説明

建物通気システム

【課題】風通しの良し悪しだけに依存することなく、エアコン等の空調設備を使用しない屋内空間の通気を実現すること。
【解決手段】屋内空間11とバルコニー12とを区画する外壁部13に設けられた窓部14の屋外側には、シャッタ装置20が設けられている。シャッタ装置20は、窓部14の全域を閉鎖した状態において、上部や下部が部分的に開放されるシャッタカーテン22を有している。また、バルコニー12の床部には水を含む保水タイル32が敷き詰められ、そのバルコニー12における環境情報(温度、湿度、風等)がバルコニー環境センサ36によって検知されるようになっている。それによって検知された環境情報に基づき、シャッタ装置20の部分開放態様がコントローラKによって制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋内空間を通気するための建物通気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物においてその屋内空間の環境を制御する装置としては、エアコン等の空調設備が一般的であり、広く普及している。このような空調設備は、省エネのための改良が日々進行してはいるとはいえ、継続的な空調のために長時間の駆動を伴い、電力消費の抑制には限界がある。
【0003】
そこで、空調設備を使用しないで屋内空間の温度を調整する技術が従来から提案されている。その提案例として、部屋に隣接するバルコニーに、ミストを噴霧する設備を設置することが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
この例では、噴霧されたミストの気化熱を利用してバルコニーの温度を低下させ、その冷気を隙間風に乗せて部屋に取り込み、それによって部屋の温度を低下させるようにしている。このため、空調設備を使用しない空調を実現することができ、省エネを図りながら夏季の居住環境を快適化できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−175445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バルコニーに吹き込む風の発生条件は、隣接する建物の大きさや隣接間隔、バルコニーが配置された方角、時間帯等によって大きく影響を受ける。例えば、都市部の住宅密集地等では前述した発生条件がそろわず、風が発生しづらくて風通しが悪い。そのような場所に建てられた建物では、ミスト噴霧によってバルコニーの温度を低下させたとしても、その冷気を部屋に取り込むための風が生じづらいため、冷気を部屋に取り込むことができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の主たる目的は、建物通気システムにおいて、風通しの良し悪しだけに依存することなく、空調設備を使用しない屋内空間の通気を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0009】
すなわち、第1の発明では、半屋外空間とその半屋外空間に隣接する屋内空間とを備えた建物に適用され、前記半屋外空間と前記屋内空間とを区画する区画部に設けられた窓部を通じ、前記屋内空間を通気する建物通気システムにおいて、前記窓部の全域に対して所定部位を開放し、それ以外を閉鎖した部分開放状態に移行可能なシャッタカーテンを有するシャッタ装置と、前記半屋外空間の床部に設けられ、水分を含水させ、環境状態により前記半屋外空間に含水させた水分が蒸発する保水部と、前記半屋外空間での半屋外環境情報を取得する半屋外環境情報取得手段と、前記半屋外環境情報に基づいて、前記シャッタ装置の部分開放態様を制御するシャッタ制御手段と、を備えた。
【0010】
この第1の発明によれば、全閉鎖状態にあるシャッタカーテンが部分的に開放されると、その開放部位を通じて半屋外空間と屋内空間とが連通される。その場合に、保水部の水が蒸発するとその水蒸気が半屋外空間を上昇して拡散し、その拡散に伴って屋内空間の熱が半屋外側へ誘引されて、前記開放部位を通じた半屋外空間への排気が促される。これにより、屋内空間の通気を実現できる。ここでは、水蒸気の拡散を利用して通気しているため、風通しの良し悪しだけに依存することなく、エアコン等の空調装置を使用しない屋内空間の通気を実現できる。
【0011】
もっとも、保水部からの水分蒸発量は、半屋外空間の環境(例えば、温度、湿度、風の強さ等)によって影響を受ける。このため、例えば、水分蒸発量が少ない場合にシャッタカーテン上部を部分開放しても、水蒸気の拡散がシャッタカーテン上部まで届かず、期待するような通気効果は得られない。その一方で、不用意にシャッタカーテンを部分開放することは、防犯性やプライバシ保護の観点から問題をはらむ。
【0012】
そこで、第2の発明では、前記シャッタ制御手段は、前記半屋外環境情報に基づいて前記保水部からの水分蒸発量を判断し、前記シャッタカーテンを部分開放状態とする前記所定部位の位置を前記水分蒸発量に応じて変更するようにした。
【0013】
この第2の発明によれば、水分蒸発量に応じて部分開放の態様が変更されるため、通気の実現に最適な部分開放状態を形成することが可能となる。これにより、通気の実現と防犯性やプライバシ保護との調和を図ることができる。
【0014】
第3の発明では、前記水分蒸発量が設定環境基準値より大きいと判断された場合における前記所定部位は、前記シャッタカーテンの上部であり、前記水分蒸発量が前記設定環境基準値より小さいと判断された場合における前記所定部位は、前記シャッタカーテンの下部であるとした。
【0015】
この第3の発明によれば、水分蒸発量が設定環境基準値よりも大きい場合は水蒸気の拡散がシャッタカーテン上部まで届き得るため、そのシャッタカーテン上部を部分開放させることで、屋内空間の上部に滞留する熱の排気を促すことができる。また、水分蒸発量が設定環境基準値よりも小さい場合は水蒸気の拡散がシャッタカーテン上部まで届きづらいため、シャッタカーテンの下部を部分開放させることで、気化熱によって温度が低下した冷気を下部の開放部位を通じて屋内空間へ取り込む。この冷気により、屋内空間を通気できる。なお、この冷気取込効果を促進するため、屋内空間にはその内部空気を排気する排気部が設けられた構成を採用することが好ましい。
【0016】
水分蒸発量が設定環境基準値より大きい場合において、前記所定部位を前記シャッタカーテンの上下両部であることが好ましい。これにより、上部の開放部位を通じた排熱促進効果が得られるだけでなく、気化熱によって温度が低下した冷気を下部の開放部位を通じて屋内空間へ取り込むことができる。これにより、屋内空間と半屋外空間とで空気循環が形成されて、冷気取込みと排熱との合わせて行うことができ、上部開放だけの場合に比べて通気性が高まる。
【0017】
なお、シャッタカーテンの上部を開放させる上では、多数のスラットが連結されてなるシャッタカーテンと、上部数枚のスラットについて角度を調整する角度調整機構とを備えたシャッタ装置であることが好ましい。これにより、上部が開放された状態を容易に形成することができる。
【0018】
また、シャッタカーテンの下部を開放させる態様としては、多数のスラットが連結されてなるシャッタカーテンであれば、一枚または数枚のスラット分だけ上昇させることが好ましい。この態様であれば、単にシャッタカーテンを若干上昇させるだけであるため、下部開放を容易に実現できる。
【0019】
第4の発明では、前記保水部の含水量を検知する水分検知手段と、前記保水部に水を供給する水供給手段と、前記水分検知手段によって検知された含水量情報に基づいて、前記水供給手段による水供給を制御する水供給制御手段と、を備えた。
【0020】
この第4の発明によれば、蒸発させるに足る水を保水部に常時含ませることができるため、屋外の天気に影響されることなく屋内空間の通気を実現することができる。
【0021】
第5の発明では、前記屋内空間の温度を検知する屋内温度検知手段を備え、前記シャッタ制御手段は、前記屋内空間の温度が設定温度よりも高いと判断した場合に、前記シャッタカーテンの部分開放態様に関する制御を実行するようにした。
【0022】
この第5の発明によれば、屋内空間の温度を監視し、通気が必要と判断された場合にシャッタカーテンを部分開放状態とする制御を実行するため、睡眠中等で建物利用者(ユーザ)による手動制御が困難な場合でも、冷えすぎ等の過度な通気を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】建物通気システムを示す建物の一部縦断面図。
【図2】シャッタ装置の正面図。
【図3】シャッタ装置の側面概略図であり、(a)は上部開放時、(b)は下部開放時、(c)は上下開放時を示している。
【図4】シャッタ装置を正面概略図であり、(a)は上部開放時、(b)は下部開放時、(c)は上下開放時を示している。
【図5】建物通気システムにおける制御の流れを示すフローチャート。
【図6】空気の流れを示す概略図であり、(a)は上部開放時、(b)は上下開放時、(c)は下部開放時をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、建物通気システムの一実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本実施形態における建物通気システムを備えた建物の一部縦断面図である。システムの前提となる建物の構成についてまず説明する。
【0026】
図1に示すように、建物10はその上階部分に設けられた屋内空間11と、その屋内空間11と横並びで隣接するバルコニー12とを有している。バルコニー12は、半屋外空間に相当している。屋内空間11とバルコニー12とは区画部としての外壁部13によって仕切られており、その外壁部13には比較的大開口の窓部14が設けられている。この窓部14は掃き出し式であり、それを利用して屋内空間11とバルコニー12との間を建物利用者(ユーザ)が行き来できるようになっている。
【0027】
建物通気システムは、夏季等において、屋内空間11の室温が高くなった場合に、バルコニー12との間で空気移動を可能にすることにより、エアコン等の空調設備を使用しないで屋内空間11の通気を実現するものである。この建物通気システムは、窓部14の屋外側に設けられたシャッタ装置20と、屋内空間11及びバルコニー12における各構成要素と、これらを統括制御するコントローラKとを備えて構成されている。はじめにシャッタ装置20の構成を説明し、その後、屋内空間11側及びバルコニー12側の各構成要素を説明する。
【0028】
まず、シャッタ装置20は、横長箱状をなすシャッタボックス21、スラット開閉式のシャッタカーテン22等を有して構成されている。シャッタボックス21は窓部14の上方に取り付けられ、シャッタカーテン22はそのシャッタボックス21内に巻回された状態で収納される。シャッタカーテン22がシャッタボックス21から引き出される(降下する)と窓部14が閉鎖され、シャッタカーテン22がシャッタボックス21内に巻き取られる(上昇する)と窓部14が開放される。
【0029】
シャッタ装置20について、図2を参照しながらもう少し詳しく説明する。なお、図2はシャッタ装置20の正面図であり、電気的構成の一部も併せて図示されている。
【0030】
図2に示すように、スラット開閉式の前記シャッタカーテン22は、多数のスラット23が上下に連結されて構成されている。各スラット23は、それぞれ横長板状に形成されており、上下に並ぶように配置されている。それらスラット23は、上下に隣接するスラット23同士が互いに係合されており、シャッタカーテン22として一体的に上昇したり下降したりする構成となっている。
【0031】
シャッタカーテン22の最上部は、前記シャッタボックス21内に設置された巻取りドラム24と連結されており、巻取りドラム24が回転することでシャッタカーテン22の巻き取りや引き出しが行われる。巻取りドラム24は、同じくシャッタボックス21に収容されたドラム駆動部25と連結されている。ドラム駆動部25は電動モータ等を含んで構成されており、このドラム駆動部25の駆動によって巻取りドラム24が正逆いずれかの方向に回転すると、シャッタカーテン22が巻き取り又は引き出される。
【0032】
その巻き取り又は引き出しが行われる場合、シャッタカーテン22の左右両端部に設けられたガイドレール26によって、その巻き取り又は引き出し動作が案内される。ガイドレール26は、窓部14の左右両側に取り付けられている。
【0033】
ガイドレール26には、シャッタボックス21から引き出された各スラット23のうち、上部数枚(例えば、3枚)だけを開閉させるスラット開閉機構が設けられている。スラット開閉機構は、スラット23の長手方向両端部に設けられた回動軸部やそれとのリンク機構等を用いた周知の構成からなり、シャッタボックス21に収容されたスラット駆動部27と連結されている。スラット駆動部27は電動モータ等を含んで構成されており、スラット駆動部27の駆動によりスラット開閉機構を介してスラット23の上部数枚が開閉される。開状態となるとスラット23は傾斜し、その傾斜により上下に隣接するスラット23間に横長形状の隙間が形成される。
【0034】
このようなスラット開閉機構が設けられていることにより、各スラット23が一体となってシャッタカーテン22を昇降させる昇降動作を可能とする他、シャッタカーテン22が部分的に開放された状態を形成することが可能となる。
【0035】
図3はシャッタ装置20の側面概略図であり、(a)〜(c)はシャッタカーテン22のそれぞれ異なる態様を示している。図4は正面概略図であり、(a)〜(c)はそれぞれ図3(a)〜(c)と対応している。
【0036】
まず、基準となるのは全閉鎖状態であり、その状態におけるシャッタカーテン22は、窓部14の全域が閉鎖されるまで引き出され、かつ全てのスラット23が閉鎖されている(図1参照)。そこからシャッタカーテン22を部分的に開放する態様には、3つある。
【0037】
一つは、図3(a)に示すように、前述した基準状態から、各スラット23のうちの上部数枚のスラット23aを開状態へ移行させた態様である。これにより、図4(a)に示すように、シャッタカーテン22の上端部には、隣接するスラット23間の隙間を通じて開放部A1が形成され、その開放部A1を通じて屋内への通気性(窓部14の開放が前提)や採光性が確保される。この態様では、開放部A1の形成部分が、部分開放された所定部位に相当する。
【0038】
別の一つは、図3(b)に示すように、前述した基準状態から、シャッタカーテン22を若干(例えば、スラット一枚分程度)上昇させた態様である。これにより、図4(b)に示すように、シャッタカーテン22の下端部には開放部A2が形成され、その開放部A2を通じて屋内への通気性が確保される。この態様では、開放部A2の形成部分が、部分開放された所定部位に相当する。
【0039】
さらに別の一つは、図3(c)に示すように、シャッタカーテン22を若干上昇させた状態(前記図3(b)参照)とした上で、引き出された各スラット23のうちの上部数枚のスラット23aを開状態へ移行させた態様である。これにより、図4(c)に示すように、シャッタカーテン22の上下両端部に開放部A1,A2が形成され、その開放部A1,A2を通じて屋内への通気性や採光性が確保される。この態様では、開放部A1,A2の形成部分が、部分開放された所定部位に相当する。
【0040】
図2に戻り、シャッタカーテン22を昇降動作させる駆動源となる前記ドラム駆動部25、及びスラット23を開閉動作させる駆動源となる前記スラット駆動部27は、シャッタ制御部28に接続されている。このため、シャッタ制御部28の指令によってドラム駆動部25及びスラット駆動部27の駆動、つまりシャッタカーテン22の昇降動作やスラット23の開閉動作が制御される。
【0041】
シャッタ制御部28は、現実にはそのシャッタボックス21内に設けられている。シャッタ制御部28は、屋内空間11の壁面に設けられる操作装置29(図1参照)と接続されている。操作装置29は操作子(ボタンやスイッチなど)を有しており、シャッタカーテン22の昇降やスラット23の開閉に関するマニュアル操作を受け付ける。そして、シャッタ制御部28はこの受け付けた操作内容に応じた制御を実行すべく、ドラム駆動部25やスラット駆動部27に指令信号を出力する。
【0042】
次に、図1に戻って、屋内空間11側及びバルコニー12側の構成要素を説明する。
【0043】
まず、屋内空間11には、その屋内空間11の室温を検知する室温センサ31が設けられている。この室温センサ31は、屋内温度検知手段に相当する。
【0044】
一方、バルコニー12には、保水タイル32と、腰壁部33とが設けられている。保水タイル32は多孔質に構成されたタイル材であり、その内部の細孔に水を保持する保水機能を有している。バルコニー12の床部には、このような保水タイル32がその全域にわたって敷き詰められている。保水タイル32の含水量(含水率)は、水分検知手段としての水分センサ34によって検知されるようになっている。
【0045】
腰壁部33は、バルコニー12の縁部分に立設されている。この腰壁部33には、散水装置35と、バルコニー環境センサ36とが設けられている。散水装置35は、腰壁部33に沿って横方向に延びる通水路37と、通水路37に通ずるノズル38とを有している。通水路37には外部信号により制御される開閉弁(図示略)が設けられており、その開閉によりノズル38からの水導出又はその停止が切り替えられる。ノズル38はバルコニー12の広さに応じて複数設けられ、各ノズル38から水を導出させて床部の保水タイル32に水がまかれる。広範囲に散水することを可能にすべく、可動式のノズル38を用いてもよい。この散水装置35が水供給手段に相当する。また、バルコニー環境センサ36は、バルコニー12における気温、湿度、風の強さ等の環境情報を取得するものである。このバルコニー環境センサ36は、半屋外環境情報取得手段に相当する。
【0046】
前述したシャッタ装置20のシャッタ制御部28、室温センサ31、水分センサ34、散水装置35及びバルコニー環境センサ36は、それぞれコントローラKに接続されている。コントローラKはCPU及びメモリ等を含んで構成されるマイクロコンピュータを有しており、例えば、シャッタ装置20の前記操作装置29と一体的に設けられている。
【0047】
コントローラKには、室温センサ31が検出した屋内空間11の室温情報、水分センサ34が検出した保水タイル32の含水量情報、バルコニー環境センサ36が検出したバルコニー12の環境情報を取得する。そして、コントローラKは、これらの情報に基づいてシャッタ制御部28や散水装置35に指令を出し、シャッタ装置20の駆動制御や散水装置35におけるノズル38の開閉制御を実行する。
【0048】
なお、シャッタ制御部28及びコントローラKはシャッタ制御手段に相当する。また、コントローラKは、水供給制御手段にも相当する。
【0049】
以上が建物通気システムの構成であり、続いて、その建物通気システムにおける制御の流れを、図5のフローチャートに基づいて説明する。この制御処理は、コントローラKにより、所定の時間周期で実行されるようになっている。シャッタカーテン22が全閉状態にあることが制御処理を実行する条件とされる。このため、仮に開放状態にあれば、コントローラKは、処理を実行する前に、シャッタカーテン22を全閉状態へ移行させる。
【0050】
図5において、まずステップS101では、センサからの各種情報を読み込む。具体的には、室温センサ31により検出した屋内空間11の室温情報、水分センサ34により検出した保水タイル32の含水量情報、バルコニー環境センサ36により検出したバルコニー12の環境情報を読み込む。
【0051】
続いて、ステップS102では、その時の室温が所定の基準温度(例えば、30℃)以上であるか否かを判定する。基準温度は、シャッタカーテン22に開放部A1,A2を形成して通気を必要とする室温としてあらかじめ設定されている。基準温度は前記数値に限定されるものではなく、適宜設定変更可能である。なお、この基準温度は、ユーザの要求に応じて適宜変更できるようにしてもよい。そして、室温が基準温度を下回っている場合(室温<30℃の場合)には、処理を終了する。この場合、シャッタカーテン22が部分的に開放された状態にあれば、その開放部A1,A2を閉じる閉鎖処理を実行した後に終了する。一方、室温が基準温度以上(室温≧30℃)であれば、判定を肯定してステップS103に進む。
【0052】
このステップS103では、保水タイル32におけるその時の含水量が所定の含水基準値(例えば、80%)以下であるか否かを判定する。この含水基準値は、水補給を要する含水量としてあらかじめ設定されている。含水基準値も前記数値に限定されるものではなく、適宜設定変更可能である。なお、この含水基準値をユーザの要求に応じて適宜変更できるようにしてもよい。そして、含水量が含水基準値を上回っている場合(含水量>80%)には、ステップS105に進む。一方、含水量が含水基準値以下(含水量≦80%)であれば、ステップS104に進み、散水装置35のノズル38から水を導出させて床部への散水処理を実行する。これにより、保水タイル32に水が供給されて含水量が高められる。
【0053】
ステップS105では、蒸発量判定処理を実行する。具体的には、バルコニー環境センサ36により検出したバルコニー12の環境情報に基づいて、保水タイル32に含まれる水分の蒸発量が「大」「小」いずれのモードであるかを判定する。ここでは、蒸発量の定量化を行うのではなく、バルコニー12の環境情報から蒸発量の大小を推測する。保水タイル32からの水の蒸発量は、バルコニー12の環境に大きく影響を受けるため、このような推測が可能となっている。なお、蒸発量の定量化によって判定することもできる。
【0054】
例えば、バルコニー12の気温が比較的高くて湿度が低い場合(例えば、気温28℃以上で、湿度40%以下)、蒸発量は大きいと推測できる。また、気温や湿度が比較的高い場合(例えば、気温28℃以上で、湿度60%以上)であっても、バルコニー12を吹き抜けるような風が発生している場合にも、蒸発量が大きくなると推測できる。そこで、このような蒸発量「大」となる環境基準値をあらかじめ設定しておき、その設定環境基準値をクリアする環境と判定した場合、蒸発量「大」モードと判定する。一方、設定された環境基準値に至らない場合には、蒸発量「小」モードと判定する。
【0055】
なお、この環境基準値は、適宜設定可能となっている。気温が比較的高くて湿度が低い場合、気温や湿度が比較的高い場合の例として挙げた先の数値は、これに限定されるものではない。
【0056】
その後、ステップS106では、上記ステップS105でのモード判定結果に応じた処理の分岐を行う。蒸発量「大」モード判定がなされた場合はステップS107に進み、蒸発量「小」モード判定がなされた場合はステップS112に進む。以下、各モードでの処理を、図6を適宜参照しながらそれぞれ説明する、なお、図6は、シャッタカーテン22が部分開放された場合における空気の流れを示す概略図であり、(a)は上部開放時、(b)は上下開放時、(c)は下部開放時をそれぞれ示している。
【0057】
まず、蒸発量「大」モードにおける処理について説明すると、ステップS107では、効果判定フラグFが零が否かを判定する。効果判定フラグFは、このステップS107に続くステップS108で実行するカーテン部分開放処理の有効性を示すものである。零の場合は最初の判定である又は有効性が不確定であることを示し、1の場合は有効性がないと確定されたことを示している。
【0058】
そして、効果判定フラグFが零である場合(F=0)、判定を肯定してステップS108に進み、シャッタカーテン22の上部を部分開放する上部開放処理を実行する。これにより、シャッタカーテン22の上部には開放部A1が形成される(図3(a)及び図4(a)参照)。この場合、図6(a)に示すように、保水タイル32の水分が蒸発してできた水蒸気は、開放部A1に至る程度にまでバルコニー12を上昇して拡散する。その拡散に伴い、屋内空間11の上部に滞留する熱Hは開放部A1を通じてバルコニー12へ誘引され、それによって屋外への排気が促される。
【0059】
続いて、ステップS109に進み、シャッタカーテン22の上部開放処理が実行されてから所定時間(例えば、数十分程度)経過したか否かを判定する。いまだ所定時間内であれば判定を否定して処理を終了し、所定時間を経過した場合には判定を肯定してステップS110に進む。つまり、このステップS109の判定が肯定されるのは、所定時間経過するまで上部開放処理を継続しても室温が基準温度を下回らない場合であり、それはこの上部開放処理が室温を低下させる上で有効性がないことを示している。このため、ステップS110では上部開放処理に有効性がないことを示すべく、効果判定フラグFを値1にセットする。
【0060】
このように効果判定フラグFが1とされている場合(F=1)、前記ステップS107の判定を否定してステップS111に進み、シャッタカーテン22の上部及び下部の両者を部分開放する上下開放処理を実行する。これにより、シャッタカーテン22の上下に開放部A1,A2が形成される(図3(c)及び図4(c)参照)。この場合、図6(b)に示すように、バルコニー12では保水タイル32の水が蒸発する際の気化熱により、その床側の温度が低下し、それにより生じた冷気Cを下側の開放部A2を通じて屋内空間11に取り込むことができる。そして、屋内空間11では熱Hが上昇し、上部に溜まった熱Hは水蒸気の拡散に伴って屋外への排気が促される。これにより、屋内空間11とバルコニー12との間で空気循環が形成され、冷気Cを屋内へ取り込むとともに熱Hを屋外へ排気することができる。したがって、前述した上部開放だけの場合に比べ、通気効果を高めることができる。
【0061】
次に、蒸発量「小」モードにおける処理について説明すると、ステップS112では、シャッタカーテン22の下部を部分開放する下部開放処理を実行する。これにより、シャッタカーテン22の下部に開放部A2が形成される(図3(b)及び図4(b)参照)。この場合、図6(c)に示すように、保水タイル32の水分蒸発により、床側に生じた冷気Cを開放部A2を通じて屋内空間11に取り込むことができる。
【0062】
なお、この場合、屋内空間11が排気部としての換気口を有する構成であることが好ましい。換気口として、本実施形態のように屋内空間11が最上階に存在する場合にはトップライトがその一例として考えられる。また、屋内空間11を他の屋内空間と区画する扉体に設けられたアンダーカット、通気口等が換気口の他の例として考えられる。このような換気口を有することにより、屋内空間11の空気を換気口を通じて排気し、冷気Cの取込みを促進できる。
【0063】
以上の構成により、本実施形態の建物通気システムによれば、以下に示す有利な効果が得られる。
【0064】
(1)バルコニー12の床部に保水タイル32を設置し、その保水タイル32に含ませた水を蒸発させるようにした。それに併せて、シャッタ装置20のシャッタカーテン22を部分開放することで、その開放部A1,A2を通じて屋内空間11とバルコニー12との通気性を確保した。水蒸気が上昇して拡散するのに伴って屋内上部に溜まった熱Hがバルコニー12側へ誘引され、それにより、屋内空間11の熱Hをエアコン等の空調設備を使用しないでバルコニー12へ排気できる。バルコニー12から屋内空間11へ吹き込む風を必要としないため、風通しの良し悪しだけに依存することなく屋内空間11の通気を行える。
【0065】
(2)水の蒸発量はバルコニー12の環境に影響を受けるため、バルコニー12の環境に応じて蒸発量の大小を推測し、その大小に応じて部分開放の態様を変更している。通気効果が期待できる開放態様とすることで、不用意にシャッタカーテン22を部分開放して防犯性やプライバシの問題が生じることを抑制し、通気効果の実現と防犯性やプライバシ保護との調和を図ることができる。
【0066】
(3)水の蒸発量が大きいと判断された場合、シャッタカーテン22の上部を開放させている。蒸発量が大きいと水蒸気の拡散がシャッタカーテン22の上部まで届き得るため、上部開放により排熱促進効果を期待できる。この場合、シャッタカーテン22を構成するスラット23のうち、上部数枚のスラット23を開放させることで開放部A1を形成しており、上部開放状態を容易に形成できる。
【0067】
(4)水の蒸発量が大きいと判断された場合において、上部開放だけでは通気効果が不十分な場合には、シャッタカーテン22の下部も併せて開放させている。この開放態様では、上部の開放部A1を通じた排熱促進効果だけでなく、気化熱によって温度が低下した冷気Cを下部の開放部A2を通じて屋内空間11へ取り込むことができる。これにより、屋内空間11とバルコニー12とで空気循環の形成が可能となり、冷気Cの取込みと熱Hの排気とが合わせて行われ、通気性を高めることができる。
【0068】
(5)水の蒸発量が小さいと判断された場合、シャッタカーテン22の下部を開放させている。蒸発量が小さいと水蒸気の拡散がシャッタカーテン22の上部まで届きづらく、上部開放による排熱促進効果を期待できないため、上部開放を行わない。その代わりに、下部開放により、気化熱によって温度が低下した冷気Cを屋内空間11へ取り込めるようにした。この場合、シャッタカーテン22を一枚または数枚のスラット分だけ上昇させることで開放部A2を形成しており、下部開放状態を容易に形成できる。
【0069】
(6)あらかじめ設定された基準温度と室温とを比較して、室温が基準温度以上の場合に、シャッタカーテン22の部分開放処理を実行し、室温が基準温度を下回れば開放処理を実行しない。従来技術のように、屋内に吹き込む風によって冷気Cを取り込む場合、ユーザが窓部14を開閉操作して室温調節することが必要となるため、そのような開閉操作ができない睡眠時に冷えすぎをもたらすという問題があった。そのような問題を解消できる。
【0070】
なお、以上説明した実施の形態に限らず、例えば以下に別例として示した形態で実施することもできる。
【0071】
・上記実施の形態では、バルコニー12を建物10の半屋外空間としているが、半屋外空間としては、ベランダやテラス等であってもよい。
【0072】
・上記実施の形態では、保水タイル32を保水部としているが、保水部としては、バルコニー12の床部に設けられた水盤等であってもよい。水盤とした場合であれば、その上方にグレーチング等の通気性を有する床部材を設け、バルコニー12としての機能を損なわないようにすることが好ましい。
【0073】
・上記実施の形態では、保水タイル32に含まれる水が蒸発してできた水蒸気を自然に拡散させるようにしているが、バルコニー12の床部から上方に向かう上昇気流を形成するファン装置を設置してもよい。このファン装置の駆動により、上昇気流が強制的に形成されるため、その上昇気流を用いて屋内空間11の熱Hの排気をより促進させることができる。また、上下に開放部A1,A2が形成された場合に、冷気Cまで拡散されないようにファン装置を配置させれば、熱Hの排気に伴って冷気Cの取り込みもより一層促進させることができる。
【0074】
・上記実施の形態では、バルコニー12に設けられた散水装置35を水供給手段としているが、水供給手段としては、保水タイル32上に流水させる装置や、バルコニー12にミストを噴霧させるミスト発生装置等であってもよい。例えば、後者の例示であるミスト発生装置によれば、保水タイル32に含まれる水の蒸発による気化熱に加え、ミストの気化熱も利用することができるため、バルコニー12の温度をより低下させるというメリットがある。また、散水装置35等の水供給手段を省略し、ユーザ自らが保水タイル32に散水するようにしてもよい。
【0075】
・上記実施の形態では、散水装置35への水供給源について特に言及していないが、水道水であってもよいし、雨水タンクに溜めた水を利用してもよい。雨水を利用する場合であれば、散水装置35の設置による水道使用量の増加を抑制できる。
【0076】
・上記実施の形態では、シャッタカーテン22の部分開放態様として、上部、下部及び上下両部に開放部A1,A2が形成される態様を説明したが、シャッタカーテン22の上下中央部を部分開放するようにしてもよい。また、水分蒸発量に応じて、部分開放の開放量(つまり、開放部A1,A2の上下幅)を変更した態様としてもよい。その際、スラット23の開閉個数を増減させることにより対応するようにしてもよい。例えば、図3に示すシャッタカーテン22では3枚のスラット23を開閉させているが、これを2枚以下や4枚以上に設定してもよい。
【0077】
・上記実施の形態では、シャッタカーテン22を若干上昇させてその下部開放状態を形成したが、下部数枚のスラット23を開閉させるスラット開閉機構を設けて、上部開放と同様に下部数枚のスラット23を開放して開放状態を形成してもよい。
【0078】
・上記実施の形態では、最上階部分に屋内空間11及びバルコニー12が設けられているが、これらが建物10の中階部分に設けられてもよい。また、屋根部15がバルコニー12の上方まで張り出しているが、そのような張り出し屋根でなくてもよいし、傾斜屋根ではなくフラット屋根であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
11…屋内空間、12…バルコニー(半屋外空間)、13…外壁部(区画部)、20…シャッタ装置、22…シャッタカーテン、28…シャッタ制御部(シャッタ制御手段)、31…室温センサ(屋内温度検知手段)、32…保水タイル(保水部)、34…水分センサ(含水量検知手段)、35…散水装置(水供給手段)、36…バルコニー環境センサ(半屋外環境情報取得手段)、K…コントローラ(シャッタ制御手段、水供給制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半屋外空間とその半屋外空間に隣接する屋内空間とを備えた建物に適用され、前記半屋外空間と前記屋内空間とを区画する区画部に設けられた窓部を通じて前記屋内空間を通気する建物通気システムにおいて、
前記窓部の全域に対して所定部位を開放し、それ以外を閉鎖した部分開放状態に移行可能なシャッタカーテンを有するシャッタ装置と、
前記半屋外空間の床部に設けられ、水分を含水させ、環境状態により前記半屋外空間に含水させた水分が蒸発する保水部と、
前記半屋外空間での半屋外環境情報を取得する半屋外環境情報取得手段と、
前記半屋外環境情報に基づいて、前記シャッタ装置の部分開放態様を制御するシャッタ制御手段と、
を備えたことを特徴とする建物通気システム。
【請求項2】
前記シャッタ制御手段は、前記半屋外環境情報に基づいて前記保水部からの水分蒸発量を判断し、前記シャッタカーテンを部分開放状態とする前記所定部位の位置を前記水分蒸発量に応じて変更することを特徴とする請求項1に記載の建物通気システム。
【請求項3】
前記水分蒸発量が設定環境基準値より大きいと判断された場合における前記所定部位は、前記シャッタカーテンの上部であり、前記水分蒸発量が前記設定環境基準値より小さいと判断された場合における前記所定部位は、前記シャッタカーテンの下部であることを特徴とする請求項2に記載の建物通気システム。
【請求項4】
前記保水部の含水量を検知する水分検知手段と、
前記保水部に水を供給する水供給手段と、
前記水分検知手段によって検知された含水量情報に基づいて、前記水供給手段による水供給を制御する水供給制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の建物通気システム。
【請求項5】
前記屋内空間の温度を検知する屋内温度検知手段を備え、
前記シャッタ制御手段は、前記屋内空間の温度が設定温度よりも高いと判断した場合に、前記シャッタカーテンの部分開放態様に関する制御を実行することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の建物通気システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−88008(P2012−88008A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236625(P2010−236625)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】