説明

建入れ治具

【課題】 上方柱体および下方柱体の外方に向けてのいたずらな突出を抑制する。
【解決手段】 下方エレクションピースE1に連結される下方フレーム体1が一端部11に下方ボルト体5を螺合させると共に他端部12に駆動ボルト体3の下方ネジ部32を螺合させ、上エレクションピースE2に連結される上方フレーム体2が一端部21に上方ボルト体6を螺合させると共に他端部22に駆動ボルト体3の上方ネジ部33を螺合させ、下方ネジ部32における螺条の形成方向と上方ネジ部33における螺条の形成方向とが同一方向に設定され、下方ネジ部32におけるネジピッチと上方ネジ部33におけるネジピッチとの間にネジピッチ差を有し、下方フレーム体1における他端部12の下方エレクションピースE1に当接する当接面および上方フレーム体2における他端部22の上方エレクションピースE2に当接する当接面がそれぞれ突出する湾曲面12a,22aとされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建入れ治具に関し、特に、既設となる下方の柱体に新たとなる上方の柱体を連結するのに際して、上方の柱体における垂直度の調整を可能にする調整装置たる建入れ治具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上方に連続する柱体を利用して構築物を構築する際、すなわち、既設となる下方の柱体に新たとなる上方の柱体を連結して構築物を構築する際には、建入れ調整と称して、上方の柱体における垂直度の調整が実施される。
【0003】
そして、この建入れ調整が鉄骨製の柱体に対して実施される場合には、柱体が鋼材で形成されて重量物となることもあって、従来から専用の調整装置たる建入れ治具が利用されるとし、この建入れ治具について、これまでに種々の提案がある。
【0004】
その中で、たとえば、特許文献1に開示の提案にあっては、一方部材に連結される一方側のワークと他方部材に連結される他方側のワークとが径を大小にする有底筒状に形成されると共に、各筒部における開口を対向させた状態から小径側とされる一方側のワークにおける筒部を大径側とされる他方側のワークにおける筒部内に出没可能に嵌合してなる。
【0005】
そして、この提案にあっては、両側のワークの軸芯部に駆動軸が配設され、この駆動軸の駆動、すなわち、回動で、一方側のワークと他方側のワークとが遠近する。
【0006】
すなわち、駆動軸にあっては、操作部を有する基端側が一方側のワークにおける底部の軸芯部に螺合すると共に、先端側が他方側のワークにおける底部の軸芯部に螺合する。
【0007】
その一方で、この駆動軸にあっては、基端側の螺条と先端側の螺条とが同一方向に形成されながら、基端側の螺条におけるネジピッチと先端側の螺条におけるネジピッチとの間にネジピッチ差を有している。
【0008】
それゆえ、上記した提案にあっては、駆動軸の回動で、一方側のワークおよび他方側のワークが、相対的には、駆動軸に対して同一方向に移動するが、駆動軸における基端側のネジピッチと先端側のネジピッチとの間にネジピッチ差があるため、遠近する。
【0009】
その結果、上記した提案によれば、一方側のワークと他方側のワークとが遠近されることで一方部材と他方部材とを遠近させることが可能になり、たとえば、建入れ治具とする場合には、いわゆる建入れ調整を実施し得るのはもちろんのこと、建入れ治具におけるいたずらな大型化を回避し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004‐150235号公報(要約,特許請求の範囲,図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、建入れ治具とされて建入れ調整を実施し得る点で、基本的に問題がある訳ではないが、そのいたずらな大型化を回避するのについて、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0012】
すなわち、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、駆動軸の軸線方向となる軸方向の全体長さは短くなるが、駆動軸の軸線を横切る方向となる径方向の長さが大きくなり易い不具合がある。
【0013】
すなわち、上記の提案にあっては、小径側とされる一方側のワークにおける筒部が大径側とされる他方側のワークにおける筒部内に嵌合されるから、駆動軸の軸線方向となる全体の長さ、すなわち、軸線方向の長さは短くなる。
【0014】
しかし、駆動軸の軸線を横切る方向となる径方向、すなわち、駆動軸を中心にして回動するワーク、特に、内側に一方側のワークを嵌合させる他方側のワークにおける外径が大きくなり易くなる。
【0015】
そして、上記の提案が建入れ治具に具現化されるのにあって、他方側のワークにおける外径が大きくなると、建入れ治具が被連結部材側たる一方部材側あるいは他方部材側から看るといたずらに突出する傾向になり易く、したがって、建入れ治具が他部や作業者と干渉し易くなり、いわゆる作業性を低下させ易くなる。
【0016】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、いわゆる建入れ調整を実現し得るのはもちろんのこと、特に、被連結部材側たる柱体からのいたずらな突出を抑制することで、他部や作業者との干渉を回避し易くし、その汎用性の向上を期待するのに最適となる建入れ治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した目的を達成するために、この発明による建入れ治具の構成を、基本的には、下方エレクションピースに分離可能に連結される下方フレーム体と、上方エレクションピースに分離可能に連結される上方フレーム体と、下方フレーム体における一端部に螺合されて先端を下方エレクションピースに当接させこの下方エレクションピースを下方フレーム体における他端部との間に挟持する下方ボルト体と、上方フレーム体における一端部に螺合されて先端を上方エレクションピースに当接させこの上方エレクションピースを上方フレーム体における他端部との間に挟持する上方ボルト体と、下方フレーム体と上方フレーム体とをそれぞれの他端部を対向させながら直列させて回動時に下方フレーム体と上方フレーム体との間隔を広狭する駆動ボルト体とを有し、駆動ボルト体が軸線方向の中央部に駆動操作部を有すると共にこの駆動操作部を軸線方向から挟むように設けられて下方フレーム体の他端部に螺合する下方ネジ部および上方フレーム体の他端部に螺合する上方ネジ部を有し、下方ネジ部における螺条の形成方向と上方ネジ部における螺条の形成方向とが同一方向に設定されると共に下方ネジ部におけるネジピッチと上方ネジ部におけるネジピッチとの間にネジピッチ差を有してなるとし、より具体的には、上記の構成において、下方エレクションピースに対向する下方フレーム体における他端部の当接面が下方エレクションピースに向かって突出する湾曲面とされ、上方エレクションピースに対向する上方フレーム体における他端部の当接面が上方エレクションピースに向かって突出する湾曲面とされてなるとする。
【発明の効果】
【0018】
それゆえ、この発明にあっては、下方フレーム体が下方エレクションピースを固定状態に連結させると共に、上方フレーム体が上方エレクションピースを固定状態に連結させる一方で、上方フレーム体および下方フレーム体が直列に駆動ボルト体で連結されるから、この駆動ボルト体の駆動たる回動で下方フレーム体および上方フレーム体が相対的に看て駆動ボルト体の軸線方向に移動され、したがって、下方エレクションピースに対して上方エレクションピースを移動し得る。
【0019】
このとき、この発明にあっては、下方フレーム体および上方フレーム体が駆動ボルト体で直列に連結されるから、下方フレーム体および上方フレーム体が嵌合されていわゆる横方向に連結される場合に比較して、たとえば、柱体の外方に大きく突出しない。
【0020】
のみならず、この発明にあっては、下方フレーム体および上方フレーム体が、たとえば、柱体に設けられる下方エレクションピースおよび上方エレクションピースが占有する領域内に位置決められることで、下方エレクションピースおよび上方エレクションピースより外方に突出せず、他部や作業者との干渉を回避し易くなる。
【0021】
そして、この発明にあっては、駆動ボルト体において、下方フレーム体に螺合する下方ネジ部および上方フレーム体に螺合する上方ネジ部がそれぞれの螺条の形成方向を同一方向にしながら、下方ネジ部におけるネジピッチと上方ネジ部におけるネジピッチとの間にネジピッチ差を有するから、駆動ボルト体の回動時に下方フレーム体と上方フレーム体との間にあって、下方ネジ部と上方ネジ部との間にネジピッチ差分に基づく変位が出現し、したがって、下方フレーム体と上方フレーム体との間の広狭が具現化される。
【0022】
また、この発明にあっては、下方エレクションピースに対向する下方フレーム体における他端部の当接面が下方エレクションピースに向かって突出する湾曲面とされ、上方エレクションピースに対向する上方フレーム体における他端部の当接面が上方エレクションピースに向かって突出する湾曲面とされるから、各他端部の当接面が平坦面に形成される場合に比較して、下方エレクションピースあるいは上方エレクションピースの安定した接触状態を保障する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施形態による建入れ治具を示す正面図である。
【図2】図1に示す建入れ治具の側面図である。
【図3】駆動ボルト体を拡大して示す縦断面図で、(A)は、駆動操作部がナット状体からなる実施形態を示し、(B)は、駆動操作部がフランジ状体からなる実施形態を示し、(C)は、駆動操作部がラチェット機構を有する回動体からなる実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による建入れ治具は、図示する実施形態では、図1および図2に示すように、既設となる鉄骨製の下方柱体P1に新たとなる鉄骨製の上方柱体P2を連結して構築物を構築する際の建入れ調整を、すなわち、上方柱体P2における垂直度の調整を実施するために用いられる。
【0025】
ちなみに、垂直度の調整は、上方柱体P2が鉛直状態に立設される場合の他、傾斜状態に立設される場合にも、実践されることはもちろんであるが、以降の説明にあっては、上方柱体P2を鉛直状態に立設する場合における垂直度の調整とする。
【0026】
そのため、この建入れ治具は、基本的には、下方エレクションピースE1に分離可能に連結される下方フレーム体1と、上方エレクションピースE2に分離可能に連結される上方フレーム体2と、下方フレーム体1と上方フレーム体2とを嵌合させることなく直列に連結する駆動ボルト体3とを有してなる。
【0027】
少し説明すると、下方エレクションピースE1および上方エレクションピースE2は、それぞれ鉄骨製の下方柱体P1および上方柱体P2にあらかじめ、すなわち、構築物の構築工事現場に搬入される前に工場などで溶接される。
【0028】
そして、この発明による建入れ治具を利用するのに際しては、まず、下方エレクションピースE1に下方フレーム体1を連結させるが、そのため、下方エレクションピースE1には連結ピン4(図2参照)のピン部41を挿通させるピン孔42があらかじめ開穿される。
【0029】
そして、このピン孔42は、連結ピン4を利用して下方フレーム体1を下方エレクションピースE1に言わば仮に連結させることからして、図示しないが、いわゆる誤差を許容するように、ピン部41の径より大径の孔とされたり、ピン部41と下方エレクションピースE1との間における相対移動を許容する長孔とされたりする。
【0030】
ちなみに、凡そこの種のエレクションピースは、概ね鋼板で板状体に形成されて柱体に溶接され、爾後に溶断されて撤去されるのが常態であるが、これが柱体に残存されても、この発明が意図するところからは、基本的に、不都合はない。
【0031】
また、この発明による建入れ治具にあっては、柱体がそれぞれエレクションピースを有することを必須とするものではなく、図示しないが、たとえば、柱体がH型鋼からなるとき、この柱体におけるフランジ部をエレクションピースに代えるとしても良く、この場合には、エレクションピースの配設を省略でき、部品削減を可能にすると共に、溶接の手間を省ける上で有利となる。
【0032】
なお、この建入れ治具は、図1および図2に示すように、下方柱体P1と上方柱体P2との連結部分に、すなわち、突き合わされるようになる下方柱体P1の上端部と上方柱体P2の下端部とに架け渡されるように配設される。
【0033】
そして、このとき、建入れ治具は、図示しないが、柱体の複数箇所に、すなわち、たとえば、柱体が角筒状に形成されて四角形の横断面を有するように形成されるとき、各側面となる計四面に配設されるのが常態であるが、便法で、平面視でいわゆる三点配置とされる場合もある。
【0034】
また、連結ピン4を利用して下方フレーム体1を下方エレクションピースE1に連結させる際には、この下方フレーム体1に後述する駆動ボルト体3を介して上方フレーム体2も一体的に連結した状態で下方エレクションピースE1に連結させるのが良い。
【0035】
その際には、先ず、下方フレーム体1,駆動ボルト体3および上方フレーム体2からなる直列体にあって、上方フレーム体2を手前に倒すようにして全体を斜めにした状態で、下方フレーム体1を下方エレクションピースE1に連結ピン4の利用で連結する。
【0036】
そして、その後に、連結ピン4を回転中心にして上方フレーム体2を起こすようにして全体を直立させ、上方フレーム体2の内側の内空部に上方エレクションピースE2を挿通させる。
【0037】
そしてまた、下方フレーム体1の内側に下方エレクションピースE1を挿通させるとき、および、上方フレーム体2に上方エレクションピースE2を挿通させるときには、後述する下方ボルト体5および上方ボルト体6を相応の位置に螺合しないで、あるいは、螺合するとしても各フレーム体1,2の内側に出現される内空部をいたずらに侵害しないで大きく残し、各エレクションピースE1,E2の挿通性を良くする。
【0038】
なお、連結ピン4は、ネジ部43(図2参照)が下方フレーム体1に開穿のネジ孔(符示せず)に螺合されることで、下方フレーム体1に連結保持されて、ピン部41を下方エレクションピースE1に開穿のピン孔42に挿通させる。
【0039】
ところで、下方フレーム体1および上方フレーム体2についてであるが、外観的には、同一形状に形成されて良く、また、それで足りるが、駆動ボルト体3の螺合および後述する調整ボルト体7,8,9の螺合を許容する点で構造的な差異がある。
【0040】
そして、この下方フレーム体1および上方フレーム体2は、外観的には、同一形状に形成されて良いことから、たとえば、鋳造され、爾後の切削加工などのいわゆる整形時に上記の各ボルト体3,7,8,9の螺合を許容するネジ孔(符示せず)が形成される。
【0041】
ちなみに、鋳造された各フレーム体1,2に対する整形は、上記のネジ孔を形成する場合の他に、各フレーム体1,2における後述する他端部12,22の湾曲面からなる当接面12a,22a(図1参照)を形成する場合にも実践されてよいが、これに代えて、この湾曲面からなる当接面12a,22aの形成には、鋳造のままにされて、上記の整形を伴わなくても良い。
【0042】
なお、各フレーム体1,2は、内側に各エレクションピースE1,E2を挿通させるため、図2に示すように、側面から見て、細巾で縦長となる内空部(符示せず)を有するが、ここに挿通される各エレクションピースE1,E2は、上記した当接面12a,22aを除いて、この中空部を形成する内壁面(符示せず)などに接触しないから、この内壁面などがいわゆる仕上げのために切削などされて整形されることを要しない。
【0043】
もっとも、見た目を良くするためや、仮に各エレクションピースE1,E2が内壁面などに接触する場合の弊害を除去するためなどで、この内壁面などが切削などされて整形されることは妨げられない。
【0044】
また、後述する下方ボルト体5および上方ボルト体6を螺合させるネジ孔については、両方のボルト体5,6が同一形状に形成されて良いことから、図示するところにあっては、各フレーム体1,2にいわゆる付き物として切削整形、すなわち、開穿される。
【0045】
以上のように形成される各フレーム体1,2には、各エレクションピースE1,E2を固定状態に連結させるための配慮がなされているので、以下にはこれについて少し説明する。
【0046】
まず、各フレーム体1,2の内側に挿通されたエレクションピースE1,E2をその挿通状態のままに定着されて固定状態にされるように、下方フレーム体1は、図1中および図2中で下端部となる一端部11に下方ボルト体5を螺合させ、同様に、上方フレーム体2は、図1中および図2中で上端部となる一端部21に上方ボルト体6を螺合させる。
【0047】
このとき、各ボルト体5,6は、軸線方向が各柱体P1,P2の軸線方向と同一とされながら、各フレーム体1,2の一端部11,21の軸芯部に螺合され(図1参照)、各先端が各エレクションピースE1,E2の下端あるいは上端にいわゆる真芯に当接される(図2参照)。
【0048】
そして、この各ボルト体5,6が各フレーム体1,2における各一端部11,21に螺合されて各先端を各エレクションピースE1,E2の下端あるいは上端に当接させた状態でさらに捩じ込まれるとき、各フレーム体1,2が各ボルト体5,6の頭部(符示せず)に近づくように引き寄せられ、各エレクションピースE1,E2が各フレーム体1,2における他端部12,22に押し付けられて、各ボルト体5,6の先端と他端部12,22との間に挟持され、その結果、各エレクションピースE1,E2が各フレーム体1,2に固定状態に連結される。
【0049】
なお、各ボルト体5,6の各フレーム体1,2における各一端部11,21への螺合には、スパナなどの適宜の工具が利用されるであろう。
【0050】
ところで、前述したように、エレクションピースは、あらかじめ柱体に溶接されるが、この溶接の際に、いわゆる曲がった状態に溶接されて、エレクションピースE1,E2の上端あるいは下端が前傾したり後傾したりすることがある。
【0051】
また、エレクションピースは、鋼板を切断するなどして形成されるが、この形成の際に、上端や下端となる辺が傾斜しており、そのまま柱体に溶接されて、結果として、エレクションピースE1,E2の上端あるいは下端が前傾したり後傾したりすることもある。
【0052】
このとき、各エレクションピースE1,E2の上端を接触させる各フレーム体1,2における他端部12,22の当接面が平坦面に形成されている場合には、各エレクションピースE1,E2の各他端部12,22に対する安定した接触状態を保障できなくなる。
【0053】
そこで、この発明にあっては、各フレーム体1,2における他端部12,22の当接面が各エレクションピースE1,E2上端あるいは下端に向かって突出する湾曲面12a,22aとされるとし、各エレクションピースE1,E2の各他端部12,22に対する安定した接触状態を保障する。
【0054】
一方、下方フレーム体1を下方エレクションピースE1に固定的に連結させ、また、上方フレーム体2を上方エレクションピースE2に固定的に連結させるのにあっては、駆動ボルト体3を介してであるが、下方フレーム体1の軸線方向と上方フレーム体2の軸線方向とが一致することが肝要になる。
【0055】
つまり、建入れ調整の原理からすれば、また、建入れ治具が機能するところからすれば、下方フレーム体1は、基本的には、下方柱体P1に連結され、また、上方フレーム体2も、基本的には、上方柱体P2に連結されて良いが、実際に連結状態を具現化するにはそれぞれエレクションピースE1,E2が利用される。
【0056】
しかし、前述したように、エレクションピースを柱体に溶接することを鑑みるとき、エレクションピースの軸芯線の方向と柱体の軸芯線の方向とが絶対的に一致するとは言い得ないのも事実である。
【0057】
したがって、たとえば、下方柱体P1に溶接された下方エレクションピースE1の軸芯線の方向が下方柱体P1の軸芯線の方向と一致しない場合、すなわち、芯ズレしている場合に、この下方エレクションピースE1に下方フレーム体1をいわゆる同芯に連結すると、駆動ボルト体3を介してであるが、上方エレクションピースE2に連結される上方フレーム体2に同芯に直列し得ないことになり得る。
【0058】
そこで、この発明の建入れ治具にあっては、下方エレクションピースE1の下方柱体P1に対する連設状況が如何様にあっても、この下方エレクションピースE1に下方フレーム体1を連結するとき、下方フレーム体1における軸芯線の方向が下方柱体P1の軸芯線の方向と一致することになるように、上下となる調整ボルト体7,8を有してなる。
【0059】
このとき、この各調整ボルト体7,8が上下に配設されるのは、下方エレクションピースピースE1が下方柱体P1に一体に設けられているので、この下方エレクションピースE1に下方フレーム体1をいわば固定的に連結させる状態を具現化させるためである。
【0060】
それゆえ、この下方フレーム体1にあっては、上下となる各調整ボルト体7,8の下方フレーム体1に対する螺入量の調整で、エレクションピースE1における軸芯線の方向に拘わりなく、下方フレーム体1における軸芯線の方向を下方柱体P1における軸芯線の方向に一致させる、すなわち、芯ズレを修正することが可能になる。
【0061】
上記に対して、上方フレーム体2にあっては、上方フレーム体2が上方柱体P2に対していわゆる偏芯可能に連結されることが肝要となる。
【0062】
つまり、上方柱体P2は、下方柱体P1に延長されるように連結されるので、基本的には、軸芯線の方向が上方柱体P2と下方柱体P1との間で一致する必要がある。
【0063】
しかし、上方エレクションピースE2が上方柱体P2のいわゆる中心に溶接されているとは限らず、実際には、偏芯していたり、あるいは、僅かに傾斜していたりすることがある。
【0064】
そこで、上方フレーム体2は、内側に挿通される上方エレクションピースE2を図2中で左右方向から挟むようにする一対の調整ボルト体9を有してなり、このとき、この左右となる各調整ボルト体9は、上方エレクションピースE2における下端側でこの上方エレクションピースE2を挟持するように配設される。
【0065】
つまり、上方エレクションピースE2は、これから垂直度が調整されようとしている上方柱体P2に連設されているから、一対の調整ボルト体9は、上方柱体P2における垂直度の調整作業の妨げにならないように上方エレクションピースE2をその下端側で挟持する。
【0066】
以上のように、上方フレーム体2が左右で一対となる調整ボルト体9を有するから、この上方フレーム体2を上方エレクションピースE2に連結したときに、左右の調整ボルト体9の上方フレーム体2に対する螺入量を調整することで、上方フレーム体2の軸芯線の方向を上方柱体P2の軸芯線の方向に一致させる、すなわち、芯ズレたる眼違いを修正することが可能になる。
【0067】
上記の調整ボルト体7,8,9については、所定の機能を発揮すれば良いから、これが前記した下方ボルト体5および上方ボルト体6と同様に、すなわち、符示などしないが、ボルト頭の大きさを同じにし、螺条軸の太さ長さを同じにし、また、ネジピッチを同じにして、いわゆる共用を可能にして、部品点数の削減を意図しても良い。
【0068】
駆動ボルト体3は、下方フレーム体1と上方フレーム体2とをそれぞれの他端部12,22を対向させながら直列させて回動時に下方フレーム体1と上方フレーム体2との間隔を広狭するもので、図示するところにあっては、軸線方向の中央部に駆動操作部31を有すると共に、この駆動操作部31を軸線方向から挟むように設けられて下方フレーム体1の他端部12に螺合する下方ネジ部32および上方フレーム体2の他端部22に螺合する上方ネジ部33を有する。
【0069】
そして、この駆動ボルト体3にあっては、下方ネジ部32における螺条(符示せず)の形成方向と上方ネジ部33における螺条(符示せず)の形成方向とが同一方向に設定されると共に、下方ネジ部32におけるネジピッチと上方ネジ部33におけるネジピッチとの間にネジピッチ差を有している。
【0070】
このとき、下方ネジ部32が螺合される下方フレーム体1における他端部12、および、上方ネジ部33が螺合される上方フレーム体2における他端部22は、各フレーム体1,2において反対側となる一端部11,21における肉厚に比較して、各エレクションピースE1,E2に当接する湾曲面12a,22aを有するように厚肉に形成されることもあって、各ネジ部32,33を螺合させるネジ孔(符示せず)をより長く形成させて、各ネジ部32,33の移動ストロークを保障している。
【0071】
ところで、下方ネジ部32における螺条の形成方向と上方ネジ部33における螺条の形成方向とが同一方向に設定されることに関してだが、これが互いに逆方向に設定されると、いわゆるターンバックル方式になる。
【0072】
この両側の螺条における形成方向がターンバックル方式に設定される場合には、一回転当りのストローク、いわゆる両側の遠近するストロークを迅速にしかも大きく取れるが、建入れ治具のように、重量物たる鉄鋼製の柱体を昇降させることを考慮すると、両側の螺条の形成方向が互いに逆となるターンバック方式に設定される場合には、回動トルクが過大となり、殆ど利用不可能になると言っても過言でないであろう。
【0073】
それに対して、少なくとも、両方の螺条の形成方向が同一に設定される場合には、ターンバック方式に比較すれば、一回転当りのストロークがちいさくなるが、それに伴い回動トルクが小さくなり、作動性から看れば、良好になると言い得る。
【0074】
そして、この両側の螺条の形成方向が同一に設定される上で、両側の螺条におけるネジピッチに差、すなわち、ネジピッチ差を設けることで、このネジピッチ差分に基づく変位の発生を両者間、すなわち、上方フレーム体1と下方フレーム体2との間に期待できる。
【0075】
このとき、図示するところでは、下方ネジ部32におけるネジピッチが、たとえば、3mmとされるのに対して、上方ネジ部33におけるネジピッチが、たとえば、4mmとされて、下方ネジ部32におけるネジピッチのほうが上方ネジ部33におけるネジピッチより小さくなるとしている。
【0076】
したがって、たとえば、駆動ボルト体3が回動されて下方ネジ部32が下方フレーム体1の他端部12に3mm螺入されたとすると、上方フレーム体2の他端部22にあっては、上方ネジ部33が4mm抜け出すことになり、その結果、4mm−3mm=1mmだけ、下方フレーム体1に対して上方フレーム体2が上昇する。
【0077】
つまり、駆動ボルト体3を、たとえば、一回転させて上方フレーム体2を1mm上昇させる場合と、駆動ボルト体3を三回転させて上方フレーム体2を1mm上昇させる場合とを比較すれば、後者の方が小さいトルクの作用で済み、駆動ボルト体3に対する回転作業は多くなるが、上方フレーム体2を上昇させる上からは、有利になる。
【0078】
以上からすると、駆動ボルト体3にあって、中央部の駆動操作部31を挟む両側のネジ部32,33における螺条の形成方向を同一にする限りには、両側のネジ部32,33にネジピッチ差があれば良い。
【0079】
したがって、上記したところでは、下方ネジ部32のネジピッチが上方ネジ部33のネジピッチより小さくなるとしたが、これに代えて、下方ネジ部32のネジピッチが上方ネジ部33のネジピッチより大きくなるとしても良い。
【0080】
ところで、上記した駆動ボルト体3は、この種の駆動ボルト体がそうであるように、多くの場合に適宜の工具利用で回動されるが、この発明にあっては、駆動ボルト体3自体の構造についても以下のような配慮をしている。
【0081】
すなわち、図3は、図1および図2に示す駆動ボルト体3を拡大して示す図であるが、図3(A)に示すところにあっては、駆動操作部31が駆動ボルト体3の中央部に一体に設けられた周知形状の六角形のナット状体31aからなる。
【0082】
それゆえ、この駆動ボルト体3にあっては、下方ネジ部32と上方ネジ部33における螺条の形成方向を同一にすると共に、下方ネジ部32におけるネジピッチと上方ネジ部33におけるネジピッチとにネジピッチ差を有する限りにその形成が容易になる利点がある。
【0083】
そして、図3(B)に示すところにあっては、駆動操作部31が駆動ボルト体3の中央部に一体に設けられた適宜肉厚のフランジ状体31bからなると共に、このフランジ状体31bが外力の入力部とされる変形部たる穴31cを有してなる。
【0084】
このとき、図示するところでは、穴31cは、フランジ状体31bの外周面から中心に向けて適宜の深さに開穿されてなるが、要は、フランジ状体31bを介して駆動ボルト体3を回動し得るものであれば足りるから、たとえば、図示しないが、穴の向きがフランジ状体31bの中心から逸れるように開穿されても良く、また、穴がフランジ状体31bの上端面あるいは下端面から肉厚を貫通する方向に開穿されても良く、さらには、肉厚を貫通する孔とされても良い。
【0085】
それゆえ、この駆動ボルト体3にあっては、フランジ状体31bを形成する手間と、このフランジ状体31bに穴31cなどの変形部を形成する手間を要するが、上記した図3(A)に示す場合と同様に、駆動操作部31と各ネジ部32,33との間におけるいわゆる一体性が保障される利点がある。
【0086】
また、図3(C)に示すところにあっては、駆動操作部31が駆動ボルト体3における軸芯線を中心にして駆動ボルト体3における中央部の外周で回動可能とされる回動体34を有すると共に、この回動体34がラチェット機構35の配在下に駆動ボルト体3の中央部に連結されてなる。
【0087】
このとき、回動体34は、外周がナット状に形成され、スパナなどの適宜の工具利用による回動を可能にし、また、ラチェット機構35は、周知のラチェット構造を有してなるもので、回動体34の正逆いずれかのか回動を実現させると共に、反対方向のいわゆるフリー回動を許容する。
【0088】
それゆえ、この駆動ボルト体3にあっては、いわゆる正転逆転の切り替えが容易になり、駆動ボルト体3の回動作業を容易にする。
【0089】
以上のように、この発明による建入れ治具にあっては、下方フレーム体1が下方エレクションピースE1を固定状態に連結させると共に、上方フレーム体2がエレクションピースE2を固定状態に連結させる一方で、下方フレーム体1および上方フレーム体2が駆動ボルト体3で直列に連結されるから、この駆動ボルト体3の回動で下方フレーム体1および上方フレーム体2が相対的に看て駆動ボルト体3の軸線方向に移動され、したがって、下方エレクションピースE1に対して上方エレクションピースE2を移動し得る。
【0090】
このとき、この発明による建入れ治具にあっては、下方フレーム体1および上方フレーム体2が駆動ボルト体3で直列に連結されるから、前記した特許文献1に開示の提案のように、互いに嵌合された状態で直列に連結される場合に比較して、下方柱体P1および上方柱体P2の外方に大きく突出しない。
【0091】
のみならず、この発明による建入れ治具にあっては、下方フレーム体1および上方フレーム体2が下方および上方となる各柱体P1,P2に設けられる下方および上方となる各エレクションピースE1,E2が占有する領域内に位置決められるから、各エレクションピースE1,E2より外方に突出せず、他部や作業者との干渉を回避し易くなる。
【0092】
そして、この発明による建入れ治具にあっては、駆動ボルト体3において、下方フレーム体1に螺合する下方ネジ部32および上方フレーム体2に螺合する上方ネジ部33がそれぞれの螺条の形成方向を同一方向にしながら、下方ネジ部32におけるネジピッチと上方ネジ部33におけるネジピッチとの間にネジピッチ差を有するから、駆動ボルト体3の回動時に下方フレーム体1と上方フレーム体2との間にあって、下方ネジ部32と上方ネジ部33との間にネジピッチ差分に基づく変位が出現し、したがって、下方フレーム体1と上方フレーム体2との間の広狭が具現化される。
【0093】
また、この発明による建入れ治具にあっては、下方エレクションピースE1に対向する下方フレーム体1における他端部12の当接面が下方エレクションピースE1に向かって突出する湾曲面12aとし、上方エレクションピースE2に対向する上方フレーム体2における他端部22の当接面が上方エレクションピースE2に向かって突出する湾曲面22aとするから、各他端部12,22の当接面が平坦面に形成される場合に比較して、下方エレクションピースE1あるいは上方エレクションピースE2の安定した接触状態を保障し得ることになる。
【0094】
さらに、この発明による建入れ治具にあっては、各フレーム体1,2は、被連結部材たる各エレクションピースE1,E2を内側の内空部に挿通させる構成とされるから、内空部をエレクションピースの軸線方向、すなわち、柱体の軸線方向にいわゆる余裕あるように長く形成することで、エレクションピースの大きさが区々になる場合にも、その利用が可能なり、いわゆる転用性が向上される。
【0095】
前記したところでは、この発明による建入れ治具が既設となる鉄骨製の下方柱体に新たに鉄骨製の上方柱体を連結して構築物を構築する際の建入れ調整を、すなわち、上方柱体における垂直度の調整を行うために用いられるとして説明したが、この種の建入れ治具が凡そ柱体を設計通りに立設させるために利用されることを鑑みると、図示などしないが、電波塔を構築するなどで柱体が斜めに立設される場合の傾斜度合いの調整に利用されるとしても良いことはもちろんである。
【0096】
そして、前記したところでは、この発明が建入れ治具であって、この建入れ治具が下方柱体P1に対して上方柱体P2を連結する際の上方柱体P2における垂直度を調整するものとして提案したが、この建入れ治具が機能する所を鑑みると、図示などしないが、この発明が垂直に立設する柱体と水平に架け渡される梁との間における芯ズレの修正に、すなわち、眼違い調整装置に具現化されても良いことはもちろんである。
【0097】
また、前記した実施形態では、各フレーム体1,2の他端部12,22における当接面が各エレクションピースE1,E2の上端あるいは下端に向けて突出する一方向性の湾曲面12a,22aからなるとしたが、この湾曲面12a,22aが機能するところを鑑みると、これに代えて、図示しないが、凸球面とされても良いことはもちろんである。
【0098】
そして、この場合には、エレクションピースが鋼板を切断などして形成されるとき、事後に上端あるいは下端となる辺部が肉厚方向に傾斜するようなことがあっても、これに対処できる上で有利となる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
既設となる下方の柱体に上方の柱体を新たに連結するのに際して、上方の柱体における垂直度の調整を可能にする調整装置への具現化に向く。
【符号の説明】
【0100】
1 下方フレーム体
2 上方フレーム体
3 駆動ボルト体
4 連結ピン
5 下方ボルト体
6 上方ボルト体
11,21 一端部
12,22 他端部
12a,22a 湾曲面
31 駆動操作部
31a ナット状体
31b フランジ状体
31c 変形部たる穴
32 下方ネジ部
33 上方ネジ部
34 回動体
35 ラチェット機構
41 ピン部
42 ピン孔
43 螺条部
E1 下方エレクションピース
E2 上方エレクションピース
P1 下方柱体
P2 上方柱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方エレクションピースに分離可能に連結される下方フレーム体と、上方エレクションピースに分離可能に連結される上方フレーム体と、下方フレーム体における一端部に螺合されて先端を下方エレクションピースに当接させこの下方エレクションピースを下方フレーム体における他端部との間に挟持する下方ボルト体と、上方フレーム体における一端部に螺合されて先端を上方エレクションピースに当接させこの上方エレクションピースを上方フレーム体における他端部との間に挟持する上方ボルト体と、下方フレーム体と上方フレーム体とをそれぞれの他端部を対向させながら直列させて回動時に上方フレーム体と下方フレーム体との間隔を広狭する駆動ボルト体とを有し、駆動ボルト体が軸線方向の中央部に駆動操作部を有すると共にこの駆動操作部を軸線方向から挟むように設けられて下方フレーム体の他端部に螺合する下方ネジ部および上方フレーム体の他端部に螺合する上方ネジ部を有し、下方ネジ部における螺条の形成方向と上方ネジ部における螺条の形成方向とが同一方向に設定されると共に下方ネジ部におけるネジピッチと上方ネジ部におけるネジピッチとの間にネジピッチ差を有し、下方エレクションピースに対向する下方フレーム体における他端部の当接面が下方エレクションピースに向かって突出する湾曲面とされ、上方エレクションピースに対向する上方フレーム体における他端部の当接面が上方エレクションピースに向かって突出する湾曲面とされてなることを特徴とする建入れ治具。
【請求項2】
駆動ボルト体にあって、駆動操作部が駆動ボルト体の中央部に一体に設けられたナット状体からなる請求項1に記載の建入れ治具。
【請求項3】
駆動ボルト体にあって、駆動操作部が駆動ボルト体の中央部に一体に設けられたフランジ状体からなると共に、このフランジ状体が外力の入力部とされる変形部を有してなる請求項1に記載の建入れ治具。
【請求項4】
駆動ボルト体にあって、駆動操作部が駆動ボルト体における軸芯線を中心にして駆動ボルト体における中央部の外周で回動可能とされる回動体を有すると共に、この回動体がラチェット機構の配在下に駆動ボルト体の中央部に連結されてなる請求項1に記載の建入れ治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate