説明

床束やターンバックルの、鋼管とボルトとの結合部に使用される結合部材、及びその製造方法

【課題】継手部材又は支持部材を構成する鋼管とボルトとの結合部に使用できる結合部材及びその容易で安価な製造方法を提供する。
【解決手段】外周が角柱面に形成され、両端面4の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔3を有するナット部材2の、前記雌ネジ孔と前記外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線6を境として、該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さを保持し、円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形し、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部を形成し、前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部を切り落とすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床束やターンバックルにおいて、前記鋼管とボルトとの結合部を構成する結合部材、及び当該結合部材の製造方法、並びに当該結合部材を用いた結合部、及び当該結合部を備える床束及びターンバックルに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管の端部にボルトが螺合されていて、軸方向に対する応力に対して形態を支持することができる床束若しくはターンバックルは建築物の建材としてよく用いられている。
このような床束及びターンバックルの本体部を鋼管によって構成する場合、その鋼管とボルトとの結合部は、従来、鋼管の端部の内面に雌ネジが形成され、ボルトをこの雌ネジに螺合させることができるように構成されている。
【0003】
あるいは、ナット端面を鋼管の開口端面に当接させ、直接溶接することによってボルトとの結合部を形成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平7−4263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼管の内壁面に直接雌ネジ構造を形成しようとすれば、形成された雌ネジ構造によって鋼管の厚みが薄くなるため、薄くなることを見込んで余計に厚みのある鋼管を用いなければならなかった。
【0006】
また、鋼管の端部内面に雌ネジを形成するためには、形成工程に時間がかかるほか、高度な技術及び装置を必要とするため、結合部を形成する工程にコストがかかり、完成品である床束やターンバックルの製品価格を押し上げる原因となっていた。
【0007】
また、鋼管の開口端面にナット端面を溶接する方法によって形成された結合部は、ナットと鋼管とを完全に溶接するために高度な技術が必要であり、時間がかかると共に、溶接の仕上がり精度にバラつきが生じ、量産するにあたって不完全な溶接部を有する不良品が発生する恐れがあった。溶接部が不完全であると、床束やターンバックルに応力を負荷した場合、想定された力よりも小さい力の負荷であっても結合部が破損する恐れがある。
【0008】
また、ナットの軸と鋼管の軸とを一致させて溶接作業を行なう必要があるところ、鋼管端面にナットを押し当てて溶接すると、鋼管端面のバリなどのため鋼管の軸とナットの軸とを確実に一致させることは困難であり、溶接作業によってナットの軸が傾く恐れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記課題を解決するために本願発明に想到したものである。本願の第一の発明は床束やターンバックルの本体部に使用する鋼管にボルトを軸方向に螺合するために、鋼管に装着する結合部材を新たに考えた。この結合部材は、外周が角柱面に形成され両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材が、前記雌ネジ孔と前記外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さが保持され、円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形され、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部が形成され、前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部が切り落とされてなることを特徴とする。
【0010】
本願の他の発明は、上記結合部材の製造方法である。前記結合部材は、外周が角柱面に形成され両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材の、前記雌ネジ孔と前記外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さを保持し、円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形し、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部を形成し、前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部を切り落とすことを特徴とする製造方法である。
【0011】
本願のさらに他の発明は、床束やターンバックルに使用する鋼管とボルトとを軸方向に螺合するための結合部の製造方法であって、外周が角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材の、前記雌ネジ孔と前記外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さを保持し、円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形し、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部を形成し、前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部を切り落として鍔部を形成することによって結合部材を形成し、前記結合部材を、雌ネジ孔の軸が前記鋼管の軸と一致するように鋼管の開口端から鋼管端部に挿し入れ、鋼管の端部にプレス圧を加えることによって鋼管を径方向内方に向けて変形させ、鋼管端部内面を結合部材の鍔部外面に沿って塑性変形させることを特徴とする製造方法である。
【0012】
ここで、鋼管端部内面を結合部材の鍔部外面に沿って塑性変形させるため、鋼管の端部に加えるプレス圧は、鋼管の軸と直行する面上において鋼管に対して圧力を加え、鋼管を内径方向に寄せるように変形させることが好ましく、これによって鋼管を径方向内方に向けて変形させるものである。
【0013】
結合部材を鋼管内部に挿入し、鋼管にプレス圧を加えて接合することによって得られる本願発明に係る接合部は、鋼管の端部内面に雌ネジを直接形成する従来技術に比べて容易に形成することができ、また、ナット端面を鋼管端面に溶接する従来技術に比べて確実で強固な接合を実現することができるものである。
【0014】
また、雌ネジ孔と前記円形境界線との間隔幅は、雌ネジ孔とナット部材の外周との最短長さに対して60%以上98%以下となるように円形境界線の位置を定めることがよい。
【0015】
これは、円形境界線をこのような位置に定めて圧縮変形加工を行うと、円形切断線に沿って外周縁部を切り落とした膨出部の外周面に好適に凹部を形成させることができるためである。
【0016】
円形境界線を境として、円形境界線より外側部分をプレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形させると、ナット部材の円形境界線より外側部分が軸方向に流動し、かつ、径方向外方に膨出することにより膨出部を形成する。このとき、円形境界線を前記位置に定めると、ナット部材の円形境界線より外側部分のうち薄幅部分(端面の辺の部分)は軸方向両方向から流動し、外径方向に膨出した膨出部が密着することなく圧縮変形が完了し、一方、ナット部材の円形境界線より外側部分のうち厚幅部分(端面の角の部分)は軸方向両方向から流動し外径方向に押し出されるように盛り上がった膨出部が塊状に伸出した状態で圧縮変形が完了することにより薄幅部分の外周面に凹部が形成される。
【0017】
また、前記円形切断線は、ナット部材の最短外径より大きく、かつ、膨出部の最短外径、すなわち、膨出部の外周縁のうち最も雌ネジ孔に近い位置の外径より小さくて雌ネジ孔の軸と同心の円であることにより、膨出部の外周縁を全周にわたって切り落とすことができ、膨出部の外周縁部を切り落とすことによって形成された鍔部の外周縁を完全な円形に成形することができる。これにより、鋼管に結合部材を挿入してプレス圧を加えて結合部を形成した場合に、前記鍔部と前記鍔部に沿って変形された鋼管との接合を全周に亘って均一となるように構成することができ、鋼管と結合部材との均質な接合力を実現することができる。
【0018】
さらに、結合部の製造時に、鋼管の端部に結合部材を挿し入れ、プレス圧を加えた際に、鍔部に凹部が形成されることによって鋼管の内壁がこの凹部内に向けて変形され、鋼管と結合部材とを凹部において強固に噛み合わせることができる。これにより、結合部材を鋼管に対して強固に接合することができる。また、前記凹部が多角形の角数分形成されることによって、結合部材の鋼管に対する接合力をより一層高めることができる。
【0019】
また前述のように前記円形切断線をナット部材の最短外径より大きく、かつ、膨出部の最短外径より小さくて雌ネジ孔の軸と同心である円とすることにより、鍔部の外周縁を完全な円形に成形すれば、鋼管に結合部材を挿入してプレス圧を加えて結合部を形成した際に、凹部内への鋼管の内壁の変形量をより多くできることにより、結合部材と鋼管との噛み合せ効果をさらに強固にすることができる。
【0020】
なお、前記円形切断線は、ナット部材の最短外径より大きいため、膨出部の外周縁部を切り落とすことによっても凹部が完全に消滅することはなく、結合部材の鍔部の外周面に凹部が残存するため、前述のような凹部における鋼管との噛み合せの効果を確実に得ることができる。
【0021】
また、複数の凹部が均等な間隔に離間して配置されることによって、結合部材と鋼管との接合を周方向に対して均一となるように構成することができ、鋼管と結合部材との均質な接合力を実現することができる。
【0022】
なお、雌ネジ孔と前記円形境界線との間隔幅は、雌ネジ孔とナット部材の外周との最短長さに対して60%以上98%以下となるように円形境界線の位置を定めることが好ましいが、より好ましくは80%以上96%以下となるように円形境界線の位置を定めることがよい。
【0023】
雌ネジ孔と前記円形境界線との間隔幅が、雌ネジ孔とナット部材の外周との最短長さに対して60%以下であると、ナット部材の円形境界線より外側部分を圧縮変形させる際に必要なプレス圧が不必要に大きくなる。そして、80%以上であるのが必要な圧縮変形を得るために必要なプレス圧の効率が良い。
【0024】
一方、雌ネジ孔と前記円形境界線との間隔幅が、雌ネジ孔とナット部材の外周との最短長さに対して98%より大きいと、ナット部材の円形境界線より外側部分のうち薄幅部分が圧縮変形する際に外径方向に十分膨出せず、その部分だけ膨出部が十分に形成されない、若しくは凹部の周囲が欠けた状態となるからである。98%以下であれば膨出部が全周に亘って十分形成される。
【0025】
なお、ナット部材は、外周が六角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有する六角ナットが好ましい。六角ナットは、市場において非常に安価に販売されており、これを利用することによって結合部材の製造コストを下げることができると共に、強力な接合部を備えた床束やターンバックルの製造コストを安価に抑えることができるからである。
【0026】
また、本願発明に係る床束は前記結合部材を装着したものである。すなわち、外周が角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材が、前記雌ネジ孔と外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さが保持され、円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形され、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部が形成され、前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部が切り落とされて鍔部が形成されてなる結合部材を備え、前記結合部材を、雌ネジ孔の軸が前記鋼管の軸と一致するように鋼管の開口端から鋼管端部に挿し入れ、鋼管の端部にプレス圧を加えることによって鋼管を径方向内方に向けて変形させ、鋼管端部内面を結合部材の鍔部外面に沿って塑性変形させてなる結合部を備えることを特徴とする。
【0027】
さらに、本願発明に係るターンバックルは前記結合部材を装着したものである。すなわち、外周が角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材が、前記雌ネジ孔と外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さが保持され、円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形され、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部が形成され、前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部が切り落とされて鍔部が形成されてなる結合部材を備え、前記結合部材を、雌ネジ孔の軸が前記鋼管の軸と一致するように鋼管の開口端から鋼管端部に挿し入れ、鋼管の端部にプレス圧を加えることによって鋼管を径方向内方に向けて変形させ、鋼管端部内面を結合部材の鍔部外面に沿って塑性変形させてなる結合部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本願発明によれば、鋼管と周方向に均等かつ強固に接合可能な結合部材を製造することができる。
【0029】
本願発明によれば、溶接によらず、鋼管との接合が確実な結合部材を製造することができる。
【0030】
本願発明によれば、プレス圧のみによって膨出部の外周面に簡便に凹部を形成することができ、鋼管との噛み合せ効果を得られる強固な接合を可能とする結合部材を製造することができる。
【0031】
本願発明によれば、ナット部材に六角ナットを使用することができるため、容易にかつ安価に結合部材、床束及びターンバックルを製造することができる。
【0032】
本願発明によれば、鋼管の内面に結合部材を沿わせるので、結合部材の軸と鋼管の軸とが一致させ易く、軸中心が一致した結合部を容易確実に製造することができる。
【0033】
本願発明によれば、鋼管との接合に溶接を用いる必要がないため、安価に床束及びターンバックルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ナット部材2の斜視図である。
【図2】ナット部材2を平面図である。
【図3】ナット部材2の側面図である。
【図4】中間体7の斜視図である。
【図5】結合部材1の斜視図である。
【図6】プレス装置101にナット部材2を設置した様子を示した半断面図である。
【図7】ナット部材2を圧縮加工して中間体7を形成する様子を示した半断面図である。
【図8】中間体7をプレス装置101から取り出した状態を示した半断面図である。
【図9】プレス装置210に中間体7を設置した様子を示した半断面図である。
【図10】中間体7のせん断して結合部材1を形成する様子を示した半断面図である。
【図11】結合部材1をプレス装置201から取り出した状態を示した半断面図である。
【図12】結合部材1及び鋼管21をプレス装置301に設置した様子を示した縦断面図である。
【図13】プレス圧を加える工程が完了し、結合部22が形成された鋼管21と結合部材1を正面に対して直角の面で切断した縦断面図である。
【図14】プレス圧を加える工程が完了し、結合部22が形成された鋼管21と結合部材1の底面図である。
【図15】床束24の縦断面図である。
【図16】ターンバックル33の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本願発明に係る実施の形態を、図を参照しながら詳しく説明する。
【0036】
結合部材1の製造に用いられるナット部材2は、図1に示すように軸方向に貫通した雌ネジ孔3が端面4に開口5を形成してなる。ナット部材2として特に好ましいのは、安価に手に入り易い外周面が六角柱に形成されてなる六角ナット素材である。従って本実施形態において、図1のナット部材2は六角ナット素材にあらわされている。
【0037】
図2、及び図3にはナット部材2の平面図及び側面図をそれぞれ示している。
【0038】
次にナット部材2から結合部材1を製造する方法について説明する。
【0039】
まずナット部材2を、図6に示すように逆押さえ102、ダイ103、パンチ104、ベース105、及びスプリング106とからなるプレス装置101に設置する。なお、図6は、一点鎖線の紙面左側が正面図、一点鎖線の紙面右側が縦断面図を示している。逆押さえ102の中心には位置決め突起107がそれぞれ形成されており、雌ネジ孔3を位置決め突起107に挿し入れることによって中間体7を逆押さえ102、及び押さえ103の中心に設置することができる。
【0040】
ここでプレス装置101の概略を説明すると、逆押さえ102はダイ103の内部に組み込まれている。逆押さえ102は、底面とベース105との間に設置されたスプリング106によって上方向の押圧力を受け続けながら、逆押さえ102の肩部108の上面がダイ103のフランジ部109の下面によって係止され、逆押さえ102の戴置面110がダイ103の上面と略同一平面上に位置した状態で静止している。なお、ダイ103はベース105上に固定されている。
【0041】
また、ダイ103の抜き穴108、及びパンチ104の抜き穴109は、雌ネジ孔3の同心円であって、ナット部材2の最短外径を直径とする内接円よりも僅かに小さい円形境界線6(図1、2において二点鎖線に示される円。)と等しい内径を有する円筒型に形成されている。なお、円形境界線6の位置を図6中の二点鎖線において示す。本実施形態において、円形境界線は、図2に示すように雌ネジ孔3と前記円形境界線6との間隔幅bが、雌ネジ孔3とナット部材2の外周との最短長さaに対して90%とした。
【0042】
ナット部材2の設置後、パンチ104を下方向に下降させてナット部材2の圧縮に対するプレス圧加工を行う。パンチ104の下端がナット部材2の上端面4に接した後、さらにパンチ104を押し下げるとナット部材2のうち、円形境界線6の内側部分は逆押さえ102と共にナット部材2の厚さを保持しながら下降する。一方、ナット部材2のうち円形境界線6よりも外側部分はパンチ104とダイ103によってプレス圧加工され、軸方向に上下両方向から圧縮変形していく。
【0043】
図7には、ナット部材2のプレス圧加工が完了して得られた中間体7及びプレス装置101の状態を示す。また、図8及び図4にはプレス装置101から取り出した中間体7の正面図及び斜視図をそれぞれ示す。なお、図7、8は、一点鎖線の紙面左側が正面図、一点鎖線の紙面右側が縦断面図を示している。前記プレス圧加工において、ナット部材2のうち円形境界線6よりも内側であった部分は加工前のナット部材2の厚さが保持され、端面9を有する円筒状に形成された結合部材中心部8を形成する。また、結合部材中心部8の形成時には、前記プレス圧加工によって円形境界線6上に段差面10も形成され両端面4から段差4a、4bを有して低くなる。一方、ナット部材2のうち円形境界線6よりも外側であった部分は圧縮変形され、雌ネジ孔3の径方向外方へ膨出する膨出部11を形成する。
【0044】
ここで、図7に示す段差10aはナット部材厚さ2aに対して35%以上45%以下であることが好ましく、かつ、段差10a+段差10bがナット部材厚さ2aに対して50%以上80%以下であることが好ましい。段差10aがナット部材厚さ2aに対して35%未満であると、結合部材中心8に対して鍔部18との段差が少ないために結合部材1と鋼管との端面の一致が取りにくくなる。また、段差10a+段差10bがナット部材厚さ2aに対して80よりも大きいと、鍔部18の厚さが十分でなく、結合部の軸方向への応力に対する接合強度が不足する可能性がある。前記条件を満たすことにより、鍔部18の厚みを十分に取ることができると共に、段差10a、10bの高さも十分に取ることができるため、軸方向の応力に対して十分な接合強度を備えた結合部を形成することができる。本実施例においては、段差10aをナット部材厚さ2aの40%とし、段差10bをナット部材厚さ2aの30%とした。
なお、結合部の形成の際には、結合部材1の段差10a側の端面4が鋼管21の端面と一致するように構成されていることが好ましい。これにより、軸方向への応力に対する対抗する力を発揮しやすいからである。
【0045】
図4に示すように、本実施形態において膨出部11は、幅広な部分(幅広膨出部12)と幅狭な部分(幅狭膨出部13)とがそれぞれ交互に6つずつ形成され、平面視星型の外形に形成されている。また膨出部の外周面14には、肉厚な凹部15が前記幅狭膨出部13に対応する位置に周方向に沿って形成されている。
【0046】
当該肉厚な凹部15は、前記プレス圧加工においてダイ103及びパンチ104によってナット部材2の短経部分(すなわち、六角形の変の中央部)であって円形境界線6よりも外側部分が圧縮され雌ねじ部3の径方向外方へ盛り上げられることにより形成されたものである。
【0047】
次に中間体7を、図9に示すようにダイ202、及びパンチ203とからなるプレス装置201に設置する。ダイ202の中心には位置決め突起204が形成されており、雌ネジ孔3を位置決め突起204に挿し入れることによって中間体7をダイ202の中心に設置することができる。なお、図9は、一点鎖線の紙面左側が正面図、一点鎖線の紙面右側が縦断面図を示している。
【0048】
パンチ203は、ナット部材2の最短外径よりも大きく、膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線16(図4に示す二点鎖線で示す円)と同一の径を有する抜き穴205を備えており、ダイ202上に設置された中間体7を軸方向上方から円形にせん断加工する。せん断された中間体7は、図10に示すように膨出部11の径方向外周縁部17が円形に切断され、前記段差面10を残した状態で鍔部18が形成され、結合部材1が形成される。なお、図10は、一点鎖線の紙面左側が正面図、一点鎖線の紙面右側が縦断面図を示している。
【0049】
図11及び図5にはプレス装置201から取り出した結合部材1の正面図及び斜視図をそれぞれ示す。なお、図11は、一点鎖線の紙面左側が正面図、一点鎖線の紙面右側が縦断面図を示している。
【0050】
鍔部18の外周面19には、前記膨出部11の径方向外周縁部を切断して残った複数の凹部20が周方向に沿って形成されている。凹部20は、周方向に均等な間隔に離間して形成され、本実施形態において形成されている凹部20の数は、前記肉厚な凹部15に対応して6つである。
【0051】
また、鍔部18に形成された凹部20は、図11の断面図に示すように結合部材中心部8から径方向外方に向かって拡開して形成されている。これは、前記プレス圧加工において、ナット部材2のうち円形境界線6よりも外側であった部分が圧縮変形され、結合部材中心部8の外縁部分が径方向外方へ膨出しながら盛り上げられたことにより形成される前記プレス圧加工による特徴的な形状である。
【0052】
また、図11の正面図部分および図5に示すように、凹部20の左右中央部の上下方向の幅が、凹部20の左右端部の上下方向の幅と比較して広く形成され、元の六角の辺ごとに独立した凹部20を形成している。これは、前記プレス圧加工において、端面形状が六角形に形成されたナット部材2のうち六角形の辺部と角部とでは、ナット部材2のうち円形境界線6よりも外側であった部分が辺部では薄幅で、角部では厚幅であるためである。
【0053】
前記せん断工程を経て得られた結合部材1は、鋼管と組み合わされて結合部を形成する。以下に結合部を形成するための工程を説明する。
【0054】
プレス装置301は、図12に示すように保持突起302を備えたダイ303、プレス圧金型304、保持金型305及びベース306を備え、ダイ303及び保持金型305は、それぞれスプリング307、308を介してベース306と接続されている。なお、プレス圧金型304はベース306上に固定されている。
【0055】
保持突起302は、ダイ303の側面から水平方向に向かって突出しており、結合部材1の雌ネジ孔3の内径よりも僅かに小さい外径を有する円柱状の突起である。プレス圧金型304の内周面には、鍔部18の外面に沿って鋼管21を塑性変形させ、プレス圧を加えるための溝型309が形成されている。保持金型305には、鋼管21を、設置時に水平を保った状態で安定に保持するため、鋼管21の周面に合わせた形状の円筒状の溝型310が形成されている。
【0056】
まず、結合部材1を保持突起302に嵌め込んで、結合部材中心部8の端面9をダイ303の側面に当接させた状態で固定した後、鋼管21を設置し、鋼管21の開口から鋼管端部に結合部材1を挿入させる。そして鋼管21の端面をダイ303の側面に当接させた状態で外側面を保持金型305上にも戴置して水平を保つように設置する。これにより、結合部材1と鋼管21の端面を同一平面状にそろえた状態とすることができる。
【0057】
結合部材1及び鋼管21の設置が完了後、プレス圧金型304を鋼管21の軸に対して垂直上方から鋼管21に押し当てて、鋼管21が鍔部18に沿って径方向内方に向けて変形するように押圧力を十分にかける。この時、ダイ303及び保持金型305も鋼管21が軸に対して垂直下方へ移動することに合わせて移動するため、鋼管21及び結合部材1の軸の水平を保ちながらプレス圧を加えることができる。
【0058】
鋼管21へのプレス圧を加える加工が完了した後、プレス圧金型304を再び軸に対して垂直上方に押し上げ、結合部22が形成された鋼管21を取り出す。図13に、結合部22が形成された鋼管21の縦断面図を、図14に結合部22が形成された鋼管21の底面図を示す。
【0059】
図13に示すように、プレス圧金型304によってプレス圧が加えられた鋼管21は、鍔部18外面と密着して接合しており、溶接を使わずとも容易に結合部22が形成されている。また、鋼管21及び結合部材1の軸も一致して接合されている。
【0060】
さらに、プレス圧が加えられた鋼管21の内壁が凹部20に押し込まれることによって、鋼管21と結合部材1とを凹部20で噛み合わせることができる噛み合わせ部23を形成することができる。噛み合せ部20の形成により、結合部材1を鋼管21に対して一層強固に接合することができる。また、前記凹部20が鍔部18の周面に6つ設けられていることによって、噛み合せ部20も鋼管21の周面に沿って6箇所形成することができ、これにより結合部材1の鋼管21に対する接合力を周方向に対して均質に保つことができる。
【0061】
図15に、本願発明に係る結合部材1を結合部22に備えた床束24の縦断面図を示す。
【0062】
床束24は、鋼管21を基に形成した胴部25に前記結合部22を形成し、結合部材1にボルト軸26が結合されている。ボルト軸26の下端部には脚部27がナット28によって固定されており、ボルト軸26と胴部25もワッシャー29を介してナット30によって固定されている。また、胴部25の上端部には、上面に大引を載置して支持する天板27が設置されている。天板31には、天板31から下方に向かって一体に形成された円筒状の内嵌部32が設けられており、当該内嵌部32と胴部25の上端部とが互いにプレス圧が加えられることにより接合されている。
【0063】
図16に、本願発明に係る結合部材1を結合部22に備えたターンバックル33の縦断面図を示す。
【0064】
ターンバックル33は、鋼管21を基に形成した胴部34の両端部に前記結合部22を形成し、結合部材1、1にフック35、32が結合されている。フック35の基端部にはボルトネジが形成されている。フック35は、胴部34とワッシャー36を介してナット37によって固定されている。当該ターンバックル33は、フック35、32にワイヤー等を掛止めて継ぎ手として使用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 結合部材
2 ナット部材
3 雌ネジ孔
4 端面
6 円形境界線
7 中間体
8 結合部材中心部
10 段差面
11 膨出部
15 肉厚な凹部
16 円形切断線
18 鍔部
20 凹部
21 鋼管
22 結合部
23 噛み合せ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
床束やターンバックルに使用する鋼管にボルトを軸方向に螺合するため、鋼管に装着する結合部材の製造方法であって、
外周が角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材の、
前記雌ネジ孔と前記外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、
該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さを保持し、
円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形し、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部を形成し、
前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部を切り落とす
ことを特徴とする結合部材の製造方法。
【請求項2】
床束やターンバックルに使用する鋼管にボルトを軸方向に螺合するため、鋼管に装着する結合部材であって、
外周が角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材が、
前記雌ネジ孔と前記外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、
該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さが保持され、
円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形され、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部が形成され、
前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部が切り落とされてなる
ことを特徴とする結合部材。
【請求項3】
床束やターンバックルに使用する鋼管とボルトとを軸方向に螺合するための結合部の製造方法であって、
外周が角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材の、
前記雌ネジ孔と外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、
該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さを保持し、
円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形し、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部を形成し、
前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部を切り落として鍔部を形成することによって結合部材を形成し、
前記結合部材を、雌ネジ孔の軸が前記鋼管の軸と一致するように鋼管の開口端から挿し入れ、
鋼管の端部にプレス圧を加えることによって鋼管を径方向内方に向けて変形させ、
鋼管端部内面を結合部材の鍔部外面に沿って塑性変形させる
ことを特徴とする結合部の製造方法。
【請求項4】
鋼管の端部に設けられた結合部にボルトが軸方向に螺合されてなる床束であって、
外周が角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材が、
前記雌ネジ孔と外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、
該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さが保持され、
円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形され、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部が形成され、
前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部が切り落とされて鍔部が形成されてなる結合部材を備え、
前記結合部材を、雌ネジ孔の軸が前記鋼管の軸と一致するように鋼管の開口端から挿し入れ、
鋼管の端部にプレス圧を加えることによって鋼管を径方向内方に向けて変形させ、
鋼管端部内面を結合部材の鍔部外面に沿って塑性変形させてなる結合部を備える
ことを特徴とする床束。
【請求項5】
鋼管の端部に設けられた結合部にボルトが軸方向に螺合されてなるターンバックルであって、
外周が角柱面に形成され、両端面の間に軸方向に貫通した雌ネジ孔を有するナット部材が、
前記雌ネジ孔と外周との間に位置し雌ネジ孔と同心である円形境界線を境として、
該円形境界線より内側部分は、ナット部材の厚さが保持され、
円形境界線より外側部分は、プレス圧によって軸方向両方向から圧縮変形され、これによって、前記両端面からそれぞれ段差を有して低くなると共に径方向外方に膨出する膨出部が形成され、
前記ナット部材の最短外径より大きく前記膨出部の外径より小さくて雌ネジ孔と同心である円形切断線に沿って、前記膨出部の径方向外周縁部が切り落とされて鍔部が形成されてなる結合部材を備え、
前記結合部材を、雌ネジ孔の軸が前記鋼管の軸と一致するように鋼管の開口端から挿し入れ、
鋼管の端部にプレス圧を加えることによって鋼管を径方向内方に向けて変形させ、
鋼管端部内面を結合部材の鍔部外面に沿って塑性変形させてなる結合部を備える
ことを特徴とするターンバックル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−39612(P2013−39612A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179548(P2011−179548)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(301032986)株式会社コバッシャー (1)
【Fターム(参考)】