面3と床材5との間の水分滞留が防止され、帯色水溶液の発生が防止される。
【0008】
コンクリート床2は、土間上にコンクリートを打設することにより形成された土間コンクリート床、あるいは、階上コンクリート床である。
床材5は、樹脂系、アスファルト系、ゴム系、塩化ビニル系などの材料により、例えば、縦寸法30cm×横寸法30cm×厚さ寸法0.2cmの矩形パネル状に形成されたものである。
床1は、例えば、コンクリート床2と、辺同士が互いに隣り合うように突き合わされた状態でコンクリート床2の表面3に接着剤4を介して貼り付けられて敷設された複数の床材5とで構成される。
孔7は、床材5の表面6からコンクリート床2の表面3に到達するように1つ以上形成される。つまり、床材5の表面6から床材5と接着層4aとを貫通してコンクリート床2の表面3に到達する孔7が形成される。
【0009】
図2に示すように、孔7は、例えば、円形の下部孔10と下部孔10よりも径の大きい円形の上部孔11とを備え、下部孔10の中心と上部孔11の中心とが同じに形成される。上部孔11の底面12は、下部孔10の上縁15と上部孔11の内周面16とを繋ぐ蓋設置面20に形成される。上部孔11と下部孔10の径は、例えば、上部孔が7cm、下部孔が5cmに形成される。すなわち、孔7は、上部孔11と下部孔10との境界部分に形成された段差面からなる蓋設置面20を備え、蓋設置面20に蓋21が設置される。
【0010】
蓋21は、金属、樹脂などの材料により形成される。蓋21は、上部孔11の径よりも径が小さく下部孔10の径よりも径の大きい薄板の円形板状に形成される。蓋21の厚さ寸法は、例えば、上部孔11の深さ寸法に対応した寸法に形成される。蓋21は通気孔22を備え、通気孔22は蓋21の上面24と下面29とを貫通する1つ以上の通気孔22により形成される。
【0011】
蓋21の中央には、固定具通し孔25が形成され、孔7の底面30を形成するコンクリート床2の上部には固定具取付部31が形成される。例えば、固定具通し孔25は、固定ねじ通し孔により形成され、固定具取付部31は、コンクリート床2の上部に埋設された樹脂製のインサート部材31aにより形成される。インサート部材31aは固定ねじ35のねじ部35aがねじ込まれる孔部31bを備える。
【0012】
次に床の補修方法について説明する。
コンクリート床2の表面3に床材5を接着剤4で貼り付けることで床1を構築した後、帯色水溶液が床材5の表面6の目地より溢れ出る現象が起きた場合、床材5の表面6からコンクリート床2の表面3に到達する孔7を1つ以上形成する。例えば、孔7は、帯色水溶液が床材5の表面6の目地より溢れ出た場所の近傍に形成する。孔7は、コアビットやカッター等の切削具により形成する。例えば、床材5の表面6からコンクリート床2の表面3に到達する円形の下部孔10を形成した後に、当該下部孔10と円の中心が同じ円形で下部孔10よりも径の大きい上部孔11を形成する。尚、孔7の大きさは、帯色水溶液が床材5の表面6の目地より溢れ出る量により適宜決めればよい。
【0013】
次に、上部孔11に蓋21を設置する。すなわち、蓋21の下面29の縁部26が蓋設置面20に接触するように上部孔11に設置する。蓋21の径は下部孔10よりも大きいので蓋21が下部孔10の内部に脱落することがない。また、蓋21の径が上部孔11よりも小さいので蓋21の外周面27が上部孔11の内周面16の内部に嵌め込まれる。これにより、蓋21が上部孔11より飛び出すことを防ぐことができる。なお、蓋21の厚みを上部孔11の深さと同じに設定すれば、床材5の上面6と蓋21の上面28との段差がなくなるので、床面6aより突出する突出物を無くせ、見栄えがよくなるので、好ましい。
【0014】
そして、蓋21を上部孔11に設置した状態で、固定具通し孔25に固定ねじ35を通して、固定ねじ35がインサート部材31aにねじ込まれることで、蓋21がコンクリート床2に固定される。
【0015】
本形態による床、床の補修方法によれば、床材5に孔7を設けたので、帯色水溶液の発生を、安価かつ簡単に、確実かつ効果的に防止できる。
また、孔7は下部孔10と下部孔10よりも径の大きい上部孔11とを備え、通気孔22を有した蓋21を上部孔11に設置したので、床面6aの収まりや見栄えを良好にできる。
【0016】
上記では、床の補修について説明したが、新たに床を施工する場合に、上記孔7を形成することにより、床施工後の帯色水溶液の発生を、安価かつ簡単に、確実かつ効果的に防止できる。
【0017】
上記では1層の床材5を備えた床1について説明したが、本発明は、図3に示すように、床材5を複数層備えた床1にも適用できる。例えば、コンクリート床2の表面3に接着剤4を介して下の床材5aが取り付けられ、下の床材5aの上に上の床材5bが設置されたような床1の場合、上の床材5bの表面6bから上の床材5b;下の床材5a;接着剤4とを貫通してコンクリート床2の表面3に到達する孔7を形成して、上の床材5bの表面6bと蓋21の上面とが面一となるように蓋21を孔7に設置すればよい。孔7は、下の床材5aに形成された下部孔10aと上の床材5bに形成された上部孔11aとを備える。上部孔11aと下部孔10aとの中心が同じで、上部孔11aの径が下部孔10aの径よりも大きく形成される。下部孔10aの径<蓋21の径≦上部孔11aの径とすれば、蓋21の蓋設置面20を容易に形成できる。
【0018】
すなわち、孔7は、上部孔11と下部孔10との境界部分に形成された段差面からなる蓋設置面20を備え、蓋設置面20に蓋21が設置される。
尚、見栄えなどの観点から、孔7を蓋21で塞ぐことが好ましいが、図4に示すように、孔7を蓋21で塞がなくともよい。
尚、下部孔10と上部孔11との径を同径に形成してもよい。この場合、蓋21の表面と床材5の表面6とが同一面となるように、蓋21の裏面と孔7の底面30との間の空間の保持をするためには、例えば、図5に示すように、固定具取付部31に締結されるねじやボルトの長さを選定し、当該選定したねじやボルトの頭に蓋21を固定したり、孔7の底面30と蓋21の裏面との間に蓋21の通気孔22と底面30とに繋がれる貫通孔を備えた蓋支持材を設けたり、あるいは、床材5の表面6と孔7の底面30との距離と同じ厚さの蓋21を孔7の底面30に直接設置してもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 床、2 コンクリート床、3 コンクリート床の表面、4 接着剤、5 床材、
6 床材の表面、7 孔、10 下部孔、11 上部孔、21 蓋、22 通気孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート床の表面に接着剤を介して床材が貼り付けられ、接着剤中のポリ酢酸ビニルとコンクリート床に含まれていた水酸化カルシウムとが水により鹸化反応を起こすことで生成された水溶性樹脂と接着剤中の帯色物質とが鹸化することで帯色水溶液が生成される条件を有した床の補修方法において、床材の表面からコンクリート床の表面に到達する孔を形成し、この孔を介してコンクリート床からの水分を大気に発散させてコンクリート床の表面と床材との間の水分滞留を防止することにより帯色水溶液の発生を防止したことを特徴とする床の補修方法。
【請求項2】
孔は下部孔と下部孔よりも径の大きい上部孔とを備え、通気孔を有した蓋を上部孔に設置したことを特徴とする請求項1に記載の床の補修方法。
【請求項3】
コンクリート床の表面に接着剤を介して床材が貼り付けられ、接着剤中のポリ酢酸ビニルとコンクリート床に含まれていた水酸化カルシウムとが水により鹸化反応を起こすことで生成された水溶性樹脂と接着剤中の帯色物質とが鹸化することで帯色水溶液が生成される条件を有した床において、床材の表面からコンクリート床の表面に到達するように形成した孔を備えたことを特徴とする床。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−17216(P2011−17216A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163668(P2009−163668)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】