説明

建築構造、及び建築構造を有する建築構造物

【課題】改造、改築時に床の配置を変更することができる建築構造、及び建築構造を有する建築構造物を提供する目的とする。
【解決手段】耐力壁16には貫通孔22が予め形成されている。床部材21は挿入孔を有しており、これらの挿入孔及び耐力壁16の貫通孔22に挿入されたPC鋼材18にテンションをかけた状態で固定することで、耐力壁16に床部材21が圧着接合される。これにより、建築構造物12の床20を構成する床部材21の取り外しが可能となり、床部材21がインフィルされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造、及び建築構造を有する建築構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、オフィスビル、学校建築、又は商業施設等の建築構造として、耐久性の高いスケルトン(柱、梁、床等の構造躯体)と、インフィル(間仕切り壁、仕上げ材等の内装・設備)と、を分離して考え、居住者のライフスタイル等に応じてインフィル部分の変更を容易化し、建築構造物の寿命を長期化させたスケルトン・インフィル(SI)建築が知られている(例えば、特許文献1)。この集合住宅等の構造は、建物の構造耐力を負担する主構造体(スケルトン)と、建物の構造耐力を負担しない副構造体(インフィル)と、を備えて構成されている。主構造体は、対向配置された壁及びこれらの壁の間に配置された床を一体化したプレキャストコンクリート部材とされ、その内部空間に仕切り壁等の副構造体を自由に配置可能となっている。
【0003】
しかしながら、特許文献1では、床が主構造体の一部とされているため、床を追加・変更したり又は床を撤去したりすることができず、改造、改築時に集合住宅等の階数を増減したり、集合住宅等に吹き抜けを設けたりすることができない。従って、経済情勢の変化に伴う住宅の高級化、若しくは低価格化、少子高齢化に伴う各住戸のサイズダウンなどの要望に対して柔軟に対応することが困難である。
【0004】
他方、特許文献2には、既存建物の両妻側に反力壁を構築し、反力壁の間に掛け渡されジャッキによって緊張定着されたPCケーブルで既存建物と反力壁とを接続し、既存建物にプレストレスを導入する耐震補強構造が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、プレキャストコンクリート造の柱と、プレキャストコンクリート造の梁と、をPC鋼材で圧着接合した耐震構造物が開示されている。
【0006】
これらの特許文献2、3には、反力壁同士又は柱と梁をPCケーブル、又はPC鋼材で圧着接合する構成は開示されているが、利用者の要望に応じて部材の配置等を変更する技術は開示されていない。
【特許文献1】特開平8−218488号公報
【特許文献2】特開平11−30045号公報
【特許文献3】特開2005−171643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、改造、改築時に床の配置を変更することができる建築構造、及び建築構造を有する建築構造物を提供する目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の建築構造は、建築構造物の内側に少なくとも一部が配置される耐力壁と、前記耐力壁に形成される又は形成された貫通孔に挿入されるPC鋼材と、前記PC鋼材が挿入される挿入孔を有し、前記PC鋼材によって前記耐力壁に圧着接合され、前記建築構造物の床を構成する又は該床を支持する水平構造部材と、を備えている。
【0009】
上記の構成によれば、建築構造は耐力壁及び水平構造部材を備え、耐力壁の少なくとも一部が建築構造物の内側に配置されている。耐力壁には貫通孔が予め形成されており、又は必要に応じて所望の位置に貫通孔が形成される。水平構造部材は挿入孔を有しており、これらの挿入孔及び耐力壁の貫通孔に挿入されたPC鋼材にテンションをかけた状態で固定することで、耐力壁に水平構造部材が圧着接合される。これにより、建築構造物の床を構成する水平構造部材、又は床を支持する水平構造部材の取り外しが可能となり、水平構造部材がインフィルされる。従って、水平構造部材の追加、変更、若しくは撤去が可能となり、建築構造物の階数を増減したり、建築構造物に吹き抜けを設けたりするなど、利用者の要望に応じた改造・改築が可能となる。
【0010】
請求項2に記載の前記耐力壁は、請求項1に記載の耐力壁において、地震力に対して前記建築構造物が必要とする耐力を有している。
【0011】
上記の構成によれば、耐力壁は、地震力に対して建築構造物が必要とする剛性、耐力(例えば、建築基準法で定められた保有水平耐力等)を備えている。そのため、建築構造物に配置される柱、梁等は地震力を負担する必要がない。従って、柱、梁等の設計強度を下げることができる。更に、これらの部材の配置の自由度が増し、利用スペース等の間取りの確保が容易となる。
【0012】
請求項3に記載の建築構造は、請求項1又は請求項2に記載の建築構造において、前記耐力壁の全部が、前記建築構造物の内側に配置されている。
【0013】
上記の構成によれば、耐力壁の全部が建築構造物の内側に配置されている。
【0014】
請求項4に記載の建築構造は、請求項1〜3の何れか1項に記載の建築構造において、前記耐力壁には、複数の前記貫通孔が間隔を置いて形成されている。
【0015】
上記の構成によれば、耐力壁に、複数の貫通孔が間隔を置いて形成されている。従って、これらの貫通孔の中から所望の貫通孔を選択することで、耐力壁の所望の位置に水平構造部材を圧着接合することができる。更に、予め複数の貫通孔を形成しておくことで、現場での孔空け作業の手間が低減され、施工性の向上、工期の短縮化を図ることができる。
【0016】
請求項5に記載の建築構造は、請求項1〜4の何れか1項に記載の建築構造において、複数の前記耐力壁が間を空けて配置され、隣接する前記耐力壁の端部同士を梁で連結している。
【0017】
上記の構成によれば、隣接する耐力壁間に配置される梁の上方又は下方に開口を設けることができ、設備配線・配管等が容易となり、更に、採光性、通風性、開放性が向上する。
【0018】
請求項6に記載の建築構造は、請求項5に記載の建築構造において、前記梁が、制振機構を備えた制振梁である。
【0019】
上記の構成によれば、隣接する耐力壁を連結する梁に制振機構を設けている。この制振機構によって、地震時のエネルギー吸収の大部分を当該部位で行うことができ、耐力壁の損傷を低減することができる。更に、制振機構として粘弾性体や、亜鉛アルミ合金を用いたダンパーを設置すれば、微小変形領域においても振動低減効果を発揮することができ、建築構造物の居住性を向上させることができる。
【0020】
請求項7に記載の建築構造は、請求項1〜6の何れか1項に記載の建築構造において、前記耐力壁が、複数のプレキャストコンクリート部材を耐力壁用PC鋼材によって圧着接合して構成されている。
【0021】
上記の構成によれば、複数のプレキャストコンクリート部材を耐力壁用PC鋼材で圧着接合することによって耐力壁が構成される。このように耐力壁をプレキャスト化することで品質管理が容易となり、また、耐力壁を複数のプレキャストコンクリート部材に分割することで、各プレキャストコンクリート部材のサイズが小さくなり、揚重性、運搬性、施工性が向上する。
【0022】
請求項8に記載の建築構造は、請求項1〜7の何れか1項に記載の建築構造において、前記水平構造部材が、前記建築構造物の床を構成するパネル部材を支持する梁部材である。
【0023】
上記の構成によれば、水平構造部材が梁部材とされており、この梁部材によって建築構造物の床を構成するパネル部材が支持される。従って、パネル部材を耐力壁に圧着接合する必要がなく、梁部材のみを耐力壁に圧着接合するだけで良いため、床の施工性が向上する。
【0024】
請求項9に記載の建築構造は、請求項1〜8の何れか1項に記載の建築構造において、前記建築構造物が、免震支承によって支持されている。
【0025】
上記の構成によれば、建築構造物が免震支承によって支持されている。これにより、建築構造物の固有周期が長期化され、建築構造物に発生する地震力が小さくなる。従って、耐力壁の設計強度を小さくできると共に、建築構造物の寿命を長期化することができる。
【0026】
請求項10に記載の建築構造は、請求項1〜9の何れか1項に記載の建築構造において、前記耐力壁を支持する基礎部と、基礎部用PC鋼材が上下方向へ挿入される貫通孔が形成された改築用基礎部と、を備えている。
【0027】
上記の構成によれば、建築構造は、基礎部及び改築用基礎部を備えている。改築用基礎部には基礎部用PC鋼材を上下方向へ挿入可能な貫通孔が設けられており、この貫通孔に挿入される基礎部用PC鋼材により、例えば、移動される耐力壁や柱等、若しくは建て増しによって新たに配置される耐力壁や柱等を改築用基礎部に圧着接合することができる。従って、改造、改築時に新たな基礎部を構築する必要がなく、施工性が向上し、更に工期が短縮化される。
【0028】
請求項11に記載の建築構造物は、請求項1〜10の何れか1項に記載の建築構造を有している。
【0029】
上記の構成によれば、請求項1〜10の何れか1項に記載の建築構造を有することで、水平構造部材の配置の変更することができる建築構造物を構築することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、上記の構成としたので、改造、改築時に床の配置を変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図面を参照しながら本発明の実施形態に係る建築構造、及び建築構造を有する建築構造物について説明する。
【0032】
先ず、本発明の第1の実施形態に係る建築構造10の構成について説明する。
【0033】
図1〜図3には、建築構造10を有する建築構造物12が示されている。複数層からなる建築構造物12の外周には、カーテンフォール、ACL壁、サッシ等の外装材26が配置されている。建築構造物12はセンターコア構造とされており、建築構造物12の略中央部にコア部14が設けられている。コア部14は、屋根15と耐力壁16とから構成されており、平面視にて矩形に形成されている。なお、コア部14の内部はエレベータシャフト、階段、機械室、共用スペース等に利用される。
【0034】
建築構造10は、耐力壁16及びPC鋼材18、及び床部材21を備えている。鉄筋コンクリート造からなる耐力壁16はコア部14の壁(コア壁)を構成している。この耐力壁16は、地震力に対して建築構造物12が必要とする剛性、耐力(例えば、建築基準法で定められた保有水平耐力等)を備えており、地震時に建築構造物12に作用する水平力の大部分を負担し得る剛性、耐力を備えている。耐力壁16の下方の地盤13には基礎部28設けられており、この基礎部28によって耐力壁16が支持されている。なお、基礎部28の内部空間はピット29とされている。
【0035】
また、耐力壁16には複数の貫通孔22が上下左右に所定の間隔(例えば、500mm)で形成されており、これらの貫通孔22にはPC鋼材18が挿入可能とされている。PC鋼材18は、PC鋼線、PC鋼より線、又はPC鋼棒等からなり、軸方向両端部に雄ネジが形成されている。なお、耐力壁16は、高強度コンクリートや防錆鉄筋、防錆鉄骨等を用いた鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造等の耐久性を高めた構造であることが望ましい。
【0036】
図3に示すように、コア部14の周囲には、建築構造物12の各層の床20を構成する複数の床部材21A、21B、21Cが配置され、コア部14に片持ちで支持されている。床部材21A〜21Cはプレキャストコンクリート(以下、「PCa」とう)造からなり、耐力壁16から建築構造物12の外側(外装材26側)へ向かって突出するように配置されている。
【0037】
床部材21A及び床部材21Cは、短辺側側面を耐力壁16に当接させて配置されている。この短辺側側面にPC鋼材18が挿入可能な挿入孔が形成されている。他方、床部材21Cは、長辺側側面を耐力壁16に当接させて配置されている。この長辺側側面にはPC鋼材18が挿入可能な挿入孔が形成されている。更に、外装材26には取付孔が形成されており、これらの取付孔、挿入孔、及び耐力壁16の貫通孔22に挿入されるPC鋼材18及びナット24によって、各耐力壁16に外装材26及び床部材21A〜21Cが圧着接合されている。
【0038】
具体的には、外装材26の取付孔、床部材21の挿入孔、及び耐力壁16の貫通孔22に挿入されたPC鋼材18をジャッキ等で緊張させ、PC鋼材18にテンション(引張り力)をかけた状態でその軸方向両端部をナット24により固定する。これにより、床部材21にプレストレスが導入されると共に耐力壁16に外装材26及び床部材21が圧着接合される。なお、建築構造物12の上部に位置する屋根部材30は床部材21と同一構成とされており、床部材21と同様の方法によって耐力壁16に圧着接合されている。
【0039】
また、建築構造物12の各層には非耐力壁からなる仕切り壁等の内壁32(図2参照)が適宜配設されている。これらの内壁32は、例えば、ALC壁、スパンクリート、軽鉄間仕切り壁等の乾式壁が用いられ、その位置を変更可能に床部材21に立設されている。
【0040】
なお、本実施形態では施工性の観点から外装材26を床部材21A〜21Cと共に耐力壁16に圧着接合しているが、外装材26はボルトやビス等の取付具34よって床部材21A、21Cの側面に直接固定しても良い。
【0041】
次に、本発明の第1の実施形態に係る建築構造10の作用について説明する。
【0042】
建築構造10は、耐力壁16及び床部材21を備えている。耐力壁16には複数の貫通孔22が予め形成されており、床部材21の側面には挿入孔が形成されている。これらの貫通孔22及び床部材21の挿入孔に挿入されたPC鋼材18をジャッキ等で緊張させ、PC鋼材18にテンションをかけた状態でその軸方向両端部をナット24で固定し、耐力壁16に床部材21を圧着接合する。これにより、地震時に床部材21に作用する引張り力にPC鋼材18が抵抗し床部材21のひび割れ等の破損が低減されると共に、耐力壁16と床部材21とが摩擦接合され接合強度が確保される。
【0043】
また、ナット24を緩め、PC鋼材18を挿入する耐力壁16の貫通孔22の位置を変えることで床部材21の設ける位置を変更することができる。即ち、耐力壁16に形成された複数の貫通孔22の中から所望の貫通孔22を適宜選択することで、耐力壁16の所望の位置に床部材21を配置することができ、また、一旦耐力壁16に圧着接合された床部材21の配置を変更することができる。更に、不要な床部材21は撤去することができる。このようにPC鋼材18によるPC圧着工法(アンボンド工法)を用いることで、耐力壁16と床部材21との接合強度が確保されると共に建築構造物12の床を構成する床部材21のインフィル化が実現され、即ち、床部材21の追加、撤去、配置の変更等が可能となる。よって、建築構造物12の階層を増減したり、建築構造物12に吹き抜けを設けたりするなど、利用者の要望に応じた改造・改築が可能となる。
【0044】
また、耐力壁16に予め複数の貫通孔22を形成しておくことで、現場での孔空け作業等の手間が低減され、施工性の向上、工期の短縮化を図ることができる。なお、施工時に必要に応じて耐力壁16の所望の位置に貫通孔22を形成しても良い。
【0045】
更に、コア部14を構成する耐力壁16は、地震時に建築構造物12に作用する水平力の大部分を負担し得る。従って、耐震壁等の耐震要素の数を減らすことができ、間取りの確保等が容易となる。
【0046】
次に、第1の実施形態に係る建築構造10の変形例1について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0047】
図4及び図5に示す建築構造物42では、床部材21Bの外装材26側端部が柱44で支持されている。柱44は鉄骨造又は鉄筋コンクリート造からなり、地盤13に設けられた基礎部46によって支持されている。床部材21Bと同様に、床部材21Cの端部は柱44で支持されている。このように床部材21B及び床部材21Cの支持スパンが長い場合には、柱44等を適宜配置してこれを支持することが望ましい。
【0048】
また、建築構造物42ではコア部14の内部空間14Aに建築構造物42の床20を構成する床部材21Dが配置されている。この床部材21Dの側面には挿入孔が形成されており、この挿入孔及び耐力壁16の貫通孔22に挿入されるPC鋼材18及びナット24によって耐力壁16に床部材21Dが圧着接合されている。このように床部材21Dをコア部14の内部空間14Aに配置し、耐力壁16に圧着接合しても良い。
【0049】
次に、第1の実施形態に係る建築構造10の変形例2について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0050】
図6及び図7に示す建築構造物52では、耐力壁16を支持する基礎部28以外に改築用基礎部54を設けている。改築用基礎部54は基礎部28の両側に配置されている。改築用基礎部54の上面には基礎部用PC鋼材53を上下方向へ挿入可能な複数の貫通孔56が水平2方向に所定の間隔(例えば、500mm)で形成されている。これらの貫通孔56は改築用基礎部54に設けられたピット55に通じている。また、図示を省略するが改築用基礎部54には地上からピット55へ通じる入口が設けられており、作業者がピット55内で作業可能となっている。従って、建築構造物52(既存建築構造物)の改修時において、新たな耐力壁58(図6の2点鎖線)を設置したり、図4に示す柱44等を設置したりする場合に、この耐力壁58又は柱44と改築用基礎部54とを基礎部用PC鋼材53及びナット24で圧着接合し、これらの耐力壁58、柱44を改築用基礎部54に支持させることができる。
【0051】
このように改築、増築を想定して予め改築用基礎部54を地盤13内に構築しておくことで、移動される耐力壁や柱、若しくは建て増しによって新たに配置される耐力壁や柱等を改築用基礎部54に圧着接合して支持させることができる。従って、改築、増築時に新たな基礎部を構築する必要がなく、改造、改築時の施工性が向上する。なお、基礎部用PC鋼材53は、PC鋼線、PC鋼より線、又はPC鋼棒等で構成されている。
【0052】
なお、図7に示すように、あらゆる改築、増築に備え、建築可能領域、即ち建築構造物52の敷地59内の全域に渡って改築用基礎部54を予め設けることが望ましい。また、改築用基礎部54は、基礎部28と一体化させても良いし、別体としても良い。また増築が予想される部分にのみ改築用基礎部54を設けても良い。
【0053】
次に、本発明の第2の実施形態に係る建築構造60の構成について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成のものは、同符号を付すると共に、適宜省略して説明する。
【0054】
図8には、建築構造60を有する建築中の建築構造物62が示されている。建築構造60は2つのコア部64、66を備えており、各コア部64、66の壁(コア壁)は耐力壁16で構成されている。各耐力壁16にはPC鋼材18が挿入可能な貫通孔22が上下左右に所定の間隔で形成されている。また、各コア部64、66の周囲には、建築構造物62の各層の床67を構成する床部材68A、68B、68C、68D、68E、68Fが配置されており、床部材68A〜68Fの側面にはそれぞれPC鋼材18が挿入可能な挿入孔が形成されている。
【0055】
床部材68A、68B、68D、68Fはコア部66に、床部材68C、68Eはコア部64及びコア部66に、PC鋼材18及びナット24によって圧着接合されている。また、床部材68Fはコア部66に加えて、基礎部70に立設されたRC造の柱72によって支持されている。基礎部70の上面には複数の挿入孔76が水平2方向に所定の間隔で設けられており、この挿入孔76及び柱72に設けられた挿入孔(不図示)に挿入される基礎部用PC鋼材53(図6参照)及びナット24によって柱72が基礎部70に圧着接合されている。また、基礎部70の内部は格子状に仕切られており、複数のピット74が設けられている。
【0056】
このように建築構造物62は複数のコア部64、66を設けることができ、また、隣接するコア部64、66間に床部材68C、68Eを架け渡してPC鋼材18により圧着接合することができる。即ち、耐力壁16から構成されるコア部64、66は、建築構造物62の大きさなどに応じて適宜設けることができる。
【0057】
ここで、上記第1、第2の実施形態における耐力壁16は、その少なくとも一部が建築構造物12、42、52、62の内側に配置されて実施される。ここで、本発明における建築構造物の内側とは建築構造物の内部領域を指し、建築構造物を平面視したときに当該建築構造物の外周より内側の領域をいう。例えば、外壁、外装材、若しくは耐力壁等の部材が外に面して配置されている場合は当該部材より内側の領域を指し、外に向けて張り出したテラス等の場合にはテラスの先端部より内側の領域を指す。
【0058】
一例として図9(A)に示す模式図では、建築構造物62の対角上に2つのコア部64、66を配置し、図9(B)に示す模式図では、外側へ張り出すようにコア部64、66を配置している。ここで、各コア部64、66の耐力壁16をそれぞれ16A、16B、16C、16Dとすると、図9(A)示す建築構造物42の外周は、外装材78と、コア部64の耐力壁16C、16Dと、コア部66の耐力壁16C、16Dとから作られており、コア部64の耐力壁16A、16B、及びコア部66の耐力壁16A、16Bは建築構造物42の内側に配置されている。同様に、図9(B)示す建築構造物42の外周は、外装材78と、コア部64の耐力壁16Aの一部及び耐力壁16C、16Dの全体と、コア部66の耐力壁16Aの一部及び耐力壁16C、16Dの全体と、から作られており、コア部64の耐力壁16Aの一部と耐力壁16Bの全体、及びコア部66の耐力壁16Aの一部と耐力壁16Bの全体は建築構造物42の内側に配置されている。
【0059】
次に、図10には、複数のプレキャストコンクリート(以下、「PCa」という)部材82を圧着接合して構成された耐力壁80が示されている。これらのPCa部材82は、その側面同士を対向させて隣接配置され、対向する耐力壁16の間に配置されている。各PCa部材82の側面には耐力壁用PC鋼材83を横方向へ挿入可能な挿入孔84が形成されている。この耐力壁用PC鋼材83はPC鋼線、PC鋼より線、又はPC鋼棒等で構成されている。また、耐力壁16の端部には挿入孔85が形成されており、これらの挿入孔84及び挿入孔85に横方向へ貫通させた耐力壁用PC鋼材83及びナット24によって各PCa部材82及び耐力壁16が圧着接合されて耐力壁80が構成されている。このように耐力壁80をプレキャスト化されたPCa部材82で構成することで品質管理が容易となり、また、耐力壁80を複数のPCa部材82に分割することで、各PCa部材82のサイズが小さくなり、揚重性、運搬性、施工性が向上する。更に、PCa部材82の数を増減することで、耐力壁80のサイズを調整することができる。
なお、耐力壁80は、PCa部材82と耐力壁16の端部を耐力壁用PC鋼材83によって圧着接合して構成されているが、複数のPCa部材82だけで構成しても良い。また、少なくとも一つの耐力壁80が、複数のPCa部材82を圧着接合して構成されていれば良い。
【0060】
また、図11に示すように、PCa部材82の内部に耐力壁用PC鋼材83を貫通させるのではなく、隣接するPCa部材82の壁面にそれぞれ固定部87を設け、この固定部87に形成された挿入孔(不図示)に耐力壁用PC鋼材83を貫通させてナット24により圧着接合しても良い。この場合、隣接するPCa部材82の間に摩擦材等を配置して摩擦力を大きくし、接合力を確保することが望ましい。また、固定部87をPCa部材82の両側壁面に設けて耐力壁用PC鋼材83で圧着接合しても良い。
【0061】
更に、図12に示すように、複数のPCa部材82を上下方向に積み上げて耐力壁用PC鋼材83により圧着接合して耐力壁80を構成しても良い。即ち、これらのPCa部材82に設けられた挿入孔(不図示)に耐力壁用PC鋼材83を上下方向へ貫通させてナット24に圧着接合して耐力壁80を構成しても良い。
【0062】
次に、図13(A)及び図13(B)には、隣接する耐力壁16を梁部材86(梁)で連結してコア部89が示されている。コア部89は平面視にて矩形に形成されており、4つの耐力壁16、及び隣接する耐力壁16を連結する梁部材86から構成されている。各耐力壁16は平面視にてL字形に形成されており、コア部89の角にそれぞれ配置されている。隣接する耐力壁16同士は間を空けて、即ち、同一立面内で水平方向に間を空けて配置されており、対向する側面の間に配置された複数の梁部材86によって連結されている。これらの梁部材86は立面視にて上下方向に間を空けて配置されており、隣接する梁部材86の間に開口88が形成されている。このように隣接する耐力壁16を梁部材86で連結することで、梁部材86の上方又は下方に開口88を設けることができる。よって、設備配線・配管等が容易となり、更に、採光性、通風性、開放性が向上する。
【0063】
更に、図示を省略するが、梁部材86に鋼材ダンパー、摩擦ダンパー、粘性ダンパー、弾塑性ダンパー当の制振機構を設けることで、地震時のエネルギー吸収の大部分を当該制振機構で行うことができ、梁部材86の損傷を低減することができる。更に、制振機構として粘弾性体を用いた粘弾性ダンパーや、亜鉛アルミ合金を用いた鋼材ダンパーを設置すれば、微小変形領域においても振動低減効果を発揮することができ、建築の居住性を向上させることができる。
【0064】
なお、上記第1、第2の実施形態のコア部14、64、66の形状は平面視にて矩形に限らず、種々の形状にして実施することができる。例えば、平面視にて3角形や5角形等の多角形でも良いし、図14(A)〜(E)に示すように、平面視にてL字形、十字形、折れ線形、又はT字形でも良く、また、耐力壁16自体を円弧状に形成して円形のコア部89としても良い。この際、コア部89を構成する耐力壁16の少なくとも一部が建築構造物の内側に配置されていれば良い。
【0065】
また、PC鋼材18は床部材21の全長に渡って配置する必要がなく、床部材21の接合部側端部にのみPC鋼材18を配置して、耐力壁16と床部材21とを圧着接合しても良い。例えば、図15に示す床部材21の接合部側端部には切欠き溝100が設けられ、この接合部側端部の端面に切欠き溝100に通じる挿入孔102が形成されている。この挿入孔102及び耐力壁16の貫通孔22に挿入されたPC鋼材18及びナット24によって、耐力壁16と床部材21とが圧着接合されている。この場合、PC鋼材18が短くて良いため、耐力壁16と床部材21との接合作業の手間が低減される。
【0066】
なお、床部材21の強度が不足する場合は、プレストレスコンクリート造(プレテンション)の床部材21を用いることが望ましい。この場合、テンションをかけた状態で床部材21に埋設されたPC鋼材104が、地震時等に床部材21に作用する引張り力に抵抗するため、耐力壁16と床部材21とを接合するPC鋼材18が負担する応力が低減される。このようにPC鋼材18とPC鋼材104とを併用することで、接合作業の手間を低減できると共に、床部材21のロングスパン化に対応することができる。
また、図10〜図12に示す耐力壁80と同様に、複数のPCa製の床部材をPC鋼材18で圧着接合して連結された一つの床部材21を耐力壁16に圧着接合しても良い。
【0067】
また、図16に示すように、耐力壁16には建築構造物92の床94を構成する床パネル96(パネル部材)を支持する梁部材90(水平構造部材)を圧着接合することができる。PCa造の梁部材90の端面には、PC鋼材18を挿入可能な挿入孔98が形成されており、この挿入孔98及び耐力壁16の貫通孔22に挿入されたPC鋼材18及びナット24によって、梁部材90が耐力壁16に圧着接合されている。PCa造の床パネル96は梁部材90の上に載置され、この梁部材90によって支持されている。このように梁部材90を用いることで、耐力壁16と床部材21とを圧着接合する場合と比較して、耐力壁16と梁部材90との位置合わせ等が容易となり、床94の施工性が向上する。
【0068】
また、図17に示すように、建築構造物112を積層ゴム支承、転がり支承、すべり支承等の免震支承によって支持しても良い。建築構造物112の基礎部28及び耐力壁16は、基礎部28の下に配置された積層ゴム支承114によって支持されている。これにより、建築構造物112の固有周期が長期化され、建築構造物112に発生する地震力が小さくなる。従って、耐力壁16の設計強度を小さくできると共に、建築構造物112の寿命を長期化することができる。
なお、外装材26は地盤13と縁切りすることが望ましく、また、柱44はすべり支承116等の免震支承によって支持することが望ましい。これにより、外装材26及び柱44の破損、損傷が防止される。また、建築構造物112では、基礎部28及び耐力壁16を積層ゴム支承114で支持したがこれに限らず、柱44等のように軸力を負担する部材のみを免震支承で支持しても良い。
【0069】
また、建築構造物を構成する全ての床スラブを可変にする必要がないのは勿論である。耐力壁の拘束のため、恒久的な設備機器設置のため、防災性・遮音性確保のため、さまざまな理由によって必要な床スラブは、耐力壁と一体化して構築しても良い。
【0070】
また、上記第1、第2の実施形態における耐力壁16、58、80には、鉄筋コンクリート造等の壁に限らず、柱、梁、ブレース部材等を適宜組み合わせた壁体もこれに含まれる。更に、耐力壁16、58、80は、現場打ち工法であっても、プレキャスト工法であっても良い。また、床部材21、68は鉄筋コンクリート造に限らず、鉄鋼鉄筋コンクリート造、プレストレスコンクリート造でも良い。また、建築構造10、60は、集合住宅、オフィスビル、学校建築、商業施設等の種々の建築構造物に適用して実施することができる。
【0071】
以上、本発明の第1、第2の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、第1、第2の実施形態を組み合わせて用いてもよいし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る建築構造が適用された建築構造物を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る建築構造が適用された建築構造物を示す、立面断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る建築構造が適用された建築構造物を示す、図2の2−2線断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る建築構造の変形例が適用された建築構造物を示す立面断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る建築構造の変形例が適用された建築構造物を示す、図4の4−4線断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る建築構造の変形例が適用された建築構造物を示す立面断面図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係る建築構造が適用された建築構造物を示す平面模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る建築構造が適用された建築構造物を示す斜視図である。
【図9】(A)、(B)は、本発明の第2の実施形態に係る建築構造が適用された建築構造物を示す、平面模式図である。
【図10】本発明の第1、第2の実施形態に係るコア部を示す平面断面図である。
【図11】本発明の第1、第2の実施形態に係るコア部を示す平面断面図である。
【図12】本発明の第1、第2の実施形態に係るコア部を示す斜視図である。
【図13】(A)は本発明の第1、第2の実施形態に係るコア部を示す立面図であり、(B)は図13(A)の7−7線断面図である。
【図14】(A)〜(E)は、本発明の第1、第2の実施形態に係るコア部の変形例を示す平面図である。
【図15】(A)は本発明の第1、第2の実施形態に係る床部材の変形例を示す立面図であり、(B)は図15(A)の9−9線断面図である。
【図16】本発明の第1、第2の実施形態に係る水平構造部材の変形例を示す斜視図である。
【図17】本発明の第1、第2の実施形態に係る建築構造が適用された建築構造物の変形例を示す、立面断面図である。
【符号の説明】
【0073】
10 建築構造
12 建築構造物
16 耐力壁
18 PC鋼材
20 床
21 床部材(水平構造部材)
28 基礎部
42 建築構造物
52 建築構造物
53 基礎部用PC鋼材
54 改築用基礎部
56 貫通孔
60 建築構造
62 建築構造物
67 床
68 床部材(水平構造部材)
70 基礎部
80 耐力壁
82 プレキャストコンクリート部材
83 耐力壁用PC鋼材
86 梁部材(梁)
90 梁部材(水平構造部材)
92 建築構造物
94 床
96 床パネル(パネル部材)
112 建築構造物
114 積層ゴム支承(免震支承)
116 すべり支承(免震支承)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物の内側に少なくとも一部が配置される耐力壁と、
前記耐力壁に形成される又は形成された貫通孔に挿入されるPC鋼材と、
前記PC鋼材が挿入される挿入孔を有し、前記PC鋼材によって前記耐力壁に圧着接合され、前記建築構造物の床を構成する又は該床を支持する水平構造部材と、
を備える建築構造。
【請求項2】
前記耐力壁は、地震力に対して前記建築構造物が必要とする耐力を有する請求項1に記載の建築構造。
【請求項3】
前記耐力壁の全体が、前記建築構造物の内側に配置される請求項1又は請求項2に記載の建築構造。
【請求項4】
前記耐力壁には、複数の前記貫通孔が間隔を置いて形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載に建築構造。
【請求項5】
複数の前記耐力壁が間を空けて配置され、隣接する前記耐力壁の端部同士を梁で連結した請求項1〜4の何れか1項に記載の建築構造。
【請求項6】
前記梁が、制振機構を備えた制振梁である請求項5に記載の建築構造。
【請求項7】
前記耐力壁が、複数のプレキャストコンクリート部材を耐力壁用PC鋼材によって圧着接合して構成されている請求項1〜6の何れか1項に記載の建築構造。
【請求項8】
前記水平構造部材が、前記建築構造物の床を構成するパネル部材を支持する梁部材である請求項1〜7の何れか1項に記載の建築構造。
【請求項9】
前記建築構造物が、免震支承によって支持されている請求項1〜8の何れか1項に記載の建築構造。
【請求項10】
前記耐力壁を支持する基礎部と、基礎部用PC鋼材が上下方向へ挿入される貫通孔が形成された改築用基礎部と、を備える請求項1〜9の何れか1項に記載の建築構造。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の建築構造を有する建築構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−112099(P2010−112099A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286813(P2008−286813)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】