説明

底質固化物の製造方法

【課題】浚渫土を原料とし、表面積の大きい多孔質固形物となる底質固化物の製造方法であって、例えば、得られる底質固化物を、海域における微生物の担体として利用した際に、安全性が高く、安定、安価であり、かつ環境に対する負担の少ない底質固化物の製造方法を提供する。
【解決手段】浚渫土に凝集固化剤を添加して予備固形物を得る工程と、得られた予備固形物を固液分離して含水比100〜200質量%の固形物を得る工程と、得られた固形物に二次添加剤としてポリビニルアルコールおよび/または土質改良剤を添加する工程と、二次添加剤が添加された固形物を成形し、乾燥して乾燥固形物を得る工程と、得られた乾燥固形物を、常温より高く130℃以下の温度にて焼成処理する工程と、を含む底質固化物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は底質固化物の製造方法に関し、詳しくは、大きい表面積を有する多孔質体となる底質固化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染された底泥は一般に陸上の処理場に埋め立てられるが、その処理コストは上昇し続けている。また、底泥は悪臭が強く、未処理では埋立材料として不適当であり、更に、埋立用地も少なくなってきており、底泥の処理が困難となっている。例えば、英虞湾の底質は高い有機物含有率であり、浚渫土の土捨場の不足を考慮に入れると、浚渫土の有材化と海域への利用が必要となる。有機物は炭素源として富栄養化をもたらし、細菌に利用されて資源として正常な物質循環に組み込まれなければならない。廃棄物として焼却して二酸化炭素を急速に排出することは、環境問題となる。
【0003】
これに対し、特許文献1には、底泥の有効利用を目的に、乾燥された底泥を焼成して多孔質状にした底泥ペレットが開示されている。得られた底泥ペレットは、多孔質状であるため、吸着面積が大きく、吸着能に優れ、汚染物質の吸着等に利用することができる。また、得られた底泥ペレットの多孔内は微生物にとって、最適な環境であり、浄化用微生物を多孔内に固定することにより、浄化作用が更に向上する。
【0004】
また、特許文献2には、湖沼に堆積する底泥を有効活用した多孔質セラミックスおよびそれを用いた環境改善を行うことのできる湖沼底泥の処理方法が開示されている。湖沼に堆積する底泥を浚渫・採取し、該採取物を脱水・乾燥して含水率を調整し、必要により成形したのち焼成してなる多孔質セラミックスおよび得られた多孔質セラミックスを湖沼に埋め戻すことを特徴とする湖沼底泥の処理方法である。
【特許文献1】特開平5−146800号公報
【特許文献2】特開平8−157276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の方法により、多孔質固形物を得る場合、焼成工程を必要とし、400〜1500℃で焼成することが好適とされ、また、特許文献2記載の方法より、多孔質固形物を得る場合も焼成工程を必要とし、800〜1200℃で焼成することが好適とされ、浚渫土や建設残土を原料とし、多孔質固形物を得る方法は、一般的に高温焼成が必要であり、コストが高くなる傾向がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、浚渫土を原料とし、表面積の大きい多孔質固形物となる底質固化物の製造方法であって、例えば、得られる底質固化物を、海域における微生物の担体として利用した際に、安全性が高く、安定、安価であり、かつ環境に対する負担の少ない底質固化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、浚渫土を特定条件下で処理することにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の底質固化物の製造方法は、浚渫土に凝集固化剤を添加して予備固形物を得る工程と、
得られた予備固形物を固液分離して含水比100〜200質量%の固形物を得る工程と、
得られた固形物に二次添加剤としてポリビニルアルコールおよび/または土質改良剤を添加する工程と、
二次添加剤が添加された固形物を成形し、乾燥して乾燥固形物を得る工程と、
得られた乾燥固形物を常温より高く130℃以下の温度にて焼成処理する工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0009】
本発明において、前記凝集固化剤は、好ましくはペーパースラッジ焼却灰を原料とする凝集固化剤である。また、前記凝集固化剤を浚渫土に対し、好ましくは0.5〜10容積%添加する。さらに、前記二次添加剤を固形物に対し、好ましくは1〜20容積%添加する。更にまた、前記乾燥固形物を焼成処理する工程をオートクレーブ処理により好適に行うことができ、前記乾燥固形物を焼成処理する工程における焼成温度は好ましくは105〜130℃である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、表面積の大きい多孔質固形物である底質固化物を安価、かつ環境に対する負担を少なく製造できる。また、熱処理をオートクレーブ処理とすることにより、併せて、雑菌の殺菌を行うことができるため、得られた底質固化物は、海域における微生物の担体として用いた際には安全であり、かつ安定である。更に、得られる底質固化物の表面は親水性であり、生物親和性が高く、含有する有機物が分解された後は、海域本来の無機物のみが残り、自然に帰る。更にまた常温で行う場合と比較して、短時間にて底質固化物を得ることができる。本発明のように浚渫土から底質多孔質体を製造し、海域に再利用する方法は、海底の微生物活動を補強しており、社会の安寧への貢献は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
本発明の底質固化物の製造方法においては、先ず、浚渫土に凝集固化剤を添加して予備固形物を得る。浚渫土は、海底に堆積した底質汚泥を除去する浚渫事業において生じ、その処分に困っていた浚渫処理土を有利に再利用することができる。また、凝集固化剤としては、ペーパースラッジ焼却灰を原料とする凝集固化剤を好適に挙げることができる。この種の凝集固化剤は、株式会社大正印写よりアクアリファインAR−P(登録商標)として市場において入手することができる。凝集固化剤の添加量は、浚渫土の容積に対し、好ましくは0.5〜10容積%、より好ましくは1〜5容積%であり、この添加量が0.5容積%未満であると固化が十分ではなくなる恐れがあり、一方、10容積%を超えて添加してもそれに伴う十分な固化は得られない恐れがあり、却ってコスト的に不利となる。
【0012】
次いで、本発明においては、得られた予備固形物を固液分離して含水比100〜200質量%の固形物を得る。固液分離手段は、特に制限されるべきものではなく、例えば、(株)研電社製のスリットセーバー(登録商標)を好適に使用することができる。得られた固形物の含水比は100〜200質量%であり、好ましくは100〜150質量%である。この含水比が100質量%未満では固液分離操作に時間とエネルギーがかかり過ぎ、一方、200質量%を超えると安定した底質固化物を得ることが困難となる。
【0013】
本発明においては、前記固形物に二次添加剤としてポリビニルアルコールおよび/または土質改良剤を添加する。これら二次添加剤は、底質固化物の強度を増加させるとともに、海水中での再分散を抑える働きを有する。ポリビニルアルコールとしては、日本酢ビ・ポバール(株)製のポリビニルアルコールを好適に使用することができ、また、土質改良剤としては、石膏系中性土質改良剤が好ましく、特に好ましい土質改良剤は石原産業(株)製のジプサンダー(登録商標)である。
【0014】
二次添加剤としてのポリビニルアルコールの添加量は、固形物の容積に対し、好ましくは1〜20容積%、より好ましくは3〜10容積%であり、この添加量が1容積%未満であると底質固化物の強度増加効果が十分ではなくなる恐れがあり、一方、20容積%を超えて添加してもそれに伴う十分な強度増加は得られない恐れがあり、却ってコスト的に不利となる。同様の理由により、二次添加剤としての土質改良剤の添加量は、固形物の容積に対し、好ましくは1〜20容積%、より好ましくは3〜10容積%である。
【0015】
二次添加剤が添加された固形物の成形にあたっては、上記のようにして得られた固形物を目的に応じ適宜形状に成形する。例えば、造粒、あるいはペレットを製造する等である。成形法は特に制限されるべきものではなく、慣用に従い成形することができる。しかる後、成形された固形物を自然乾燥等の通常の乾燥手段により乾燥することにより所望の形状の乾燥固形物を得ることができる。
【0016】
得られた乾燥固形物を焼成することにより、底質固化物を得ることができる。焼成温度は常温より高く130℃以下の温度、好ましくは、105〜130℃、より好ましくは、120〜125℃である。常温にて処理を行った場合でも表面積の大きい多孔質体を形成するものの、通常、1週間以上の養生乾燥を必要とし、短時間で製造することができず、実用的ではない。また、焼成温度が130℃を超えると表面積が小さい多孔質体となる。焼成温度が上記範囲である場合、得られる底質固化物の表面積は、常温で製造したもの以上となる。また、105〜130℃の場合には、短い焼成時間にて、表面積の大きい多孔質体を製造することができる。焼成時間は、焼成温度に合わせて適宜、選択することとなるが、好ましくは3〜5時間であり、3時間より少ないと良好な多孔質体が得られない恐れがあり、長時間の場合はコスト的に不利なものとなり実用性に劣ることとなる。
【0017】
また、焼成工程はオートクレーブ処理により好適に行うことができる。これにより雑菌を殺菌することができ、海域における微生物の担体として、より好適に使用することができる。オートクレーブ処理をする際にも焼成温度および焼成時間は上記と同様である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
(浚渫土)
以下の実験例では、赤潮発生とアコヤガイの病気発生などによって真珠養殖業が危機に瀕している、閉鎖性の極めて高い三重県英虞湾において堆積した底質汚泥を除去する浚渫事業において生じた含水比900質量%の浚渫土を用いた。
【0019】
(浚渫土処理プラント)
実験例の浚渫土処理プラントとして図1に示す処理プラントを構築した。このプラントは、主に原泥貯留部、薬剤反応部、固液分離部から構成され、固液分離装置としてスリットセーバーシステム((株)研電社製)を取り入れた。全体寸法は長さ2m×幅1.5m×高さ2.3mで、全ステンレス材で構成され、各駆動部はプログラムにより連続自動制御できるようにした。処理能力は、浚渫泥水にして時間あたり1〜2m3である。
【0020】
具体的には、図1に示すように、浚渫土1は原泥ポンプ2を介して、原泥撹拌機4を備えた容積280リットルの原泥貯留槽3に導入される。原泥貯留槽内の原泥は原泥供給ポンプ19を介してライン5より一対の反応槽6(各容積40リットル)の頂部に供給される。ライン5は二股に分岐し、一対のバルブ7を有しており、また反応槽6はそれぞれ撹拌機8を備えている。また、各反応槽6には、一対の容量8kgの粉体供給機9から夫々凝集固化剤が添加される。反応槽6において得られた予備固形物は各ライン10、11を介してスリットセーバー12に供給される。反応槽6の底部からのライン11および反応槽6側面からのライン10はストップバルブ13を備えており、また反応槽底部からのライン11は流量調整弁14も備えており、各流量が適宜調整可能となっている。スリットセーバー12に供給された予備固形物は、ここで水分が除去され、固形物15となる。除去された水分はスリットセーバー12の下部に配置された濾過液槽16に落下され、ここから放流水17として外部に放出され、一部は返送ポンプ18を介して原泥貯留槽3に供給される。
【0021】
英虞湾立神浦より採取した上記浚渫土に対し、上記処理プラントで固液分離実験を行った。採取した浚渫土は大部分がシルト・粘土質の細粒分から成り、有機物を多く含んでいた。処理プラントの固液分離効果は、薬剤反応部での土粒子を結合させるフロックの形成状況に大きく左右されるため、薬剤の選定と反応条件を検討した結果、凝集固化剤、特にはペーパースラッジ焼却灰を原料とした薬剤アクアリファインAR−P((株)大正印写製)を用いることで、含水比900質量%の浚渫泥水から含水比150質量%の固形物が得られた。添加率は、泥水体積に対し約1.5容積%とした。
【0022】
(底質固化物の製造)
上記のようにして得られた固形物(1次処理)を基本材料とし、2次処理としてポリビニルアルコール(PVA)(日本酢ビ・ポバール(株)製ポリビニルアルコール)を固形物(1次処理)に対して約3容積%添加した後、成形、自然乾燥して、乾燥固形物を作製した。
【0023】
次に、得られた乾燥固形物を、焼成温度をそれぞれ120、300、500および800℃とし、3時間焼成しペレットを得た。得られたペレットの比表面積をN2ガス吸着BET法により測定した。なお、比較として、浚渫土および焼成工程を行っていない自然乾燥のみ(常温)にて、7日間乾燥を行った底質固化物の比表面積も併せて測定した。得られた結果を図2に示す。
【0024】
図2から明らかように、120℃にて焼成したペレットは比表面積が大きく、温度が上昇するに従い、比表面積は減少傾向にある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】浚渫土処理プラントを示す工程図である。
【図2】焼成温度に対する得られる底質固化物の比表面積の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 浚渫土
2 原泥ポンプ
3 原泥貯留槽
4 原泥撹拌機
5 ライン
6 反応槽
7 バルブ
8 撹拌機
9 粉体供給機
10,11 ライン
12 スリットセーバー
13 ストップバルブ
14 流量調整弁
15 固形物
16 濾過液槽
17 放流水
18 返送ポンプ
19 原泥供給ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浚渫土に凝集固化剤を添加して予備固形物を得る工程と、
得られた予備固形物を固液分離して含水比100〜200質量%の固形物を得る工程と、
得られた固形物に二次添加剤としてポリビニルアルコールおよび/または土質改良剤を添加する工程と、
二次添加剤が添加された固形物を成形し、乾燥して乾燥固形物を得る工程と、
得られた乾燥固形物を、常温より高く130℃以下の温度にて焼成処理する工程と、
を含むことを特徴とする底質固化物の製造方法。
【請求項2】
前記凝集固化剤が、ペーパースラッジ焼却灰を原料とする凝集固化剤である請求項1記載の底質固化物の製造方法。
【請求項3】
前記凝集固化剤を浚渫土に対し0.5〜10容積%添加する請求項1または2記載の底質固化物の製造方法。
【請求項4】
前記二次添加剤を固形物に対し1〜20容積%添加する請求項1〜3のうちいずれか一項記載の底質固化物の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥固形物を焼成処理する工程をオートクレーブ処理により行う請求項1〜4のうちいずれか一項記載の底質固化物の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥固形物を焼成処理する工程を105〜130℃にて行う請求項1〜5のうちいずれか一項記載の底質固化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−167790(P2007−167790A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370477(P2005−370477)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】