説明

座標測定装置、方法、コンピュータプログラムプロダクト

本発明は、部材(7)上の各測定値を、偏向可能な接触探知ピン(6)を備えた測定接触探知ヘッド(5)を有する座標測定装置を用いて測定するための方法であり、その際、座標測定装置により、各パラメータ(A)を用いて、測定接触探知ヘッド(5)によって検出された単数乃至複数の偏向信号を、当該座標測定装置の座標系(X,Y,Z)内でリニア又は非リニアに写像(変換)することができる。方法を、任意に測定する接触探知ヘッド、殊に、接触探知ピンが座標方向に可動に案内されない接触探知ヘッドにも使用することができるようにするために、各パラメータの少なくとも一部分(Aanti)を用いて、接触点において、部材の表面に対して接線方向に位置している、接触探知ピン偏向の各成分を記述する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触子の較正方法に関する。
【0002】
本発明は、部材上の各測定値を、偏向可能な接触探知ピンを備えた測定接触探知ヘッドを有する座標測定装置を用いて測定するための方法、並びに、この方法を用いて実施することができる座標測定装置、及び、配属されたコンピュータプログラムプロダクトに関する。
【0003】
そのような方法は、従来技術から既に公知である。そのような方法では、通常のように、接触探知ヘッドが使われており、この接触探知ヘッドで、接触探知ピンは、3つの座標方向で可動に接触探知ヘッドに取り付けられている。それに対して、公知の接触探知ヘッドは、その内部に、接触探知ヘッド機構を有しており、この接触探知ヘッド機構を介して、接触探知ピンは、3つの座標方向に偏向することができる。接触探知ヘッド機構は、そのために、通常のように、3つのガイド部を有しており、その際、各ガイド部の各々は、座標測定装置の3つの座標方向のうちの1つの方向に動くことができる。そのために、3つのガイドの各々は、座標測定装置の各運動方向の1つに対して平行に配向されている。
【0004】
接触探知ヘッドの測定系によって測定された接触探知ピンの偏向を、座標測定装置の座標系内に組み込むために、これまで、変換行列が使われ、この変換行列を介して、測定された接触探知ピン偏向の各測定値(偏向信号乃至接触探知ヘッド信号)が、座標測定装置の座標系内に変換される。この行列の個別パラメータは、前に行われた各較正過程で求められている。
【0005】
そのような較正過程について説明されている相応の接触探知ヘッドは、論文”Multidimensional measuring probe head improves accuracy and functionality of coordinate measuring machines”,”W.Lotze”,1994年、刊行物Measurrement 13,91〜97頁、Elsevier に記載されている。この論文の95〜96頁に、2次元の場合(接触子は、単にx−y面内でしか動けない)用の相応の行列Hのパラメータの特定について記載されている。
【0006】
最近、様々な理由から、座標測定装置の各座標軸の各座標方向に対して平行に動かないように案内されるような接触探知ヘッドが使用されている。例えば、接触探知ピンが当該接触探知ピンの長手軸線の方向にリニアに案内される接触子が使われ、他方、接触探知ピンは、別の2つの座標方向にカルダン継手を介して回転運動するように支承されている。
【0007】
そのような接触探知ヘッドを、従来技術の変換行列を用いて座標測定装置に組み込む試みでは、公知の方法が相応の接触探知ヘッドの較正用にうまく組み込まれない限り、問題が生じる。
【0008】
従って、本発明が基づく課題は、上述の測定方法、並びに、そのような測定方法を用いて実行することができる座標測定装置、及び、相応のコンピュータプログラムプロダクトを、任意の測定接触探知ヘッド、殊に、そのガイドが座標測定装置の各座標軸に対して平行に配向されず、座標測定装置に組み込むことができる測定接触探知ヘッドの弾性特性が種々異なっているような接触探知ヘッドを有するようにすることにある。
【0009】
この課題は、本発明によると、各パラメータの少なくとも一部分を用いて、測定接触探知ヘッドによって検出された偏向信号を、当該座標測定装置の座標系内でリニア又は非リニアに写像(変換)するために、接触点において、部材の表面に対して接線方向に位置している、接触探知ピン偏向の各成分を記述することによって解決することができる。
【0010】
この方法の特別な点は、本発明により、偏向信号の写像の際に、測定時にも較正時にも、接触点での部材表面に対して接線方向に位置している特殊な成分が入れられる点にある。
【0011】
座標測定装置の座標系は、この際、有利には、中央の装置座標系であり、この座標系に基づいて、全ての測定が行われる。当然、択一的に装置座標系に変換することができる任意の別の座標系を用いてもよい。
【0012】
本発明の方法は、座標測定装置の座標方向に対して平行に配向されたガイドを有していない接触探知ヘッド用に特に適しているにも拘わらず、この方法は、当然、ガイドが例えば座標方向に対して平行に配向された、任意の従来技術の接触探知ヘッドに用いてもよい。
【0013】
この際、偏向信号の「変換」という概念の代わりに、極めて一般的な概念である「リニア又はノンリニアな写像」を使ってもよい。つまり、「変換」という概念は、単に、ユークリッド空間内のベクトルをユークリッド空間内のベクトルに写像することを特に示すにすぎないからである。この際、ユークリッド空間とは、公知の3次元空間であり、そのベクトルは、デカルト座標系内で座標軸x,y,zに関して記述することができる。そのような写像は、接触探知ピンの偏向が3つの座標方向で測定される場合に与えられる。しかし、座標方向内での偏向が接触探知ピンの回転として測定される接触子の場合には、偏向信号は、明らかにユークリッド空間内のベクトルを形成しない。
【0014】
接触探知ピン偏向の接線方向成分を記述する前述のパラメータが、基本的に種々異なる形式で、例えば、方程式のパラメータとして形成し得るにも拘わらず、このパラメータは、有利には、行列、殊に、回転行列を形成する。
【0015】
接触探知ピン偏向の接線方向成分を記述するパラメータを特定することができるためには、較正基準での較正の際に、後述の2つの目的関数Q又はQの少なくとも1つを充足する必要がある:
目的関数Q=Σvxn⇒0 又は
目的関数Q=Σ(vxn⇒Min
但し、
=i番目の測定点での接触探知球の偏向ベクトル、
=i番目の測定点での測定時の(較正基準の)部材表面上での接触探知球の接触点での法線ベクトル
である。
【0016】
目的関数Q又はQの解のために使われる測定点vは、較正体で少なくとも1つの半円の接触探知によって検出される必要がある。しかし、この際、唯一の半円の接触探知は、接触子が2つの座標方向で偏向され得る場合にしか十分でない。この場合には、半円は、例えば、ゲージリング又は較正球で接触探知することができる。
【0017】
接触探知ピンが3つの座標方向に偏向することができる場合、半球に亘ってできる限り均一に分布された各測定点が検出される必要がある。これは、例えば、種々異なる少なくとも3つの半円が、半球上に位置している較正球上で測定されるようにして実施することができる。この際、半円とは、較正球の3つの大きな円、つまり、較正球の直径の円のことである。
【0018】
この際、接触検知された測定点は、接触検知された半円又は半球に亘って均一に分布されているようにして検出される必要がある。
【0019】
接触探知ヘッド信号のリニア又は非リニアな写像のために、接触点で部材表面に対して法線方向に位置している接触探知ピン偏向の各成分を記述する付加的なパラメータを使うことができる。
【0020】
このパラメータも、同様に行列を形成することができ、その際、このパラメータは、較正時に公知のように、補償条件を用いて、以下の目的関数から特定することができる:
目的関数Q=Σfn,i⇒Min
その際、fn,iは、法線方向偏差、つまり、接触点(例えば、較正球)での、部材表面上の法線方向での偏差を示す。
【0021】
この方法は、座標測定装置のデジタル制御及び評価ユニットの内部メモリ内に直接記憶することができ、方法を実行することができるソフトウェア部分を有するコンピュータプログラムプロダクトとして構成することができる。この際、このコンピュータプログラムプロダクトは、データ坦体、例えば、CD−ROM、DVD−ROM、ディスケット、ハードディスク又はUSBメモリピン等の上に記憶することができる。
【0022】
本発明のその他の利点及び構成について、以下、図示の実施例を用いて詳細に説明する。その際:
図1は、本発明の方法を実行することができる座標測定装置を示す図、
図2a−2cは、リニアなガイド上の座標方向zで案内されて、別の2つの座標方向でカルダン継手を介して回転運動するように案内されている接触探知ヘッド機構の略図、
図3は、図2a−2cの接触探知ヘッドの運動機構を有する種々異なる大きさの接触探知ヘッドの単純化した略図、
図4は、較正球15の接触検知の際のベクトル比を単純化した略図、
図5は、測定力Fと接触子の偏向vとの間の角度εを示す図
である。
【0023】
図1は、本発明の方法を実行することができる本発明の座標測定装置を示す。この座標測定装置は、測定卓1を有しており、測定卓1上には、測定すべき部材7が支承されている。測定卓1に沿って、矢印Yで示された方向にモータによりポータル2が動くことができ、このポータルの正確な位置は、ゲージ8bから検知することができる。ポータル2の横方向に沿って、Xキャリッジ3は、矢印Xで示された方向にモータにより摺動可能に支承されており、その際、Xキャリッジ3の位置は、ゲージ8aの検知によって求めることができる。Xキャリッジ3は、心押し軸4を矢印Zで示された方向に可動に支承しており、その際、心押し軸4は、モータにより位置調整することができる。心押し軸4の正確な位置は、ゲージ8cの検知によって特定することができる。心押し軸4の下側端に、所謂測定接触探知ヘッド5が取り付けられており、この測定接触探知ヘッド5には、3つの座標方向x,y及びzに可動に支承された接触探知ピン6が取り付けられている。
【0024】
座標測定装置の制御のため、及び、この座標測定装置で検出された測定データの評価のために、制御及び評価ユニット9が設けられており、この制御及び評価ユニット9は、具体的な座標測定装置内にパーソナルコンピュータとして構成されている。
【0025】
当然、ここで図1に示された座標測定装置は、種々異なる多数の可能な構成のうちの1つに過ぎない。例えば、接触探知ヘッド5の運動用の機構は、完全に別のように構成することができる。ここに例として示したポータルの構成の代わりに、例えば、水平方向に突出した測定アームが、垂直方向に配向されたスタンドで可動に案内されるようなスタンドの構造を使ってもよい。更に、接触探知ヘッド5の代わりに、部材7を1つ又は複数の座標方向で動かしてもよく、その際、測定卓1は、当該方向に動く。リニアに移動可能な測定キャリッジ2,3,4の代わりに、同様に回転継ぎ手を設けてもよい。当然、制御及び評価ユニットを、別のように構成してもよく、例えば、測定コンピュータと、別個の制御部との、2つの部分から構成してもよい。
【0026】
ここでも同様に例として極端に略示されているにすぎない、参照番号5で示した測定接触探知ヘッドの構成は、図2a〜2bに示されている。これらの図から分かるように、接触探知ピン6は、板ばね13a,13b,13c及び14a,14b,14cを介して、矢印Zで示された方向に、例えば、図2bから分かるように、中空シリンダ11内でリニアに案内される。板ばね13a〜13c及び14a〜14cは、角度120°相互にずらされて星状に設けられており、その結果、板ばね13c及び14cは、図からは見えない。中空シリンダ11は、略示されたカルダン継ぎ手12を介して回転運動するように接触探知ヘッド5の接触ヘッドケーシングに取り付けられている。カルダン継ぎ手は、例えば、相応の間隔を置くことによって相応の回転運動が可能となる、丸い板ばね式ダイアフラムとして構成することができる。矢印Xで示された座標方向での相応の運動が、図2cに示されている。板ばねの面に対して垂直方向に位置している第3の座標方向(方向Y)での接触探知ピンの運動は、完全に図2cと同様に行われる。
【0027】
当然、接触探知ピン5の、ここに示されている構成も、純粋に例でしかない。例えば、接触探知ピン6の可動支承用の機構は、順次連続して設けられた平行四辺形のばねを有するようにしてもよく、この平行四辺形のばねは、接触探知ピン6を、3つの座標方向にリニアに案内する。
【0028】
図3は、幾何形状の点で一般化して示された接触探知ピン6を有する、図2a〜2cの接触探知ヘッド5の状況を単純化して略示する。この際、接触探知ピン6は、当然、図1及び2a〜2cに示されているように、専ら矢印Zで示された方向に配向しなければならないのではなく、別の幾何形状にしてもよく、例えば、星型の接触子として構成してもよい。この際、接触探知ピンの拡がりは、l,l,lで示されている。矢印Zで示された座標方向での板ばね13a〜13c及び14a〜14c)に基づく接触探知ピン6の弾性状のリニアな可塑性は、ここではνで示されている。これに対して、接触探知ピン6の、接触探知ヘッド5に対する、座標方向での偏向は、Xで示された軸を中心として回転を生じる。当該の板ばね式ダイアフラム12によって生じる弾性の回転可塑性は、Φで示されている。座標方向Xでの接触探知ピン6の偏向は、Yで示された軸を中心とした回転を生じる。これに関して、当該の板ばね式ダイアフラム12によって生じる弾性の回転可塑性は、Φで示されている。ここには詳細に図示していないセンサ、例えば、誘導により作動するセンサによって検出される当該の電気信号は、例えば、LVDT(Linear Variable Differential Transformer)又はインクリメントゲージ又はインターフェロメータによって検出することができる。当該の信号は、参照番号u,v,wによって示されている。センサの電気的な伝達係数は、この実施例では、リニアなセンサ特性曲線に対してk,k,kで示されている。
【0029】
ここに示した実施例では、この個所で、接触探知ヘッド内のセンサの偏向信号(s={u,v,w})が、リニアなセンサ特性曲線に基づいて形成されている。各センサ特性曲線は、予め物理的にリニアにすることができるか、又は、前に行われた較正過程で検出された補正値によって直線化することができる。
【0030】
当然、本発明は、リニアなセンサ特性曲線に限定されるものではない。択一的に、数学的モデルを、非リニアなセンサ特性曲線も作動することができるように変更してもよい。
【0031】
この際、Fで、接触探知球14によって部材7上に印加される測定力が示されている。この測定力は、ここでは、同様に種々異なって印加することができ、例えば、接触探知ピンの偏向時に接触探知ピンの休止位置からバイアス力が印加されるばねによって、又は、誘導的に作用する可動コイルの駆動部によって、当該座標方向で力が生成される。この際、nで、測定点での面法線が示されており、つまり、接触探知球14が部材7の表面に接触する点での部材表面上の法線方向が示されている。参照記号kで、所謂摩擦円錐が示されている。この摩擦円錐は、接触時に、接触探知球14と部材表面との間の摩擦力に起因して原理的に生じることがある、測定力Fの全ての可能な配向を示す。接触探知球14と部材7との間の摩擦がゼロであるならば、測定力Fは、正確に面法線nに沿って配向されるに違いない。しかし、実際に生じている摩擦力により、測定力Fが正確に面法線nに沿って配向されないので、面法線nの摩擦円錐kの領域内で測定力FMは変化することがある。
【0032】
そのような接触探知ヘッドに対しては、図4から分かるように、図1の座標測定装置で、以下の行列方程式が成り立つ:
p=p+A・s+p=p+v+p (1)
式(1)で用いられる記号は、以下の意味を有する:
p 座標測定装置の機器の座標系(X,Y,Z)で測定された測定点Hの実際の座標{X,Y,Z}、
座標測定装置によって、ゲージ8a〜8cの読み取りによって求められた、接触探知ヘッド5の領域内の予め定められた点Iに至る迄の各測定座標{X,Y,Z}、
接触探知ヘッド5の領域内の予め定められた点Iから、接触探知球14の休止状態での当該接触探知球14の中心点へのオフセットベクトル、
v 接触探知球14の休止位置からの当該接触探知球14の偏向ベクトル、
A 接触子行列、
s 接触探知ピン6の接触探知ピン偏向を測定する接触探知ヘッド5内のセンサの信号ベクトル{u,v,w}
である。
【0033】
図4から分かるように、接触探知球14の図示の例では、較正球15が接触探知される。この際、一点鎖線は、接触探知ピン6の位置、及び、接触探知ピンに取り付けられた接触探知球14を休止位置で示し、実線表示は、接触により偏向された接触探知ピン6及びこの接触探知ピン6に取り付けられた接触探知球14を示す。測定点Hへのベクトルpの実際の座標X,Y,Zは、座標測定装置の中心の機器座標系X,Y,Zで、例えば、式1からも分かるように、信号ベクトルsと接触子行列Aの積から得られるベクトルp、ベクトルp及びベクトルvの和によって形成される。
【0034】
ここで、測定点Hを示すベクトルpは、接触探知球14の中心点で示されている点に注意されたい。事後の測定過程で、接触探知球14が部材7に接触するか、乃至、較正球15が較正過程で接触する、点Jでの実際のベクトルp(わかりやすくするために、図4には示していない)は、ここには詳細に図示していないベクトルを付加的に付加することによって形成され、このベクトルは、接触探知球の半径rと法線ベクトルn(接触探知球14と部材7との間の接触点で得られる、部材表面での法線方向)の乗算から得られ、
以下の式2から、このことが分かる:
=p+rn (2)
この際、例えば、図2a〜2c及び図3に示された接触探知ピン5の場合に必要な接触子行列Aは、以下のように形成される:
【0035】
【数1】

【0036】
測定点の特定の座標は、一般的に、接触探知球14の中心点に至る迄しか特定されないので、上述のように、部材表面で実際に接触探知された点を特定するために、付加的に更に、接触探知球14の半径r乃至直径dが必要である。
【0037】
この実施例で、接触探知ヘッド5に対してあげた13個の未知数、即ち、オフセットベクトルpの3つの成分、行列Aの9つの成分、並びに、接触探知球の直径dは、過去の時点で以下のようにして決められた。
【0038】
第1のステップで、較正球15は、多数の測定点i=1..nで接触探知され、その際、各々特定された測定座標pGi={XGi,YGi,ZGi}、及び、それに所属の、この際接触探知ヘッド5によって測定された信号ベクトルs={u,v,w}から、適切な較正アルゴリズムを用いて、オフセットベクトルp、行列A並びに接触探知球の直径dの当該パラメータが決められる。この接触探知球の直径d並びに当該直径dから求められた接触探知球の半径rによって、事後の測定過程で、上述のようにして、単位法線ベクトルnの補助により、正確な測定点Jが求められる。
【0039】
測定時に、接触探知球14は、測定される部材7乃至較正時には、較正球15を、基本的に法線方向に接触探知するので、較正は、通常のように、ガウスのベスト−フィット−ルーチンとして、較正球に対する法線方向偏差(fn,i)の誤差の2乗和を最小化する目的で、以下の目的関数に相応して実行され:
=Σfn,i⇒Min (3)
容易に図4を用いて明らかであるように、較正される接触探知ヘッドの場合、全ての測定点pは、i=1..n、但し、n>13が半径rGes=r+rの球上にあり、その際、rは、較正球15の半径であり、rは、接触探知球14の半径である。例えば、早機の所定時点で測定された、較正球15の球中心の位置ベクトルpを用いて、式(3)に代入されたエラーfn,iに対して、以下のようになる:
n,i=|p−p|−(r+r
|pGi+p+As−p|−(r+r) (4)
ここで、本願で使う指標iは、ランニングインデックス(Laufindex)を示し、i=1..nのi番目の測定点を示す。
【0040】
しかし、正規化方程式系の行列は特異であるので、通常の解法では、所属の正規化方程式系は解くことができないことが分かる。ロバストな平均2乗法、例えば、ハウスホルダー法によっても、解は提供されるが、極めて例外的な場合にすぎない。この特異の原因は、接触子行列Aに、接触点で較正球15の表面に対して接線方向の接触探知ピン偏向に対してのみ関わる3つの係数が含まれている点にある。しかし、この各接線成分は、式(3)の目的関数によって検出されるのではなく、又は、単に小さな2次のオーダーでしか検出されず、その結果、式(3)の正規化方程式系は、結局、原理的に不確実である。剛性がほぼ一致していてリニアなセンサを有する、直角に設けられた3つの直線ガイド(例えば、平行ばねガイド)を有する従来技術の接触探知ヘッドの場合、この特異はこれまで生起していない。
【0041】
そのために、本発明では、接触子行列Aは、パラメータの少なくとも一部分が、接触点で部材表面に対して接線方向に位置している、接触探知ピン偏向の特定の成分を記述する。そのために、接触子行列は、以下のように2つの成分に分割されている:
sym=0.5(A+A) (5)
anti=0.5(A−A) (6)
は、ここでは、Aの転置行列である。これにより、以下の行列が得られる:
【0042】
【数2】

【0043】
この行列は、種々異なる目的関数により特定することができる。両行列Asym及びAantiと接触子行列Aとの間には、以下の関係がある:
A=Asym+Aanti (8)
接触子行列のこれら両成分は:
−接触子の弾性特性と共働して、接触点(J)での部材表面に対して法線方向に位置している接触子偏向の成分を記述する対称的な接触子行列Asym、及び
−結局、接触点(J)で部材表面に対して接線方向に位置している接触子偏向の回転行列成分として形成される非対称接触子行列Aanti
である。
【0044】
式(3)の目的関数を用いて、行列Asymの各係数だけを一義的に特定することができる。非対称行列Aantiは、偏向の接線方向成分にだけ作用するので、非対称行列を特定するために、別の目的関数を導入する必要がある。剛性がほぼ一致していて、リニアなセンサを有する、直交方向に3つの直線ガイドを有する接触探知ヘッドの場合、非対称的な係数{b12,b13,b23}は、無視できる程小さい。このような特別な場合に限って、接触探知ヘッドの較正は、通常のガウス目的関数Qに基づいて安定して解くことができる。
【0045】
第2の行列Aantiの目的関数は、各測定値から直接導出することはできない。その理由は、較正球15上での接触探知球14の接線方向のずれは、大きさも方向も正確には分からず、更に、摩擦によっても何れにせよ特定されないからである。つまり、較正球15の接触探知の際に接触探知ヘッド5の弾性特性も、それ以外の全ての特性も(伝達係数、及び、信号変換器の装置構成)含む別の条件を導入する必要がある。
【0046】
接線方向偏差のために目的関数を導出するのに基本となるのは、理想的な場合、接触点Jで、測定力ベクトルFは、測定面に対して法線方向に調整され、それによって、その測定力ベクトルの方向に関して分かる点にある。
【0047】
当然、これは近似的にしか分からない。その理由は、上で既述したように、測定力Fは、接触点Jで部材表面に対して正確に法線方向に位置してはおらず、摩擦円錐kの内部に幾分入っている。偏向ベクトル{v,v,v}は、一般的な場合、力ベクトルFとのなす角度εであり、摩擦円錐kよりもかなり大きくて、殆ど90°をなすこともあり(図5参照)、その結果、どうしても、一般的な場合、常に0に等しくない、偏向ベクトルvの接線方向成分vが形成される。
【0048】
この接線方向成分vは、接線面内に位置しており、偏向ベクトルvと法線ベクトルnとのベクトル積v=vxnとして算出することができる。その際、ベクトル積vは、梃子のアーム部分eを有するベクトルvのモーメントベクトルと解釈してもよい。リニアな弾性システムでは、このベクトルvtは、平均して、較正球の接触探知可能な半部の点全てに亘ってちょうどゼロベクトル
半球dA=(0 0 0) (9)
を形成する。
【0049】
半球dA=4π/3(−b2313 −b12 (10)
較正球が十分に多数且つ半球に亘って均等に分布された、同じ力の点で接触探知される場合にも、式(9)は、近似的に成り立つ。
【0050】
Σ(vxn)≒0 (11)
この条件から、非対称行列の3つの係数{b12,b13,b23}の特定用の第2の目的関数を以下のように導出することができる:
・測定条件:
較正の際、較正球で、十分多数の点が、半球に亘って均等に分布されて測定することができる:
・補償条件及び目的関数:
較正球の3つの軸を中心とする各偏向ベクトルのモーメントの和は、加算されてゼロになる必要があり、又は、(近似的に)3つの軸を中心とする各モーメントの2乗和は、最小になる必要がある。
【0051】
そのことから、求められた各係数に対して、2つの有意義な目的関数Q及びQが形成される。
【0052】
=Σvxn⇒0 (12)
=Σ(vxn⇒Min (13)
但し、
は、接触探知球14のi番目の偏向ベクトル、
は、i番目の測定点を通って較正球15に至るi番目の法線ベクトル
である。
【0053】
前述の説明から明らかになるように、両目的関数は、各係数{b12,b13,b23}に対する近似解しか提供することができず、非常に多数の、均一に分布された測定点が完全な解を提供するのは、限定された場合に限ってでしかない。判定は、可能な両目的関数間(その際、Qは、正確な数式である)、並びに較正球15上での各測定点の個数及び配置の場合に、実験結果から導出することができる。
【0054】
接触子較正の数値による実施のために、接触子パラメータは、両目的関数Q及びQ乃至Qにより、各行列係数の改善が進んで改善すべき部分が十分に小さくなる迄、繰り返して最適化計算で改善することができる。その結果、接触子行列Aの新規な係数、接触子球の直径d、並びに、接触子オフセットの位置pが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の方法を実行することができる座標測定装置を示す図
【図2】a−cは、リニアなガイド上の座標方向zで案内されて、別の2つの座標方向でカルダン継手を介して回転運動するように案内されている接触探知ヘッド機構の略図
【図3】図2a−2cの接触探知ヘッドの運動機構を有する種々異なる大きさの接触探知ヘッドの単純化した略図
【図4】較正球15の接触検知の際のベクトル比を単純化した略図
【図5】測定力Fと接触子の偏向vとの間の角度εを示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材(7)上の各測定値を、偏向可能な接触探知ピン(6)を備えた、測定用の接触探知ヘッド(5)を有する座標測定装置を用いて測定するための方法において、
座標測定装置により、各パラメータ(A)を用いて、測定接触探知ヘッド(5)によって検出された単数乃至複数の偏向信号を、当該座標測定装置の座標系(X,Y,Z)内でリニア又は非リニアに写像(変換)することができ、前記各パラメータの少なくとも一部分(Aanti)を用いて、接触点において、部材の表面に対して接線方向に位置している、接触探知ピン偏向の各成分を記述する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
接触探知ピン偏向の接線方向成分を記述するパラメータ(Aanti)を、殊に回転行列にする請求項1記載の方法。
【請求項3】
接触探知ピン偏向の接線方向成分を記述するパラメータ(Aanti)を特定するために、以下の両目的関数Q又はQの少なくとも1つを充足し:
目的関数Q=Σvxn⇒0 又は
目的関数Q=Σ(vxn⇒Min
但し、
=測定点での接触探知球(14)の偏向ベクトル、
=測定時の接触探知球の接触点での法線ベクトル
である
請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記目的関数(Q及び/又はQ)の少なくとも1つを解くために使用される各測定点を、較正体(15)に少なくとも1つの半円を接触検知することによって検出する請求項3記載の方法。
【請求項5】
接触検知された各測定点を、接触検出された半円に亘って、又は、場合によっては、接触検知された半球に亘って均一に当該各測定点が分布しているようにして検出する請求項4記載の方法。
【請求項6】
較正体を、較正用リング又は較正用球(15)にする請求項4記載の方法。
【請求項7】
単数乃至複数の偏向信号の写像のために、接触点で、部材表面に対して法線方向に位置している接触探知ピンの偏向の各成分を記述する付加的なパラメータ(Asym)を使用する請求項1から6迄の何れか1記載の方法。
【請求項8】
同様に行列をなす、接触探知ピン偏向の法線方向成分を記述し、及び、公知のようにガウスの補償条件(Gaussschen Ausgleichungsbedingung)を用いてパラメータ(Asym)を、以下の目的関数から特定し、つまり、
目的関数Q=Σfn,i⇒Min
但し、
n,iは、法線方向偏差、つまり、接触点での、部材表面上の法線方向での偏差を示す
請求項7記載の方法。
【請求項9】
測定用接触探知ヘッド及び当該接触探知ヘッドに可動に取り付けられている接触探知ピン(6)、及び、制御及び評価ユニット(9)を有する座標測定装置において、
制御及び評価ユニット(9)にパラメータ(A)が記憶され、該パラメータを介して、前記制御及び評価ユニット(9)は、測定用接触探知ヘッド(5)によって特定された単数乃至複数の偏向信号のリニア又は非リニアな写像(変換)を、座標測定装置の座標系(X,Y,Z)内で算出することができ、該算出時に、前記パラメータの少なくとも一部分(Aanti)は、接触点で部材表面に対して接線方向に位置している接触探知ピン偏向の各成分を記述することを特徴とする座標測定装置。
【請求項10】
接触探知ピン偏向の接線方向成分を記述する、制御及び評価ユニット(9)に記憶されるパラメータ(Aanti)は、行列、殊に、回転行列をなす請求項9記載の座標測定装置。
【請求項11】
接触探知ピン偏向の接線方向の各成分を示すパラメータ(Aanti)の特定用の制御及び評価ユニット(9)は、以下の両目的関数Q又はQの少なくとも1つを充足することができ:
目的関数Q=Σvxn⇒0 又は
目的関数Q=(Σvxn⇒Min
但し、
=接触探知球の測定点での接触探知球の偏向ベクトル、
=測定時の接触探知球の接触点での法線ベクトル
である請求項9又は10記載の座標測定装置。
【請求項12】
制御及び評価ユニット(9)は、各測定値の検出用の座標測定装置を、前記目的関数(Q及び/又はQ)の少なくとも1つを解くために必要な各測定点を、較正体(15)に少なくとも1つの半円で接触検知することによって検出するように制御する請求項11記載の座標測定装置。
【請求項13】
制御及び評価ユニット(9)は、各測定値の検出用の座標測定装置を、前記各測定値が、接触検知される半円乃至半球に亘って均等に分布されているように制御する請求項12記載の座標測定装置。
【請求項14】
較正体は、ゲージリング又は較正球(15)である請求項12記載の座標測定装置。
【請求項15】
偏向信号(s)の写像のために、付加的なパラメータ(Asym)が使用され、該パラメータは、接触点で部材表面に対して法線方向に位置している接触ピン偏向の各成分を記述する請求項9から14迄の何れか1記載の座標測定装置。
【請求項16】
接触探知ピン偏向の各法線成分を記述するパラメータ(Asym)は、同様に行列をなす請求項15記載の座標測定装置。
【請求項17】
パラメータ(Asym)は、公知のようにガウスの補償条件(Gaussschen Ausgleichungsbedingung)を用いて、以下の目的関数から特定され、
目的関数Q=Σfn,i⇒Min
但し、
n,iは、法線方向偏差、つまり、接触点での部材表面上の法線方向の偏差を示す請求項15又は16記載の座標測定装置。
【請求項18】
コンピュータプログラムプロダクトは、座標測定装置のデジタル制御及び評価ユニット(9)の内部メモリ内に直接記憶することができ、且つ、ソフトウェアコード部分を有しており、該ソフトウェアコード部分と共に、各パラメータ(A)を用いて、前記座標測定装置の測定接触探知ヘッド(5)の単数乃至複数の測定値を、前記座標測定装置の座標系(X,Y,Z)内にリニアに写像することができ、該写像の際使われるパラメータの少なくとも一部分(Aanti)は、接触点での部材表面に対して接線方向に位置している接触探知ピン偏向の各成分を記述することを特徴とするコンピュータプログラムプロダクト。
【請求項19】
コンピュータプログラムプロダクトは、付加的にソフトウェアコード部分を有しており、該ソフトウェアコード部分を介して、座標測定装置を、請求項2から5又は7又は8の何れか1記載の方法を実施するように作動することができる請求項18記載のコンピュータプログラムプロダクト。
【請求項20】
請求項18又は19記載のコンピュータプログラムプロダクトを有する、機械で読み取り可能なデータ坦体。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−500849(P2007−500849A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529746(P2006−529746)
【出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004805
【国際公開番号】WO2004/106854
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(504258804)カール ツァイス インドゥストリエレ メステヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (11)
【Fターム(参考)】