説明

建築物又は建造物の補強部材及び補強構造

【課題】
木造の建築物又は建造物における仕口構造において、正常な角度を有する仕口だけではなく、仕口の角度の変形した部分においても、特別な技術を要することなく容易且つ短時間に補強構造を設置可能とし、特に仕口を構成する構造材間に圧縮力又は伸縮力がかかった際にこれを吸収し減衰させる。
【解決手段】
構造材11及び構造材12により形成される仕口に、合成樹脂発泡体部材2と、帯部3及び固定部4を有する架け渡し部材24とからなる補強部材を設置し、構造材間に圧縮力がかかった際には、主として合成樹脂発泡体部材2により圧縮力を吸収し減衰させ、又構造材間に伸張力がかかった際には、主として帯部3により伸張力を吸収し減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の補強部材及び補強構造は、木造軸組建築物における柱、間柱、土台、梁及び胴差等の構造材、木造枠組壁工法建築物における角材等の構造材に適用して防振性及び耐震性を付与された建築物又は建造物の構築に用いられる。本発明の補強部材は、上記の補強構造の構築に利用される。
【背景技術】
【0002】
木造の建築物又は建造物における耐震性の必要性は近年、益々理解が深まり、その関心度も高い。従って、新たに木造の建築物又は建造物(以下、単に建築物と記載する。本発明では建築物と記載した場合、特に断りがない限り建造物の意味も含まれる。)を構築する際に、より優れた耐震性を備える建築物を建設したいという要望が存在する。また既存の建築物においても、耐震性を高めるために補強工事を行う例が増加している。
さらにまた地震や台風等によって被災した建築物に対して早急に補強を行う必要性が生じる場合がある。特に大地震の際には、その後の余震等の影響から建築物が崩壊する恐れがあるため、居住者は不安な生活を送り、或いは避難生活を余儀なくされる場合がある。かかる状況では、迅速に補強を行い、居住者の安全性と日常の生活及び居住者の精神的安定を確保する必要がある。
従って、汎用性があり且つ経済的であって、既存又は新築の木造の建築物に適用できる補強構造及びこれに用いられる補強部材が求められている。
【0003】
これに対し、従来、建築物を補強するための補強構造としては、木造軸組建築物における柱、間柱、土台、梁及び胴差等の構造材、木造枠組壁工法建築物における角材等の構造材、鉄骨建築物における鉄骨等の構造材等の中で互に接している2つの構造材の間において、筋交いや火打梁といった補強材を架け渡した補強構造が公知である。具体的なこのような構造として例えば、図11に示すように、一方の構造材101の途中から、他方の構造材102の途中にかけて、火打梁材等の木製又は金属製の補強部材103を斜めに接続し、両端部を構造材101、102に固定して建築物を補強してなる補強構造がある。
【0004】
上記補強構造を有する建築物は、補強部材が存在しない建築物の構造に比べ、耐震性が向上する。またこのような補強構造において、さらに制振構造を用いて耐震性能をより高いものとするための補強構造が知られている(例えば特許文献1、2参照)。
【0005】
上記特許文献1に記載の補強構造は、一方の構造材(構造材A)の途中から他方の構造材(構造材B)の途中にかけてばね鋼からなる補強部材を固定してなるものである。また上記特許文献2に記載の補強構造は、構造材Aと構造材Bと補強部材とで構成される空間内に合成樹脂発泡体を圧縮状態で固定してなるものである。
【0006】
上記特許文献1、2に記載の補強構造は、地震や強風等の振動や揺れにより仕口を変形させようとする力がかかった際に、ばね鋼や合成樹脂発泡体等からなる補強部材が仕口変形に抵抗する耐力を発揮し、またこれにより上記仕口を変形させようとする力が吸収され減衰される。この結果、仕口の変形が良好に防止され、建築物の耐久性が図られる。
【0007】
また上述とは別の補強構造として、図12に示すように、2つの構造材に複数のばね(ばね104、ばね105)が固定され、且つこれらばね間に空間が形成され、この空間にばね同士を連結し耐力を与えるための金属製部材106が設けられるとともに、該空間が発泡樹脂体107で充填されてなる補強部材が知られている(例えば特許文献3)。特許文献3に記載の補強部材を利用する補強構造であれば、建築物に加わる振動や揺れが大きくなった場合でも、仕口変形に追従するための減衰効果ある。また正常な仕口の角度にあわせて形成された補強部材を設置した後に、仕口の角度を変形させる力が構造材に働いた際には、この力に抵抗して角度の変形を抑制し、又もとの正常な角度に復元する作用が発揮される。
【0008】
上述した従来の補強構造は、いずれも建築物の2つの構造材間に架け渡してその両端を各構造材に固定されてなる補強部材(例えばばね鋼等)を主構造としている。上記主構造には堅強な部材が用いられており、これによって補強構造の強度を向上させ構造材間の支持を可能とする要素が含まれている。
【0009】
【特許文献1】特開2003−96911号公報
【特許文献2】特開2003−20729号公報
【特許文献3】特願2004−171810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、大地震や台風等により被災した場合、構造材よりなる木造の建築物の骨組みは、残留変形していることがある。かかる残留変形した建築物においては、2つの構造材により形成される仕口の角度は、設計時に予定された正常な角度(以下、単に「正常な角度」ともいう。)と比較して、変形している箇所が観察される。上記仕口の角度の変形は、正常な角度よりも広がって変形している場合、或いは狭まって変形している場合がある。また被災した建築物以外でも、建築後、数年経過をした建築物では、風雨、軽度の地震又は建築材料自体の重み等の影響によって、程度の差はあるが、上述と同様に2つの構造材により形成される仕口の角度が、建築直後の正常な角度と比較して変形している場合がある。このように、仕口の角度が正常な角度と比較して変形している場合には、垂直方向或いは水平方向の耐力が減少している。従って早急に補強を行うことが必要である。特に、上述したように地震等の被災後においては、その後の余震等に備え、簡易且つ迅速な方法で補強を行うことが望ましい。
【0011】
しかしながら、上述した従来の補強構造はいずれも、構造材間に堅強な部材を架け渡して固定し形成するものである。従って、この堅強な補強部材を人力により簡易な工具でその形状を伸張させたり圧縮させたりして変形させることは容易ではない。それ故、仕口が正常な角度よりも広がって変形している箇所において、正常な仕口の角度にあわせて形成された従来の補強部材を正しい取付け位置まで伸張させて取付けることは容易ではない。或いはまた、仕口が正常な角度よりも狭まって変形している箇所において、正常な仕口の角度にあわせて形成された従来の補強部材を押し込むようにして設置することは容易ではない。以上の理由から、特に、被災後の残留変形が生じた木造の建築物において緊急に補強が必要となった場合には、短時間のうちに特別な技術を要することなく上記従来の補強構造を実施することは困難である。
【0012】
さらにまた、従来の補強構造のうち特に金属製の部材を用いる補強構造では、補強部材の重量がかなり重く、運搬或いは設置作業の際に、上記重量が負担となり取扱い性を低下させる場合がある。
【0013】
従って、本発明は、建築物の構造を補強し、耐震性を付与するとともに、構造材の仕口角度が変形することを防止し、また変形した仕口の角度を正常な角度に復元する方向に力を付与することができる補強構造であって、仕口の角度が変形した既存の木造建築物においても簡易且つ短時間に形成が可能である補強構造、及び上記補強構造に利用される補強部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
(1)建築物又は建造物における仕口を形成する構造材A及び構造材B間を補強するための補強部材であって、両端に構造材に対する固定部を有し且つ前記固定部間に繊維から形成される帯部を有して形成される架け渡し部材と、構造材Aに接する側面A、構造材Bに接する側面B及び前記架け渡し部材に接する側面Cとを有して形成される合成樹脂発泡体部材とを備えることを特徴とする建築物又は建造物の補強部材、
(2)少なくとも前記帯部と前記合成樹脂発泡体部材とが接する部分において、前記合成樹脂発泡体部材の側面Cが、側面Aと側面Bとにより形成された角とは反対の方向に凸状に湾曲して形成されていることを特徴とする上記(1)に記載の建築物又は建造物の補強部材、
(3)上記側面Cの凸状に湾曲して形成されている部分が、半径100cm以上2000cm以下で描かれる弧であることを特徴とする上記(2)に記載の建築物又は建造物の補強部材、
(4)前記合成樹脂発泡体部材の側面Aと側面Bとから形成される角が、建築物又は建造物の設計時における構造材Aと構造材Bとから形成される仕口の角度と等しい角度で形成されていることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の建築物又は建造物の補強部材、
(5)前記帯部の引張強度が、980N以上49kN以下であり、且つ伸び率が3%以上20%以下であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の建築物又は建造物の補強部材、及び
(6)建築物又は建造物における仕口を形成する構造材A及び構造材B間に補強部材を固定してなる補強構造であって、前記補強部材が、両端に構造材に対する固定部を有し且つ前記固定部間に繊維から形成される帯部を有して形成される架け渡し部材と、構造材Aに接する側面A、構造材Bに接する側面B及び前記架け渡し部材に接する側面Cとを有して形成される合成樹脂発泡体部材とを備えており、構造材A及び構造材B間に上記合成樹脂発泡体部材との間が隙間のない状態で設置されており且つ上記合成樹脂発泡体部材の側面Cと上記架け渡し部材とが接した状態で、前記固定部を介して前記架け渡し部材が構造材A及び構造材Bに固定されることにより形成されることを特徴とする建築物又は建造物の補強構造、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の補強構造は、構造材間に圧縮変形可能な合成樹脂発泡体部材及び伸張可能な帯部を有する架け渡し部材を備える補強部材を、仕口を形成する2つの構造材間に固定してなる構成を採用した。この結果、上記2つの構造材間に圧縮力が加わった際には、上記合成樹脂発泡体が圧縮変形することにより、該圧縮力を吸収して減衰させることができ、一方、上記2つの構造材間に伸張力が加わった際には、上記帯部が伸張することにより該伸張力を吸収して減衰させることができる。その結果、建築物の仕口変形を抑制し、且つ角度の変形した仕口を正常な位置に復元する方向に力を付与することができる。従って、建築物に対して水平方向或いは垂直方向に応力がかかることにより生じる構造材の変位に対し、正常な仕口角度を維持するように抵抗し、且つその変形を素早く元に戻すことが可能である。またこれにより建築物の揺れを速やかに収束させ小さくすることができる。本発明の補強構造は、木造建築物に用いた場合に、大破、倒壊等の大きなダメージを防止できる。
【0016】
また本発明の補強部材における帯部には、2つの構造材間にかかる伸張力を吸収して減衰させる作用を発揮せしめる部材として、繊維から形成される帯状物が採用されている。従って上記帯部を備える本発明の補強部材であれば、人力で或いは簡易な工具を使用するだけで伸張させることが可能である。その結果、正常な仕口の角度に合わせて製造された本発明の補強部材を、仕口の角度が変形した箇所に用いる場合、金てこ等の簡易な工具を用いるだけで容易に望ましい設置位置に設置することができる。それ故、本発明の補強部材は、新築の木造建築物だけでなく、仕口の角度に変形が生じた木造建築物においても容易に利用することができ、汎用性に優れる。特に、地震や台風等の被災後であって、緊急に補強を必要とする際には、設置容易性及び軽量性に優れる本発明の補強構造及び補強部材であれば、特別な技術、熟練を要さず施工が可能である。
【0017】
さらにまた上述のとおり本発明の架け渡し部材の主体は、従来のようにばね鋼等の金属製部材ではなく帯部からなるため、従来と比較して非常に軽量である。従って、上記架け渡し部材を備える本発明の補強部材であれば、運搬及び設置作業の際の負担が従来に比べて軽減されおり、取扱い性に優れ設置時間も従来より短縮することが可能である。特に、被災後の建築物を緊急に補強する場合には、ストックされていた補強部材を補強現場まで速やかに輸送することが望まれる。これに対し軽量な本発明の補強部材であれば、輸送環境の悪化した被災地等においても、輸送手段を選ばず二輪車や人力によっても速やかに運搬することができる。
【0018】
更に本発明の補強構造は、部材の耐久性が高く、メンテナンス等が不要である上、取付け条件等の制約がないため、他の補強材(例えば添え柱又は添え木等)を併用して補強部材の強度を確保することができる。また本発明の補強構造は、コスト的にも安価であり将来的な災害に備えストックしておく際にも経済的な負担が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施態様について図面に基づき詳細に説明する。図1は、合成樹脂発泡体部材2と、帯部3及び固定部4を有してなる架け渡し部材24とを備える本発明の補強部材を、木造建築物の構造材11(構造材A)及び構造材12(構造材B)間に設置して形成した本発明の補強構造1を示す断面図である。補強構造1は、構造材11の側面と合成樹脂発泡体部材2の側面8(側面A)とを接し、且つ構造材12の側面と合成樹脂発泡体部材2の側面9(側面B)とを接し、又、架け渡し部材24と側面10(側面C)とを接して設置し、固定部4に形成された挿通孔6及び合成樹脂発泡体部材2に形成された挿通孔7を介して、留め具5を構造材11及び構造材12に留めることによって上記構造材11及び構造材12に固定して形成されている。この時、構造材11及び構造材12に予め留め具用穴Sを設けておき、留め具用穴Sと挿通孔6及び挿通孔7を一致させて留め具5を挿入させることが望ましい。合成樹脂発泡体部材2は、構造材11及び構造材12間に加わる圧縮力を吸収可能であり、また帯部3は、構造材11及び構造材12間に加わる伸張力を吸収可能である。
【0020】
上記圧縮力とは、構造材11及び構造材12が交叉する部分の仕口の角度が設計時に予定された正常な角度より狭まる方向に働く力である。上記圧縮力には、構造材自体、特に構造材間の結合部分における構造材自体を圧縮変形させ仕口を正常な角度より狭まる方向に変形させる力、或いは構造材を曲げて(即ち撓んだ状態にさせ)仕口を正常な角度より狭まる方向に変形させる力を含む。
また上記伸長力とは、構造材11及び構造材12が交叉する部分の仕口の角度が設計時に予定された正常な角度より広がる方向に働く力である。上記伸張力には、構造材自体、特に構造材間の結合部分における構造材自体を圧縮変形させて仕口を正常な角度より広がる方向に変形させる力、或いは構造材を曲げて(即ち撓んだ状態にさせ)仕口を正常な角度より広がる方向に変形させる力を含む。
より具体的には、例えば構造材11が木造建築物における柱であり、且つ構造材12が木造建築物における土台である場合は、上記柱と上記土台により構成される仕口の正常な角度は90°であることが一般的である。これに対し、上記角度が90°より小さくなる方向に働く力を圧縮力、90°より大きくなる方向に働く力を伸張力という。
【0021】
また本発明において、構造材11、12が交叉する部分の仕口の角度が正常な角度よりも広がる方向に変形するのに追随して引っ張られる方向を帯部3の「伸長方向」と言う。また、伸長方向とは反対に、構造材11、12が交叉する部分の仕口の角度が正常な角度よりも狭まる方向に構造材が変形するのに追随して圧縮される方向を合成樹脂発泡体部材2の「圧縮方向」と言う。
尚、本発明において、「仕口」というときは、2つの木造の構造材が直角またはある角度をなして結合された場合の結合部分であって、特に本発明の補強部材の設置が予定される側の結合箇所を意味する。また本発明において「仕口の角度」とは、上記2つの構造材により形成される仕口において、本発明の補強構造の設置が予定される側に形成される角の角度を指す。
【0022】
構造材間に圧縮力がかかった際の補強構造1の作用を、図2を用いて例示的に説明する。構造材11と構造材12との間に圧縮力が働き、構造材11が仕口の角度を狭める方向に傾斜した場合、合成樹脂発泡体部材2が圧縮変形し、上記圧縮力が吸収されて減衰される。これと同時に、上記圧縮力に対する合成樹脂発泡体部材2の反発力により、構造材11が元の位置に戻る方向に力が付与される。この結果、構造材11及び構造材12が交叉する部分の仕口の角度が正常な角度よりも狭まる方向に変形することが防止される。
【0023】
また、既に構造材間に圧縮力がかかり仕口の角度が正常な角度よりも狭まって変形した箇所において、本発明の補強構造を実施した際の作用を以下に説明する。かかる場合には、側面8及び側面9により形成される角の角度が仕口の正常な角度と等しい角度で形成された合成樹脂発泡体部材2と、これにあわせて製造された架け渡し部材24とを用い、角度の狭まった仕口部分に上記合成樹脂発泡体2を押し込めるようにして設置し、本発明の補強構造を形成する。この結果、設置された際に、合成樹脂発泡体部材2は圧縮状態にあり、該合成樹脂発泡体2に反発力が生じる。そして該反発力により、角度の変形した仕口が正常な角度に復元する方向に力が付与される。
【0024】
次に、構造材間に伸張力がかかった際の補強構造1の作用を、図3を用いて例示的に説明する。図3に示すように構造材11と構造材12との間に伸張力が働き構造材11が仕口の角度が広がる方向に傾斜した場合、帯部3が伸張し、上記伸張力が吸収されて減衰される。またこのとき、帯部3は、伸張すると同時に仕口方向に向って移動しようとする力が生じる。そして帯部3と接する合成樹脂発泡体部材2の側面10が、帯部3から圧力を受け圧縮変形するとともに帯部3に対して反発力を与える。上記合成樹脂発泡体部材2の作用によっても、上記伸張力が吸収され減衰される。この結果、構造材11及び構造材12が交叉する部分の仕口の角度が正常な角度よりも広がる方向に変形することを防止することができる。
【0025】
また、既に構造材間に伸張力がかかり仕口の角度が正常な角度よりも広がって変形した箇所において、本発明の補強構造を実施した際の作用を以下に説明する。かかる場合には、側面8及び側面9により形成される角の角度が仕口の正常な角度と等しい角度で形成された合成樹脂発泡体部材2と、これにあわせて製造された架け渡し部材24とを用い、角度の広がった仕口部分に上記合成樹脂発泡体2を載置し、挿通孔6、挿通孔7及び留め具用穴Sを一致させて留め具を挿入し、本発明の補強構造を形成する。この結果、設置された際に、架け渡し部材24における帯部3は伸張した状態にある。そして帯部3が元の長さに戻ろうとする力により、角度の変形した仕口が正常な角度に復元する方向に力が付与される。
【0026】
また特に、少なくとも帯部3と合成樹脂発泡体部材2とが接する部分において、合成樹脂発泡体部材2の側面10を、側面8と側面9とにより形成された角とは反対の方向に凸状に湾曲して形成することにより、上記伸張力を吸収して減衰する作用をより良好に発揮させることができる。即ち、上述のように側面10において凸状に湾曲して形成された部分が存在することにより、帯部3に伸張力が伝達されると、帯部3の両端に位置する2つの固定部4と、合成樹脂発泡体部材2における凸状の形状の頂点との3点が帯部3の支点となる。一方、側面10が直線形状に成形された合成樹脂発泡体部材2では、帯部3の支点は両端の2点だけである。ここで、2点の支点を有する帯部3と、3点の支点を有する帯部3とに、同じ程度の伸張力が伝達された場合には、3点の支点を有する帯部3の方が良好に伸張する。また帯部3は、伸張と同時に仕口方向に移動しようとし、この時、上記凸状の形状の頂点を中心に合成樹脂発泡体部材2に対し強い圧力を与えることができる。帯部3から強い圧力を受けた合成樹脂発泡体部材2は、圧縮変形し、且つ圧縮変形した部分において該圧力に対する反発力が発生する。上記帯部3の良好な伸張及び合成樹脂発泡体部材2の発する反発力における一連の作用から、伸張力のより優れた吸収、減衰作用が発揮される。
【0027】
従って、本発明の補強部材を用いて形成される本発明の補強構造であれば、上述のとおり構造材間に圧縮力又は伸張力が働いても、合成樹脂発泡体部材2及び/又は帯部3の作用により、繰り返し上記圧縮力又は伸長力を吸収して減衰する作用が働き、仕口の正常な角度を維持しようとする作用が生じる。
【0028】
次に、側面8と側面9とから形成される角が構造材11及び構造材12により形成される仕口の正常な角度と同じ角度に設けて形成された合成樹脂発泡体部材2を用いた場合の、本発明の補強構造1を形成する方法について説明する。
構造材11及び構造材12の交叉する部分の仕口の角度が正常な角度を示す箇所に本発明の補強構造を形成する場合には、合成樹脂発泡体部材2を上記仕口に隙間が生じないように押し当て、挿通孔6、挿通孔7及び留め具用穴Sを一致させ、ここにスクリューねじ等の留め具5を挿入して構造材に固定せしめることにより容易に形成することができる。
一方、構造材11及び構造材12により形成される仕口の角度が正常な角度より狭まる方向に変形している場合は、図4aに示すように、まず構造材12の水平面において構造材11と構造材12とから形成される仕口から側面9の長さよりやや遠い位置に添え木13を固定する。次いで合成樹脂発泡体部材2と架け渡し部材24とを重ね合わせた状態で構造材11及び構造材12間に置き、側面10の端部において矢印14の方向に力を加え、構造材11と構造材12との間に本発明の補強部材を押し込むようにして設置する。このとき金てこ等の簡易な工具を用いると容易に補強部材に力を加えることができる。その後、図4bに示すとおり、挿通孔6、挿通孔7及び留め具用穴Sを一致させて、ここに留め具5を挿入し上記補強部材を、構造材11及び構造材12に固定せしめることにより、本発明の補強構造1を形成することができる。ただし、本発明の補強構造1の形成方法は、上述に限定されるものではない。本発明の補強構造1は、構造材11と構造材12との間において本発明の構造材における側面8と構造材11、及び側面9と構造材12との間に隙間のない状態で設置され固定されていること、及び固定部4を介して架け渡し部材24が構造材に固定されていることが重要である。従ってかかる状態に本発明の構造材を固定ならしめる方法であれば、いずれの方法でも、本発明の補強構造1の形成方法として採用し得る。尚、補強構造1を形成後、添え木13は除去してよい。またさらに固定部に接して構造材11及び構造材12に留め木15を設置してもよい。留め木15の設置により、構造材に圧縮力又は伸張力がかかった際に、固定部4の位置がずれ、又は留め具5がはずれ若しくは変形することを良好に防止することができるため好ましい。
【0029】
上述に基づき形成される本発明の補強構造1において、帯部3に伸張力を良好に吸収させるためには、補強構造1において、帯部3が撓みのない状態で設置されていることが重要である。特に帯部3に147N以上の張力がかかった状態で設置されることが好ましく、245N以上の張力がかかった状態であることがより好ましく、294N以上の張力がかかった状態であることがさらに好ましい。一定の張力がかかった状態で帯部3を設置することにより、構造材間にかかる伸張力が帯部3に良好に伝達され、帯部3が良好に伸張し、上記伸張力を良好に吸収して減衰することができるので好ましい。また帯部3の長期耐力だけを考えれば147N以上1.96kN以下の張力を有した状態で設置することが可能である。ただし、補強構造1を簡易な工具を用いて人力だけで容易且つ迅速に設置可能とするためには、帯部3に392N以下の張力がかかった状態で設置することが望ましい。
【0030】
上記帯部3の設置時の好ましい張力を得るためには、設置前の帯部の長さをsとし、合成樹脂発泡体部材2の側面Cにおいて帯部と接する部分の長手方向の距離をtとしたとき、上記sが上記tに対して90%以上99%以下になるよう(即ちtよりsを若干短めにして)予め製造しておくことが望ましい。そして構造材間に設置する際に、上記帯部3を備える架け渡し部材24の一端を先ず構造材に固定し、次いで他の一端を引っ張るようにして合成樹脂発泡体部材2とともに構造材に固定することにより、上記望ましい張力がかかった状態で帯部3を設置することが可能である。従って、上記s及び上記tを予め調整することにより、設置時の帯部3の張力を設定することができる。このように帯部3に好ましい張力がかかった状態で設置される補強構造1では、構造材間にかかる伸張力が、良好に帯部3に伝達され、これにより上述において説明した伸張力の吸収、減衰作用が良好に発揮される。
【0031】
本発明において構造材というときは、木造軸組建築物における柱、間柱、土台、梁及び胴差等の構造材、または木造枠組壁工法建築物における角材等の構造材等(地面に対し、垂直又は平行に設けられた構造材だけではなく、例えば小屋裏に見られる傾斜角度を有して設けられた構造材等も含められる)を意味する。従って本発明の補強構造は、上記いずれか2つの構造材が接する部分の仕口において形成することができる。例えば、図5に示すように柱16、柱17、梁18及び土台19それぞれにより形成される仕口に本発明の補強構造1を形成することができる。また別の態様として図6に示すように小屋裏の構造において垂木20及び小屋束21により形成される仕口において本発明の補強構造を形成することができる。また本発明の補強構造1は、壁面などの垂直面だけでなく、床面或いは天井面などの水平面や、傾斜面における仕口にも形成することができる。
【0032】
上記構成を有する本発明の補強構造1であれば、圧縮力を吸収して減衰する作用と伸張力を吸収して減衰する作用とが発揮される。また仕口の角度の変形に対し、元の正常な角度を示す方向に復元する力が付与することができる。さらに特別な熟練技術を要することなく簡易且つ迅速に設置、形成することができる。従って本発明の補強構造1であれば、特に緊急災害時等において早急に建築物の補強を必要とする際には、その効果が非常に有効に発揮される。例えば、地震や台風等により被災し、残留変形が生じた木造建築物において、任意に1つ或いは複数の部屋を選択し(地盤に面する部屋が望ましい。)、上記選択された部屋を構成する土台、柱、張り等の各構造材により形成される仕口に本発明の補強構造を形成することによって、上記選択された部屋を架設のシェルターとして使用することが可能である。
【0033】
以下に、本発明の補強構造1に用いられる補強部材23の構成についてより詳しく説明する。図7に示すように、本発明の補強部材23は、合成樹脂発泡体部材2及びこれと独立した架け渡し部材24を備えて構成されている。合成樹脂発泡体部材2は、構造材と接する側面8(側面A)及び側面9(側面B)並びに架け渡し部材24と接する側面10(側面C)を有して形成される。側面8と側面9とから形成される角度は、設置する2つの構造材間における仕口の正常な角度と同じ角度で形成されることが望ましい。一方、架け渡し部材24は、帯部3と、帯部3の両端に位置する固定部4とを有して形成される。帯部3と固定部4との結合方法は、伸張力に耐え得る結合部26を形成することができる方法であればいずれの方法を採用してもよい。例えば、図7に示すように固定部4に帯部通し穴25を設け、これに帯部3の端部を通して折り返し、該折り返し部分を帯部3の本体と縫製することによって結合部26を形成することができる。また他の方法としては、帯部3の上記折り返した部分を帯部3本体と接着する方法、或いは融着する方法等が挙げられる。ただし強度の信頼性や、長期間の良好な結合状態の維持効果の点からは、縫製により結合部26を形成する方法が望ましい。
本発明の補強部材23を用いて本発明の補強構造1を形成する際には、合成樹脂発泡体部材2と架け渡し部材24とを重ね合わせて、2つの構造材間に設置すればよい。従って、固定部4とこれに接する側面10との接触面は、同形状で形成されていることが望ましい。また図7に示すように、合成樹脂発泡体部材2と架け渡し部材24とは独立しているが、構造材間に設置する際には、粘着テープ等で予め一体化させておいてもよい。
【0034】
本発明の補強部材は、補強部材23として図7に示す形状に限定されるものではない。例えば図8aに示す補強部材23(図7と同態様)以外にも、図8b、図8c又は図8dに示す形状の補強部材23を採用して実施し得る。特に、補強部材23を構成する合成樹脂発泡体部材2の側面10において、図8a、図8b又は図8cに示される合成樹脂発泡体部材2の如く、帯部3と接する面を、側面8及び側面9から形成される角とは反対の方向に凸状に湾曲する湾曲面cとして形成することができる。これによれば本補強構造を構造材間に設置した後、伸張力がかかった際に、帯部3が湾曲面cと接して良好に伸張し、該伸張力が良好に吸収されるので望ましい。
【0035】
上記側面10における湾曲面cは、100cm以上2000cm以下の半径Rを示す弧を描いて形成されることが好ましく、200cm以上1000cm以下の半径Rを示す弧であることがより好ましく、300cm以上700cmである半径Rを示す弧であることがさらに好ましい。上記好ましい範囲の半径Rを有して合成樹脂発泡体部材が形成されることにより、構造材間に伸張力がかかった際に、帯部3が良好に伸張し、また上記伸張力の吸収が良好に行われる。上記側面10における半径Rは、本発明の補強構造1の実施箇所の構造や木造建築物の規模、及び合成樹脂発泡体部材2の寸法により適宜決定することができる。ただし上記半径Rが100cm未満とすると、湾曲面cのカーブがきつくなりすぎて、3つの支点に力がかかりすぎ、固定部材4が強く引張られて浮いたり、外れたりする恐れがある。一方、半径Rが2000cmを越える場合には、湾曲面cのカーブが緩くなり過ぎて、伸張力が生じた材に、凸状の頂点に帯部3の圧力が良好にかかり難く合成樹脂発泡体部材2を適度に圧縮変形させてその反発力を得ることが難しい。
【0036】
また図8a及び図8bに示される合成樹脂発泡体部材2のように、側面10の端部において、本補強部材が構造材間に設置された際に、構造材11及び構造材12から垂直に起立する垂直面aを形成することができる。これにより、図4aを用いて上述したとおり、構造材間に補強部材を嵌め込んで設置する際に、補強部材を押す力がかかり易く、また金てこ等の工具を安定してあてがうことができるため望ましい。また図4aに示す場合に限らず、本発明の補強部材における合成樹脂発泡体を適度に圧縮させた状態で構造材間に設置させるためにも、上記垂直面aが形成されていることにより、合成樹脂発泡体に圧力をかけ易く望ましい。
【0037】
合成樹脂発泡体部材2における側面8及び側面9の長手方向の寸法は、本発明の実施される箇所、建築物の規模等にあわせて適宜決定することができる。好ましい側面8及び側面9の長手方向の寸法としては25cm以上90cm以下、より好ましくは30cm以上50cm以下である。上記側面の長さが25cm未満であると、補強構造全体の寸法が小さくなり過ぎ、これを用いて形成された補強構造では充分な補強効果を得られない場合がある。また上記側面の寸法が90cm以上である合成樹脂発泡体部材2を用いた補強構造1では、より大きい補強効果が得られ得る。ただし各部材が大きくなるため運搬及び設置時における取扱い性が低下し、特に被災後において緊急に設置が必要とされる場合においては望ましくない。尚、本発明において、上記側面8及び/又は側面9に予め高減衰ゴムシートを貼り付けておくこともできる。上記高減衰ゴムシートを貼り付けた合成樹脂発泡体部材2を構造材間に設置することにより、より高い振動減衰効果を発揮することができる。高減衰ゴムシートの厚みは1〜5mm程度、好ましくは2〜3mm程度である。上記厚みを1mm以上とすることで、高い減衰効果が期待でき好ましい。また上記厚みが5mm以下であれば、ゴムシートの面積が側面8又は側面9の面積より小さくても、上記ゴムシートを備える合成樹脂発泡体部材2を構造材間に設置した際に、該合成樹脂発泡体部材2と構造材との間に実質的に隙間を発生させることがなく設置、固定することができるので好ましい。
【0038】
本発明の補強部材を構造材に固定するために、図8a及び図8bに示すように固定部に挿通孔6を、また合成樹脂発泡体部材に挿通孔7を設けて形成することができる。また別の実施態様としては、図8c及び図8dに示すように固定部に挿通孔6を設け、合成樹脂発泡体部材には挿通孔を設けずに形成することもできる。上記挿通孔6及び挿通孔7に留め具5を挿入させて、本補強部材を構造材に固定するためには、構造材に対して留め具5が垂直な角度で留められていることが望ましい。従って、挿通孔6及び挿通孔7は、構造材間に設置された際に構造材と平行に位置する部材の面に設けられることが望ましい。また上記挿通孔6、挿通孔7に対応して、構造材11及び構造材12にも予め留め具用穴Sを設けておくことが望ましい。留め具用穴Sが予め構造材上に存在することにより、挿通孔6及び挿通孔7の位置合わせが容易である。また径の太い留め具を木造の構造材に直接挿入すると、構造材が割れる危険性があるが、予め留め具用穴Sを設けておけば、かかる危険性を回避することができる。
特に図8a及び図8bに示すように、挿通孔6及び挿通孔7を介して留め具5が構造材に留められることにより、合成樹脂発泡体部材2をより安定し且つ密接して構造材間に設置することができる。この結果、圧縮力が合成樹脂発泡体部材2に良好に伝達されるため望ましい。
【0039】
またさらに、図8aに示すように、側面10において、構造材から垂直に起立する垂直面aと、該垂直面に連続し且つ構造材と平行に形成された平行面bと湾曲面cとの間に、構造材に対して任意の角度で形成される傾斜面dを形成することができる。これによれば、構造材間に設置された補強構造に伸張力がかかり、帯部3が伸張する際に、固定部4及び留め具5にかかる荷重負担を緩和することができ、留め具5が変形し、或いは引き抜かれることが防止されるため望ましい。
【0040】
合成樹脂発泡体部材2を形成する樹脂としては、以下の合成樹脂が用いられる。スチレンの単独重合体樹脂、スチレンと他のモノマーとから製造されたスチレン系共重合体樹脂、スチレンの単独重合体樹脂又は/及びスチレン系共重合体樹脂とスチレン−ブタジエンブロック共重合体との混合物、ゴム状重合体の存在下でスチレン系モノマーを重合することによって得られるゴム変性スチレン系樹脂(耐衝撃性ポリスチレン)、或いは上記したスチレン系の樹脂と他の樹脂又は/及びゴム状重合体との混合物等の、スチレン成分比率が50重量%以上であるポリスチレン系樹脂或いはポリスチレン系樹脂組成物;エチレンの単独重合体樹脂、エチレンと他のモノマーとから製造されたエチレン系共重合体樹脂、エチレンの単独重合体樹脂又は/及びエチレン系共重合体樹脂にスチレン系モノマー等のビニルモノマーを含浸させて重合してなるグラフト変性エチレン系樹脂、或いは上記エチレン系の樹脂と他の樹脂又は/及びゴム状重合体との混合物等の、エチレン成分比率が50重量%以上であるポリエチレン系樹脂或いはポリエチレン系樹脂組成物;プロピレンの単独重合体樹脂、プロピレンと他のモノマーとから製造されたプロピレン系共重合体樹脂、プロピレンの単独重合体樹脂又は/及びプロピレン系共重合体樹脂にスチレン系モノマー等のビニルモノマーを含浸させて重合してなるグラフト変性プロピレン系樹脂、或いは上記プロピレン系の樹脂と他の樹脂又は/及びゴム状重合体との混合物等の、プロピレン成分比率が50重量%以上であるポリプロピレン系樹脂或いはポリプロピレン系樹脂組成物;熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアミド樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;或いは上記した樹脂の2以上の混合物等が挙げられる。合成樹脂発泡体は、上記樹脂を公知の発泡手段により発泡させることで得られる。
【0041】
本発明の補強部材に用いられる合成樹脂発泡体部材2の厚みは、建築物の構造に応じて適宜変更可能である。合成樹脂発泡体部材2の厚み(図9の符号50の方向の寸法)は、取り付けられる構造材の厚み(図9の符号50の方向の寸法)に対して20%以上120%以下であることが好ましく、30%以上100%以下であることがより好ましく、且つまたその厚みは50〜200mmであることが好ましい。構造材の厚みに対して合成樹脂発泡体部材2の厚みが20%未満であると、構造材に設置した際に、良好に圧縮力を吸収することができず、一方、120%以下にすることにより効率よく圧縮力を吸収することができ、経済的不利益が発生しないので好ましい。尚、上記合成樹脂発泡体部材2の厚みを構造材の厚みの50%以下に形成し、これを複数並列させて構造材に設置することもできる。
【0042】
合成樹脂発泡体部材2は、2つの構造材間に設置された際に、圧縮状態で固定されていることが望ましい。圧縮状態の合成樹脂発泡体部材2であれば、構造材間にかかる圧縮力が、合成樹脂発泡体部材2に効率よく伝達され、該圧縮力を良好に吸収し減衰することができる。また建築物が応力を受けた際に建築物の揺れを小さくする働きと、建築物の揺れを吸収して早期に揺れを小さくする効果が良好に発揮される。更に、構造材である柱や梁等の木材が痩せた場合に、合成樹脂発泡体部材2と構造材との間に隙間ができないという利点がある。
従って、仕口が正常な角度を示す部分、或いは仕口の角度の変形が微量である部分に本発明の補強構造を形成する際には、架け渡し部材24を構造材間に固定した際に形成される空間体積より、合成樹脂発泡体部材2の体積を若干大きく形成し、設置の際に圧縮変形させ設置させてもよい。例えば、構造材上に設けられた留め具用穴Sと仕口に形成される角の頂点までの距離をxとし、合成樹脂発泡体部材2の側面において挿通孔7から側面8及び側面9により形成される角の頂点までの距離をyとしたとき、yがxより2〜10%程度長くなるよう形成し、設置の際に上記留め具用穴Sと挿通孔6、挿通孔7とを一致させて固定すれば、合成樹脂発泡体部材2を圧縮状態で設置することができる。一方、仕口の角度が広がる方向に変形している部分、或いは狭まる方向に変形している部分に本補強部材を用いる際には、側面8及び側面9により形成される角を設置する仕口の正常な角度と同じ角度で形成し、上記x及び上記yの距離を等しく設定して上記留め具用穴Sと挿通孔6、挿通孔7とを一致せさて固定すれば、合成樹脂発泡体部材2を適度な圧縮状態で設置することができる。
【0043】
本発明の合成樹脂発泡体部材2に用いられる圧縮変形可能な合成樹脂発泡体としては、5%圧縮時の圧縮応力が2000kPa以下であることが好ましく、1500kPa以下であることがより好ましい。また圧縮時の圧縮応力の下限値は、50kPa以上であることが好ましく、80kPa以上であることがより好ましい。5%圧縮時の圧縮応力があまりにも小さくなりすぎると建築物が応力を受けた際に、揺れを小さくする働きと、揺れを吸収して早期に揺れを小さくする働きとが乏しくなる虞がある。
【0044】
また、上記合成樹脂発泡体部材2が圧縮状態で固定されて補強構造1が形成されると、長期間にわたってその圧縮状態が維持されることになる為、合成樹脂発泡体部材2の圧縮永久歪が12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0045】
上記の合成樹脂発泡体部材2の圧縮永久歪は、JIS K 6767−1977に従って測定された値である。但し、試験片の厚さの25%圧縮する際の圧縮スピードは10mm/分とする。また、上記5%圧縮時の圧縮応力は、JIS K 6767−1977における圧縮硬さの測定方法に従って、試験片を試験開始時の厚さより10%圧縮して得られた圧縮応力−歪曲線から5%圧縮時の圧縮応力を読み取ったものである。
【0046】
ポリプロピレン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂組成物も含む)発泡体は、軽量な上に5%圧縮時の圧縮応力及び圧縮永久歪を上記した特定数値範囲内にすることが容易であるので、圧縮変形可能な合成樹脂発泡体として最も好ましいものの一つである。5%圧縮時の圧縮応力及び圧縮永久歪が上記特定範囲内のポリプロピレン系樹脂発泡体は、例えば、株式会社ジェイエスピーから商品名「ピーブロック」として市販されている商品の中で、発泡倍率(=基材樹脂の密度/発泡体の見かけ密度)が5〜30倍のものがある。
【0047】
架け渡し部材24を構成する帯部3は、天然繊維或いは合成繊維を用いた織物或いは編物を主体として形成されているものを用いることができる。帯部3は、補強構造1に用いられた際に、伸張力を吸収する作用が発揮されることが求められる。またさらに伸張方向に伸張した際に元の長さに戻ろうとする力が発揮されることが望ましい。従って帯部3の引張強度は、980N以上49kN以下であることが好ましく、より好ましくは4.9kN以上24.5kN以下であり、更に好ましくは4.9kN以上19.6kN以下である。引張強度が980N未満であると、構造材間に伸張力がかかった際に、帯部が切れる等の破損が生じ易いため望ましくない。一方、49kNを越える引張強度を示す帯部3であっても、強度面からは問題がない。但し、構造材間に24.5kNを越える引張強度が必要とされる程度に強い伸張力がかかった際には、帯部3が破損する前に留め具5の引き抜きや変形が発生する可能性があるので、この観点からは帯部3の引張強度の上限としては24.5kN程度が適当である。
【0048】
上記該帯部3の伸び率は、3%以上20%以下であることが好ましく、より好ましくは3%以上10%以下であり、さらに好ましくは3%以上5%以下である。伸び率が3%未満であると、構造材間に伸張力がかかった際に帯部3の伸び量が少なく、良好に伸張力を吸収することができないため好ましくない。一方、伸び率が20%を越えると、伸張力がかかった際の初期伸び量が大きく、これにより仕口の角度の初期変形量が大きくなるため、元の角度に復元させることが困難となり好ましくない。
【0049】
上記の帯部3の引張強度は、JIS D 4604−1995 7.4ウェビング試験(1.1)に従って測定された値である。詳しくは、試験片をクランプ間距離が220±20mmとなるように引張試験機に取付け、引張速度毎分約100mmで荷重を加え、試験片が破断した時の荷重を測定することにより得られた荷重値を引張強度とした。
【0050】
また帯部3の伸び率は、JIS D 4604−1995 7.4ウェビング試験(1.3)に従って測定された値である。詳しい測定方法は、まず試験片をクランプ間距離が220±20mmとなるように引張試験機に取付け、試験片が緊張するように200Nの初期荷重を加える。その距離内に標点距離200mmの目盛り線を引き、引張りを開始し、引張強度毎分約100mmで荷重を与え、荷重が11.1kNに達したとき、標点距離を測定する。標点距離をL(mm)とし、伸び率をδ(%)としたとき、δ=(L−200)÷200×100により算出される値δを伸び率とした。
【0051】
帯部3の両端に設けられる固定部4は、補強構造1において用いられた際に、圧縮力及び伸張力によっても容易に変形しない部材で形成されることが好ましく、例えば金属製素材、特に、鉄、鋼等によって形成することができる。固定部4の厚みは、補強する建築物の規模、構造材の規格等によって適宜変更することができるが、好ましくは、2mm以上 5mm以下、より好ましくは、3mm以上5mm以下である。また固定部4の幅(図9の符号50の方向の寸法)は、合成樹脂発泡体部材2の厚み(図9の符号50の方向の寸法)に対し、80%以上110%以下であることが好ましく、約100%、即ち、略同等の幅に形成することにより、経済的不利益がなく安定して補強部材を構造材に固定することが可能である。
【0052】
また固定部4の形状は、設置された際に、少なくとも、その内側面において合成樹脂発泡体部材2或いはさらに構造材と密接に接するように形成されおり、且つ構造材に対して平行に位置する面を有して形成されていればよい。尚、図8a及び図8bに示される垂直面aを有する態様の補強部材に用いられる固定部4は、垂直面aに接する面の下端部を、図8a或いは図8bに示すように構造材に接するよう形成してもよいし、或いは、図1に示すように上記下端部と構造材との間に隙間ができるよう形成してもよい。特に、垂直面aと接する固定部4の面の下端部と構造材との間に隙間が形成されていると、構造材間に圧縮力がかかった際に、上記隙間部分において合成樹脂発泡体部材2が圧縮されやすい。この結果、該圧縮力が良好に合成樹脂発泡体部材2に吸収されるので好ましい。上記固定部4は、構造材間に2N以上10Nの範囲の伸張力がかかった際にも、本発明の補強部材が安定して構造材間に設置された状態を維持できる程度の支持力を示すことを前提に、その寸法及び形状を決定することが望ましい。
【0053】
本発明に用いられる留め具5としては、挿通孔6或いはさらに挿通孔7を介して、本発明の架け渡し部材24及び合成樹脂発泡体部材2を構造材に固定することが可能なものであれば、いずれのものでも用いることができる。例えば、先端にスクリュー部が形成されているスクリューねじを用いることができる。また構造材に予め貫通した留め具用穴Sを形成すれば、ボルト及びナットを留め具5として用いることもできる。例えば、上記スクリューねじとしては、金属製部材として、JIS G 3505の軟鋼線材SWRM10を用い、これにJIS H8610に基づき電気亜鉛めっきにより表面処理したものを用いて製造されたものを使用することができる。またスクリューねじの径及び長さは、住宅金融公庫規格M10〜M16を基準とし適宜変更して製造されたものを用いることができる。例えば、図8aに示す補強構造1を形成する際には、固定部4及び合成樹脂発泡体部材2の高さ(図9の符号51の方向の寸法)を勘案して、スクリューねじの長さを適宜決定することができる。
【0054】
以上の構成を有する本発明の補強部材であれば、構造材間に設置された際に、圧縮力及び伸張力を良好に、吸収し減衰することができる。さらに固定部のみが硬質の部材により形成されているため、全体に軽量であり、運搬又は設置の際の取扱い性に優れる。
【実施例】
【0055】
実施例1
上述に説明した本発明の補強部材23を用いて図9に示す補強構造1を形成し、その耐力について試験した。合成樹脂発泡体部材2は、株式会社ジェイエスピー製「ピーブロック」(発泡倍率15倍)を用いた。合成樹脂発泡体部材2は、符号50=60mm、符号51=55mm、符号52=40mm、符号53=30mm、符号54=300.6mm、符号55=350mm、符号56(半径R)=500cm、θ1=90°、及びθ2=135℃の寸法に形成した。合成樹脂発泡体部材2の側面8及び側面9には、側面8と側面9とから形成される角から33cmの部分に挿通孔7を形成した。また構造材11及び構造材12の正常な角度90°にあわせて、側面8及び側面9から形成される角度を90°に形成した。架け渡し部材を構成する固定部4は、JIS SS41の鉄材料を用い、厚み3.2mmとして形成した。また固定部4は、構造材に対し垂直に位置する面58の下端縁と構造材との間に隙間が生じるように、符号57=50mmの寸法で形成した。その他の固定部4の寸法は、その内側面において、これに接する合成樹脂発泡体部材2の寸法と同等の寸法で形成した。また固定部4において構造材と平行に位置する面に挿通孔6を設けた。帯部3には、引張強度23.5kN、伸び率15%のウェビングを用いた。帯部3と固定部4との結合は、固定部に予め形成した通し穴に帯部3を固定部4の下側面(合成樹脂発泡体部材2と接する面)から上側面方向に通して5cm折り返し、ビニロン5番の糸を用いて縫製して結合した。これにより補強部材を完成した。
次いで、幅105mm×105mmの角材を構造材11及び構造材12として用い、これら構造材同士が結合する箇所にほぞを作って嵌め込み、さらに接合金物27により構造材11及び構造材12を結合させ90°の角度の仕口を形成した。接合金物27には、(株)タナカの15A04−1「スーパーシャトルプレート」を用いた。構造材11において、構造材12と接する地点から136cmの部分を試験の際の加圧部28とした。上記構造材11及び構造材12において、これらが接する地点から33cmの部分に、留め具用穴Sを形成した。上記構造材11及び構造材12の間に、上記架け渡し部材と、上記合成樹脂発泡体部材とを設置した。そして補強部材を金てこで構造材に挿通孔6、挿通孔7及び留め具用穴Sを一致させて、これにスクリューねじ5を挿入し、構造材に合成樹脂発泡体部材2及び架け渡し部材24を固定して、本発明の補強構造を完成した。尚、スクリューねじ5は、住宅金融公庫規格M12を基本とし、その長さを150mm、ボルトの径を8.6mmに設計し製造したものを用いた。
【0056】
比較例1
一方、本発明の補強構造を用いず、構造材11及び構造材12により90°の仕口を形成した状態を比較例1とした。
【0057】
上記実施例1として形成した本発明の補強構造の圧縮力に対する耐力を測定するために、まず構造材11の加圧部28を構造材間を圧縮する方向29に毎秒1mmの速度で除々に荷重に掛け、その変位量が約3mmになったところで、荷重を毎秒1mmの速度で除々に弱めた。続いて上記実施例1の伸張力に対する耐力を測定するために、加圧部28を構造材間を伸張する方向30に毎秒1mmの速度で荷重を除々に掛け、その変位距離が約−3mmになったところで、荷重を毎秒1mmの速度で除々に弱め、これを3回繰り返した。さらに続いて、上述と同様の方法で順に、変位量約5mmから約−5mm、約7mmから約−7mm、約9mmから約−9mm、約11mmから約−11mm、約14mmから約−14mm、約19mmから約−19mm、約28mmから約−28mm、及び約46mmから約−46mmまで3回繰り返して変位させた。最後に、変位量約90mmから−90mmまで大変位させて試験を終了した。上記試験において掛けられた荷重と変位距離の関係を表したグラフから、特に最後に行った大変位(±90mmの変位)の結果を抜粋して図10に示した。尚、構造材間を圧縮する方向に掛けられた荷重を+の値で示し、そのときの変位距離を+の値で示した。また、構造材間を伸張する方向に掛けられた荷重を−の値で示し、そのときの変位距離を−の値で示した。
一方、比較例1においても上述と同様に、構造材11の加圧部を構造材間を圧縮する方向及び構造材間を伸張する方向に加圧して、そのときの変位距離との関係を測定し、最後に行った大変位(±90mmの変位)の結果を抜粋して図10に示した。
【0058】
上記測定の結果、実施例1では、比較例1と比較して、圧縮力及び伸張力に対し充分な耐力が発生しており構造材11及び構造材12間に用いられる補強構造として良好に作用することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の補強構造の一実施態様を示す断面図
【図2】本発明の補強構造の一実施態様において圧縮力がかけられた際の状態を示す断面図
【図3】本発明の補強構造の一実施態様において伸張力がかけられた際の状態を示す断面図
【図4】仕口角度が変形した構造材間に本発明の補強構造を形成する方法の一例を示す説明図
【図5】2本の柱、梁及び土台により形成される枠組みに形成される4つの仕口に本発明の補強構造を実施した際の断面略図
【図6】小屋裏における垂木及び小屋束により形成される仕口に本発明の補強構造を実施した際の示す断面略図
【図7】本発明の補強部材の一実施態様を示す斜面図
【図8】本発明の補強部材の実施態様を示す断面図
【図9】本発明の実施例を示す斜視図
【図10】本発明の補強部材の耐力試験の結果を示すグラフ図
【図11】従来の補強構造の一例を示す斜視図
【図12】従来の補強構造の一例を示す断面図
【符号の説明】
【0060】
1 本発明の補強構造
2 合成樹脂発泡体部材
3 帯部
4 固定部
5 留め具
6 挿通孔
7 挿通孔
8 側面(側面A)
9 側面(側面B)
10 側面(側面C)
11 構造材(構造材A)
12 構造材(構造材B)
23 本発明の補強部材
24 架け渡し部材
25 帯部通し穴
26 結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物又は建造物における仕口を形成する構造材A及び構造材B間を補強するための補強部材であって、両端に構造材に対する固定部を有し且つ前記固定部間に繊維から形成される帯部を有して形成される架け渡し部材と、構造材Aに接する側面A、構造材Bに接する側面B及び前記架け渡し部材に接する側面Cとを有して形成される合成樹脂発泡体部材とを備えることを特徴とする建築物又は建造物の補強部材。
【請求項2】
少なくとも前記帯部と前記合成樹脂発泡体部材とが接する部分において、前記合成樹脂発泡体部材の側面Cが、側面Aと側面Bとにより形成された角とは反対の方向に凸状に湾曲して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の建築物又は建造物の補強部材。
【請求項3】
上記側面Cの凸状に湾曲して形成されている部分が、半径100cm以上2000cm以下で描かれる弧であることを特徴とする請求項2に記載の建築物又は建造物の補強部材。
【請求項4】
前記合成樹脂発泡体部材の側面Aと側面Bとから形成される角が、建築物又は建造物の設計時における構造材Aと構造材Bとから形成される仕口の角度と等しい角度で形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の建築物又は建造物の補強部材。
【請求項5】
前記帯部の引張強度が、980N以上49kN以下であり、且つ伸び率が3%以上20%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の建築物又は建造物の補強部材。
【請求項6】
建築物又は建造物における仕口を形成する構造材A及び構造材B間に補強部材を固定してなる補強構造であって、前記補強部材が、両端に構造材に対する固定部を有し且つ前記固定部間に繊維から形成される帯部を有して形成される架け渡し部材と、構造材Aに接する側面A、構造材Bに接する側面B及び前記架け渡し部材に接する側面Cとを有して形成される合成樹脂発泡体部材とを備えており、構造材A及び構造材B間に上記合成樹脂発泡体部材との間が隙間のない状態で設置されており且つ上記合成樹脂発泡体部材の側面Cと上記架け渡し部材とが接した状態で、前記固定部を介して前記架け渡し部材が構造材A及び構造材Bに固定されることにより形成されることを特徴とする建築物又は建造物の補強構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−169921(P2006−169921A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367765(P2004−367765)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(396002851)中村物産有限会社 (22)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】