説明

建物の壁構造設計支援システム

【課題】制震壁の配置決定を自動で行い設計者の作業負荷を軽減する。
【解決手段】間取り図データ中の制震壁の設置適合領域を判定する領域判定手段と、間取り図中で必要な数の制震壁を配置する位置を探索して、その位置情報を自動的に取得する探索手段とを備える。間取り図の図心を原点とし、壁線に平行なX軸とY軸とからなる直交座標を設定して、最外周線に近い場所から壁線を辿って制震壁の配置を決めるので、各制震壁の間の距離をできるだけ離すように自動配置できる。また、第1象限、第3象限、第2象限、第4象限という順番で制震壁の配置を決めるので、全ての制震壁を原点に対して可能な限り対称な位置に配置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の設計のうち特に制震壁を含む壁構造の設計に適する、建物の壁構造設計支援システムと建物の壁構造設計支援プログラムと記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の耐震性を向上させるために、振動減衰効果を備えた制震壁が開発された。これに伴って、制震壁の数量や配置をコンピュータにより自動的に計算する技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−108903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既知の従来の技術には、次のような解決すべき課題があった。
制震壁は一般の壁の一部として使用される。本出願人等により開発された所定の構造の制震壁は耐力壁を兼ねることもできる。耐力壁の配置は、建物の強度設計上最も重要な要素である。従って、建物の壁構造の設計時に同時に制震壁の配置等を決定することが望ましい。制震壁の配置には、その制震機能を有効に生かすための要求や制約がある。その制約をクリアする条件を求めてから最終的に設計者が配置決めをする。しかしながら、建物の間取りと壁構造の設計時に、使用材料の制約や間取り等の注文内容の変更等により条件が変更されることも多い。設計者はそのつど最適化のために試行錯誤を繰り返すことも少なくない。このとき、制震壁の配置とその他の壁の配置を選択する作業は非常に煩雑になる。
本発明は上記の課題を解決することを目的とし、制震壁の配置決定を全自動もしくは半自動で行い、設計者の作業負荷を軽減することができる、建物の壁構造設計支援システムと建物の壁構造設計支援プログラムと記録媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
建物の間取り図データと、当該建物に設けるべき制震壁の数を示すデータと、前記間取り図データ中で制震壁を設置しない場所を特定する制約条件データとを記憶した記憶装置と、前記記憶装置に記憶された前記間取り図データ中で、前記制約条件データにより特定された場所を検索する検索手段と、前記検索手段の検索結果から、前記間取り図データ中の制震壁を設置しない領域を除外した設置適合領域を判定する領域判定手段と、前記間取り図中の壁を設けるべき位置を通過する直線を壁線と呼ぶとき、その壁線と前記間取り図の図心とを検出する間取り図解析手段と、前記間取り図中に、必要な数の制震壁を配置する位置を探索して、その位置情報を自動的に取得する探索手段とを備え、前記間取り図の図心を原点とし、前記壁線に平行なX軸とY軸とからなる直交座標を設定し、前記設置適合領域に外接し前記X軸に平行な2本の直線と前記Y軸に平行な2本の直線を最外周線と呼ぶとき、前記探索手段は、第1象限において、前記X軸と前記最外周線との交点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記X軸と前記最外周線との交点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を第1象限のX軸に平行な制震壁の設置場所に決定し、第3象限において、前記X軸と前記最外周線との交点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記X軸と前記最外周線との交点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を第3象限のX軸に平行な制震壁の設置場所に決定し、第2象限において、前記Y軸と前記最外周線との交点に最も近いY軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記Y軸と前記最外周線との交点から次に近いY軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を第2象限のY軸に平行な制震壁の設置場所に決定し、第4象限において、前記Y軸と前記最外周線との交点に最も近いY軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記Y軸と前記最外周線との交点から次に近いY軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を第4象限のY軸に平行な制震壁の設置場所に決定する、という動作を必要な制震壁の数だけ繰り返して、制震壁を設置するための設置場所データを取得することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0006】
〈構成2〉
建物に設けるべきX軸方向の制震壁の数が奇数の場合に、前記探索手段は、構成1に記載の前記偶数の制震壁を設置する位置情報を取得する処理に加えて、最後に残った制震壁について、前記原点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、前記原点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記原点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再び原点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を制震壁の設置場所に決定して、制震壁を設置するための設置場所データを取得することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0007】
〈構成3〉
構成1または2に記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、前記探索手段は、探索をする壁線の近傍に既に配置が決定された制震壁があるときには、当該制震壁から所定距離の範囲に新たな制震壁を設置しないという制約条件を前記制約条件データに追加することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0008】
〈構成4〉
構成1乃至3のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、前記探索手段は、前記制震壁を設置する位置データを取得した後、前記全ての壁線上に所定の選択基準に従って選択された壁種とその設置場所を示すその他の壁の設置場所データを取得することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0009】
〈構成5〉
構成1乃至4のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、前記制震壁は、設計上の耐力壁の基準を満たすものであることを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0010】
〈構成6〉
構成5に記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、前記記憶装置には、予め設計上の基準を満たす耐力壁を配置するべき場所の位置データが記憶されており、前記探索手段は、前記壁線を辿って、前記耐力壁を設けるべき場所を探索して、最初に制震壁が収まった場所を制震壁の設置場所に決定することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0011】
〈構成7〉
構成1乃至6のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、前記探索手段は、前記制震壁を設置する設置場所データを取得した後に、該当する場所全てに基礎の立ち上がりが設けられるように、前記記憶装置に記憶された基礎データを修正することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0012】
〈構成8〉
構成1乃至7のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、前記制震壁は、上下一対の横架材と左右一対の垂直材とからなる矩形架構の内側に上下方向に隙間を有する面状部材を配置し、前記隙間に挟み込まれた制震ゴムを有することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0013】
〈構成9〉
構成1乃至7のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、前記探索手段は、前記第1象限、第3象限、第2象限、第4象限という探索場所の選択動作に替えて、前記X軸と前記最外周線との交点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記X軸と前記最外周線との交点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという探索動作を繰り返し、この探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をX軸に平行な一方の制震壁の設置場所に決定し、その後、前記Y軸を挟んでX座標の符号が反対になる場所において、前記と同様の探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をX軸に平行なもう一方の制震壁の設置場所に決定し、前記Y軸と前記最外周線との交点に最も近いY軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記Y軸と前記最外周線との交点から次に近いY軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという探索動作を繰り返し、この探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をY軸に平行な一方の制震壁の設置場所に決定し、その後、前記X軸を挟んでY座標の符号が反対になる場所において、前記と同様の探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をY軸に平行なもう一方の制震壁の設置場所に決定する、という動作を必要な制震壁の数だけ繰り返して、制震壁を設置するための設置場所データを取得することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【0014】
〈構成10〉
コンピュータを、構成1または9に記載のシステムとして機能させる壁構造設計支援プログラム。
〈構成11〉
構成10に記載の壁構造設計支援プログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体。
【発明の効果】
【0015】
〈構成1の効果〉
間取り図の図心を原点とし、壁線に平行なX軸とY軸とからなる直交座標を設定して、最外周線に近い場所から制震壁の配置を決めるので、各制震壁の間の距離をできるだけ離すように配置できる。また、例えば、X軸に平行な制震壁を第1象限と第3象限に配置し、Y軸に平行な制震壁を第2象限、第4象限に配置するといった要領で配置場所を決めるので、全ての制震壁を原点に対してバランスよく配置することができる。
〈構成2の効果〉
設置すべきX軸方向の制震壁の数が奇数のときは、X軸方向に向いた制震壁が最後に1個残る。原点に最も近いX軸上を探索することにより、これらを原点に近い位置に配置できる。Y軸方向についても同様であり、X軸をY軸とみなして処理をすればよい。
〈構成3の効果〉
制震壁はできるだけ分散配置することが好ましい。このとき、制震壁から所定距離の範囲に新たな制震壁を設置しないという制約条件を制約条件データに加えれば、これまでと全く同様の演算処理を繰り返して何個でも制震壁の配置を自動的に探索できる。
〈構成4の効果〉
制約条件の厳しい制震壁の配置を最先に決定して、その後他の壁種の選択をすることで、壁設計作業を容易にすることができる。
〈構成5の効果〉
設計上の耐力壁の基準を満たす制震壁を使用すれば、制震壁の配置を最先に決定して、その後他の壁種の選択をすることで、壁設計作業を容易にすることができる。
〈構成6の効果〉
予め設計上の基準を満たす耐力壁を配置するべき場所を求めておき、その場所に制震壁を配置するように制御すると、制震壁をより最適な位置に自動配置できる。
〈構成7の効果〉
制震壁を設置した場所には基礎の立ち上がりが設けられることが好ましい。既に基礎の設計が終了している場合には、制震壁を設置する場所を自動的に決定したときに、この条件を満たすように基礎データを自動的に修正することができる。
〈構成8の効果〉
矩形架構の内側に上下方向に隙間を有する面状部材を配置し、隙間に制震ゴムを挟み込んだ構成の制震壁は、例えば、全体を木製にして高強度の耐力壁を構成できる。これを使用すれば、木造住宅に整合性の良い耐震構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施例のシステムの機能ブロック図である。
【図2】コンピュータ11のハードウエアブロック図である。
【図3】このシステムで演算処理の対象となる間取り図例の説明図である。
【図4】座標軸の説明図である。
【図5】設置適合領域の説明図である。
【図6】壁線の説明図である。
【図7】探索処理の動作説明図である。
【図8】探索処理の動作説明図である。
【図9】探索処理の動作説明図である。
【図10】探索処理の動作説明図である。
【図11】設置すべき制震壁が奇数の場合の探索方法説明図である。
【図12】制震壁を所定間隔だけ離して設置する処理の説明図である。
【図13】コンピュータの操作画面の一例を示す説明図である。
【図14】制震壁の一例を示す説明図で(a)は正面図(b)は変形をしたときの正面図である。
【図15】システムの主要動作例を示すフローチャートである。
【図16】システムの前処理の動作例を示すフローチャートである。
【図17】システムのX軸方向の探索演算処理の動作例を示すフローチャートである。
【図18】システムのY軸方向の探索演算処理の動作例を示すフローチャートである。
【図19】探索順の変形例説明図である。
【図20】探索順のさらに別の変形例説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のシステムは、制震壁の設置適合領域を求め、間取り図の図心と壁線とを検出して、設置適合領域の最外周線に近い場所から制震壁の配置を自動的に決める。図心を中心にバランスよく制震壁を自動配置するようにして、設計業務の支援を行う。以下、本発明の実施の形態を実施例毎に詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
[装置の機能ブロック]
図1は、本実施例のシステムの機能ブロック図である。
図において、コンピュータ11は、演算処理装置20と記憶装置30を備える。この装置に間取り図データ等の演算処理に必要なデータを入力し、自動計算をさせて、制震壁の設置場所データを出力させる。演算処理装置20と記憶装置30は、コンピュータ11の本体に内蔵されていても外付けされていても構わない。コンピュータ11は、コンピュータプログラムを実行することにより、所定のタイミングで、演算処理装置20の部分に図示したいずれかの手段として機能する。コンピュータ11は、このコンピュータプログラムの実行中に、記憶装置30を使用して、予め記憶された演算処理に必要なデータを読み取る。またあるいは、新たなデータを記憶装置30に書き込んで記憶させる。
【0019】
コンピュータ11には、ディスプレイ2、キーボード4、マウス5、プリンタ12といったマンマシンインタフェース用ハードウエアが設けられている。ディスプレイ2はコンピュータで処理をした結果を出力するための任意の構成の出力装置である。ブラウン管ディスプレイ、液晶ディスプレイ、プロジェクタ等が利用できる。キーボード4やマウス5はコンピュータにデータや指示を入力するための装置である。プリンタ6は、本発明によりコンピュータで処理をした結果を印刷用紙に出力するために使用される。これらのマンマシンインタフェース用ハードウエアは、全て既知のものを使用することができるので、図示および各機能の具体的な説明は省略する。
【0020】
図の実施例のコンピュータ11は、所定のタイミングで、検索手段21、領域判定手段22、間取り図解析手段23あるいは探索手段24として機能する。また、記憶装置30には、予め、間取り図データ31、制震壁の数32、制約条件データ33、演算データ34が記憶されている。さらに、この記憶装置30には、コンピュータプログラムの実行過程で、演算データ34や建物の基礎データ45が書き込まれて記憶される。演算データ34には、例えば、設置適合領域36、壁線データ37、図心データ38、最外周線データ39、設置可能線40、設置場所データ41が含まれる。
【0021】
[データと演算処理手段]
間取り図データ31は例えば、間取り図を構成する部品の部品名と、その部品の間取り図中の設置場所を示すデータを含む。設置場所は例えば座標値で示される。その他の属性データも含まれていてよい。このシステムは、例えば、設計者が建物全体の間取り図データ31を作成する過程で、制震壁の設置場所データ41を得るために利用される。間取り図データには壁構造、外壁構造、窓、内装等各種のデータが入力される。このシステムが利用されるのは、その完成までの間のどの段階でも構わない。後で説明するように、制震壁の設置場所を決め、その後、他の壁種の選択と設置場所の決定をすると、効率の良い作業ができる。
【0022】
建物に設けるべき制震壁の数32は、建物の縦横寸法や面積等に応じて決められる数値である。設計者が決めて入力してもよい。参照テーブルを使用して、自動的にこの数値を求めることもできる。後で説明するように、X軸に平行に向けて設置される制震壁の数と、Y軸に平行に向けて設置される制震壁の数がそれぞれ決定される。その値が制震壁の数32として記憶装置30に記憶される。制約条件データ33は設計者が定めたもので、間取り図データ31中で制震壁を設置しない場所を特定するデータリストである。例えば、制震壁は1階の2階床直下部分のみに設置するとか、外壁部分や真壁部分に配置しないといった制約条件がある。また、間取り図中の壁線上に配置する。制震壁は壁として機能するから、壁の一部を制震壁にする。また、既に設置を決めた制震壁から一定距離だけ離れた場所に設置する。制震壁を分散配置して制震効果を高めるためである。
【0023】
上記制約条件データ33により特定された場所には、制震壁を設置しない。演算データ34中の設置適合領域36は、制震壁を設置しない領域を除外した部分を表示するデータである。領域を取り囲む多角形の頂点の座標値等により表示するとよい。壁線データ37は、間取り図中の壁を設けるべき位置を通過する直線である。X軸に平行な壁線とY軸に平行な壁線とが、それぞれ任意の数だけ存在する。図心データは、間取り図全体からみた中心を座標等で示すデータである。間取り図全体からみた中心は、一般的には建物の重心に近い位置にある。建物の重心の周りにパランスよく制震壁を配置するために、図心を計算の要素に採り入れた。この実施例では、便宜上図心を座標軸の原点に定めた。
【0024】
最外周線データ39は、上記の設置適合領域36に外接しX軸に平行な2本の直線とY軸に平行な2本の直線をいうものとする。設置可能線40は、制震壁の設置場所探索を容易にするために演算処理中に生成される中間データで、壁線上で、制震壁の設置可能範囲を示す線分の集合データである。壁線は、両端の座標値データの集合で表される。設置場所データ41は、探索の結果得られた制震壁の設置場所を、例えば、制震壁の両端の座標値等で表すデータである。建物の基礎データは、基礎の種類や構造等を示すデータである。制震壁を設置したとき、全ての制震壁はその直下の基礎に直接支えられていることが好ましい。そこで、制震壁の設置場所を自動的に決定した後に、建物基礎データを整合させる。建物の基礎データ45は先に作られていても、作成中でも構わない。
【0025】
上記検索手段21は、間取り図データ31中で制約条件データ33により特定された制震壁を設置できない場所を検索する機能を持つ。領域判定手段22は、検索手段21の検索結果から、間取り図データ31中の設置適合領域36を判定する機能を持つ。間取り図解析手段23は、演算処理に必要な壁線と図心とを検出する機能を持つ。探索手段24は、間取り図中に、必要な数の制震壁を配置する位置を探索して、設置場所データ41を自動的に取得する機能を持つ。これらの手段の動作は、後で詳細に説明する。
【0026】
[ハードウエア]
図2は、コンピュータ11のハードウエアブロック図である。
コンピュータ11の本体制御部には、図のようなハードウエアが組み込まれている。内部バス110には、CPU(中央処理装置)111と、ROM(リードオンリメモリ)112と、RAM(ランダムアクセスメモリ)113と、HDD(ハードディスク)114と、入出力インタフェース115とが接続されている。入出力インタフェース115には、ディスプレイ2とキーボード4とマウス5とプリンタ12が接続されている。以上のハードウェアは一般的によく知られたコンピュータに備えられている。なお、この発明の説明に不要なキャッシュメモリ等の詳細なハードウエアの説明は省略する。
【0027】
図1に示した記憶装置30は、ROM112やRAM113やHDD114により構成される。図1に示した演算処理装置20は、CPU111、ROM112、RAM113等により構成される。演算処理用のデータは主としてHDD114に記憶されて保存される。CPU111が実行するコンピュータプログラムは、ROM112に記憶され、あるいはRAM113に適時ロードされる。
【0028】
上記の演算処理装置20で実行されるコンピュータプログラムは、図1に示した機能ブロックで図示した単位でモジュール化されてもよいし、複数の機能ブロックを組み合わせて一体化されてもよい。また、上記のコンピュータプログラムは、既存のアプリケーションプログラムに組み込んで使用してもよい。本発明を実現するためのコンピュータプログラムは、例えばCD−ROMのようなコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、任意の情報処理装置にインストールして利用することができる。さらに、図示しないネットワークを通じてダウンロードすることもできる。
【0029】
[間取り図の具体例]
図3はこのシステムで演算処理の対象となる間取り図例の説明図である。図4は、その座標軸の説明図である。
図3が煩雑になるので、座標軸以外は図4に示した。図3の間取り図データ31に、図心54を原点とし壁線に平行なX軸81とY軸82とからなる直交座標を設定する。図4に示すように、X軸81とY軸82の交点が原点80であって、図心54と重なっている。X軸81とY軸82の符号の正負の関係で、間取り図が、第1象限91、第2象限92、第3象限93、第4象限94と4個の領域に区分される。図心54を中心として、これらの領域に、図のように制震壁50をバランスよく配置する。
【0030】
図5は設置適合領域の説明図である。
ここには、図3に示した間取り図の外枠のみを表示する。
上記の制約条件データ33には、制震壁は1階の2階床直下部分のみに設置するという制約条件が含まれている。制震壁を設置しない場所47は、その場所に該当する。その結果、これを除外した設置適合領域36は、図のような多角形になる。ここで、設置適合領域36に外接し、X軸81に平行な2本の直線とY軸82に平行な2本の直線を最外周線52とする。この範囲で、制震壁の探索を行うようにするためである。これらの準備処理を検索手段21と、領域判定手段22が行う。
【0031】
図6は壁線の説明図である。
図の設置適合領域中に、図4で示した間取り図中の壁を設けるべき位置を太線で示した。これらの太線を通過する全ての直線を壁線と呼ぶ。壁線61〜64はX軸81に平行な壁線で、壁線71〜75はY軸82に平行な壁線である。制震壁はこれらの壁線上に必ず配置される。また、制震壁の枚数が少ないときは、制震壁をX軸81やY軸82に近い場所に設置するほど効果的である。従って、制震壁の設置場所探索はX軸81やY軸82に近い壁線から行なわれる。これらの壁線の設定を間取り図解析手段23が行う。
【0032】
なお、この図では、設計上の基準を満たす耐力壁を配置するべき場所を太線で示した。そして、他の壁種の部分は表示を省略した。予めこのような耐力壁の位置データに基づいて探索領域を特定することにした。制震壁が耐力壁としての機能を兼ね備えているときは、耐力壁を配置すべき場所で、その耐力壁を制震壁に置き換えるようにする。これにより、建物の壁強度を考慮した構造計算が容易になる。以下の説明図では、この耐力壁の位置データのみを表示するようにした。
【0033】
[システムの動作]
図7〜図10は、探索処理の動作説明図である。
探索手段24は、次のような手順で制震壁を設置する場所の探索をする。まず、図7に示すように、第1番目に第1象限91を探索領域に設定する。ここで、X軸81と最外周線52との交点に最も近いX軸81に平行な壁線を選択する。効果の高い場所から先に探索をするためである。この例では、図7中の矢印に示すように、壁線63が最初に選択された。この壁線63と最外周線52との交点からその壁線63を辿って壁を設けるべき場所を探索する。この例では、壁線63と最外周線52との交点に一番近い場所に設置場所が見つかった。そこに最初の制震壁50を配置した。
【0034】
なお、もし、この場所に設置できないときは、同じ壁線63上のもっとY軸82に近い場所を探索する。この壁線63上のどこにも該当する場所がみつからないときは、X軸81と最外周線52との交点から次に近いX軸81に平行な壁線を選択する。ここでは、壁線64を選択することになる。そのときは、再びその壁線64と最外周線52との交点からその壁線を辿って制震壁50を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返す。そして、最初に制震壁が収まった場所を、第1象限91におけるX軸81に平行な制震壁の設置場所に決定する。
【0035】
第2番目に、図8に示すように、第3象限93を探索領域に設定する。ここでも、X軸81と最外周線52との交点に最も近いX軸81に平行な壁線を選択する。矢印により示したその壁線62と最外周線52との交点を求める。この交点から壁線62を辿って制震壁を設けるべき場所を探索する。この場合にも、すぐに、制震壁50の設置場所が見つかった。しかしながら、もし該当する場所がみつからないときは、X軸81と最外周線52との交点から次に近いX軸81に平行な壁線61を選択する。そして再びその壁線61と最外周線52との交点からその壁線61を辿って制震壁を設けるべき場所を探索する。こうした動作を繰り返して、最初に制震壁が収まった場所を、第3象限93におけるX軸81に平行な制震壁の設置場所に決定する。
【0036】
第3番目に、図9に示すように、第2象限92を探索領域に設定する。ここで、Y軸82と最外周線52との交点に最も近いY軸82に平行な壁線を選択する。この例では、Y軸82上に壁線74が重なっている。従って、この壁線74を選択する。その壁線74と最外周線52との交点からその壁線74を辿って制震壁を設けるべき場所を探索する。この例では、かなり図心54に近い場所に制震壁50が収まった。なお、該当する場所がみつからないときは、Y軸82と最外周線52との交点から次に近いY軸82に平行な壁線73を選択する。そして、再びその壁線73と最外周線52との交点からその壁線73を辿って制震壁を設けるべき場所を探索する。なお、この例では壁線73上に制震壁を設けるべき場所はないから、さらにそのとなりの壁線72を探索することになる。こうして、最初に制震壁が収まった場所を第2象限92におけるY軸82に平行な制震壁の設置場所に決定する。
【0037】
第4番目に、図10に示すように、第4象限94を探索領域に設定する。ここで、Y軸82と最外周線52との交点に最も近いY軸82に平行な壁線74を選択する。この場合にも、Y軸82上に壁線74が重なっている。従って、この壁線74を選択する。その壁線74と最外周線52との交点からその壁線74を辿って制震壁を設けるべき場所を探索する。ここでは、上記交点の隣に設置場所が見つかった。もし、該当する場所がみつからないときは、Y軸82と最外周線52との交点から次に近いY軸82に平行な壁線75を選択する。そして、再びその壁線75と最外周線52との交点からその壁線75を辿って制震壁を設けるべき場所を探索する。こうして、最初に制震壁が収まった場所を第4象限94におけるY軸82に平行な制震壁の設置場所に決定する。
【0038】
図7〜図10までの処理により、4枚の制震壁の設置場所を探索した。なお、上記の第1象限から第4象限までの象限選択順は任意である。どの順番に象限を選択して探索処理をしても構わない。そして、再び図7〜図10までの処理を繰り返すと、8枚の制震壁の設置場所を探索できる。例えば、X軸81に平行な制震壁がY軸82に平行な制震壁よりも2枚多いときは、再度第1象限と第3象限での探索処理だけを行えば良い。また、Y軸82に平行な制震壁がX軸81に平行な制震壁よりも2枚以上多いときは、第2象限と第4象限での探索処理を必要なだけ繰り返せばよい。そして、必要な全ての制震壁の設置場所を自動的に決定した後に、図10に示した図もしくは、図3に示した間取り図と図10に示した図を重ねたものをコンピュータのディスプレイに表示するとよい。
【0039】
以上のシステムによれば、間取り図の図心54を原点80とし、壁線に平行なX軸81とY軸82とからなる直交座標を設定して、最外周線52に近い場所から制震壁の配置を決めるので、各制震壁の間の距離をできるだけ離すように配置できる。また、第1象限91、第3象限93、第2象限92、第4象限94という順番で制震壁の配置を決めるので、全ての制震壁を原点80に対して可能な限り対称に配置することができる。なお、計算上の座標軸と座標原点80の位置は、計算の便宜上間取り図周辺のどこにシフトさせても構わない。間取り図中で互いに直交する2群の壁線にそれぞれ平行な一対の直線であって、図心54を通るものを、ここでは仮想的なX軸81とY軸82としている。そのX軸81とY軸82とから見たときの、第1象限、第2象限、第3象限、第4象限を順番に探索して制震壁の設置場所を決めていく。X軸81とY軸82は間取り図のどの方向に向けて設定してもよい。第1象限〜第4象限は右回転、左回転のどの方向に回っても構わない。実質的に第1番目から第4番目までの処理と等価な演算処理が実行されればよい。
【実施例2】
【0040】
[制震壁が奇数のとき]
図11は、設置すべき制震壁が奇数の場合の探索方法説明図である。
上記の実施例は、設置すべき制震壁が任意の偶数の場合に適する。一方、設置すべき制震壁が奇数の場合には最後の1個の制震壁を図心の近くに設置するとよい。それには、以下の処理を実行する。探索手段24が、建物に設けるべきY軸82方向の制震壁の数32が奇数、例えば3枚と判断したとする。このときには、まず、既に説明した要領で、第2象限と第4象限に1枚ずつ制震壁50を配置した後に、図11に示す処理を実行する。
【0041】
図11に示すように、最後に残った1枚の制震壁について、原点80に最も近いY軸82に平行な壁線74を選択する。そして、原点80からその壁線74を辿って制震壁を設けるべき場所を探索する。この例では、原点80に隣接する場所に設置場所が見つかった。もし、該当する場所がみつからないときは、原点80から次に近いY軸82に平行な壁線73を選択し、再び原点80からその壁線73を辿って壁を設けるべき場所を探索する。そして、最初に制震壁が収まった場所を奇数番目の制震壁50の設置場所に決定する。なお、この場合には、原点80に近いY軸82に平行な直線を順に選択すればよく、どの象限でも構わない。X軸81に平行な制震壁の数が奇数の場合も全く同様の処理となる。従って、重複する説明を省略する。
【実施例3】
【0042】
[制約条件の追加処理]
図12は、制震壁を所定間隔だけ離して設置する処理の説明図である。
上記の処理において、探索をする壁線の近傍に既に配置が決定された制震壁があるときには、制震壁が接近して配置されることになる。制震壁は全体としてバランスよく分散配置されていることが好ましい。この基準に従って制震壁を自動配置するために、次のような処理を実行する。まず、図12に示すように、直前の処理で、第4象限側にある壁線74と最外周線52の交点に隣接して、制震壁50の設置場所が決まったとする。このとき、この制震壁50の周囲のX軸81方向とY軸82方向の一定距離の範囲に、新たな制震壁を設置しない場所48を定めて制約条件を設定する。この制約条件を、図1に示した制約条件データ33に追加する。こうすれば、探索範囲から、図12の一点鎖線で囲まれた制震壁50の周辺領域が除外されることになる。これにより、これまでと全く同様の演算処理を繰り返して何個でも制震壁の配置を自動的に探索できる。
【実施例4】
【0043】
上記の処理は、間取り図データの作成過程で行われる。最初に耐力壁を設置する場所を決めて、その後、いずれかの耐力壁を制震壁に置き換える。残りの耐力壁は、例えば、予め定められた所定の壁種に決定する。さらに、全ての壁線を辿って、間取りに応じて、必要とされる壁種の壁を自動的に選択する。こうして、全ての壁線上に所定の選択基準に従って選択された壁種とその設置場所を示すその他の壁の設置場所データを取得することができる。制約条件の厳しい制震壁の配置を最先に決定して、その後他の壁種の自動選択をすることが可能になる。また、さらに、壁量計算を実行して、建築費用の見積もり等に必要な数量を自動取得できる。
【0044】
また、探索手段24は、制震壁を設置する位置データを取得した後に、該当する場所全てに基礎の立ち上がりが設けられるように、記憶装置30に記憶された基礎データを修正する。制震壁を設置した場所には基礎の立ち上がりが設けられることが好ましい。既に基礎の設計が終了している場合には、制震壁を設置する場所を自動的に決定したときに、この条件を満たすように基礎データを自動的に修正することができる。なお、まだ基礎データが記憶装置30に記憶されていないときや、修正の必要が無いときは、この処理は不要である。
【0045】
図13は、コンピュータの操作画面の一例を示す説明図である。
上記のようにして、制震壁を自動的に配置し、その結果をディスプレイ2やプリンタ12を用いて出力して確認することができる。例えば、図13(a)に示すような起動画面55を使用して、間取り図データファイルを選択し、起動ボタンをクリックする。その結果を出力して確認後、設計者は、自動的に決定した制震壁の位置を再調整することができる。その作業の終了後に、探索手段24は、チェック処理を自動的に起動するとよい。例えば、図13(b)に示すように、チェック画面56で、例えば、X軸81方向とY軸82方向の両方について、制震壁の枚数を必要枚数と比較して判定する。自動的に設置場所を探索したときに、例えば、制震壁を配置できる耐力壁が全くみあたらないというケースもある。このときに、このチェック処理で、自動処理の結果の不備が発見される。その対策としては、設計者が間取り図データ中の耐力壁の配置や長さを変更するといった処理をする。これで、再度自動配置処理をさせるとよい。
【実施例5】
【0046】
図14は制震壁の一例を示す説明図で、(a)は正面図、(b)は変形をしたときの正面図である。
この図に示す制震壁は耐力壁の基準を満たすものの一例である。図において、上下一対の横架材と左右一対の垂直材により構成した矩形架構95に囲まれるように、左右一対の面状部材96が配置されている。いずれも例えば木材を使用している。面状部材96は矩形架構95に嵌め込まれて固定されている。また、一対の面状部材96の対向側面には所定の隙間97が形成されている。そして、この隙間に制震ゴム98が挟み込まれている。制震ゴム98は一対の面状部材96の対向側面に固定されている。一対の面状部材96の対向側面側には、上下の角部分に切り欠き99がある。この耐力壁は、切り欠き99の部分で矩形架構95のみとなっているから、強い外部応力が加わると切り欠き99の部分に応力が集中するように構成されている。
【0047】
即ち、図14の(a)に示した制震壁は、地震等による外力を受けたとき、例えば、図14(b)に示すように、切り欠き99の部分の矩形架構95が他の部分に比べて大きく変形する。ここで、一対の面状部材96が相互に隙間97と平行な方向に若干の位置ずれを生じる。そして、その力が隙間97に挟み込まれた制震ゴム98を変形させる。制震ゴム98は地震の揺れに応じて繰り返し力を受ける。制震ゴム98はこの力を変形歪みにより生じた摩擦エネルギに変換して消費する。これにより振動減衰効果が発揮される。以上の構成の制震壁は、ほぼ全体を木製にして、高強度の耐力壁を構成できる。これを使用すれば、木造住宅に整合性の良い耐震構造とすることができる。
【実施例6】
【0048】
図15は、システムの主要動作例を示すフローチャートである。
始めに、ステップS11で、間取り図データ31が、制震壁が設置可能な建物のものかどうかを判断してから処理を開始する。制震壁が設置可能な建物でないときは、エラー表示等をして別処理に移る。制震壁が設置可能な場合には、ステップS12に移行する。ステップS12では、検索手段21、領域判定手段22、間取り図解析手段23が、間取り図データ31や制約条件データ33を読み取って前処理を実行する。これにより、設置適合領域36、壁線データ37、図心データ38、最外周線データ39、設置可能線40を求める。この処理は図16を用いて後で説明する。
【0049】
ステップS13では、間取り図解析手段23が間取り図データ31を参照して延べ床面積を算出する。そして、予め定めたルールに従って、ステップS14で制震壁の設置数を算出する。こうして、探索処理の準備が完了する。その後、探索手段24が、ステップS15で制震壁設置場所探索を開始する。ステップS16では、図17と図18で説明する探索演算をする。1枚の制震壁の設置場所を決定すると、ステップS17で、記憶装置30が、制震壁設置場所データ41の記憶をする。
【0050】
ステップS18では、決定した制震壁の設置場所から一定距離の範囲を新たな制震壁が設置できない領域として、制約条件データの修正をする。ステップS19では、探索手段24が探索終了かどうかという判断をする。この判断の結果がイエスのときはステップS20の処理に移行し、ノーのときはステップS16の処理に戻る。全ての制震壁の設置場所が決定されるとステップS20に進む。ステップS20では、探索手段24が、自動的に決定した制震壁の設置場所について点検処理を実行する。その結果を設計者が確認して修正を加えることができる。ステップS21では、残りの壁について、壁種の自動選択処理を実行する。さらに、ステップS22では、基礎データの修正処理を実行する。ステップS20以下の処理は、探索手段24が実行してもよいし、別の後処理手段を設けても構わない。
【0051】
図16は、システムの前処理の動作例を示すフローチャートである。
まず、検索手段21がステップS31で、間取り図データ31を読み取る。さらに、ステップS32で、制約条件データ33を読み取る。そして、ステップS33で、制震壁を設置しない場所の検索をする。次に、領域判定手段22が、ステップS34で、設置適合領域36の判定をする。そして、ステップS35で、最外周線データ39を生成する。その後、間取り図解析手段23が、ステップS36で図心の検出をする。さらに、ステップS37で、壁線の検出をする。次いで、ステップS38で、設置可能線の生成をする。これで、探索準備が終了する。
【0052】
図17は、システムのX軸方向の探索演算処理の動作例を示すフローチャートである。
探索手段24は、ステップS41で、第1象限を探索範囲に設定する。ステップS42では、X軸に平行な壁線群を選択対象にする。ステップS43では、X軸と最外周線との交点を検出する。ステップS44では、交点に最も近い(未選択)壁線を選択をする。一度選択をして探索をし、制震壁の設置場所が見つからなかったものは除外する。未選択というのは、こうして除外された壁線を除く壁線を指すものとする。ステップS45では、壁線と最外周線との交点を始点にする。
【0053】
ステップS46では、上記の始点からその壁線を辿る処理を開始する。ステップS47では、その壁線上に、制震壁より長い耐力壁があるかどうかを判断する。あれば、その場所の耐力壁を制震壁に置き換える。制震壁設置場所決定可かどうかという判断は、この処理を示す。ステップS47の判断の結果がイエスのときはステップS48の処理に移行し、ノーのときはステップS44の処理に戻る。そして、ステップS44では別の壁線を選択して再びその壁線を探索する。
【0054】
1枚の制震壁の設置場所が決まると、ステップS48で、決定した制震壁の設置場所を記憶装置に記録する。これで、第1象限の処理を終了して、ステップS49で、第3象限を探索範囲に設定する。ステップS50では、ステップS41〜S47の処理を実行する。即ち、この処理を繰り返すことにより、X軸に平行な制震壁の設置場所を全て決定することができる。
【0055】
図18は、システムのY軸方向の探索演算処理の動作例を示すフローチャートである。
Y軸方向の探索処理では、最初にステップS51で、第2象限を探索範囲に設定する。そして、1枚の制震壁の設置場所が決定すると、ステップS59で、第4象限を探索範囲に設定する。それ以外の処理は、Y軸をY軸に置き換えただけで、図17の処理と変わらない。従って、重複する説明を省略する。なお、上記のフローチャートは、制震壁を偶数設置する場合のもので、制震壁を奇数設置する場合には、例えば、原点に最も近い壁線を選択し、原点を始点にその壁線を辿っていけばよい。この処理は単純なので、フローチャートの図示を省略した。
【実施例7】
【0056】
[探索順の説明]
図19は、探索順の変形例説明図である。
上記のX軸81とY軸82とは、制震壁の設置場所探索動作中に常に不変である必要はない。制震壁50の探索順の例をこの図19に示した。まず始めに、図の(a)に示すように、第1象限、第3象限、第2象限、第4象限という順番に制震壁の設置場所を決めていく。この図では、制震壁50のマーク中に設置場所の決定順を1〜4と表示した。次に、5枚目以降の制震壁の設置場所を探索する。そのとき、X軸81とY軸82の向き、即ち、正負を反転して、第1象限を右上から左下の位置に移動させる。こうすると、図19の(b)に示すように、決定順を5〜8と表示した制震壁の設置場所が決まる。これで、X軸やY軸に平行な制震壁の左右の配置バランスも調整できる。図19(c)の図は、図心上に奇数枚目の制震壁を設置したところを示す。以上の要領で、本発明のシステムでは、自動的に制震壁の設置場所を決定することができる。
【0057】
図20は、探索順のさらに別の変形例説明図である。
図19の(a)に示した例では、第1象限、第3象限、第2象限、第4象限という順番に制震壁の設置場所を決めていった。ここで、図19の(a)において、第2象限、第4象限、第1象限、第3象限という順番に制震壁の設置場所を決めることも考えられる。これでも上記の目的を達成する。しかしこれは、図20の(a)に示すように、X軸の方向をそのままにしてY軸の方向を反転させたとき、第1象限、第3象限、第2象限、第4象限という順番に制震壁の設置場所を決めるのと同等である。また、図19の(a)において、第3象限、第1象限、第4象限、第2象限という順番に制震壁の設置場所を決めることも考えられる。これは、図20の(b)に示すように、Y軸の方向をそのままにしてX軸の方向を反転させたとき、第1象限、第3象限、第2象限、第4象限という順番に制震壁の設置場所を決めるのと同等である。数式中の変数表現の違いがあっても、計算手順は実質同一である。従って、本発明はこれら全ての実施態様を含むものである。
【0058】
また、第1番目にX軸に平行な制震壁、第2番目にX軸に平行な制震壁、第3番目にY軸に平行な制震壁、第4番目にY軸に平行な制震壁という順番に制震壁の設置場所を決めていった。しかし、第1番目にX軸に平行な制震壁、第2番目にY軸に平行な制震壁、第3番目にX軸に平行な制震壁、第4番目にY軸に平行な制震壁という順番に制震壁の設置場所を決めることもできる。この順序は計算処理の都合で自由に選択できる。
【実施例8】
【0059】
さらに、上記の例では、最初にX軸に平行な2枚の制震壁とY軸に平行な2枚の制震壁を、前記第1象限、第3象限、第2象限、第4象限のいずれかにそれぞれ割り付けた。しかしながら、例えば、第1象限に1枚のX軸に平行な制震壁が収まったとしても、第3象限にはX軸に平行な制震壁を収める場所がみあたらないこともあり得る。また、かなりバランスの悪い場所にしか制震壁を収める場所がみあたらないこともあり得る。
【0060】
こうした場合でも、自動的にできるだけバランス良く制震壁の配置場所を探索したい。そこで、例えば、Y軸から見て一方の側で探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をX軸に平行な一方の制震壁の設置場所に決定したとき、その後、Y軸を挟んでX座標の符号が反対になる場所において前回と同様の探索動作をする。そして、最初に制震壁が収まった場所をX軸に平行なもう一方の制震壁の設置場所に決定する。こうすれば、少なくともY軸を挟んでバランス良く、X軸に平行な2枚の制震壁が収まる。
【0061】
上記の探索動作では、先の実施例と同様に、X軸と最外周線との交点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、その壁線と最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、X軸と最外周線との交点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索する。この場合、次に選択する壁線は、X軸のどちら側の壁線でも構わない。この点が先の実施例と異なる。X軸と最外周線との交点から次に近いX軸に平行な任意の壁線を選択するという動作をする。
【0062】
Y軸に平行な制震壁についても同様である。X軸から見て一方の側で探索動作をして:最初に制震壁が収まった場所をY軸に平行な一方の制震壁の設置場所に決定し、その後、X軸を挟んでY座標の符号が反対になる場所において、前回と同様の探索動作をする。そして最初に制震壁が収まった場所をY軸に平行なもう一方の制震壁の設置場所に決定する、
【0063】
図20(c)の例では、X軸と最外周線との交点から近いX軸に平行な壁線が第1象限と第4象限にあったため、第3象限にX軸に平行な制震壁は配置されなかった。Y軸に平行な制震壁については、これまでの実施例と同様の結果となり、第2象限と第4象限に配置された。
【符号の説明】
【0064】
10 建物の壁構造設計支援システム
11 コンピュータ
12 プリンタ
20 演算処理装置
21 検索手段
22 領域判定手段
23 間取り図解析手段
24 探索手段
30 記憶装置
31 間取り図データ
32 制震壁の数
33 制約条件データ
34 演算データ
36 設置適合領域
37 壁線データ
38 図心データ
39 最外周線データ
40 設置可能線
41 探索位置情報
45 建物の基礎データ
47 耐震壁を設置しない場所
48 耐震壁を設置しない場所
50 制震壁
52 最外周線
54 図心
55 起動画面
56 チェック画面
61 壁線
62 壁線
63 壁線
71 壁線
72 壁線
73 壁線
74 壁線
75 壁線
80 原点
81 X軸
82 Y軸
91 第1象限
92 第2象限
93 第3象限
94 第4象限
95 矩形架構
96 面状部材
97 隙間
98 制震ゴム
99 切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の間取り図データと、当該建物に設けるべき制震壁の数を示すデータと、前記間取り図データ中で制震壁を設置しない場所を特定する制約条件データとを記憶した記憶装置と、
前記記憶装置に記憶された前記間取り図データ中で、前記制約条件データにより特定された場所を検索する検索手段と、
前記検索手段の検索結果から、前記間取り図データ中の制震壁を設置しない領域を除外した設置適合領域を判定する領域判定手段と、
前記間取り図中の壁を設けるべき位置を通過する直線を壁線と呼ぶとき、その壁線と前記間取り図の図心とを検出する間取り図解析手段と、
前記間取り図中に、必要な数の制震壁を配置する位置を探索して、その位置情報を自動的に取得する探索手段とを備え、
前記間取り図の図心を原点とし、前記壁線に平行なX軸とY軸とからなる直交座標を設定し、前記設置適合領域に外接し前記X軸に平行な2本の直線と前記Y軸に平行な2本の直線を最外周線と呼ぶとき、
前記探索手段は、
第1象限において、前記X軸と前記最外周線との交点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記X軸と前記最外周線との交点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を第1象限のX軸に平行な制震壁の設置場所に決定し、
第3象限において、前記X軸と前記最外周線との交点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記X軸と前記最外周線との交点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を第3象限のX軸に平行な制震壁の設置場所に決定し、
第2象限において、前記Y軸と前記最外周線との交点に最も近いY軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記Y軸と前記最外周線との交点から次に近いY軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を第2象限のY軸に平行な制震壁の設置場所に決定し、
第4象限において、前記Y軸と前記最外周線との交点に最も近いY軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記Y軸と前記最外周線との交点から次に近いY軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を第4象限のY軸に平行な制震壁の設置場所に決定する、
という動作を必要な制震壁の数だけ繰り返して、制震壁を設置するための設置場所データを取得することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項2】
建物に設けるべきX軸方向の制震壁の数が奇数の場合に、前記探索手段は、請求項1に記載の前記偶数の制震壁を設置する位置情報を取得する処理に加えて、
最後に残った制震壁について、前記原点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、前記原点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記原点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再び原点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという動作を繰り返し、探索をして最初に制震壁が収まった場所を制震壁の設置場所に決定して、制震壁を設置するための設置場所データを取得することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、
前記探索手段は、
探索をする壁線の近傍に既に配置が決定された制震壁があるときには、当該制震壁から所定距離の範囲に新たな制震壁を設置しないという制約条件を前記制約条件データに追加することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、
前記探索手段は、
前記制震壁を設置する位置データを取得した後、
前記全ての壁線上に所定の選択基準に従って選択された壁種とその設置場所を示すその他の壁の設置場所データを取得することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、
前記制震壁は、設計上の耐力壁の基準を満たすものであることを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項6】
請求項5に記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、
前記記憶装置には、予め設計上の基準を満たす耐力壁を配置するべき場所の位置データが記憶されており、前記探索手段は、前記壁線を辿って、前記耐力壁を設けるべき場所を探索して、最初に制震壁が収まった場所を制震壁の設置場所に決定することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、
前記探索手段は、前記制震壁を設置する設置場所データを取得した後に、該当する場所全てに基礎の立ち上がりが設けられるように、前記記憶装置に記憶された基礎データを修正することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、
前記制震壁は、上下一対の横架材と左右一対の垂直材とからなる矩形架構の内側に上下方向に隙間を有する面状部材を配置し、前記隙間に挟み込まれた制震ゴムを有することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の建物の壁構造設計支援システムにおいて、
前記探索手段は、前記第1象限、第3象限、第2象限、第4象限という探索場所の選択動作に替えて、
前記X軸と前記最外周線との交点に最も近いX軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記X軸と前記最外周線との交点から次に近いX軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという探索動作を繰り返し、この探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をX軸に平行な一方の制震壁の設置場所に決定し、
その後、前記Y軸を挟んでX座標の符号が反対になる場所において、前記と同様の探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をX軸に平行なもう一方の制震壁の設置場所に決定し、
前記Y軸と前記最外周線との交点に最も近いY軸に平行な壁線を選択し、その壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索し、該当する場所がみつからないときは、前記Y軸と前記最外周線との交点から次に近いY軸に平行な壁線を選択し、再びその壁線と前記最外周線との交点からその壁線を辿って制震壁を設けるべき場所を探索するという探索動作を繰り返し、この探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をY軸に平行な一方の制震壁の設置場所に決定し、
その後、前記X軸を挟んでY座標の符号が反対になる場所において、前記と同様の探索動作をして最初に制震壁が収まった場所をY軸に平行なもう一方の制震壁の設置場所に決定する、
という動作を必要な制震壁の数だけ繰り返して、制震壁を設置するための設置場所データを取得することを特徴とする建物の壁構造設計支援システム。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1または9に記載のシステムとして機能させる壁構造設計支援プログラム。
【請求項11】
請求項10に記載の壁構造設計支援プログラムを記録したコンピュータで読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−250566(P2010−250566A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99512(P2009−99512)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】