説明

延伸フィルム

【課題】皺や厚みムラがなく精度に優れ、なおかつ長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れた、光学用フィルムとして有用な延伸フィルムを提供する。
【解決手段】揮発性成分含有量が1000ppm以下であって、脂環式構造含有重合体樹脂からなる未延伸フィルム11を、その幅方向8に対して1〜50度の方向に連続的に斜め延伸して得られる長尺の延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延伸フィルムに関し、さらに詳しくは、皺や厚みムラがなく精度に優れ、なおかつ長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れた延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)は、高画質、薄型、軽量、低消費電力などの特長をもち、テレビジョン、パーソナルコンピュータなどのフラットパネルディスプレイとして広く使用されている。また、カラー液晶ディスプレイには、単純マトリクス方式で構造が簡単な超ねじれネマチック(STN)液晶が用いられるが、STN液晶に基づく楕円偏光により、液晶ディスプレイ表示の色相が緑色ないし黄赤色を帯びるという問題を生じる。この問題を解決する手段の一つとして、位相差フィルムを用い、STN液晶の複屈折により位相差を補償し、楕円偏光を直線偏光に戻す対策が講じられている。
【0003】
この位相差フィルムを製造する方法としては、例えば、未延伸フィルムの長さ方向又は幅方向に一軸延伸したフィルムより、所望の配向軸を有するように延伸フィルムの辺に対して所定の傾斜角度となるように、その延伸フィルムを裁断する方法が知られている。しかしながら、この方法では、最大面積が得られるように裁断しても、裁断ロスが必ず生じ、製品歩留まりに乏しいという問題があった。
【0004】
また、特許文献1には、ポリカーボネートやポリエステルなどのプラスチックのフィルムを横または縦方向に一軸延伸しつつ、その延伸方向の左右を異なる速度で前記延伸方向とは相違する縦または横方向に引張延伸して、配向軸を前記一軸延伸方向に対して傾斜させることが提案されている。この方法によれば、縦横方向の延伸倍率の制御にて配向軸の傾斜角度を容易に変化させることができ、端辺に対して配向軸が種々の角度で傾斜した斜め配向フィルムを効率よく得ることができる。しかしながら、この方法で得られる延伸フィルムは皺が発生したり、厚みムラなどが生じたりして、精度に優れたフィルムを得ることは困難であった。
【0005】
さらに、特許文献2には、ポリビニルアルコールなどのポリマーフィルムの一方端の実質的な保持開始点から、実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L1、及びポリマーフィルムのもう一端の実質的な保持開始点から実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L2と、二つの実質的な保持解除点までの距離Wが、式(1):|L2−L1|>0.4Wの関係を満たし、かつポリマーフィルムの支持性を保ち、揮発分率が5%以上の状態を存在させて延伸した後、収縮させながら揮発分率を低下させる光学用ポリマーフィルムの製造方法が記載されている。
しかしながら、この方法で得られたフィルムにおいても、長期間使用したときに光学特性が変化したりする問題があった。
【特許文献1】特開2000−9912号公報
【特許文献2】特開2002−86554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、皺や厚みムラがなく精度に優れ、なおかつ長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れた光学用フィルムとして有用な延伸フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を解決すべく鋭意検討した結果、皺や厚みムラがなく精度に優れ、なおかつ長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定した延伸フィルムを得るためには、脂環式構造含有重合体樹脂からなる未延伸フィルムを使用するのが好ましいこと、および、未延伸フィルムとして、揮発性成分含有量が所定濃度以下の脂環式構造含有重合体樹脂からなるものを、幅方向に対して所定角度に斜め延伸するのが好ましいことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
かくして本発明によれば、揮発性成分含有量が1000ppm以下であって、脂環式構造含有重合体樹脂からなる未延伸フィルムを、その幅方向に対して1〜50度の方向に連続的に斜め延伸して得られる長尺の延伸フィルムが提供される。
【0009】
本発明においては、前記脂環式構造含有重合体樹脂が、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を10重量%以上含有し、重量平均分子量が25,000〜80,000であり、分子量分布が1.1〜4.0である樹脂であるのが好ましく、さらに、ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を55〜90重量%含有し、重量平均分子量が25,000〜50,000であり、分子量分布が1.2〜3.5である樹脂がより好ましい。また、前記未延伸フィルムが、溶融押出成形により得られたものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の延伸フィルムは、皺や厚みムラがなく精度に優れ、なおかつ長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れるものであり、位相差フィルムとして有用である。また、本発明の延伸フィルムは長尺であるので、ロール状に巻き取って保存することができる。例えば、本発明の延伸フィルムを位相差板として用い、長尺の1/4波長板と貼り合わせて(楕)円偏光板を製造する場合には、連続生産が可能となるため、高い生産性が得られるという利点がある。さらに、本発明の延伸フィルムは所定の角度に延伸しているので、所定の角度になるように斜めに切り出す必要がなく、例えば、ロールトゥロールなどのような連続処理が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
1)未延伸フィルム
本発明に用いる未延伸フィルムは、脂環式構造含有重合体樹脂からなる。脂環式構造含有重合体樹脂は、重合体樹脂の繰り返し単位中に脂環式構造を有するものであり、主鎖中に脂環式構造を有する重合体樹脂および側鎖に脂環式構造を有する重合体樹脂のいずれも用いることができる。
【0012】
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造などが挙げられるが、熱安定性などの観点からシクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を構成する炭素数に特に制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは6〜15個である。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲にあると、耐熱性および柔軟性に優れた延伸フィルムを得ることができる。
【0013】
脂環式構造を有する重合体樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を有する繰り返し単位が過度に少ないと耐熱性が低下し好ましくない。なお、脂環式構造含有重合体樹脂における脂環式構造を有する繰り返し単位以外の繰り返し単位は、使用目的に応じて適宜選択される。
【0014】
脂環式構造含有重合体樹脂の具体例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン系重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、および(1)〜(4)の水素化物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性、機械的強度に優れることなどから、ノルボルネン系重合体水素化物、ビニル脂環式炭化水素重合体およびその水素化物が好ましく、ノルボルネン系重合体の水素化物がより好ましい。
【0015】
本発明に用いるノルボルネン系重合体は、ノルボルネンおよびその誘導体、テトラシクロドデセンおよびその誘導体、ジシクロペンタジエンおよびその誘導体、メタノテトラヒドロフルオレンおよびその誘導体などのノルボルネン系単量体を主成分とする単量体の重合体である。
【0016】
ノルボルネン系重合体の具体例としては、〔1〕ノルボルネン系単量体の開環重合体、〔2〕ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との開環共重合体、〔3〕ノルボルネン系単量体の付加重合体、〔4〕ノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体、および〔1〕〜〔4〕の水素化物などが挙げられる。
【0017】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン系単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
ノルボルネン系単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体などのノルボルネン系単量体;シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
【0019】
ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0020】
用いる開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウムなどの金属のハロゲン化物と、硫酸塩またはアセチルアセトン化合物、および還元剤とからなる触媒;あるいは、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒;などが挙げられる。
【0021】
ノルボルネン系単量体の付加重合体およびノルボルネン系単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。付加重合触媒としては、例えば、チタン、ジルコニウム、バナジウムなどの金属の化合物と有機アルミニウム化合物からなる触媒などを用いることができる。
【0022】
ノルボルネン系単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0023】
本発明に用いる単環の環状オレフィン系重合体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの付加重合体を挙げることができる。
【0024】
本発明に用いる環状共役ジエン系重合体としては、例えば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−付加重合または1,4−付加重合した重合体を挙げることができる。
【0025】
ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィンの重合体および環状共役ジエンの重合体の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは25,000〜80,000、より好ましくは25,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度および成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0026】
ビニル脂環式炭化水素重合体は、ビニルシクロアルケンまたはビニルシクロアルカン由来の繰り返し単位を有する重合体である。ビニル脂環式炭化水素重合体としては、例えば、ビニルシクロヘキサンなどのビニル基を有するシクロアルカン、ビニルシクロヘキセンなどのビニル基を有するビニルシクロアルケンなどのビニル脂環式炭化水素化合物の重合体およびその水素化物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族炭化水素化合物の重合体の芳香族部分水素化物などが挙げられる。
【0027】
また、ビニル脂環式炭化水素重合体は、ビニル脂環式炭化水素化合物やビニル芳香族炭化水素化合物と、これらの単量体と共重合可能な他の単量体とのランダム共重合体、ブロック共重合体などの共重合体およびその水素化物であってもよい。ブロック共重合としては、ジブロック、トリブロック、またはそれ以上のマルチブロックや傾斜ブロック共重合などが挙げられるが、特に制限はない。
【0028】
ビニル脂環式炭化水素重合体の分子量は使用目的に応じて適宜選択されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量が、通常10,000〜300,000、好ましくは15,000〜250,000、より好ましくは20,000〜200,000の範囲であるときに、成形体の機械的強度および成形加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0029】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体、ノルボルネン系単量体の付加重合体、およびノルボルネン系単量体とこれと共重合可能なその他の単量体との付加重合体の水素化物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を、好ましくは90%以上水素化することによって得ることができる。
【0030】
本発明に用いる脂環式構造含有重合体樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは80℃以上、より好ましくは100〜250℃の範囲である。ガラス転移温度がこのような範囲にある脂環式構造含有重合体樹脂を含有するフィルムは、高温下での使用における変形や応力が生じることがなく耐久性に優れる。
【0031】
本発明に用いる脂環式構造含有重合体樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.0〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0032】
本発明においては、これらの脂環式構造含有重合体樹脂の中でも、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を10重量%以上含有する樹脂が好ましく、さらに、これに加えてビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を55〜90重量%含有する樹脂であるのがより好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる延伸フィルムを得ることができる。
【0033】
脂環式構造含有重合体樹脂中のトリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を上記範囲とする方法としては、例えば、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(別名テトラシクロドデセン)、またはその誘導体(環に置換基を有するもの)を10重量%以上含有する単量体混合物を、公知のメタセシス開環重合法により重合した後に、環の炭素−炭素不飽和結合を公知の方法で水素添加する方法が挙げられる。
【0034】
ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を上記範囲とする方法としては、例えば、ノルボルネン環に五員環が結合した構造を有するノルボルネン系単量体を55〜90重量%含有する単量体混合物を公知のメタセシス開環重合法により重合した後に、環の炭素−炭素不飽和結合を公知の方法で水素添加する方法が挙げられる。ノルボルネン環に五員環が結合した構造を有するノルボルネン系単量体としては、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエンおよびその誘導体(環に置換基を有するもの)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.10,5]デカ−3−エンおよびその誘導体等が挙げられる。
【0035】
また、本発明においては、前記ノルボルネン環に五員環構造が結合した構造を有するノルボルネン系単量体および/またはテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン若しくはそれらの誘導体に、これらと共重合可能な他の単量体を開環共重合させて得られる重合体も好ましく用いることができる。
【0036】
これらの中でも、前記脂環式構造含有重合体樹脂としては、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を10重量%以上含有し、重量平均分子量が25,000〜80,000であり、分子量分布が1.1〜4.0の樹脂が好ましく、さらに、これに加えてビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を55〜90重量%含有し、重量平均分子量が25,000〜50,000であり、分子量分布が1.2〜3.5の樹脂であるのが特に好ましい。このような脂環式構造含有重合体樹脂を使用することにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れ、かつ、斜め延伸しても機械的強度にきわめて優れる延伸フィルムを得ることができる。
【0037】
未延伸フィルムは、脂環式構造含有重合体樹脂をフィルム状に成形することにより得ることができる。この場合には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、他の添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加することができる。
【0038】
他の添加剤としては、例えば、可塑剤や劣化防止剤などが挙げられる。可塑剤は、フィルムの機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上させるために添加する。用いる可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが挙げられる。
【0039】
リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどが挙げられる。カルボン酸エステルとしては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジフェニルフタレートなどのフタル酸エステル;O−アセチルクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル;オレイン酸ブチル;リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチルなどの高級脂肪酸エステル;トリメット酸エステル;などが挙げられる。
【0040】
劣化防止剤としては、例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン類などが挙げられる。劣化防止剤については、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報などに記載がある。
【0041】
これらの他の添加剤や他の熱可塑性樹脂の添加量は、脂環式構造含有重合体樹脂に対して、通常0〜20重量%、好ましくは0〜10重量%、より好ましくは0〜5重量%である。
【0042】
脂環式構造含有重合体樹脂をフィルム状に成形する方法としては特に制約されず、公知の成形法を採用することができる。例えば、加熱溶融成形法、溶液流延法のいずれも採用することができるが、シート中の揮発性成分を低減させる観点から、加熱溶融成形法を用いるのが好ましい。
【0043】
加熱溶融成形法は、さらに詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度および表面精度などに優れる延伸フィルムを得るためには、溶融押出成形法を用いるのが好ましい。
【0044】
成形条件は、使用目的や成形方法により適宜選択されるが、溶融押出成形法による場合は、シリンダー温度が、好ましくは100〜600℃、より好ましくは150〜350℃の範囲で適宜設定される。
【0045】
未延伸フィルムの厚みは、得られる延伸フィルムの使用目的などに応じて適宜決定することができる。フィルムの厚みは、安定した延伸処理による均質な延伸フィルムが得られる観点から、好ましくは10〜300μm、より好ましくは30〜200μmである。
【0046】
2)長尺の延伸フィルム
以上のようにして得られる未延伸フィルムをその幅方向に対して任意の角度θ(1度<θ<50度)の方向に連続的に斜め延伸することにより、フィルムの幅方向に対して角度θの配向軸を有する長尺の延伸フィルムを得ることができる。
【0047】
角度θを1〜50度の間で任意の値に設定することにより、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを所望の値となるようにすることができる。
【0048】
斜め延伸する方法としては、その幅方向に対して1〜50度の方向に連続的に延伸して、ポリマーの配向軸を所望の角度に傾斜させるものであれば特に制約されず、公知の方法を採用することができる。
【0049】
また、斜め延伸に用いる延伸機は特に制限されず、横又は縦方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力または引取り力を付加できるようにした従来公知のテンター式延伸機を使用することができる。また、テンター式延伸機には、横一軸延伸機、同時二軸延伸機などがあるが、長尺のフィルムを連続的に斜め延伸処理することができるものであれば、特に制約されず、種々のタイプの延伸機を使用することができる。
【0050】
本発明に使用することができる斜めテンター延伸の例を図1に示す。図1に示すように、上記で得られた未延伸フィルム(11)を、一定の方向(21)に搬送しながら、テンター(31)を用いて斜め延伸する。図1のある位置(41、42)でチャックされたフィルムは、左側が遅い速度(52L)で位置(51L)へ、右側が速い速度(52R)で位置(51R)へ移動することによって、斜め延伸が実施される。図1は、幅方向Bに対して角度θ(1<θ<50)で斜め延伸する例であり、配向軸はAの方向となる。
【0051】
本発明に用いることができる斜め延伸の方法は、図1に示すものに限られない。例えば、特開昭50−83482号公報、特開平2−113920号公報、特開平3−182701号公報、特開2000−9912号公報、特開2002−86554号公報、特開2002−22944号公報などに記載されたものを用いることができる。
【0052】
未延伸フィルムを斜め延伸するときの温度は、前記脂環式構造含有重合体樹脂のガラス転移温度をTgとすると、好ましくはTg−30℃からTg+60℃の間、より好ましくはTg−10℃からTg+50℃の温度範囲である。また、延伸倍率は、通常、1.01〜30倍、好ましくは1.01〜10倍、より好ましくは1.01〜5倍である。
【0053】
本発明の延伸フィルムは、実質的に脂環式構造含有重合体樹脂からなり、かつ、揮発性成分含有量が1000ppm以下、好ましくは500ppm以下であることを特徴とする。揮発性成分含有量が1000ppmを超えると、使用時に該揮発性成分が外部に放出されて延伸フィルムに寸法変化が生じて内部応力が発生する。したがって、例えば、反射型液晶表示装置を用いた場合に、黒表示が部分的に薄くなる(白っぽく見える)等の表示ムラが発生するおそれがある。揮発性成分含有量が上記範囲にある延伸フィルムは、長期間使用してもディスプレイの表示ムラが発生しない光学特性の安定性に優れる。
【0054】
揮発性成分は、脂環式構造含有重合体樹脂に微量含まれる分子量200以下の比較的低沸点の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、脂環式構造含有重合体樹脂に微量含まれる分子量200以下の物質の合計であり、脂環式構造含有重合体樹脂をガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0055】
揮発性成分含有量が1000ppm以下の延伸フィルムを得る方法としては、例えば、(a)揮発性成分含有量が1000ppm以下の未延伸フィルムを斜め延伸する方法、(b)揮発性成分含有量が1000ppmを超える未延伸フィルムを用いて、斜め延伸の工程中、または延伸後に乾燥して揮発性成分含有量を低減する方法などが挙げられる。これらの中でも、揮発性成分含有量がより低減された延伸フィルムを得るには、(a)の方法が好ましい。(a)の方法において、揮発性成分含有量が1000ppm以下である未延伸フィルムを得るには、揮発成分含有量が1000ppm以下の樹脂を溶融押出成形することが好ましい。
【0056】
本発明の延伸フィルムの飽和吸水率は特に制限されないが、好ましくは0.01%以下、より好ましくは0.007%以下である。飽和吸水率が0.01%を越えると、使用環境により延伸フィルムに寸法変化が生じて内部応力が発生することがある。そして、例えば、反射形液晶表示装置に用いた場合に、黒表示が部分的に薄くなる(白っぽく見える)などの表示ムラが発生するおそれがある。飽和吸水率が上記範囲にある延伸フィルムは、長期間使用してもディスプレイの表示ムラが発生しない光学特性の安定性に優れる。
【0057】
以上のようにして得られる本発明の延伸フィルムは、幅方向に対して1度から50度の配向軸を有する。また、皺や厚みムラがなく、かつ、長期にわたって寸法変化がなく、光学特性の安定性が優れるので、偏光フィルムや位相差フィルムとして有用である。
【実施例】
【0058】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。これらの例中の[部]及び[%]は、特に断りのない限り重量基準である。ただし、本発明は、以下の製造例および実施例に限定されるものではない。
【0059】
各種の物性の測定は,下記の方法に従って行なった。
(1)分子量シクロヘキサンを溶媒にしてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
(2)分子量分布シクロヘキサンを溶媒にしてGPCで測定し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)を算出した。
(3)ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に基づいてDSCにて測定した。
【0060】
(4)水素添加率重合体の主鎖および芳香環の水素添加率(%)は、H−NMRを測定して算出した。
(5)揮発性成分量の測定法フィルムの揮発性成分含有量は、ガスクロマトグラフィーにより、分子量200以下の成分の合計として定量した。
(6)フィルムの膜厚みオフライン厚み測定装置(型式:TOF−4R、山文電気(株)製)を用いて測定した。
【0061】
(7)飽和吸水率の測定法延伸フィルムの飽和吸水率は、JIS K7209に準じて測定した。
(8)延伸フィルムの寸法安定性試験作製した延伸フィルムを下記の2つの条件で処理した後、配向性軸方向の寸法変化率を測定した。寸法変化率が±0.05%以内の場合を「良」、±0.05%を超える場合を「不良」として評価した。符号は収縮方向を「−」、伸び方向を「+」とした。
条件A:温度30℃、湿度40%の環境下に30日間放置条件B:温度30℃、湿度80%の環境下に30日間放置
【0062】
(8)延伸フィルムの光学特性試験作製した延伸フィルムの幅方向に対する配向角のバラツキが、幅方向全体(テンターチャック部分の幅50mmの範囲を除く)にわたって、平均値に対して±0.5度以下の場合を「良」、±0.5度を超える場合を「不良」として評価した。
【0063】
(製造例1)
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500部に、1−ヘキセン0.82部、ジブチルエーテル0.15部、トリイソブチルアルミニウム0.30部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン、以下「DCP」と略記する。)80部、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(以下、「MTF」と略記する。)70部、およびテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、「TCD」と略記する。)からなるノルボルネン系単量体混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40部とを、2時間かけて連続的に添加して重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06部とイソプロピルアルコール0.52部を加えて重合触媒を不活性化し、重合反応を停止させた。
【0064】
次に、得られた開環重合体を含有する反応溶液100部に対して、シクロヘキサン270部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮化学(株)製)5部を加え、水素により5MPaに加圧して攪拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/MTF/TCD開環共重合体水素化物ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。ろ過により水素化触媒を除去した後、酸化防止剤(商品名:イルガノックス1010、チバスペシャリティ・ケミカルズ社製)を、得られた溶液に添加して溶解させた(酸化防止剤の添加量は、重合体100部あたり0.1部)。
【0065】
次いで、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所(株)製)を用いて、温度270℃、圧力1kPa以下で、溶液から、溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発性成分を除去することにより、開環重合体水素化物(水素化ポリマー)を得た。
【0066】
得られた水素化ポリマー中の各ノルボルネン系単量体の共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類の組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MTF/TCD=440/25/35でほぼ仕込み組成に等しかった。この水素化物の重量平均分子量(Mw)は35,000、分子量分布は2.1、水素添加率は99.9%、Tgは134℃であった。
【0067】
次に、上記で得られた開環重合体水素化物を、65mmφのスクリューを備えた樹脂溶融押出成形機を有するTダイ式フィルム押出成形機を使用し、幅500mm、厚さ100μmのフィルムを押出し成形して、未延伸フィルムAを得た。得られた未延伸フィルムAの揮発性成分含有量は100ppm以下であり、厚みムラは3.2μmであった。
【0068】
(製造例2)
DCP170部と8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(以下、「ETD」と略記する。)30部とからなるノルボルネン系単量体混合物を用いた以外は、製造例1と同様にして重合および水素添加反応を行ない、開環重合体水素化物を得た。この開環重合体水素化物の重量平均分子量(Mw)は35,000、水素添加率は99.9%、分子量分布は2.0、Tgは105℃であった次いで、上記で得られた開環重合体水素化物を製造例1と同様に押出し成形して、幅500mm、厚さ100μmの未延伸フィルムBを得た。得られた未延伸フィルムBの揮発性成分含有量は100ppm以下であり、厚みムラは3.5μmであった。
【0069】
(実施例1) 延伸フィルムAの製造
製造例1で得られた未延伸フィルムAを120℃に加熱して、図1に準じたテンター延伸機に導入し、左右の移動速度に5%の速度差をもたせて横一軸延伸(幅方向)とともに速度差による縦方向の引っ張り延伸を施して延伸フィルムAを得た。この延伸フィルムの幅方向に対する配向性軸の角度は平均で19.5度であった。
【0070】
(実施例2) 延伸フィルムBの製造
製造例2で得られた未延伸フィルムBを95℃に加熱して図1に準じたテンター延伸機に導入し、左右移動速度に10%の速度差を持たせて横一軸延伸(幅方向)とともに速度差による縦方向の引っ張り延伸を施して延伸フィルムBを得た。この延伸フィルムBの幅方向に対する配向性軸は平均で45度であった。
【0071】
(比較例1) 延伸フィルムCの製造
ポリカーボネート樹脂を製造例1と同様の溶融押出成形によって、幅500mm、厚さ100μm(厚みムラ6.7μm)のポリカーボネートフィルムを得た。次いで、このフィルムを150℃に加熱して、図1に準じたテンター延伸機に導入し、左右の移動速度に5%の速度差をもたせて横一軸延伸(幅方向)とともに、速度差による縦方向の引っ張り延伸を施して延伸フィルムCを得た。この延伸フィルムCの幅方向に対する配向性軸は平均で18.9度であった。
【0072】
(比較例2) 延伸フィルムDの製造
塩化メチレン溶剤として溶液キャスト法で得られたポリカーボネートフィルム(幅500mm、厚さ100μm、厚みムラ2.6μm、揮発性成分含有量30,000ppm)を使用して、比較例1と同様にして連続斜め延伸を行い、延伸後、連続的に100℃の熱風で60秒間の乾燥を行なった。得られた延伸フィルムの揮発性成分含有量は5,000ppmであった。
【0073】
実施例および比較例で得られた延伸フィルムA〜Dの幅方向に対する配向軸の角度、配向軸角度のバラツキ、皺の有無、厚みムラ(最大厚みと最小厚みの差)、揮発性成分含有量および寸法安定性および光学特性の安定性の評価を第1表に示す。なお、第1表中、皺の有無は、延伸フィルムを目視観察して、皺が認められない場合を〇、認められた場合を×として評価した。
【0074】
【表1】

【0075】
第1表より、実施例1及び2の延伸フィルムA、Bは皺がなく、比較例1、2の延伸フィルムC、Dに比して厚みムラがなく、かつ、長期にわたる寸法安定性および光学特性の安定性に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例および比較例において、未延伸フィルムを斜め延伸する平面説明図である。
【符号の説明】
【0077】
11…未延伸フィルム
21…フィルムの搬送方向
31…テンター
41,42…チャック位置
51R…フィルム右移動位置
51L…フィルム左移動位置
52R…右移動速度
52L…左移動速度
A…配向軸の方向
B…幅方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性成分含有量が1000ppm以下であって、脂環式構造含有重合体樹脂からなる未延伸フィルムを、その幅方向に対して1〜50度の方向に連続的に斜め延伸して得られる長尺の延伸フィルム。
【請求項2】
前記脂環式構造含有重合体樹脂が、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を10重量%以上含有し、重量平均分子量が25,000〜80,000であり、分子量分布が1.1〜4.0の樹脂である請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
前記脂環式構造含有重合体樹脂が、さらに、ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造を有する繰り返し単位を55〜90重量%含有し、重量平均分子量が25,000〜50,000であり、分子量分布が1.2〜3.5の樹脂である請求項2に記載の延伸フィルム。
【請求項4】
前記未延伸フィルムが、溶融押出成形により得られたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の延伸フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−221834(P2008−221834A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30121(P2008−30121)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【分割の表示】特願2002−154527(P2002−154527)の分割
【原出願日】平成14年5月28日(2002.5.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】