説明

弁構造体

【課題】フロート弁構造体の組み立て時に発生するフロートシール部材の変形を抑えて、フロート弁のシール性を向上させる。
【解決手段】フロートシール部材70は、周辺部に貫通穴75を中心に周状に形成された規制部79と、規制部79から貫通穴75の縁へ延びるように形成された薄肉のフロートシールリブ76とを有し、規制部79は上部流路部材73と下部流路部材74に挟まれることで位置が規制される。規制部79の、流路部材74に対向する部分の面は平面部81に、規制部79の、流路部材73に対向する部分の面は平面部82になっており、フロートシールリブ76は平面部81の側より延びている。さらに、流路部材74の、平面部81に対応する部分の面は平面部83とされ、流路部材73の、平面部82に対応する部分の面に突起部80が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置のインク供給系などの流体制御に用いられる、フロート部材を備えた弁構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なインクジェット記録装置は、吐出口(ノズル)からインクを吐出するインクジェット記録ヘッドと、これを搭載するキャリッジを移動駆動する手段と、被記録媒体を搬送する手段と、これらを制御するための制御手段とを備えている。このように、キャリッジを移動させながら記録動作を行うものはシリアルスキャン型と呼ばれている。また、インクジェット記録ヘッドを移動させずに被記録媒体の搬送のみで記録動作を行うライン型の記録装置もある。ライン型の記録装置のインクジェット記録ヘッドは、被記録媒体の幅方向の全域にわたって配列された多数のノズルを有する。
【0003】
また最近ではA1版、A0版のような大判のシートに写真調の画像を記録するようなプロッターにまでインクジェット記録装置が使用されてきている。この場合、記録ヘッドの製造容易さから、上記シリアルスキャン型のものが一般的となっている。
【0004】
その大判用のインクジェット記録装置のインク供給系は、大量のインクを消費することが考慮されている。図14に示すように、装置本体にメインタンク56が交換可能に固定され、メインタンク56とキャリッジ202とは供給チューブ5により接続することで、記録ヘッド1にインクを補給していく。いわゆるチュービング式のインク供給系である。
【0005】
キャリッジ202は、印字時には、記録用シートSの幅方向に往復移動する。そのため、そのキャリッジ202の移動を妨げないように、供給チューブ5の少なくとも一部に、柔軟性のあるチューブ(例えばシリコンチューブ、ポリエチレンチューブなど)が用いられている。そして供給チューブ5は、その接続部品及び流路部品にゴム製、樹脂製のものを用いるため、若干のガス透過性を有する。供給チューブ5内には大気からそのチューブ壁を通して少しずつ空気が侵入し、気泡が発生する。その気泡が記録ヘッド1内に流れ込むと、記録ヘッド1は正常なインク滴を吐出できなくなり、印字不良が発生する。また、仮に大気から供給チューブ5内にチューブ壁を通して少しずつ空気が侵入することを防止できたとしても、インクに溶存した空気が供給チューブ5内や記録ヘッド1の流路内で気泡に成長することもあり得る。
【0006】
そこで、気泡が発生してもその気泡を、記録ヘッド1上に設けられたサブタンクに蓄積し、このサブタンク内の空気を排出する手段を設けることによって、記録ヘッド1内に空気が入り込まないようしたインク供給系が特許文献1にて提案されている。
【0007】
このサブタンクの為の排気手段の従来例について、図15(a)と図15(b)を用いて説明する。図15(a)はインクジェット記録ヘッドと該インクジェット記録ヘッドに供給するインクを貯留するタンクの断面図である。
【0008】
サブタンク2は、フロート室72とエアバッファ部7の二つの空間に分けられている。フロート室72の中には球状のフロート部材71が封入されている。フロート部材71の材質としてはインクより比重が小さく、かつインクと反応しにくい材質が選ばれ、例えばポリプロピレンなどが用いられる。もちろんインクより比重の大きい材質でも、中空であり部品そのものの比重(見かけの比重)がインクより小さければよい。仕切板8の上部はフロート室72とエアバッファ部7を完全に遮断している。仕切板8の下部は縦方向に延びる複数のスリット9が設けられ、フロート部材71がエアバッファ部7へ移動することはないが、インクや空気は自由に通過できるようになっている。フロート室72の上部には円錐状の形状をしたフロートシール部材70が設けられ、このフロートシール部材の円錐形状の頂点に相当するところに、排気チューブ10が接続されている。一方、エアバッファ部7の上部には、供給チューブ5が接続されている。
【0009】
図15(b)は、サブタンク2内の排気を終了した直後の状態である。この状態から、印字、放置(スタンバイ状態および電源OFF状態)を繰り返すと、供給チューブ5内で発生した気泡が少しずつサブタンク2内に侵入してくる。このとき、排気チューブ10の途中に設けられた弁(不図示)が閉じているので、サブタンク内のインクは印字又はヘッド回復動作によってノズル6から出ていくが、増加した空気はサブタンクの中に閉じこめられるため、図15(a)に示すようにインク面が下がってくる。
【0010】
サブタンク2の中の空気を排出する場合には、ヘッド回復ユニット40が上昇し、記録ヘッド1のノズル6を覆って外気から遮断する。そして、排気チューブ10につながれたポンプ(不図示)が作動し、サブタンク2内の空気を少しずつ吸引し、サブタンク2内の圧力が徐々に下がりはじめる。ある程度まで圧力が低下すると、不図示のメインタンクから供給チューブ5を通ってインクが供給されてくる。供給されたインクのかわりにサブタンク2内にあった空気は排気チューブ10を通って出ていく。このとき、図15の状態では、インク面は均一に上昇していくが、インク面がスリット9の最上部まで達すると、フロート室72とエアバッファ部7の中の空気は完全に遮断される。この結果、それ以降はフロート室72の空気だけが排出される。空気が排出されてインク面が上昇すれば、当然それに応じて、フロート部材71も上昇する。
【0011】
フロート部材71は、最初はフロート室72内で水平方向の位置が定まらないまま上昇してくる。そして、フロート部材71が円錐形状であるフロートシール部材70に達すると、その後は円錐形状であるフロートシール部材70の仮想頂点に近づくように上昇し、最後には図15(b)に示すような、フロートシール部材70に全周が接触する位置で停止し、排気チューブ10を塞ぐことで、排気動作を終了する。
【0012】
フロートシール部材70は、フロート部材71とのシール性をアップさせるため、ゴムなどの弾性体で製作することが望ましい。このフロートシール部材70を用いる場合、フロート室71を形成する流路部材が上下に分割され、それらの間にフロートシール部材70を設置して両流路部材を接続する必要が生じる。その接続の方法において、両流路部材に対向するフロートシール部材の部材にリブを設け、そのリブを押圧し潰すことで上下の流路部材間をシールする。つまり、円錐形状であるフロートシール部材70の周囲部分の上下に両流路部材をシールするための部材間リブを設け、シールする方法が一般に用いられる。
【0013】
図16は別の従来技術である特許文献2に記載のボール弁のシールゴム部材を示す断面図である。上記の部材間リブの構成としては特許文献2に示すように、ボール弁シール部材154の一方の面に周状に形成されたシール用リブとしての部材間リブ(a)85が形成されている。さらに他方の面には、部材間リブ(a)85と対称な位置および形状に部材間リブ(b)86が形成されている。さらに、周状の部材間リブ85,86の内側には、圧縮バネ157によりボール弁156が押し付けられることで流路を遮断するボール弁シール部160が設けられている。
【0014】
上記のように、1つの弾性部材で部材間の密閉性を保つための部材間シール機能と、ボール弁としての弁機能という2つの機能を持ったフロートシールゴム部材を構成することにより、部品自体の小型化、コストダウン化、組み立て性が良くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−301737号
【特許文献2】特開2008−213338号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ここで、特許文献2に記載のボール弁シール機能と部材間シール機能の両方が備えられたボール弁シール部材の形態を、図15に示したサブタンク2のフロート弁機構に適用した場合の課題について検討する。
【0017】
図17(a)は組立て前の前記フロート弁機構の断面図、図17(b)は組立て時の前記フロート弁機構の断面図を示す。
【0018】
フロートシール部材70は、上記部材間シール機能である部材間リブ(a)85と部材間リブ(b)86が両面に構成されている。また、周状の部材間リブ85、86の内側にはフロートシールリブ76が形成されている。
【0019】
上側流路部材73と下側流路部材74の間にフロートシール部材70を挟んでこれらを組み合わせるとき、上側流路部材73の平面部(d)88と下側流路部材74の平面部(c)83によって、フロートシール部材70の部材間リブ(a)85と部材間リブ(b)86が押込まれる。これにより、インク流路内の密閉性が保たれる。フロート室72内にインクが充填されたとき、フロート部材71が浮力により上昇し、フロートシールリブ76と接触することで、上側流路部材73と下側流路部材74を通る流路が遮断されるようになっている。
【0020】
しかしながら、図17に示す組立て性を考慮したフロート弁機構においては、上側流路部材73と下側流路部材74とでフロートシール部材70が挟みこまれるときに部材間リブ85,86が変形する結果、該部材間リブに近接するフロートシールリブ76自体も不規則に変形してしまうことが、本出願人により分かった。
【0021】
フロートシールリブ76が不規則に変形した場合、排気動作終了時に液面と共にフロート部材71が上昇しても、フロートシールリブ76に均一に接触することができない。よって、上記の場合、開閉弁(フロート弁)として機能しなくなるという課題がある。
【0022】
そこで本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、フロート弁構造体の組み立て時に発生するフロートシール部材の変形を抑えられる構造を提供することにある。さらに本発明の目的は、フロート弁構造体の組立て性とシール性能の向上、更にはフロート弁自体の小型化が図れる構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一態様は、上下に配置されて上下流の流路を形成する上部流路部材および下部流路部材と、該上部流路部材および下部流路部材の間に周辺部が挟まれ、流体を通す貫通穴が形成された弾性体からなるシール部材と、前記下部流路部材の内側空間に配された前記液体よりも比重の軽い球形のフロート部材と、を備え、前記フロート部材が前記液体の液面と共に上昇して前記シール部材と接触するときに前記貫通穴を遮断する、弁構造体に係るものである。
【0024】
この弁構造体において、上記課題を解決するための態様は、
前記上部流路部材および前記下部流路部材はそれぞれ、前記シール部材の周辺部に対向する面を有し、
前記シール部材は、
前記上部流路部材と前記下部流路部材に挟まれることで位置が規制される、前記周辺部に前記貫通穴を中心に周状に形成された規制部と、該規制部から前記貫通穴の縁へ延びるように形成された前記規制部よりも薄肉のフロートシールリブと、を有し、
前記規制部の、前記下部流路部材に対向する部分の面は第1の平面部となっており、前記規制部の、前記上部流路部材に対向する部分の面は第2の平面部となっており、前記フロートシールリブは前記第1の平面部または前記第2の平面部のいずれかの側より延びており、
前記フロートシールリブが前記第1の平面部の側より延びている態様では、前記下部流路部材の、前記第1の平面部に対応する部分の面は平面部とされ、前記上部流路部材の、前記第2の平面部に対応する部分の面、または前記第2の平面部のいずれかに突起が形成されており、
前記フロートシールリブが前記第2の平面部の側より延びている態様では、前記上部流路部材の、前記第2の平面部に対応する部分の面が平面部とされ、前記下部流路部材の、前記第1の平面部に対応する部分の面、または前記第1の平面部のいずれかに突起が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フロート弁構造体の組み立て時に発生するフロートシール部材の変形を抑えることにより、フロート弁自体のリークが防止でき、弁の信頼性能を得ることができる。更にはフロート弁自体の小型化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の流体排出装置を搭載したインクジェット記録装置供給システムの一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の流体排出装置を説明する為の図である。
【図3】第1の実施例のフロート弁構造体を構成する部品図である。
【図4】第1の実施例の流体排出装置の断面図である。
【図5】第1の実施例の組立て時のフロートシール部材の変形を示した詳細断面図である。
【図6】第1の実施例の別の形態の流体排出装置の断面図である。
【図7】第2の実施例の流体排出装置の断面図である。
【図8】第2の実施例の別の形態の流体排出装置の断面図である。
【図9】第3の実施例の流体排出装置の断面図である。
【図10】第3の実施例の組立て時のフロートシール部材の変形を示した詳細断面図である。
【図11】第3の実施例の別の形態の流体排出装置のフロートシール部材の変形を示した詳細断面図である。
【図12】第3の実施例の別の形態の流体排出装置のフロートシール部材の変形を示した詳細断面図である。
【図13】第3の実施例の別の形態の流体排出装置のフロートシール部材の変形を示した詳細断面図である。
【図14】従来の、インクジェット記録装置のインク供給系の概略構成を示す図である。
【図15】従来の、インク室の排気手段を示す断面図である。
【図16】従来の、ボール弁のシールゴム部材を示す断面図である。
【図17】従来の、流体排出装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施例1)
図1は、本発明の一実施形態の流体排出装置を備えた、インクジェット記録装置のインク供給システムを説明する概略図である。
【0028】
記録ヘッド1は、複数の記録素子とこれらに対向してインクを吐出するための複数のオリフィス52とが配列された記録素子チップ51と、前記オリフィスに共通に接続された第1のインク室(不図示)とにより構成されている。さらに、該第1のインク室には、第1のフィルター(不図示)を介して外部のメインタンク56からインクを供給して貯留する為の第2のインク室(不図示)が接続されている。前記第1および第2のインク室はサブタンク53内に形成されている。記録ヘッド1とメインタンク56の間には、インクを一時貯留する為のバッファタンク54が設けられ、該バッファタンク54の上方に、バッファタンク54内や供給チューブ55に取り込まれた気体を排出する為の流体排出装置57が設けられている。
【0029】
なお、記録ヘッド1の記録素子は、オリフィス52からインク滴を吐出させるために、オリフィス52内のインクに与える吐出用のエネルギーを発生するエネルギー発生手段を有する。該エネルギー発生手段としては、ピエゾ素子等の電気機械変換素子を用いたもの、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いたもの、あるいは電波やレーザ等の電磁波を機械的振動または熱に変換する電磁波機械変換素子、電磁波熱変換素子を用いたもの等がある。その中でも、熱エネルギーを利用してインク滴を吐出させる方式は、エネルギー発生手段を高密度に配列させることができるため高解像度の記録を行うことが可能である。特に、電気熱変換素子をエネルギー発生手段として用いたインクジェット記録ヘッドは、電気機械変換素子を用いたものよりも小型化が容易であり、更には、最近の半導体製造分野において進歩と信頼性の向上が著しいIC技術やマイクロ加工技術を応用してその長所を十分に活用することにより、高密度実装化が容易でかつ製造コストを低くできるという利点がある。
【0030】
上記の記録ヘッド1へインクを供給する場合には、オリフィス52を密閉するように設けられたキャップ60と該キャップに接続された吸引手段であるポンプ62とにより吸引動作を行なうことにより、メインタンク56からインクが導入される。
【0031】
記録ヘッド1とメインタンク56との途中に設けられたバッファタンク54には、供給チューブ5内に混入した気体や、メインタンク56の交換時に取り込まれる気体が記録ヘッド1内に入り込まないように流体排出装置57が設けられている。流体排出装置57は排気チューブ10によってポンプ62に接続される。
【0032】
記録ヘッド1へのインクの供給とバッファタンク54からの排気との切り替えは、キャップ60とポンプ62の間に設けられた切替弁61によって行なわれる。
【0033】
図2は、図1における流体排出装置57をより詳しく説明する為の図である。
【0034】
流体排出装置57は、バッファタンク54からの気体を排出する為の上下流の流路をなす流体排出流路59と、流体排出流路59の途中に設けられたフロートシール部材70とを備えた弁構造体をなす。流体排出流路59は、上下に配置された上部流路部材73と下部流路部材74から構成され、これらの間にフロートシール部材70が挟まれて位置する。さらに同装置57は、液面と共に上昇したフロートシール部材70と接触することにより前記上下流の流路を遮断する、液体よりも比重の小さいフロート部材71と、フロート部材71が移動可能なフロート室72とを備えている。フロート室72は下部流路部材74の内側空間に相当する。
【0035】
図3は上記の流体排出装置57を構成する上部流路部材73(図3(a-1)、図3(a-2)、図3(a-3))、フロートシール部材70(図3(b-1)、図3(b-2)、図3(b-3))、下部流路部材74(図3(c-1)、図3(c-2)、図3(c-3))の部品図をそれぞれ示したものである。なお、図3(a-1)、図3(a-2)、図3(a-3)は、それぞれ、上部流路部材73の上視図、断面図、下視図を示したものである。図3(b-1)、図3(b-2)、図3(b-3)は、それぞれ、フロートシール部材70の上視図、断面図、下視図を示したものである。また図3(c-1)、図3(c-2)、図3(c-3)は、それぞれ、下部流路部材74の上視図、断面図、下視図を示したものである。
【0036】
図4(a)と図4(b)はそれぞれ、上記液体排出装置のフロートシール部材70と上部流路部材73と下部流路部材74の組立前の状態と組立後の状態の断面図を示している。
【0037】
本実施例のフロートシール部材70はシート状でかつゴムなどの弾性体から成り、例えばEPDM(エチレン・プロピレン・ダイン・モノマー)、塩素化ブチルゴム、HNBR(水素化ニトリルゴム)などの材質で、ゴム硬度は20度から60度の範囲のものが好ましい。フロートシール部材70は、流路の貫通穴をなす流路貫通部75と、フロートシールリブ76と規制部79から構成されている。規制部79は流路貫通部75を中心に周状に形成されたものであり、その上下面がそれぞれ、平面形状の第1の平面部(a)81と第2の平面部(b)82になっており、組立て時に下側を向く平面部(a)81が下部流路部材74の平面部(c)83に突き当たる構成となっている。また流路貫通部75と規制部79の間にはフロートシールリブ76が形成されている。
【0038】
フロートシールリブ76は、フロート部材71と均一に当接することでフロートシール部材70の上下の流路を遮断するために、薄肉にされて柔軟性を有している。特に、フロートシールリブ76は、規制部79から、平面部(a)81の近傍から流路貫通部75へと延びている。また本実施例でのフロート部材71は球形状であるため、フロートシールリブ76の形状は円錐形状が好ましい。
【0039】
下部流路部材74におけるフロート室72の周辺部は、平面形状である平面部(c)83で構成され、組み立て時にフロートシール部材70の平面部(a)81が平面部(c)83と突き当たる構成となっている。一方、上部流路部材73においては、組立て時にフロートシール部材70の平面部(b)82が対向する位置に、突起部(a)80が配置されている。この突起は連続的な周状リブを形成している。前述の組立て時、上部流路部材の突起部(a)80がフロートシール部材70の規制部79を押し込むことで、規制部79の平面部(a)81が下部流路部材74の平面部(c)83に全面的に突き当てられる。このことにより、上部流路部材73とフロートシール部材70の間と、さらにはフロートシール部材70と下部流路部材74の間のシール性が保証される。
【0040】
図5は、液体排出装置を組立てる時に生じるフロートシール部材70の変形状況を表した断面図である。組立てたときのフロートシール部材70の変形状態が一点鎖線で示されている。上記液体排出装置を組立てるとき、下部流路部材74の平面形状である平面部(c)83上にフロートシール部材70の平面部(a)81が突き当たり、上部流路部材73の突起部(a)80がフロートシール部材70の規制部79を図中矢印Bのように上側から所定量押し込みながら組み立てられる。これによって、規制部79の上下方向位置が固定され、さらには下部流路部材74の平面部(c)83により規制部70の平面部(a)81が均一に規制される。一方で、上記のように上部流路部材の突起部(a)80により、規制部79の上側の平面部(b)82が押し込まれることで、該規制部の上側の平面部(b)82は主に水平方向(図中C方向)に変形する。しかし、該規制部の下側の平面部(a)81側は下部流路部材74の平面部(c)83と面接触するために水平方向(C方向)変形が抑えられた状態となっている。よって、平面部(a)81側の規制部79の変形が極力抑えられた状態で上記液体排出装置が組み立てられるため、平面部(a)81の近傍から延びている薄肉のフロートシールリブ76自体の、組立て時に生じる不均一な変形を防止することが可能となる。
【0041】
図5に示す組立部品の寸法に関して、フロートシールリブ76の厚さ100を0.3mm、フロートシール部材の規制部79の厚さ101を1mm、規制部79の内径102を4mm、規制部79の外径103を8mm、上部流路部材73の周状突起部80の外径104を6mm、突起部80の高さ105を0.5mm、フロートシールリブ76の内径106を2mm、組立て時の突起部80の押込み量(侵入量)107を0.3mm、フロートシール部材70のゴム硬度を30度、とした。このような条件のフロートシール部材70によると、組み立て時に発生するフロートシールリブの不均一な変形が抑制でき、フロート弁のシール性を確実に保証できるという実験結果が得られている。
【0042】
図6(a)と図6(b)はそれぞれ、上記した実施例(図4)の代替の構成を示す流体排出装置の組立て前後の断面図を示している。これらの図に示す例では、フロートシール部材70のフロートシールリブ76が上部流路部材73側の平面部(b)82の近傍より形成され、平面部(b)82に対向する上部流路部材73の部位には平面部(d)88が形成されている。さらに、組み立て時にフロートシール部材70の平面部(a)81が突き当たる、下部流路部材74のフロート室72の周辺部には、突起部(b)90が連続的な周状に形成されている。
【0043】
このような構成部材で上記液体排出装置を組立てるとき、下側流路部材74に形成された突起部(b)90がフロートシール部材70の平面部(a)81を上方向に押込むことで、規制部79の上側に形成された平面部(b)82が上部流路部材73に形成された平面部(d)88に均一に突き当てられる。よって、平面部(b)82の側の規制部79の変形が極力抑えられた状態で液体排出装置が組立てられる。つまり、平面部(b)82の近傍から延びている薄肉のフロートシールリブ76自体の、組立て時に発生する不均一な変形を防止することが可能となる。
【0044】
(実施例2)
次に、本発明の第2の実施例を説明する。ここでは、上記第1の実施例と同じ構成部材には同一符号を用いることにし、異なる点を主に説明する。
【0045】
図7(a)と図7(b)は、それぞれ第2の実施例の流体排出装置の組立て前後の断面図を示している。
【0046】
上述した第1の実施例では、上部流路部材73または下部流路部材74のいずれかの、フロートシール部材70の規制部70に当接される部位に、突起部80または90が形成されている。しかし、このような突起部は、本実施例のようにフロートシール部材70の側に設けられていても良い。
【0047】
例えば図7に示すように、フロートシール部材70に設けられた突起部(c)91は、周状のリブで構成されている。そして、上部流路部材73の、突起部(c)91に対向する位置が平面部(d)88で形成されている。このような構成により、流体排出装置57の組み立て時に流路部材とフロートシール部材間をシールすることが可能になる。
【0048】
また、この構成においても、フロートシールリブ76の根元部の近傍の平面部(a)81は組立て時に変形しにくいため、組立て時のフロートシール部材70のフロートシールリブ76の不均一な変形を極力抑えることが可能となる。
【0049】
また図8(a)と図8(b)は、それぞれ、図7に示した形態とは別の形態の流体排出装置の組立て前後の断面図を示したものである。この図に示す例は、フロートシール部材70のフロートシールリブ76が規制部79の上側の平面部(b)82の近傍より形成され、またシール部材の突起部(c)91が規制部79の上側に配置された構成である。この構成の流体排出装置においても、図7に示した形態と同様な効果を得ることができる。
【0050】
(実施例3)
さらに、本発明の第3の実施例を説明する。なお、ここでは、上記第1の実施例と同じ構成部材には同一符号を用いることにし、異なる点を主に説明する。
【0051】
図9は第3の実施例の流体排出装置の断面図を示したものであり、図9(a)は該流体排出装置の組立て前の状態を示したものであり、図9(b)は該流体排出装置の組立て後の状態を示したものである。図10(a)、図10(b)は図9の詳細を示した拡大断面図である。
【0052】
本実施例においては、第1の実施例で示したフロートシール部材70の規制部79の外周にさらに部材間シール部84が設けられ、規制部79と部材間シール部84とは、柔軟性を有する薄肉部87で連結されている。部材間シール部84の上下両面にはそれぞれ、突起形状である部材間リブ(a)85と、部材間リブ(b)86が周状に配置されている。
【0053】
図10(a)に示すようにフロートシール部材70を下部流路部材74上に載せたとき、平面部(a)81と平面部(c)83、ならびに下側の部材リブ(b)86と平面部(f)92がそれぞれ接するように、下部流路部材74の平面部(c)83と平面部(f)92の間に段差が設けられている。
【0054】
図10(a)に示した状態から図10(b)のように上部流路部材73を下側に移動させると、上部流路部材73の側の平面部(e)89がフロートシール部材70の上部側の部材リブ(a)85と接する。さらに、上部流路部材73を下側へ押込むことで上下両方の部材間リブ85,86が変形し、上部流路部材73の突起部(a)80により規制部79の上側面が押されて変形する(図10(c))。
【0055】
上記の組み立ての際、上部流路部材73により押込まれた規制部79での押込み量(すなわち収縮量)をF1とすると、この量は、組立て前のフロートシール部材の規制部70の厚さ101から、組立て後の規制部70の厚さ111を引いたものである。また、部材リブ85,86での押込み量(すなわち収縮量)をF2とすると、この量は、組立て前のフロートシール部材の部材間リブ(a)85と部材間リブ(b)86間の距離110から、組立て後の平面部(e)89と平面部(f)92間の距離112を引いたものである。
【0056】
本実施例では、規制部79での押込み量F1と部材間リブ85,86での押込み量F2の関係を、F1<F2 とする。
【0057】
部材間リブでの押込み量F2は、フロート室72内の密閉性を保証するために、部材間リブ85,86を大きく変形させる必要があり、部材間シール部84全体としての変形量は大きくなってしまう。その一方で、規制部79での押込み量F1は、フロートシールリブ76の、組立て時の変形を抑えるために平面部(a)81の水平方向の伸びを平面部(c)83で規制する程度の押込み量でよいので、規制部79自体の変形量は少なく抑えられる。
【0058】
上記のように、上側流路部材73を下側に移動しフロートシール部材70の各部位(規制部と部材間リブ)を押込む条件において、各押込み量F1,F2の関係をF1<F2とすると、上記で説明したようなフロートシール部材70の各部位の押込み順序に必然的になる。つまり、最初に部材間リブ85、86が押込まれ、次に規制部79が押込まれる。
【0059】
また、フロートシールリブ76が平面部(a)81の近傍から形成されていることで、突起部(a)80の押込みにより規制部79の上側は水平方向(C方向)に若干変形する。一方で、同水平方向への平面部(a)81の変形は下部流路部材74の平面部(c)83で規制されているために不均一な変形が防止される。よって、平面部(a)81の近傍から延びているフロートシールリブ76自体の、組み立て時に生じる変形も防止することができる。
【0060】
また、規制部79と部材間シール部84の間の連結部材が薄肉部87で構成されていることで、組立て時に生じる部材間シール部84での変形量が、これに近接した規制部79、さらにはフロートシールリブ76に与える影響を抑えることができる。
【0061】
図10に示す組立部品の寸法に関して、フロートシールリブ76の厚さ100を0.3mm、フロートシール部材の規制部79の厚さ101を1mm、規制部79の内径102を4mm、規制部79の外径103を8mm、上部流路部材73の周状突起部80の外径94を6mm、突起部80の高さ95を0.5mm、フロートシールリブ76の内径106を2mm、周状の部材間リブ85,86の直径108を11mm、部材間リブ85,86の高さ109を0.5mm、薄肉部87の厚さを0.3mm、平面部(e)89の高さ113を0.3mm、フロートシール部材70のゴム硬度を30度、組立て後の突起部(a)80の押込み量F1を0.3mm、組立て後の部材間シール部84での押込み量F2を0.6mm、とした。このような条件のフロートシール部材70によると、組み立て時に発生するフロートシールリブ76の不均一な変形が抑制でき、フロート弁のシール性を確実に保証できるという実験結果が得られている。
【0062】
なお、上記第3の実施例の流体排出装置は、突起部(a)80に代えて、図11、図12、図13に示すような別の形態をとることも可能である。
【0063】
図11に示す例では、図10に示した構成のフロートシール部材70において規制部79の上側面に突起部(c)91が設けられており、その規制部79が対応する上部流路部材73の部位は平らになっている。組立て時に突起部(c)91が上部流路部材73で押し込まれるとき、規制部79の下側に構成されている平面部(a)81は下側流路部材74の平面部(c)83に全面的に当接し、平面部(a)81の水平方向の伸びが規制される。
【0064】
図12に示す例では、図10に示した構成のフロートシール部材70における規制部79が対応する下部流路部材74の部位に、周状の突起部(b)90が設けられており、その規制部79が対応する上部流路部材73の部位には平面部(g)93が設けられている。組立て時には、規制部79の下側の平面部(a)81に突起部(b)90が押し込まれ、規制部79の上側の平面部(b)82は上側流路部材73の平面部(g)93に全面的に当接する。そして、本例のフロートシールリブ76は、組立て時に規制部79の中で一番変形量が少ない平面部(b)82の近傍より形成されている。
【0065】
図13に示す例では、図10に示した構成のフロートシール部材70において下部流路部材74に対向する規制部79の部位に、突起部(c)91が設けられている。その規制部79が対応する上部流路部材73の部位には平面部(g)93が設けられている。組立て時には、規制部79の下側の突起部(c)91が下部流路部材74によって押し込まれ、規制部79の上側の平面部(b)82は上側流路部材73の平面部(g)93に全面的に当接する。そして、本例のフロートシールリブ76もまた、組立て時に規制部79の中で一番変形量が少ない平面部(b)82の近傍より形成されている。
【0066】
上記のようにフロートシール部材70の規制部79を押込む為の突起部と、フロートシールリブ76の位置の組み合わせを変えた別の形態の流体排出装置でも、フロートシールリブ76の、組立て時の不均一な変形を防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
59 流体排出流路
70 フロートシール部材
71 フロート部材
72 フロート室
73 上部流路部材
74 下部流路部材
75 流路貫通部
76 フロートシールリブ
77 規制平面部
78 シール部材側突起部
79 規制部
80 突起部(a)
81 平面部(a)
82 平面部(b)
83 平面部(c)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下にそれぞれ配置されて上下方向の流路を形成する上部流路部材および下部流路部材と、該上部流路部材および下部流路部材の間に周辺部が挟まれ、前記流路を貫通させる貫通穴が形成された弾性体からなるシール部材と、前記下部流路部材の液室に配された前記液体よりも比重の軽い球形のフロート部材と、を備え、前記フロート部材が前記液体の液面と共に上昇して前記シール部材と接触するときに前記貫通穴を遮断する、弁構造体において、
前記上部流路部材および前記下部流路部材はそれぞれ、前記シール部材の周辺部に対向する面を有し、
前記シール部材は、
前記上部流路部材と前記下部流路部材に挟まれることで位置が規制される、前記周辺部として前記貫通穴を中心に周状に形成された規制部と、
前記規制部から延びて前記貫通穴を形成する、前記規制部よりも薄肉のフロートシールリブと、を有し、
前記規制部の、前記下部流路部材に対向する部分の面は第1の平面部となっており、前記規制部の、前記上部流路部材に対向する部分の面は第2の平面部となっており、前記フロートシールリブは前記第1の平面部または前記第2の平面部のいずれかの側より延びており、
前記フロートシールリブが前記第1の平面部の側より延びている態様では、前記下部流路部材の、前記第1の平面部に対応する部分の面は平面部とされ、前記上部流路部材の、前記第2の平面部に対応する部分の面、または前記第2の平面部のいずれかに突起が形成されており、
前記フロートシールリブが前記第2の平面部の側より延びている態様では、前記上部流路部材の、前記第2の平面部に対応する部分の面が平面部とされ、前記下部流路部材の、前記第1の平面部に対応する部分の面、または前記第1の平面部のいずれかに突起が形成されていることを特徴とする弁構造体。
【請求項2】
前記突起は連続的な周状リブを形成していることを特徴とする請求項1に記載の弁構造体。
【請求項3】
前記周辺部は、前記規制部の外周に設けられ、前記下部流路部材と前記上部流路部材に挟まれることで前記下部流路部材と前記上部流路部材の間を密閉する部材間シール部をさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載の弁構造体。
【請求項4】
前記規制部と前記部材間シール部は、前記規制部よりも薄肉の部材で連結されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の弁構造体。
【請求項5】
前記上部流路部材と前記下部流路部材により前記シール部材の前記規制部を押し込んだときの該規制部の収縮量(F1)と、前記上部流路部材と下部流路部材により前記シール部材の前記部材間シール部を押し込んだときの該部材間シール部の収縮量(F2)の関係を、F1<F2 とすることを特徴とする請求項3または4に記載の弁構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−219982(P2012−219982A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89214(P2011−89214)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】