説明

建設機械のキャブ支持構造

【課題】キャブの支持構造を、安価かつ簡単な構成とし、しかも組立作業性を良好にする。
【解決手段】このキャブ支持構造は、マウント部材32と、後ストッパ機構34と、を備えている。後ストッパ機構34は、マウント部材32とは別に設けられている。後ストッパ機構34は、連結部材60と、支持部材61と、ピン63と、を有する。連結部材60は、フロアパネルの下面にキャブの左右幅内において左右方向に延びて配置され、左右方向に離れた位置に前後方向に貫通する貫通孔を有する。前記支持部材61は、車体フレームに設けられ、貫通孔と同位置に同方向に貫通する孔を有する。ピン63は支持部材61と連結部材60の貫通孔を貫通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ等の建設機械のキャブ支持構造、特に、フロアパネル及び複数のピラーを有するキャブを、車体フレームの上部に支持するための建設機械のキャブ支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルやホイールローダ、ブルドーザ等のような建設機械には、下部走行体上に運転室としてのキャブが支持されている。このキャブは、床面を構成するフロアパネルと、フロアパネルの四隅に設けられたピラーと、を有している。そして、キャブは防振機能を有する複数のマウント部材を介して下部走行体の車体フレームに支持されている。
【0003】
近年、建設機械に搭載されるキャブとして、建設機械の転倒時におけるオペレータの安全性を確保するためのROPS(Rollover Protective Structure)構造を採用したキャブが用いられている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方で、建設機械の転倒時等において、キャブが車体フレームから離れてしまうのを防止するために、あるいはキャブが車体フレームから離れる方向に移動するのを規制するために、ストッパ機構が設けられている。例えば特許文献1に示されたキャブ構造では、ストッパ機構はマウント部材の内部に組み込まれている。
【0005】
しかし、マウント部材の内部にストッパ機構を組み込むと、製造費が高くなるという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献2には、マウント部材とは別にストッパ機構を設けたキャブ構造が示されている。この特許文献2では、フロアパネル下面に設けられた床フレームに、ストッパとしてのプレート部材をボルトとともに固定し、車体フレーム側にストッパに係止する支持枠を設けている。また、特許文献2には、別の例として、車体フレームに1対の支持片を設けるとともに、キャブにブロック体を設け、これらに形成された孔に軸部材を貫通させたストッパ機構も示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−162278号公報
【特許文献2】特開2004−189089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マウント部材とは別に設けられた従来のストッパ機構は、フロアパネル下面に設けられた床フレームに設けられている。そして、床フレームと、その下方の車体フレームとの間のスペースは狭いので、組立作業性を考慮して、ストッパ機構は、マウント部材の外側で、車体フレームのさらに外側に配置されている場合が多い。
【0009】
しかし、小型の建設機械では、車体フレームの左右の幅が比較的狭く、かつキャブ後部の側方にはリアタイヤが設けられているので、特にキャブの後部においては、従来のストッパ機構をそのまま採用することはできない。すなわち、車両の左右幅方向においてマウント部材の外側に配置することが困難である。
【0010】
また、特許文献2では、後部のマウント部材の後方に、マウント部材と前後方向に並べてストッパ機構が配置されている。しかし、このような配置では、後部のマウント部材が前方に配置されるので、前部のマウント部材と後部のマウント部材との間のピッチが狭くなり、特に小型の建設機械の場合、乗り心地が悪くなってしまう。
【0011】
さらに、前後のマウント部材のピッチを十分にとるために、後部のマウント部材をキャブの後端部に配置し、この後部のマウント部材の後方にストッパ機構を配置することが考えられる。しかし、キャブの後方には、一般的に作動油タンクが配置されているために、後部のマウント部材をキャブの後端部に配置し、かつストッパ機構をその後方に配置することはできない。
【0012】
そこで、小型の建設機械では、後部のストッパ機構はマウント部材の前方に配置せざるを得ない場合が多い。しかし、フロアパネルにおいて、マウント部材の前方部分は特に強度が高いわけではない。このため、後部のストッパ機構をマウント部材の前方に配置するためには、フロアパネルの一部又は全体を高い強度にする必要があり、フロアパネルの重量が重くなるだけでなく、コスト高を招くことになる。
【0013】
本発明の課題は、安価かつ簡単な構成で、しかも組立作業性の良いストッパ機構を有するキャブの支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明に係る建設機械のキャブ支持構造は、フロアパネル及び複数のピラーを有するキャブを、車体フレームの上部に支持するためのものであり、複数のマウント部材と、ストッパ機構と、を備えている。複数のマウント部材は、キャブと車体フレームとの間に配置され、キャブを車体フレームに対して弾性的に支持する。ストッパ機構は、複数のマウント部材とは別に設けられ、キャブが車体フレームから離れる方向に移動するのを規制する。
【0015】
そして、ストッパ機構は、連結部材と、1対の支持部材と、1対のピンと、を有する。連結部材は、フロアパネルの下面にキャブの左右幅内において左右方向に延びて配置され、左右方向に離れた位置に前後方向に貫通する1対の貫通孔を有する。1対の支持部材は、車体フレームに設けられ、それぞれ1対の貫通孔と同位置に同方向に貫通する孔を有する。1対のピンは1対の支持部材と連結部材の貫通孔を貫通している。
【0016】
ここでは、フロアパネルの下面に左右方向に延びる連結部材が設けられており、この連結部材がストッパ機構の一部材として機能している。すなわち、左右方向に延びる連結部材が、車体フレーム側に設けられた1対の支持部材にピンによって連結されている。このため、連結部材が従来構造におけるフロアパネル下面のフレームと同様の機能を有し、かつ連結部材を利用してストッパ機構が構成されているので、フロアパネル自体の構成を変更せずに、簡単な構成で、かつ強度を維持しつつストッパ機構を設けることができる。また、連結部材によって強度を確保できるので、ストッパ機構の配置の自由度が高まる。したがって、例えば、キャブ後部において、マウント部材の前方にストッパ機構を配置できる。このような配置によれば、前部のマウント部材と後部のマウント部材との間のピッチを広くすることができ、乗り心地が悪くなるのを防止できる。
【0017】
第2発明に係る建設機械のキャブ支持構造は、第1発明のキャブ支持構造において、複数のピラーは、フロアパネルの四隅に設けられたそれぞれ1対の前ピラー及び後ピラーを有し、連結部材は、左右の両端部が前ピラー及び後ピラーの少なくとも一方の下端部に連結されている。
【0018】
ここでは、連結部材の左右両端部が前ピラー及び/又は後ピラーの下端部に連結されているので、建設機械が転倒した際にキャブが受ける負荷を車体フレームに効率よく伝達することが可能になり、ストッパ機構及びキャブ全体の強度をより高くすることができる。
【0019】
第3発明に係る建設機械のキャブ支持構造は、第2発明のキャブ支持構造において、1対の後ピラーのそれぞれは、下端部に前方向に延びる補強部材を有しており、連結部材は、1対の後ピラーより前方に偏倚して配置されており、連結部材の左右両端部は1対の補強部材に連結されている。
【0020】
ここでは、後ピラーは、下端部に前方に延びる補強部材を有しているので、連結部材、すなわちストッパ機構を前方に配置することが容易になる。このため、後部のマウント部材とストッパ機構の配置の自由度が上がる。
【0021】
第4発明に係る建設機械のキャブ支持構造は、第1発明のキャブ支持構造において、複数のマウント部材は、1対の前マウント部材と、前マウント部材より後方でフロアパネルの後端部に配置された1対の後マウント部材と、を有している。そして、ストッパ機構は1対の後マウント部材の前方に後マウント部材に近接して配置されている。
【0022】
ここでは、後マウント部材がストッパ機構より後方に配置されているので、前マウント部材と後マウント部材との間のピッチを広くすることができ、乗り心地が悪くなるのを防止できる。また、後マウント部材は、一般的に後ピラーの下方に配置されるので、ストッパ機構を後マウント部材に近接して配置することによって、後ピラーに作用した外力をストッパ機構を経由して車体フレームに効率よく伝達することができる。
【0023】
第5発明に係る建設機械のキャブ支持構造は、第1発明のキャブ支持構造において、連結部材は、左右両端部をつなぐ連結部が左右両端部に比較して上下方向に幅が小さい板状部材である。この場合は、連結部材の強度を損なうことなく、連結部材の軽量化を図ることができる。
【0024】
第6発明に係る建設機械のキャブ支持構造は、第1発明のキャブ支持構造において、建設機械は複数組の車輪を有し、ストッパ機構は、複数組の車輪のうちの1つと前後方向において側面視で重なる位置に配置されている。
【0025】
ここでは、第1発明のストッパ機構が、例えば後輪と前後方向において側面視で重なる位置に配置されている。すなわち、ストッパ機構は、リアタイヤの前端と後端を上方に延ばした前後の延長線の挟まれた位置に配置されている。この場合は、後輪があるためにストッパ機構を車体フレームの左右の外側に配置することができない。そこで、ストッパ機構は車体フレームの左右幅内に、すなわち、フロアパネルと車体フレームとの間の狭いスペースに配置せざるを得ない。
【0026】
しかし、本発明では、連結部材と支持部材の貫通孔にピンを差し込むだけで、ストッパ機構を組み立てることができる。したがって、ストッパ機構の組立作業性が損なわれることはない。
【発明の効果】
【0027】
以上のような本発明では、キャブ支持構造におけるストッパ機構を、安価かつ簡単な構成で実現できる。また、組立作業性の良いストッパ機構を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るホイールローダの構成を示す外観図。
【図2】ホイールローダに搭載されたキャブの外観斜視図。
【図3】前記キャブの側面図。
【図4】前記キャブの底面図。
【図5】前記キャブの前部のマウント構造を示す図4のV-V線断面図。
【図6】前記キャブの後部のマウント構造を示す図4のVI-VI線断面図。
【図7】前記キャブの正面図。
【図8】前ストッパ機構の構成を示す図4のVIII-VIII線拡大断面図。
【図9】前記キャブの正面断面図。
【図10】後ストッパ機構の構成を示す図4のX-X線拡大断面図。
【図11】後ストッパ機構の連結部材の正面図。
【図12】キャブ後部の支持構造とリアタイヤとの関係を示す側面図。
【図13】キャブ後部の支持構造とリアタイヤとの関係を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態によるキャブ支持構造が採用された建設機械としてのホイールローダ10を図1に示す。なお、以下の説明で用いる「前」、「後」、「左」、「右」については、ホイールローダ10の前進側を「前」、後進側を「後」、前進側を向いたときの右側を「右」、その反対側を「左」とするものである。
【0030】
[ホイールローダの全体構成]
ホイールローダ10は、車体11と、車体11の前部に装着されたリフトアーム12と、リフトアーム12の先端に取り付けられたバケット13と、車体11を支持しながら回転して車体を走行させる前後のタイヤ14と、車体11の上部に搭載されたキャブ20と、を備えている。
【0031】
車体11は、エンジン(図示せず)を収納するエンジンルーム16と、作動油を収納する作動油タンク15と、リフトアーム12及びバケット13を駆動するための駆動部と、を有している。
【0032】
リフトアーム12は、先端に取り付けられたバケット13を持ち上げるためのアーム部材であって、併設されたリフトシリンダによって駆動される。
【0033】
バケット13は、リフトアーム12の先端に取り付けられており、バケットシリンダによってダンプ及びチルトされる。
【0034】
作動油タンク15は、キャブ20の後方であって、エンジンルーム16とキャブ20の間に載置されており、リフトシリンダやバケットシリンダに供給される作動油を収納する。
【0035】
[キャブの構造]
キャブ20は、転倒時運転者保護構造(ROPS構造)を有し、複数の鋼管と鋼板とにより、オペレータ用の運転室を形成している。そして、キャブ20は、車体11の中央部分よりもやや前方に配置されている。
【0036】
具体的には、キャブ20は、図2に示すように、フロアパネル21と、フロアパネル21から上方に延びる複数のピラー22と、ピラー22の上部に設けられた天板23と、を有している。なお、図2では省略しているが、このキャブ20には、ピラー間に壁面パネルが設けられ、また左右側方には乗降用のドアが設けられている。そして、このキャブ20内の空間には、図示は省略しているが、オペレータシート、ステアリング、操作用のレバー等が設けられたコンソールボックス等が配置されている。
【0037】
複数のピラー22は、前方側の左右の隅に配置された1対の前ピラー24と、後方側の左右の隅に配置された1対の後ピラー25と、前後のピラー24,25間に配置された1対の中間ピラー26と、を有している。なお、1対の後ピラー25のそれぞれは、ピラー本体25aと、ピラー本体25aの下端部に固定された三角形状の補強部材25b(図3参照)と、を有している。補強部材25bの底辺部はフロアパネル21上において、ピラー本体25aの下端から前方側に延びている。
【0038】
[キャブの支持構造]
キャブ20は、図3以降に示す支持構造によって、車体11のベースとなる車体フレーム30の上面に弾性的に支持されている。この支持構造は、それぞれ1対の前マウント部材31及び後マウント部材32と、前ストッパ機構33と、後ストッパ機構34と、を備えている。
【0039】
<前後のマウント部材>
1対の前マウント部材31は、図3及び図4から明らかなように、フロアパネル21の下面前部の左右両側部に配置されている。なお、図3はキャブ20の側面図、図4はキャブ20の底面図である。図4及び図4のV-V線断面である図5に示すように、フロアパネル21の下面の前部には、左右方向に延びて設けられた前フレーム36が固定されている。そして、1対の前マウント部材31は、前フレーム36のさらに前方に、前フレーム36に近接して配置されている。なお、前フレーム36の両端部は1対の前ピラー24の下端部に連結されている。
【0040】
図5に示すように、フロアパネル21の下面において、前フレーム36の前方に、上方に開く断面C字形状の1対の前マウント装着部材40が固定されている。前マウント装着部材40の下辺部40aは、フロアパネル21の下面から所定距離離れており、この下辺部40aに孔40bが形成されている。前マウント部材31は、ケース内部に弾性材料を収納する本体38と、本体38の中央上部から上方に延びるボルト39(スタッドボルト)と、を有している。そして、ボルト39を前マウント装着部材40の下方から孔40bに挿入し、上からナット41を装着することで、前マウント装着部材40に前マウント部材31が固定されている。
【0041】
一方、車体フレーム30側には、前支持部材44が設けられている。この前支持部材44には、前マウント部材31の本体38が挿入可能な孔44aが形成されている。そして、前マウント部材31を前支持部材44の孔44aに挿入し、かつ前マウント部材31の本体38の上部に形成されたつば部38aを前支持部材44で受けることによって、キャブ20の前部が車体フレーム30に弾性的に支持されている。
【0042】
1対の後マウント部材32は、フロアパネル21の下面後方の左右両側部に配置されている。すなわち、図4に示すように、フロアパネル21の下面の後端部には、左右方向に延びて設けられた後フレーム46が固定されている。そして、この後フレーム46の前方に、後フレーム46に近接して1対の後マウント部材32が配置されている。なお、後フレーム46の両端部は1対の後ピラー25の下端部に連結されている。
【0043】
後マウント部材32の構成は、前マウント部材31と同様であり、図4のVI-VI線断面である図6に示すように、ケース内部に弾性材料を収納する本体48と、本体48の中央上部から上方に延びるボルト49と、を有している。また、後マウント部材32の支持構造についても、前マウント部材31の支持構造と基本的に同様である。すなわち、フロアパネル21の下面には1対の後マウント装着部材50が固定されている。そして、後マウント装着部材50の下辺部50aに、後マウント部材32のボルト49が挿入される孔50bが形成されている。そして、ボルト49を後マウント装着部材50の下方から孔50bに挿入し、上からナット51を装着することで、後マウント装着部材50に後マウント部材32が固定されている。
【0044】
また、車体フレーム30側には、後支持部材52が設けられ、この後支持部材52に、後マウント部材32の本体48が挿入可能な孔52aが形成されている。そして、後マウント部材32を後支持部材52の孔52aに挿入し、かつ後マウント部材32の本体48の上部に形成されたつば部48aを後支持部材52で受けることによって、キャブ20の後部が車体フレーム30に弾性的に支持されている。
【0045】
<ストッパ機構>
前後のストッパ機構33,34は、図4に示すように、フロアパネル21の下面の前部及び後部に配置されている。各ストッパ機構33,34は、各マウント部材31,32とは別に、かつ各マウント部材31,32に近接して配置されており、キャブ20が車体フレーム30から離れる方向に移動するのを規制する機構である。
【0046】
−−前ストッパ機構−−
前ストッパ機構33は、第1前ストッパ機構33aと、第2前ストッパ機構33bと、を有している。これらの前ストッパ機構33a,33bは、図4及び図7に示すように、前マウント部材31の左右幅方向の外側に、前マウント部材31に近接して配置されている。また、両ストッパ機構33a,33bは、それぞれ車体フレーム30の左右端部よりさらに外側に張り出した位置に配置されている。なお、図7はキャブ20及びその支持構造を前方から視た正面図である。
【0047】
一方の前ストッパ機構33bの詳細を図4のVIII-VIII線断面である図8に示す。なお、図8では右側(図7では左側に示されている)の前ストッパ機構33bを示しているが、逆側の前ストッパ機構33aも全く同様の構成である。前ストッパ機構33bは、円筒状のピン55と、ボルト56と、規制部材57と、車体フレーム30側に設けられたストッパ用前支持部材58と、有している。
【0048】
ピン55は、下端から上方にかけてネジ穴55bが形成されている。そして、ピン55の外周上部55aが前マウント装着部材40に溶接されることにより、ピン55は前マウント装着部材40、ひいてはキャブ20に移動不能に固定されている。ボルト56はピン55のネジ穴55bに螺合され、その頭部とピン55の下端面との間に規制部材57が挿入されている。ストッパ用前支持部材58には、ピン55が貫通する孔58aが形成されている。この貫通孔58aの径は、規制部材57の径より小さい。ピン55の外径は、ストッパ用前支持部材58の貫通孔58aの径より小さく、両者の間には所定の隙間が形成されている。そして、規制部材57の上面とストッパ用前支持部材58の下面との間には所定の隙間が設けられている。
【0049】
以上のような構成により、キャブ20の前部においては、規制部材57とストッパ用前支持部材58との間に形成された隙間の分だけキャブ20の上方への移動が許容され、それ以上の移動は規制される。また、ストッパ用前支持部材58の貫通孔58aとピン55との間に形成された隙間の分だけキャブ20の左右への移動が許容され、それ以上の移動は規制される。
【0050】
−−後ストッパ機構−−
後ストッパ機構34は、図4に示すように、1対の後マウント部材32のそれぞれの前方に、後マウント部材32に近接して配置されている。また、後ストッパ機構34は、図9に示すように、車体フレーム30の左右幅内に配置されている。なお、図9はキャブ20の前後方向の中間部で断面し、後方を見た図である。
【0051】
この後ストッパ機構34は主に、連結部材60と、車体フレーム側に設けられた左右のストッパ用後支持部材61,62と、1対のピン63と、を有している。
【0052】
連結部材60は、図11に示すように、左右幅方向に延びるプレート状の部材であり、左右両端部に形成された1対の固定部60aと、各固定部60aの内側に形成された1対の係合部60bと、1対の係合部60bを結ぶ連結部60cと、を有している。左右の固定部60aは対応する左右の補強部材25bの前端部に、すなわち左右の後ピラー25に連結されている。また、1対の係合部60bのそれぞれは、下方に突出して形成されており、前後方向に貫通する貫通孔60dを有している。そして、各係合部60bは、車体フレーム30の左右幅内で、左右方向の中央部から互いに左右方向に離れた位置で、固定部60aの内側に配置されている。連結部60cは、図9及び図11から明らかなように、上面はフロアパネル21の下面に沿って直線状に形成されているが、下面は上方に窪む円弧状に形成されている。したがって、連結部60cは中央に行くにしたがって、上下方向の幅が狭くなっており、軽量化が図られている。
【0053】
一方のストッパ用後支持部材61は、図4のX-X線断面である図10に示すように、それぞれ1対のプレート部材61a,61bから構成され、連結部材60の係合部60bを前後から挟むように配置されている。連結部材60の係合部60bとプレート部材61a及び61bとの間には所定の隙間が設けられている。また、ストッパ用後支持部材61には、連結部材60の係合部60bに形成された貫通孔60dと同位置でかつ同方向に、貫通孔61c,61dが形成されている。
【0054】
ピン63は、ストッパ用後支持部材61の貫通孔61c,61dと連結部材60の係合部60bに形成された貫通孔60dに挿入されている。ピン63の外径は、連結部材60の係合部60bの貫通孔60dの内径より小さく、両者の間には所定の隙間が形成されている。なお、ストッパ用後支持部材61の前面には固定プレート66がボルトにより装着されており、この固定プレート66によってピン63の軸方向の移動が禁止されている。
【0055】
なお、他方のストッパ用後支持部材62側についても、全く同様の構成である。
【0056】
以上のような構成により、キャブ20の後部においては、連結部材60の係合部60bの貫通孔60dとピン63との間に形成された隙間の分だけキャブ20の上方への移動が許容され、それ以上の移動は規制される。また、連結部材60の係合部60bとプレート部材61a及び61bとの間に形成された隙間の分だけキャブ20の左右への移動が許容され、それ以上の移動は規制される。
【0057】
[キャブの装着]
キャブ20を車体フレーム30に装着する作業について簡単に説明する。ここで、キャブ20を車体フレーム30に装着する前行程として、車体フレーム30には各機器が搭載され、またキャブ20が搭載される部分の後方部分に作動油タンク15等の機器が取り付けられる。
【0058】
以上のような状態で、車体フレーム30にキャブ20が取り付けられる。このとき、図12に示すように、キャブ後部の後ストッパ機構34はリアタイヤ70と前後方向において重なっている。すなわち、後ストッパ機構34はリアタイヤ70の前端と後端を上方に延ばした前後の延長線の挟まれた位置に配置されている。そこで、図13に示すように、仮に後ストッパ機構34が車体フレーム30の外側にまで張り出すように設けられているとすると、リアタイヤ70及びそれに関連する部品との干渉のおそれがある。特に、リアタイヤ70が図13の二点差線で示すようにオシレートするとさらに干渉しやすい。また、後方は作動油タンク等が配置されているために、後ストッパ機構34を後方に配置することもできない。
【0059】
このため、本実施形態では、後ストッパ機構34は車体フレーム30の左右幅内で後マウント部材32の前方に配置されている。一方、特に小型の車両においては、フロアパネル21と車体フレーム30との間に十分なスペースがない場合が多い。したがって狭いスペースで後ストッパ機構34の組立を行わなければならない。このような状況で、仮にピン63を上下方向に挿入するようなストッパ機構を採用すると、組立作業性が悪くなる。
【0060】
そこで、本実施形態では、後ストッパ機構34については、ピン63を前後方向から挿入して組み立てることができるように構成している。このため、後ストッパ機構34をフロアパネル21と車体フレーム30との間に配置しても、組立作業性が良好になる。
【0061】
なお、前ストッパ機構33が配置されている領域は、他の構成部材とは干渉しておらず、開放されている。このため、前ストッパ機構33については、車体フレーム30の左右幅からさらに外側の部分に配置している。したがって、縦方向にボルトを組み付けるような従来の機構であっても、組立作業性が損なわれることはない。
【0062】
[特徴]
(1)フロアパネル21の下面に左右方向に延びる連結部材60が設けられ、この連結部材60が後ストッパ機構34の一部材として機能している。このため、後ストッパ機構34が取り付けられる部分の強度を高くできるとともに、後ストッパ機構34の構成が簡単になる。また、後ストッパ機構34が配置される部分の強度が高くなるので、後ストッパ機構34の配置の自由度が高くなる。
【0063】
(2)後マウント部材32をキャブ20の後端部に配置でき、前マウント部材31と後マウント部材32との間のピッチが広くなる。このため、乗り心地が悪くなるのを防止できる。
【0064】
(3)後ストッパ機構34は、ピン63を前後方向から挿入して組み立てることができる。したがって、小型車両のような、フロアパネル21と車体フレーム30との間のスペースが狭い領域に後ストッパ機構を配置しても、組立作業性が損なわれることはない。これにより、後ストッパ機構の配置の自由度がさらに高くなる。
【0065】
(4)連結部材60の左右両端部が、後ピラー25の下端部に連結されているので、キャブ幅より狭い車体フレーム30の幅内に後ストッパ機構を配置しても、建設機械が転倒した際にキャブが受ける負荷を車体フレームに効率よく伝達することが可能になり、キャブ全体の強度を十分に保つことができる。
【0066】
(5)連結部材60の連結部60cは、中央に行くにしたがって上下方向の幅が狭くなっている。このため、連結部材60の強度を維持しつつ、連結部材60の軽量化を図ることができる。
【0067】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0068】
(a)前記実施形態では、連結部材、支持部材、及びピンからなるストッパ機構を、キャブ後部についてのみ適用したが、キャブ前部のストッパ機構にも同様の機構を適用しても良い。
【0069】
(b)ここでは、連結部材がフロアパネルの強度部材としても機能しているので、キャブの下面に設けられた後部のフレームを省略しても良い。
【0070】
(c)前記実施形態では、本発明をホイールローダのキャブ支持構造に適用したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ホイールローダ以外にも、ブルドーザや油圧ショベル等のような他の建設機械のキャブ支持構造に対して本発明を適用することもできる。
【0071】
(d)前記実施形態では、前ストッパ機構において、ピンと前マウント装着部材は溶接によって固定するようにしたが、ボルトにより固定しても良い。
【符号の説明】
【0072】
10 ホイールローダ
20 キャブ
21 フロアパネル
24 前ピラー
25 後ピラー
30 車体フレーム
31 前マウント部材
32 後マウント部材
33 前ストッパ機構
34 後ストッパ機構
60 連結部材
61,62 ストッパ用後支持部材
63 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネル及び複数のピラーを有するキャブを、車体フレームの上部に支持するための建設機械のキャブ支持構造であって、
前記キャブと前記車体フレームとの間に配置され、前記キャブを前記車体フレームに対して弾性的に支持する複数のマウント部材と、
前記複数のマウント部材とは別に設けられ、前記キャブが前記車体フレームから離れる方向に移動するのを規制するためのストッパ機構と、を備え、
前記ストッパ機構は、
前記フロアパネルの下面に前記キャブの左右幅内において左右方向に延びて配置され、左右方向に離れた位置に前後方向に貫通する1対の貫通孔を有する連結部材と、
前記車体フレームに設けられ、それぞれ前記1対の貫通孔と同位置に同方向に貫通する孔を有する1対の支持部材と、
前記1対の支持部材と前記連結部材の貫通孔を貫通する1対のピンと、
を有する、
建設機械のキャブ支持構造。
【請求項2】
前記複数のピラーは、前記フロアパネルの四隅に設けられたそれぞれ1対の前ピラー及び後ピラーを有し、
前記連結部材は、左右の両端部が前記前ピラー及び後ピラーの少なくとも一方の下端部に連結されている、請求項1に記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項3】
前記1対の後ピラーのそれぞれは、下端部に前方向に延びる補強部材を有しており、
前記連結部材は、前記1対の後ピラーより前方に偏倚して配置されており、前記連結部材の左右両端部は前記1対の補強部材に連結されている、
請求項2に記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項4】
前記複数のマウント部材は、1対の前マウント部材と、前記前マウント部材より後方で前記フロアパネルの後端部に配置された1対の後マウント部材と、を有し、
前記ストッパ機構は前記1対の後マウント部材の前方に前記後マウント部材に近接して配置されている、
請求項1に記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項5】
前記連結部材は、左右両端部をつなぐ連結部が左右両端部に比較して上下方向に幅が小さい板状部材である、請求項1に記載の建設機械のキャブ支持構造。
【請求項6】
前記建設機械は複数組の車輪を有し、
前記ストッパ機構は、前記複数組の車輪のうちの1つと前後方向において側面視で重なる位置に配置されている、
請求項1に記載の建設機械のキャブ支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−63185(P2011−63185A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217371(P2009−217371)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】