説明

廃棄ケーブルのリサイクル処理方法

【課題】 含油絶縁紙を絶縁体とするSLケーブル、Hケーブルなどのリサイクル処理方法であって、分解前処理が容易で、作業時間の大幅な短縮と危険作業の回避ができるとともに、有価物である導体の迅速、簡単な取り出しによりマテリアルリサイクルが可能となり、かつ、ケーブルに含有される有機物のサーマルリサイクルが可能となる、廃棄ケーブルのリサイクル処理方法を提供すること。
【解決手段】 含油絶縁紙を絶縁体とする廃棄ケーブルの切断片を、反応容器内で水熱処理することにより、廃棄ケーブル中の有機物を分解するとともに、分解後のケーブル残渣から有価金属を回収することを特徴とする廃棄ケーブルのリサイクル処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄ケーブルのリサイクル処理方法に関し、詳細にはSLケーブル、Hケーブルなど含油絶縁紙を絶縁体とする廃棄ケーブルのリサイクル処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電線・ケーブルには、CVケーブルなどの架橋ポリエチレンを絶縁体とするものと、SLケーブルやHケーブルなどの絶縁油を含浸した含油絶縁紙を絶縁体とするものが知られている。これらの電線・ケーブルは、一定期間の経過により絶縁体の酸化劣化が生じるため、一定期間使用されると取り替えられる。取り替えられた廃棄ケーブルは、導体(主として銅)と被覆廃材(ゴム、プラスチック、鉛被、紙、ジュート、タール分等)とに分離される。
【0003】
しかし、SLケーブルやHケーブルの場合、分離された被覆廃材には、ゴム、プラスチック、紙、ジュート、タール分、腐食防止材、酸化防止剤などの他に、場合によっては人体に悪影響を与える可能性のあるポリ塩化ビフェニール類などの有機物が含まれているため、その廃棄後の処理が問題である。また、分離されたゴム・プラスチック材料は容易に分解されないため、回収して再利用できる物質(以下、「有価物」と称する)である銅などを円滑に回収することができないことが問題になっている。
【0004】
ところで、ケーブルは導体の周囲が複数の材料で構成され、非常に複雑な構造を有している。図2および図3には、含油絶縁紙を含むケーブルの一例を断面図で示した。図2に示すSLケーブルは、線導体18の上に絶縁紙17を巻いた後、鉛被16を施した単心鉛被ケーブル3条を、介在ジュート19とともにより合せて円形に仕上げ、さらにこの上にクロロプレンシース13などを施している。図3に示すHケーブルは、線導体27の上に絶縁紙25を巻き、その上に金属遮蔽テープ26を巻き、3心をより合わせて間隙にジュート28を入れて円形に仕上げ、その上に金属帯24を巻いた後、乾燥後浸油して鉛被23を施している。
【0005】
SLケーブルやHケーブルから導体(銅線)を取り出すためには、従来より、タール除去、ケーブル外皮除去、鉛被除去、介在ジュート除去、鉛被除去、絶縁紙除去などの複数の作業工程を経て、外側の被覆から順に切断除去していく方法が採られている。
【0006】
しかしながら、ケーブルの形状が複雑であるため、ケーブル解体作業には複数の人手が必要であり、解体に長時間を要している。しかも、切断作業であるため危険作業を伴うという問題点もある。更に、ケーブルが絶縁油を含んだ絶縁紙を内包しているため、絶縁油の添加剤などに使用された人体に有害な物質が含まれている可能性もあるので、それらを飛散しないよう慎重に分離し、別途処理をする必要がある。この際、隣接する部材への付着がある場合は、それらをも分離、洗浄する必要が生じるため、作業を一層繁雑にしている。
【0007】
廃ケーブルの分解方法として、例えば特開2000−279927号公報(特許文献1)には、廃ケーブルを回収し解体した被覆廃材を再利用または廃却処理するために、該廃ケーブルから銅を効率よく除去する方法が提案されている。当該公報では、プラスチック被覆廃ケーブルを粉砕し、比重差により銅と被覆廃材とに分離し、分離された被覆廃材から分級機で粉砕片の大きさが3mm未満のものを選別し、3mm未満の被覆廃材粉砕片から水による比重差分別により銅分を分別する方法が開示されている。
【0008】
また、特開2001−191046号公報(特許文献2)には、従来の亜臨界水を利用したバッチ式またはセミバッチ式処理装置の改良技術として、電線・ケーブルのような長尺品の処理に適した電線・ケーブル廃棄物の連続処理方法が提案されている。反応筒と、反応筒の両端に内挿された電線・ケーブル挿通孔を有するシール体とを備えた反応容器内で、ゴム・プラスチック被覆を露出させた電線・ケーブル廃棄物を、超臨界水または亜臨界水と接触反応させて、ゴム・プラスチックを分解する電線・ケーブル廃棄物を連続処理している。
【特許文献1】特開2000−279927号公報(請求項1、段落番号0001、同0019等)
【特許文献2】特開2001−191046号公報(請求項1〜2、段落番号0004等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されているのは廃材から銅を効率よく分別する技術に関するものであり、これにより、被覆廃材を高炉用の原料として再利用でき、あるいは、埋立廃棄するに際しても土壌の重金属汚染を懸念することなく廃棄できる利点があるが、廃棄ケーブルを丸ごと分解処理できる技術ではない。
【0010】
特許文献2では、分解対象物が架橋ポリエチレン等のゴム・プラスチックであり、分解処理によって架橋ポリエチレンを未架橋のポリエチレンに改質しているのみで、絶縁紙、タール、各種添加剤には全く言及していない。この方法では、多重に構成したシール体により反応筒の圧力を保持するとしているが、圧の均衡が壊れた際の危険性を考慮すると、防爆ケーシング等が必要となりコスト高になる。
【0011】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、プラスチックを絶縁体とせずに含油絶縁紙を絶縁体とする廃棄ケーブル(SLケーブル、Hケーブルなど)のリサイクル処理方法であって、分解前処理が容易で、作業時間の大幅な短縮と危険作業の回避ができるとともに、有価物である導体の迅速、簡単な取り出しによりマテリアルリサイクルが可能となり、かつ、ケーブルに含有される有機物のサーマルリサイクルが可能となる、廃棄ケーブルのリサイクル処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、切断したSLケーブルなどを水熱処理することにより、有価金属の回収が容易になり、かつ、ケーブル中の有機物の分解物も再利用可能になることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1)含油絶縁紙を絶縁体とする廃棄ケーブルの切断片を、反応容器内で水熱処理することにより、廃棄ケーブル中の有機物を分解するとともに、分解後のケーブル残渣から有価金属を回収することを特徴とする廃棄ケーブルのリサイクル処理方法、
2)水熱処理が、温度450〜650℃、圧力23〜30MPaで、0.5〜2.0時間で実施される前記1)に記載の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法、
3)有機物が、タール、絶縁紙、腐食防止材、酸化防止剤および有機塩素化合物から選ばれる少なくとも1種類と被覆ゴムとを含有する前記1)または2)に記載の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法、
4)有機物の分解ガスをサーマルリサイクルする前記1)〜3)のいずれかに記載の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法、および、
5)有価金属をマテリアルリサイクルする前記1)〜4)のいずれかに記載の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法。
【発明の効果】
【0014】
以上説明した通り、本発明によれば、ケーブルを輪切りに切断するのみなのでケーブルの前処理を単純機械作業とすることができ、作業時間の大幅な短縮と危険作業の回避ができる。また、有害物質の有無に拘わらず露出させたケーブル断面を介して有機物被覆材を効率よく分解処理することができるため、ケーブル被覆材の物理的な除去作業が不要で、ケーブル被覆材と導体とを迅速に分別でき、有価物である導体(銅線)を迅速、簡単に取り出すことができる。さらに、ケーブルに含まれる有機物はサーマルリサイクルが、金属はマテリアルリサイクルが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法は、SLケーブルあるいはHケーブルなどの含油絶縁紙を絶縁体とする廃棄ケーブルの切断片を、反応容器内で水熱処理することにより、廃棄ケーブル中の有機物を分解するとともに、分解後のケーブル残渣から有価金属を回収するものである。
【0016】
分解処理に先立ち、ケーブル断面を露出させるために、廃棄ケーブルを長尺方向に輪切りに切断する前処理工程を実施する。切断長は反応容器に充填可能な大きさとすればよく、特に限定されない。廃棄ケーブル切断片と、溶媒として水を反応容器に供給し、温度および圧力を、所望の温度および圧力範囲内に保たれるように加熱する。あるいは、廃棄ケーブル切断片をオートクレーブ等の耐圧反応容器に入れた後、超臨界状態もしくは亜臨界状態とされた溶媒を耐圧反応容器に圧入し、耐圧反応容器内の温度および圧力が、所望の温度および圧力範囲内に保たれるように加熱する。反応容器は特に限定されるものではなく、オートクレーブなどの耐高温および耐高圧用の一般的な反応容器を使用することができる。
【0017】
反応容器内の廃棄ケーブルは、高温および高圧下で溶媒である水と接触し、表面のゴム被覆、介在ジュート、絶縁紙が分解され、炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素等のガスが生成する。この際、共存する可能性のあるタール、腐食防止材、酸化防止剤などの有機物の他、ポリ塩化ビフェニール類などの有機塩素化合物も分解され、同様にガスが生成する。有機物の分解に伴って、導体(銅線)および鉛被が有機物から分離される。
【0018】
溶媒として水を使用するのは、取扱時の安全性が高く、環境負荷を低減できるからである。
【0019】
本発明において、ケーブルを水と接触させる際の反応温度および反応圧力としては、温度450〜650℃、圧力23MPa〜30MPaの範囲とすることが望ましく、このような範囲に制御することにより、ケーブル中に有機塩素化合物が含有されている場合でも、これらを無害なガスへ迅速に分解することができる。より望ましくは、反応温度600℃〜650℃、反応圧力23MPa〜27MPaの範囲とするのがよい。反応の迅速性や分解性等を考慮すると、超臨界状態が好ましい。
【0020】
反応時間は、通常、30〜120分間、好ましくは50〜70分間である。反応時間が短すぎると有機物の分解が不十分となり、反応時間が長すぎても反応が平衡状態に達するので無意味である。
【0021】
また、ケーブル被覆材の分解反応を促進するため、必要に応じて、溶媒に、過酸化水素、酸素などを添加してもよい。
【0022】
反応容器に供給する溶媒量は、ケーブルの種類によっても異なるが、溶媒をケーブルに対して7倍〜13倍量(質量比)添加するのが好ましい。溶媒量が7倍量未満の場合は有機物の分解が不十分となり、一方13倍量を超える場合は廃液が増加し、むだとなる。分解効率、分解速度および回収の容易性などを考慮すると、溶媒をケーブルに対して9倍〜11倍量(質量比)添加するのがより好ましい。
【0023】
次に、本発明の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法を図面を用いて説明する。図1に、本発明の一実施形態に係るリサイクル処理方法のフローチャートを示す。
【0024】
原料となる廃棄ケーブル2を前処理工程3に供給して切断し、溶媒(水)6とともに反応容器4に供給し、所定の条件で反応させる。反応容器内でケーブルに含まれる有機物を分解し、分解生成ガスを回収する。分解残渣には被覆材から分離された導体(銅線)、鉛被などの有価金属の他、溶媒などが含まれているが、分解残渣に濾過などの操作を実施することにより有価金属を簡単に分離回収することができる。
【0025】
回収された分解生成ガス7はサーマルリサイクルして、ボイラ燃料やガスエンジン燃料等に利用することができる。また、回収された有価金属8はマテリアルリサイクルして、導体等に再利用することができる。
【0026】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
耐圧反応容器(容積100mL)に、長さ約10〜20mmに切断したSLケーブル片13gおよび水100gを導入し、耐圧反応容器を加熱して容器内の温度および圧力を500℃、25MPaに保持した。反応中に発生する分解ガスを捕集しながら反応を継続し、分解ガス発生が認められなくなるまで、約60分間上記の温度、圧力を保持した。
【0028】
処理後の反応容器内を観察したところ、ケーブルが分解された残渣として5.11gが確認された。分解ガスは5.91g、廃液中の有機物は2.84gであった。
【0029】
(実施例2)
実施例1同様、耐圧反応容器を加熱して容器内の温度および圧力を600℃、25MPaに保持した。反応中に発生する分解ガスを捕集しながら反応を継続し、分解ガス発生が認められなくなるまで、約60分間上記の温度、圧力を保持した。
【0030】
処理後の反応容器内を観察したところ、ケーブルが分解された残渣として5.63gが確認された。分解ガスは5.74g、廃液中の有機物は3.22gであった。
【0031】
(実施例3)
耐圧反応容器(容積100mL)に、長さ約10〜20mmに切断したSLケーブル片14g、水100g、および酸素ガス3.6Lを導入し、耐圧反応容器を加熱して容器内の温度および圧力を600℃、25MPaに保持した。反応中に発生する分解ガスを捕集しながら反応を継続し、分解ガス発生が認められなくなるまで、約60分間上記の温度、圧力を保持した。
【0032】
処理後の反応容器内を観察したところ、ケーブルが分解された残渣として3.45gが確認された。分解ガスは11.71g、廃液中の有機物は4.12gであった。
【0033】
実施例1〜3の実験において発生したガス、液体、および残渣のマテリアルバランスを図4に、分解処理後の全成分量に対する各成分の割合を図5に示す。図4の結果から、有機物が分解してガスが生成していることがわかる。図5の結果から、反応温度が高い方が分解生成物が増えていることが、また酸素を導入した方がさらに分解生成物が増えていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】廃棄ケーブルのリサイクル処理方法のフローチャートである。
【図2】SLケーブルの断面図である。
【図3】Hケーブルの断面図ある。
【図4】SLケーブル分解後のマテリアルバランスを示すグラフである。
【図5】SLケーブル分解後の各成分量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
1 廃棄ケーブルリサイクル処理方法のフローチャート
2 廃棄ケーブル
3 前処理工程
4 反応容器
6 溶媒(水)
7 ガス
8 金属
11 カーボン紙
12 クロロプレンフリクション帆布
13 クロロプレンシース
14、15 クロロプレン引布帯
16 鉛被
17 含油絶縁紙
18 導体
19 介在ジュート
21 クロロプレンフリクション帆布
22 クロロプレン
23 鉛被
24 銅線織込布帯
25 線心絶縁
26 遮蔽層
27 導体
28 介在ジュート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含油絶縁紙を絶縁体とする廃棄ケーブルの切断片を、反応容器内で水熱処理することにより、廃棄ケーブル中の有機物を分解するとともに、分解後のケーブル残渣から有価金属を回収することを特徴とする廃棄ケーブルのリサイクル処理方法。
【請求項2】
水熱処理が、温度450〜650℃、圧力23〜30MPaで、0.5〜2.0時間実施される請求項1に記載の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法。
【請求項3】
有機物が、タール、絶縁紙、腐食防止材、酸化防止剤および有機塩素化合物から選ばれる少なくとも1種類と被覆ゴムとを含有する請求項1または2に記載の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法。
【請求項4】
有機物の分解ガスをサーマルリサイクルする請求項1〜3のいずれかに記載の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法。
【請求項5】
有価金属をマテリアルリサイクルする請求項1〜4のいずれかに記載の廃棄ケーブルのリサイクル処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−150246(P2006−150246A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345413(P2004−345413)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】