説明

建築物の金具併用石張り工法

【課題】建築物の押出成形セメント板又は気泡コンクリート等からなる壁面を、天然石などからなる石材パネルを地震や暴風においても剥離の危険の全くなく、確実に張り付ける工法の提供。
【解決手段】サイディング材の表面に石材パネルを張り付ける際に、a.サイディング材表面にダボピンを支持するダボ受け小口用抑え金具をビスで固定する。b.石材パネルの鉛直小口面にダボ穴を設け、これに前記ダボピンを通す。c.さらに前記サイディング材の両端部においては、前記サイディング材の表面にビスで固定された小口用抑え金具で石材を押さえる。d.サイディング材の最下段及び石材パネルの3〜7段毎に、石材パネルの下面に重量受け材を設ける
ことからなる建築物の石張り工法および該方法により施工された石張り仕上げ工法建築物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物の押出成形セメント板[主原料としてセメント質原料および繊維質原料を用いて板状に形成し、養生、硬化させたもの]又は気泡コンクリート[ALCなどの気泡コンクリート、軽量気泡コンクリートなどを含む。]等からなる壁面を、天然石などからなる石材パネルを地震や暴風においても剥離の危険の全くなく、確実に張り付ける工法およびその工法によって建築された建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
天然石を用いた石張り床、石張り壁などは、その外観がよく、特に高級感を醸しだすことができるので、公共施設、個人住宅等において施工されている。
天然石としては、一定の厚さに切り出したパネル状、タイル状の平物と、出隅などに張り付けるための役物等とを用意しておき、熟練した職人によって、床面や壁面にこれらを張り付け、天然石の石張り床、石張り壁とされているものがある。
施工法としては、床あるいは壁の下地面に、セメント、モルタルまたは接着剤等を敷き、その上に、レベル出しを行いながら天然石のパネル、タイルを張り詰めて行く、所謂湿式工法と、鋼材や金具などを用いて、床面あるいは壁面の下地面に天然石パネルなどを張り詰めていく、所謂乾式工法がある。
【0003】
どちらの工法においても、いわゆる「ダボピン」等の金具を用いて石材パネルの落下防止をはかっている。このダボピンは石材と躯体を結合しているアングルファスナーの一部をなすものであり、ダボピンとダボ穴の隙間には通常モルタルやエポキシ樹脂が充填され、ダボピンが石材に固定される。
湿式工法は、「ダボピン」による固定方法はモルタルなどの硬化時間の長い接着剤を用いるときは、ダボピン単体では十分な接着力を得ることが困難であって、モルタルやエポキシ樹脂といった硬化時間が長い接着剤をもちいるときは、石材の固定を各段毎に接着剤の硬化を待って次の段の施工をする必要があるため作業能率が低く、施工に長時間を要するという欠点があった。一方、乾式工法は軽量化、工期の短縮、剥離防止、耐震性、耐風圧性を考慮して開発された工法であり優れた工法ではあるが、対象とする石材が天然物であるため強度的に均一性に欠け、石材自身の割れ、欠けが生じやすく、この確実な防止を必要としている。
【0004】
すなわち、壁材のダボピン嵌挿部は断面欠損を招き易い脆弱部になっており、地震,強風時あるいは人,物が衝突するなどの予測しない力が壁材に加わったときには、この部において割れ欠けが生じて、脱掛、さらには壁材の脱落という最悪の事態に至る。このため石材パネル裏面にFRPコーティングして脱落防止を計ることの提案もある(特許文献2参照)。
従来の乾式石張り工法における石材の破損,脱落防止の手当てとしては、石材パネル裏面にFRPコーティングをする提案があるが、これで応力の集中で起こる前記の割れ欠けを完全に抑えることは不可能であり、一旦割れ欠けが発生した場合には脱落に至ることは避け得ず、結局、強度試験の結果を加味して割れ欠けを生じるおそれのない厚さで施工しているのが実状であるが、天然材料であるが故の品質の不揃いにより問題は簡単に解決できなかった。
【0005】
さらに、これら多くの施工方法においては、躯体の不陸調整を行いながら石材パネル張り詰めていく必要があるので、熟練を必要とし、また、時間も多くかかっているのが現状である。このために、施工費が高いという問題点がある。さらには、一旦、張り詰めた後は、1ないし2日間の養生期間が必要であるので、工期が長くなるという問題点もある。
【0006】
このため、例えば、「ダボピン」を石材パネルへ固定をするために特定粘度のα−シアノアクリレート系接着剤を用いて短時間で確実に、しみ出すことなく固定させる方法(例えば特許文献1参照)、一定厚さの天然石パネルとこの裏面に木質系セラミック板、軽カル板等準不燃材からなる下地板から構成された天然石複合建材パネルを用いる方法(例えば特許文献2参照)、 対象となる石材パネルの裏面に、この面より少なくとも上下端ではみ出る態様にて該石材パネルの重量を支持するに耐えられる強度を有する該裏面よりも大面積の補強用シート材を貼着し、当該上,下のはみ出し部を壁に打ち込まれたアンカーボルトに対して係止させて壁材の取り付けをする内,外壁乾式石張り工法における割れ欠け、脱落防止方法(例えば特許文献3参照)等、これらの課題の解決のために多くの提案がなされてきた。
【0007】
【特許文献1】特開平06−167090号公報
【特許文献2】特開平07−229271号公報
【特許文献3】特開平07−317271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、押出成形セメント板、気泡コンクリート、軽量気泡コンクリート、及びRC建築物等の壁面、天井材を構成する下地面に天然石パネルを、地震や台風などにより剥離、落下がおきず、防火、耐火の認定を所得出来、その外観がよく、特に高級感を醸しだすことができる、簡単で、確実な天然石張り工法並びにそれにより施工された建築物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、
[1] サイディング材の表面に石材パネルを張り付ける際に、
a.サイディング材表面にダボピンを支持するダボ受け小口用抑え金具をビスで固定する。
b.石材パネルの鉛直小口面にダボ穴を設け、これに前記ダボピンを通す。
c.さらに前記サイディング材の両端部においては、前記サイディング材の表面にビスで固定された小口用抑え金具で石材を押さえる。
ことからなる建築物の石張り工法、
[2] 小口用押さえ金具で押さえられる石材パネル裏面とサイディング材の間に接着剤を塗布し、サイディング材表面に張り付けることからなる上記[1]に記載の建築物の石張り工法、
[3] 横張りサイディング材の最下段及び石材パネルの3〜7段毎に、石材パネルの下面に重量受け材を設けることからなる上記[1]または[2]に記載の建築物の石張り工法、
[4] ビスが、サイディング材固定用胴縁に固定されている上記[1]〜[3]のいずれかに記載の建築物の石張り工法、
[5] サイディング材と石材パネルの間にスペーサーを入れる上記[1]〜[4]のいずれかに記載の建築物の石張り工法、
[6] サイディング材が、押出成形セメント板、窯業系サイディング材、気泡コンクリート、軽量気泡コンクリート及びRC建築物のいずれかである上記[1]〜[5]のいずれかに記載の建築物の石張り工法、
【0010】
[7] 完成した窯業系サイディングの表面に、接着剤と固定用金具を併用しながら石材パネルを張り付ける工法において、押出成形セメント板表面最下段の下端に重量受け材を、サイディング材を貫通して胴縁に固定すると共にダボ受け金具及び小口用押さえ金具を取付け、ダボ穴を設けた石材パネル裏面に接着剤を塗り取付け、該ダボ穴にダボピンを挿入し、ダボピンと小口押さえ金具で石材パネルをつなぎ合わせ、窯業系サイディング上に固定することからなる押出成形セメント板の石張り仕上げ工法、及び
[8] 上記[7]に記載の方法により施工された石張り仕上げ工法建築物、を開発することにより上記の課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
本発明は天然石材を、建築物の押出成形セメント板等からなる壁面に張り付けるに際し、ダボピン嵌挿部の石材割れが生じても接着剤としてモルタルやエポキシ樹脂といった硬化時間が長い接着剤を用いる石張り工法である。
対象とする石材が天然物であるため、強度的に均一性に欠けるため、ダボピン嵌挿部の石材割れ、欠けが生じ易いが、仮に該嵌挿部に割れ、欠けが生じても石材の落下を確実に防止できる石張り工法であり、その上、施工は容易であり、軽量化、工期の短縮、石材剥離防止、耐震性、耐風圧性に優れた工法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、下地躯体の表面に石材パネルを張り付けたものであるが、地震や台風などにおいても剥離、落下を効率よく防止し、外観が優れた高級感のある建築物壁面を提供するものである。
下地躯体として用いるサイディング材は、従来サイディング材として使用されている押出成形セメント板、窯業系サイディング材、気泡コンクリート、軽量気泡コンクリート、あるいはRC建築物など、人工の下地躯体であり、これらの下地躯体はそれ自身施工性や防水性、防火性、耐火性などを有している。またこれらは石材パネルを張り付けるのに、平滑な表面を有する下地であるので不陸調整が不要であり施工は極めて容易である。
【0013】
下地躯体に張り付ける石材パネルとしては、天然石を切り出して一定の厚さに切り出したパネルであり、通常大理石や御影石などの天然石を切り出したものである。
石材パネルのサイズとしては下地躯体の種類や建築物の意匠性により異なるので特に限定されることはないが、施工性から見て例えば標準品として600mm(±10mm)×300mm(±10mm)×10mm(±3mm)等を使用することができる。勿論下地躯体に合わせてサイズを選択することが必要である。
【0014】
以下、理解を容易にするため、図面を参照して説明する。
下地躯体(サイディング材)として押出セメント成形板(長さ3007mm.厚さ15mm、働き幅303mm:登録商標「ラムダ」;昭和電工建材株式会社製)を用いた場合について説明するが、これに限定されることではない。
下地躯体(1)としては、サイディング材胴縁(10)に防水シートを取付け、その上に押出セメント成形板(ラムダ)を横張りとして胴縁(10)に固定して形成されるが、本発明の石張り工法の場合においては、この完成したラムダパネル(ジョイント部は通常の押出セメント成形板使用の壁面と同様にシーリング済み)上に、接着剤(8)(例えばボンド商事株式会社製、商品名「BD石張りエース」(登録商標)と一般目地部ではダボピン(3)とダボ受け金具(4)を、またサイディング材の両端部(ジョイント目地部)では小口用押さえ金具(7)からなる固定用金具を併用しながら石材パネル(2)を固定する。接着剤(8)だけでも固定することは可能であるが、施工期間の短縮を目的とし、また地震や台風の場合に備え、石材パネル(2)の落下を確実に防止するために固定用金具を併用して安全性を確保するものである。
【0015】
施工方法としては、まず接着剤(8)を押出セメント成形板(ラムダ)(1)表面に所定の厚さ(例えば下地躯体+接着剤+石材パネルの総厚が32mmであれば、下地躯体15mm+接着剤7mm+石材パネル8mm)となるように塗布し、ダボピン(3)とダボ受け金具(4)でラムダの下地胴縁(10)に固定する。さらに下地躯体(1)に固定された小口押さえ金具で石材パネル(2)を確実に固定する。石材パネル端部については端部専用の小口用ダボ受け金具(7)を用いてサイディング材の両端部(ジョイント目地部)に固定する。
【0016】
例えば、石材パネル(2)のサイズをW595×H295×厚さ8とし、目地幅8mmとすることにより、石材パネル(2)の働き寸法はW603×H303mmとなり、押出セメント成形板(ラムダ)(1)のサイズに合致する施工が出来る。これは石材パネル(2)のサイズとサイディング材(下地躯体)(1)のサイズにより適宜変更することが必要である。
なお、石材パネル(2)と下地躯体(1)の下端部は同じ高さとし、胴縁(10)に固定された重量受け材(9)を設け、石材パネル(2)の重量が下地躯体(1)にかかるのを軽減する。なお重量受け材(9)は石材パネル(2)の密度の相違により何段毎(例えば5段毎)かに設けることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は天然石材を、建築物の押出成形セメント板等からなる壁面に張り付けるに際し、接着剤としてモルタルやエポキシ樹脂といった硬化時間が長い接着剤および固定用金具を併用することにより
強度的に均一性に欠ける石材パネルを張り付けるに際して、石材の嵌挿部に割れ、欠けが生じても石材の落下を確実に防止でき、その上、施工は容易であり、軽量化、工期の短縮、石材剥離防止、耐震性、耐風圧性に優れた工法であり、地震や暴風においても剥離の危険の全くなく、確実に張り付け、外観がよく、特に高級感を醸しだすことができる、壁面、天井材とする工法およびその工法によって建築された建築物である。従ってこの建築物は公共施設、個人住宅等において広く施工可能できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)サイディング材表面の石材の一般目地部におけるダボピンによる接続部断面図(ダボピンに平行断面)(b)サイディング材表面の石材の一般目地部におけるダボピンによる接続部断面図(ダボピンに垂直断面)(c)ダボ受け金具
【図2】(a)サイディング材両端部(ジョイント目地部)における小口用押さえ金具での石材の接続部断面図(小口用抑え金具面に平行断面)。(b)サイディング材両端部(ジョイント目地部)における小口用押さえ金具での石材の接続部断面図(小口用抑え金具面に垂直断面)。(c)小口用抑え金具
【図3】石張り上下端部の断面図
【符号の説明】
【0019】
1 サイディング材
2 石材パネル
3 ダボピン
4 ダボ受け金具
5 ビス
6 ダボ穴
7 小口用抑え金具
8 接着剤
9 サイディング材固定用胴縁
11 スペーサー
12 笠木

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイディング材の表面に石材パネルを張り付ける際に、
a.サイディング材表面にダボピンを支持するダボ受け小口用抑え金具をビスで固定する。
b.石材パネルの鉛直小口面にダボ穴を設け、これに前記ダボピンを通す。
c.さらに前記サイディング材の両端部においては、前記サイディング材の表面にビスで固定された小口用抑え金具で石材を押さえる。
ことからなる建築物の石張り工法。
【請求項2】
小口用押さえ金具で押さえられる石材パネル裏面とサイディング材の間に接着剤を塗布し、サイディング材表面に張り付けることならなる請求項1に記載の建築物の石張り工法。
【請求項3】
サイディング材の最下段及び石材パネルの3〜7段毎に、石材パネルの下面に重量受け材を設けることからなる請求項1または2に記載の建築物の石張り工法。
【請求項4】
ビスが、サイディング材固定用胴縁に固定されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の建築物の石張り工法。
【請求項5】
サイディング材と石材パネルの間にスペーサーを入れる請求項1〜4のいずれか1項に記載の建築物の石張り工法。
【請求項6】
サイディング材が、押出成形セメント板、窯業系サイディング、気泡コンクリート、軽量気泡コンクリート及びRC建築物のいずれかである請求項1〜5のいずれか1項に記載の建築物の石張り工法。
【請求項7】
完成した窯業系横張りサイディングの表面に、接着剤と固定用金具を併用しながら石材パネルを張り付ける工法において、押出成形セメント板表面最下段の下端に重量受け材を、サイディング材を貫通して胴縁に固定すると共にダボ受け金具及び小口用抑え金具を取付け、ダボ穴を設けた石材パネル裏面に接着剤を塗り取付け、該ダボ穴にダボピンを挿入し、ダボピンと小口抑え金具で石材パネルをつなぎ合わせ、窯業系サイディング上に固定することからなる押出成形セメント板の石張り仕上げ工法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により施工された石張り仕上げ工法建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−224639(P2007−224639A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47927(P2006−47927)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000187194)昭和電工建材株式会社 (36)
【Fターム(参考)】