説明

建設機械の管状構造物の製造方法及び建設機械の管状構造物

【課題】製造作業の作業性を維持しながら、充分な疲労強度及び優れた美観を有する建設機械の管状構造物を製造することができる方法及び疲労強度を充分に確保しながら美観にも優れた建設機械の管状構造物を提供すること。
【解決手段】板材14〜17同士を組み合わせて相互接合する工程と補強板20を板材14、15に連結する工程とを含む組立工程を行なう前に、補強板20と特定の板材14、15との連結箇所について、板材14、15の内側面上に補助板19を配置してこの補助板19の長手方向の両端面と板材14、15の内側面とを跨ぐように前記両端面に沿って隅肉溶接を施す両側溶接工程を行い、補強板連結工程においては、補助板19が設けられた連結箇所について、この補助板19の表面に補強板20の端部を当ててこの端部の片側面と補助板19の表面とを跨ぐように当該端部に沿って隅肉溶接を施すことにより補強板20を板材14〜17に連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の板材を周方向に並べて接合するとともに、これら板材の内側位置で少なくとも二枚の板材に跨って接合された内部補強板を有する建設機械の管状構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の板材を組み合わせて形成された管状構造物においては、その曲げ強度並びに捩り強度を確保すべく、各板材の内側位置に軸線と交差するように内部補強板を設けることが行われている。
【0003】
前記内部補強板としては、例えば、特許文献1に開示されるように、建設機械のブーム(管状構造物)を構成する左右の側板、上板又は下板(板材:以下側板等と称す)に対し隅肉溶接により溶接され、ブームを補強するようにした板が知られている。
【0004】
具体的に、前記板101は、図7の(a)に示すように、その端面101aが側板等102に突き当てられた状態で片側隅肉溶接が施されることにより側板等102の内側面に対し固定されている。
【特許文献1】実開昭61−6552号公報(特に8頁17行目〜9頁8行目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の溶接構造では、矢印Y1に示す応力が側板等102に付与されると、側板等102(溶接部分を含む)の断面積が急激に変化するルート部WP1が最も疲労強度の低い箇所(以下、最弱箇所と称す)となり、このルート部WP1のみに応力が集中するため、側板等102の疲労強度(ルート部WP1の疲労強度)を向上するのに限界があった。なお、図7の(b)に示すように、開先溶接を施した場合においても、同様にルート部WP2が最弱箇所となる。
【0006】
ここで、図7の(c)に示すように、板101の表裏両側で隅肉溶接を施して、最弱箇所を継手品質の高い止端部WP3及び止端部WP4の2ヶ所とすることにより、側板等102の疲労強度を向上させることも考えられるが、板101に対し両側隅肉溶接を施すためにはブーム製造時の作業性の低下を避けることができない。
【0007】
すなわち、前記両側隅肉溶接を施す場合、管状に組み合わされる複数の側板等102のうち少なくとも二枚の側板等102に跨るようにしながら、少なくとも一方の側板等102に対し両側隅肉溶接により板101を接合する必要があるので、次の(1)、(2)に示すような問題があった。
【0008】
(1)各側板等102を組み合わせる前に板101を側板等102に接合する場合
側板等102に対し両側隅肉溶接により板101を接合した上で、この側板等102を、板101の接合対象となる別の側板等102に組合せながら、当該別の側板等102に対し板101を溶接することになるが、この場合には、両側隅肉溶接の作業と複数の側板等102に板101を接合する作業との関係からブームの製造手順が制限されるため、作業性を度外視した製造手順に設定せざるを得ず、作業性を向上するのに限界がある。
【0009】
(2)各側板等102を組み合わせた後に板101を側板等102に接合する場合
管状に組み合わせた側板等102の両開口を通して、その内側位置で板101に両側隅肉溶接を施すことになるため、作業性が悪い。そこで、各側板等102を長手方向に分断して当該各側板等102の両開口から板101までの距離を短くすることにより両側隅肉溶接の作業性を向上することも考えられるが、当該溶接後に各側板102を継ぎ足す作業が別途必要となるので、却って作業性が低下する。
【0010】
なお、これらのような問題を回避しながら側板等102の疲労強度を向上させる手段として、片側隅肉溶接のまま、側板等102全体の肉厚を大きくする(図7の(a)の二点鎖線参照)、又は図7の(d)に示すように側板等102(ブーム)の外側面に補助板103を溶接して側板等102の肉厚を部分的に大きくすることが考えられる。これらの方法によれば、前記肉厚の増加分だけ、板101の溶接箇所における側板等102に生じる応力を低減させることができ、相対的に側板等102の疲労強度(ルート部WP1の疲労強度)を向上させることが可能になる。
【0011】
しかしながら、側板等102全体の肉厚を大きくする方法では、ブームの重量が大幅に増加してしまう。
【0012】
一方、側板等102の外側面に補助板103を溶接する方法では、ブーム重量の大幅な増加を抑制しながらその溶接箇所S1及び溶接箇所S2については側板等102の肉厚を大きくして応力の低減を図ることができるものの、溶接箇所S1とS2との間の範囲については補助板103と側板等102とが完全には一体となっておらず応力の分散を確実に行なうことができないので、側板等102に生じる応力を効果的に低減することができず、側板等102の疲労強度(ルート部WP1の疲労強度)を充分に確保することができない。また、補助板103は、ブームの外側に露出してしまい、その美観を損なう要因ともなる。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、製造作業の作業性を維持しながら、充分な疲労強度及び優れた美観を有する建設機械の管状構造物を製造することができる方法及び疲労強度を充分に確保しながら美観にも優れた建設機械の管状構造物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、特定方向に延びる複数の板材が周方向に並んだ状態で相互接合されることにより全体として前記特定方向を軸方向とする管状に形成され、かつ、これらの板材の内側に内部補強板が設置されてこの内部補強板が前記板材のうちの複数の特定の板材の内側面に連結された建設機械の管状構造物を製造する方法であって、前記板材同士を組み合わせて相互接合する板材接合工程と前記内部補強板を特定の板材に連結する補強板連結工程とを含む組立工程を行なう前に、前記内部補強板と前記特定の板材との連結箇所のうちの少なくとも1箇所について、前記板材の内側面上にこの板材よりも表面積の小さい補助板を配置してこの補助板の前記軸方向の両端面と前記板材の内側面とを跨ぐように前記両端面に沿って隅肉溶接を施す両側溶接工程を行い、前記補強板連結工程においては、前記補助板が設けられた連結箇所について、この補助板の表面に前記内部補強板の端部を当ててこの端部の片側面と前記補助板の表面とを跨ぐように当該端部に沿って隅肉溶接を施すことにより当該内部補強板を前記板材に連結することを特徴とする建設機械の管状構造物の製造方法を提供する。
【0015】
本発明に係る製造方法によれば、各板材を組み合わせる前の段階で補助板の両端面を板材に溶接し、この補助板に対し内部補強板を片側隅肉溶接によって接合することにより、両側隅肉溶接の作業と板材に対する内部補強板の溶接作業とを別々に行うことができるので、片側隅肉溶接により内部補強板を板材に直接溶接する従来技術と同様に、作業手順の制限を設けることなく内部補強板の設置を行うことができる。
【0016】
しかも、両側隅肉溶接によって板材に溶接された補助板に対し内部補強板を溶接するようにしているので、板材と補助板との関係においては最弱箇所を継手品質の高い両側の溶接箇所として疲労強度を向上させることができる一方、補助板と内部補強板との関係においては母材(補助板及び板材)の厚み寸法を、板材に直接溶接する場合よりも補助板の厚み寸法分だけ大きくすることにより当該母材に生じる応力を低減することができる。したがって、片側隅肉溶接により連結を行ないながら十分な強度を確保することができる。
【0017】
なお、板材と補助板とは両側隅肉溶接により接合されているので、これら両溶接箇所については板材からの応力が伝達されるが、これら溶接箇所の間の範囲については補助板と板材とが一体となっておらず板材に付加された応力が完全には伝達されないため、当該補助板と内部補強板との関係においては補助板の疲労強度を相対的に向上させることができるので、この補助板に片側隅肉溶接によって内部補強板を溶接しても当該補助板の疲労強度を充分に確保することができる。
【0018】
したがって、本発明に係る方法で製造された管状構造物は、内部補強板を直接板材に片側隅肉溶接により接合する場合よりも、板材の疲労強度を大きく確保することができるので、板材を溶接する作業性を維持しながら充分な疲労強度を確保することができる。
【0019】
そして、本発明に係る方法では、管状部材の内側面となる板材の表面に補助板を設けるようにしているので、美観に影響を与えることなく管状部材の疲労強度を向上することができる。
【0020】
前記方法には、前記各板材を組み合わせて管状とする前の段階において、前記補助板に施された両溶接部のビードの余盛部を平滑化する平滑化工程が含まれていることが好ましい。
【0021】
この方法によれば、各板材を組み合わせて管状とされる前の段階で、補助板に施された両溶接部のビードに対し表面処理を行うことができるので、補助板が溶接される板材の疲労強度を容易に向上させることができる。
【0022】
すなわち、余盛部を平滑化することによりビードのフランク角を大きくすることができるので、当該ビードにおける応力集中を緩和することにより、板材の疲労強度をさらに向上することができる。
【0023】
本発明は、前記内部補強板の枚数を限定する趣旨ではないが、前記両側溶接工程では、複数の補助板を前記軸方向に並べて溶接し、これら補助板に対し前記補強板連結工程において内部補強板をそれぞれ溶接するとともに前記板材接合工程において各板材を接合することによってこれら内部補強板同士の間に管状構造物の内側空間をその長手方向に区画する室が形成されるようになっており、前記補強板連結工程では、前記室の外側となる各内部補強板の片側面と前記各補助板との間にそれぞれ片側隅肉溶接を施すことにより当該各内部補強板と各補助板とを連結することが好ましい。
【0024】
この方法によれば、複数の内部補強板を管状構造物の長手方向に並べて配設する場合に、当該各内部補強板の溶接作業の作業性を格段に向上することができる。
【0025】
すなわち、板材に複数の内部補強板を両側隅肉溶接によって直接溶接する場合には、各内部補強板の対向する面(室の内側面となる片側面)同士の間のスペースが制限されるため、当該片側面と板材とを溶接するのが困難となるが、前記方法によれば、内部補強板同士の間の狭いスペースでの溶接作業が不要になる、すなわち、補助板について両側隅肉溶接の施工を済ませた上で、室の外側位置から(例えば、管状に形成された各板材の両開口を通して)各内部補強板の片側面と各補助板との間に片側隅肉溶接を施すことにより各補助板に対する各内部補強板の溶接作業を行うことができるので、作業性を向上することができる。
【0026】
前記補助板は少なくとも2枚の板材に連結すればよいが、前記両側溶接工程においては前記内部補強板の溶接対象となる板材のすべてに対し前記補助板をそれぞれ溶接する一方、これら補助板のそれぞれに対し共通の内部補強板を溶接することが好ましい。
【0027】
この方法によれば、補助板の溶接対象となるすべての板材について、疲労強度を向上することができる。
【0028】
また、本発明は、周方向に並べて接合された複数の板材と、これら板材の内側位置で少なくとも2枚の板材に跨って接合された内部補強板とを有する建設機械の管状構造物であって、前記管状構造物の内側面となる前記板材の表面に敷設され、前記内部補強板と板材との間に介在する補助板をさらに備え、この補助板は、前記管状構造物の軸方向の両端面が前記板材の表面との間で当該両端面に沿ってそれぞれ隅肉溶接によって接合されていることを特徴とする建設機械の管状構造物を提供する。
【0029】
本発明に係る管状構造物によれば、両側隅肉溶接によって板材に溶接された補助板に対し内部補強板を溶接するようにしているので、板材と補助板との関係においては板材に付加される応力が両側の溶接箇所に分散して一箇所に集中するのを避けることができる一方、補助板と内部補強板との関係においては母材(補助板及び板材)の厚み寸法を、板材に直接溶接する場合よりも補助板の厚み寸法分だけ大きくすることにより当該母材に生じる応力を低減することができる。
【0030】
ここで、板材と補助板とは両側隅肉溶接により接合されているので、これら両溶接箇所については板材からの応力が伝達されるが、これら溶接箇所の間の範囲については補助板と板材とが一体となっておらず板材に付加された応力が完全には伝達されないため、当該補助板と内部補強板との関係においては補助板の疲労強度を相対的に向上させることができるので、この補助板に片側隅肉溶接によって内部補強板を溶接しても当該補助板の疲労強度を充分に確保することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、製造作業の作業性を維持しながら、充分な疲労強度及び優れた美観を有する建設機械の管状構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0033】
図1は、本発明の実施形態として、本発明に係る管状構造物がブーム本体に用いられた解体機の全体構成を示す側面図である。
【0034】
図1を参照して、建設機械の一例としての解体機1は、クローラ2aを備えた下部走行体2と、この下部走行体2上に旋回自在に搭載される上部旋回体3と、この上部旋回体3の前部に起伏自在に装備されたアタッチメント4とを備えている。
【0035】
アタッチメント4は、ブーム(管状構造物)5と、このブーム5の先端部に連結されるアーム6とから構成されており、そのアーム6の先端部にニブラ7が揺動自在に取り付けられている。
【0036】
図2は、図1のブーム5を示す側面図である。図3は、図2のブーム5の要部を拡大して示す側面断面図である。図4は、図3のIV−IV線断面図である。
【0037】
図1〜図4を参照して、ブーム5は、ブーム本体8と、このブーム本体8の基端部に設けられたボス9と、ブーム本体8の先端部に設けられたブラケット10とを備え、ボス9によりブーム本体8が前記上部旋回体3に起伏自在に支持される一方、ブラケット10によりブーム本体8にアーム6が支持されるようになっている。そして、前記ブーム本体8に、本発明に係る管状構造物が適用されている。
【0038】
このブーム本体8は、ブーム本体8の軸方向に延びる上板14、下板15、右側板16及び左側板17の4枚の板材と、左右側板16、17に掛け渡されたボス18と、前記各板材14〜17の内側に設けられた補助板19及び補強板(内部補強板)20とを備えている。
【0039】
各板材14〜17は、周方向に並べられてその幅方向両端同士が接合されることにより、全体として断面長方形の管状物とされている。
【0040】
また、ブーム本体8には、前記ブラケット10からボス18までの間、及びボス18から前記ボス9までの間に分断位置SC1及び分断位置SC2がそれぞれ設定され、前記板材14〜17は、各分断位置SC1、SC2に対応してそれぞれ分断された小片が継ぎ足されたものである。なお、以下の説明では、ブーム本体8のうち、その先端部から分断位置SC1までの範囲を先端セクション8A、分断位置SC1から分断位置SC2までの範囲を中間セクション8Bと称する。
【0041】
図1及び図2を参照して、下板15には、ブーム本体8の外側へ突出するシリンダブラケット21が形成されている。このシリンダブラケット21は、前記アーム6との間でアーム駆動シリンダ22を保持するようになっており、これにより、アーム6は、アーム駆動シリンダ22の伸縮動作に応じてブーム5に対して揺動自在とされる。
【0042】
ボス18は、図3及び図4に示すように、左右側板16、17にそれぞれ取り付けられた取付部材23と、これら取付部材23を連結する連結部材24とを備えている。
【0043】
取付部材23は、中心に挿通孔23aが形成された筒状本体23bと、この筒状本体23bから径方向外側へ延びるフランジ部23cを備えている。そして、取付部材23は、それぞれ筒状本体23bが左右側板16、17の貫通孔16a、17aにそれぞれ内側から挿入されることによりフランジ部23cが左右側板16、17の内側面に当接した状態で配置され、この状態で、フランジ部23cと左右側板16、17とが溶接されることにより左右側板16、17にそれぞれ固定されている。
【0044】
連結部材24は、フランジ部23cから挿通孔23aと同心に延びる接続筒23d同士を左右に連結する筒状の部材である。具体的に、連結部材24は、その両端部が、左右に対向する各接続筒23dにそれぞれ外嵌された状態で、当該各接続筒23dに溶接されている。
【0045】
そして、ボス18には、図1に示すように、前記挿通孔23a及び連結部材24の内腔を通して軸J1が回転自在に挿入され、この軸J1は、前記上部旋回体3との間でブーム起伏シリンダ27を保持するようになっている。これにより、ブーム本体8は、ブーム起伏シリンダ27の伸縮動作に応じて上部旋回体3に対して起伏自在とされる。
【0046】
再び図3及び図4を参照して、本発明に係る補強板20は、溶接箇所S3〜S6において前記連結部材24の外周面に三枚溶接されており、ボス18(軸J1)に付加される外力によるブーム本体8の変形等を抑制するようになっている。すなわち、ボス18は前記ブーム起伏シリンダ27の伸縮時にその反力を受けるため、当該ボス18が形成された部分においては各板材14〜17に応力(ブーム本体8の長手方向に沿った応力:図5の矢印Y2参照)が生じ易いが、本実施形態では連結部材24と上板14又は下板15及び左右側板16、17とを補強板20によって連結することにより各板材14〜17の疲労強度の向上が図られている。
【0047】
具体的に、補強板20は、連結部材24から上方基端側へ延びる第一補強板20aと、上方先端側へ延びる第二補強板20bと、下方先端側へ延びる第三補強板20cとを備えている。
【0048】
第一補強板20aは、溶接箇所S7において左右側板16、17に対し片側隅肉溶接により接合されている。第二補強板20bは、溶接箇所S8において左右側板16、17に対し溶接されている。第三補強板20cは、溶接箇所S9及びS10において左右側板16、17に対し両側隅肉溶接により接合されている。これにより、補強板20a〜20cの間には、ブーム本体8の内側空間をその長手方向に区画する室30が形成されている。
【0049】
そして、本実施形態では、第一補強板20aと上板14との間、第二補強板20bと上板14との間、及び第三補強板20cと下板15との間に、それぞれ補助板19が設けられている。
【0050】
図5は、図3の第一補強板20aの溶接部分を拡大して示す側面断面図である。なお、以下の説明では、第一補強板20aと上板14との間の補助板19についてのみ説明する。
【0051】
図3〜図5を参照して、補助板19は、短冊状に形成された金属板であり、ブーム本体8の内側面を構成する上板14の表面(下面)に敷設されている。
【0052】
具体的に、補助板19は、上板14の長手方向の両端面(以下、前後両端面と称す)が上板14の表面に対し左右方向に沿った溶接箇所S11及びS12において両側隅肉溶接により接合されている。
【0053】
一方、補助板19の表面(下面)には、前記第一補強板20aの端面が左右方向に沿った溶接箇所S14(第二補強板20bについては溶接箇所S15、第三補強板20cについて溶接箇所S16:図3参照)において片側隅肉溶接により接合されている。
【0054】
したがって、図5の矢印Y2に示す応力(ブーム本体8の長手方向に沿った応力)が上板14に付加されている状態では、上板14と補助板19との関係においては最弱箇所を継手品質の高い溶接箇所S11、S12の2箇所とすることにより疲労強度を向上させることができる一方、補助板19と第一補強板20aとの関係においては母材(補助板19及び上板14)の厚み寸法D1を、上板14に直接溶接する場合よりも補助板19の厚み寸法D2の分だけ大きくすることにより当該母材に生じる応力を低減することができる。
【0055】
ここで、上板14と補助板19とは溶接箇所S11、S12において接合されているので、これら両溶接箇所S11、S12については上板14からの応力が伝達されるが、これら溶接箇所S11、S12の間の範囲E1については補助板19と上板14とが一体となっておらず上板14に付加された応力が完全には伝達されないため、当該補助板19と第一補強板20aとの関係においては補助板19の疲労強度を相対的に向上させることができる。したがって、この補助板19に対し溶接箇所S14において片側隅肉溶接によって第一補強板20aを溶接しても当該補助板19の疲労強度を充分に確保することができる。
【0056】
そして、ブーム本体8の内側面に補助板19を設けるようにしているので、美観に影響を与えることなくブーム本体8の疲労強度を向上することができる。
【0057】
以下、ブーム本体8の中間セクション8B(図2参照)を製造する際の手順について図3〜図5を参照して説明する。
【0058】
まず、各板材14〜17のうち補強板20a〜20cの連結対象となる上板14及び下板15に対し、ブーム5の内側面となる表面のうち補強板20a〜20cの連結対象となる部位を含む範囲に、補助板19をそれぞれ敷設する。
【0059】
次いで、各板材14〜17の長手方向(ブーム本体8の軸方向)における補助板19の両端面(先端側及び基端側の端面)と板材14、15の表面とを跨ぐように、当該両端面に沿って(左右方向に沿って)それぞれ隅肉溶接を施す(両側溶接工程)。
【0060】
このように板材14〜17の組合せに先立って補助板19を溶接することにすれば、上板14及び下板15上に補助板19を敷設し、この補助板19を上から見ながら、溶接箇所S11、S12において補助板19と上板14又は下板15とを容易に両側隅肉溶接によって接合することができる。
【0061】
なお、本実施形態では前記両側溶接工程において、上板14に対し2枚の補助板19を上板14の長手方向に並べて敷設し、これら両補助板19に両側隅肉溶接を施すことになる。
【0062】
次に、前記両溶接箇所S11、S12におけるビードの余盛部を平坦化する(平坦化工程)。これにより、ビードのフランク角θ(図5参照)を大きくすることができるので、当該ビードにおける応力集中を緩和して上板14及び下板15の疲労強度をさらに向上することができる。
【0063】
続いて、左右側板16、17に対しボス18を装着して当該左右側板16、17を左右に連結する。
【0064】
そして、ボス18の連結部材24に対し、溶接箇所S3〜S6において各補強板20a〜20cを溶接するとともに、左右側板16、17に対し、溶接箇所S7〜S10において各補強板20a〜20cを溶接する。なお、この溶接作業時には、前記上板14及び下板15が左右側板16、17に接合されていない、すなわち、左右側板16、17の上下が開放された状態とされているので、前記溶接作業を容易に行うことができる。
【0065】
次いで、左右側板16、17の上下両端面に対し上板14及び下板15を溶接する(板材接合工程)ことにより、これら板材14〜17の間に四角形の閉断面が形成される。
【0066】
この状態においては、各補強板20a〜20cの端部がそれぞれ補助板19の内側面の近傍に臨んで配置されており、次いで、これら各端部を溶接箇所S14〜S16において補助板19に対しそれぞれ溶接する(補強板連結工程)。これにより、各補強板20a〜20cと連結部材24との間に室30(図3参照)が形成される。
【0067】
この作業では、各補強板20a〜20cにより筒状に形成されたブーム本体8の内側の領域で各溶接箇所S14〜S16を接合することになるが、各溶接箇所S14〜S16は室30の外側位置(先端側の溶接箇所S15及び基端側の溶接箇所S14)において片側隅肉溶接により接合することにしているので、ブーム本体8の先端側又は基端側の開口、すなわち、中間セクション8B(図2参照)の先端側又は基端側の開口を通してこの溶接作業を容易に行うことができる。
【0068】
このように、前記製造方法では、各板材14〜17を組み合わせる前の段階で補助板19の両端面を上板14又は下板15に溶接し、この補助板19に対し補強板20を片側隅肉溶接によって接合することにより、両側隅肉溶接(両側溶接工程)の作業と上板14又は下板15に対する補強板20の溶接作業とを別々に行うことができるので、片側隅肉溶接により補強板20を板材14〜17に直接溶接する従来技術と同様に、作業手順の制限を設けることなく補強板20の設置を行うことができる。
【0069】
しかも、両側隅肉溶接によって板材14〜17に溶接された補助板19に対し補強板20を溶接するようにしているので、板材14〜17と補助板19との関係においては板材14〜17に付加される応力が両側の溶接箇所S11、S12に分散して1箇所に集中するのを避けることができる一方、補助板19と補強板20との関係においては母材(補助板19及び板材14〜17)の厚み寸法を、板材14〜17に直接溶接する場合よりも補助板19の厚み寸法D2の分だけ大きくすることにより当該母材に生じる応力を低減することができる。したがって、片側隅肉溶接により連結を行ないながら十分な強度を確保することができる。
【0070】
なお、本実施形態では、上板14又は下板15に対し補助板19を設けるようにしているが、図3に示すように、左右側板16、17に対しても補助板25を設けることができる。このようにすれば、左右側板16、17についても疲労強度を向上することができる。
【0071】
そして、この実施形態の場合にも、各板材14〜17を組み合わせるのに先立って左右側板16、17に対し溶接箇所S17及び溶接箇所S18において両側隅肉溶接を施すことができる。
【0072】
さらに、図6に示すように、各板材14〜17のそれぞれに対し補助板19及び補助板25を設け、これら補助板19の内側面に対し、ブーム本体8の断面形状(略長方形)に対応した形状とされた補強板26の側面を片側隅肉溶接により全周にわたり接合してもよい。
【0073】
つまり、ブーム本体8における先端セクション8Aの製造の際に、各板材14〜17に対し補助板19及び補助板25を敷設し、これら補助板19、25を、上板14及び下板15に対し溶接箇所S11、S12において接合するとともに左右側板16、17に対し溶接箇所S19及び溶接箇所S20において接合する(両側溶接工程)。
【0074】
そして、各板材14〜17のうち何れか3枚(図6では上板14、下板15及び右側板16を組み合わせた状態を示している)をコの字型に組合せて溶接する(板材接合工程)とともに、これら3枚に接合された補助板19、25に対し溶接箇所S21及び溶接箇所S22において補強板26を接合する(補強板連結工程)。
【0075】
次いで、残る1枚の板材(図6では左側板17)を前記3枚の板材に組み合わせて接合し(板材連結工程)、当該1枚の板材17と補強板26とを溶接箇所S22において接合する(補強板連結工程)。この作業は、先端セクション8Aの先端側の開口及び基端側の開口を通してそれぞれ行なうことになる。
【0076】
なお、図6では、最後に組み合わせる板材として左側板17を例に挙げて説明しているが、最後に組み合わせる板材は、上板14、下板15又は右側板16の何れであっても同様の方法でブーム本体8(先端セクション8A)を製造することができる。
【0077】
このように構成すれば、単一の補強板26の全周溶接によって各板材14〜17をそれぞれ連結することができるので、ブーム本体8の強度をさらに向上させることができる。
【0078】
特に、シリンダブラケット21は前記アーム駆動シリンダ22の伸縮時にその反力を受けるため、当該シリンダブラケット21が形成された部分においては各板材14〜17に応力(ブーム本体8の長手方向に沿った応力:図5の矢印Y2参照)が生じ易いが、図6に示すように、シリンダブラケット21の形成箇所に対応して補助板19、25及び補強板26を設けることにより、各板材14〜17の疲労強度を充分に確保することができる。
【0079】
なお、本実施形態では、補助板19、25をブーム本体8に採用した構成を例示しているが、補助板19、25及び補強板20、26を採用する対象はブームに限定されることはなく、例えば、キャビン28(図1参照)の外郭を構成するフレームに採用することもできる。
【0080】
すなわち、補助板19、25及び補強板20、26は、上述した解体機1及びその他の建設機械(例えば、油圧ショベル)において使用されるあらゆる管状構造物について採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施形態として、本発明に係る管状構造物がブーム本体に用いられた解体機の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1のブームを示す側面図である。
【図3】図2のブームの要部を拡大して示す側面断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3の第一補強板の溶接部分を拡大して示す側面断面図である。
【図6】本発明の別の実施形態に係るブームの側面断面図である。
【図7】従来の内部補強板の溶接構造を示す側面断面図であり、(a)は片側隅肉溶接、(b)は開先隅肉溶接、(c)は両側隅肉溶接、(d)は補助板をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0082】
1 解体機(建設機械)
8 ブーム本体(管状構造物)
14 上板(板材)
15 下板(板材)
16 右側板(板材)
17 左側板(板材)
19 補助板
20 補強板
20a 第一補強板
20b 第二補強板
20c 第三補強板
25 補助板
26 補強板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定方向に延びる複数の板材が周方向に並んだ状態で相互接合されることにより全体として前記特定方向を軸方向とする管状に形成され、かつ、これらの板材の内側に内部補強板が設置されてこの内部補強板が前記板材のうちの複数の特定の板材の内側面に連結された建設機械の管状構造物を製造する方法であって、
前記板材同士を組み合わせて相互接合する板材接合工程と前記内部補強板を特定の板材に連結する補強板連結工程とを含む組立工程を行なう前に、
前記内部補強板と前記特定の板材との連結箇所のうちの少なくとも1箇所について、前記板材の内側面上にこの板材よりも表面積の小さい補助板を配置してこの補助板の前記軸方向の両端面と前記板材の内側面とを跨ぐように前記両端面に沿って隅肉溶接を施す両側溶接工程を行い、
前記補強板連結工程においては、前記補助板が設けられた連結箇所について、この補助板の表面に前記内部補強板の端部を当ててこの端部の片側面と前記補助板の表面とを跨ぐように当該端部に沿って隅肉溶接を施すことにより当該内部補強板を前記板材に連結することを特徴とする建設機械の管状構造物の製造方法。
【請求項2】
前記各板材を組み合わせて管状とする前の段階において、前記補助板に施された両溶接部のビードの余盛部を平滑化する平滑化工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の建設機械の管状構造物の製造方法。
【請求項3】
前記両側溶接工程では、複数の補助板を前記軸方向に並べて溶接し、これら補助板に対し前記補強板連結工程において内部補強板をそれぞれ溶接するとともに前記板材接合工程において各板材を接合することによってこれら内部補強板同士の間に管状構造物の内側空間をその長手方向に区画する室が形成されるようになっており、前記補強板連結工程では、前記室の外側となる各内部補強板の片側面と前記各補助板との間にそれぞれ片側隅肉溶接を施すことにより当該各内部補強板と各補助板とを連結することを特徴とする請求項1又は2に記載の建設機械の管状構造物の製造方法。
【請求項4】
前記両側溶接工程においては前記内部補強板の溶接対象となる板材のすべてに対し前記補助板をそれぞれ溶接する一方、これら補助板のそれぞれに対し共通の内部補強板を溶接することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の建設機械の管状構造物の製造方法。
【請求項5】
周方向に並べて接合された複数の板材と、これら板材の内側位置で少なくとも2枚の板材に跨って接合された内部補強板とを有する建設機械の管状構造物であって、
前記管状構造物の内側面となる前記板材の表面に敷設され、前記内部補強板と板材との間に介在する補助板をさらに備え、
この補助板は、前記管状構造物の軸方向の両端面が前記板材の表面との間で当該両端面に沿ってそれぞれ隅肉溶接によって接合されていることを特徴とする建設機械の管状構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−138528(P2007−138528A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333132(P2005−333132)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】