説明

建設機械用キャブ

【課題】 オペレータの前方視界を広くすると共に、窓枠に対する前窓ガラスの取付作業性を向上する。
【解決手段】 前窓21は、キャブボックス14の前パネル15に支持される本体枠23に内側に向けて開口するガラス固定溝23Dが形成された窓枠22と、窓枠22を覆うよう前窓ガラス28と、前窓ガラス28の外周縁28Aを表面側と裏面側から挟んだ状態で本体枠23のガラス固定溝23Dに弾性変形しつつ押込まれることによって窓枠22に前窓ガラス28の外周縁28Aを固定する弾性固定具29とにより構成している。従って、接着剤を使用することなく窓枠22に前窓ガラス28を取付けることができるから、黒色セラミックスプリント等の接着剤対策を不要とすることができ、前方視界を広げることができる。また、接着剤を乾かすための時間を省略でき、作業性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン等の建設機械に設けられ前窓を有する建設機械用キャブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械としての油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより構成されている。また、上部旋回体には、左前側に位置してオペレータが乗車するキャブが設けられ、該キャブは、旋回フレーム上に設けられたフロア部材と、該フロア部材上に設けられオペレータが着座する運転席と、該運転席を覆うように前記フロア部材に設けられ前側が開口したキャブボックスと、該キャブボックスの前側の開口を閉塞する前窓とを備えている。
【0003】
また、前窓は、キャブボックスに支持される枠体からなる窓枠と、該窓枠の前側を覆うように配置され外周縁が弾性部材を介して該窓枠に接着された前窓ガラスとにより構成されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−238573号公報
【特許文献2】特開平11−157333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した各特許文献によるものでは、窓枠の前側に接着剤によって前窓ガラスを固着する構成としている。この場合、接着剤は直射日光によって劣化するから、例えば前窓ガラスの周囲には、接着剤を隠すように黒色セラミックスプリントを施す必要がある。このため、前窓ガラスに施した黒色セラミックスプリントによって前方の視界が狭くなるという問題がある。
【0006】
また、前窓ガラスを窓枠に接着する構成では、組立作業時、交換作業時に接着剤を乾かすための時間が必要になるから、前窓ガラスの組立作業、交換作業に時間を要するという問題がある。
【0007】
さらに、前窓ガラスには一般的な強化ガラスが用いられているが、仕様によっては、より高強度な合わせガラスや軽量なアクリル樹脂製ガラスを用いることがある。この場合、合わせガラスやアクリル樹脂製ガラスは、一般的な強化ガラスに比較して厚さ寸法が大きくなってしまう。従って、窓枠の前側に前窓ガラスを接着する構成では、合わせガラスやアクリル樹脂製ガラスを取付ける場合、キャブボックスに対する前窓ガラスの位置が接近してしまうから、例えばキャブボックスと前窓との隙間を埋めて雨水等の浸入を防止するために設けられたウェザーストリップを、他の寸法のものに交換しなくてはならないという問題がある。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、オペレータの前方視界を広くすると共に、窓枠に対する前窓ガラスの取付作業性を向上できるようにした建設機械用キャブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による建設機械用キャブは、前側が開口するボックス状に形成されたキャブボックスと、該キャブボックスの前記開口を閉塞する前窓とを備えてなる。
【0010】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記前窓は、前記キャブボックスに支持される枠体からなり内側に向けて開口するガラス固定溝が長さ方向に延びて形成された窓枠と、該窓枠の内側を覆うように配設された前窓ガラスと、該前窓ガラスの外周縁を表面側と裏面側から挟んだ状態で前記窓枠のガラス固定溝に弾性変形しつつ押込まれることにより前記窓枠に前窓ガラスの外周縁を固定する弾性固定具とにより構成したことにある。
【0011】
請求項2の発明は、前記弾性固定具は、弾性を有する樹脂材料からなる1つまたは複数の部材によって断面U字状に形成し、対面して延びた挟持面部により前記前窓ガラスの外周縁を表面側と裏面側から挟む構成としたことにある。
【0012】
請求項3の発明は、前記前窓ガラスは、上,下方向に長尺な長方形状の板ガラスとして形成し、前記窓枠は、前記前窓ガラスの上縁部、左縁部および右縁部を固定する上枠部、左枠部および右枠部から逆U字状に形成された本体枠と、該本体枠の左枠部と右枠部の下端部に取付けられ該本体枠内に前窓ガラスを固定する下側固定枠とにより構成したことにある。
【0013】
請求項4の発明は、前記キャブボックスには、左,右方向で対面した状態で前側から天井側に亘って略L字状に延びる左,右のガイドレールを設け、前記前窓は、前記窓枠の左,右両側に前記各ガイドレールに沿って案内されるローラを取付けることにより開,閉可能に構成したことにある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、弾性固定具によって前窓ガラスの外周縁を表面側と裏面側から挟み、この状態で窓枠のガラス固定溝に押込む。これにより、弾性固定具は、弾性力によって前窓ガラスの外周縁を窓枠に固定することができる。
【0015】
この結果、前窓ガラスは、接着剤を用いることなく窓枠に固定することができるから、例えば前窓ガラスの周囲に黒色セラミックスプリント等の接着剤対策を施す必要がなく、キャブに搭乗したオペレータに広い前方視界を提供することができる。また、前窓ガラスを窓枠に固定するときには、接着剤を乾かすための時間を必要としないから、前窓の組立作業、前窓ガラスの交換作業等を短時間で行うことができる。
【0016】
さらに、前窓ガラスを、一般的な強化ガラスから厚さ寸法が大きな合わせガラスやアクリル樹脂製ガラスに変更する場合でも、厚さ寸法が変化する前窓ガラスは窓枠内に収まっているから、キャブボックスに対する前窓の距離を一定にすることができる。これにより、前窓ガラスは、例えばキャブボックスと前窓との隙間を埋めて雨水等の浸入を防止するために設けられるウェザーストリップを他の寸法のものに交換することなく、一般的な強化ガラスから合わせガラスやアクリル樹脂製ガラスに簡単に変更することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、弾性固定具は、断面U字状に形成することで対面して延びた各挟持面部によって前窓ガラスの外周縁を表面側と裏面側から挟むことができる。この状態で、弾性固定具を窓枠のガラス固定溝に押込むことにより、各挟持面部を前窓ガラスの外周縁に弾性的に押付けて固定することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、長方形状の前窓ガラスの外周縁に弾性固定具を取付け、この弾性固定具が取付けられた前窓ガラスの外周縁を本体枠のガラス固定溝に下側から押込む。そして、本体枠の左枠部と右枠部の下端部に下側固定枠を取付けることにより、本体枠内に前窓ガラスを固定することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、前窓は、左,右のローラをキャブボックスの左,右のガイドレールに沿って移動させることにより、キャブボックスの前側の開口を閉塞したり、天井側に格納したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態による建設機械用キャブが適用されるクローラ式の油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】上部旋回体を拡大して示す外観斜視図である。
【図3】キャブを図2中の矢示III−III方向からみた拡大断面図である。
【図4】図3中のA部を示す要部拡大の断面図である。
【図5】本実施の形態による前窓を示す外観斜視図である。
【図6】窓枠の本体枠を単体で示す外観斜視図である。
【図7】窓枠の下側固定枠を単体で示す外観斜視図である。
【図8】窓枠の本体枠と下側固定枠とを分解した状態で示す分解斜視図である。
【図9】本体枠と下側固定枠との取付状態を図5中の矢示IX−IX方向からみた拡大断面図である。
【図10】下側固定枠による前窓ガラスの固定状態を図5中の矢示X−X方向からみた拡大断面図である。
【図11】前窓ガラスを単体で示す外観斜視図である。
【図12】弾性固定具を単体で示す外観斜視図である。
【図13】本体枠と前窓ガラスと弾性固定具の取付状態を図5中の矢示XIII−XIII方向からみた拡大断面図である。
【図14】本体枠と前窓ガラスと弾性固定具を分解した状態で示す分解断面図である。
【図15】本発明の変形例による弾性固定具を本体枠と前窓ガラスと一緒に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械用キャブとして油圧ショベルに用いるキャブを例に挙げ、図1ないし図14に従って詳細に説明する。
【0022】
図1において、1は建設機械としての油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、該上部旋回体3の前側に俯仰動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行う作業装置4とにより大略構成されている。
【0023】
ここで、上部旋回体3は、図2に示すように、支持構造体をなす旋回フレーム5と、該旋回フレーム5の左前側に搭載された後述のキャブ11と、該キャブ11の後側に位置して旋回フレーム5に搭載されたエンジン、油圧ポンプ等(いずれも図示せず)を覆う建屋カバー6と、前記旋回フレーム5の後端部に取付けられたカウンタウエイト7とによって大略構成されている。
【0024】
次に、11は本実施の形態による建設機械用キャブとしての油圧ショベル用キャブ(以下、キャブ11という)を示している。このキャブ11は、旋回フレーム5の左前部に搭載され、オペレータが搭乗する運転室を画成するものである。また、キャブ11は、図2、図3に示す如く、後述するフロア部材12、運転席13、キャブボックス14、ガイドレール20、前窓21等により構成されている。
【0025】
12はキャブ11の底部を形成するフロア部材で、該フロア部材12は、旋回フレーム5の上側に複数個の防振マウント(図示せず)を介して取付けられている。また、フロア部材12の周囲には、キャブボックス14の下側が取付けられている。一方、フロア部材12上には、オペレータが着座するための運転席13が設けられている。
【0026】
14はキャブ11の外形を構成するキャブボックスで、該キャブボックス14は、前側に配置された前パネル15と、該前パネル15と対面するように後側に配置された後パネル16と、左側に位置して前記前パネル15と後パネル16との間に設けられた左パネル17(図2参照)と、右側に位置して前記前パネル15と後パネル16との間に設けられた右パネル18と、上側を閉塞して設けられた天井パネル19とによりボックス状に形成されている。なお、キャブボックス14としては、角張った箱形状の他にも、例えば左パネル、天井パネル等が湾曲した円筒型、卵型等の他の形状も含むものである。
【0027】
一方、キャブボックス14の前パネル15には、図2に示すように、四角形状の開口15Aが形成されている。また、開口15Aの内端縁には、ウェザーストリップ15Bが取付けられている。このウェザーストリップ15Bは、図4に示すように、後述する窓枠22の前面側に弾性的に密着することにより、前パネル15と前窓21との間からキャブ11内に雨水等が浸入するのを防止するものである。この場合、ウェザーストリップ15Bは、窓枠22に当接したときに、潰れ方が小さくても、大き過ぎても密着性が悪くなるから、前パネル15と前窓21との距離を適正な寸法に設計する必要がある。さらに、キャブボックス14の左パネル17には、乗降用のドア17A(図1、図2参照)が開,閉可能に取付けられている。
【0028】
20はキャブボックス14の左パネル17,右パネル18にそれぞれ設けられた左,右のガイドレール(図3中に右側のみ図示)を示している。この左,右のガイドレール20は、左,右方向で対面して配置されている点を除いてほぼ同様に形成されている。また、ガイドレール20は、前パネル15側から天井パネル19側に亘るように前側下部から前側上部を経由して後側上部に延びる逆さ状態の略L字状に形成されている。詳しくは、ガイドレール20は、前パネル15に沿うように上,下方向に延びる縦レール部20Aと、天井パネル19に沿うように該縦レール部20Aの上部から後方向に延びる横レール部20Bとによって構成されている。そして、ガイドレール20は、左,右方向で対向して開口する断面U字状の凹陥溝として形成されている。
【0029】
次に、21はキャブボックス14に設けられた本実施の形態による前窓を示している。この前窓21は、前パネル15の開口15Aを閉塞するものである。また、前窓21は、上側に移動して天井パネル19側に格納することにより、前パネル15の開口15Aを開放することができる。そして、前窓21は、図5ないし図14に示すように、後述の窓枠22、ローラ27、前窓ガラス28、弾性固定具29等により構成されている。
【0030】
22はキャブボックス14の前パネル15に支持される枠体からなる窓枠である。この窓枠22は、後述する前窓ガラス28の周囲を取囲むように該前窓ガラス28を保持するもので、上,下方向に長尺な長方形状の枠体として形成されている。また、窓枠22は、図5に示すように、前窓ガラス28の外周縁28Aをなす上縁部28A1、左縁部28A3および右縁部28A4を固定するための上枠部23A、左枠部23Bおよび右枠部23Cから逆U字状に形成された本体枠23と、前記上枠部23Aとほぼ平行となるように左枠部23Bの下端部と右枠部23Cの下端部に取付けられ、本体枠23内に前窓ガラス28を固定する下側固定枠24とにより大略構成されている。
【0031】
ここで、本体枠23は、図6に示す如く、長さ方向に対する横断面が略U字状にをなし、これにより、上枠部23A、左枠部23Bおよび右枠部23Cの内部には、内側に向けて開口するガラス固定溝23Dが長さ方向に延びて形成されている。このガラス固定溝23Dは、前窓ガラス28の外周縁28Aを挟んだ状態の弾性固定具29が押込まれるもので、その開口寸法は、弾性固定具29が適宜に弾性変形しつつ、その弾性力によって前窓ガラス28を確実に挟み込むことができる寸法に設定されている。
【0032】
また、本体枠23の上側位置には、左,右の角隅位置に上側ブラケット23Eが設けられ、該各上側ブラケット23Eには、後述のロック装置26、ローラ27等が取付けられている。一方、左枠部23B、右枠部23Cの下端部には、下側固定枠24等を取付けるための下側ブラケット23Fが設けられている。
【0033】
一方、下側固定枠24は、図7、図8に示すように、左,右方向に延びた両端部に取付部24Aを有し、該各取付部24A間は、図9に示すように、ガラス固定溝23Dの下側部位を構成する段部24Bとなっている。また、段部24Bの両端部は、図10に示すように取付部24Aの位置でガラス固定溝23Dの一部をなす嵌合溝部24Cとなっている。これにより、下側固定枠24は、図8に示すように、左,右の取付部24Aをボルト25を用いて本体枠23の左枠部23B、右枠部23Cの下端部に取付けることができる。このときには、段部24Bを前窓ガラス28の下縁部28A2に当接させることができ、また、前窓ガラス28の斜辺部28Bを嵌合状態で保持することができる。
【0034】
26は本体枠23の各上側ブラケット23Eに設けられたロック装置(図5参照)で、該ロック装置26は、前窓21で前パネル15の開口15Aを閉じた状態または天井パネル19側に格納した状態のときに、キャブボックス14側に係合して前窓21をロックするものである。
【0035】
また、27は窓枠22の四隅に設けられた4個のローラで、該各ローラ27は、対応するガイドレール20に配置されている。これにより、前窓21は、各ローラ27により各ガイドレール20に沿って移動することができ、キャブボックス14の前パネル15を閉塞したり、天井パネル19側に格納したりすることができる。
【0036】
28は窓枠22の内側を閉塞して設けられた前窓ガラスで、該前窓ガラス28は、図11に示すように、上,下方向に長尺な長方形状をなし、下側から上側に向け後側に湾曲した板ガラスとして形成されている。また、前窓ガラス28は、例えば小石等の衝突程度では損傷することが無い一般的な強度をもった強化ガラスにより形成されている。一方で、前窓ガラス28としては、高い安全性と強度を兼ね備えた合わせガラス、軽量なアクリル樹脂製ガラス等がオプションとして用意されている。これらのガラスは、一般的な強化ガラスよりも厚さ寸法が大きくなっている。
【0037】
ここで、本実施の形態による前窓ガラス28は、接着剤によって窓枠22に取付けるものではないため、直射日光を遮る黒色セラミックスプリントは施されていない。これにより、前窓ガラス28の外周縁28Aを透明にできるから、前方視界を広くすることができる。また、前窓ガラス28の下側の角隅部は、斜めに切り取ることで斜辺部28Bとしているから、この斜辺部28Bによって角隅の角度を鈍角にでき、雨水に対する密閉性を高めることができる。
【0038】
29は前窓21を構成する弾性固定具を示している(図12参照)。この弾性固定具29は、図13、図14に示すように、前窓ガラス28の外周縁28Aを表面側と裏面側から挟んだ状態で窓枠22を構成する本体枠23のガラス固定溝23Dに押込むことにより、窓枠22内に前窓ガラス28の外周縁28Aを固定するものである。また、弾性固定具29は、本体枠23に沿うように逆U字状に延びている。そして、弾性固定具29は、前窓ガラス28の厚さ方向で対面する2つの弾性部材30,31からなり、該各弾性部材30,31を合わせることによって断面U字状に形成されている。
【0039】
30は前窓ガラス28の外周縁28Aに表面から当接するように逆U字状に延びた表面側弾性部材で、該表面側弾性部材30は、断面が略クランク状に形成されている。即ち、表面側弾性部材30は、ほぼ平坦な挟持面部30Aと、該挟持面部30Aの内側に位置して本体枠23のガラス固定溝23Dと前窓ガラス28との隙間を覆うように立上がった閉塞部30Bと、挟持面部30Aの外側に位置して前窓ガラス28の外周端に係合するように裏面側に突出した係合部30Cとにより構成されている。この係合部30Cは、前窓ガラス28と一緒に本体枠23のガラス固定溝23Dに押込んだときに、前窓ガラス28だけが先に押込まれないようにすると共に、表面側弾性部材30が抜け出るのを防止するものである。
【0040】
一方、31は前窓ガラス28の外周縁28Aに裏面から当接するように逆U字状に延びた裏面側弾性部材で、該裏面側弾性部材31は、表面側弾性部材30に対面するように配置されている。また、裏面側弾性部材31は、表面側弾性部材30の挟持面部30Aに対面して延びたほぼ平坦な挟持面部31Aと、該挟持面部31Aの内側に位置して立上がった閉塞部31Bと、挟持面部31Aの外側に位置して表面側に突出した係合部31Cとを有し、これら閉塞部31Bと係合部31Cは、表面側弾性部材30の閉塞部30Bと係合部30Cと同様の機能を有している。さらに、裏面側弾性部材31の裏面側には、ガラス固定溝23Dに向けて突出するように例えば2つの突起31D,31Eが設けられている。この突起31Dは、内側に向けて傾斜するように突出することにより、ガラス固定溝23Dに容易に押込むことができ、押込んだ状態では抜止めとして機能するものである。
【0041】
そして、弾性固定具29は、図14に示すように、表面側弾性部材30の挟持面部30Aを前窓ガラス28の外周縁28Aの表面に密着させ、裏面側弾性部材31の挟持面部31Aを前窓ガラス28の外周縁28Aの裏面に密着させる。これにより、弾性固定具29は、前窓ガラス28の外周縁28Aを表面側と裏面側から簡単に挟むことができる。次に、前窓ガラス28の外周縁28Aを挟んだ各弾性部材30,31を、弾性変形させつつ本体枠23のガラス固定溝23Dに押込むことにより、弾性固定具29は、図13に示すように、窓枠22内に前窓ガラス28の外周縁28Aを弾性的に固定することができる。
【0042】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0043】
まず、オペレータはキャブ11に搭乗して運転席13に着座し、この状態で走行用の操作レバー(図示せず)を操作することにより、下部走行体2を走行させることができる。また、作業用の操作レバー(図示せず)を操作することにより、作業装置4を俯仰動させて土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0044】
次に、前窓ガラス28が破損して交換する場合の作業について述べる。この場合には、キャブ11から前窓21を取外し、ボルト25を緩めて窓枠22の本体枠23から下側固定枠24を取外す。これにより、本体枠23のガラス固定溝23Dから破損した前窓ガラス28と弾性固定具29とを引抜くことができる。
【0045】
一方、新しい前窓ガラス28を取付ける場合には、弾性固定具29の各弾性部材30,31によって前窓ガラス28の外周縁28Aを表面側と裏面側から挟み、この状態で本体枠23のガラス固定溝23Dに押込む。次に、本体枠23の左枠部23B、右枠部23Cの下端部にボルト25を用いて下側固定枠24を取付けることにより、前窓ガラス28を上,下方向に固定する。これにより、新しい前窓ガラス28を弾性固定具29を介して窓枠22内に固定することができ、この前窓21をキャブ11に取付けることにより、前窓ガラス28の交換作業を行うことができる。
【0046】
かくして、本実施の形態によれば、前窓21は、キャブボックス11の前パネル15に支持される本体枠23に内側に向けて開口するガラス固定溝23Dが長さ方向に延びて形成された窓枠22と、該窓枠22の内側を閉塞して設けられた前窓ガラス28と、該前窓ガラス28の外周縁28Aを表面側と裏面側から挟んだ状態で前記本体枠23のガラス固定溝23Dに弾性変形しつつ押込まれることによって前記窓枠22に前窓ガラス28の外周縁28Aを固定する弾性固定具29とにより構成している。
【0047】
従って、弾性固定具29によって前窓ガラス28の外周縁28Aを表面側と裏面側から挟み、この状態で本体枠23のガラス固定溝23Dに押込む。これにより、前窓ガラス28は、その外周縁28Aを弾性固定具29を介して窓枠22に弾性的に固定することができる。
【0048】
この結果、前窓ガラス28は、接着剤を用いることなく窓枠22に固定することができるから、例えば前窓ガラス28の周囲に黒色セラミックスプリント等の接着剤対策を施す必要がなく、運転席13に着座したオペレータに広い前方視界を提供することができる。また、前窓ガラス28を窓枠22に固定するときには、接着剤を乾かすための時間を必要としないから、前窓ガラス28の組付け作業、交換作業を短時間で行うことができ、作業性を向上することができる。
【0049】
しかも、前窓ガラス28を、一般的な強化ガラスから厚さ寸法が大きな合わせガラスやアクリル樹脂製ガラスに変更する場合でも、厚さ寸法が変化する前窓ガラス28は窓枠22内に収めているから、キャブボックス11の前パネル15に対する前窓21の距離は一定のままとすることができる。これにより、前窓ガラス28は、前パネル15に設けられる雨水侵入防止用のウェザーストリップ15Bを交換することなく、一般的な強化ガラスから合わせガラスやアクリル樹脂製ガラスに簡単に変更することができる。
【0050】
また、弾性固定具29は、弾性を有する樹脂材料からなる2つの表面側弾性部材30と裏面側弾性部材31によって断面U字状に形成することにより、対面して延びた挟持面部30A,31Aによって前窓ガラス28の外周縁28Aを挟むことができる。この状態で、弾性固定具29を本体枠23のガラス固定溝23Dに押込むことにより、各挟持面部30A,31Aを前窓ガラス28の外周縁28Aに押付けて固定することができる。従って、弾性固定具29を1つの部材によって断面U字状に形成した場合に比較して、前窓ガラス28を各挟持面部30A,31Aで容易に、かつ確実に挟むことができ、組立作業性を向上することができる。
【0051】
一方、窓枠22は、前窓ガラス28の外周縁28Aに弾性固定具29を取付け、この弾性固定具29を前窓ガラス28の外周縁28Aと一緒に本体枠23のガラス固定溝23Dに下側から押込み、本体枠23の下側ブラケット23Fに下側固定枠24を取付けることにより、本体枠23内に前窓ガラス28を簡単に、かつ確実に固定することができる。
【0052】
さらに、前窓21は、左,右のローラ27をキャブボックス14の左,右のガイドレール20に沿って移動させることにより、キャブボックス14の前パネル15を閉塞したり、天井パネル19側に格納したりすることができる。
【0053】
なお、実施の形態では、弾性固定具29は、前窓ガラス28の厚さ方向で対面する2つの表面側弾性部材30と裏面側弾性部材31とにより構成し、該各弾性部材30,31を合わせることによって断面U字状に形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図15に示す変形例による弾性固定具41のように、1つの部材によって断面U字状に形成する構成としてもよい。即ち、変形例による弾性固定具41は、弾性を有した1つの樹脂材料からなり、対面して延びた表面側挟持面部41Aと裏面側挟持面部41Bとの間で前窓ガラス28の外周縁28Aを挟む構成としている。
【0054】
また、実施の形態では、建設機械用キャブとしてクローラ式の油圧ショベル1のキャブ11を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば本実施の形態によるキャブ11をホイール式の下部走行体を備えた油圧ショベルに適用してもよい。さらに、例えば油圧クレーン、ホイールローダ、トラクタ、ブルドーザ等の他の建設機械のキャブにも広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0055】
1 油圧ショベル(建設機械)
11 油圧ショベル用キャブ(建設機械用キャブ)
12 フロア部材
13 運転席
14 キャブボックス
15 前パネル
16 後パネル
17 左パネル
18 右パネル
19 天井パネル
20 ガイドレール
21 前窓
22 窓枠
23 本体枠
23A 上枠部
23B 左枠部
23C 右枠部
23D ガラス固定溝
24 下側固定枠
27 ローラ
28 前窓ガラス
28A 外周縁
28A1 上縁部
28A2 下縁部
28A3 左縁部
28A4 右縁部
29,41 弾性固定具
30 表面側弾性部材
30A,31A 挟持面部
31 裏面側弾性部材
41A 表面側挟持面部
41B 裏面側挟持面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前側が開口するボックス状に形成されたキャブボックスと、該キャブボックスの前記開口を閉塞する前窓とを備えてなる建設機械用キャブにおいて、
前記前窓は、前記キャブボックスに支持される枠体からなり内側に向けて開口するガラス固定溝が長さ方向に延びて形成された窓枠と、該窓枠の内側を覆うように配設された前窓ガラスと、該前窓ガラスの外周縁を表面側と裏面側から挟んだ状態で前記窓枠のガラス固定溝に弾性変形しつつ押込まれることにより前記窓枠に前窓ガラスの外周縁を固定する弾性固定具とにより構成したことを特徴とする建設機械用キャブ。
【請求項2】
前記弾性固定具は、弾性を有する樹脂材料からなる1つまたは複数の部材によって断面U字状に形成し、対面して延びた挟持面部により前記前窓ガラスの外周縁を表面側と裏面側から挟む構成としてなる請求項1に記載の建設機械用キャブ。
【請求項3】
前記前窓ガラスは、上,下方向に長尺な長方形状の板ガラスとして形成し、
前記窓枠は、前記前窓ガラスの上縁部、左縁部および右縁部を固定する上枠部、左枠部および右枠部から逆U字状に形成された本体枠と、該本体枠の左枠部と右枠部の下端部に取付けられ該本体枠内に前窓ガラスを固定する下側固定枠とにより構成してなる請求項1または2に記載の建設機械用キャブ。
【請求項4】
前記キャブボックスには、左,右方向で対面した状態で前側から天井側に亘って略L字状に延びる左,右のガイドレールを設け、
前記前窓は、前記窓枠の左,右両側に前記各ガイドレールに沿って案内されるローラを取付けることにより開,閉可能に構成してなる請求項1,2または3に記載の建設機械用キャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−102501(P2012−102501A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250649(P2010−250649)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】