説明

建物冷却設備

【課題】建物周辺の空間を好適に冷却する。
【解決手段】建物10には庇部33が設けられている。庇部33はバルコニー21及び窓部25の上方に配置されており、複数のスラット45を含んで構成されている。各スラット45は水の吸収及び放出が可能な吸放湿性材料により形成されており、屋根12の傾斜に合わせて並べて配置されている。スラット45の内部には、スラット45の長手方向に延びる挿入穴が形成されており、その挿入穴には、管壁に多数の放出孔が形成されたスラット給水管が挿入されている。スラット給水管に水が供給された場合、その水はスラット給水管の放出穴を通じてスラット45内部に流れ出て、スラット45内部を浸透してスラット45の周面を保湿状態とする。この場合、スラット45の周面にて水が気化し、スラット45周辺の空気が気化熱により冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物周辺を冷却する建物冷却設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建物において、水を利用して建物を冷却する技術が提案されている。例えば特許文献1には、雨水等の水を回収する回収手段と、回収された水を建物に撒く放水手段とを備えた構成が記載されている。この構成によれば、放水手段により撒かれた水にて建物全体を外側から直接的に冷やすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−30703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、放水手段により水が建物に撒かれる構成では、撒かれた水が屋根面や壁面といった建物周面に水が付着し、それによって建物周面が汚れることが懸念される。また、太陽光が照射されることにより発電を行う太陽光パネルが設けられた建物においては、散水が行われることで建物周面だけでなく太陽光パネル周面が汚れることが懸念される。したがって、建物周辺の空間を冷却する構成に関して改善の余地がある。
【0005】
本発明は、建物周辺の空間を好適に冷却することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の発明の建物冷却設備は、太陽光が照射されることにより発電を行う太陽光パネルの周辺の建物屋外部であって太陽光を受光可能な受光場所にて水の気化を行う気化手段を備え、前記気化手段は、前記気化に要する水を供給する水供給手段と、前記受光場所に設けられ、前記水供給手段により供給された水を気化させる気化部材とを有することを特徴とする。
【0007】
第1の発明によれば、水供給手段により供給された水が気化部材において気化される。この場合、建物屋外部の太陽光パネル周辺において水の気化が積極的に行われるため、その気化熱により建物周辺及び太陽光パネル周辺の空間を冷却することができる。したがって、建物や太陽光パネルに対して直接の散水が行われる構成とは異なり、建物周面や太陽光パネル周面が水垢等により汚れるといった不都合を抑制できる。以上の結果、水の気化熱により建物周辺の空間を好適に冷却することができる。
【0008】
第2の発明では、前記水供給手段は、屋外環境に基づいて前記気化部材における水の気化率を推定する手段と、前記推定した水の気化率に基づいて水供給を行う手段とを有する。
【0009】
第2の発明によれば、気化部材における水の気化率に合わせて気化部材への水供給が行われるため、気化する分だけ気化部材に給水を行うことが可能となる。この場合、気化に供しない余剰の水を供給しないようにすることができ、ひいては余剰の水が気化部材から溢れて建物周面や太陽光パネル周面に水垢等の汚れとして付着することを抑制できる。
【0010】
第3の発明では、前記建物は、建物側方に突出する庇状部材を備え、前記気化部材は、前記庇状部材に設けられ、かつ該庇状部材の上面側及び下面側の両方で気化を行う。
【0011】
第3の発明によれば、庇状部材において太陽光を受光可能な上面だけでなく下面にて気化部材により気化が行われるため、庇状部材の上面周辺及び下面周辺の両方の空間を気化熱により冷却することができる。したがって、庇状部材の上面及び下面のうち一方にて気化が行われる構成に比べて、気化熱により冷却できる空間を大きくすることができる。つまり、建物周辺や太陽光パネル周辺において極力広い空間を冷却対象とすることができる。
【0012】
第4の発明では、前記庇状部材は、建物開口部の上方に設けられ、かつ該庇状部材を上下に貫通する通気部を有する。
【0013】
第4の発明によれば、建物開口部の上方に庇状部材が設けられている構成において、通気部を通じて下方に向かう空気の流れが生じやすくなるため、庇状部材周辺の空気が建物開口部周辺に流れ込むことを前記空気の流れにより促進することになる。これにより、建物開口部の周辺を冷却することができ、ひいては、建物開口部を通じて建物内空間を冷却することができる。
【0014】
第5の発明では、前記庇状部材は、横並びに配列された複数のスラットからなり、前記気化部材は、前記複数のスラットにそれぞれ設けられており、前記複数のスラットにおいて隣り合うスラット間の隙間が前記通気部となっている。
【0015】
第5の発明によれば、庇状部材において気化部分としてのスラットと通気部分としてのスラット間の隙間とが交互に配置されているため、通気部分を下方に向けて流れる空気にスラット周辺にて水の気化により冷却された空気が乗りやすくなる。したがって、庇状部材の下方に設けられた建物開口部の周辺を冷却するのに好都合である。
【0016】
第6の発明では、前記気化部材は、前記水供給手段により供給される水の吸収及び放出が可能な吸放湿性材料により構成されている。
【0017】
第6の発明によれば、水が気化部材の全体に吸収され、且つ水の気化が気化部材の周面全体にて行われるため、気化部材に供給された水の全てを気化させやすくすることができる。これにより、気化部材での水の気化効率を高めることができる。つまり、気化部材の周辺空間の冷却効率を高めることができる。
【0018】
第7の発明では、軒先に向けて下方傾斜した屋根を備え、前記太陽光パネルが前記屋根上において該屋根の傾斜面に沿うように設けられている建物に適用され、前記気化部材は、前記屋根の傾斜面において前記太陽光パネルと隣り合わせで且つ該太陽光パネルの軒先側に設けられている。
【0019】
第7の発明によれば、太陽光により太陽光パネルが加熱されることにより、太陽光パネルに沿って上方に流れる上昇気流が発生すると、気化部材での水の気化により冷却された空気は上昇気流に乗って太陽光パネルに到達することになる。この場合、水の気化によって太陽光パネルを冷却することができる。
【0020】
第8の発明では、前記水供給手段は、前記太陽光パネルの下面に沿って設けられ且つ熱伝導率が高い水供給配管を有している。
【0021】
第8の発明によれば、水供給配管を通じて気化部材に水が供給される場合、水供給配管は水に熱を奪われることにより冷却され、それに伴って太陽光パネルが冷却される。この場合、水の気化により冷却された空気が到達すること及び水に熱を奪われることの両方により太陽光パネルが冷却されるため、太陽光パネルの冷却効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態における建物の屋根周辺の構成を示す斜視図。
【図2】庇部の構成について説明するための図。
【図3】屋根における庇部周辺の平面図。
【図4】第2実施形態における屋根の構成について説明するための図。
【図5】屋根における循環用配管周辺の構成を示す概略断面図。
【図6】別の屋根における循環用配管周辺の構成を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は建物10における屋根12周辺の構成を示す斜視図、図2は庇部33の構成について説明するための図である。図2においては(a)に二階部分16周辺の概略平面図を示し、(b)に庇部33の拡大図を示す。
【0024】
図1、図2に示すように、住宅等の建物10は、建物本体11と、その建物本体11の上方に設けられた屋根12とを有している。建物本体11は、一階部分15と二階部分16とを有しており、二階部分16には寝室等の居室19とバルコニー21とが設けられている。居室19は建物内空間となっており、バルコニー21は屋外側に開放された屋外空間となっている。居室19とバルコニー21とは外壁23により仕切られており、外壁23に形成された建物開口部としての窓部25により連通されている。窓部25には開閉体としてのサッシ戸26が設けられており、サッシ戸26が開放されると窓部25を通じて居室19の通気が行われる。
【0025】
屋根12は切妻屋根となっており、屋根12の仕上面である屋根面12aは瓦等の屋根仕上材等により形成されている。屋根12において軒先32は頂部31に比べて低くなっており、屋根面12aは頂部31から軒先32に向けて下方傾斜している。窓部25の上方には、屋根12と一体的に形成された庇部33が設けられている。庇部33は、屋根12の軒先32側においてバルコニー21の上方に配置されており、屋根面12aに沿って延びている。庇部33は建物10の側方に突出する庇状部材に相当し、太陽光を受光可能な受光場所に設けられていることになる。
【0026】
屋根12には、太陽光が照射されることにより発電を行う太陽光パネル41が複数設けられている。それら太陽光パネル41は屋根12上に配置されており、屋根面12aに沿って並べられている。この場合、太陽光パネル41は脚部42により下方から支持されており、太陽光パネル41の下面と屋根面12aとは離間している。また、太陽光パネル41は庇部33には設けられておらず、庇部33の側方及び頂部31側に存在していることになる。なお、太陽光パネル41は、屋根12において屋根面12aが南側を向いている部分に設けられている。
【0027】
ところで、太陽光パネル41は、太陽光の照射に伴って自身の温度が上昇すると発電効率が低下する可能性がある。また、夏期においてバルコニー21や居室19の温度が上昇すると、人はバルコニー21や居室19で暑さによって不快な思いをすることがある。そこで、本実施形態では建物10に水冷却設備が設けられており、庇部33の表面にて水を気化させてその気化熱で冷却された空気により太陽光パネル41を冷却することやバルコニー21や居室19の温度を低下させることを実現するようにしている。
【0028】
まず、庇部33の構成について説明する。
【0029】
図2に示すように、庇部33はスラット45を複数有している。スラット45は、水の吸収及び放出が可能な吸放湿性材料により長尺板状に形成されている。吸放湿性材料は、表面に多数の微小径孔を有する多孔質材料であり、多孔質材料としては木質系材料やセラミック材料が挙げられる。ここでは、スラット45が木材により形成されている構成とする。なお、スラット45は木材の加工品により形成されていてもよい。
【0030】
スラット45は屋根12の軒先32に沿って延びており、スラット45の板面は屋根面12aとは異なる傾斜角度で南側の上方を向いている。なお、スラット45の上面は太陽光が照射される受光面となっている。また、スラット45は遮光性を有しており、太陽光を遮る日除け部材となっている。
【0031】
各スラット45は、互いに平行に並べられている。ここでは、各スラット45は、屋根面12aの傾斜角度に合わせて軒先32から頂部31に向けて横並びになっている。隣り合うスラット45は離間しており、それらスラット45の間には通気用の隙間が形成されている。スラット45間の離間距離は、屋根面12aの傾斜角度から庇部33を見ると各スラット45の上下端部が互いに重なる大きさとなっており、庇部33に太陽光が照射されている場合に、その太陽光が通気用の隙間を通じてバルコニー21に照射されるということが生じにくくなっている。
【0032】
スラット45には、そのスラット45の内部に水を供給するためのスラット給水管47が取り付けられている。具体的には、スラット45の内部には、スラット給水管47を挿入するための挿入穴48が形成されており、挿入穴48はスラット45の長手方向に延びている。スラット給水管47は挿入穴48に挿入されることでスラット45の外周面の内側に収納されており、スラット給水管47の管壁には水を管内から管外へ流出させるための放出孔(図示略)が形成されている。放出孔は管壁を貫通しており、小口径で多数設けられている。
【0033】
スラット45についてスラット給水管47に水が供給された場合、水は放出孔を通じてスラット給水管47の内部からスラット45の内部に流れ出て、スラット45内をスラット45の周面に向けて浸透する。この結果、スラット45はその全体が湿った保湿状態となり、スラット45の周面から水を気化させることが可能となる。したがって、複数のスラット45が、水を気化させる気化部材に相当する。
【0034】
次に、庇部33のスラット45に水を供給する構成について図3を参照しつつ説明する。図3は屋根12における庇部33周辺の平面図である。
【0035】
図3に示すように、建物10には貯留タンク51と給水ポンプ52とパネル給水管53とが設けられている。貯留タンク51は雨水や水道水を貯留する貯水手段であり、例えば屋根12の下側や二階部分16の天井裏空間に設けられている。パネル給水管53は貯留タンク51とスラット給水管47とを接続している。パネル給水管53は、熱伝導性が高い鋼材等の材料により形成されており、太陽光パネル41の下方に設けられている。パネル給水管53は、太陽光パネル41と屋根12との間にて太陽光パネル41の直下に設けられており、太陽光パネル41の下面に当接している。したがって、パネル給水管53を流れる水と太陽光パネル41との間で熱交換が行われやすくなっている。また、パネル給水管53は蛇行するように配置されており、それによって太陽光パネル41の略全体がパネル給水管53との熱交換の対象となっている。
【0036】
給水ポンプ52は電気モータを含んで構成されており、駆動することで貯留タンク51からパネル給水管53を介してスラット給水管47に水を供給する。給水ポンプ52は例えば貯留タンク51に内蔵されている。給水ポンプ52は単位時間当たりの給水量を調整する調整機構を有している。調整機構は、例えば電気モータの回転速度を調整する調整手段を含んで構成されている。
【0037】
なお、水供給手段は貯留タンク51、給水ポンプ52及びパネル給水管53を含んで構成されており、気化部材はスラット45及びスラット給水管47を含んで構成されている。気化手段は水供給手段及び気化部材を含んで構成されている。また、パネル給水管53が水供給配管に相当する。
【0038】
本実施形態においては、庇部33からの水の気化量を制御する気化制御システムが構築されている。ここでは、気化制御システムに関する電気的な構成について説明する。
【0039】
気化制御システムは制御手段としてのコントローラ55を有している。コントローラ55は、CPUや各種メモリ等からなるマイクロコンピュータを含んで構成されており、気化制御に関する情報を記憶する記憶部56を有している。コントローラ55は、例えば居室19の壁面に対して取り付けられるなどして建物10内に設けられている。
【0040】
コントローラ55には、外気温度を検出する外気温度センサ57と、居室19の温度を検出する居室温度センサ58とが接続されており、これら温度センサ57,58は検出信号をコントローラ55に対して出力する。外気温度センサ57は例えば外壁23の屋外側面に対して取り付けられるなどして屋外に設けられており、居室温度センサ58は例えば居室19の内壁面に対して取り付けられるなどして居室19内に設けられている。
【0041】
コントローラ55には、無線通信又は有線通信が可能な通信装置59が接続されている。通信装置59はインターネットを通じての通信や外部施設との通信が可能となっており、コントローラ55は、通信装置59を通じて天気情報を取得する。また、コントローラ55には給水ポンプ52が接続されており、コントローラ55は指令信号を出力することにより給水ポンプ52の動作制御を行う。
【0042】
コントローラ55は、太陽光パネル41やバルコニー21、居室19を冷却する冷却処理を行う。冷却処理の処理手順について簡単に説明すると、コントローラ55は、まず太陽光パネル41やバルコニー21、居室19を冷却する必要があるか否かを判定する。ここでは、天気情報に基づいて雨天であるか否かを判定するとともに、外気温度や居室温度が所定温度(例えば25℃)より大きいか否かを判定し、雨天でなく且つ外気温度及び居室温度の少なくとも一方が所定温度より大きい場合に、冷却する必要があると判定する。
【0043】
太陽光パネル41等を冷却する必要があると判定した場合、外気温度に合わせて給水ポンプ52から供給される単位時間当たりの水量を設定し、その設定値に合わせて給水ポンプ52を駆動させる。ここでは、庇部33においてスラット45からの気化率(単位時間当たりの気化量)を推定し、推定した気化率に基づいて給水ポンプ52からの給水率(単位時間当たりの給水量)を設定する。具体的には、気化率と外気温度との関係がマップとして記憶部56に記憶されており、現在の外気温度に合わせて気化率を推定し、その気化率より小さい値となるように給水率を設定する。この場合、スラット45に供給された水は全て気化するため、気化しなかった水が庇部33から溢れて流れ落ちることや外壁23に付着することを抑制できる。
【0044】
なお、外気温度が高いほど気化率が大きくなり、スラット45への給水率を大きく設定することになる。例えば、外気温度が25℃であれば給水率を第1規定率に設定し、外気温度が25℃より高い30℃であれば給水率を第1規定率より大きい第2規定率に設定する。
【0045】
庇部33のスラット45に水が供給された場合、湿潤状態にあるスラット45の周面からの水の気化が太陽光の熱や風等により促進され、その気化熱により庇部33周辺の外気が冷却されて冷気となる。この場合、太陽光パネル41の上面(受光面)が太陽光により高温になり、太陽光パネル41の上面に沿って軒先32から頂部31へ向かって流れる上昇気流が生じていると、庇部33近傍の冷気はその上昇気流に乗って頂部31側に流れ、庇部33より頂部31側にある太陽光パネル41に到達する。つまり、庇部33での気化により太陽光パネル41が冷却される。
【0046】
また、スラット45間の隙間を通じて庇部33を上から下に通過する外気の流れが生じていると、冷気はその流れに乗ってバルコニー21に到達する。つまり、庇部33での気化によりバルコニー21の温度が低下する。さらに、窓部25が開放されておりバルコニー21から居室19に向かう外気の流れが生じていると、冷気はその流れに乗って居室19に到達する。つまり、庇部33での気化により居室19の温度が低下する。
【0047】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0048】
庇部33において屋外側に露出しているスラット45が吸放湿性を有しているため、スラット45を水で湿らせることにより、スラット45の表面から水を気化させ、その気化熱によりスラット45周辺の空気を冷却することができる。この場合、冷却された空気が太陽光パネル41周辺やバルコニー21、居室19に流れ込むことによりそれら太陽光パネル41やバルコニー21、居室19が冷却されることになる。
【0049】
また、庇部33のスラット45にパネル給水管53が接続されているため、貯留タンク51の水がパネル給水管53を通じてスラット45の内部に直接供給される。この場合、例えば庇部33の上方からスラット45に対して散水が行われる構成とは異なり、スラット45への給水に際してその水で屋根12や外壁23が濡れるということが抑制される。しかも、庇部33のスラット45への給水率がスラット45からの気化率より小さくされているため、スラット45に対して気化しない余剰分の水が供給されることを回避でき、ひいては、気化しなかった水が庇部33から流れ落ちることや外壁23に付着することを回避できる。したがって、水の気化熱によりスラット45周辺の空気を冷却する場合に、建物10の周面が水垢等により汚れることを抑制できる。
【0050】
以上の結果、建物10周辺の空気を好適に冷却することができる。
【0051】
庇部33においてスラット45間に通気用の隙間が形成されているため、庇部33周辺において空気を庇部33の上面や下面に沿って流すだけでなく、スラット45間の隙間を通じて上下方向に流すことが可能となる。この場合、隙間を通じて下方に空気が流れていれば、その流れに乗せて気化熱による冷気を庇部33周辺からバルコニー21に流れ込ませることができる。したがって、水の気化熱による冷却範囲をより一層拡げることができる。しかも、庇部33の下方には窓部25が形成されているため、気化熱による冷気が窓部25を通じて居室19に流れ込ませることができ、ひいては、夏期等において建物内空間としての居室19に対して冷房効果を付与することができる。
【0052】
また、複数のスラット45が互いに離間しているため、スラット45とスラット45間の隙間とが交互に配置されていることになり、スラット45周辺にて水の気化により冷却された空気がスラット45間の隙間から流下しやすくなる。したがって、庇部33の下方における冷却効率を高めることができる。
【0053】
屋根12の軒先32と頂部31との間において太陽光パネル41は庇部33の上方に設けられているため、水の気化熱により冷却された庇部33周辺の空気が太陽光パネル41周辺の上昇気流に乗って太陽光パネル41周辺に流れ込みやすくなっている。したがって、太陽光パネル41を効率良く冷却することができる。
【0054】
庇部33においてスラット45に水が供給された場合、スラット45はその全体が湿った状態となるため、水が気化する部分をスラット45の周面全体とすることができる。この場合、庇部33の上面及び下面の両面周辺の空気が気化熱により冷却されるため、例えば上面及び下面のうち一方にて水が気化する構成や、外壁23の一側面にて水が気化する構成に比べて、冷却対象となる空間を大きくすることができる。つまり、気化熱により冷却された外気が流れ込む範囲を広範囲とすることができる。
【0055】
庇部33がスラット45を複数有しており、各スラット45のそれぞれに対してパネル給水管53から個別に水が供給されるため、例えば庇部33の1つの部材に対して給水が行われる構成に比べて、全てのスラット45を効率良く湿らせることができる。また、スラット45に形成された挿入穴にスラット給水管47が挿入されており、スラット給水管47はスラット45の長手方向に沿って延びているため、スラット45の全体を一様に湿潤状態とすることができる。以上の結果、スラット45における水の気化効率を高めることができる。
【0056】
熱伝導率の高いパネル給水管53が太陽光パネル41の直下に設けられており、そのパネル給水管53を通じてスラット45に水が供給されるため、スラット45での水の気化に際してパネル給水管53内の水との熱交換により太陽光パネル41を冷却することができる。
【0057】
(第2実施形態)
上記第1実施形態は、水の気化熱により太陽光パネル41やバルコニー21などを冷却する構成としたが、第2実施形態は、太陽光の熱により建物10の暖房効果を高める構成とする。図4は屋根12の構成について説明するための図であり、(a)に建物10の概略断面を示し、(b)に屋根12の概略平面を示す。
【0058】
図4(a)に示すように、屋根12には、太陽光パネル41が設けられておらず、屋根面12aに沿って不凍液を循環させるための循環用配管71が設けられている。循環用配管71は熱伝導率の高い金属材料等により形成されている。ここで、屋根12は太陽光が照射されやすい日当たり部61と照射されにくい非日当たり部62とを有しており、循環用配管71は、それら日当たり部61及び非日当たり部62の両方にそれぞれ配置されている。なお、日当たり部61は屋根面12aが南側を向いている部分であり、非日当たり部62は屋根面12aが北側を向いている部分である。
【0059】
図4(b)に示すように、屋根12の日当たり部61及び非日当たり部62の両方において、循環用配管71は屋根面12aに沿って蛇行するように配置されている。循環用配管71のうち日当たり部61に配置された部分と非日当たり部62に配置された部分とは接続されており、循環用配管71を流れる不凍液は日当たり部61と非日当たり部62とを行き来することになる。
【0060】
循環用配管71には循環用ポンプ72が接続されている。循環用ポンプ72は電気モータを含んで構成されており、駆動することにより循環用配管71内を不凍液が流れる。ここで、循環用配管71の両端部は循環用ポンプ72を介して接続されており、不凍液が循環用配管71を流れ続けることになる。なお、循環用配管71を流れる液体は不凍液でなく水であってもよい。要は、熱伝導性を有する液体であればよい。
【0061】
本実施形態では、屋根面12aに太陽光が照射されることで循環用配管71内の不凍液に熱が加えられ、その熱により屋内空間に暖房効果が付与される。ここで、屋根12は循環用配管71に太陽光の熱が付与されやすい構成となっており、ここでは屋根12の構成にすいて図5を参照しつつ説明する。図5は、屋根12における循環用配管71周辺の構成を示す概略断面図である。
【0062】
図5に示すように、屋根12は、垂木75と野地板76と瓦77とを含んで構成されている。瓦77は野地板76の上に載置されており、野地板76や垂木75に対してビス等の固定部材により固定されている。瓦77の下方(屋内側)には防水シート等の防水材が設けられており、その防水材により屋根12に防水性能が付与されている。なお、瓦77は桟木を介して野地板76の上に載置され、ビス等により桟木に対して固定されていてもよい。また、瓦77は屋根面12aを形成する屋根仕上材に含まれており、垂木75及び野地板76は屋根下地材に含まれている。
【0063】
瓦77は、熱伝導率の高い金属材料等により形成されている。瓦77は野地板76に対して固定される固定部77aと、屋外側に露出する露出部77bとを有している。露出部77bは板状に形成されており、野地板76から上方に離間し且つ野地板76とほぼ平行に延びている。瓦77は野地板76に沿って複数並べられており、隣り合う瓦77は各野地板76の一部を重ねあわせるように配置されている。なお、瓦77は屋根12の傾斜に対して横並び及び縦並びとなっている。
【0064】
循環用配管71は瓦77の露出部77bの直下に設けられている。循環用配管71は瓦77の露出部77bと野地板76との間に配置されており、露出部77bの下面に対して当接又は近接している。循環用配管71は水平方向に延びており、屋根12の軒先側や頂部側に移動しないようにストッパ等の固定手段により固定されている。循環用配管71は屋根12の防水材より上方(屋外側)に設けられている。したがって、循環用配管71の設置に起因して屋根12の防水性能が低下するということが回避されている。
【0065】
瓦77が太陽光により加熱された場合、循環用配管71の管壁を介して瓦77と不凍液との熱交換が行われ、不凍液が加熱される。さらに、不凍液の熱が屋内側に伝わることで建物内空間が温度上昇し、建物内空間の暖房効果が高められる。
【0066】
また、循環用ポンプ72にはコントローラ55が電気的に接続されており、コントローラ55は外気温度や屋内温度に基づいて循環用ポンプ72を駆動させる。具体的には、外気温度や居室温度が所定温度(例えば15℃)より小さいか否かを判定し、小さい場合、循環用ポンプ72を駆動させて屋根12の日当たり部61と非日当たり部62とで不凍液を循環させる。この場合、日当たり部61において太陽光により加熱された不凍液が非日当たり部62に移動し、建物内空間のうち日当たり部61の下方空間に加えて非日当たり部62の下方空間に対して不凍液の熱が伝わることになる。これにより、不凍液を循環させることにより建物内空間の全体の暖房効果を高めることができる。
【0067】
なお、循環用ポンプ72は単位時間当たりの循環量を調整する調整機構を有していてもよい。調整機構は、例えば電気モータの回転速度を調整する調整手段を含んで構成されている。この場合、コントローラ55は、例えば外気温度が高いほど不凍液の循環速度を高くし、外気温度が低いほど不凍液の循環速度を低くする。
【0068】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0069】
屋根面12aに沿って循環用配管71が設けられているため、循環用配管71を流れる不凍液は排出されずに屋根12において循環される。したがって、屋根面12aに太陽光が照射された場合に、不凍液に付与された熱が排出されることなく不凍液と共に屋根12に存在することになる。この場合、例えば冬期において建物10内の熱が屋根12から屋外へ逃げることを抑制できるとともに、太陽光の熱を屋根12から建物内空間に付与することができる。つまり、建物内空間の暖房効率を高めることができる。
【0070】
屋根12において日当たり部61と非日当たり部62との間で不凍液が循環されるため、日当たり部61に加えられた太陽光の熱を非日当たり部62に付与することができる。したがって、太陽光が照射される日当たり部61(南側部分)の下方空間だけでなく、太陽光が照射されにくい非日当たり部62(北側部分)の下方空間の暖房効率を高めることができる。
【0071】
(他の実施形態)
本発明は上記各実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0072】
(1)第1実施形態において、気化部材を構成するスラット45は少なくとも一部が吸放湿性材料により形成されていればよい。例えば、スラット45が金属材料により形成されており、スラット45の内部から周面に向けて放射状に延びる放射状孔が多数設けられている構成とする。この構成では、放射状孔にスポンジ等の保水性の高い保水材が挿入されており、放射状孔がスラット給水管47の内部と連通されている。この場合、スラット給水管47に水が供給された場合、その水はスラット給水管47から放射状孔に流れ込み、保水材を湿潤状態とし、保水材におけるスラット45の周面付近から気化する。したがって、水の気化によりスラット45周辺の空気を冷却することができる。
【0073】
(2)第1実施形態において、スラット45にはスラット給水管47が設けられていなくてもよい。例えば、スラット45の挿入穴48にスラット給水管47が挿入されておらず、挿入穴48にパネル給水管53が接続されている構成とする。この構成でも、スラット45の内部に水を供給することができる。
【0074】
(3)第1実施形態において、庇部33のスラット45間の隙間は形成されていなくてもよい。つまり、庇部33を上下に貫通する通気部が形成されていなくてもよい。また、庇部33の上面及び下面は複数のスラット45により形成されているのではなく、1つの部材により形成されていてもよい。
【0075】
(4)第1実施形態において、庇部33周辺の空気を他の空間に強制的に送る送風装置が設けられていてもよい。例えば、送風装置により庇部33の上面周辺の空気が太陽光パネル41側に送られる構成とする。また、送風装置により庇部33の下面周辺の空気がバルコニー21や居室19に送られる構成とする。これにより、水の気化熱により冷却された外気をより広い空間に供給することができる。
【0076】
(5)第1実施形態において、パネル給水管53は屋根仕上材の下方(屋内側)に設けられていてもよい。また、貯留タンク51の水はパネル給水管53を介さずにスラット給水管47に直接接続さていてもよい。
【0077】
(6)第1実施形態において、スラット45などにより構成される気化部材は、庇部33ではなく屋根12や外壁23に設けられていてもよい。この場合、屋根12や外壁23周辺の空気を水の気化熱により冷却することができる。
【0078】
(7)第2実施形態において、液体としての不凍液が循環用配管71でなく瓦77等の屋根仕上材の内部を流れる構成としてもよい。例えば、図6に示すように、屋根仕上材としての瓦81が、不凍液が流れる流水部82を有している構成とする。流水部82は瓦81の端部において水平方向に延びており、屋根12において隣り合う瓦81は互いの流水部82が接続される位置に並べられている。この場合、複数の瓦81の各流水部82が接続されることで循環用配管71が形成されることになる。
【0079】
(8)第2実施形態において、循環用配管71は外壁に設けられていてもよい。例えば外壁のうち太陽光が照射されにくい部分の屋外側面に沿って循環用配管71が設けられている構成とする。この場合、屋根12の日当たり部61にて加熱された不凍液が外壁23に流れ込むと、外壁23に熱が付与されるため、外壁23側の建物内空間の暖房効果を高めることができる。
【0080】
(9)第2実施形態において、建物10に庇部33が設けられ、循環用配管71を水が流れており、その水が庇部33のスラット45に対して供給される構成とする。例えば、循環用配管71にスラット給水管47が接続されており、循環用配管71とスラット給水管47との分岐点にて水を循環用配管71又はスラット給水管47のいずれかに流す切替弁が設けられている構成とする。この構成によれば、循環用配管71にて水を循環させることにより、建物内空間の暖房効率を高めることができる一方で、切替弁を動作させてスラット給水管47に水を供給することにより、庇部33周辺の空間を好適に冷却することができる。この場合、スラット45から水を気化させることにより循環用配管71を流れる水を入れ替えることが可能となるため、循環用配管71の内部を衛生的に保つことができる。
【符号の説明】
【0081】
10…建物、12…屋根、25…建物開口部としての窓部、32…軒先、33…庇状部材としての庇部、41…太陽光パネル、45…気化手段及び気化部材を構成するスラット、47…気化手段及び気化部材を構成するスラット給水管、51…気化手段及び水供給手段を構成する貯留タンク、52…気化手段及び水供給手段を構成する給水ポンプ、53…気化手段、水供給手段及び水供給配管を構成するパネル給水管、55…気化手段及び水供給手段を構成するコントローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光が照射されることにより発電を行う太陽光パネルの周辺の建物屋外部であって太陽光を受光可能な受光場所にて水の気化を行う気化手段を備え、
前記気化手段は、
前記気化に要する水を供給する水供給手段と、
前記受光場所に設けられ、前記水供給手段により供給された水を気化させる気化部材と、
を有することを特徴とする建物冷却設備。
【請求項2】
前記水供給手段は、
屋外環境に基づいて前記気化部材における水の気化率を推定する手段と、
前記推定した水の気化率に基づいて水供給を行う手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の建物冷却設備。
【請求項3】
前記建物は、建物側方に突出する庇状部材を備え、
前記気化部材は、前記庇状部材に設けられ、かつ該庇状部材の上面側及び下面側の両方で気化を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の建物冷却設備。
【請求項4】
前記庇状部材は、建物開口部の上方に設けられ、かつ該庇状部材を上下に貫通する通気部を有することを特徴とする請求項3に記載の建物冷却設備。
【請求項5】
前記庇状部材は、横並びに配列された複数のスラットからなり、
前記気化部材は、前記複数のスラットにそれぞれ設けられており、
前記複数のスラットにおいて隣り合うスラット間の隙間が前記通気部となっていることを特徴とする請求項4に記載の建物冷却設備。
【請求項6】
前記気化部材は、前記水供給手段により供給される水の吸収及び放出が可能な吸放湿性材料により構成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の建物冷却設備。
【請求項7】
軒先に向けて下方傾斜した屋根を備え、前記太陽光パネルが前記屋根上において該屋根の傾斜面に沿うように設けられている建物に適用され、
前記気化部材は、前記屋根の傾斜面において前記太陽光パネルと隣り合わせで且つ該太陽光パネルの軒先側に設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の建物冷却設備。
【請求項8】
前記水供給手段は、前記太陽光パネルの下面に沿って設けられ且つ熱伝導率が高い水供給配管を有していることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の建物冷却設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−163091(P2011−163091A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30413(P2010−30413)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(504093467)トヨタホーム株式会社 (391)
【Fターム(参考)】