説明

建物外装材の製造方法

【課題】タイル表面の損傷や虹彩現象の発生を防止するための建物外装材の製造方法を提供する。
【解決手段】表面2aにラスター釉4を施釉して形成したタイル2を、コンクリート製のパネル本体1の表面1aに一体に設けて形成される建物外装材Aの製造方法であって、タイル2の凹凸部3を被覆するように弾性体を取り付ける弾性体取付工程と、弾性体を型枠の内面側に向けるようにして複数のタイル2を並べて配設するタイル配設工程と、型枠内にパネル本体1となるコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、型枠を脱型した後に、建物外装材Aを斜設するとともに凹凸部3に水を流下させてタイル2を水洗いする洗浄工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を反射して表面の色調が変化する建物外装材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば中・高層ビルなどの建物の外壁(非耐力壁)として、デザインの自由度が高いうえ、施工の効率化を図ることができるなどの多くの利点を有することからカーテンウォール(建物外装材)が多用されている。また、このカーテンウォールには、加工性、施工性に優れるとともに軽量化を図れることからアルミニウム製のカーテンウォール(アルミカーテンウォール)が多用されているが、近年、コストの低減を目的として、PC板(プレキャストコンクリートパネル、パネル本体)の表面に塗装を施して形成したカーテンウォールの適用事例が増加している。
【0003】
また、PC板の表面に施す塗装には、窓ガラスなどの透明ガラスとの色彩的な相性がよく、軽快な質感を表現できることから、顔料に金属やセラミックなどの微粉末を加え、光の反射で輝くように見える光輝性塗料が用いられている。例えば、アルミニウム微粉末を顔料に混ぜ合わせた光輝性塗料を塗装して金属独特の光沢を表現したメタリック塗装や、マイカ(雲母)に酸化チタンをコーティングしたパールマイカ微粉末を顔料に混ぜ合わせた光輝性塗料を塗装し、真珠の光沢を表現したパール塗装が多く使われている。
【0004】
一方、釉薬を使って表面に真珠のような玉虫色に輝く金属皮膜を形成したラスタータイルをPC板の表面に一体に設けて形成したものもあり、特に1980年〜1990年代に多用されていた。
【0005】
さらに、表面に凹凸を連続的に設けてPC板やタイルを形成し、幾何学的な立体模様を表面に形成した建物外装材もある。この建物外装材では、光が凹凸の形状に応じた反射角度で反射し、光の干渉作用によって特定の色の波長が強調される。これにより、見る角度によって建物外装材の表面の色調を変化させることが可能になる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−309001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、PC板の表面にラスタータイルを設けた建物外装材においては、反射率が高く、光の当たり加減で色調が変化するため、施工時の仕上がり面精度が低くなると、タイル面の色調が安定せず、例えば青魚の鱗のようにぎらぎらした表情に見えるという問題があった。すなわち、建築設計者の意図通りに施工することが難しいという問題があった。
【0008】
また、ラスタータイルの釉薬は、一般的な釉薬よりも軟らかいため、表面に傷が付きやすく、特に表面に凹凸を設けて形成したタイルは、尖部(角部)に欠けが生じる場合がある。さらに、PC板のカルシウム(セメント分)などを含む水と釉薬が反応し、虹彩現象を起しやすいという問題もある。
【0009】
このため、ラスタータイルを用いた建物外装材は、ラスタータイルを用いるが故に施工精度や洗浄法など繊細な取扱いが求められるが、この点が十分に理解されず、施工上の取扱いに起因するトラブルが多く発生し、現在では殆んど使われていない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、タイル表面の損傷や虹彩現象の発生を防止するための建物外装材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明の建物外装材の製造方法は、少なくとも表面にラスター釉を施釉して形成したタイルを、コンクリート製のパネル本体の表面に一体に設けて形成される建物外装材の製造方法であって、前記タイルが、表面に沿う一方向に延びる複数の突起部を前記一方向に直交する他方向に連続的に並設してなる凹凸部を備えて形成されており、該タイルの凹凸部を被覆するように弾性体を取り付ける弾性体取付工程と、前記弾性体を型枠の内面側に向けるようにして複数の前記タイルを並べて配設するタイル配設工程と、前記型枠内に前記パネル本体となるコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、前記型枠を脱型した後に、建物外装材を斜設するとともに前記凹凸部に水を流下させて前記タイルを水洗いする洗浄工程とを備えていることを特徴とする。
【0013】
この発明においては、タイルの凹凸部を被覆するように弾性体を取り付けることで、タイル配設工程、コンクリート打設工程、洗浄工程でタイルや建物外装材を運搬設置する際、コンクリート打設工程でコンクリートの自重が負荷される際に、タイルの凹凸部の尖部(角部)が欠けることを防止できる。
【0014】
また、型枠を脱型した後に、洗浄工程で斜設した建物外装材のタイルの凹凸部に水を流下させて表面を水洗いすることにより、タイルに付着したセメントノロなどを除去することができ、虹彩現象の発生を防止することが可能になる。
【0015】
また、本発明の建物外装材の製造方法においては、前記洗浄工程で、前記建物外装材を1/50〜1/15の勾配となるように斜設することが望ましい。
【0016】
この発明においては、建物外装材を1/50〜1/15の勾配となるように斜設することによって、タイルの凹凸部に好適に水を流下させてセメントノロなどを除去することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の建物外装材の製造方法によれば、タイルの凹凸部を被覆するように弾性体を取り付けることで、タイルの凹凸部(突起部)の尖部が欠けることを防止できる。また、洗浄工程でタイルに付着したセメントノロなどを除去することができ、虹彩現象の発生を防止することが可能になる。
【0018】
これにより、ラスタータイル(ラスター釉を施釉したタイル)を用いても、タイルの損傷や虹彩現象の発生を防止できるため、従来と比較し、施工上の取扱性を向上させることができ、普及を促進させることが可能になる。すなわち、従来のラスタータイルを用いた建物外装材特有の課題(欠点)を解消することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る建物外装材を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る建物外装材の構成要素のタイルを示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る建物外装材のタイルをシートパックしたタイルユニット(弾性体取付工程)を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る建物外装材のタイルにマークを刻印した状態を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る建物外装材の配置図の一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るタイルユニットを型枠内に設置してコンクリートを打設した状態(タイル配設工程、コンクリート打設工程)を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る建物外装材を水洗いしている状態(洗浄工程)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1から図7を参照し、本発明の一実施形態に係る建物外装材の製造方法について説明する。本実施形態は、ラスター釉を施釉したタイル(表面に光輝性を付与して形成したタイル)をPC板の表面に一体に設けてなる建物外装材の製造方法に関するものである。
【0021】
はじめに、本実施形態の建物外装材Aは、図1に示すように、平板状のPC板1(プレキャストコンクリートパネル、コンクリート製のパネル本体)の表面1aに複数のタイル2を一体に設けて形成されている。本実施形態のタイル2は、図1及び図2に示すように、表面2aに沿う一方向T1に延びる複数の突起部2bが一方向T1に直交する他方向T2に連続的に並設してなる凹凸部3を備えて形成されている。また、本実施形態のタイル2には、裏面2cに、前記一方向T1に延びる凹状の溝2dが前記他方向T2に所定の間隔をあけて複数形成されている。これにより、タイル2の裏面2cには、隣り合う溝2dの間に前記一方向T1に延びる断面略方形状の凸部2eが形成されている。さらに、このタイル2は、少なくとも表面2aの凹凸部3にラスター釉4を施釉して形成されており、表面2aの凹凸部3に光輝性を付与して形成されている。すなわち、このタイル2はラスタータイル(カラーシフトタイル)である。
【0022】
また、本実施形態において、タイル2の凹凸部3を形成する複数の突起部2bは、断面三角形状(山形状)に形成されている。さらに、凹凸ピッチ、すなわち断面三角形状の突起部2bの底辺寸法が40〜80mm程度とされ、凹凸部3の凹凸深さ寸法、すなわち突起部2bの高さ寸法が凹凸ピッチの1/5程度(8〜16mm程度)とされている。
【0023】
そして、図1に示すように、前記一方向T1を上下方向に配した状態で、複数のタイル2がPC板1の表面1aに設けられている。これにより、本実施形態の建物外装材Aは、その表面に幾何学的な立体模様(表面テクスチャー)が形成され、また、タイル2の凹凸部3に施釉したラスター釉4によって表面が見る角度に応じて真珠のような玉虫色に輝くように形成されている。
【0024】
次に、上記構成からなる建物外装材Aの製造方法について説明する。このような建物外装材Aは、通常、PC工場にラスター釉4を施釉して形成したタイル2を搬入し、このPC工場内で製造される。そして、本実施形態の建物外装材Aの製造方法では、はじめに、タイル2の敷き並べの効率を向上させるために、例えば2枚のタイル2を並設して1組のタイルユニットとして一体化するようにシートパックを作製する。このとき、図3に示すように、タイル2(タイルユニット)に対し、凹凸部3(表面2a)を被覆するように硬質ゴム製の保護カバー(弾性体)5を取り付けてシートパックを作製する(弾性体取付工程)。この保護カバー5は、2〜10mmの厚さであることが好ましい。
【0025】
また、図4に示すように、予めタイル2の裏面2cに左右を示すマークM(例えば左向きの三角印あるいは右向きの三角印)をつけておき、マークMを見ながらタイル2の組合せパターンが異なる複数種のシートパックを作製する。また、例えば、このシートパック作製時に、記号(A〜D)をタイル2の裏面2cに書き込むなどして付与しておき、例えば図5に示す配置図にしたがって、図6に示すように、建物外装材Aの大きさに応じて形成した型枠6内にタイルユニットを配置して敷き並べる。すなわち、型枠6内の所定位置に複数のタイル2を配設する(タイル配設工程)。このようにタイルユニットに記号(A〜D)を付与し、配置図にしたがってタイルユニットを敷き並べてゆくことにより、複数のタイル2を所定位置に容易に配設することができる。
なお、各タイルユニットに追番を付けて数量管理を行うようにしたり、各タイルユニットに色をつけて視覚的にチェックを行えるようにしてもよい。
【0026】
また、このとき、型枠6の内面6a側に保護カバー5を向けた状態で各タイルユニットを敷き並べる。そして、このように各タイルユニット(タイル2)を運搬して型枠6内の所定位置に配設する際に、タイル2の凹凸部3が保護カバー5で被覆されているため、一般の釉薬よりも軟らかいラスター釉4を用いたタイル2であっても、このタイル2の突起部2bの尖部(角部)に欠けが生じることがない。
【0027】
次に、図6に示すように、型枠6内にPC板(パネル本体)1となるコンクリートCを打設する(コンクリート打設工程)。このとき、打設したコンクリートCの自重などによってタイル2の突起部2b(凹凸部3)が型枠6の内面6aに押し付けられることになるが、タイル2の突起部2bと型枠6の内面6aとの間に保護カバー5が介装されているため、やはり突起部2bの尖部に欠けが生じることがない。なお、隣り合うタイル2の間に発泡ポリエチレンなどの目地材7を設けておくことにより、タイル2の表面2a側(保護カバー5側)にコンクリートCが流れ込むことが防止される。
【0028】
そして、打設したコンクリートCが硬化した後に、型枠6を脱型することで、PC板1の表面1aにタイル2を一体に設けた建物外装材Aが得られる。また、図7に示すように、本実施形態では、型枠6を脱型した直後に、タイル2を設けた表面側を上方に向けるとともに前記一方向T1の一端を下方に、他端を上方に配して、建物外装材Aを斜設する。そして、保護カバー5を取り除き、タイル2の凹凸部3に水Wを流下させてタイル2を水洗いする(洗浄工程)。このように建物外装材Aを斜設し、タイル2の凹凸部3に水Wを流下させることで、タイル2の表面2aに付着したセメントノロなどが除去される。また、セメントノロなどが除去されたことを確認した段階で、ブロアーなどで表面2aに残った水Wを取り除く。これにより、従来、ラスタータイルを用いるにあたり、大きな課題であった虹彩現象が生じることのない建物外装材Aが製造される。また、この洗浄工程では、建物外装材Aを1/50〜1/15の勾配(=a/b)となるように斜設することが好ましい。このようにすることで、タイル2の凹凸部3に好適に水Wが流下してセメントノロなどが確実に除去される。
【0029】
したがって、本実施形態の建物外装材Aの製造方法においては、タイル2の凹凸部3を被覆するように保護カバー5(弾性体)を取り付けることで、タイル配設工程、コンクリート打設工程、洗浄工程でタイル2や建物外装材Aを運搬設置する際、コンクリート打設工程でコンクリートCの自重などが負荷される際に、タイル2の凹凸部3の尖部(角部)が欠けることを防止できる。
【0030】
また、型枠6を脱型した後に、洗浄工程で斜設した建物外装材Aのタイル2の凹凸部3に水Wを流下させて表面2aを水洗いすることにより、タイル2に付着したセメントノロなどを除去することができ、虹彩現象の発生を防止することが可能になる。また、このとき、建物外装材Aを1/50〜1/15の勾配となるように斜設することによって、タイル2の凹凸部3に好適に水Wを流下させてセメントノロなどを除去することができる。
【0031】
さらに、本実施形態の製造方法で製造した建物外装材Aは、上記効果に加えて、上下方向(一方向T1)に延びる突起部2bが表面に形成されていることにより、すなわち縦スリットが入っていることにより、ぎらつき感がなく、且つ縦スリットが水みちになり、汚れがつきにくいうえ、汚れが付着した場合であっても目立ちにくい。
【0032】
これにより、ラスタータイル(ラスター釉4を施釉したタイル2)を用いても、タイル2の損傷や虹彩現象の発生を防止できるため、従来と比較し、施工上の取扱性を向上させることができ、この種の建物外装材Aを使用することを可能にし、普及を促進させることが可能になる。すなわち、従来の課題を解消することが可能になる。
【0033】
以上、本発明に係る建物外装材の製造方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 PC板(コンクリート製のパネル本体)
1a 表面
2 タイル
2a 表面
2b 突起部
2c 裏面
2d 溝
2e 凸部
3 凹凸部
4 ラスター釉
5 保護カバー(弾性体)
6 型枠
6a 内面
7 目地材
A 建物外装材
M マーク
T1 一方向
T2 他方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面にラスター釉を施釉して形成したタイルを、コンクリート製のパネル本体の表面に一体に設けて形成される建物外装材の製造方法であって、
前記タイルが、表面に沿う一方向に延びる複数の突起部を前記一方向に直交する他方向に連続的に並設してなる凹凸部を備えて形成されており、
該タイルの凹凸部を被覆するように弾性体を取り付ける弾性体取付工程と、
前記弾性体を型枠の内面側に向けるようにして複数の前記タイルを並べて配設するタイル配設工程と、
前記型枠内に前記パネル本体となるコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、
前記型枠を脱型した後に、建物外装材を斜設するとともに前記凹凸部に水を流下させて前記タイルを水洗いする洗浄工程とを備えていることを特徴とする建物外装材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の建物外装材の製造方法において、
前記洗浄工程で、前記建物外装材を1/50〜1/15の勾配となるように斜設することを特徴とする建物外装材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−111857(P2011−111857A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271707(P2009−271707)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(500227978)株式会社エスシー・プレコン (4)
【Fターム(参考)】