張力調整装置
【課題】細線材の張力調整装置において低張力を精度良く調整可能な簡易な構成を提供する。
【解決手段】張力調整装置20のダンサーロール28を、支持台32上におかれた筒状スリーブ34の外周部に回転可能に軸支する。スリーブ34の内周面には、磁界発生用コイル38が同軸状に固定され、コイル38の軸心には永久磁石40が貫通されるように配置される。永久磁石40は、N極とS極の磁極が長手方向に交互に現れるように形成された棒状の磁石であり、その両端は支持台32上に形成されたストッパ42,44に固定される。この構成において、コイル38に電流を流すと磁力が発生し、これが推力となってコイル38とスリーブ34は一体として水平方向に移動し、スリーブ34に軸支されたダンサーロール28は水平方向に変位する。
【解決手段】張力調整装置20のダンサーロール28を、支持台32上におかれた筒状スリーブ34の外周部に回転可能に軸支する。スリーブ34の内周面には、磁界発生用コイル38が同軸状に固定され、コイル38の軸心には永久磁石40が貫通されるように配置される。永久磁石40は、N極とS極の磁極が長手方向に交互に現れるように形成された棒状の磁石であり、その両端は支持台32上に形成されたストッパ42,44に固定される。この構成において、コイル38に電流を流すと磁力が発生し、これが推力となってコイル38とスリーブ34は一体として水平方向に移動し、スリーブ34に軸支されたダンサーロール28は水平方向に変位する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子に用いる細線材の製造工程において、細線材の張力を制御するのに適した張力調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、図6に示すような線材の張力調整装置10が知られている。これは、上下動するダンサーロール12をバネの弾性力や磁力などの付勢手段14で付勢することによって線材16の張力を調整する構成となっている。こうした張力調整装置は、例えば線材製造設備における線材の巻き替えや、線材を焼鈍する際の熱処理工程において、線材の張力を一定に保つのに用いられている。線材の張力の調整は、製造される線材の品質に影響を与えることが知られている。張力を一定に維持できないと、線材の直進性に影響を与えたり、断線を引き起こすことがある。
【0003】
こうした張力調整装置の代表的なものとしては、例えば特許文献1に示される張力調整装置が知られているが、これは、上下動するダンサーロールを磁力で支持する構成になっている。これは、ダンサーロールの自重を磁力でバランスをとることで安定を保ち、ダンサーロールを中立位置に保持するようになっている。そして、線材の張力が変化してダンサーロールが中立位置からずれて変位すると、線材を繰り出すためのモータを稼動させることにより線材の張力を一定に保つように制御されている。
【特許文献1】特開平11−171404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、線材の細線化が進んでおり、こうした中、細線の破断強度を超えない低張力を安定的に付与することができる技術の開発が求められている。
【0005】
しかし、上記の張力調整装置では、ダンサーロールが上下方向に変位する構成であることから、張力を付与する方向にダンサーロールの自重が常に作用するようになっている。このように、上記の張力調整装置は、ダンサーロールの自重の影響を直接受ける構成のため、付与張力が容易に変動しやすいものとなっている。このような張力の変動は通常、線材に必要とされる付与張力が2〜3gf(0.0196〜0.0294N)程度のものであれば特に問題とはならない。しかし、0.5gf(0.0049N)程度以下の比較的小さい張力を調整する必要がある場合には無視できないものとなる。このように上記の張力調整装置は、ダンサーロールの自重の影響を受けやすいので、線材の張力を細かく調整したり、低い張力を調整することが困難となっていた。
【0006】
また、上記の張力調整装置においては、磁力にはダンサーロールが変位する方向とは逆向きの復元力が作用するようになっている。特にダンサーロールの自重が大きい場合には、この自重を支持するため大きな磁力が必要になるとともに、復元力作用下における慣性が大きくなって、線材に付与する張力に対する変動追従性は良好でなくなる。このため、低張力を適切に調整することは困難であった。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたものであり、張力調整装置における張力変動を抑制するとともに、低張力を安定的に付与することができる構成を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る張力調整装置は、線条体の張力に応じて変位するダンサーロールによって線条体の張力を調整するための張力調整装置において、ダンサーロールは水平方向に変位自在に支持されるとともに、該ダンサーロールを介して線条体に張力を付与する張力付与手段が設けられることを特徴とする。
本発明によれば、張力調整の際にダンサーロールの自重による影響を低減することができる。
【0009】
本発明に係る他の張力調整装置は、上記において、張力付与手段は、ダンサーロールを回転自在に支持するスライダと、該スライダを水平方向に移動自在に支持するガイドレールと、ガイドレールによって形成した磁界との間で、スライダに磁力による推力を作用させて線条体に張力を付与する付勢機構とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、張力調整の際にダンサーロールの自重による影響を低減することができるとともに、スライダの移動に応じてダンサーロールが水平方向に移動する。
【0010】
本発明に係る他の張力調整装置は、上記において、スライダは支持台上に間隔をおいて配置され、スライダと支持台との間に圧縮流体を送り出す流体供給部を有するスライダ浮上手段を備えることを特徴とする。
本発明によれば、スライダと支持台の間の摩擦抵抗が低減される。
【0011】
本発明に係る張力調整装置を備えた線条体繰出し装置は、上記の張力調整装置を備えた線条体繰出し装置であって、ダンサーロールの水平方向の変位量を検出する位置検出手段と、その検出結果に基づき、線条体の繰出し量を調整する繰り出し量調整手段とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、ダンサーロールの水平方向の変位量が容易に検出されるとともに、線条体の繰り出し量を容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、張力調整装置における張力変動を抑制することができるとともに、低張力を安定的に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明に係る実施の形態につき、図面を用いて詳細に説明する。図1は本実施形態に係る張力調整装置20の一例を示す概要図であり、図2は本実施形態に係る張力調整装置20におけるダンサーロールの移動機構の一例を示す断面図であり、図3はダンサーロールの移動機構の正面図、図4は背面図、図5は側面図である。
【0014】
図1に示すように、張力調整装置20は、繰り出しボビン22から繰り出される細線材26が係合されたダンサーロール28を備えている。ダンサーロール28は、支持台32上に設けられたスリーブ34に回転自在に支持されており、スリーブ34の内側にはコイル38が巻装固定されている。そして、このコイル38の軸心を棒状の永久磁石40が貫通するように配置され、永久磁石40の両端は支持台32のストッパ42、44に固定されている。コイル38に電流を流すと永久磁石40との間には磁力による推力が生じて、スリーブ34を水平方向に移動させるようになっている。そして、このスリーブ34の水平方向の変位量は支持台32に設けられた線条体繰出し装置48のスリーブ変位量検出部46によって検出される。この検出値に基づいて線条体繰出し装置48が繰り出しボビン22のモータ(不図示)の回転速度を制御することで線材26の繰り出し量を調整するようになっている。
【0015】
スリーブ34は、図2〜5に示すように、矩形断面の筒状をなしており、開口面が水平方向に向くようにして支持台32上に設けられる。スリーブ34の胴部前面中央には軸受36が設けられており、この軸受36にダンサーロール28のロール軸30が支持されて、ダンサーロール28は鉛直面内で回転自在になっている。
【0016】
コイル38は、スリーブ34の内側の面に巻装固定されている。そして、このコイル38の軸心を貫通するように水平方向に延びた棒状の永久磁石40が配置されるようになっており、永久磁石40の両端は支持台32上に上方に突き出て設けられたストッパ42、44に固定されることで、支持台32上を動かないようになっている。この永久磁石40は、N極とS極の磁極が長手方向に交互に現れるように形成された棒状の磁石として形成される。この構成において、コイル38に電流を流すと、コイル38が形成する磁界と永久磁石40が形成する磁界との間の相互作用により反発力および吸引力が生じ、これが推力として転化され、スリーブ34はコイル38とともに永久磁石40に案内されるようにして水平方向に移動する。このように、永久磁石40はガイドレールとして機能し、コイル38と永久磁石40とが付勢機構として機能するようになっている。そして、スリーブ34は、ダンサーロール28を伴って支持台32上を水平方向に移動可能なスライダとして機能するようになっている。
【0017】
また、本実施形態の張力調整装置20を備えた線条体繰出し装置48は、図2〜5に示すように、スリーブ変位量検出部46をさらに備える。スリーブ変位量検出部46は、スリーブ34の胴部後面中央に設けられ、ダンサーロール28の水平方向の変位量を検出する位置検出手段として用いられる。
【0018】
また、本実施形態の張力調整装置20を備えた線条体繰出し装置48は、図1に示すように、繰り出しボビン22からの線材26の繰り出し量を調整するために用いられ、スリーブ変位量検出部46で検出したスリーブ34の水平方向変位量を受け取り、この変位量に基づいて、繰り出しボビン22のモータ(不図示)の回転を制御することで線材26の張力を調整するようになっている。
【0019】
線条体繰出し装置48のスリーブ変位量検出部46は、ダンサーロール28の水平方向変位量を検出するために用いられる。このスリーブ変位量検出部46は、スリーブ34の胴部後面中央からダンサーロール28の軸心延長上に後方に突き出た軸50と、軸50の後端に同軸状に回転自在に軸支された円柱部材52と、この円柱部材52の水平方向左右に当接するように設けられた2本のアーム54、56と、2本のアーム54、56の下端をつなぐ連結部材57と、連結部材57の左右方向略中央部から後方に伸びて支持台32上の取り付け部58にヒンジ結合することで左右方向に揺動可能な出力軸60と、支持台32の後面側のダンサーロール28の軸心延長上に設けられ、出力軸60の回転角度を受け取る回転量検出センサ49とから構成されるロータリーエンコーダとなっている。そして、スリーブ変位量検出部46は、スリーブ34が水平方向に動くと円柱部材52に当接するアーム54、56が傾き、その角度を出力軸60の回転量を回転量検出センサ49で検出することによりスリーブ34の水平方向の変位量を検出することができるようになっている。
【0020】
上記構成の動作を説明する。線材26の張力が変化すると、ダンサーロール28が水平方向に変位する。この変位量は線条体繰出し装置48のスリーブ変位量検出部46で検出され、線条体繰出し装置48に送られて線材26の張力を検出する。そして、検出された張力に基づいて線材26に付与すべき張力を設定し、この張力が線材26に付与されるように線材26の繰り出しボビン22を回転させるモータ(不図示)を駆動制御して、繰り出し量を調整する。また、これと同時に、線条体繰出し装置48は、コイル38に電流を流すように制御する。そして、コイル38に電流が流れると、コイル38が形成する磁界と永久磁石40が形成する磁界との間の相互作用により反発力および吸引力が生じ、これが推力として転化され、スリーブ34はコイル38とともに永久磁石40に案内されるようにして水平方向に移動する。従って、スリーブ34に軸支されたダンサーロール28はスリーブ34とともに水平方向に移動する。このようにダンサーロール28の移動方向をダンサーロール28の自重の影響を受けにくい水平方向にすることにより、線材の張力を安定的に付与することができる。また、比較的低い張力であっても精度よく調整することができる。なお、コイル38と永久磁石40との間に必要とされる電磁力は、1gf(0.0098N)程度以下の張力を制御できる大きさ程度のものでよい。
【0021】
上記動作について、より具体的に説明する。線材26の張力が変化して所定値より高まると、この張力に引っ張られるようにしてダンサーロール28は例えば図1における水平方向左へ移動する。そして、このダンサーロール28の左への変位量をスリーブ変位量検出部46において検出し、線条体繰出し装置48に送られて線材26の張力を検出する。そして、線条体繰出し装置48は検出された張力に基づいて線材26に付与すべき張力を設定して、線材26に付与されるように線材26の繰り出しボビン22を回転させるモータ(不図示)を駆動制御して、繰り出し量を調整する。また、これと同時に、線条体繰出し装置48は、コイル38に所定のタイミングで電流を流すように制御する。これによってコイル38に電流が流れると、コイル38が形成する磁界と永久磁石40が形成する磁界との間の相互作用により反発力および吸引力が生じ、これが推力として転化され、スリーブ34はコイル38とともに永久磁石40に案内されるようにして水平方向右に移動する。従って、スリーブ34に軸支されたダンサーロール28はスリーブ34とともに水平方向右に移動する。このようにして、ダンサーロール28は、線材26の張力が所定値より高まると線材26の張力を低める方向へ、例えば図1に示す水平方向左へ移動するように制御される。なお、上記において線材26の張力が変化して所定値より低くなった場合についても同様の動作となるが、この場合には、スリーブ34及びダンサーロール28は水平方向左へ移動するように制御される。
【0022】
この張力調整装置20は、さらに、図3に示すように、スリーブ34と支持台32の間における接触による摩擦抵抗を低減するためのスライダ浮上手段として、エアスライダ手段64を備えるようにしてもよい。エアスライダ手段64は、スリーブ34の下面に軸方向に設けられた凹状の溝66と、支持台32のスリーブ34の下面に対向する面の水平方向略中央に設けられ、スリーブ34に設けられた溝66へ圧縮空気を供給するための圧縮空気供給用の孔68と、この孔68に連通して支持台32内部を通るように設けられた圧縮空気供給路70と、この圧縮空気供給路70に空気を送り出すためのコンプレッサ(不図示)とから構成される。この構成において、コンプレッサから送られた圧縮空気は圧縮空気供給路70を通って孔68から噴出し、スリーブ34下面の溝66に導かれる。これによって、スリーブ34が支持台32上を水平移動する際のスリーブ34と支持台32の間の摩擦抵抗を低減することができる。このように、エアスライダ手段64は、スリーブ34の移動時、すなわちダンサーロール28移動時の摩擦抵抗の影響を小さくできるので、線材26の張力をより精度良く調整することが可能である。このようなエアスライダ手段64を用いると、例えば、0.5gf(0.0049N)程度以下の低張力を調整する際に摩擦抵抗の影響を小さくできて有利である。
【0023】
上記の実施形態において、スリーブ変位量検出部46のようなロータリーエンコーダを用いる代わりに、リニアエンコーダを用いることで、スリーブ34の水平方向の変位量を検出するようにしてもよい。
【0024】
また、上記の実施形態において、エアスライダ手段64は、圧縮空気の供給量を適宜調整できるような構成を用いてもよく、これにより、スリーブ34を支持台32から任意のクリアランスをもって空中浮上させた状態に維持することもでき、スリーブ34と支持台32の間の接触による摩擦抵抗をより小さくできる。このようにすることで、スリーブ34およびダンサーロール28は、支持台32上を接触による摩擦抵抗を受けることなくスムーズに動くことができ、張力の調整をより精度よく行うことができる。
【0025】
上記のように、本発明に係る張力調整装置20は、ダンサーロール28の移動方向が水平方向になっているので、ダンサーロール28の自重による影響を考慮する必要がない。さらに、水平方向の推力により一体的に可動するダンサーロール28、スリーブ34及びコイル38を軽量な材料で構成するようにすれば、移動に対する制御応答性をより向上させることができる。
【0026】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせあるいは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る張力調整装置の実施形態の一例を示す概要図である。
【図2】本発明に係る張力調整装置の実施形態のダンサーロールの移動機構の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る張力調整装置の実施形態のダンサーロールの移動機構の一例を示す正面図である。
【図4】本発明に係る張力調整装置の実施形態のダンサーロールの移動機構の一例を示す背面図である。
【図5】本発明に係る張力調整装置の実施形態のダンサーロールの移動機構の一例を示す側面図である。
【図6】従来の張力調整装置の概要図である。
【符号の説明】
【0028】
20…張力調整装置
22…繰り出しボビン
26…線材
28…ダンサーロール
32…支持台
34…スリーブ(スライダ)
38…コイル(付勢機構)
40…永久磁石(ガイドレール)
46…スリーブ変位量検出部(位置検出手段)
48…線条体繰出し装置
49…回転量検出センサ
64…エアスライダ手段(スライダ浮上手段)
70…圧縮空気供給路
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子に用いる細線材の製造工程において、細線材の張力を制御するのに適した張力調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、図6に示すような線材の張力調整装置10が知られている。これは、上下動するダンサーロール12をバネの弾性力や磁力などの付勢手段14で付勢することによって線材16の張力を調整する構成となっている。こうした張力調整装置は、例えば線材製造設備における線材の巻き替えや、線材を焼鈍する際の熱処理工程において、線材の張力を一定に保つのに用いられている。線材の張力の調整は、製造される線材の品質に影響を与えることが知られている。張力を一定に維持できないと、線材の直進性に影響を与えたり、断線を引き起こすことがある。
【0003】
こうした張力調整装置の代表的なものとしては、例えば特許文献1に示される張力調整装置が知られているが、これは、上下動するダンサーロールを磁力で支持する構成になっている。これは、ダンサーロールの自重を磁力でバランスをとることで安定を保ち、ダンサーロールを中立位置に保持するようになっている。そして、線材の張力が変化してダンサーロールが中立位置からずれて変位すると、線材を繰り出すためのモータを稼動させることにより線材の張力を一定に保つように制御されている。
【特許文献1】特開平11−171404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、線材の細線化が進んでおり、こうした中、細線の破断強度を超えない低張力を安定的に付与することができる技術の開発が求められている。
【0005】
しかし、上記の張力調整装置では、ダンサーロールが上下方向に変位する構成であることから、張力を付与する方向にダンサーロールの自重が常に作用するようになっている。このように、上記の張力調整装置は、ダンサーロールの自重の影響を直接受ける構成のため、付与張力が容易に変動しやすいものとなっている。このような張力の変動は通常、線材に必要とされる付与張力が2〜3gf(0.0196〜0.0294N)程度のものであれば特に問題とはならない。しかし、0.5gf(0.0049N)程度以下の比較的小さい張力を調整する必要がある場合には無視できないものとなる。このように上記の張力調整装置は、ダンサーロールの自重の影響を受けやすいので、線材の張力を細かく調整したり、低い張力を調整することが困難となっていた。
【0006】
また、上記の張力調整装置においては、磁力にはダンサーロールが変位する方向とは逆向きの復元力が作用するようになっている。特にダンサーロールの自重が大きい場合には、この自重を支持するため大きな磁力が必要になるとともに、復元力作用下における慣性が大きくなって、線材に付与する張力に対する変動追従性は良好でなくなる。このため、低張力を適切に調整することは困難であった。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたものであり、張力調整装置における張力変動を抑制するとともに、低張力を安定的に付与することができる構成を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る張力調整装置は、線条体の張力に応じて変位するダンサーロールによって線条体の張力を調整するための張力調整装置において、ダンサーロールは水平方向に変位自在に支持されるとともに、該ダンサーロールを介して線条体に張力を付与する張力付与手段が設けられることを特徴とする。
本発明によれば、張力調整の際にダンサーロールの自重による影響を低減することができる。
【0009】
本発明に係る他の張力調整装置は、上記において、張力付与手段は、ダンサーロールを回転自在に支持するスライダと、該スライダを水平方向に移動自在に支持するガイドレールと、ガイドレールによって形成した磁界との間で、スライダに磁力による推力を作用させて線条体に張力を付与する付勢機構とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、張力調整の際にダンサーロールの自重による影響を低減することができるとともに、スライダの移動に応じてダンサーロールが水平方向に移動する。
【0010】
本発明に係る他の張力調整装置は、上記において、スライダは支持台上に間隔をおいて配置され、スライダと支持台との間に圧縮流体を送り出す流体供給部を有するスライダ浮上手段を備えることを特徴とする。
本発明によれば、スライダと支持台の間の摩擦抵抗が低減される。
【0011】
本発明に係る張力調整装置を備えた線条体繰出し装置は、上記の張力調整装置を備えた線条体繰出し装置であって、ダンサーロールの水平方向の変位量を検出する位置検出手段と、その検出結果に基づき、線条体の繰出し量を調整する繰り出し量調整手段とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、ダンサーロールの水平方向の変位量が容易に検出されるとともに、線条体の繰り出し量を容易に調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、張力調整装置における張力変動を抑制することができるとともに、低張力を安定的に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明に係る実施の形態につき、図面を用いて詳細に説明する。図1は本実施形態に係る張力調整装置20の一例を示す概要図であり、図2は本実施形態に係る張力調整装置20におけるダンサーロールの移動機構の一例を示す断面図であり、図3はダンサーロールの移動機構の正面図、図4は背面図、図5は側面図である。
【0014】
図1に示すように、張力調整装置20は、繰り出しボビン22から繰り出される細線材26が係合されたダンサーロール28を備えている。ダンサーロール28は、支持台32上に設けられたスリーブ34に回転自在に支持されており、スリーブ34の内側にはコイル38が巻装固定されている。そして、このコイル38の軸心を棒状の永久磁石40が貫通するように配置され、永久磁石40の両端は支持台32のストッパ42、44に固定されている。コイル38に電流を流すと永久磁石40との間には磁力による推力が生じて、スリーブ34を水平方向に移動させるようになっている。そして、このスリーブ34の水平方向の変位量は支持台32に設けられた線条体繰出し装置48のスリーブ変位量検出部46によって検出される。この検出値に基づいて線条体繰出し装置48が繰り出しボビン22のモータ(不図示)の回転速度を制御することで線材26の繰り出し量を調整するようになっている。
【0015】
スリーブ34は、図2〜5に示すように、矩形断面の筒状をなしており、開口面が水平方向に向くようにして支持台32上に設けられる。スリーブ34の胴部前面中央には軸受36が設けられており、この軸受36にダンサーロール28のロール軸30が支持されて、ダンサーロール28は鉛直面内で回転自在になっている。
【0016】
コイル38は、スリーブ34の内側の面に巻装固定されている。そして、このコイル38の軸心を貫通するように水平方向に延びた棒状の永久磁石40が配置されるようになっており、永久磁石40の両端は支持台32上に上方に突き出て設けられたストッパ42、44に固定されることで、支持台32上を動かないようになっている。この永久磁石40は、N極とS極の磁極が長手方向に交互に現れるように形成された棒状の磁石として形成される。この構成において、コイル38に電流を流すと、コイル38が形成する磁界と永久磁石40が形成する磁界との間の相互作用により反発力および吸引力が生じ、これが推力として転化され、スリーブ34はコイル38とともに永久磁石40に案内されるようにして水平方向に移動する。このように、永久磁石40はガイドレールとして機能し、コイル38と永久磁石40とが付勢機構として機能するようになっている。そして、スリーブ34は、ダンサーロール28を伴って支持台32上を水平方向に移動可能なスライダとして機能するようになっている。
【0017】
また、本実施形態の張力調整装置20を備えた線条体繰出し装置48は、図2〜5に示すように、スリーブ変位量検出部46をさらに備える。スリーブ変位量検出部46は、スリーブ34の胴部後面中央に設けられ、ダンサーロール28の水平方向の変位量を検出する位置検出手段として用いられる。
【0018】
また、本実施形態の張力調整装置20を備えた線条体繰出し装置48は、図1に示すように、繰り出しボビン22からの線材26の繰り出し量を調整するために用いられ、スリーブ変位量検出部46で検出したスリーブ34の水平方向変位量を受け取り、この変位量に基づいて、繰り出しボビン22のモータ(不図示)の回転を制御することで線材26の張力を調整するようになっている。
【0019】
線条体繰出し装置48のスリーブ変位量検出部46は、ダンサーロール28の水平方向変位量を検出するために用いられる。このスリーブ変位量検出部46は、スリーブ34の胴部後面中央からダンサーロール28の軸心延長上に後方に突き出た軸50と、軸50の後端に同軸状に回転自在に軸支された円柱部材52と、この円柱部材52の水平方向左右に当接するように設けられた2本のアーム54、56と、2本のアーム54、56の下端をつなぐ連結部材57と、連結部材57の左右方向略中央部から後方に伸びて支持台32上の取り付け部58にヒンジ結合することで左右方向に揺動可能な出力軸60と、支持台32の後面側のダンサーロール28の軸心延長上に設けられ、出力軸60の回転角度を受け取る回転量検出センサ49とから構成されるロータリーエンコーダとなっている。そして、スリーブ変位量検出部46は、スリーブ34が水平方向に動くと円柱部材52に当接するアーム54、56が傾き、その角度を出力軸60の回転量を回転量検出センサ49で検出することによりスリーブ34の水平方向の変位量を検出することができるようになっている。
【0020】
上記構成の動作を説明する。線材26の張力が変化すると、ダンサーロール28が水平方向に変位する。この変位量は線条体繰出し装置48のスリーブ変位量検出部46で検出され、線条体繰出し装置48に送られて線材26の張力を検出する。そして、検出された張力に基づいて線材26に付与すべき張力を設定し、この張力が線材26に付与されるように線材26の繰り出しボビン22を回転させるモータ(不図示)を駆動制御して、繰り出し量を調整する。また、これと同時に、線条体繰出し装置48は、コイル38に電流を流すように制御する。そして、コイル38に電流が流れると、コイル38が形成する磁界と永久磁石40が形成する磁界との間の相互作用により反発力および吸引力が生じ、これが推力として転化され、スリーブ34はコイル38とともに永久磁石40に案内されるようにして水平方向に移動する。従って、スリーブ34に軸支されたダンサーロール28はスリーブ34とともに水平方向に移動する。このようにダンサーロール28の移動方向をダンサーロール28の自重の影響を受けにくい水平方向にすることにより、線材の張力を安定的に付与することができる。また、比較的低い張力であっても精度よく調整することができる。なお、コイル38と永久磁石40との間に必要とされる電磁力は、1gf(0.0098N)程度以下の張力を制御できる大きさ程度のものでよい。
【0021】
上記動作について、より具体的に説明する。線材26の張力が変化して所定値より高まると、この張力に引っ張られるようにしてダンサーロール28は例えば図1における水平方向左へ移動する。そして、このダンサーロール28の左への変位量をスリーブ変位量検出部46において検出し、線条体繰出し装置48に送られて線材26の張力を検出する。そして、線条体繰出し装置48は検出された張力に基づいて線材26に付与すべき張力を設定して、線材26に付与されるように線材26の繰り出しボビン22を回転させるモータ(不図示)を駆動制御して、繰り出し量を調整する。また、これと同時に、線条体繰出し装置48は、コイル38に所定のタイミングで電流を流すように制御する。これによってコイル38に電流が流れると、コイル38が形成する磁界と永久磁石40が形成する磁界との間の相互作用により反発力および吸引力が生じ、これが推力として転化され、スリーブ34はコイル38とともに永久磁石40に案内されるようにして水平方向右に移動する。従って、スリーブ34に軸支されたダンサーロール28はスリーブ34とともに水平方向右に移動する。このようにして、ダンサーロール28は、線材26の張力が所定値より高まると線材26の張力を低める方向へ、例えば図1に示す水平方向左へ移動するように制御される。なお、上記において線材26の張力が変化して所定値より低くなった場合についても同様の動作となるが、この場合には、スリーブ34及びダンサーロール28は水平方向左へ移動するように制御される。
【0022】
この張力調整装置20は、さらに、図3に示すように、スリーブ34と支持台32の間における接触による摩擦抵抗を低減するためのスライダ浮上手段として、エアスライダ手段64を備えるようにしてもよい。エアスライダ手段64は、スリーブ34の下面に軸方向に設けられた凹状の溝66と、支持台32のスリーブ34の下面に対向する面の水平方向略中央に設けられ、スリーブ34に設けられた溝66へ圧縮空気を供給するための圧縮空気供給用の孔68と、この孔68に連通して支持台32内部を通るように設けられた圧縮空気供給路70と、この圧縮空気供給路70に空気を送り出すためのコンプレッサ(不図示)とから構成される。この構成において、コンプレッサから送られた圧縮空気は圧縮空気供給路70を通って孔68から噴出し、スリーブ34下面の溝66に導かれる。これによって、スリーブ34が支持台32上を水平移動する際のスリーブ34と支持台32の間の摩擦抵抗を低減することができる。このように、エアスライダ手段64は、スリーブ34の移動時、すなわちダンサーロール28移動時の摩擦抵抗の影響を小さくできるので、線材26の張力をより精度良く調整することが可能である。このようなエアスライダ手段64を用いると、例えば、0.5gf(0.0049N)程度以下の低張力を調整する際に摩擦抵抗の影響を小さくできて有利である。
【0023】
上記の実施形態において、スリーブ変位量検出部46のようなロータリーエンコーダを用いる代わりに、リニアエンコーダを用いることで、スリーブ34の水平方向の変位量を検出するようにしてもよい。
【0024】
また、上記の実施形態において、エアスライダ手段64は、圧縮空気の供給量を適宜調整できるような構成を用いてもよく、これにより、スリーブ34を支持台32から任意のクリアランスをもって空中浮上させた状態に維持することもでき、スリーブ34と支持台32の間の接触による摩擦抵抗をより小さくできる。このようにすることで、スリーブ34およびダンサーロール28は、支持台32上を接触による摩擦抵抗を受けることなくスムーズに動くことができ、張力の調整をより精度よく行うことができる。
【0025】
上記のように、本発明に係る張力調整装置20は、ダンサーロール28の移動方向が水平方向になっているので、ダンサーロール28の自重による影響を考慮する必要がない。さらに、水平方向の推力により一体的に可動するダンサーロール28、スリーブ34及びコイル38を軽量な材料で構成するようにすれば、移動に対する制御応答性をより向上させることができる。
【0026】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせあるいは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る張力調整装置の実施形態の一例を示す概要図である。
【図2】本発明に係る張力調整装置の実施形態のダンサーロールの移動機構の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に係る張力調整装置の実施形態のダンサーロールの移動機構の一例を示す正面図である。
【図4】本発明に係る張力調整装置の実施形態のダンサーロールの移動機構の一例を示す背面図である。
【図5】本発明に係る張力調整装置の実施形態のダンサーロールの移動機構の一例を示す側面図である。
【図6】従来の張力調整装置の概要図である。
【符号の説明】
【0028】
20…張力調整装置
22…繰り出しボビン
26…線材
28…ダンサーロール
32…支持台
34…スリーブ(スライダ)
38…コイル(付勢機構)
40…永久磁石(ガイドレール)
46…スリーブ変位量検出部(位置検出手段)
48…線条体繰出し装置
49…回転量検出センサ
64…エアスライダ手段(スライダ浮上手段)
70…圧縮空気供給路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体の張力に応じて変位するダンサーロールによって線条体の張力を調整するための張力調整装置において、
ダンサーロールは水平方向に変位自在に支持されるとともに、該ダンサーロールを介して線条体に張力を付与する張力付与手段が設けられること
を特徴とする張力調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の張力調整装置において、
張力付与手段は、
ダンサーロールを回転自在に支持するスライダと、
該スライダを水平方向に移動自在に支持するガイドレールと、
ガイドレールによって形成した磁界との間で、スライダに磁力による推力を作用させて線条体に張力を付与する付勢機構とを備えること
を特徴とする張力調整装置。
【請求項3】
請求項2に記載の張力調整装置において、
スライダは支持台上に間隔をおいて配置され、
スライダと支持台との間に圧縮流体を送り出す流体供給部を有するスライダ浮上手段を備えること
を特徴とする張力調整装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の張力調整装置を備えた線条体繰出し装置であって、
ダンサーロールの水平方向の変位量を検出する位置検出手段と、
その検出結果に基づき、線条体の繰出し量を調整する繰り出し量調整手段とを備えること
を特徴とする線条体繰出し装置。
【請求項1】
線条体の張力に応じて変位するダンサーロールによって線条体の張力を調整するための張力調整装置において、
ダンサーロールは水平方向に変位自在に支持されるとともに、該ダンサーロールを介して線条体に張力を付与する張力付与手段が設けられること
を特徴とする張力調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の張力調整装置において、
張力付与手段は、
ダンサーロールを回転自在に支持するスライダと、
該スライダを水平方向に移動自在に支持するガイドレールと、
ガイドレールによって形成した磁界との間で、スライダに磁力による推力を作用させて線条体に張力を付与する付勢機構とを備えること
を特徴とする張力調整装置。
【請求項3】
請求項2に記載の張力調整装置において、
スライダは支持台上に間隔をおいて配置され、
スライダと支持台との間に圧縮流体を送り出す流体供給部を有するスライダ浮上手段を備えること
を特徴とする張力調整装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の張力調整装置を備えた線条体繰出し装置であって、
ダンサーロールの水平方向の変位量を検出する位置検出手段と、
その検出結果に基づき、線条体の繰出し量を調整する繰り出し量調整手段とを備えること
を特徴とする線条体繰出し装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2008−239264(P2008−239264A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78692(P2007−78692)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000217332)田中電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000217332)田中電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】
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