説明

廃液の処理方法及び処理装置

【課題】廃液中に含まれるアンモニア態窒素を吸着剤により除去する処理方法において、前記吸着剤を高温かつ大気圧の条件下において加熱処理して再生することにより、経済的かつ高効率で、新たな廃棄物を生じない処理方法及び処理装置の提供を目的とする。
【解決手段】アンモニア態窒素を吸着・除去する吸着剤4と、100℃以上の温度に耐え得ることができ、かつマイクロ波を透過する性質を有する材料から構成される吸着剤充填容器3を有し、吸着剤4により廃液中のアンモニア態窒素を吸着・除去した後に、廃液を排除した条件下において吸着剤4に対してマイクロ波を照射して加熱処理することにより、吸着剤4を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア態窒素を含む廃液の処理方法及び処理装置に関し、特にメタン発酵廃液中に含まれるアンモニア態窒素を分解し、浄化する方法及びこの方法を行うための処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種廃棄物の排出による環境負荷の増大、最終処分場の残余容量の逼迫等の問題が深刻化する中、廃棄物の適正処理及び再資源化への要請が高まっている。
【0003】
そのような中、特に厨芥類、し尿、汚泥、家畜糞尿等の高含水有機廃棄物の処理が大きな問題となっている。これらの有機廃棄物は家庭や中・小規模事業場などを発生源とし、分散した箇所で発生するため、従来のように大規模な集中処理を行おうとすると、その輸送コストが大きな負担となる。また、水分を多く含むため、乾燥減容又は燃焼させるためには、新たにエネルギーを投入する必要があり、環境負荷の増大につながる。
【0004】
したがって、このような有機廃棄物を如何にしてオンサイトで処理し、かつ環境負荷を低減するかということが大きな課題となっている。更に、そのような処理を行う設備又は装置は、既存の施設に負担をかけないよう、できる限り小型であることが好ましい。
【0005】
そのような目的及び用途に適した有機廃棄物の処理方法として嫌気発酵を利用したメタン発酵がある。メタン発酵は、有機物を分解する用途には有効な処理方法である。しかし、有機廃棄物中に含まれるタンパク質等が分解することにより、アンモニア態窒素を高濃度に含有した発酵廃液を残渣として生成する。
【0006】
一方、国内では河川や湖沼における富栄養化が問題となっており、上記アンモニア態窒素は富栄養化の原因物質の一つとして位置づけられている。富栄養化の原因物質は窒素とリンであり、政府は水質汚濁防止法により、閉鎖性が高く富栄養化の恐れのある海域には、そこに流入する排水に対して規制を実施している。また、特に人口、産業が集中することにより水質汚濁が著しい広域的閉鎖性海域については汚濁原因物質を計画的に削減していくための水質総量規制を実施している。
【0007】
このような背景の下、メタン発酵により生じる廃液についても、河川や湖沼等の水系に対してできる限り環境負荷を与えてはならないとの観点から、上記アンモニア態窒素を十分に除去する必要がある。したがって、有機廃棄物をメタン発酵するには、発酵廃液を処理するためのアンモニア態窒素除去装置又は設備を併設する必要があり、イニシャルコスト及びランニングコストの増加につながるため、メタン発酵は小規模オンサイト処理の用途には適さないとされてきた。
【0008】
従来、廃液中のアンモニア態窒素を除去する方法としては、アンモニアストリッピング、生物学的脱窒、ラグーン(藻類増殖)、電気分解、ゼオライト吸着、触媒分解等が知られている。いずれの方法によっても、メタン発酵廃液中に含まれるアンモニア態窒素を分解又は除去することができる。
【0009】
アンモニアストリッピングは、廃液を消石灰や苛性ソーダ等のアルカリ剤によってpH10〜11に調整し、蒸留工程を経て高濃度アンモニア水又は硫安を回収するものである。しかしながら、蒸留工程においては多量の熱エネルギーを必要とする上に、蒸留塔は大型の設備となるため、小規模メタン発酵施設には不適切である。また、特許文献1には回収したアンモニア水から硫安を製造する方法が示されているが、アンモニアストリッピングは、回収したアンモニア水の利用用途又は需要が無い場合には、回収したアンモニア水を廃棄物として別途処理しなければならず、その適用範囲は限られる。
【0010】
生物学的脱窒は、廃液のBOD/T−N比を調整するためにメタノール等の有機炭素を添加して、硝酸菌、亜硝酸菌、脱窒菌等の微生物の代謝により窒素を除去する方法である。この処理方法はメタン発酵廃液の処理方法として広く用いられているが、多量のメタノール等のBOD源を添加する必要があり、ランニングコストがかかるという課題がある。また、微生物による硝化、脱窒反応は比較的緩慢な反応であるために、大きな微生物反応槽を必要とし、小規模メタン発酵施設には不適切である。
【0011】
同様に、微生物の一種である藻類の増殖により窒素を除去するラグーンにおいても、日光を効率良く取り入れるために広い面積の反応槽が必要となるため、小規模施設に適さない。
【0012】
電気分解は、廃液に電流を流すことによりアンモニアを酸化還元し、分解する方法である。しかし、例えば特許文献2に開示されているところによれば7A/l(アンペア/リットル)という大電流が使用されており、連続運転を続けるほど大電力を消費するため、エネルギー回収を目的とするメタン発酵と組み合わせて用いることは合理的であるとはいえない。
【0013】
ゼオライト吸着は、ゼオライトを吸着剤として用いることによりアンモニア態窒素を吸着・除去する方法である。ゼオライトはナトリウム、カルシウム、酸化アルミニウム、ケイ酸からなる含水鉱物である。ゼオライトは、材質、表面性状、細孔径等を選択及び/又は調整することにより、目的とする物質を選択的に吸着することができる。例えば天然ゼオライトであるモルデナイトやクリノブチロライトは特にアンモニアを吸着する性質を有し、ゼオライト1gに対して5〜10mg程度のアンモニア態窒素を吸着することができる。例えば特許文献3にはメタン発酵による発酵廃液中のアンモニア態窒素をゼオライトで捕集し、窒素肥料を製造する方法が開示されている。
【0014】
吸着剤による吸着除去は、吸着剤表面で起こるイオン交換等の物理現象を利用したものであり、エネルギーを投入することなく容易に汚濁物質の濃縮を行うことができる。したがって、濃縮された汚濁物質の加熱分解を効率的に行うことができるため、省エネルギーで処理できるという利点がある。
【0015】
触媒分解は、温度100〜370℃、圧力0.8〜8MPaで、チタン等の金属酸化物をベースとした貴金属触媒に廃液を接触させることにより、アンモニアを窒素ガスにまで分解する方法である。例えば特許文献4には、廃液中のシアン化合物、窒素化合物、有機性物質及び無機物質を触媒湿式酸化処理する方法が開示されている。
【0016】
この方法においては、処理生成物は窒素と水であるため、新たに廃棄物を発生しないという利点がある。また、処理時間が速いために装置の小型化を図ることができる。そのため小規模施設でオンサイト処理したいという用途に適している。
【特許文献1】特開2002−79299号公報
【特許文献2】特開2004−154762号公報
【特許文献3】特開2003−55080号公報
【特許文献4】特開平8−290181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、吸着剤による吸着除去は、吸着能力の飽和した吸着剤を廃棄しなければならない。そこで、特許文献3に開示されているように、アンモニア態窒素を吸着した吸着剤を肥料として利用するなど、資源としてリサイクルすることが考えられているが、資源として利用する需要が無い場合には適用できない。一方、産業廃棄物として処分する場合には処分費が負担となる。また、新たな吸着剤と交換するためにランニングコストが増加するという課題があった。
【0018】
そこで、一旦、汚濁物質を吸着剤に吸着させた後に、該吸着剤に対して水洗処理、薬剤処理、スチーム処理等を施すことにより再生する方法がある。しかし、再生処理により汚濁物質を含有した再生廃液が新たに発生するため、再生廃液の処理費が負担となり、ランニングコストが増加するという課題があった。さらに、食塩水や消石灰溶液等の薬剤を用いて前記再生処理する場合には薬剤コストも負担となる。
【0019】
一方、アンモニア態窒素を触媒湿式酸化する方法は、通常、水の存在下、温度100℃以上かつ大気圧以上の高圧条件で行う反応であるため、特殊な耐圧容器が必要となり、イニシャルコストが増加するという課題があった。また、水熱条件下ではスケール成分やその他無機成分が析出し易くなることが知られており、そのため、析出した無機物による反応器の閉塞や、触媒の被毒による活性の低下といった課題が発生する。さらに、廃液中の汚濁物質は、一般的に低濃度で含有されていることが多く、水の存在下で当該物質の分解を行おうとすると、汚濁物質あたりに投入するエネルギーは低くなり、更に、熱エネルギーを与えると大部分のエネルギーが水に吸収されてしまうため、エネルギー効率が悪いという課題があった。
【0020】
そこで、吸着剤によりアンモニア態窒素を濃縮した後に、高温条件下でアンモニア態窒素を分解する方法が考えられる。しかし、単にこれらの方法を組み合わせるだけでは、装置が高価、無機物の析出、エネルギー効率が悪いという触媒湿式酸化及び水熱反応における課題は解決できず、満足に至るものではない。
【0021】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、高含水有機廃棄物に対してメタン発酵させることにより有機物を分解する処理方法に関し、前記メタン発酵より発生するアンモニア態窒素を含有する廃液を、安価かつ高効率で分解できる処理方法及びその装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
請求項1に記載の本発明は、廃液に含まれるアンモニア態窒素を吸着剤により吸着・除去する吸着工程と、前記吸着剤を加熱処理することにより再生する吸着剤再生工程から構成される廃液処理方法において、吸着剤再生工程の前段に、前記吸着剤の周囲から前記廃液を排除する廃液除去工程を備えてなることを特徴とする。
【0023】
請求項2に記載の本発明は、吸着処理液に含まれるアンモニア態窒素の含有量を検知し、前記アンモニア態窒素の含有量が所定の濃度を超えるとき、吸着工程から廃液除去工程に移行することを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載の本発明は、加熱処理は、温度100℃以上、圧力は大気圧で行うことを特徴とする。
【0025】
請求項4に記載の本発明は、加熱処理における加熱手段はマイクロ波発生装置であり、発生させるマイクロ波は300MHzから300GHzの電磁波であることを特徴とする。
【0026】
請求項5に記載の本発明は、吸着剤の温度を検知し、検知した温度に応じてマイクロ波の照射量を制御することにより、前記吸着剤を所定の温度に保つことを特徴とする。
【0027】
請求項6に記載の本発明は、吸着剤が多孔質の誘電体であることを特徴とする。
【0028】
請求項7に記載の本発明は、アンモニア態窒素を吸着・除去する吸着剤と、マイクロ波を透過する性質を有する材料から構成される吸着剤充填容器と、マイクロ波を発生させ前記吸着剤にマイクロ波を照射するマイクロ波発生装置と、前記吸着剤充填容器と前記マイクロ波発生装置とを接続する金属製外鞘と、前記吸着剤充填容器に充填された前記吸着剤の温度を検知する温度検知器と、廃液の導入量を調整する開閉器と、制御装置を設け、前記制御装置は、アンモニア態窒素を前記吸着剤に吸着後、前記開閉器を閉じ、前記吸着剤充填容器から廃液を排除し、さらに前記温度検知器により得られた温度に応じて前記マイクロ波発生装置の出力を変化させることにより、前記吸着剤を加熱処理し再生することを特徴とする。
【0029】
請求項8に記載の本発明は、吸着処理液に含まれるアンモニア態窒素の含有量を検知するアンモニア態窒素検知器を設け、制御装置は、前記アンモニア態窒素検知器により検知したアンモニア態窒素含有量が所定の濃度を超えるとき、開閉器を閉じ、吸着剤充填容器から廃液を排除することを特徴とする。
【0030】
請求項9に記載の本発明は、加熱処理は、温度100℃以上、圧力は大気圧で行うことを特徴とする。
【0031】
請求項10に記載の本発明は、吸着剤に照射するマイクロ波は300MHzから300GHzの電磁波であることを特徴とする。
【0032】
請求項11に記載の本発明は、吸着剤充填容器の、マイクロ波を透過する性質を有する材料が石英、サファイア、セラミック、フッ素樹脂又は高分子のいずれかであることを特徴とする。
【0033】
請求項12に記載の本発明は、吸着剤が多孔質の誘電体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、吸着剤によりアンモニア態窒素を濃縮した後に、アンモニア態窒素の分解を行うため、従来の触媒湿式酸化よりも少ない熱エネルギーで廃液中のアンモニア態窒素を分解することができ、高効率かつランニングコストの低い廃液処理を実現することができる。
【0035】
また、吸着剤の周囲から廃液を排除した条件で加熱処理によるアンモニア態窒素の分解を行うため、高価な耐圧容器を必要とせず、水の加熱に使用されていたエネルギーも節約でき、イニシャルコスト及びランニングコストを低減することができる。
【0036】
さらに、本発明における廃液中のアンモニア態窒素の除去は100℃以下の水中での吸着・除去によるものであるため、前記触媒湿式酸化において発生するようなスケール成分や無機成分の析出の問題を軽減できる。
【0037】
また、本発明における吸着剤は、吸着したアンモニア態窒素を加熱処理により分解するため、吸着と再生を繰り返して行うことができ、ランニングコストを低減した経済的な廃液処理が可能となる。
【0038】
さらにまた、本発明による処理装置からは新たな廃棄物が排出されないので、オンサイトで有機廃棄物を処理したいという用途に対し、容易に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明は、アンモニア態窒素を含有する廃液に対して、100℃以下の温度で吸着剤によりアンモニア態窒素を吸着・除去し、吸着剤の周囲の廃液を排除した後に、100〜800℃かつ大気圧の条件下で吸着剤に吸着されたアンモニア態窒素を分解除去するものである。
【0040】
処理対象の例としては、特にメタン発酵による発酵廃液を挙げているが、アンモニア態窒素を含有する廃液であれば、その種類及び/又は用途については、これを限定しない。また、メタン発酵させる対象物としては厨芥類、し尿、汚泥、家畜糞尿等の高含水有機物が代表例として挙げられる。表1は代表的なメタン発酵廃液の組成である。厨芥類によるメタン発酵廃液を幾つか採取し、静置分離の後、上澄み部分について測定し、平均値を求めた。発酵廃液中に含まれるアンモニア態窒素は、概ね2000〜3000mg/l程度であると推定される。
【0041】
【表1】

【0042】
まず、メタン発酵廃液は凝集剤の添加と脱水機により固液分離される。次いで、吸着工程では液分として分離された廃液中に含まれているアンモニア態窒素を吸着・除去する。吸着剤によるアンモニア態窒素の吸着・除去は常温で行う。前記に述べた水熱反応では、スケール成分やその他無機成分の析出が大きな問題となるが、本発明者らが数々の検討を行った結果、100℃以下の温度の水においては、長期的には前記スケール成分やその他無機成分が吸着及び/又は析出し、徐々に堆積していくものの、それほど大きな問題とはならないことが判明した。
【0043】
吸着剤としてはゼオライトや活性炭等を用いることができ、ゼオライトの種類としては合成ゼオライト、天然ゼオライト、人工ゼオライト等のうちからいずれかを選ぶことができる。特に、天然ゼオライトのうち、モルデナイトとクリノブチロライトはアンモニアに対して選択的に吸着能を示すことが知られており、これらを使用することが好ましい。
【0044】
また、活性炭の種類としては、木炭、ヤシガラ炭、石炭、コークス、ピート、ピッチなどを原料とするものが挙げられるが、他の人工合成材料を使用してもよい。
【0045】
また、上記に挙げたいずれかの材料をベースとした合成材料により多孔質を形成し、吸着剤として用いてもよい。
【0046】
さらに、本発明で用いる吸着剤の表面には、白金、パラジウム、ロジウム、から選択される貴金属もしくは、銅、ニッケル、コバルト、鉄等から選択される遷移金属のいずれかを触媒として担持してあってもよい。その場合には吸着剤の加熱処理の際に、より低い温度でアンモニア態窒素を酸化分解することができるため、廃液処理の省エネルギー化を図ることができる。
【0047】
次いで、廃液除去工程では、吸着剤の吸着能力が低下してきた時点で、一旦、廃液の導入を停止し、吸着剤の周囲から廃液を排除する。排除の方法はできるだけ簡単であることが望ましく、自然落下による単なる廃液の排除でもよいが、吸引ポンプ等を使用することにより排除速度を速めてもよい。
【0048】
更に、吸着剤再生工程では、廃液を排除した吸着剤に対し、マイクロ波を照射することにより吸着剤を加熱処理する。本発明における加熱処理とは、吸着剤の周囲から廃液を排除した後に、100〜800℃の高温常圧の条件下で吸着剤に吸着されたアンモニア態窒素を分解除去して吸着剤を再生するものである。
【0049】
通常、100℃以上の水の存在下における高温状態では、高圧状態も付随するために、100℃以上の水熱反応には特殊な耐圧容器が必要となる。しかし、本発明における吸着剤の加熱処理は、水を排除した条件下で行うため、高温状態ではあるものの、高圧状態にはならず、大気圧で行うことができる。したがって、高温に耐え、かつマイクロ波を透過する性質を持った材料を使用すればよく、特殊な耐圧容器と比較してイニシャルコストの低減を図ることができる。
【0050】
マイクロ波の周波数は300MHz〜300GHzであり、出力は0.1〜10kWであることが好ましい。更に、電子レンジの部品として市場に提供されている安価なマグネトロンの周波数2.45GHzを用いることが更に好ましい。このように安価なマイクロ波発生装置を用いれば、装置のイニシャルコストを低減することができる。
【0051】
マイクロ波の出力方法は、パルス照射であることが好ましく、吸着剤の温度を測定する温度検知器と制御装置を設けることにより、温度に応じたパルス幅のマイクロ波を照射し、吸着剤の加熱処理温度を所定の温度に保つことができる。
【0052】
吸着剤は多孔質の誘電体であることが好ましい。多孔質は活性炭等の吸着剤に必須の特性で説明するまでもなく、誘電体についてのみ説明する。マイクロ波を双極子分子である誘電体に対して照射すると、電気双極子が回転し、分子摩擦による熱エネルギーが放出される。したがって、マイクロ波を照射することにより誘電体を加熱することができる。マイクロ波照射による加熱は、物質を分子レベルで直接加熱することができるため、電熱ヒータ等による加熱方法と異なり、高効率かつ短時間で物質を加熱することができる。例えば、25gの炭素粉末を水100ml存在下で2.45GHz、1kWのマイクロ波を1分間照射したところ、炭素粉末の温度が1,283℃にまで上昇したことが実験的に確かめられている(柳田祥三、松村竹子著、「化学を変えるマイクロ波熱触媒」、(有)ケイ・ディー・ネオブック、2004年1月5日、19項)。したがって、吸着剤が炭素、アルミニウム、ニッケル、酸化銅又は酸化鉄のいずれかを含む誘電体から構成されていれば、通常のヒータ加熱よりもはるかに速い速度で吸着剤を高温状態にすることができるため、エネルギー効率を高めることができる。
【0053】
特に、本発明における吸着剤は、吸着能力が飽和する度に加熱処理する必要があり、ヒータ加熱のような間接加熱方法の場合、すべての吸着剤の温度が定常状態となるまでに時間を要する。しかし、直接加熱方法であるマイクロ波加熱を用いると、上記に述べたとおり短時間で吸着剤を加熱することができるため、エネルギー効率を高めることができる。
【0054】
また、通常、吸着剤の加熱初期の比較的低温時には吸着剤からの脱離が生じるため、未分解のアンモニア態窒素が大気中に放出されてしまうが、マイクロ波による加熱を用いることで吸着剤をごく短時間のうちに高温状態にまですることができるため、ヒータ加熱等による遅い加熱手段と比較して、アンモニア態窒素の放出を最小限に抑えることができる。
【0055】
本発明における吸着剤再生は、吸着剤に吸着されたアンモニア態窒素の分解除去により行う。アンモニア態窒素の熱分解を行う場合には、アンモニア態窒素は600℃以上の高温で分解されることが知られているため、600〜800℃の温度で10分〜6時間、加熱処理する。また、吸着剤表面に触媒を担持させた場合には、酸素、過酸化水素、オゾン等の酸化剤と共に100〜300℃の温度で10分〜6時間、加熱処理を行うことによりアンモニア態窒素を酸化分解する。
【0056】
いずれの方法においても、本発明においては、廃液中のアンモニア態窒素を、一旦、吸着剤中に濃縮させた後に、加熱処理をして分解除去するものであって、加熱装置としてのマイクロ波発生装置は断続的に使用する。更に、加熱処理中の吸着剤の温度を一定に保つために、マイクロ波はパルス照射されるため、省エネルギーな加熱処理方法である。
【0057】
次いで、吸着剤の再生を終えた後に、吸着剤を冷却し、100℃以下まで下げ、吸着工程以降の操作を繰り返す。吸着剤の冷却手段としては、空冷、水冷、その他媒質による冷却や、熱交換器の使用等が考えられるが、その手段は特に限定しない。
【0058】
以上の操作を繰り返し行うことにより、廃液中に含まれるアンモニア態窒素の分解除去を行うことができる。
【0059】
以下本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。
【0060】
図1は、本発明の実施の形態における処理装置の概略構成図である。この処理装置はメタン発酵廃液中のアンモニア態窒素を吸着・除去する装置であり、この処理装置に導入する廃液は、あらかじめ凝集沈殿及び脱水して得られた液分である。
【0061】
図1において、開閉器2は前記廃液を吸着剤充填容器3に導入する輸送管1の途中に設けられ、ハッチングで示した吸着剤4は吸着剤充填容器3内に充填されている。温度検知器5は吸着剤4の温度を検知するため吸着剤充填容器3の側面に設けられている。マイクロ波発生装置7は吸着剤充填容器3と接続された金属製外鞘8の中で、吸着剤充填容器3内に充填された吸着剤4にマイクロ波を照射できるように設けられている。アンモニア態窒素検知器9は吸着剤充填容器3から処理液を排出する輸送管10の途中に設けられ、処理液中のアンモニア態窒素含有量を検知する。制御装置6は温度検知器5が検知した吸着剤4の温度に応じてマイクロ波発生装置7の出力を変化させると共に、アンモニア態窒素検知器9が検知したアンモニア態窒素含有量に応じて開閉器2を開閉するというソフト(プログラム、図示せず)を内蔵している。
【0062】
次に、個々の構成を説明する。
【0063】
吸着剤充填容器3は石英により構成されている。石英は1200℃付近の高温まで耐えることができ、かつマイクロ波を透過する性質を有している。吸着剤充填容器3はマイクロ波を透過する性質を有する材料であればよく、セラミック、サファイア、フッ素樹脂又は高分子でもよい。
【0064】
さらに、吸着剤充填容器3はマイクロ波を反射する金属製材料により構成される金属製外鞘8により電磁気的に遮蔽されている。特に金属製外鞘8と吸着剤充填容器3との接合部はマイクロ波の漏洩しない構造であることが好ましい。マイクロ波の漏洩が起きると、マイクロ波のロスが生じる他、人体に影響を及ぼす可能性があるため、安全上好ましくない。
【0065】
吸着剤4は、吸着剤充填容器3内で廃液の流通を妨げない程度の隙間を有するように配してあればよく、その形状は問わない。球状粉末の吸着剤を充填してもよいし、吸着剤をハニカム形状に成形して用いてもよい。
【0066】
温度検知器5には熱電対等の直接接触型温度センサーや赤外線温度計等の非接触型センサーを用いてもよく、その種類を限定しない。
【0067】
アンモニア態窒素検知器9の種類は、アンモニア態窒素の含有量を検知できるものであればよく、その種類を限定しない。
【0068】
次に、本発明における処理工程を図1を用いて説明する。まず、廃液は輸送管1を経由して吸着剤充填容器3に導入する。
【0069】
吸着工程では、廃液を吸着剤4に接触させてアンモニア態窒素を廃液から除去し、アンモニア態窒素濃度を10mg/l以下にして、輸送管10を経由して処理水として排除する。10mg/lという値は「人の健康の保護に関する環境基準」における硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の値である(アンモニア態窒素の項目はない)。
【0070】
次いで、廃液除去工程を行う。制御装置6はアンモニア態窒素検知器9から送られるアンモニア態窒素の含有量を監視しており、吸着剤4の吸着能力が低下し始め、処理液中のアンモニア態窒素濃度が10mg/lを超えるとき、開閉器2に閉信号を送り、開閉器2は閉められる。次いで、空気抜き弁を開き(図示せず)、吸着剤充填容器3内部の廃液を自然落下により輸送管10を経由して容器外に排除する。
【0071】
次いで、吸着剤再生工程を行う。前記廃液除去工程から一定時間をおいて、廃液の排除が完了した時点でマイクロ波発生装置7によるマイクロ波照射を開始する。制御装置6は温度検知器5から送られる温度によりマイクロ波発生装置7を制御しており、吸着剤4の温度に応じてマイクロ波のパルス幅を変化させ、加熱処理における吸着剤4の温度を600℃に保つ。30分間の加熱処理の後、吸着剤充填容器3は自然放冷により温度100℃以下にまで冷却される。600℃の温度は前記のように、吸着剤表面に触媒を担持させ、酸化剤を使用した場合には100〜300℃の温度でもよい。
【0072】
所定の時間を経過し、冷却を終えると、制御装置6は開閉器2に開信号を送り、開閉器2は開けられ、廃液を再度吸着剤充填容器3に導入する。
【0073】
なお、処理液中に含まれるアンモニア態窒素は低濃度であるほど好ましく、処理液を前記吸着剤充填容器3に戻し、吸着工程を繰り返し行い、廃液からのアンモニア態窒素の除去率を高めてもよい。
【0074】
また、冷却の終了については、時間ではなく、温度検知器5から送られる、吸着剤4の温度を監視し、吸着剤4の温度が100℃以下に下がった時で判断しても良い。
【0075】
かかる構成・工程によれば、吸着剤によりアンモニア態窒素を濃縮した後に、アンモニア態窒素の分解を行うため、従来の触媒湿式酸化よりも少ない熱エネルギーで廃液中のアンモニア態窒素を分解することができ、高効率かつ低ランニングコストの廃液処理を実現することができる。
【0076】
また、吸着剤の周囲から廃液を排除した条件で加熱処理によるアンモニア態窒素の分解を行うため、高価な耐圧容器を必要とせず、水の加熱に使用されていたエネルギーも節約でき、イニシャルコスト及びランニングコストを低減することができる。
【0077】
さらに、本発明における廃液中のアンモニア態窒素の除去は100℃以下の水中での吸着・除去によるものであるため、前記触媒湿式酸化において発生するようなスケール成分や無機成分の析出の問題を軽減できる。
【0078】
また、本発明における吸着剤は、吸着したアンモニア態窒素を加熱処理により分解するため、吸着と再生を繰り返して行うことができ、ランニングコストを低減できる経済的な廃液処理が可能となる。
【0079】
さらにまた、本発明による処理装置からは新たな廃棄物が排出されないので、オンサイトで有機廃棄物を処理したいという用途に対し、容易に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によるアンモニア態窒素除去装置は、安価かつ高効率でアンモニア態窒素を吸着・除去することができ、分解した後に新たな廃棄物を生じない。したがって、小規模オンサイト処理可能なメタン発酵施設を実現することができる。その設置場所としては、例えば食品工場の屋内や、複合ビルの屋内もしくは住宅地の一角等に置くことができる。
【0081】
また、本発明による用途としては、アンモニア態窒素に限らず、多種多様な汚濁物質の処理に適用することが可能であり、吸着剤の種類や性状を替えることにより、半導体工場廃液や写真現像廃液等の各種産業廃水の処理にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態における処理装置の概略構成図
【符号の説明】
【0083】
1、10 輸送管
2 開閉器
3 吸着剤充填容器
4 吸着剤
5 温度検知器
6 制御装置
7 マイクロ波発生装置
8 金属製外鞘
9 アンモニア態窒素検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃液に含まれるアンモニア態窒素を吸着剤により吸着・除去する吸着工程と、前記吸着剤を加熱処理することにより再生する吸着剤再生工程から構成される廃液処理方法において、吸着剤再生工程の前段に、前記吸着剤の周囲から前記廃液を排除する廃液除去工程を備えてなることを特徴とする廃液の処理方法。
【請求項2】
吸着処理液に含まれるアンモニア態窒素の含有量を検知し、前記アンモニア態窒素の含有量が所定の濃度を超えるとき、吸着工程から廃液除去工程に移行することを特徴とする請求項1に記載の廃液の処理方法。
【請求項3】
加熱処理は、温度100℃以上、圧力は大気圧で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の廃液の処理方法。
【請求項4】
加熱処理における加熱手段はマイクロ波発生装置であり、発生させるマイクロ波は300MHzから300GHzの電磁波であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の廃液の処理方法。
【請求項5】
吸着剤の温度を検知し、検知した温度に応じてマイクロ波の照射量を制御することにより、前記吸着剤を所定の温度に保つことを特徴とする請求項4に記載の廃液の処理方法。
【請求項6】
吸着剤が多孔質の誘電体であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の廃液の処理方法。
【請求項7】
アンモニア態窒素を吸着・除去する吸着剤と、マイクロ波を透過する性質を有する材料から構成される吸着剤充填容器と、マイクロ波を発生させ前記吸着剤にマイクロ波を照射するマイクロ波発生装置と、前記吸着剤充填容器と前記マイクロ波発生装置とを接続する金属製外鞘と、前記吸着剤充填容器に充填された前記吸着剤の温度を検知する温度検知器と、廃液の導入量を調整する開閉器と、制御装置を設け、前記制御装置は、アンモニア態窒素を前記吸着剤に吸着後、前記開閉器を閉じ、前記吸着剤充填容器から廃液を排除し、さらに前記温度検知器により得られた温度に応じて前記マイクロ波発生装置の出力を変化させることにより、前記吸着剤を加熱処理し再生することを特徴とする廃液の処理装置。
【請求項8】
吸着処理液に含まれるアンモニア態窒素の含有量を検知するアンモニア態窒素検知器を設け、制御装置は、前記アンモニア態窒素検知器により検知したアンモニア態窒素含有量が所定の濃度を超えるとき、開閉器を閉じ、吸着剤充填容器から廃液を排除することを特徴とする請求項7に記載の廃液の処理装置。
【請求項9】
加熱処理は、温度100℃以上、圧力は大気圧で行うことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の廃液の処理装置。
【請求項10】
吸着剤に照射するマイクロ波は300MHzから300GHzの電磁波であることを特徴とする請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載の廃液の処理装置。
【請求項11】
吸着剤充填容器の、マイクロ波を透過する性質を有する材料が石英、サファイア、セラミック、フッ素樹脂又は高分子のいずれかであることを特徴とする請求項7〜請求項10のいずれか1項に記載の廃液の処理装置。
【請求項12】
吸着剤が多孔質の誘電体であることを特徴とする請求項7〜請求項11のいずれか1項に記載の廃液の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−159102(P2006−159102A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355145(P2004−355145)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】