説明

廃棄物溶融炉の燃焼制御方法及び燃焼制御装置

【課題】廃棄物処理設備における廃棄物溶融炉の燃焼制御の応答性を速くし、廃棄物溶融設備のボイラの蒸気発生量の安定性を向上させること。
【解決手段】廃棄物溶融炉1に廃棄物を投入し、この廃棄物を熱分解、燃焼及び溶融させるために廃棄物溶融炉に空気を送風し、廃棄物の熱分解、燃焼及び溶融によって発生した可燃性ガス及び可燃物を燃焼室4で燃焼させ、その燃焼排ガスをボイラ6に通して熱回収し、熱回収後の燃焼排ガスを減温塔8に通して水噴霧によって冷却し、煙突11から排出する廃棄物処理設備において、燃焼室4のガス温度、ボイラ6の蒸気量、減温塔8の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁8aの開度のそれぞれについて、規定値を設定し、燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つが規定値になった場合に、廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物処理設備において、廃棄物を熱分解、燃焼及び溶融する廃棄物溶融炉の燃焼制御方法及び燃焼制御装置に関し、より詳しくは、廃棄物を熱分解、燃焼及び溶融するために廃棄物溶融炉に送風する空気量及び/又は酸素量を制御する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物を熱分解、燃焼及び溶融する廃棄物溶融炉を備える廃棄物処理設備では、一般的に、廃棄物の熱分解、燃焼及び溶融によって発生した可燃性ガス及び可燃物を燃焼室で燃焼させ、その燃焼排ガスをボイラに通して熱回収し、熱回収後の燃焼排ガスを減温塔に通して水噴霧によって冷却し、煙突から排出する。
【0003】
このように、廃棄物処理設備では、廃熱物の潜熱をボイラで蒸気として回収し有効利用することが広く行われている。ただし、この場合、ボイラでの蒸気発生量が大きく変動すると、必要な蒸気量が得られなくなったり、逆に、過剰の蒸気が発生したりして、蒸気を利用する場合にその利用範囲に大きな制約を与えることになり、有効利用の大きな阻害要因となる。
【0004】
このような観点から、特許文献1では、廃棄物溶融炉下流側に設置する燃焼室出口側の排ガス温度及び排ガス流量を制御対象とし、この排ガス温度及び流量が一定になるように、燃焼室に供給する空気量及び廃棄物溶融炉に供給する空気量及び/又は酸素量を操作して、ボイラの回収蒸気量を安定させるようにした廃棄物溶融炉の燃焼制御方法が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1の制御方法では、主体となる廃棄物溶融炉に供給する空気量及び/又は酸素量制御の制御対象である排ガス流量は、最下流の煙突近傍で測定されるものであり、さらに制御方法も単純なフィードバック制御であることから、制御応答の速さに制約がある。
【特許文献1】特開平8−159436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、廃棄物処理設備における廃棄物溶融炉の燃焼制御の応答性を速くし、廃棄物溶融設備のボイラの蒸気発生量の安定性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、廃棄物溶融炉に廃棄物を投入し、この廃棄物を熱分解、燃焼及び溶融させるために廃棄物溶融炉に空気を送風し、廃棄物の熱分解、燃焼及び溶融によって発生した可燃性ガス及び可燃物を燃焼室で燃焼させ、その燃焼排ガスをボイラに通して熱回収し、熱回収後の燃焼排ガスを減温塔に通して水噴霧によって冷却し、煙突から排出する廃棄物処理設備における廃棄物溶融炉の燃焼制御方法であって、燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度のそれぞれについて、規定値を設定し、燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つが規定値以上になった場合に、廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更することを特徴とするものである。
【0008】
このように本発明では、燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つが規定値以上になった場合に廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更する制御を行うので、制御の応答性が速くなる。
【0009】
本発明では、燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つについて複数段階の規定値を設定すると共に、それぞれの段階の規定値に対して廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量の変更値を設定し、検出された規定値の段階に応じて、段階的に廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更するようにすることができる。
【0010】
このように段階的に廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更することで、ボイラの熱負荷レベルに応じた適切な対処を行うことができ、廃棄物溶融炉の燃焼状態及びボイラの蒸気発生量の安定性をより一層向上させることができる。
【0011】
また、上述した本発明の廃棄物溶融炉の燃焼制御方法は、燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度を検出するセンサ手段と、このセンサ手段によって燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つが予め設定された規定値になったと検出された場合に、廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更する制御手段とを備えた廃棄物溶融炉の燃焼制御装置によって実施できる。
【0012】
この燃焼制御装置においても、燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つについて複数段階の規定値を設定すると共に、それぞれの段階の規定値に対して廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量の変更値を設定しておき、センサ手段が検出した規定値の段階に応じて、制御手段が段階的に廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更するようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、廃棄物処理設備における廃棄物溶融炉の燃焼制御の応答性を速くし、廃棄物溶融設備のボイラの蒸気発生量の安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図面に示す実施例に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明を適用した廃棄物処理設備の全体構成図である。同図において、廃棄物溶融炉1の上部に設けられた装入装置から投入された廃棄物A、副原料であるコークスB、石灰石Cは、炉の下部に設けた上段羽口1aより送風される空気、下段羽口1bより送風される空気及び酸素と反応し、不燃物は溶解して出湯口1cより炉外へ排出され、可燃物は熱分解及び燃焼してガス化する。この発生ガスは溶融炉1の上部からダクト2を経てサイクロン3で可燃性ダストを一部除塵回収した後、燃焼室4に設けたバーナー部4aより燃焼室4内に入り、燃焼用空気ファン5から供給された燃焼空気により燃焼する。
【0016】
燃焼室4から排出された燃焼排ガスはボイラ6に通されて熱回収され、ここで発生した蒸気は蒸気利用設備7で利用される。
【0017】
ボイラ6によって熱回収されたガスは、さらに冷却するために減温塔8に通される。減温塔8では噴水水流量調節弁8aを介して水噴霧することで、ガスを冷却する。減温塔8を出たガスは、集塵機9で除塵され、誘引通風機10を経て煙突11から排出される。
【0018】
以上の構成において、本発明では、燃焼室4のガス温度、ボイラ6の蒸気量、減温塔8の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁8aの開度(以下、これらの値を「プロセス値」という。)を検出するセンサ手段として、第1のガス温度センサ12、蒸気量センサ13、第2のガス温度センサ14、弁開度センサ15を設けると共に、各センサ12〜15からの各プロセス値の検出信号に基づいて廃棄物溶融炉1の送風空気量及び/又は送風酸素量を制御する制御手段16を設けている。
【0019】
すなわち制御手段16は、各センサ12〜15からの各プロセス値の検出信号に基づいて、各プロセス値が予め設定された規定値になっているか否かを判定し、そのうち少なくとも一つが規定値以上になったと判定された場合に、送風制御用調節弁17a〜17cを調節して廃棄物溶融炉1の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更し、燃焼制御を行う。そして、各プロセス値の少なくとも一つについて複数段階の規定値を設定し、その規定値の段階、すなわちボイラ6の熱負荷レベルに応じて、段階的に廃棄物溶融炉1の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更することもできる。
【0020】
以下、具体的に本発明の燃焼制御方法を説明する。図2及び図3は、本発明の燃焼制御方法の一例を示すフロー図で、そのうち図2はボイラの熱負荷レベルを判定する手順を示し、図3は各判定における処理を示す。この実施例では、ボイラの熱負荷レベルの段階をステップ1〜3の3段階とし、各段階に応じて廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更するようにしている。
【0021】
図2の上段に示すように、廃棄物溶融炉の送風状態が通常(ステップ0)であって廃棄物溶融炉が運転中の状態において、減温塔出口温度が第1規定値(実施例では185℃)以上であることが検出され、それがタイマー18で設定された時間(実施例では30秒)継続した場合に、ステップ1の熱負荷レベルと判定する。
【0022】
ステップ1と判定されると、図3に示すように、切替器19aによって、廃棄物溶融炉の送風量(送風空気量及び/又は送風酸素量のことをいう。以下同じ。)の係数値をステップ0の初期値(実施例では1.0)からステップの係数値(実施例では0.9)に切り替え、演算器22において、この係数値(0.9)をオペレータ設定による送風流量設定値に乗じて送風量設定値を算出する。この送風量設定値に基づいて、図1に示した制御手段16が廃棄物溶融炉の送風量を変更する。
【0023】
このようなステップ1に対する対処を講じたにもかかわらず、熱負荷レベルが下がらない場合には、ステップ2の熱負荷レベルと判定する。具体的には、図2の中段に示すように、ステップ1の判定から所定時間(実施例では60秒)経過したにもかかわらず、(1)減温塔出口温度が第2規定値(実施例では190℃)以上であることが検出されるか、(2)ボイラの蒸気量が規定値以上であることが検出されるか、(3)燃焼室のガス温度が規定値以上であることが検出されるか、(4)減温塔の噴霧水流量調節弁の開度が規定値以上であることが検出され、それがタイマー18で設定された時間継続した場合に、ステップ2の熱負荷レベルと判定する。
【0024】
ステップ2と判定されると、図3に示すように、切替器19bによって、廃棄物溶融炉の送風量の係数値をステップ2の係数値(実施例では0.8)に切り替え、演算器20において、この係数値(0.8)をオペレータ設定による送風量設定値に乗じて送風量設定値を算出する。
【0025】
このようなステップ2に対する対処を講じたにもかかわらず、熱負荷レベルが下がらない場合には、ステップ3の熱負荷レベルと判定する。具体的には、図2の下段に示すように、ステップ2の判定から所定時間(実施例では60秒)経過したにもかかわらず、減温塔出口温度が第3規定値(実施例では195℃)以上であることが検出され、それがタイマー18で設定された時間継続した場合に、ステップ3の熱負荷レベルと判定する。
【0026】
ステップ3と判定されると、図3に示すように、切替器19cによって、廃棄物溶融炉の送風量の係数値をステップ3の係数値(実施例では0.7)に切り替え、演算器20において、この係数値(0.7)をオペレータ設定による送風量設定値に乗じて送風量設定値を算出する。
【0027】
このように、本実施例では、複数のプレセス値を監視して廃棄物溶融炉の送風量を変更する制御を行うので、制御の応答性を速くすることができる。また、熱負荷レベルの段階を複数設定し、各段階に応じて廃棄物溶融炉の送風量を変更するようにしているので、廃棄物溶融設備のボイラの蒸気発生量の安定性を向上させることができる。
【0028】
なお、実施例では、プロセス値として減温塔出口温度にのみ、3段階の規定値を設定したが、他のプロセス値についても複数段階の規定値を設定して、同様に熱負荷レベルの段階を判定するようにしてもよい。
【0029】
図4は熱負荷レベルの復帰条件の一例を示すフロー図である。同図に示す例では、ステップ3で、各プロセス値がいずれも第1規定値以下になった場合に、ステップ2に復帰する。また、ステップ2で、各プロセス値がいずれも第2規定値(第1規定値よりも小さい値)以下になった場合に、ステップ1に復帰する。そして、ステップ1で、各プロセス値がいずれも第3規定値(第2規定値よりも小さい値)以下になった場合に、ステップ0に復帰する。
【0030】
なお、図4の例では、各プロセス値がいずれも規定値以下になった場合(AND)に復帰するようにしたが、各プロセス値のいずれかが規定値以下になった場合(OR)に復帰するようにしてもよい。また、復帰の条件としてのプロセス値の組み合わせは任意に選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用した廃棄物処理設備の全体構成図である。
【図2】本発明の燃焼制御方法の一例を示すフロー図で、ボイラの熱負荷レベルを判定する手順を示す。
【図3】本発明の燃焼制御方法の一例を示すフロー図で、図2の各判定における処理を示す。
【図4】熱負荷レベルの復帰条件の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0032】
1 廃棄物溶融炉
1a 上段羽口
1b 下段羽口
1c 出湯口
2 ダクト
3 サイクロン
4 燃焼室
4a バーナー部
5 燃焼用空気ファン
6 ボイラ
7 蒸気利用設備
8 減温塔
8a 噴霧水流量調節弁
9 集塵機
10 誘引通風機
11 煙突
12 第1のガス温度センサ
13 蒸気量センサ
14 第2のガス温度センサ
15 弁開度センサ
16 制御手段
17 送風制御用調節弁
18 タイマー
19a〜19c 切替器
20 演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物溶融炉に廃棄物を投入し、この廃棄物を熱分解、燃焼及び溶融させるために廃棄物溶融炉に空気を送風し、廃棄物の熱分解、燃焼及び溶融によって発生した可燃性ガス及び可燃物を燃焼室で燃焼させ、その燃焼排ガスをボイラに通して熱回収し、熱回収後の燃焼排ガスを減温塔に通して水噴霧によって冷却し、煙突から排出する廃棄物処理設備における廃棄物溶融炉の燃焼制御方法であって、
燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度のそれぞれについて、規定値を設定し、燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つが規定値以上になった場合に、廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更することを特徴とする廃棄物溶融炉の燃焼制御方法。
【請求項2】
燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つについて複数段階の規定値を設定すると共に、それぞれの段階の規定値に対して廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量の変更値を設定し、検出された規定値の段階に応じて、段階的に廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更する請求項1に記載の廃棄物溶融炉の燃焼制御方法。
【請求項3】
廃棄物溶融炉に廃棄物を投入し、この廃棄物を熱分解、燃焼及び溶融させるために廃棄物溶融炉に空気を送風し、廃棄物の熱分解、燃焼及び溶融によって発生した可燃性ガス及び可燃物を燃焼室で燃焼させ、その燃焼排ガスをボイラに通して熱回収し、熱回収後の燃焼排ガスを減温塔に通して水噴霧によって冷却し、煙突から排出する廃棄物処理設備における廃棄物溶融炉の燃焼制御装置であって、
燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度を検出するセンサ手段と、
このセンサ手段によって燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つが予め設定された規定値以上になったと検出された場合に、廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更する制御手段とを備えることを特徴とする廃棄物溶融炉の燃焼制御装置。
【請求項4】
燃焼室のガス温度、ボイラの蒸気量、減温塔の出口温度、減温塔の噴霧水流量調節弁の開度の少なくとも一つについて複数段階の規定値を設定すると共に、それぞれの段階の規定値に対して廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量の変更値を設定しておき、センサ手段が検出した規定値の段階に応じて、制御手段が段階的に廃棄物溶融炉の送風空気量及び/又は送風酸素量を変更する請求項3に記載の廃棄物溶融炉の燃焼制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−133659(P2010−133659A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311152(P2008−311152)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】