説明

延伸ポリオレフィンフィルム

【課題】従来のものと変わらないガラス転移温度をもつ脂環式ポリオレフィンをもちいたまま高温下における光学特性の変化を改良した延伸ポリオレフィンフィルム、さらに、これを有する視認性及び耐久性に優れる偏光板及び液晶表示装置を提供すること。
【解決手段】ガラス転移点温度130〜150℃、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))1.2〜3.5の脂環式ポリオレフィン樹脂を2軸延伸してなり、80℃の条件下に72時間曝した際の下記式で表されるレターデーション(Rth)の変化が2%以下であることを特徴とする延伸ポリオレフィンフィルム。
100×[Rth(処理前)−Rth(処理後)]/Rth(処理前)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式ポリオレフィン樹脂からなり高温の環境に曝された際にも光学特性の変化が少ない延伸ポリオレフィンフィルムおよびその製造方法、さらに、該延伸ポリオレフィンフィルムを有する画像の安定性に優れる偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、液晶セルの複屈折による位相差を補償するために位相差フィルムが広く用いられている。これまで、様々な構成の位相差フィルムが提案されてきたが、透明樹脂を延伸により配向させて得られる延伸フィルムが広く用いられてきた。該延伸フィルムとしては、耐熱性等に優れるポリカーボネート樹脂からなるフィルムが挙げられるが、特に、耐熱性に優れ、吸湿性が低く、光弾性定数が小さい脂環式ポリオレフィン樹脂からなるフィルムが近年注目を浴びている。
ところで、上記の如き樹脂フィルムはその性質上、高温域に長時間曝されると光学特性に変化が生じ、画像特性に影響を与えるという好ましくない現象が生じる。このような現象は高分子フィルムを延伸することで光学特性を発現させるという製法上、高分子の緩和現象により、ある程度は避けられないことである。光弾性定数が小さい脂環式ポリオレフィン樹脂は、ポリカーボネート等に比べ緩和による光学特性の変化が小さく上記の如き現象に対して優位性をもった材料ではあるが、液晶表示装置の画質に対する要求は年々厳しさを増しておりさらなる改良が求められていた。緩和現象が原因であるというこの現象の性質上、ポリマーのTgを一般的な脂環式ポリオレフィンやポリカーボネートの130〜150℃に対して上昇させることは効果があるが、そのような方策はポリマーコスト、フィルム加工コストの増大を招くためコスト要求の厳しい液晶表示業界にとって好ましくない。
高温で使用しても表示特性の悪化(面内レターデーションの変化)が比較的小さい光学異方体として特許文献1のようなフィルムも開示されているが、未だ高温域での安定性に欠けていた。特に、表示画面を斜めから観察した場合に表示品位が低下する問題が顕在化していた。
【0003】
【特許文献1】特開平8−278406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、従来のものと変わらないガラス転移温度をもつ脂環式ポリオレフィンをもちいたまま高温下における光学特性の変化を改良した延伸ポリオレフィンフィルム、さらに、これを有する視認性及び耐久性に優れる偏光板及び液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、透明な脂環式ポリオレフィン樹脂からなるフィルムを延伸する際の延伸条件を適切に選択することで、上記目的を達成しうる位相差フィルムを提供可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば、
(1) ガラス転移点温度130〜150℃、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))1.2〜3.5の脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムを2軸延伸してなり、80℃の条件下に72時間曝した際の下記式で表される値(ΔRth)が2以下であることを特徴とする延伸ポリオレフィンフィルム、
ΔRth=100×[Rth(処理前)−Rth(処理後)]/Rth(処理前)
(2)縦延伸倍率をRm、横延伸倍率をRtとしたとき、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムを、Rm<1.3でロール延伸機にて縦延伸を行った後、Rm+0.3<Rtでテンター延伸機にて横延伸を行うことを特徴とする延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法、
(3)横延伸温度が縦延伸温度よりも5℃以上高いことを特徴とする(2)記載の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法。
(4)テンター延伸機出口の引取り張力を200N/mにすることを特徴とする(2)記載の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法、
(5)テンター延伸機のテンターチェーン張力を1960N以下にすることを特徴とする(2)記載の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法、
(6)(1)の延伸ポリオレフィンフィルムを備える偏光板、
(7)(1)の延伸ポリオレフィンフィルムを備える表示装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、高温高湿の長期に渡って光学特性が良好に保たれる位相差板として、液晶表示装置、有機EL表示装置に広く適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、透明な脂環式ポリオレフィン樹脂からなるフィルムを二軸延伸してなるものである。
【0009】
本発明に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂は、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有するポリオレフィン樹脂であり、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有するポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0010】
脂環式構造としては、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造、不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造などが挙げられるが、機械強度、耐熱性などの観点から、シクロアルカン構造やシクロアルケン構造が好ましく、中でもシクロアルカン構造が最も好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性、及びフィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。本発明に使用される脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、使用目的に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると延伸ポリオレフィンフィルムの透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0011】
脂環式ポリオレフィン樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0012】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0013】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0014】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0015】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0016】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0017】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光学フィルムを得ることができる。
【0018】
本発明に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度および成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0019】
脂環式ポリオレフィン樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよいが、好ましくは130〜150℃、より好ましくは135〜145℃の範囲である。ガラス転移温度が130℃を下回ると高温下における耐久性が悪化し、150℃を上回るものは耐久性は向上するが通常の延伸加工が困難となる。
【0020】
脂環式ポリオレフィン樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.2〜3.5、好ましくは1.5〜3.0、さらに好ましくは1.8〜2.7である。この数値が3.5を超えると低分子成分が増すため緩和時間の短い成分が増加し、一見同じ面内レターデーションを有するフィルムであっても高温暴露時の緩和が短時間で大きくなってしまうことが推定され、後述のΔRth値が2を超えるおそれがある。一方1.2を下回るような分子量分布のものは樹脂の生産性の低下とコスト増につながりディスプレイ部材としては現実的でない。
【0021】
本発明に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂は、光弾性係数の絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、
C=Δn/σ
で表される値である。脂環式ポリオレフィン樹脂の光弾性係数が10×10−12Pa−1を超えると、延伸フィルムの面内レターデーションのバラツキが大きくなるおそれがある。
【0022】
本発明において、脂環式ポリオレフィン樹脂には、実質的に粒子を含まないことが好ましい。ここで、実質的に粒子を含まないとは、脂環式ポリオレフィン樹脂からなるフィルムへ粒子を添加しても、未添加状態からのヘイズの上昇巾が0.05%以下の範囲である量までは許容できることを意味する。特に、脂環式ポリオレフィン樹脂は、多くの有機粒子や無機粒子との親和性に欠けるため、上記範囲を超えた粒子を添加した脂環式ポリオレフィン樹脂フィルムを延伸すると、空隙が発生しやすく、その結果として、ヘイズの著しい低下が生じるおそれがある。
【0023】
本発明に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂には、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を発明の効果が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0024】
本発明に用いる脂環式ポリオレフィン樹脂からなるフィルムを製造する方法としては、特に制限はなく、例えば、溶液流延法や射出成形法や溶融押出法などの従来公知の方法が挙げられる。中でも、溶剤を使用しない溶融押出法の方が、残留揮発成分量を効率よく低減させることができ、地球環境や作業環境の観点、及び製造効率に優れる観点から好ましい。
溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法等が挙げられるが、生産性や厚さ精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
【0025】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、1mm厚換算での全光線透過率が80%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、全光線透過率が90%以上である。また、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、1mm厚でのヘイズが0.3%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、ヘイズが0.2%以下である。ヘイズが0.3%を超えると、延伸ポリオレフィンフィルムの透明性が低下し、位相差フィルムに適用できないおそれがある。
【0026】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは面内レターデーションRe及び厚さ方向レターデーションRthの値はディスプレイの設計によって異なるが、Reで40〜120nm、Rthで100〜300nm程度の範囲から適宜選択される。なお、本発明におけるReは、フィルムの遅相軸方向の屈折率nx、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率ny、及び厚み方向の屈折率nz、フィルムの平均厚みTwとしたときに、(nx−ny)×Tで定義される値であり、本発明におけるRthは、((nx+ny)/2−nz)×Tで定義される値である。
【0027】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの平均厚さは、機械的強度などの観点から、好ましくは60〜100μm、さらに好ましくは65〜95μm、特に好ましくは70〜90μmである。
また、厚み変動は、この長手方向及び幅方向にわたって前記平均厚さの±3%以内であることが好ましい。厚み変動を上記範囲にすることにより、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムのRe等の光学特性のバラツキを小さくすることができる。
【0028】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの残留揮発性成分の含有量は特に制約されないが、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が0.1重量%を超えると、経時的に本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの光学特性が変化するおそれがある。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、延伸ポリオレフィンフィルムのReやRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の延伸ポリオレフィンフィルムを備える偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
揮発性成分は、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムに微量含まれる分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、分子量200以下の物質の合計として、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムをガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0029】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの飽和吸水率は好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムのReやRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の延伸ポリオレフィンフィルムを備える偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、長期的にディスプレイの表示を安定で良好に保つことができる。
飽和吸水率は、試験片を一定温度の水中に一定時間、浸漬し、増加した質量の浸漬前の試験片質量に対する百分率で表される値である。通常は、23℃の水中に24時間、浸漬して測定される。
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムにおける飽和吸水率は、例えば熱可塑性ノルボルネン系樹脂中の極性基の量を減少させることにより、前記値に調節することができるが、好ましくは、極性基を持たない樹脂であることが望まれる。
【0030】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、Reのバラツキが10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。Reのバラツキを、上記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。ここで、Reのバラツキは、光入射角0°(入射光線と本発明の延伸ポリオレフィンフィルム表面が直交する状態)の時のReをフィルムの幅方向に測定したときの、そのReの最大値と最小値との差である。
【0031】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、80℃の条件下に72時間曝した際の下記式で表される値(ΔRe)が2以下であることが好ましい。
ΔRe=100×[Re(処理前)−Re(処理後)]/Re(処理前)
(なお、Re(処理前)とは、80℃の条件下に72時間曝す前の面内レターデーションを任意の場所で5点測定したものの平均値であり、Re(処理後)とは、80℃の条件下に72時間曝した後の面内レターデーションを任意の場所で5点測定したものの平均値である。)
ΔReが2を超えるフィルムを、表示装置に用いた場合には、高温域で表示画面に視認方向による色味変化が大きく生ずるおそれがある。
【0032】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、80℃の条件下に72時間曝した際の下記式で表される値(ΔRth)が2以下である。
ΔRth=100×[Rth(処理前)−Rth(処理後)]/Rth(処理前)
(なお、Rth(処理前)とは、80℃の条件下に72時間曝す前の厚さ方向レターデーションを任意の場所で5点測定したものの平均値であり、Rth(処理後)とは、80℃の条件下に72時間曝した後の厚さ方向レターデーションを任意の場所で5点測定したものの平均値である。)
ΔRthが2を超えるフィルムを、表示装置(特に、バーチカルアラインメントモードの液晶表示装置)に用いた場合には、高温域で表示画面の視野角が低下する。
【0033】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは長尺状であることが好ましい。長尺状とは、フィルムの幅方向に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
【0034】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムを製造する方法としては、ロール延伸機を用いてロール間の周速の差を利用して、IR加熱方式、フロート方式等により、縦方向に一軸延伸した後、テンター延伸機を用いて横方向に一軸延伸する方法を適用し得る。
【0035】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法は、縦延伸倍率をRm、横延伸倍率をRtとしたとき、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムを、Rm<1.3、好ましくはRm<1.2でロールにて縦延伸を行った後、Rm+0.3<Rt、好ましくはRm+0.4<Rtでテンター延伸機にて横延伸を行う。さらに、横延伸温度は縦延伸温度よりも5℃以上高いことが好ましく、好ましくは10℃以上高いことがさらに好ましい。
この場合、詳細な機構は不明ではあるが、前段の縦延伸においては大きな配向を低い延伸倍率で得ることにより厚みの低下を抑え、後段の横延伸において高温、高倍率延伸を行うことで前述の緩和時間の短い成分の除去を行えると考えられる。(高温、高倍率延伸による製膜は、延伸された分子鎖の緩和成分の内、比較的緩和時間の短い物を緩和させた状態で製品を作り出すことが可能であり、結果として緩和時間の長い成分をフィルム内に残すことが可能となることが推定される。)
上記のような条件で、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムを延伸することにより、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムのΔRthを2以下にすることができる。
【0036】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法は、テンター延伸機出口の引取り張力を200N/m以下にすることが好ましく、180N/mにすることがさらに好ましい。引取り張力を上記範囲とすることにより、横延伸時のフィルムを特にその流れ方向に緩和しやすくして、前述の緩和時間の短い成分の除去を行うことができると考えられ、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムのΔRthを2以下にすることができる。引取り張力は、フィルムの延伸が施される箇所より生産ライン後方に設置した引取りロールにより調整することができる。引取りロールとは、テンター延伸機から送り出されてくるフィルムを引き取るための周知のロールで、冷却用として利用できることが望ましい。引取りロールは1個であっても、複数であってもよい。引取り張力の調整は、公知のプロセス制御、例えば、PID制御により行うことができる。制御周期は通常3〜30分、好ましくは5〜15分である。
【0037】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法は、下述のテンターチェーンの張力を1960N以下にすることが好ましく、1700N以下にすることがさらに好ましい。テンターチェーン張力を上記範囲とすることにより、延伸時のフィルムを特にその幅方向に緩和しやすくして、前述の緩和時間の短い成分の除去を行うことができると考えられ、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムのΔRthを2以下にすることができる。テンターチェーン張力は、テンター延伸機のフィルム入口側もしくは出口側のスプロケットの軸固定台の位置を移動させることにより調整することができる。この際、入口側のスプロケットの軸と出口側のスプロケットの軸との距離が互いに遠ざかるとテンターチェーン張力が緊張し、互いに近づくとテンターチェーン張力が弛緩する。テンターチェーン張力の調製は、前記引取り張力の調整と同様、公知のプロセス制御により行うことができ、制御周期は通常3〜30分、好ましくは5〜15分である。
【0038】
テンター延伸機は、図1および図2に示すように、フィルムを加熱するオーブン1と、フィルム幅方向両端部をそれぞれ把持する左右各複数対の把持具(図示略)と、把持具が搭載された単位チェーン8(図2では単位チェーンの一部(8a1〜8a4および8b1〜8b4)のみを示した)と、単位チェーン(把持具)の走行を案内する左右一対のガイドレール7が設けられている。そして、単位チェーンは、閉曲線状に連結されることで、左右一対の連結体(以下、テンターチェーン2とする)となっている。
テンターチェーンは、テンター延伸機のフィルム入口側および出口側に設けられたスプロケット3および4に各々巻き掛けられている。スプロケットが外部の駆動装置により、同期回転することで、テンターチェーンはガイドレール上を巡回移動する(図1および図2の矢印の方向)。テンターチェーンの巡回の行程で、テンター延伸機のフィルム入口側において把持具はフィルム幅方向両端部を保持し、ガイドレールに沿って移動する事によりフィルムを延伸できるようになっている。
オーブンは、必要に応じて複数のブロックに分割し、各ブロックの雰囲気温度を必要に応じて調整することができる。把持具の数は、ラインの長さにもよるが、一般的には片側数百個程度である。
【0039】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法は、延伸後のフィルムを、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムのTg−30℃以下の温度で24時間以上熱処理することが好ましい。上記範囲で熱処理をすることにより、より効果的に緩和しやすい成分を除去することができると考えられ、本発明の延伸ポリオレフィンフィルムのΔRthを2以下にすることができる。このような処理はRe、Rthの低下を招くため処理前のRe、Rthを目標に対して高く設定する等、注意して処理しなければならない。熱処理は一般的な恒温恒湿槽を用いることによって行うことができる。
【0040】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムの表面には、必要に応じて表面処理を行うことができる。表面処理する方法としては、グロー放電処理、コロナ放電処理、紫外線処理、火炎処理などが挙げられる。を表面処理することにより、例えば偏光板保護フィルムとして用いる際に偏光子との接着性を改善することができる。
【0041】
本発明の偏光板は、偏光膜の少なくとも片面に本発明の延伸ポリオレフィンフィルムを備える。本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、偏光膜の両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層数にも特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。また、積層手法としては、必須手法ではないが、接着剤を用いて積層させることができる。延伸ポリオレフィンフィルムと偏光膜との間に本発明の特性を損なわない範囲で他の部材を介在させることもできる。
【0042】
偏光膜には、ポリピニルアルコールや部分ホルマール化ポリビニルアルコール等の従来に準じた適宜なビニルアルコール系ポリマーよりなるフィルムに、ヨウ素や二色性染料等よりなる二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適宜な処理を適宜な順序や方式で施したもので、自然光を入射させると直線偏光を透過する適宜なものを用いることができる。特に、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。偏光膜の厚さは、5〜80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0043】
本発明の延伸ポリオレフィンフィルムは、容易に製造が可能で、複屈折の高度な補償が可能なので、それ単独あるいは他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償フィルムとして、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに備えることが可能である。液晶表示装置としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。この中でも、特にVAモードの液晶表示装置に対して、視野角補償効果が大きい。
【0044】
前記液晶表示装置において、液晶表示装置の形成に際しては、例えばプリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトや輝度向上フィルム等の適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。バックライトとしては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。
【実施例】
【0045】
本発明を、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
(1)厚み
(株)ミツトヨ製スナップゲージID−C112BSを用いて面内の50箇所を測定しその平均値を厚みとする。
(2)ガラス転移温度
セイコーインスツルメンツ(株)製DSC−6600を用い、サンプル重量10mg、昇温度速度10℃/minにて測定を実施する。
(3)Re及びRth
王子計測(株)製のKOBRA−21ADHを用いてフィルムの巾方向に対し中心付近を5点測定しその平均値を測定値とする。
(4)引取り張力
図3のような構成で、テンター延伸機と引取りロールとの間にフリーロールを設置し、このフリーロールにロードセル(三菱電機(株)製、LM-10PD)を取り付け、フィルムから該フリーロールに加わる荷重N1を測定する。さらに、N1をフィルムの走行方向へベクトル分解した荷重N2を求め、N2をフィルム幅で割った値を引取り張力とする。
(5)テンターチェーン張力
テンター延伸機の左右のスプロケットにロードセル(三菱電機(株)製、LM-10PD)を取り付け、フィルムの延伸時に該スプロケットに加わる荷重Nをそれぞれ測定し、それらの測定値の平均値を算出する。
(6)液晶表示装置の表示特性
延伸フィルムを組み込んだ液晶表示装置の画像を80℃の恒温槽にて72時間保持して前後の画像表示を目視観察して比較する。
【0046】
(実施例1)
ノルボルネン系樹脂であるZEONOR1420(日本ゼオン(株)製)のペレットを100℃で5時間乾燥した後、常法によって該ペレットを押出し機に供給して250℃で溶融してダイから冷却ドラム上に吐出し、厚さ150μmの未延伸フィルムa-1を得た。続いて、ロール間でのフロート方式を用いた縦延伸機にて、未延伸フィルムa-1を143℃の温度で縦方向に1.2倍に延伸し、さらにこれを、テンター法を用いた横延伸機に供給し、引取り張力とテンターチェーン張力とを調整しながら、150℃の温度で横方向に1.8倍に延伸し、2軸延伸フィルムA-1を得た。得られた延伸フィルムの物性と評価結果を表1に示す。
延伸フィルムA-1と透過軸が長さ方向にある偏光板(サンリッツ社製、HLC2-5618S、厚さ180μm)とをロールトゥーロール法により積層して光学素子の巻状体を得た。この時、延伸フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸とがほぼ垂直となるように積層した。この巻状体から切り出した光学素子を、市販のバーチカルアラインメント(VA)モードの液晶表示装置の視認側の偏光板と置き換え、積層体が液晶セル側に配置するように組み込み、液晶表示装置(A)を得た。評価結果を表2に示す。
【0047】
(比較例1)
実施例1と同様の手段により、厚さ130μmの未延伸フィルムb-2を得た。さらに、横延伸時の製造条件を変更した以外は、実施例1と同様にして、延伸フィルムB-1を得た。加えて、実施例1と同様にして、VAモードの液晶表示装置(B)を得た。全ての評価結果を表1および表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1および表2に示した結果から以下のことがわかる。
本発明方法により製造された実施例1のフィルムは、高温域においてもReの変化が小さいことに加えて、Rthの変化が小さいために、これを使用した液晶表示装置の表示性能を確認すると、高温域においても、特に斜め方向から画面を観察した場合での色味変化が生じることがなく、表示特性は良好である。
これに対して、(縦延伸の延伸倍率+0.3)倍を下回る倍率で横延伸を行い、引取り張力が200N/mを超え、且つ、テンターチェーン張力が1960Nを超えた状態で製造した比較例1のフィルムは、高温域においてのReやRthの変化が大きく、これを液晶表示装置に使用して表示性能を確認すると、高温域においての表示特性が不良である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】テンター延伸機の説明図である。
【図2】テンター延伸機のテンターチェーンとガイドレールの説明図である。
【図3】テンター延伸機出口のフィルムの引取り張力の測定の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 オーブン
2 テンターチェーン(単位チェーンの連結体)
3 入口側スプロケット
4 出口側スプロケット
5 延伸前(フィルム入口側)のフィルム
6 延伸後(フィルム出口側)のフィルム
7 ガイドレール
8 単位チェーン
9 単位チェーンに搭載された把持具で把持されたフィルム
10 テンター延伸機
11 フリーロール
12 フリーロール(ロードセルを設置したもの)
13 延伸ポリオレフィンフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度130〜150℃、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))1.2〜3.5の脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムを2軸延伸してなり、80℃の条件下に72時間曝した際の下記式で表される値(ΔRth)が2以下であることを特徴とする延伸ポリオレフィンフィルム。
ΔRth=100×[Rth(処理前)−Rth(処理後)]/Rth(処理前)
【請求項2】
縦延伸倍率をRm、横延伸倍率をRtとしたとき、脂環式ポリオレフィン樹脂のフィルムを、Rm<1.3でロール延伸機にて縦延伸を行った後、Rm+0.3<Rtでテンター延伸機にて横延伸を行うことを特徴とする延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項3】
横延伸温度が縦延伸温度よりも5℃以上高いことを特徴とする請求項2記載の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項4】
テンター延伸機出口の引取り張力を200N/m以下にすることを特徴とする請求項2記載の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項5】
テンター延伸機のテンターチェーン張力を1960N以下にすることを特徴とする請求項2記載の延伸ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の延伸ポリオレフィンフィルムを備える偏光板。
【請求項7】
請求項1記載の延伸ポリオレフィンフィルムを備える表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−235085(P2006−235085A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47572(P2005−47572)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】