説明

廃水の凝集処理方法

【課題】廃水処理において無機凝集剤の使用量を削減し良好な水質を得ることが出来る廃水処理方法を提供する。
【解決手段】廃水に水溶性カチオン系重合体を添加混合した後、無機凝集剤を添加混合し、次いで、アニオン系高分子凝集剤を添加して凝集フロックを生成させ、固液分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水の凝集処理方法に関し、詳しくは、水溶性カチオン重合体、無機凝集剤及び高分子凝集剤を使用して各種廃水を浄化する廃水の凝集処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車製造工場、製鐵所、紙パルプ製造業、クリーニング、砂利産業、その他の化学工場等で発生する廃水の凝集処理としては、一般的に、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等アルミ系ないし鉄系の無機凝集剤を添加した後に更に高分子凝集剤を添加して凝集フロックを生成させ、次いで、凝集沈殿又は凝集浮上法で処理する方法が採用されている。そして、浄化された処理水は、河川や下水に放流されるのが一般的である。
【0003】
ところで、放流水質の規制強化に伴い、処理装置の改良や廃水処理方法の改善により、水質の向上が図られており、無機凝集剤添加量の増加が不可欠となっている。ところが、無機凝集剤の使用量を増加させると、薬品コストの増加、発生汚泥量の増加並びに発生汚泥処理コストが増大することになる。また、無機凝集剤の力だけでは、廃水中の低分子COD成分の充分な除去が難しいため、放流される処理水の水質に不安を残す。そして、この不安を解消すべく後段に高度処理を行う場合では、当該高度処理工程に対する負荷が高くなってしまう。
【0004】
上記のような状況下で処理水の水質を維持・向上しつつ、無機凝集剤使用量の低減を目的にカチオン性凝集剤の一種である有機凝結剤の適用が進められている。有機凝結剤は、分子内に多数のカチオン基を有する高分子電解質であるので、無機凝集剤と同様に被処理水中の懸濁物質の荷電を中和する目的で使用される。しかも、有機凝結剤は、無機凝集剤よりもカチオンの電荷密度が高いために、その凝結作用は無機凝集剤よりはるかに大きいという特徴を持っている。また、有機凝結剤は懸濁物質を中和するだけでなく、負に帯電しているフミン酸等の溶解物質と反応して不溶性塩を形成する作用があり色度及びCODの減少効果も期待される。
【0005】
現在使用されている有機凝結剤の代表的なものとしては、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、アルキレンジクロライドとポリアルキレンポリアミンの縮合物、ジシアンジアミド・ホルマリン縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体等低分子量、強カチオン密度の水溶性ポリマーが挙げられる。更に、新規な有機凝結剤として色々な重合体及び廃水処理方法が提案されている。
【0006】
例えば、固有粘度0.002〜0.5dl/gのアルキルアミン−エピクロロヒドリン縮合物、固有粘度0.01〜0.5dl/gのポリジメチルジアリルアンモニウムハライド及び固有粘度0.05〜1.0dl/gのポリジメチルアミノアルキル(メタ)アクリレートの内、何れかの荷電調整剤を添加した後に高分子凝集剤を使用して凝集処理する脱墨排水の処理方法(特許文献1)、無機凝集剤とポリメタアクリル酸エステル系のカチオン高分子凝集剤及びアニオン系高分子凝集剤を使用する処理方法(特許文献2)が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記の従来技術は、カチオン密度の高い水溶性ポリマーを使用する点で共通しており、効果を発揮することもあるが、種々の廃水に対し、無機凝集剤の使用量を削減し、良好な処理水質を安定的に得るには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−118660号公報
【特許文献2】特開2004−249182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、廃水の凝集処理において使用される有機凝集剤に関しては、(1)良好な凝集フロックを形成し、固液分離性に優れること、(2)良好な処理水質(COD、濁度、SS等)が得られること、(3))処理コストがより低く出来ること等が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、廃水の凝集分離処理において無機凝集剤の使用量を削減し、処理コストを削減すると共に、良好な水質を得ることが出来る廃水処理技術を提供することにある。
【0011】
本発明者らは、無機凝集剤、各種水溶性カチオン重合体性、高分子凝集剤を使用して凝集処理方法の検討を行った結果、上記の各薬剤を特定の添加順序て使用することにより、上記の目的を容易に達成し得るとの知見を得、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、廃水に水溶性カチオン系重合体を添加混合した後、無機凝集剤を添加混合し、次いで、アニオン系高分子凝集剤を添加して凝集フロックを生成させ、固液分離することを特徴とする廃水の凝集処理方法に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の処理方法によれば、無機凝集剤の使用量を削減し、良好な凝集フロックを形成して固液分離性に優れ、良好な水質の処理水を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明で対象となる廃水としては、製紙工業、染色工業、自動車工業、金属加工工業、製鉄工業、食品工業、砂利採取、半導体及びクリーニング業より発生する廃水等が例示される。中でも製紙工業より発生する排水の凝集処理に特に効果的である。
【0016】
本発明で使用する無機凝集剤としては、一般的に市販されてアルミ系ないし鉄系の無機凝集剤が挙げられる。具体的には、アルミ系無機凝集剤としては、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化アルミが例示できる。また、鉄系無機凝集剤としては、塩化第二鉄、ポリ硫酸鉄等が例示できる。
【0017】
本発明で使用する水溶性カチオン重合体としては、従来公知の各種の重合体が挙げられる。比較的低分子量の重合体としては、例えば、アルキルアミン−エピクロロヒドリン縮合物、ポアミドアミン−エピクロロヒドリン縮合物などアミンとエピクロロヒドリンとの縮合物、ジメチルジアリルアンモニウムハライドの重合物又は共重合物が挙げられる。また、比較的高分子量の重合体としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの重合物又はノニオン性モノマーとの共重合物、ポリビニルフォルムアミドのアミジン変性物、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物、ホフマン変性物等が挙げられる。
【0018】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート硫酸塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩化ベンジル4級塩等を例示できるが、これらの中では、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩化メチル4級塩が好ましい。
【0019】
水溶性カチオン重合体としてジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの重合物を使用する場合、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、通常20〜100モル%、好ましくは60〜100モル%で、更に好ましくは80〜100モル%である。水溶性カチオン重合体の重合方法としては、沈殿重合、塊状重合、分散重合、水溶液重合等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0020】
水溶性カチオン重合体の分子量は、特に限定されないが、比較的分子量の低い有機凝結剤の場合、固有粘度として、通常0.1〜1.0dl/gである。また、比較的分子量の高いジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの重合物又はノニオン性モノマーとの共重合物及びポリビニルフォルムアミドのアミジン変性物、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物、ホフマン変性物等の場合、通常1〜15.0dl/gである。なお、上記の固有粘度は、1N硝酸ナトリウム水溶液中、温度30℃で測定した値である。
【0021】
本発明においては、有機凝結剤の粘性の低下や反応性の向上のために固体酸を添加することが出来る。固体酸としては、スルファミン酸、酸性亜硫酸ソーダ等が一般的に使用される。
【0022】
本発明で使用するアニオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミドの部分加水分解物、アクリルアミドとアクリル酸ソーダの共重合物、2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸の重合物またはアクリルアミド等との共重合物等が挙げられる。
【0023】
本発明においては、廃水に水溶性カチオン系重合体を添加混合した後、無機凝集剤を添加混合し、次いで、アニオン系高分子凝集剤を添加する。すなわち、薬物の添加順序が重要であり、廃水に少量の水溶性カチオン重合体を添加混合後して負に帯電しているコロイド粒子を凝結し、次いで、無機凝集剤を添加混合した後にアニオン系高分子凝集剤を使用して凝集することより、無機凝集剤の添加量を大幅に削減し、且つ処理水の濁度を十分に低下させることが出来る。これは負に帯電したコロイド粒子を含む廃水に水溶性カチオン重合体を添加混合することにより、比較的粒子の大きなコロイド粒子と水溶性カチオン重合体が反応して凝集するため、コロイド粒子への無機凝集剤の吸着を抑え、無機凝集剤が効果的に微細なコロイド粒子、溶解性有機物と反応し、処理水質が向上するものと考えられる。特に、製紙廃水の場合、廃水中に無機凝集剤と吸着性の高い繊維質を多く含むので、本発明の処理方法は極めて効果的である。
【0024】
前記した各薬剤の添加は、それぞれ別々の槽を設置して機械攪拌下に行うのが好ましいが、廃水ライン中の廃水に水溶性カチオン重合体を添加し、凝集槽に導いて無機凝集剤とアニオン系高分子凝集剤を順次に添加する方法或いは廃水ライン中の廃水に水溶性カチオン重合体を添加した後、位置をずらして無機凝集剤とアニオン系高分子凝集剤を順次に添加する方法も採用することも出来る。ライン混合の場合は十分な乱流状態であることが必要であり、不十分な場合にはラインミキサー等の設置も有効である。
【0025】
各薬剤の添加量は、廃水の種類、SS、濁度等の水質により変動する。最初に添加する水溶性カチオン系重合体の添加量は、通常0.5〜10mg/l、好ましくは1〜_5mg/lである。添加量が0.5mg/l未満の場合は、無機凝集剤の削減効果、水質の向上効果が十分に発揮されないことがあり、10mg/l超過の場合は、特に凝集性能に悪影響はないが処理コストが高くなり好ましくない。無機凝集剤の添加量は、水溶性カチオン重合体を添加混合した廃水に対して良好な凝集状態、処理水質が得られる量から適宜選択されるが通常50〜600mg/lである。また、アニオン系高分子凝集剤の添加量は、通常0.1〜10mg/lである。なお、上記の各薬物は2種以上を併用することも出来る。凝集生成したフロックの固液分離は、常法に従って行うことが出来る。また、各薬剤の添加後の間隔(攪拌混合時間)は例えば30秒〜3分程度である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例および比較例によって更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の諸例において採用した各測定方法は次の通りである。
【0027】
(1)高分子凝集剤の固有粘度:
固有粘度は、1N硝酸ナトリウム水溶液中、温度30℃の条件で、ウベローデ希釈型毛細管粘度計を使用し、定法に基づき測定した。(高分子学会編,「新版高分子辞典」,朝倉書店,p.107)
【0028】
(2)フロック径:
凝集フロックのフロック径は、目視により全体の平均を測定した。
【0029】
(3)沈降時間:
高分子凝集剤の所定量を添加し、所定時間攪拌混合した後に攪拌を停止する。そして、生成した凝集フロックが500mlのビーカーの底に沈降する迄の時間を測定した。
【0030】
(4)上澄液濁度(SS):
濁度は、JIS K 0101に基づき測定した。濁度は、フロック径、沈降時間を測定した後、2分間静置し、表面から5cmの深さより処理水を採取して測定した。
【0031】
実施例1〜7:
廃水としてA製紙工場の総合廃水を採取して使用した。廃水の性状はpH=7.2、濁度=479NTUであった。
【0032】
先ず、500mlのビーカーに廃水を500ml採取し、表1に示す水溶性カチオン重合体を表2に示す条件で添加し、150rpmの回転数で1分間攪拌、混合した。水溶性カチオン重合体は0.1〜0.3質量%の水溶液として使用した。
次いで、無機凝集剤として硫酸バンドを200mg/l添加し、150rpmの回転数で1分間攪拌した。無機凝集剤は水で10倍に希釈して使用した。
【0033】
次いで、表1に示すA1のアニオン性高分子凝集剤を2mg/l添加し、100rpmの回転数で3分間攪拌し、凝集フロックを形成させた。凝集性能試験の結果を表2に示す。
【0034】
比較例1〜7:
実施例1〜7における添加順序と逆に、先に硫酸バンドを添加し攪拌、混合した後、次いで水溶性カチオン重合体を添加し攪拌、混合した。次いで、アニオン性高分子凝集剤添加して上記と同様の試験条件で凝集性能試験を実施した。結果を表2に示す。
【0035】
比較例8及び9:
水溶性カチオン重合体を使用せず、表2に示す条件で無機凝集剤とアニオン性高分子凝集剤だけを添加し、上記と同様の試験条件で凝集性能試験を実施した。結果を表2に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表2から次のことが分かる。
【0039】
本発明によれば、実施例1〜7に示すように、良好な凝集性能を示し、処理水の濁度が良好である。これに対し、比較例1〜7は、何れも、実施例に比較し、凝集フロックが小さく沈降時間が劣り、また、処理水の濁度も15〜20NTU程劣る。比較例8及び9は、水溶性カチオン重合体を使用していないため、硫酸バンドの添加量を実施例の2倍量を添加しても実施例に比較して凝集フロックが小さく沈降時間が劣る。また、処理水の濁度も劣る。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水に水溶性カチオン系重合体を添加混合した後、無機凝集剤を添加混合し、次いで、アニオン系高分子凝集剤を添加して凝集フロックを生成させ、固液分離することを特徴とする廃水の凝集処理方法。
【請求項2】
廃水が製紙廃水である請求項1記載の廃水の凝集処理方法。

【公開番号】特開2011−131167(P2011−131167A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293189(P2009−293189)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】