説明

建設機械の冷却装置

【課題】エンジン冷却用のファンがエンジン停止後も継続して回転している時間を短縮させ、エンジン停止後に於ける冷却ファン単体による回転音の周囲に及ぼす影響を少なくする。
【解決手段】エンジン21が停止すると、慣性で回転している油圧モータ24の内部を流れている作動油の量を、モータ速度制御手段32を介して強制的に調節し、この調節で油圧モータ24の回転にブレーキを付与し、エンジン21の停止から油圧モータ24が停止するまでの時間、すなわちエンジン21の停止から冷却ファン33が停止するまでの時間を短縮するようにした建設機械の冷却装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベル等の建設機械の冷却装置に関するものであり、特に、エンジン冷却用のファンがエンジンの停止後も継続して回転している時間を短縮させ、エンジン停止後に於ける冷却ファン単体による回転音の周囲に及ぼす影響を少なくすることができるようにした建設機械の冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベル等の建設機械では、エンジンを冷却する方法として、エンジンの動力を駆動源として回転する油圧モータにより冷却ファンを一方向に回転させ、この冷却ファンの回転によって起こされる風をエンジンやラジエータに吹き付けて冷却するようにした構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
又、冷却ファンを一方向に回転させている冷却構造では、風を送る方向が一方向であることから、枯葉やゴミ等が冷却風と共にラジエータ等に送り込まれ、目詰まりを起こす場合もある。そこで、この冷却ファンの回転方向を正逆2方向に切り換えできるようにし、冷却ファンの反転で逆風を起こさせ、この逆風でラジエータ等に詰まったゴミを吸い出して排出させるようにした冷却構造も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−158917号公報。
【特許文献2】特開平10−68142号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,特許文献2に記載の何れの発明も、冷却ファンはエンジンに直結した構造ではないため、エンジンの停止後も慣性でファン自体が回転する。この冷却ファンの回転は、エンジンが停止し、エンジン騒音が無くなった状態で行われているので、周囲の人にはその回転音が大きく聞こえ、耳障りになっている問題があった。
【0005】
そこで、エンジン冷却用のファンがエンジン停止後も継続して回転している時間を短縮させ、エンジン停止後に於ける冷却ファン単体による回転音の周囲に及ぼす影響を少なくするために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、エンジンと、該エンジンにより回転される油圧ポンプと、該油圧ポンプから供給される作動油の流れを駆動源として回転駆動する油圧モータと、該油圧モータの回転軸と一体に回転してエンジン冷却用の風を起こす冷却ファンと、前記油圧モータ内を流れる前記作動油の量を調節して前記モータの回転速度を制御するモータ速度制御手段と、前記エンジンの停止動作を検出して前記モータ速度制御手段を制御し、前記モータの回転を低速調整する制御手段とを備えた建設機械の冷却装置を提供する。
【0007】
この構成によれば、エンジンが停止すると、制御手段は、エンジンからの駆動力が無くなり慣性で回転している油圧モータの内部を流れる作動油の量をモータ速度制御手段を介して強制的に調節し、油圧モータの回転にブレーキをかけて急速に停止させる。従って、エンジンの停止から油圧モータが停止するまでの時間、すなわちエンジンの停止から冷却ファンが停止するまでの時間を短縮できる。
【0008】
請求項2記載の発明は、エンジンと、該エンジンにより回転される油圧ポンプと、該油圧ポンプから供給される作動油の流れを駆動源として回転駆動する油圧モータと、該油圧モータの回転軸と一体に回転してエンジン冷却用の風を起こす冷却ファンと、前記作動油が流れる向きを正方向から負方向に切り換えて前記油圧モータの回転を逆転させるコントロールバルブと、前記エンジンの停止動作を検出して前記コントロールバルブを制御し、前記モータに反転力を付与する制御手段とを備えた建設機械の冷却装置を提供する。
【0009】
この構成によれば、エンジンが停止すると、制御手段は、エンジンからの駆動力が無くなり慣性で回転している油圧モータ内の作動油の流れをコントロールバルブを介して強制的に反転させて、その反転力で油圧モータの回転にブレーキをかける。従って、このブレーキ力で、エンジンの停止から油圧モータが停止するまでの時間、すなわちエンジンの停止から冷却ファンが停止するまでの時間が短縮できる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び請求項2記載の発明は、エンジンの停止から油圧モータが停止するまでの時間、すなわちエンジンの停止から冷却ファンが停止するまでの時間が短縮するので、エンジン停止後に於ける冷却ファン単体による回転音の影響が少なくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る建設機械の冷却装置について、好適な実施例をあげて説明する。エンジン冷却用のファンがエンジン停止後も継続して回転している時間を短縮させ、エンジン停止後に於ける冷却ファン単体による回転音の周囲に及ぼす影響を少なくするという目的を、エンジンが停止すると、制御手段が、エンジンからの駆動力が無くなり慣性で回転している油圧モータの内部を流れる作動油の量を、モータ速度制御手段を介して強制的に調節し、この調節で油圧モータの回転にブレーキを付与し、エンジンの停止から油圧モータが停止するまでの時間、すなわちエンジンの停止から冷却ファンが停止するまでの時間を短縮するようにして実現した。
【0012】
図1は、本発明に係る建設機械の冷却装置を適用した油圧ショベルを示す。図1に於いて、油圧ショベル10は、下部走行体11と、この下部走行体11上に旋回機構12を介して旋回可能に取れ付けられている上部旋回体13とを備えている。又、上部旋回体13には、その前方一側部に運転室(キャブ)14が設けられていると共に、前方中央部に土砂の掘削、その他の作業を行う作業機構18が設けられている。更に、作業機構18は、バケット17を支持するブーム15及びアーム16と、これらを作動させる各種の油圧シリンダ、リンクロッド等からなるアクチュエータとから構成されている。
【0013】
図2に、本発明に係る建設機械の冷却装置に於ける要部回路構成を示す。図2に於いて、冷却装置19は、油圧ショベル10の上部旋回体13上に搭載されている。冷却装置19には、装置全体の制御を行うプログラムが組み込れているマイクロコンピュータで構成された制御手段としての制御部20と、原動機であるエンジン21と、このエンジン21の駆動を制御するECM(電子制御モジュール)22と、エンジン21を駆動源として駆動される油圧ポンプ23と、この油圧ポンプ23から吐出される圧油(作動油)の流れを駆動源として回転する油圧モータ24と、リレー25等で構成されている。
【0014】
又、制御部20には、スロットルバルブ26、ファンリバーススイッチ27、エンジン21の始動を行うキースイッチ28、モニタ29、リバースセンサ30、コントロールバルブ31のソレノイド31a、モータ速度制御バルブ32のソレノイド32a、リレー25のソレノイド25a等が接続されている。
【0015】
油圧モータ24は出力軸24aを有し、この出力軸24aに冷却ファン33が一体回転可能に取り付けられている。この油圧モータ24と油圧ポンプ23との間には、前記コントロールバルブ31とモータ速度制御バルブ32が配設されている。
【0016】
前記コントロールバルブ31は、制御部20からの信号で駆動されるソレノイド31aの操作により、正転位置Aと逆転位置Bとに切り換えできるようになっている。そして、コントロールバルブ31が、図2中に示す正転位置Aに切り換えられているとき、油圧ポンプ23から吐出された作動油は油圧モータ24内を正方向に流れ、該油圧モータ24が正方向に回転する。反対に、逆転位置Bに切り換えられると、作動油は油圧モータ24内を逆方向に流れ、該油圧モータ24が負方向に回転する。
【0017】
ファンリバーススイッチ27は、油圧モータ24の回転を正方向から負方向に切り換える信号を、外部から制御部20に入力するスイッチである。このファンリバーススイッチ27は、通常、オフ状態に保持されており、オペレータ等によって押下されるとオン状態に切り換わり、押下力が取り除かれると再びオフ状態に自動復帰するモーメンタリー式のスイッチである。従って、該ファンリバーススイッチ27は、エンジン21を再始動させたときには、常にオフの状態にあり、これにより油圧モータ24及び後述する冷却ファン33は常に正方向回転でスタートする設定になっている。
【0018】
モータ速度制御バルブ32は、制御部20からの信号で駆動されるソレノイド32aの操作により、油圧モータ24内を流れる作動油の流量を調節し、油圧モータ24の回転速度及び冷却ファン33の回転速度を制御する。
【0019】
スロットルバルブ26は、制御部20の信号出力に従ってエンジン21の出力を調節する。モニタ29は、冷却装置19の動作状態を外部表示する。
【0020】
リレー25は、ゲートスイッチ35及びレバーロックソレノイド36と共に作業機構操作禁止ロック手段37を構成しているものである。この作業機構操作禁止ロック手段37は、作業機構18の操作が一時的に行えなくなるようにするためのもので、レバーロックソレノイド36に電流が流されているときには作業機構18の操作は自由に行え、レバーロックソレノイド36の電流が断たれると、電流が断たれている間、作業機構18の操作が行えなくなるというように、作業機構18の操作が一時的にロックされる構造になっている。尚、ゲートスイッチ35は、オペレータが作業機構18を操作する操作レバー(不図示)に連動するスイッチであり、操作レバーが操作位置に動かされるとオフからオンに切り換わってレバーロックソレノイド36が通電されて作業可能となり、非操作位置に再び戻されるとオンからオフに切り換わり、レバーロックソレノイド36の通電が断たれて作業禁止になる。
【0021】
(実施例1)
図3は、エンジン21の停止時に、制御部20が油圧モータ24及び冷却ファン33の回転を制御する処理動作の第1の実施例を示すフローチャートである。図3のフローチャートに従って、図2に示した回路構成に於けるエンジン停止処理動作を説明する。まず、キースイッチ28がオフに切り換えられてエンジン21の駆動が停止されると(ステップS1)、エンジン21から油圧ポンプ23に供給されていた駆動力が断たれる。しかし、油圧ポンプ23と油圧モータ24及び冷却ファン33は、駆動力が断たれてもしばらくの間、慣性だけで回転を続けることが可能である。
【0022】
又、制御部20には、キースイッチ28のオフ後も一定の時間は電源の供給が保持されるように電源カット遅延機能が持たされている。そのため、制御部20は、キースイッチ28がオフに切り換えられると、モータ速度制御バルブ32が油圧モータ24内を流れる作動油の量を絞り方向に調節して油圧モータ24及び冷却ファン33の回転速度を低速にするための信号をソレノイド32aに一定の時間出力する(ステップS2)。これによりソレノイド32aはモータ速度制御バルブ32を制御し、この制御でモータ速度制御バルブ32が油圧モータ24内を流れる作動油の量を絞る。尚、ここでのモータ速度制御バルブ32による絞り調節は、油圧モータ24内を流れる作動油をほぼ完全に遮断して該油圧モータ24を完全に停止させることを目的とした信号であってもよい。そして、このモータ速度制御バルブ32による作動油の絞り調節は油圧モータ24にブレーキ力として働き、エンジン21の駆動力を受けていない油圧モータ24は急速に減速し、冷却ファン33と共に急速停止する(ステップS3)。
【0023】
従って、この第1の実施例の場合では、キースイッチ28がオフされ、エンジン21が停止されると、油圧モータ24の回転にブレーキをかけ、エンジン21の停止から油圧モータ24が停止するまでの時間、すなわちエンジン24の停止から冷却ファン33が停止するまでの時間を短縮することができる。これにより、エンジン24の停止後、冷却ファン33の回転音が周囲に及ぼす影響を少なくすることができる。
【0024】
(実施例2)
図4は、エンジン21の停止時に、制御部20が油圧モータ24及び冷却ファン33の回転を制御する処理動作の第2の実施例を示すフローチャートである。図4のフローチャートに従って、図2に示した回路構成に於けるエンジン停止処理動作を説明する。まず、キースイッチ28がオフに切り換えられてエンジン21の駆動が停止されると(ステップS11)、エンジン21から油圧ポンプ23に供給されていた駆動力が断たれ、しばらくの間、油圧ポンプ23と油圧モータ24及び冷却ファン33は慣性だけで回転を続ける。
【0025】
又、制御部20には、キースイッチ28のオフ後も一定の時間は電源の供給が保持されるように電源カット遅延機能が持たされていて、キースイッチ28がオフに切り換えられると、制御部20がソレノイド31aに切り換え信号を出力し、コントロールバルブ31を図2中の正転位置Aから逆転位置B(又は、逆転位置Bから正転位置A)に切り換え、油圧モータ24内を流れる作動油の向きをコントロールバルブ31により反転させる。この作動油の流れの反転切換は、油圧モータ24にブレーキ力として働き、エンジン21の駆動力を受けていない油圧モータ24は、このブレーキ力を受けることによって冷却ファン33と共に急速に停止する。
【0026】
従って、この第2の実施例の場合でも、キースイッチ28がオフされてエンジン21が停止されると、油圧モータ24の回転にブレーキをかけ、エンジン21の停止から油圧モータ24が停止するまでの時間、すなわちエンジン24の停止から冷却ファン33が停止するまでの時間を短縮することができる。これにより、エンジン24の停止後、冷却ファン33の回転音が周囲に及ぼす影響を少なくすることができる。
【0027】
尚、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の冷却装置を適用した油圧ショベルの全体側面図。
【図2】本発明の一実施の形態に於ける冷却装置の要部構成回路図。
【図3】同上実施形態装置でエンジン停止時に制御部が油圧モータの回転を制御する処理ルーチンの第1実施例を示すフローチャート。
【図4】同上実施形態装置でエンジン停止時に制御部が油圧モータの回転を制御する処理ルーチンの第2実施例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0029】
19 冷却装置
20 制御部(制御手段)
21 エンジン
23 油圧ポンプ
24 油圧モータ
31 コントロールバルブ
31a ソレノイド
32 モータ速度制御バルブ
32a ソレノイド
33 冷却ファン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
該エンジンにより回転される油圧ポンプと、
該油圧ポンプから供給される作動油の流れを駆動源として回転駆動する油圧モータと、
該油圧モータの回転軸と一体に回転してエンジン冷却用の風を起こす冷却ファンと、
前記油圧モータ内を流れる前記作動油の量を調節して前記モータの回転速度を制御するモータ速度制御手段と、
前記エンジンの停止動作を検出して前記モータ速度制御手段を制御し、前記モータの回転を低速調整する制御手段、
とを備えたことを特徴とする建設機械の冷却装置。
【請求項2】
エンジンと、
該エンジンにより回転される油圧ポンプと、
該油圧ポンプから供給される作動油の流れを駆動源として回転駆動する油圧モータと、
該油圧モータの回転軸と一体に回転してエンジン冷却用の風を起こす冷却ファンと、
前記作動油が流れる向きを正方向から負方向に切り換えて前記油圧モータの回転を逆転させるコントロールバルブと、
前記エンジンの停止動作を検出して前記コントロールバルブを制御し、前記モータに反転力を付与する制御手段、
とを備えたことを特徴とする建設機械の冷却装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−57348(P2006−57348A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−241108(P2004−241108)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(501132804)住友建機製造株式会社 (271)
【Fターム(参考)】