説明

延伸フィルムの製造方法、延伸フィルム、偏光板及び液晶表示装置

【課題】タルミ、皺の発生や、幅方向の配向方向のバラつきが無く、光学特性の精度に優れ、巻取り方向に対し40〜50°の範囲で配向軸が傾いた、広幅で長尺の延伸フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の両端部を把持具によって把持してテンター2内を搬送し、フィルム巻取り方向に対し配向角θが45±5°の範囲となる延伸を行う延伸フィルムの製造方法であって、左右の前記把持具の開放位置を結んだ直線がフィルムの巻取り方向に垂直な方向に対してなす角度θo(°)、フィルムの巻取り方向に対する延伸後のフィルム13の配向角θ(°)、フィルム13の引取り張力T(N/m)、及びフィルムの巻取り方向に対するフィルムの繰出し角度θs(°)が、
θ−30<θo<θ+5
100<T<250
θ−5<θs<θ+5
の条件を満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムを巻き取り方向に対して斜め方向に延伸する延伸フィルムの製造方法、該方法により製造された延伸フィルム、該延伸フィルムを用いた偏光板及び該偏光板を用いた液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、性能向上のために様々な位相差フィルムが使用されている。この位相差フィルムは、その機能を十分に発揮するように、偏光子の偏光透過軸や、液晶セルの偏光透過軸などと、特定の種々の角度に遅相軸が傾くように、液晶表示装置に据え付けられる。その遅相軸の傾き角度は、表示装置の側辺に平行でも、垂直でもない角度となることがある。
【0003】
この側辺に平行でも、垂直でもない角度に配向した位相差フィルムを得る方法として斜め延伸方法が種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、連続的に供給されるポリマーフィルムの両端を保持手段により保持し、該保持手段をフィルムの長手方向に進行させつつ張力を付与して延伸する光学用ポリマーフィルムの延伸方法において、ポリマーフィルムの一方端の実質的な保持開始点から実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L1およびポリマーフィルムのもう一方端の実質的な保持開始点から実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L2と、二つの実質的な保持解除点の距離Wが、
|L2−L1|>0.4Wの関係を満たし、かつポリマーフィルムの支持性を保ち、揮発分率が5%以上の状態を存在させて延伸したのち、収縮させながら揮発分率を低下させる光学用ポリマーフィルムの延伸方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂からなる長尺状フィルムを延伸することにより得られ、光軸(配向軸)が長尺状フィルムの巻取り方向に平行でも垂直でもない方向とされている長尺状光学フィルムの製造方法であって、前記フィルムが実質的に延伸される領域内において、対向しているフィルムの幅方向両端の移動速度の大きさが等しくかつ移動距離が異なり、フィルムの幅方向両端を保持する一対の治具の内、少なくとも一方がフィルム面に対して波打った形状のレール上を移動するように延伸を行う長尺状光学フィルムの製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらのような左右非対称な延伸方法は、フィルムのタルミや皺が発生して製品ロールの外観に著しい不良を生じたり、リタデーションや配向軸の幅方向プロファイルの悪化といった現象が発生しやすい。これに対し特許文献3ではテンターを用いた斜め延伸工程において左右把持具のフィルム開放位置を、フィルム搬送方向に対し垂直な関係とすることで解決を試みているが、薄膜化によって配向の大きな延伸フィルムを得る場合などには効果は不十分である。そのために巻取り方向に特に40°以上傾いた配向角でばらつき無く均一に配向した、1300mm以上の広幅なフィルムを得ることは実質的に不可能であった。
【特許文献1】特開2002−86554号公報
【特許文献2】特開2003−232928号公報
【特許文献3】特開2004−106423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、タルミ、皺の発生や、幅方向の配向方向のバラつきが無く、光学特性の精度に優れ、巻取り方向に対し40〜50°の範囲で配向軸が傾いた、広幅で長尺の延伸フィルムの製造方法、該方法により製造された延伸フィルム、該延伸フィルムを用いた偏光板及び該偏光板を用いた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために検討した結果、テンターを用いた斜め延伸フィルムの製造方法において特定のフィルムの繰出し角度、フィルムの引取り張力、左右把持具のフィルムの開放位置を適切な値とすることによって上記の問題を解決し、広幅で均一な斜め延伸フィルムを得られることを見出した。これにより、偏光板や液晶表示装置の生産性を向上させることが可能になった。
【0009】
即ち、本発明の延伸フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の両端部を把持具によって把持してテンター内を搬送し、フィルム巻取り方向に対し配向角θが45±5°の範囲となる延伸を行う延伸フィルムの製造方法であって、左右の前記把持具の開放位置を結んだ直線がフィルムの巻取り方向に垂直な方向に対してなす角度θo(°)、フィルムの巻取り方向に対する延伸後のフィルムの配向角θ(°)、延伸後のフィルムの引取り張力T(N/m)及びフィルムの巻取り方向に対するフィルムの繰出し角度θs(°)が、
θ−30<θo<θ+5
100<T<250
θ−5<θs<θ+5
の条件を満たすことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の延伸フィルムは、本発明の製造方法により製造されたものである。また、本発明の偏光板は、偏光子の少なくとも片面に、本発明の延伸フィルムを積層してなるものである。また、本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、タルミや皺の発生がなく、幅方向の配向角が均一で、フィルムの巻取り方向に対して40〜50°の方向に配向軸が均一に配向した、広幅な長尺の斜め延伸フィルムを容易に得ることができる。斜めに配向軸が配向した長尺の延伸フィルムは、液晶表示装置などの位相差板として、好適である。具体的には、偏光板などの液晶表示装置に用いられる他の長尺の光学素子と、ある特定の角度で配向軸を傾けて重ねる際に、長手方向に対して斜めに配向軸を有する延伸フィルムを用いれば、他の長尺の光学素子と、ロール・トウ・ロールによる重ね合わせができる。
【0012】
本発明の延伸フィルムは、長手方向または幅方向に平行にトリミングできるので、フィルムの廃棄部分が少なく、生産性に優れている。また、本発明の製造方法で得られる偏光板は、液晶表示装置、特に反射型の液晶表示装置に用いた場合に、その表示画面の視野角が広くなり、表示画面のコントラストの低下や着色を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る延伸フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂からなる長尺のフィルム(以下、「原反」ということがある)を、延伸後のフィルムの巻取り方向とフィルムの繰出し方向とがなす角度θsがθ−5<θs<θ+5、好ましくはθ−4<θs<θ+4となるように原反を繰出す。ここでθは、延伸後のフィルムの配向角を示す。そして、テンター内で斜め延伸することにより配向角θが巻取り方向に対して40〜50°の範囲になるように延伸するものである。繰出し角度θsが前記範囲をはずれるとフィルム幅方向の配向角プロファイルが均一でなくなり広幅で均一な光学特性が得られなくなる。
【0014】
熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、脂環式ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらのうち脂環式ポリオレフィン樹脂が好ましく、特に機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環構造を有する脂環式ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0015】
脂環式ポリオレフィン樹脂は、主鎖及び/又は側鎖に脂環構造を有する非晶性の樹脂である。
【0016】
脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環構造としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。脂環構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
【0017】
脂環式ポリオレフィン樹脂を構成する脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0018】
脂環式ポリオレフィン樹脂としては、ノルボルネン樹脂、単環の環状オレフィン樹脂、環状共役ジエン樹脂、ビニル脂環式炭化水素樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0019】
ノルボルネン樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0020】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。飽和吸水率の小さいフィルムを得るためには。極性基の量が少ない方が好ましく、極性基を持たない方がより好ましい。
【0022】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
【0023】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0024】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0025】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0026】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素化物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素化物は、これら開環(共)重合体又は付加(共)重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、水素を接触させて、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素化することによって得ることができる。
【0027】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光学フィルムを得ることができる。
【0028】
本実施形態に好適に用いられる脂環式ポリオレフィン樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度および成形性とが高度にバランスされ好適である。
【0029】
本実施形態に用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にある脂環式ポリオレフィン樹脂からなるフィルムは、高温下で変形や応力が生じることがなく耐久性に優れる。
【0030】
本実施形態に用いられる熱可塑性樹脂は、光弾性係数の絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折Δnを応力σで除算したものである。すなわち、C=Δn/σで表される値である。脂環式ポリオレフィン樹脂の光弾性係数が10×10−12Pa−1を超えると、延伸フィルムの面内方向リタデーションのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0031】
熱可塑性樹脂により構成される長尺の原反は、公知の方法、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などによって得ることができる。これらのうち押出成形法が残留揮発性成分量が少なく、寸法安定性にも優れるので好ましい。この原反は、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、フィルムラミネーション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法が好ましい。延伸後の光学特性を均一にするため原反の厚みムラは極力小さくする必要があり、最大値-最小値の値で3μm以下、好ましくは2μm以下が好ましい。原反の厚みは、通常40〜500μm、好ましくは50〜300μm、より好ましくは50〜200μmである。
【0032】
本実施形態に用いられる長尺の原反の巾は、得られる延伸フィルムの巾や延伸倍率により適宜決めればよいが、少なくとも1000mmあることが好ましい。
【0033】
長尺の原反の延伸は、図1に示す斜め延伸用テンター延伸機2を用いて行なわれる。図1に示す斜め延伸用テンター延伸機2は、引き出しロール(原反の巻回体)10と、巻取りロール12と、フィルムを搬送するための図示しない把持クリップ(把持具)が走行するフィルムの左右に配置されたレール14R,14Lと、内部にレール14R,14Lを配設する図示しない恒温室を備えている。
【0034】
レール14R,14L上を走行する左右の把持クリップは、引き出しロール10から繰り出された原反11の両端を把持し、恒温室内に原反11を導き斜め延伸する。そして、延伸用テンター延伸機2の恒温室の出口、即ち、巻取りロール12の手前で斜め延伸フィルム13を開放する。
【0035】
ここで左右の把持クリップが斜め延伸フィルム13を開放する位置は、図1において、×で示す位置であり、左右のレール14R,14L上に示す×の位置を結んだ直線がフィルムの巻取り方向に垂直な方向に対してなす角度θoは、θ−30<θo<θ+5、好ましくはθ−25<θo<θ+5の条件を満たしている。これにより斜め延伸用テンター延伸機2の恒温室の出口付近におけるフィルムのタルミや皺の発生を抑え、リタデーション、配向角のフィルムの幅方向のプロファイル悪化を抑制することが可能となる。
【0036】
把持クリップから開放された斜め延伸フィルム13は巻き取りロール12によって巻き取られる。斜め延伸後のフィルムの引取り張力T(N/m)は100<T<250、好ましくは100<T<220の間で選択することが出来る。上記範囲外の引取り張力ではフィルムのタルミや皺が発生しやすく、リタデーション、配向角のフィルム幅方向のプロファイルが悪化する。なお、左右一対のレール14R,14Lは、末端のない連続した無限軌道を有し、斜め延伸フィルム13を開放した把持クリップを、順次、恒温室の出口側から入口側に戻すように構成されている。
【0037】
本実施の形態に係る斜め延伸用テンター延伸機2においては、フィルムの走行方向に対して右側にレール14R,14Lが屈曲しているが、図1のフィルムの繰出し方向に線対称にした、左側にレールが屈曲するようにしてもよい。
【0038】
なお、レール14R,14Lの開き角度は延伸倍率に応じて適宜選択できるが、延伸倍率は、通常1.3〜2.0倍、好ましくは1.5〜1.8倍である。延伸倍率Rがこの範囲にあると幅方向の厚みムラが小さくなるので好ましい。斜め延伸用テンター延伸機2における延伸において、幅方向で延伸温度に差を付けると幅方向厚みムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。当該延伸倍率は、延伸フィルムの幅方向の長さ変化量から求めることができる。具体的には、未延伸の原反の幅をW、延伸後のフィルムの幅をW1とすると、延伸倍率RはW/Wにより求めることができる。
【0039】
本実施の形態に係る斜め延伸用テンター延伸機2における延伸温度は、原反11を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)に対して、Tg〜Tg+30(℃)の範囲から適宜選択される。延伸温度がTg未満では成形性が不足しクレーズ等の欠陥を生じることがあり、延伸温度がTg+30℃を超える温度ではフロー延伸となりリタデーションを発現させるのに十分な分子配向を得ることが出来ない。
【0040】
本実施の形態に係る製造方法では、把持クリップの走行速度がフィルム両端で略等しい。把持クリップの走行速度は適宜選択できるが、通常、10〜100m/分である。把持クリップの走行速度は、把持クリップによりフィルムを把持してからフィルムを開放するまで、一定に保たれる。左右一対の把持クリップの走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。把持クリップがこのような走行速度でレール14R,14L上を走行することにより、延伸フィルムの光学特性のバラツキの発生を防止することができる。
【0041】
以上のようにして平均配向角θが、延伸終了位置における幅方向に垂直な方向に対して40〜50°の範囲にある斜め延伸フィルムが製造される。
【0042】
次に、本実施形態に係る延伸フィルムについて説明する。本発明の実施形態に係る延伸フィルムは、本発明の延伸フィルムの製造方法により得られるものである。
【0043】
本実施形態に係る延伸フィルムの面内方向リタデーションReは、100〜300nm程度であるが、用いられる表示装置の設計によってこの範囲内で最適値が選択される。なお、前記面内方向リタデーションReは、面内遅相軸方向の屈折率nと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nとの差にフィルムの平均厚さdを乗算した値(Re=(n−n)×d)である。
【0044】
本実施形態に係る延伸フィルムは、その配向角θがフィルムの巻取り方向に対して垂直な方向を0°としたとき40〜50°の範囲内にあり、上記面内方向リタデーションReと同様、用いられる表示装置の設計によってこの範囲内での最適値が選択される。
【0045】
本実施形態に係る延伸フィルムは、配向角のバラツキが、幅方向の少なくとも1300mmにおいて50mm間隔で測定したときに、1.0°以下である。配向角のバラつきが1.0°を超えるものを偏光子と貼り合せて円偏光板を得、これを液晶表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、コントラストを低下させることがある。
【0046】
本実施形態に係る延伸フィルムは、面内方向リタデーションReのバラツキが、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、好ましくは5nm以内、より好ましくは4nm以内、特に好ましくは3nm以内である。面内方向リタデーションReのバラツキを、上記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、面内方向リタデーションReのバラツキは、光入射角0°(入射光線と積層体表面が直交する状態)の時の面内方向リタデーションReを幅方向に50mm間隔で測定したときの、その面内方向リタデーションReの最大値と最小値との差である。
【0047】
本実施形態に係る延伸フィルムは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をn、フィルム面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率をn、フィルムの厚み方向の屈折率をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表されるNz係数が1.3〜2.0の範囲にある。用いられる液晶表示装置の設計によってこの範囲内での最適値が選択される。
【0048】
本実施形態に係る延伸フィルムは、Nz係数のばらつきが、幅方向の少なくとも1300mmにおいて50mm間隔で測定したときに、0.1以下である。Nz係数のバラツキが0.1を超えると表示装置に組み込まれた際、色ムラなどの表示品位低下の原因となる。
【0049】
本実施形態に係る延伸フィルムの平均厚さは、機械的強度などの観点から、好ましくは20〜80μm、さらに好ましくは30〜60μm、特に好ましくは40〜50μmである。また、幅方向の厚みムラは巻取りの可否に影響を与えるため、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることが特に好ましい。
【0050】
本実施形態に係る延伸フィルムは、残留揮発性成分の含有量が、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が多いと経時的に光学特性が変化するおそれがある。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、面内方向リタデーションReや厚さ方向リタデーションRth(=((n+n)/2−n)×d;nは面内遅相軸方向の屈折率;nは面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率;nは厚さ方向の屈折率;dはフィルムの平均厚さ)の経時変化を小さくすることができ、さらに本発明の円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。
【0051】
なお、揮発性成分は、フィルム中に微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをクロロホルムに溶解させてガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0052】
本実施形態に係る延伸フィルムは、飽和吸水率が、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、ReやRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。飽和吸水率は、フィルムの試験片を23℃の水中に24時間、浸漬し、増加した質量の、浸漬前フィルム試験片の質量に対する百分率で表される値である。
【0053】
本実施形態に係る延伸フィルムは長尺状である。長尺状とは、フィルムまたは積層体の幅方向に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
【0054】
本実施形態に係る延伸フィルムの巾は、少なくとも1300mm、好ましくは少なくとも1500mmである。上限は特に制限されないが、2000mmが製造上の限界である。
【0055】
本発明の実施形態に係る延伸フィルムは、上記の製造方法によって容易に得ることが可能で、屈折率の高度な補償が可能なので、それ単独あるいは他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償フィルムとして、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに広く応用が可能である。
【0056】
本発明の実施形態に係る偏光板は、偏光子の少なくとも片面に、上述の実施形態に係る延伸フィルムを積層してなる。偏光子には、ポリピニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の従来に準じた適宜なビニルアルコール系ポリマーよりなるフィルムに、ヨウ素や二色性染料等よりなる二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適宜な処理を適宜な順序や方式で施したもので、自然光を入射させると直線偏光を透過する適宜なものを用いることができる。特に、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。偏光子の厚さは、5〜80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0057】
積層形態としては、本発明の実施形態に係る延伸フィルムを偏光子の両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層数に特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。また、積層手法としては、必須手法ではないが、接着剤を用いて積層させることができる。従来、偏光子は、その片面又は両面に保護フィルムが積層されていたが、本実施の形態に係る延伸フィルムを積層することによって、本実施形態に係る延伸フィルムが偏光子の保護フィルムの役目も兼ねることになる。このように延伸フィルムを直接偏光子に積層すると、従来使用していた保護フィルム1枚を省くことができ、液晶表示装置の薄型化に寄与する。
【0058】
本発明の実施の形態に係る偏光板では、延伸フィルムと偏光子との間に本発明の特性を損なわない範囲で他の部材を介在させることもできる。介在させる他の部材として、例えば、偏光子を保護するための保護フィルムが挙げられる。保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂からなるフィルムが好ましい。保護フィルムを形成する樹脂としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体;脂環式構造を有する重合体;ポリオレフィン重合体、ポリカーボネート重合体、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル重合体;ポリ塩化ビニル重合体、ポリスチレン重合体、ポリアクリロニトリル重合体、ポリスルフォン重合体、ポリエーテルスルフォン重合体、ポリアミド重合体、ポリイミド重合体、アクリル重合体等があげられる。
【0059】
本発明の実施の形態に係る液晶表示装置は、本発明の実施形態に係る偏光板を備えたものである。液晶表示装置に備わっている液晶セルの表示モードは特に制限されず、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。
【0060】
本発明の実施形態に係る液晶表示装置には他の部材を備えていてもよい。例えばプリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。液晶表示装置に用いる光源としては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。
【実施例】
【0061】
本発明を、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
【0063】
(1)配向角
オリンパス社製偏光顕微鏡BX51を用いてフィルムの幅方向に対し50mmの間隔で測定を行いその平均値を配向角θとした。最大値−最小値をバラツキとして評価し、バラツキが1.0以下のものを合格とした
(2)面内方向リタデーションRe
王子計測(株)KOBRA−21SDHを用いて幅方向に50mm間隔で測定した平均値を面内方向リタデーションReとし、最大値−最小値をバラツキとして評価し、バラツキが5以下のものを合格とした。
【0064】
(3)ロール外観
巻き取ったロール状の延伸フィルムの外観を以下の基準で判定した
○・・・巻取ったロールの巻き姿に異常が見られないもの
×・・・タルミ、皺の発生によって巻取ったロールの巻き姿が悪いもの
(4)引取り張力T
テンターの出口部において最初のフリーロール両端にロードセルを設置し、ロールにかかる荷重を検出し、それをフィルム幅で除したものを引取り張力とした。
【0065】
(実施例1)
ノルボルネン系樹脂(ZEONOR1420:ガラス転移点=137℃、日本ゼオン(株)製)のペレットを100℃で5時間乾燥した。
【0066】
該ペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押出し、冷却し、厚み90μm、幅900mm、長さ1000mの未延伸フィルムを得た。
【0067】
前記未延伸フィルムを繰出角度θs=47°でテンター延伸機に供給し、延伸温度142℃、延伸倍率2.0倍で配向角θが45度となるように延伸を行って、フィルム両端180mmをトリミングして、1340mm幅の長尺の延伸フィルムを得た。得られた長尺の延伸フィルムは上記幅方向に対し均一なものであった。延伸フィルムの面内方向のリタデーションRe、面内方向のリタデーションのバラツキ、配向角θ、配向角θのバラツキ、ロール外観の評価を表1に示した。
【0068】
透過軸が幅方向にある長尺の偏光子(サンリッツ社製、HLC2−5618S、厚さ180μm)と、前記長尺の延伸フィルムとをロールトゥロールで貼り合わせて幅1340mmの偏光板の巻回体を得た。この巻回体から切り出した偏光板を、市販のVA(バーティカルアライメント)モードの半透過型液晶表示装置の上下偏光板と置き換え、上記延伸フィルムを貼り合わせた側が液晶セル側に配置されるように、かつ上下に配置された延伸フィルムの遅相軸が互いに直交するように組み込んだ。得られた液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、全幅に亘り色ムラが観察されず、良好な表示であった。
【0069】
(実施例2〜4)
表1に示す延伸条件に変えた他は実施例1と同様にして延伸フィルム、偏光板及び反透過型液晶表示装置を得た。得られた長尺の延伸フィルムは上記幅方向に対し均一なものであった。得られた延伸フィルムの面内方向のリタデーションRe、面内方向のリタデーションReのバラツキ、配向角、配向角のバラツキ、ロール外観の評価を表1に示した。これらの延伸フィルムを用いた半透過型液晶表示装置は、全幅に亘り色ムラが観察されず、良好な表示であった。
【0070】
(比較例1、2)
未延伸フィルムをそのまま連続してテンター延伸機に供給し、繰出角度θs=47°、延伸温度140℃、延伸倍率2.0倍で実施例と同様に斜め延伸を行い、把持具の位置θoを変更(比較例1では、θo=0°、比較例2では、θo=55°)して、配向角θ=45°の斜めに配向した延伸フィルムを得、巻き芯に巻きとった。この延伸フィルムの評価結果を表1に示した。このフィルムは光学特性が不均一であり、かつフィルムの皺、タルミが酷く巻姿が非常に悪かった。この延伸フィルムを用いた半透過型液晶表示装置は、画面内に色ムラが観察された。
【0071】
(比較例3、4)
表1に示す条件の如く繰出し角度を変更して延伸を行ったところ、表1に示すように延伸後のフィルムは光学特性が不均一なものとなり、かつフィルムの皺、タルミが酷く巻姿が非常に悪かった。この延伸フィルムを用いた半透過型液晶表示装置は、画面内に色ムラが観察された。
【0072】
(比較例5、6)
表1に示す条件の如く引取り張力を変更して延伸を行ったところ、表1に示すように、延伸後のフィルムは光学特性が不均一なものとなり、かつフィルムの皺、タルミが酷く巻姿が非常に悪かった。この延伸フィルムを用いた半透過型液晶表示装置は、画面内に色ムラが観察された。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態にかかる斜め延伸用テンター延伸機の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
2…斜め延伸用テンター延伸機、10…引き出しロール、11…未延伸フィルム(原反)、12…巻き取りロール、13…斜め延伸フィルム、14R,14L…レール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の両端部を把持具によって把持してテンター内を搬送し、フィルム巻取り方向に対し配向角θが45±5°の範囲となる延伸を行う延伸フィルムの製造方法であって、
左右の前記把持具の開放位置を結んだ直線がフィルムの巻取り方向に垂直な方向に対してなす角度θo(°)、フィルムの巻取り方向に対する延伸後のフィルムの配向角θ(°)、延伸後のフィルムの引取り張力T(N/m)及びフィルムの巻取り方向に対するフィルムの繰出し角度θs(°)が、以下の(1)〜(3)の条件を満たすことを特徴とする延伸フィルムの製造方法。
θ−30<θo<θ+5・・・(1)
100<T<250・・・(2)
θ−5<θs<θ+5・・・(3)
【請求項2】
請求項1記載の製造方法により製造された延伸フィルム。
【請求項3】
偏光子の少なくとも片面に、請求項2に記載の延伸フィルムを積層してなる偏光板。
【請求項4】
請求項3に記載の偏光板を備える液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−238514(P2008−238514A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80776(P2007−80776)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】