強化ガラスおよび強化ガラスの製造方法
【課題】ガラス板の製造の際に、ガラス成形後の加工処理の効率に悪影響を与えず、化学強化する前のガラス表面に傷が付き難い程度にガラス表面が強化された強化ガラスと、この強化ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス板が化学強化された強化ガラスは、ダウンドロー法で製造される。強化ガラスには、強化ガラスの厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成される。前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記ガラス板の厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置からガラス板のガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少する。さらに、ガラス板には、イオン交換により化学強化されたイオン交換処理領域が前記ガラス板の表面に形成される。
【解決手段】ガラス板が化学強化された強化ガラスは、ダウンドロー法で製造される。強化ガラスには、強化ガラスの厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成される。前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記ガラス板の厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置からガラス板のガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少する。さらに、ガラス板には、イオン交換により化学強化されたイオン交換処理領域が前記ガラス板の表面に形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラスおよびダウンドロー法で強化ガラスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末装置)、太陽電池、フラットパネルディスプレイのカバーガラスに強化ガラスが用いられる。
【0003】
このようなカバーガラスを製造するには、ダウンドロー法が最もよく使用される。ダウンドロー法では、溶融ガラスを成形装置の溝からオーバーフローさせることで帯状のガラスリボンが連続的に成形される。その際、ガラスリボンをローラ等によって下方に引き下げる。このときガラスリボンの引き下げ速度によってガラスリボンの厚さの調整が行われる。その後、ガラスリボンが所定長さで切断されて、ガラス板が製造される。
【0004】
例えば、特許文献1には、図11に示すようなガラス板製造装置が開示されている。このガラス板製造装置は、成形装置7と、成形装置7を取り囲む断熱構造体8とを備えている。断熱構造体8は、成形装置7の回りに高温の空気を保つことにより成形装置7からオーバーフローする溶融ガラスの温度を維持するためのものであり、通常は、ガラスリボンを通過させるゲート81以外は密閉構造とされる。
【0005】
具体的に、特許文献1に開示されたガラス板製造装置では、断熱構造体8が、下方に開口する容器状の主体8Aと、主体8Aの開口を塞ぐように配置されたゲート構成体8Bで構成されている。ゲート構成体8Bの内部は空洞となっており、このゲート構成体8Bの内部には冷却管82を通じて冷却用空気が供給されるようになっている。これにより、特許文献1に開示されたガラス板製造装置では、ガラスリボン9を形成直後から冷却できるようになっている。
【0006】
また、薄型化、軽量化が可能で、機械的強度や透明性が高く、しかも短時間で製造可能なディスプレイ用ガラス基板が知られている(特許文献2)。このガラス基板は、 SiO2を40〜70重量%、Al2O3を0.1〜20重量%、Na2Oを0〜20重量%、Li2Oを0〜15重量%、ZrO2を0.1〜9重量%含有し、Li2OとNa2Oの合計含有量が3〜20重量%であるガラス材料で形成される。このガラス基板の表面には化学強化処理により深さ50μm以上の圧縮応力層が形成される。
【0007】
また、アニール点より高い第1の温度から歪点より低い第2の温度に急冷し、イオン交換により化学強化処理を行って、表面から少なくとも20μmの深さを持つイオン交換表面層を有するガラスが知られている(特許文献3)。
【0008】
さらに、高い機械的強度が得られるように、ガラス内の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを適正化することができ、しかも熱加工を容易に行うことができる強化ガラスの製造方法が知られている(特許文献4)。
この製造方法では、徐冷点から歪点までの温度域を200℃/分以下、好ましくは50℃/分以下の冷却速度で冷却した後、化学強化処理が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2009−519884号公報
【特許文献2】特開2002−174810号公報
【特許文献3】US 2009/0220761号 A1
【特許文献4】特開2010−168252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、溶融ガラスからは、空気と接する境界面において揮発成分が揮発する。本願発明の発明者らは、この揮発をダウンドロー法で効果的に利用すれば、ガラス板の表裏両面に所望の圧縮応力層を形成できるのではないかと考えた。
【0011】
(第1の問題)
しかしながら、特許文献1に開示された製造装置のように、断熱構造体8が密閉構造である場合には、成形装置からオーバーフローする溶融ガラスからの揮発成分の揮発が抑制されるため、応力値の高い圧縮応力層を形成することができない。
【0012】
なお、特許文献1には、ゲート構成体8Bに、冷却管82からの冷却用冷気を主体8Aで覆われる空間内に噴出する噴出口83を設け、噴出口83からゲート81に冷却用空気を流すことによりガラスリボン9を冷却することも開示されている。しかし、このようにゲート81付近に強制対流を生じさせても、それより上側の空気、すなわち主体8Aで覆われる空間内の大部分の空気はその場所に留まるため、溶融ガラスからの揮発成分の揮発が抑制されることに変わりない。
【0013】
(第2の問題)
特許文献2に開示されるガラス基板では、イオン交換を行って化学強化処理を行うことで、ガラス板の表面に圧縮応力層が形成される。しかし、化学強化処理の前工程において、ガラス板の表面に傷が付くことは避けられない。一方、ガラス板の成形直後に上記化学強化処理を行うと、その後に行うガラス表面の切断やガラス板の研削・研磨や形状加工を含む加工処理の効率が低下する。
【0014】
特許文献3に開示されるガラス板は、徐冷工程においてガラスを急冷するので、ガラス表面に小さな圧縮応力層ができる場合がある。しかし、徐冷工程のみにおいてガラスを急冷することで得られる圧縮応力層の応力値はきわめて低いため、化学強化処理の前工程においてガラスの表面に傷が付くこともある。また、厚さが薄いガラス板では、厚さ方向に沿って放物線形状を示す内部応力分布に起因して、ガラス板内部に形成される引っ張り応力層の応力値が大きくなる。引っ張り応力層の応力値が大きいことは、例えば、ガラス板を切断する場合に、切断のために入れた所定深さのスクライブ線が、ガラス板の厚さ方向に想定外に伸長してしまい、所望の寸法にガラス板を分割することが困難となる場合がある点で好ましくない。
【0015】
特許文献4では、ゆっくりとガラスを冷やして成形されたガラス板を化学強化することで、圧縮応力層の応力値は高くなる。しかし、ガラス板は、成形後、化学強化される前に、所定の大きさに裁断され形状加工される。ガラス板は、このような工程間の搬送中や切断や形状加工において、表面に傷がついてしまうことがある。ガラス板は、化学強化を行う前にガラス表面に傷がついてしまうと、たとえその後に化学強化がされて高い強度を得たとしても、ガラス表面には傷が残ってしまう。
【0016】
本発明は、このような事情に鑑み、成形装置からオーバーフローする溶融ガラスからの揮発成分の揮発を促進させることができるガラス板製造装置およびこのガラス板製造装置を用いたガラス板製造方法を提供するとともに、前記のガラス板製造方法により得られたガラス板を提供することを第1の目的とする。
【0017】
そこで、本発明は、ガラス板の製造の際に、ガラス成形後の加工処理の効率に悪影響を与えず、化学強化する前のガラス表面に傷が付き難い程度にガラス表面が強化された強化ガラスと、強化ガラスの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(第1の発明)
上記第1の目的を達成するために、本発明の一態様は、ダウンドロー法によりガラス板を製造する装置であって、溶融ガラスを溝の両側からオーバーフローさせ、そのオーバーフローした溶融ガラス同士を壁面で誘導して融合させることによりガラスリボンを形成する成形装置と、前記成形装置を取り囲むとともに前記成形装置によって形成された前記ガラスリボンを通過させるゲートを有する断熱構造体と、を備え、前記断熱構造体には、前記断熱構造体外から前記断熱構造体内に導入され、前記成形装置の壁面上を流下する溶融ガラスに沿って上昇した気体を前記断熱構造体外に排出する排出口が設けられている、ガラス板製造装置を提供する。
【0019】
また、本発明の一態様は、ダウンドロー法によりガラス板を製造する方法であって、断熱構造体で取り囲まれる成形装置の溝の両側から溶融ガラスをオーバーフローさせながら、前記断熱構造体外から前記断熱構造体内に導入した気体を前記成形装置の壁面上を流下する溶融ガラスに沿って上昇させた後に前記断熱構造体外に排出する工程を含む、ガラス板製造方法を提供する。
【0020】
さらに、本発明の一態様は、上記のガラス板製造方法により得られたガラス板であって、表裏両面に圧縮応力層を有するガラス板を提供する。
【0021】
(第2の発明)
前記第2の目的を達成するために、本発明の一態様は、ガラス板が化学強化された強化ガラスを提供する。当該強化ガラスでは、
前記強化ガラスの厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成され、
前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記強化ガラスの厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置から前記強化ガラスのガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少し、
さらに、イオン交換により化学強化されたイオン交換処理領域が前記ガラス板表面に形成されている。
【0022】
本発明の他の一態様は、強化ガラスの製造方法を提供する。当該製造方法は、
ガラス原料を溶融する工程と、
ダウンドロー法を用いて、溶融したガラスからガラスリボンを成形する工程と、
前記ガラスリボンを切断し、ガラス板を形成する工程と、
形成された前記ガラス板にイオン交換によって前記ガラス板の表面を化学強化する工程と、を備える。
その際、前記ガラスリボンは、前記ガラス板の厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成され、前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記ガラス板の厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置から前記ガラス板のガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少するように成形される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の強化ガラスは、強化ガラスの製造の際に、ガラス板の成形後の加工処理の効率に悪影響を与えず、ガラス表面に傷が付き難い程度にガラス表面が強化され、さらに、製品としても傷か付きにくい。本発明の強化ガラスの製造方法は、上記強化ガラスを傷つくことなく効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態における化学強化前のガラス板の内部応力分布を示す図である。
【図2】徐冷工程でガラスを急冷した場合に得られる従来のガラス板の内部応力分布を示す図である。
【図3】本実施形態の強化ガラスの製造方法のフローの一例を説明する図である。
【図4】本実施形態の強化ガラスの製造方法における形状加工を説明する図である。
【図5】本実施形態の強化ガラスを製造するガラス板製造装置の断面図である。
【図6】図4に示すガラス板製造装置の斜視図である。
【図7】変形例のガラス板製造装置の断面図である。
【図8】他の変形例のガラス板製造装置の断面図である。
【図9】本実施形態の化学強化前のガラス板の実測した内部応力の分布を示す図である。
【図10】本実施形態の化学強化前のガラス板の実測したSiの原子濃度(%)の分布を示す図である。
【図11】従来のガラス製造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の強化ガラスおよび強化ガラスの製造方法について説明する。
【0026】
(ガラス板の概略説明)
本発明の実施形態である強化ガラスは、ダウンドロー法で形成されたガラス板を化学強化したものである。この強化ガラスには、強化ガラスの厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成される。Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、強化ガラスの厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、上記最大ピーク位置から表面および前記中心位置まで連続的に減少する。Si原子濃度とは、酸素原子を除くガラス成分全体(Si,Al,B,Ca,Sr,Ba等の酸素原子を除くガラス全成分)に対するSiの原子%を意味する。
さらに、強化ガラスはイオン交換により化学強化されているので、ガラス表面にはイオン交換処理領域が形成されている。このような強化ガラスは、例えば、電子機器の表示画面のカバーガラス等に用いられる。
強化ガラスは、ガラス板の内部に形成された引っ張り応力層と、引っ張り応力層の両側に形成された圧縮応力層と、を有する。
【0027】
(化学強化前のガラス板)
図1は、本実施形態のダウンドロー法で製造されたガラス板であって、化学強化される前のガラス板10の内部応力分布を示す図である。すなわちガラス板10は、化学強化処理前のガラス板である。
ガラス板10は、図1に示すように、ガラス板の内部に形成された引っ張り応力層12と、引っ張り応力層12の両側に形成された圧縮応力層14と、を有する。
圧縮応力層14はガラス板10の表面からガラス板10の厚さ方向に沿った10μmより大きく50μm以下の深さの範囲に形成され、圧縮応力層14の厚さはガラス板10の厚さの1/13未満である。圧縮応力層14の応力値の絶対値は4MPa以下であり、引っ張り応力層12の応力値の絶対値は0.4MPa以下である。
【0028】
具体的には、圧縮応力層14の厚さをW1とすると、厚さW1は0μmより大きく50μm以下であり、ガラス板10の厚さW0の1/13未満である。圧縮応力増14の応力値(絶対値)の最大値S1は、4MPa以下であり、引っ張り応力層12の応力値(絶対値)の最大値S2は0.4MPa以下である。
【0029】
図1中の太い実線は、ガラス板10の厚さ方向に沿った内部応力分布、すなわち、圧縮・引っ張り応力プロファイルを示している。図2は、徐冷工程でガラスを急冷した場合に得られる従来のガラス板の内部応力分布を示す図である。
徐冷工程でガラスを急冷した場合に得られる圧縮・引っ張り応力プロファイルは、放物線を描くようなプロファイルである。ガラスを急冷した場合にガラス板に形成される圧縮応力層は、ガラス表面と内部との熱膨張の差により生じるものである。この熱膨張率の差は、ガラスの熱伝導率に起因して生じる。また、徐冷工程において従来より得られる圧縮応力層の厚さW’1(図2参照)は、ガラス板の厚さW’0の1/10以上である。
【0030】
これに対し、ガラス板10では、ガラス表面に形成されるSi高濃度領域に起因した熱膨張の差によって、ガラス板10の表面近傍に、厚さの薄い圧縮応力層14が形成される。Si高濃度領域は、後述するようにガラスリボンの成形工程において、溶融ガラスあるいはガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させることによって形成される。このとき、引っ張り応力層12は、ガラス板10の厚さ方向に略一定の低い応力値を有しており、従来の引っ張り応力層の引っ張り応力値がガラス板の厚さ方向に放物線を描くように分布する場合とは異なっている。
また、ガラス板10全体において圧縮応力層14による圧縮と引っ張り応力層12による引張りが相殺されるので、圧縮応力層14が薄くなると引っ張り応力と相殺するために圧縮応力層14の応力値(絶対値)は高くなる。このため、圧縮応力層14は、例えば、徐冷工程おいてガラスを急冷した場合のみで得られる圧縮応力層の応力値よりも大きな応力値を有する。つまり、ガラス板10には大きな応力値を有する圧縮応力層14がガラス表面に形成されるので、ガラス板10のガラス表面は、徐冷工程のみでガラス表面を強化した従来のガラス板に比べて傷がつきにくい。
以下、ガラス板10をより詳細に説明する。
【0031】
(化学強化前のガラス板の詳細説明)
化学強化前のガラス板10に形成される圧縮応力層14の厚さW1は0μmより大きく50μm以下である。圧縮応力層14はガラス表面に形成されている。すなわち、圧縮応力層14は、ガラス表面から最大50μmの深さの範囲に形成される。更に別な言い方をすると、圧縮応力層14の表面からの深さは50μm以下である。圧縮応力層の深さは、成形工程における溶融ガラスあるいはガラスリボンの表面からの揮発を促進することにより深くすることが可能であるが、圧縮応力層14の深さが50μmを超えると、それにより、成形適正条件の逸脱、或いは、生産性の低下を生じる。このため圧縮応力層14の表面からの深さは50μm以下である。このため、圧縮応力層14の深さは、45μm以下、40μm以下、38μm以下であることが好ましい。このような好ましい態様は、溶融ガラスあるいは成形中のガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させる条件を含むガラス板の製造条件及びガラス板の組成を調整することで実現され得る。
【0032】
なお、本明細書における圧縮応力層14の深さとは、ガラス板10の表裏のうち、一方の面において形成された圧縮応力層の最深部の、ガラス表面からの深さを示す。つまり、ガラス板10の表裏表面に各々、上記深さを有する圧縮応力層14が形成されている。
また、圧縮応力層14の深さは10μm超である。圧縮応力層14の深さを10μm超とすることで、取り扱いに起因する微細な傷によりガラスが割れやすくなることを防ぐことができる。圧縮応力層14の深さは、深い傷が付いてもガラス板10が破損し難い点を考慮して、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上であることがより好ましい。
ガラス表面に形成される圧縮応力層14の深さは、ガラス板10の厚さW0の1/13未満であるが、1/15未満、 1/17未満、1/20未満、1/22未満、 1/24未満であることが好ましい。
このような好ましい態様も、溶融ガラスあるいは成形中のガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させる条件を含むガラス板の製造条件及びガラス板の組成を調整することで実現され得る。
【0033】
化学強化前のガラス板10の表面近傍に形成された圧縮応力層14の応力値(絶対値)は、最大でも4MPaである。上記応力値(絶対値)の最大値が4MPaを超えると、圧縮応力層14の応力値の総和が大きくなり、ガラス板10の加工、例えば形状加工がし難くなる。このため、圧縮応力層14の応力値(絶対値)の最大値は、3.7MPa以下、3.5MPa以下、3.0MPa以下、2.8MPa以下であることが好ましい。また、圧縮応力層14の応力値(絶対値)の最大値は、0.1MPa以上、0.5MPa以上、1MPa以上、1.5MPa以上、2MPa以上であることが好ましい。圧縮応力層14は、応力値(絶対値)が0MPa超である層であるので、圧縮応力層14がガラス板10のガラス表面に形成されることでガラス板10の機械的強度が向上する。
なお、本明細書での「応力値」は、ガラス板10のガラス表面から所定の深さごとに削った試料においてその試料の表面から0〜10μmの平均値を示している。そのため、局部的には、上記応力値の範囲を超えるような応力値を圧縮応力層14が有しているガラス板もガラス板10として含まれる。
【0034】
ガラス板10内部に形成された引っ張り応力層12の応力値は、上述したように、ガラス板10の厚さ方向に略一定である。この引っ張り応力層12の応力値は、上述したように0.4MPa以下である。引っ張り応力層12の応力値(絶対値)の最大値が0.4MPaを超えると、例えば、ガラス板を切断する場合に、切断のために入れた所定深さのスクライブ線が、ガラス板の厚さ方向に想定外に伸長してしまい、所望の寸法にガラス板10を分割することが困難となる場合がある。このため、引っ張り応力層12の応力値の最大値(絶対値)は、0.3MPa以下、0.2MPa以下、0.15MPa、0.10Mpa以下であることが好ましい。本実施形態では、ガラス表面の圧縮応力層14の応力値(絶対値)の最大値/引張り応力層12の応力値(絶対値)の最大値を6以上とすることができる。
また、ガラス板10の厚さ方向において両側1/10ずつを除いた引っ張り応力層12の中心部分4/5(以下、単に「引張中心領域」という。)でのガラス板10の引っ張り応力層12における応力値の変動、すなわち応力値(絶対値)の最大値と最小値の差は、0.12MPa以下であることが好ましい。これにより、ガラス板の切断性を向上させることができる。より好ましくは、0.10Mpa以下、0.05Mpa以下、0.02Mpa以下である。このような好ましい態様も、溶融ガラスあるいは成形中のガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させる条件を含むガラス板の製造条件及びガラス板の組成を調整することで実現され得る。
【0035】
ガラス板10の内部に形成された引っ張り応力層12の応力値は、ガラス板10の厚さ方向に略一定であるため、引っ張り応力層の応力値がガラス板の厚さ方向に放物線を描くように形成されている場合に比較して、引っ張り応力層12を薄く保つことができる。
より詳細には、ガラス板10の引っ張り応力層12の応力値は、ガラス板10の厚さ方向に略一定であり、その応力値の最大値(絶対値)に比べて、徐冷工程のみで得られる従来のガラス板の引っ張り応力値の最大値(絶対値)は大きい。すなわち、従来のガラス板では、ガラス表面に形成される圧縮応力層の圧縮応力に対して相殺するように放物線形状のプロファイルで引っ張り応力層が形成される。このため、ガラス板の厚さが薄くなると、ガラス表面の圧縮応力層の圧縮応力を相殺するための引っ張り応力層の厚さも薄くなるので、従来のガラス板において引っ張り応力層の応力値は極端に高くなり、例えば、ガラス板を切断する場合に、切断のために入れた所定深さのスクライブ線が、ガラス板の厚さ方向に想定外に伸長してしまい、所望の寸法にガラス板10を分割することが困難となる場合がある。しかし、本実施形態のガラス板10の引っ張り応力層12の応力値は、ガラス板10の厚さ方向に略一定であるので、引っ張り応力層の応力値の最大値は高くなりにくく、ガラス板の加工も精度よく行うことができる。
【0036】
ガラス板10をガラスの組成から見ると、ガラス板10には、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲にSi高濃度領域(以降、Siリッチ層という)が形成されている。Siリッチ層とは、ガラス板10の厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高い領域である。Siリッチ層が位置する範囲は、好ましくは、0超〜25nm、2〜20nm、5〜16nm、8〜16nmである。他方、Siリッチ層の深さは、成形工程における溶融ガラスあるいはガラスリボンの表面からの揮発を促進することにより深くすることが可能であるが、それにより、成形適正条件の逸脱、或いは、生産性の低下が生じる。あるいは、Siリッチ層の深さが30nmを超えると、ガラス板10のガラス表面にエッチング処理を施す場合に、エッチングがし難くなる。また、Siリッチ層の深さが30nmを超えると、ガラス表面に形成される圧縮応力層14の応力値(絶対値)が大きくなり、ガラス板の切断性が低下するという不都合が生じる。そのため、Siリッチ層の深さが30nm以下であることが好ましい。
Siリッチ層は、Si原子濃度の最大ピークを有し、ガラス板10の厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、上記最大ピークの位置から両側に向かって減少する。このようなガラスの組成を有することにより、上述した圧縮応力層14および引っ張り応力層12が形成されている。Si原子濃度とは、酸素原子を除くガラス成分全体(Si,Al,B,Ca,Sr,Ba等の酸素原子を除くガラス全成分)に対するSiの原子%を意味する。
このとき、ガラス溶融状態(例えば、ガラスの粘性が104.5〜105poise、あるいは温度1100〜1300℃)においてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分が、ガラス板の厚さ方向の中心位置において30質量%以上含まれることが、上記Siリッチ層を形成する点で好ましい。
【0037】
ここで、上記濃度比率が5%未満となると、ガラス表面と内部で十分な熱膨張率の差を得ることができず、圧縮応力層14が有効に形成されない。あるいは、十分なビッカース硬度や耐久性が得られない。
他方、上記濃度比率が30%を越えると、ガラス板の品質(物理特性、熱的特性、化学特性)が変化し、例えば、ガラス板の切断やエッチング処理が困難になり、所望の用途に使用できなくなる場合がある。この点から、上記濃度比率は、30%を上限とすることが好ましい。
また、Siリッチ層中で、最もSi原子含有量やSi原子濃度が高くなるピーク位置は、ガラス表面から0〜5nmの深さの範囲に位置する。
【0038】
Siリッチ層を、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成することで、ガラス表面と内部で十分な熱膨張率の差を得ることができ、ガラス表面に圧縮応力層14を形成することができる。また、ガラス表面のビッカース硬度や耐久性も向上させることが可能となり、ガラス板10が割れることを防止することができる。すなわち、Siは、ビッカース硬度を向上させる成分であるため、ガラス表面に形成されるSiリッチ層により、ガラス板10のガラス表面のビッカース硬度は高くなる。また、Siは耐薬品性に優れているため、Siリッチ層がガラス表面に形成されるガラス板10の耐久性も向上する。また、ガラス表面のビッカース硬度は、従来のガラス板に比べて向上するため、クラック発生率が低下し、より傷がつきにくく、破損しがたいという効果を得ることができる。
ガラス板10のガラス表面のビッカース硬度は、例えば4GPa以上であり、5GPa以上であり、5.3GPa以上であることが好ましい。あるいは、ガラス表面のビッカース硬度が、ガラス内部のビッカース硬度との比で、0.01%以上向上されており、0.02%以上、0.05%以上、0.10%以上、1%以上向上していることが好ましい。
【0039】
このように、化学強化される前のガラス板10は、内部応力の点では、引っ張り応力層12および圧縮応力層14を有し、組成の点では、ガラス表面の近くにSiリッチ層を有する。ガラス板10は、後述するガラスリボンの成形工程において、溶融ガラスあるいはガラスリボンの表面から例えば、ガラスの粘性が104.5〜105poise、あるいは温度1100〜1300℃のガラス溶融状態において、SiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分の揮発を促進させることにより、得ることができる。
上述した好ましい数値範囲の各態様も、溶融ガラスあるいは成形中のガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させる条件を含むガラス板の製造条件及びガラス板の組成を調整することで実現され得る。
【0040】
(化学強化処理後のガラス板の説明)
このようなガラス板10にイオン交換により化学強化処理が施されて、本実施形態の強化ガラスが得られる。すなわち、強化ガラスには、イオン交換によりイオン交換処理領域がガラス表面に形成されている。イオン交換処理領域とは、ガラス表面中の成分であるLi,Na等のイオン交換成分がイオン交換用の処理液中のK等のイオン交換成分と交換された領域である。したがって、化学強化されたガラス板10のガラス表面には、Siリッチ層に起因する圧縮応力層14に重なってイオン交換による大きな圧縮応力層が一体的に形成される。圧縮応力層はイオン交換によりガラス表面から内部に向かって形成される圧縮応力層の厚さは、20〜100μmとなる。
イオン交換により拡大された圧縮応力層の応力値(絶対値)の最大値は300MPa以上であることが好ましく、400MPa以上であることがより好ましい。応力値(絶対値)の最大値を300MPa以上とすることで、化学強化されたガラス板10、すなわち強化ガラスは、例えばディスプレイなどを保護するために十分な強度を得ることができる。なお、上記応力値(絶対値)が高いほどガラスの強度は向上するが、強化されたガラスが破損した際の衝撃も大きくなる。上記衝撃による事故を防止するために、化学強化処理されたガラス板10は、圧縮応力層の応力値(絶対値)の最大値が950MPa以下であることが好ましく、800MPa以下あることがより好ましく、700MPa以下であることがより一層好ましい。一方、ガラスを急冷することでガラス表面に圧縮応力層を形成した従来のガラス板と比較して、引っ張り応力層の応力値(絶対値)は大きくなり難い。
【0041】
化学強化処理後の圧縮応力層の厚さは、20μm以上であり、30μm以上、40μm以上が好ましい。圧縮応力層の厚さが大きい程、強化ガラスに深い傷がついても、強化ガラスが割れにくくなり、機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、圧縮応力層の厚さは100μm以下である。圧縮応力層の厚さは、強化ガラスの加工のしやすさを考慮すると、90μm以下、80μm以下とするのが好ましい。
【0042】
なお、強化ガラスの厚さは1.5mm以下であることが好ましい。ここでは、1.5mm以上の強化ガラスでは、強化ガラスそのものの強度が大きくなり、ガラス表面近傍に形成された圧縮応力層が十分に機能しないためである。つまり、本実施形態で形成される強化ガラスの厚さは、1.0mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、0.3mm以下であることが好ましく、強化ガラスの厚さが薄いほど、本発明の効果が顕著となる。
【0043】
また、本実施形態の強化ガラスの製造方法は、大きい強化ガラスに好適である。これは、大きな強化ガラスほど、撓み量が大きく、取り扱いに起因する微細な傷によりガラスが割れ易くなるが、ガラス表面に圧縮応力層が形成されることによって、上記問題の発生を低減できるためである。このため、強化ガラスの幅方向が1000mm以上、2000mm以上である場合に、本発明の効果が顕著となる。
【0044】
(ガラス板のガラスの種類)
本実施形態のガラス板に用いるガラスとして、アルカリシリケートガラス、アルカリアルミノシリケートガラス、アルカリアルミノゲルマネイトガラスなどのアルカリガラスが用いられ得る。なお、本発明のガラス板に適用できるガラスは上記種類に限定されるものではなく、少なくともSiO2と、ガラス溶融温度(ガラスの粘性が104.5〜105poise、あるいは温度1100〜1300℃)における飽和蒸気圧がSiO2よりも高い揮発成分と、を含む種類のガラスであればよい。なお、Al2O3は、網目形成酸化物であり、ガラスの成分の中では比較的飽和蒸気圧が低い成分である。しかし、本実施形態では、SiO2よりも飽和蒸気圧が高いため、Al2O3を揮発成分に含めることとする。
なお、ガラス組成中の揮発成分の含有量は、30質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上、40質量%以上であることがさらに好ましい。したがって、強化ガラスの内部に形成される揮発成分が揮発しない引っ張り応力層では、揮発成分の含有量は、30%質量以上となっている。ガラス組成中の揮発成分の含有量が30質量%未満であると、揮発成分の揮発が促進されず、ガラス表面にSiリッチ層や圧縮応力層が形成され難くなる。また、揮発成分を多く含有すると、揮発が増加しすぎ、ガラスの均質化が困難になる。このため、ガラス組成中の揮発成分の含有量は、60質量%以下、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
(各ガラスの組成例)
本実施形態のガラス板に用いられるアルカリアルミノシリケートガラスは、以下の成分を含むものが例示される。なお、以降で記載する組成の%表示は、質量%表示である。下記括弧内の表示は各成分の好ましい含有率である。
SiO2:50〜70%(55〜65%,57〜64%,57〜62%)、
Al2O3:5〜20%(9〜18%,12〜17%)、
Na2O:6〜30%(7〜20%,8〜18%,10〜15%)、
このとき、任意成分として、下記の組成を含んでもよい。
Li2O:0〜8%(0〜6%,0〜2%,0〜0.6%,0〜0.4%,0〜0.2%)、
B2O3:0〜5%(0〜2%,0〜1%,0〜0.8%)、
K2O:0〜10%(下限は1%、下限は2%、上限は6%、上限は5%、上限は4%)、
MgO:0〜10%(下限は1%、下限は2%、下限は3%、下限は4%、上限は9%、上限は8%、上限は7%)、
CaO:0〜20%(下限は0.1%、下限は1%、下限は2%、上限は10%、上限は5%、上限は4%、上限は3%)、
ZrO2:0〜10%(0〜5%、0〜4%、0〜1%、0〜0.1%)。
【0046】
さらに、アルカリアルミノシリケートガラスとして、下記組成が例示される。
SiO2:50〜70%、
Al2O3:5〜20%、
Na2O:6〜20%、
K2O:0〜10%、
MgO:0〜10%、
CaO:2%超〜20%
ZrO2:0〜4.8%、
さらに、好ましくは、
SiO2含有率−1/2・Al2O3の含有率:46.5〜59%、
CaO/RO(ただし、RはMg、Ca、SrおよびBaの中から選ばれる少なくとも1種である)含有量比が0.3%超、
SrO含有率+BaO含有率が10%未満、
(ZrO2+TiO2) /SiO2含有量比が0〜0.07未満、
B2O3/R12O (ただし、R1はLi、NaおよびKの中から選ばれる少なくとも1種である)含有量比が0〜0.1未満。
【0047】
さらに、別のアルカリアルミノシリケートガラスとして、下記組成が例示される。
SiO2:58〜68%、
Al2O3:8〜15%、
Na2O:10〜20%、
Li2O:0〜1%、
K2O:1〜5%、
MgO:2〜10%、
【0048】
(各成分)
SiO2はガラス板10のガラスの骨格をなす成分であり、ガラスの化学的耐久性と耐熱性を高める効果を有している。SiO2含有率が低すぎる場合には化学的耐久性と耐熱性の効果が十分に得られず、SiO2含有率が高すぎるとガラスが失透を起こしやすくなり、成形が困難になるとともに、粘性が上昇してガラスの均質化が困難になる。
【0049】
Al2O3はガラスの骨格をなす成分であり、ガラスの化学的耐久性と耐熱性を高める効果を有している。また、イオン交換性能やエッチング速度を高める効果を有している。Al2O3含有率が低すぎる場合にはガラスの化学的耐久性と耐熱性の効果が十分に得られない。一方、Al2O3含有率が高すぎると、ガラスの粘性が上昇して溶解が困難になるとともに、耐酸性が低下する。
【0050】
B2O3はガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する成分である。B2O3含有率が低すぎると、ガラスの粘性が高くなりガラスの均質化が困難になる。
【0051】
MgOおよびCaOは、ガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する成分である。また、MgおよびCaは、アルカリ土類金属の中ではガラスの密度を上昇させる割合が小さいため、得られるガラスを軽量化しつつ熔解性を向上するためには有利な成分である。ただしそのMgOおよびCaO含有率が高くなりすぎると、ガラスの化学的耐久性が低下する。
【0052】
SrOおよびBaOは、ガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する成分である。また、ガラス原料の酸化性を高めて清澄性を高める成分でもある。ただし、SrOおよびBaO含有率が高くなりすぎると、ガラスの密度が上昇し、ガラス板の軽量化が図れないととともに、ガラスの化学的耐久性が低下する。
【0053】
Li2Oは、ガラスの粘度を低下させて、ガラスの熔解性や成形性を向上させる成分である。また、Li2Oは、ガラスのヤング率を向上させる成分である。さらに、Li2Oは、イオン交換成分の一つであり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層14の深さを大きくする効果が高い。しかし、Li2Oの含有率が高くなり過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透しやすくなるため、ダウンドロー法を利用した安定したガラスの大量生産が困難となる。また、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下し、金属や有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに、ガラス基板の強化を行うためにイオン交換処理を行う場合、イオン交換処理におけるイオン交換塩の劣化がはやくなるという不都合がある。また、Li2Oの含有率が高くなり過ぎると、ガラスの低温粘度が過度に低下することで、化学強化後の加熱工程で応力緩和が発生し、圧縮応力値が低下してしまうため、十分な強度を得ることができない。
【0054】
Na2Oは、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの熔融性や成形性を向上させる必須成分である。また、ガラスの耐失透性を改善する成分である。Na2O含有率が6質量%未満ではガラスの熔解性が低下し、熔解のためのコストが高くなる。また、Na2Oは、イオン交換成分であり、化学強化処理を行う場合に、Na2O含有率が6質量%未満ではイオン交換性能も低下するため、十分な強度を得ることができない。また、熱膨張率が過度に低下し、金属や有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに、ガラスが失透を起こしやすくなり、耐失透性も低下するので、ガラスをオーバーフローさせるダウンドロー法の適用が不可能となるため、安定したガラスの大量生産が困難となる。他方、Na2O含有率が高くなりすぎると、低温粘度が低下し、熱膨張率が過剰となり、耐衝撃性が低下し、金属や有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、ガラスバランスの悪化による耐失透性低下も生じるため、ダウンドロー法を利用した安定したガラスの大量生産が困難となる。
【0055】
K2Oはガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの熔解性や成形性を向上させると同時に、耐失透性を改善する成分でもある。また、K2Oは、イオン交換成分であり、K2Oを含有することでガラスのイオン交換性能を向上させることができる成分である。しかし、K2Oの含有率が高くなり過ぎると、低温粘度が低下し、熱膨張率が過剰となり、耐衝撃性が低下するため、カバーガラスとして適用する場合には好ましくない。また、K2Oの含有率が高くなり過ぎると、金属や有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、ガラスバランス悪化による耐失透性の低下も生じるため、ダウンドロー法を利用した安定したガラスの大量生産が困難となる。
【0056】
Li2O、Na2OおよびK2Oは、ガラスから溶出してTFT特性を劣化させ、また、ガラスの熱膨張係数を大きくして熱処理時に基板を破損する成分であることから、フラットパネルディスプレイガラス基板として適用する場合には、多量に含有することは好ましくない。しかし、ガラス中に上記成分を敢えて特定量含有させることによって、TFT特性の劣化やガラスの熱膨張を一定範囲内に抑制しつつ、ガラスの溶融性を高め、かつガラスの塩基性度を高め、価数変動する金属の酸化を容易にして、清澄性を発揮させることが可能である。
【0057】
ZrO2は、ガラスの失透温度付近の粘性や歪点を高くする成分である。また、ZrO2は、ガラスの耐熱性を向上させる成分でもある。また、ZrO2は、イオン交換性能を顕著に向上させる成分である。しかし、ZrO2の含有率が高くなりすぎると、失透温度が上昇し、耐失透性が低下する。
【0058】
TiO2は、ガラスの高温粘度を低下させる成分である。また、TiO2は、イオン交換性能を向上させる成分である。しかし、TiO2の含有率が高くなり過ぎると、耐失透性が低下してしまう。さらに、ガラスが着色し、FPD用のガラス基板や電子機器の表示画面のカバーガラスなどへの適用は好ましくない。また、ガラスが着色することから、紫外線透過率が低下するので、紫外線硬化樹脂を使用した処理を行う場合に、紫外線硬化樹脂を十分に硬化することができないという不都合が生じる。
【0059】
強化ガラスにおいて、ガラス中の気泡を脱泡させる成分として清澄剤を添加することができる。清澄剤としては、環境負荷が小さく、ガラスの清澄性に優れたものであれば特に制限されないが、例えば、酸化スズ、酸化鉄、酸化セリウム、酸化テルビウム、酸化モリブデンおよび酸化タングステンといった金属酸化物から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
なお、As2O3およびSb2O3は、溶融ガラス中で価数変動を伴う反応を生じ、ガラスを清澄する効果を有する物質であるが、As2O3およびSb2O3は環境負荷が大きい物質であることから、本実施形態のガラス板10においては、ガラス中にAs2O3およびSb2O3を実質的に含まない。なお、本明細書において、As2O3およびSb2O3を実質的に含まないとは、0.01%質量未満であって不純物を除き意図的に含有させないことを意味する。
【0060】
(ガラス板の製造方法)
このような強化ガラスは、ダウンドロー法を用いて製造される。図3は、本実施形態の強化ガラスの製造方法のフローの一例を説明する図である。強化ガラスの製造方法は、熔解工程(ステップS10)と、清澄工程(ステップS20)と、攪拌工程(ステップS30)と、成形工程(ステップS40)と、徐冷工程(ステップS50)と、裁板工程(ステップS60)と、形状加工工程(ステップS70)と、化学強化処理工程(ステップS80)と、を主に有する。
【0061】
熔解工程(ステップS10)では、図示されない熔解炉で、ガラス原料が化石燃料の燃焼による間接加熱および電気通電による直接加熱により加熱されて溶融ガラスが作られる。ガラスの熔解は、これ以外の方法で行われてもよい。
次に、清澄工程が行われる(ステップS20)。清澄工程では、溶融ガラスが図示されない液槽に貯留された状態で、溶融ガラス中の気泡が上述の清澄剤を用いて取り除かれる。具体的には、溶融ガラス中で価数変動する金属酸化物の酸化還元反応によって行われる。高温時の溶融ガラスにおいて、金属酸化物は還元反応により酸素を放出し、この酸素がガスとなって、溶融ガラス中の気泡を成長させて液面に浮上させる。これにより、溶融ガラス中の気泡は脱泡される。あるいは、酸素ガスの気泡は、溶融ガラス中の他の気泡中のガスを取り込んで成長し、溶融ガラスの液面に浮上する。これにより、溶融ガラス中の気泡は脱泡される。また、脱泡後、ガラスの温度が下がってくると、金属酸化物が酸化反応をおこし、浮上せずにガラス中に残っていた小泡中の酸素を吸収する。酸素が吸収されて小泡はより小さくなりガラス中に再吸収される。
次に、攪拌工程が行われる(ステップS30)。攪拌工程では、ガラスの化学的および熱的均一性を保つために、垂直に向けられた図示されない撹拌槽に溶融ガラスが通される。攪拌槽に設けられたスターラによって溶融ガラスは攪拌されながら、垂直下方向底部に移動し、後工程に導かれる。これによって、脈理等のガラスの不均一性を抑制することができる。
【0062】
次に、成形工程が行われる(ステップS40)。成形工程では、ダウンドロー法が用いられる。オーバーフローダウンドローやスロットダウンドロー等を含むダウンドロー法は、例えば特開2010−189220号公報、特許第3586142号公報や図5示された装置を用いた公知の方法である。ダウンドロー法における成形工程については、後述する。これにより、所定の厚さ、幅を有するシート状のガラスリボンが成形される。成形方法としては、ダウンドロー法の中でも、オーバーフローダウンドローが最も好ましいが、スロットダウンドローでもよい。しかし、揮発成分の揮発を促進させあるいは揮発量を増大させて圧縮応力層14の応力値(絶対値)を高めるには、揮発量が多いオーバーフローダウンドローが好ましい。
【0063】
次に、徐冷工程が行われる(ステップS50)。具体的には、シート状に成形されたガラスリボンは、歪みが発生しないように冷却速度を制御して、図示されない徐冷炉にて徐冷点以下に冷却される。これにより、ガラスリボンは、ガラス板10と同様に、応力の点で圧縮応力層14および引っ張り応力層12を有し、組成の点でSiリッチ層を有する。
次に、裁板工程が行われる(ステップS60)。具体的に、連続的に生成されるガラスリボンは一定の長さ毎に裁板されガラス板10が得られる。
この後、形状加工工程が行われる(ステップS70)。形状加工工程では、所定のガラス板のサイズや形状に切り出す他、ガラス表面および端面の研削・研磨が行われる。形状加工は、サンドブラスト、カッターやレーザを用いた物理的手段を用いても、エッチングなどの化学的手段を用いてもよい。なお、ガラス板を複雑な形状に形状加工する際には、化学強化処理前に、上記エッチング処理を施すことが好ましい。
【0064】
ガラス板10の形状加工の一例としては、図4に示されるようなガラス板10に孔11が開けられ、曲線及び直線を含んだ外形形状に加工するエッチング処理が挙げられる。このような外形形状に加工されたガラス板10は、電子機器の表示画面のカバーガラスに用いられる。
この場合、まず、ガラス板10の両主表面上にレジスト材料がコーテイングされる。次に、所望の外形形状のパターンを有するフォトマスクを介してレジスト材料が露光される。上記外形形状は特に限定されないが、例えば、負の曲率を持つ部分(外形形状の端に沿って外形形状の領域内部を左側に見ながら進むとき、進むにつれて右側に曲がる部分)を含む外形形状である。次に、露光後のレジスト材料が現像されて、ガラス基板の被エッチング領域以外の領域にレジストパターンが形成され、ガラス板の被エッチング領域がエッチングされる。このとき、エッチャントとしてウェットエッチャントを使用した場合、ガラス板は、等方的にエッチングされる。これにより、ガラス板の端面は、中央部が外方に向かつて最も突出し、その中央部から両主表面側に向かつて緩やかに湾曲した傾斜面が形成される。なお、傾斜面と主表面との境界及び傾斜面同土の境界は、好適には、丸みを帯びた形状にする。
【0065】
エッチング工程において用いるレジスト材料は特に限定されないが、レジストパターンをマスクにしてガラスをエッチングする際に使用するエッチャントに対して耐性を有する材料を適用することができる。例えば、ガラスは一般的にフッ酸を含む水溶液のウェットエッチングや、フッ素系ガスのドライエッチングにより腐食されるので、フッ酸耐性に優れたレジスト材料などが好適である。また、上記エッチャントとしては、フッ酸、硫酸、硝酸、塩酸、ケイフッ酸のうち少なくとも1つの酸を含む混酸を適用することができる。エッチャントとしてフッ酸あるいは上記混酸水溶液を使用することにより、所望の形状の
カバーガラスを得ることができる。
【0066】
また、エッチングを利用して形状加工を行う際、マスクパターンを調整するだけで、複雑な外形形状も容易に実現することができる。さらに、エッチングにより形状加工を行うことで、より生産性も向上させることができ、加工コストも低減することができる。なお
レジスト材をガラス板から剥離するための剥離液としては、KOHやNaOHなどのアルカリ溶液を用いることができる。上記レジスト材、エッチャント、剥離液の種類は、ガラス板の材料に応じて適宜選択することができる。
なお、エッチングの方法としては、単にエッチング液に浸潰する方法のみならず、エッチング液を噴霧するスプレーエッチング法などを用いることもできる。このようなエッチングを利用してガラス板を形状加工することで、表面粗さが高平滑性である端面を有するカバーガラスを得ることが可能となる。つまり、機械加工により形状加工された際に必ず生じるマイクロクラックの発生を防止することができ、カバーガラスの機械的強度をさらに向上させることができる。
【0067】
最後に、イオン交換による化学強化処理が行われる(ステップS80)。ガラス表面近傍にSiリッチ層や圧縮応力層14が形成されたガラス板10をさらに化学強化することで、強度がさらに向上した強化ガラスを得ることができる。また、ガラスを急冷することで表面に圧縮応力層を形成する従来のガラス板と比較して、本実施形態の強化ガラスでは引っ張り応力層の応力値(絶対値)は大きくなり難い。
なお、イオン交換処理を行うためには、ガラス成分中に、イオン交換成分であるNa2OやLi2Oを含有していることが好ましい。本実施形態の化学強化された強化ガラスは、電子機器の表示画面のカバーガラスの他に、携帯端末装置の筐体、太陽電池のカバーガラス、ディスプレイ用のガラス基板、タッチパネルディスプレイのカバーガラス、タッチパネルディスプレイのガラス基板などに適用することができる。
例えば、化学強化処理は、下記のような方法を用いて行うことができる。
【0068】
化学強化処理では、ガラス板10を例えば350〜550℃程度に保ったKNO3100%の処理浴中に約1〜25時間浸漬する。このとき、ガラス表層のNa+イオンあるいはLi+イオンが処理浴中のK+イオンあるいはLi+イオンとイオン交換することで、ガラス板は化学強化される。なお、イオン交換処理時の温度、時間、イオン交換溶液などは適宜変更可能である。例えば、イオン交換溶液は2種類以上の混合溶液であってもよい。
【0069】
ガラス板の製造方法は、この他に、洗浄工程及び検査工程を有するが、これらの工程の説明は省略する。なお、形状加工工程は化学強化処理工程の前に行うが、化学強化処理工程の後に行ってもよい。
【0070】
本実施形態の強化ガラス板の製造では、成形工程において、ガラスリボンから揮発成分の揮発が促進されあるいは揮発量が増大することで、ガラスリボン中にSiリッチ層が形成され、このSiリッチ層に起因して、成形されたガラス板10に、徐冷後、裁板工程前に、圧縮応力層14および引っ張り応力層12が形成される。揮発成分とは、SiO2よりも揮発しやすい成分、言い換えれば、溶融ガラスにおいて(例えば、ガラスの粘性が104.5〜105poise、あるいは温度1100〜1300℃)、飽和蒸気圧がSiO2よりも高い成分のことを示す。揮発成分としては、例えば、Al2O3,B2O3,Li2O,Na2O,K2O,MgO,CaO,SrO,BaO,ZrO2,SnO2などを挙げることができるが、これに限定されない。なお、B2O3,アルカリ酸化物(Li2O,Na2O,K2O)、アルカリ土類金属酸化物(MgO,CaO,SrO,BaO)は、揮発性が高いため、ガラス成分として、少なくとも1種を含有することが好ましい。SnO2 は、SnOとして揮発する。
揮発が過度になるとガラス板10の成形が適切にできないため、例えば、B2O3の含有率の上限は14質量%であることがより好ましく、 13質量%であることが特に好ましい。また、SnO2の含有率が高いと、ガラスに失透が発生することがある。従って、ガラスの失透を防止するという観点からは、SnO2の含有率の上限は 0.5質量%であることがより好ましく、0.3質量%であることが特に好ましい。
【0071】
これらの揮発成分は、溶融ガラスにおいて飽和蒸気圧がSiO2よりも高いため、成形時に(ガラスが溶融した状態で)溶融ガラスあるいはガラスリボンから揮発する。つまり、溶融ガラスからガラスリボンが形成される成形工程では、ガラスリボン表面においてSiO2以外の成分が揮発するので、結果的に、成形後のガラス表面には、Si原子濃度がガラス内部のSi原子濃度よりも高くなるSiリッチ層が形成される。また、ガラス板のガラス表面にSiリッチ層が形成されると、ガラス内部との熱膨張率の差により、ガラス表面に圧縮応力層14が形成される。
【0072】
(成形装置)
図5は、ダウンドロー法による成形方法を実施する成形装置の一例を説明する図である。
成形装置101は、下向きに尖る五角形楔状(幅の狭い、野球のホームベース形状)の断面形状を成している。成形装置101は、直線的に延びる溝111が設けられた上面と、この上面に設けられた溝111と、平行な両端部から下方に向かう一対の壁面112とを有している。なお、本明細書では、説明の便宜のために、水平面上で溝111の延びる方向(図5の紙面垂直方向)をX方向、水平面上でX方向と直交する方向をY方向、鉛直方向をZ方向ともいう (図6参照)。
【0073】
溝111は、図示されない供給管から一端に供給された溶融ガラス103を全長に亘って均一にオーバーフローさせるように、一端から他端に向かうにつれて段々と深さが浅くなっている。一対の壁面112のそれぞれは、上面のY方向の端部から垂直に垂れ下がる垂直面と、この垂直面の下端部から互いに近づくように内向きに傾斜する傾斜面とを有する。これらの傾斜面の下端部同士は交わってX方向に延びる稜線を形成している。
【0074】
成形装置101は、溶融ガラス103を溝111の両側からオーバーフローさせ、そのオーバーフローした溶融ガラス同士を壁面112上で誘導して傾斜面の下端部で融合させることにより帯状のガラスリボン104を連続的に形成する。
【0075】
断熱構造体102は、成形装置101を収容する成形空間(チャンバ)を形成している。具体的に、断熱構造体102は、断熱性に優れた材料で構成されており、上下方向に成形装置101を挟んで互いに対向する底壁121および天井壁123と、底壁121と天井壁123の周縁同士をつなぐ矩形筒状の周壁122とを有している。底壁121の中央には、成形装置101によって形成されたガラスリボン104を通過させるゲート125が設けられている。なお、断熱構造体102は、中空構造となっていて、内部に加熱用または冷却用の空気が供給されるようになっていてもよい。
【0076】
本実施形態では、図5に示すように、成形装置101の壁面112に対向し、Y方向に向く周壁122の長壁部の上部に、周壁122を貫通する複数の排出口126が設けられている。さらに、周壁122のY方向に向く長壁部の下部に、周壁122を貫通する複数の導入口127が設けられている。このため、自然対流により、図5中に矢印 a,b,cで示すような空気の流れが形成される。すなわち、断熱構造体102外の空気が導入口127を通じて断熱構造体102内に導入される。導入された空気は成形装置101の壁面112上を流下する溶融ガラス103に沿って上昇し、その後に排出口126を通じて断熱構造体102外に排出される。このように、断熱構造体102内で外部から取り込んだ新鮮な空気を上昇させることにより、溶融ガラス103からの揮発成分(例えば、Al2O3,B2O3,Li2O,Na2O,K2O,MgO,CaO,SrO,BaO,ZrO2,SnO2など)の揮発を促進させることができる。この揮発成分が揮発した部分、すなわち上昇する空気と接した溶融ガラス103の表面には、ガラスリボン104が冷却されたときにSiリッチ層が形成される。このSiリッチ層の生成により、圧縮応力層14が形成される。圧縮応力層14の応力値(絶対値)を高くするためには、溶融ガラス103が多くの揮発成分を含有することが好ましい。
【0077】
なお、排出口126および導入口127は、周壁122におけるX方向に向く短壁部にも設けられていてもよい。あるいは、周壁122のX方向に向く短壁部のみに排出口126および導入口127を設けることも可能である。ただし、溶融ガラス103の全幅に亘って均一に揮発成分を揮発させるには、排出口126および導入口127が、周壁122のY方向に向く長壁部のみに一定のピッチで設けられていることが好ましい。
【0078】
また、排出口126および導入口127の形状および数量は、周壁122に必要な強度が保たれる限り適宜選定可能である。例えば、排出口126および導入口127の形状を図6に示すように円形としてもよいし、X方向に延びるスリット状として数を低減させてもよい。なお、均一に、かつ、効率よく断熱構造体102から気体を排出するためには、ガラスリボンの巾方向全体にわたって延びるスリットを用いることがより効果的である。ただし、スリットの開口面積を広げれば広げるほど、気体流量が増えすぎて、ガラス板の表面欠点の増加や、ガラスの表面凹凸の悪化、成形温度の確保が困難となる問題が生じる。但し、この問題は、以下に示すように、導入口127から断熱構造体102内に導入する空気もしくは不活性ガスの温度を断熱構造体102内の目標温度にして、且つ、断熱構造体102内の圧力が所定の圧力に維持できるように気体の流量を調整することにより、解決することができる。
【0079】
さらに、導入口127を通じて断熱構造体102内に導入される空気は、例えば溶融ガラス103やガラスリボン104の温度を低下させない程度の温度であることが好ましい。ここで、導入される空気の量が少量であれば、常温の空気を導入しても溶融ガラス103やガラスリボン104の温度はそれほど低下しない。このため、常温の空気が導入されてもよい。一方、断熱構造体102内に導入される空気の量が多量であれば、常温の空気を導入すると、溶融ガラス103やガラスリボン104の温度は大きく低下する。この場合には、導入口127を通じて導入される空気を所定の温度に加熱する図示されない加熱装置が断熱構造体102の外側または内側に設けられることが好ましい。
【0080】
以上説明した成形装置101では、断熱構造体102により取り囲まれた成形装置101の溝111の両側から溶融ガラス103がオーバーフローする一方、成形装置101の壁面112上を流下する溶融ガラス103に沿って空気が上昇した後、断熱構造体102外に排出される。ここで、上記空気は、断熱構造体102外から断熱構造体102内に導入される。このように、断熱構造体102内の空気が成形装置101の壁面112上を流下する溶融ガラスに沿って流れることにより溶融ガラス103からの揮発成分の揮発は促進する。これにより、ガラス板10のガラスの表裏両面に応力値の高い圧縮応力層14が形成されたガラス板10を得ることができる。
【0081】
なお、本実施形態では、排出口126が周壁122の上部に設けられているが、排出口126の位置は特に制限されない。例えば、図7に示すように、排出口126を天井壁123における成形装置101の真上の部分に設けてもよい。このようにしても、自然対流により、断熱構造体102外から断熱構造体102内に導入された空気を成形装置101の壁面112上を流下する溶融ガラス103に沿って上昇させた後に排出口126を通じて断熱構造体102外に排出することができる。また、この場合には、成形装置101の上部においても溶融ガラス103が断熱構造体102を通過する空気と接触するため、排出口126を周壁122の上部に設けた場合よりも揮発成分の揮発はさらに促進する。
【0082】
ただし、排出口126を天井壁123に設けた場合には、断熱構造体102の上方からの塵等の落下物が排出口126を通じて溶融ガラス103に落下する場合がある。この観点からは、図5,6に示す実施形態のように排出口126を周壁122の上部に設ける方が好ましい。
【0083】
また、図5,6に示す実施形態では、導入口127が周壁122の下部に設けられているが、導入口127の位置は、特に制限されるものではない。例えば、図8に示すように、導入口127を底壁121に設けてもよい。この場合、導入口127が成形装置101の直下の領域R内にあると、導入口127からの空気の流れがガラスリボン104の形状安定性に影響を及ぼすおそれがある。このため、導入口127は領域Rの外側に設けることが好ましい。
【0084】
また、図7に示すように、導入口127は設けられなくてもよい。このようにしても、断熱構造体102外の空気がゲート125を通じて断熱構造体102内に導入される。ただし、この場合にはゲート125をガラスリボン104と反対方向に向かって空気が通過することになり、ガラスリボン104の形状安定性が損なわれるおそれがあるため、ゲート125とは別に導入口127を設けることが好ましい。
【0085】
また、図5〜8に示す実施形態では、自然対流により断熱構造体102内への空気の導入および断熱構造体102外への空気の排出が行われるが、強制対流によって空気の導入および排出を行うことも可能である。例えば、断熱構造体102の下部に供給管が貫通するとともに断熱構造体102の上部に排出管が貫通し、供給管あるいは排出管にファンが接続すれるとよい。この場合、断熱構造体102内の空間に開口する供給管および排出管の端部がそれぞれ導入口および排出口を構成することになる。なお、空気の導入方法には、他にも、例えば、コンプレッションエアーを、フィルターを介して減圧して導入する等の方法がある。なお、空気の導入方法は上記に限定されず、他の空気導入方法を取ってもよい。
【0086】
また、導入口127あるいはゲート125を通じて断熱構造体102内に導入される気体は必ずしも空気である必要はなく、不活性ガスであってもよい。不活性ガスとしては、成形装置101や断熱構造体102の腐食を防止するという観点から、特に窒素を用いることが好ましい。
【0087】
図5〜8に示す実施形態では、気体を断熱構造体102内に導入し、溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の流れる方向に沿って気体を流すことで、断熱構造体102内における気化された揮発成分(飽和蒸気圧の高い揮発成分)の濃度を低下させることができる。気体を流さない場合、断熱構造体102内で揮発成分が飽和状態になるので、さらに揮発成分の揮発を促進することができなくなる。すなわち、断熱構造体102内に導入される気体は、断熱構造体102内における気化された揮発成分の濃度を低下させるために機能する。したがって、外部から導入される気体の流れは、上昇のみに限定されず、下降であってもよい。
【0088】
また、溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の揮発成分の揮発を促進させる別な方法として、断熱構造体102内の成形空間内を減圧雰囲気にすることもできる。断熱構造体102内の成形空間が減圧されれば、揮発成分の揮発が促進される。
例えば、図5に示される排出口126に吸引装置を設けることで、断熱構造体102内を減圧することができる。なお、断熱構造体102に設けられる排出口126や設けられる吸引装置の数は特に限定されず、1以上設けられればよい。
なお、断熱構造体102内の成形空間を減圧しすぎると、ゲート125から断熱構造体102内よりも低い温度の気体が導入され、ガラスリボン104が均一化されず、ガラス板10の厚みにばらつきが生じ、さらに歪が発生することもある。
そこで、断熱構造体102内の成形空間を、減圧前の断熱構造体102内に比較して10分の1以下の範囲で減圧することが好ましい。つまり、断熱構造体102内の成形空間の気圧が1気圧である場合には、圧力の上限を0.9気圧として減圧することが好ましい。
このようにして断熱構造体102内の成形空間の雰囲気を調整することにより、ガラスリボン104は形成される。
【0089】
さらに、溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の揮発成分の揮発を促進させる別な方法として、断熱構造体102内の成形空間の雰囲気温度を高くすることもできる。断熱構造体102内の成形空間の雰囲気温度が上昇すれば、揮発成分の飽和蒸気圧も上昇するため、揮発成分の揮発が促進される。
なお、断熱構造体102内の成形空間の雰囲気温度が上昇しすぎるとガラスリボン104の成形がし難くなり、さらにエネルギー消費量が増加する。このため、上昇させる断熱構造体102内の成形空間の雰囲気温度の上昇の範囲は0超〜100℃であることが好ましく、0超〜50℃であることがさらに好ましく、0超〜10℃であることがさらに好ましい。
このようにして断熱構造体102内の成形空間の雰囲気を調整して、断熱構造体102内の溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の表面に面する雰囲気における揮発成分の分圧と揮発成分の飽和蒸気圧の差を大きくする。これにより、揮発成分の揮発を促進させつつガラスリボン104が形成される。このような溶融したガラスおよびガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させる方法は、溶融したガラスおよびガラスリボンの両表面のほか、一方の表面のみに対して適用することもできる。
【0090】
さらに、溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の揮発成分の揮発量を増やす方法として、成形工程における成形装置101の下端部からゲート125の上端部までの距離を長くすることができる。この距離を長くすることにより、ガラスリボン104が成形空間内を通過する通過時間を長くすることができる。その結果、断熱構造体102内の空間でガラスリボン104が高温に曝される時間が長くなり、揮発時間が増加する。このため、ガラスリボン104の揮発成分の揮発量が増える。
上記距離を長くしすぎると、成形されるガラスリボン104の厚さが変化する。このため上記距離の増加分は、0超〜20mm、0超〜10mm、0超〜5mm、0超〜1mm、0超〜0.1mmであることがさらに好ましい。
【0091】
また、成形体装置101自体のサイズを大きくして、溶融ガラス103が流れる壁面112の流れる長さを長くしてもよい。これにより、断熱構造体102内の空間で溶融ガラス103が高温に曝される時間が長くなり、揮発時間が増加する。このため、溶融ガラス103の揮発成分の揮発量が増える。
【0092】
断熱構造体102内を通過する溶融ガラスから揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増やすための方法を種々説明したが、これらの方法は、単独であるいは組み合わせて用いることができる。
【0093】
このようにして製造されるガラス板10は、圧縮応力層14がガラス表面に薄く形成されるので、ガラス基板の加工性を保ちつつ、ガラス表面に傷がつくことを防止できる。
特に、徐冷工程においてガラスを急冷することで得られる従来のガラス板の圧縮応力層よりも薄くかつ応力値(絶対値)が大きい圧縮応力層14が得られるので、ガラス板10は、形状加工前の薄いガラス板として有効に用いることができる。
【0094】
従来のガラス板は、工程間の搬送中や切断や形状加工において、表面に傷がついてしまうことがある。しかし、ガラス板10は、化学強化を行う前にガラス表面に傷がついてしまうことを防止できるため、カバーガラス表面の傷を防止することができ、表面品質を向上させることができる。
【0095】
更に、ガラス板10に化学強化処理を施すとき、ガラスの組成を大きく変更せずに、圧縮応力層の応力値(絶対値)を大きくすることができるので、電子機器の表示画面のカバーガラスに用いる場合でも、ガラス表面に傷がつくことを防止することでき、カバーガラスの表面品質を向上させることができる。また、化学強化される前のガラス板10には、圧縮応力層14が既に形成されているので、ガラス板10をイオン交換する際に、より短時間で深い圧縮応力層を得ることができる。さらに、引っ張り応力層の応力値が大きくなりすぎてしまうこと防止することができる。
【0096】
(実施例)
図9は、アルミノボロシリケートガラスのガラス板10について実測したSiの原子濃度(%)の分布を示す図である。Siの原子濃度(%)は、X線光電子分光装置(アルバックファイ社製Quantera SXM)を用いて、表面近傍のSi原子濃度を測定した。具体的には、スパッタリングによりガラス板の表面を種々の深さまで掘り下げ、各深さにおける原子濃度を測定した。測定元素としては、 Siとともに、含有率が相対的に高い揮発成分であるAl,B,Ca,Sr,Baを指定し、測定元素中に占めるSiの比率を求めた。これらの成分は、ガラスリボンの成形工程において、ガラスリボンの表面から揮発する揮発成分である。なお、揮発成分のうちでもKおよびSnの含有率は小さく、それらの量がSi原子濃度に与える影響は少ないと考えられるため、これらは測定元素に含めていない。図9に示すガラス板A,ガラス板Bは、図5に示す装置を用いて、流れる空気の条件を変えて作製されたガラス板である。
図9に示すように、ガラス板A、ガラス板Bではいずれもガラス中心位置に比べてSi原子濃度が5%以上高い領域がガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成されている。これは、ガラス板A、ガラス板Bでは、ガラス表面近傍で揮発成分の量が内部に比べて少なくなっていることによると考えられる。
【0097】
なお、上記ガラス板Aおよびガラス板Bの各成文の含有率(質量%)は以下のとおりであった。
SiO2 60.9%
Al2O3 16.9%
B2O3 11.6%
MgO 1.7%
CaO 5.1%
SrO 2.6%
BaO 0.7%
K2O 0.25%
SnO2 0.13%
【0098】
図10は、上記ガラス板Aのガラス板10について実測した内部応力の分布を示す図である。内部応力は、微小面積複屈折計 (王子計測機器社製 KOBRA−CCD/X)を用い、ガラス板10を厚さ方向に切断した断面について表面から所定の深さごとに1cm当たりの光路差率(光路差/光路長さ)を測定し、これを光弾性定数で割って算出している。なお、「内部応力」とは、ガラス板の厚さ方向に沿った0〜10μmの厚さの平均値を示している。そのため、局部的には、図10に示す結果を超えるような応力値が形成されている場合もある。
図10に示すように、ガラス板10の表裏両面には、圧縮応力層14が形成され、その内部に略一定の引っ張り応力値を有する引っ張り応力層14が形成されていることが分かる。また、ガラス板内部に形成された引っ張り応力層14の応力値がガラス板厚さ方向に略一定で形成されていることも分かる。これは、ガラス板10のガラス表裏両面近傍では揮発成分が少なくなっていることに起因するものである。
【0099】
さらに、下記表1に示す組成の実施例1〜3と比較例の強化ガラスを下記の条件で化学強化した。比較例は、実施例1〜3と同様の方法で製造されたガラス板10の表面に形成される圧縮応力層14の部分を研磨した後、化学強化して得られた強化ガラスである。
実施例1〜3および比較例の強化ガラスは、下記表1に示される組成となるように調合したガラス原料を、耐火煉瓦製の溶解槽と白金製の境枠槽などを備えた連続溶解装置を用いて、1520℃で熔解し、1550℃清澄、1350℃で攪拌した後に図5に示す装置を用いたダウンドロ一法により厚さ0.7mmの薄板状のガラス板10を成形し、化学強化用ガラス板を得た。比較例では、ガラス板を化学強化する前にガラス板10の圧縮応力層14を表面研摩して除去した。このため、比較例の強化ガラスにおける圧縮・引っ張り応力プロファイル形状は実施例1〜3と異なる。
次に、実施例1〜3及び比較例の化学強化用ガラス板のガラス表面に引っ掻き傷をつけた。具体的には、引っ掻き荷重2N,引っ掻き長さ30mmの条件で、エリクセンモデル318(エリクセン社製)引っ掻き硬度計の先端に直径0.7mm(Bosch規格)のボールチップを設けて、実施例1〜3、比較例のガラス板に引っ掻き傷をつけた。
洗浄されたガラス板を400℃に保ったKNO3100%の処理浴中に約2.5時間浸潰して、ガラス表層に存在するNa+イオンを、処理浴中のK+イオンとイオン交換させ、ガラス板を化学強化した。化学強化後のガラス板は、洗浄槽に順次浸潰して洗浄し、乾燥した強化ガラスを得た。
【0100】
こうして得られた実施例1〜3及び比較例のガラス表面をレーザ顕微鏡で観察し、傷によるクラックが進展した強化ガラスを不良、クラックが進展していなかった強化ガラスを良好と評価した。
下記表1には、組成と評価結果を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
上記表1より、実施例1〜3の傷の評価は良好であったが、比較例の評価は不良であった。これより、圧縮応力層14と引っ張り応力層12を有するガラス板10を化学強化することが、強化ガラス表面の傷発生を防止できる点で有効であることがわかる。
【0103】
以上、本発明の強化ガラス及び強化ガラスの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0104】
10 ガラス板
11 孔
12 引っ張り応力層
14 圧縮応力層
101 成形装置
102 断熱構造体
103 溶融ガラス
104 ガラスリボン
111 溝
112 壁面
121 底壁
122 周壁
123 天井壁
125 ゲート
126 排出口
127 導入口
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化ガラスおよびダウンドロー法で強化ガラスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末装置)、太陽電池、フラットパネルディスプレイのカバーガラスに強化ガラスが用いられる。
【0003】
このようなカバーガラスを製造するには、ダウンドロー法が最もよく使用される。ダウンドロー法では、溶融ガラスを成形装置の溝からオーバーフローさせることで帯状のガラスリボンが連続的に成形される。その際、ガラスリボンをローラ等によって下方に引き下げる。このときガラスリボンの引き下げ速度によってガラスリボンの厚さの調整が行われる。その後、ガラスリボンが所定長さで切断されて、ガラス板が製造される。
【0004】
例えば、特許文献1には、図11に示すようなガラス板製造装置が開示されている。このガラス板製造装置は、成形装置7と、成形装置7を取り囲む断熱構造体8とを備えている。断熱構造体8は、成形装置7の回りに高温の空気を保つことにより成形装置7からオーバーフローする溶融ガラスの温度を維持するためのものであり、通常は、ガラスリボンを通過させるゲート81以外は密閉構造とされる。
【0005】
具体的に、特許文献1に開示されたガラス板製造装置では、断熱構造体8が、下方に開口する容器状の主体8Aと、主体8Aの開口を塞ぐように配置されたゲート構成体8Bで構成されている。ゲート構成体8Bの内部は空洞となっており、このゲート構成体8Bの内部には冷却管82を通じて冷却用空気が供給されるようになっている。これにより、特許文献1に開示されたガラス板製造装置では、ガラスリボン9を形成直後から冷却できるようになっている。
【0006】
また、薄型化、軽量化が可能で、機械的強度や透明性が高く、しかも短時間で製造可能なディスプレイ用ガラス基板が知られている(特許文献2)。このガラス基板は、 SiO2を40〜70重量%、Al2O3を0.1〜20重量%、Na2Oを0〜20重量%、Li2Oを0〜15重量%、ZrO2を0.1〜9重量%含有し、Li2OとNa2Oの合計含有量が3〜20重量%であるガラス材料で形成される。このガラス基板の表面には化学強化処理により深さ50μm以上の圧縮応力層が形成される。
【0007】
また、アニール点より高い第1の温度から歪点より低い第2の温度に急冷し、イオン交換により化学強化処理を行って、表面から少なくとも20μmの深さを持つイオン交換表面層を有するガラスが知られている(特許文献3)。
【0008】
さらに、高い機械的強度が得られるように、ガラス内の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを適正化することができ、しかも熱加工を容易に行うことができる強化ガラスの製造方法が知られている(特許文献4)。
この製造方法では、徐冷点から歪点までの温度域を200℃/分以下、好ましくは50℃/分以下の冷却速度で冷却した後、化学強化処理が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2009−519884号公報
【特許文献2】特開2002−174810号公報
【特許文献3】US 2009/0220761号 A1
【特許文献4】特開2010−168252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、溶融ガラスからは、空気と接する境界面において揮発成分が揮発する。本願発明の発明者らは、この揮発をダウンドロー法で効果的に利用すれば、ガラス板の表裏両面に所望の圧縮応力層を形成できるのではないかと考えた。
【0011】
(第1の問題)
しかしながら、特許文献1に開示された製造装置のように、断熱構造体8が密閉構造である場合には、成形装置からオーバーフローする溶融ガラスからの揮発成分の揮発が抑制されるため、応力値の高い圧縮応力層を形成することができない。
【0012】
なお、特許文献1には、ゲート構成体8Bに、冷却管82からの冷却用冷気を主体8Aで覆われる空間内に噴出する噴出口83を設け、噴出口83からゲート81に冷却用空気を流すことによりガラスリボン9を冷却することも開示されている。しかし、このようにゲート81付近に強制対流を生じさせても、それより上側の空気、すなわち主体8Aで覆われる空間内の大部分の空気はその場所に留まるため、溶融ガラスからの揮発成分の揮発が抑制されることに変わりない。
【0013】
(第2の問題)
特許文献2に開示されるガラス基板では、イオン交換を行って化学強化処理を行うことで、ガラス板の表面に圧縮応力層が形成される。しかし、化学強化処理の前工程において、ガラス板の表面に傷が付くことは避けられない。一方、ガラス板の成形直後に上記化学強化処理を行うと、その後に行うガラス表面の切断やガラス板の研削・研磨や形状加工を含む加工処理の効率が低下する。
【0014】
特許文献3に開示されるガラス板は、徐冷工程においてガラスを急冷するので、ガラス表面に小さな圧縮応力層ができる場合がある。しかし、徐冷工程のみにおいてガラスを急冷することで得られる圧縮応力層の応力値はきわめて低いため、化学強化処理の前工程においてガラスの表面に傷が付くこともある。また、厚さが薄いガラス板では、厚さ方向に沿って放物線形状を示す内部応力分布に起因して、ガラス板内部に形成される引っ張り応力層の応力値が大きくなる。引っ張り応力層の応力値が大きいことは、例えば、ガラス板を切断する場合に、切断のために入れた所定深さのスクライブ線が、ガラス板の厚さ方向に想定外に伸長してしまい、所望の寸法にガラス板を分割することが困難となる場合がある点で好ましくない。
【0015】
特許文献4では、ゆっくりとガラスを冷やして成形されたガラス板を化学強化することで、圧縮応力層の応力値は高くなる。しかし、ガラス板は、成形後、化学強化される前に、所定の大きさに裁断され形状加工される。ガラス板は、このような工程間の搬送中や切断や形状加工において、表面に傷がついてしまうことがある。ガラス板は、化学強化を行う前にガラス表面に傷がついてしまうと、たとえその後に化学強化がされて高い強度を得たとしても、ガラス表面には傷が残ってしまう。
【0016】
本発明は、このような事情に鑑み、成形装置からオーバーフローする溶融ガラスからの揮発成分の揮発を促進させることができるガラス板製造装置およびこのガラス板製造装置を用いたガラス板製造方法を提供するとともに、前記のガラス板製造方法により得られたガラス板を提供することを第1の目的とする。
【0017】
そこで、本発明は、ガラス板の製造の際に、ガラス成形後の加工処理の効率に悪影響を与えず、化学強化する前のガラス表面に傷が付き難い程度にガラス表面が強化された強化ガラスと、強化ガラスの製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(第1の発明)
上記第1の目的を達成するために、本発明の一態様は、ダウンドロー法によりガラス板を製造する装置であって、溶融ガラスを溝の両側からオーバーフローさせ、そのオーバーフローした溶融ガラス同士を壁面で誘導して融合させることによりガラスリボンを形成する成形装置と、前記成形装置を取り囲むとともに前記成形装置によって形成された前記ガラスリボンを通過させるゲートを有する断熱構造体と、を備え、前記断熱構造体には、前記断熱構造体外から前記断熱構造体内に導入され、前記成形装置の壁面上を流下する溶融ガラスに沿って上昇した気体を前記断熱構造体外に排出する排出口が設けられている、ガラス板製造装置を提供する。
【0019】
また、本発明の一態様は、ダウンドロー法によりガラス板を製造する方法であって、断熱構造体で取り囲まれる成形装置の溝の両側から溶融ガラスをオーバーフローさせながら、前記断熱構造体外から前記断熱構造体内に導入した気体を前記成形装置の壁面上を流下する溶融ガラスに沿って上昇させた後に前記断熱構造体外に排出する工程を含む、ガラス板製造方法を提供する。
【0020】
さらに、本発明の一態様は、上記のガラス板製造方法により得られたガラス板であって、表裏両面に圧縮応力層を有するガラス板を提供する。
【0021】
(第2の発明)
前記第2の目的を達成するために、本発明の一態様は、ガラス板が化学強化された強化ガラスを提供する。当該強化ガラスでは、
前記強化ガラスの厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成され、
前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記強化ガラスの厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置から前記強化ガラスのガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少し、
さらに、イオン交換により化学強化されたイオン交換処理領域が前記ガラス板表面に形成されている。
【0022】
本発明の他の一態様は、強化ガラスの製造方法を提供する。当該製造方法は、
ガラス原料を溶融する工程と、
ダウンドロー法を用いて、溶融したガラスからガラスリボンを成形する工程と、
前記ガラスリボンを切断し、ガラス板を形成する工程と、
形成された前記ガラス板にイオン交換によって前記ガラス板の表面を化学強化する工程と、を備える。
その際、前記ガラスリボンは、前記ガラス板の厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成され、前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記ガラス板の厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置から前記ガラス板のガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少するように成形される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の強化ガラスは、強化ガラスの製造の際に、ガラス板の成形後の加工処理の効率に悪影響を与えず、ガラス表面に傷が付き難い程度にガラス表面が強化され、さらに、製品としても傷か付きにくい。本発明の強化ガラスの製造方法は、上記強化ガラスを傷つくことなく効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態における化学強化前のガラス板の内部応力分布を示す図である。
【図2】徐冷工程でガラスを急冷した場合に得られる従来のガラス板の内部応力分布を示す図である。
【図3】本実施形態の強化ガラスの製造方法のフローの一例を説明する図である。
【図4】本実施形態の強化ガラスの製造方法における形状加工を説明する図である。
【図5】本実施形態の強化ガラスを製造するガラス板製造装置の断面図である。
【図6】図4に示すガラス板製造装置の斜視図である。
【図7】変形例のガラス板製造装置の断面図である。
【図8】他の変形例のガラス板製造装置の断面図である。
【図9】本実施形態の化学強化前のガラス板の実測した内部応力の分布を示す図である。
【図10】本実施形態の化学強化前のガラス板の実測したSiの原子濃度(%)の分布を示す図である。
【図11】従来のガラス製造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の強化ガラスおよび強化ガラスの製造方法について説明する。
【0026】
(ガラス板の概略説明)
本発明の実施形態である強化ガラスは、ダウンドロー法で形成されたガラス板を化学強化したものである。この強化ガラスには、強化ガラスの厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成される。Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、強化ガラスの厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、上記最大ピーク位置から表面および前記中心位置まで連続的に減少する。Si原子濃度とは、酸素原子を除くガラス成分全体(Si,Al,B,Ca,Sr,Ba等の酸素原子を除くガラス全成分)に対するSiの原子%を意味する。
さらに、強化ガラスはイオン交換により化学強化されているので、ガラス表面にはイオン交換処理領域が形成されている。このような強化ガラスは、例えば、電子機器の表示画面のカバーガラス等に用いられる。
強化ガラスは、ガラス板の内部に形成された引っ張り応力層と、引っ張り応力層の両側に形成された圧縮応力層と、を有する。
【0027】
(化学強化前のガラス板)
図1は、本実施形態のダウンドロー法で製造されたガラス板であって、化学強化される前のガラス板10の内部応力分布を示す図である。すなわちガラス板10は、化学強化処理前のガラス板である。
ガラス板10は、図1に示すように、ガラス板の内部に形成された引っ張り応力層12と、引っ張り応力層12の両側に形成された圧縮応力層14と、を有する。
圧縮応力層14はガラス板10の表面からガラス板10の厚さ方向に沿った10μmより大きく50μm以下の深さの範囲に形成され、圧縮応力層14の厚さはガラス板10の厚さの1/13未満である。圧縮応力層14の応力値の絶対値は4MPa以下であり、引っ張り応力層12の応力値の絶対値は0.4MPa以下である。
【0028】
具体的には、圧縮応力層14の厚さをW1とすると、厚さW1は0μmより大きく50μm以下であり、ガラス板10の厚さW0の1/13未満である。圧縮応力増14の応力値(絶対値)の最大値S1は、4MPa以下であり、引っ張り応力層12の応力値(絶対値)の最大値S2は0.4MPa以下である。
【0029】
図1中の太い実線は、ガラス板10の厚さ方向に沿った内部応力分布、すなわち、圧縮・引っ張り応力プロファイルを示している。図2は、徐冷工程でガラスを急冷した場合に得られる従来のガラス板の内部応力分布を示す図である。
徐冷工程でガラスを急冷した場合に得られる圧縮・引っ張り応力プロファイルは、放物線を描くようなプロファイルである。ガラスを急冷した場合にガラス板に形成される圧縮応力層は、ガラス表面と内部との熱膨張の差により生じるものである。この熱膨張率の差は、ガラスの熱伝導率に起因して生じる。また、徐冷工程において従来より得られる圧縮応力層の厚さW’1(図2参照)は、ガラス板の厚さW’0の1/10以上である。
【0030】
これに対し、ガラス板10では、ガラス表面に形成されるSi高濃度領域に起因した熱膨張の差によって、ガラス板10の表面近傍に、厚さの薄い圧縮応力層14が形成される。Si高濃度領域は、後述するようにガラスリボンの成形工程において、溶融ガラスあるいはガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させることによって形成される。このとき、引っ張り応力層12は、ガラス板10の厚さ方向に略一定の低い応力値を有しており、従来の引っ張り応力層の引っ張り応力値がガラス板の厚さ方向に放物線を描くように分布する場合とは異なっている。
また、ガラス板10全体において圧縮応力層14による圧縮と引っ張り応力層12による引張りが相殺されるので、圧縮応力層14が薄くなると引っ張り応力と相殺するために圧縮応力層14の応力値(絶対値)は高くなる。このため、圧縮応力層14は、例えば、徐冷工程おいてガラスを急冷した場合のみで得られる圧縮応力層の応力値よりも大きな応力値を有する。つまり、ガラス板10には大きな応力値を有する圧縮応力層14がガラス表面に形成されるので、ガラス板10のガラス表面は、徐冷工程のみでガラス表面を強化した従来のガラス板に比べて傷がつきにくい。
以下、ガラス板10をより詳細に説明する。
【0031】
(化学強化前のガラス板の詳細説明)
化学強化前のガラス板10に形成される圧縮応力層14の厚さW1は0μmより大きく50μm以下である。圧縮応力層14はガラス表面に形成されている。すなわち、圧縮応力層14は、ガラス表面から最大50μmの深さの範囲に形成される。更に別な言い方をすると、圧縮応力層14の表面からの深さは50μm以下である。圧縮応力層の深さは、成形工程における溶融ガラスあるいはガラスリボンの表面からの揮発を促進することにより深くすることが可能であるが、圧縮応力層14の深さが50μmを超えると、それにより、成形適正条件の逸脱、或いは、生産性の低下を生じる。このため圧縮応力層14の表面からの深さは50μm以下である。このため、圧縮応力層14の深さは、45μm以下、40μm以下、38μm以下であることが好ましい。このような好ましい態様は、溶融ガラスあるいは成形中のガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させる条件を含むガラス板の製造条件及びガラス板の組成を調整することで実現され得る。
【0032】
なお、本明細書における圧縮応力層14の深さとは、ガラス板10の表裏のうち、一方の面において形成された圧縮応力層の最深部の、ガラス表面からの深さを示す。つまり、ガラス板10の表裏表面に各々、上記深さを有する圧縮応力層14が形成されている。
また、圧縮応力層14の深さは10μm超である。圧縮応力層14の深さを10μm超とすることで、取り扱いに起因する微細な傷によりガラスが割れやすくなることを防ぐことができる。圧縮応力層14の深さは、深い傷が付いてもガラス板10が破損し難い点を考慮して、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上であることがより好ましい。
ガラス表面に形成される圧縮応力層14の深さは、ガラス板10の厚さW0の1/13未満であるが、1/15未満、 1/17未満、1/20未満、1/22未満、 1/24未満であることが好ましい。
このような好ましい態様も、溶融ガラスあるいは成形中のガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させる条件を含むガラス板の製造条件及びガラス板の組成を調整することで実現され得る。
【0033】
化学強化前のガラス板10の表面近傍に形成された圧縮応力層14の応力値(絶対値)は、最大でも4MPaである。上記応力値(絶対値)の最大値が4MPaを超えると、圧縮応力層14の応力値の総和が大きくなり、ガラス板10の加工、例えば形状加工がし難くなる。このため、圧縮応力層14の応力値(絶対値)の最大値は、3.7MPa以下、3.5MPa以下、3.0MPa以下、2.8MPa以下であることが好ましい。また、圧縮応力層14の応力値(絶対値)の最大値は、0.1MPa以上、0.5MPa以上、1MPa以上、1.5MPa以上、2MPa以上であることが好ましい。圧縮応力層14は、応力値(絶対値)が0MPa超である層であるので、圧縮応力層14がガラス板10のガラス表面に形成されることでガラス板10の機械的強度が向上する。
なお、本明細書での「応力値」は、ガラス板10のガラス表面から所定の深さごとに削った試料においてその試料の表面から0〜10μmの平均値を示している。そのため、局部的には、上記応力値の範囲を超えるような応力値を圧縮応力層14が有しているガラス板もガラス板10として含まれる。
【0034】
ガラス板10内部に形成された引っ張り応力層12の応力値は、上述したように、ガラス板10の厚さ方向に略一定である。この引っ張り応力層12の応力値は、上述したように0.4MPa以下である。引っ張り応力層12の応力値(絶対値)の最大値が0.4MPaを超えると、例えば、ガラス板を切断する場合に、切断のために入れた所定深さのスクライブ線が、ガラス板の厚さ方向に想定外に伸長してしまい、所望の寸法にガラス板10を分割することが困難となる場合がある。このため、引っ張り応力層12の応力値の最大値(絶対値)は、0.3MPa以下、0.2MPa以下、0.15MPa、0.10Mpa以下であることが好ましい。本実施形態では、ガラス表面の圧縮応力層14の応力値(絶対値)の最大値/引張り応力層12の応力値(絶対値)の最大値を6以上とすることができる。
また、ガラス板10の厚さ方向において両側1/10ずつを除いた引っ張り応力層12の中心部分4/5(以下、単に「引張中心領域」という。)でのガラス板10の引っ張り応力層12における応力値の変動、すなわち応力値(絶対値)の最大値と最小値の差は、0.12MPa以下であることが好ましい。これにより、ガラス板の切断性を向上させることができる。より好ましくは、0.10Mpa以下、0.05Mpa以下、0.02Mpa以下である。このような好ましい態様も、溶融ガラスあるいは成形中のガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させる条件を含むガラス板の製造条件及びガラス板の組成を調整することで実現され得る。
【0035】
ガラス板10の内部に形成された引っ張り応力層12の応力値は、ガラス板10の厚さ方向に略一定であるため、引っ張り応力層の応力値がガラス板の厚さ方向に放物線を描くように形成されている場合に比較して、引っ張り応力層12を薄く保つことができる。
より詳細には、ガラス板10の引っ張り応力層12の応力値は、ガラス板10の厚さ方向に略一定であり、その応力値の最大値(絶対値)に比べて、徐冷工程のみで得られる従来のガラス板の引っ張り応力値の最大値(絶対値)は大きい。すなわち、従来のガラス板では、ガラス表面に形成される圧縮応力層の圧縮応力に対して相殺するように放物線形状のプロファイルで引っ張り応力層が形成される。このため、ガラス板の厚さが薄くなると、ガラス表面の圧縮応力層の圧縮応力を相殺するための引っ張り応力層の厚さも薄くなるので、従来のガラス板において引っ張り応力層の応力値は極端に高くなり、例えば、ガラス板を切断する場合に、切断のために入れた所定深さのスクライブ線が、ガラス板の厚さ方向に想定外に伸長してしまい、所望の寸法にガラス板10を分割することが困難となる場合がある。しかし、本実施形態のガラス板10の引っ張り応力層12の応力値は、ガラス板10の厚さ方向に略一定であるので、引っ張り応力層の応力値の最大値は高くなりにくく、ガラス板の加工も精度よく行うことができる。
【0036】
ガラス板10をガラスの組成から見ると、ガラス板10には、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲にSi高濃度領域(以降、Siリッチ層という)が形成されている。Siリッチ層とは、ガラス板10の厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高い領域である。Siリッチ層が位置する範囲は、好ましくは、0超〜25nm、2〜20nm、5〜16nm、8〜16nmである。他方、Siリッチ層の深さは、成形工程における溶融ガラスあるいはガラスリボンの表面からの揮発を促進することにより深くすることが可能であるが、それにより、成形適正条件の逸脱、或いは、生産性の低下が生じる。あるいは、Siリッチ層の深さが30nmを超えると、ガラス板10のガラス表面にエッチング処理を施す場合に、エッチングがし難くなる。また、Siリッチ層の深さが30nmを超えると、ガラス表面に形成される圧縮応力層14の応力値(絶対値)が大きくなり、ガラス板の切断性が低下するという不都合が生じる。そのため、Siリッチ層の深さが30nm以下であることが好ましい。
Siリッチ層は、Si原子濃度の最大ピークを有し、ガラス板10の厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、上記最大ピークの位置から両側に向かって減少する。このようなガラスの組成を有することにより、上述した圧縮応力層14および引っ張り応力層12が形成されている。Si原子濃度とは、酸素原子を除くガラス成分全体(Si,Al,B,Ca,Sr,Ba等の酸素原子を除くガラス全成分)に対するSiの原子%を意味する。
このとき、ガラス溶融状態(例えば、ガラスの粘性が104.5〜105poise、あるいは温度1100〜1300℃)においてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分が、ガラス板の厚さ方向の中心位置において30質量%以上含まれることが、上記Siリッチ層を形成する点で好ましい。
【0037】
ここで、上記濃度比率が5%未満となると、ガラス表面と内部で十分な熱膨張率の差を得ることができず、圧縮応力層14が有効に形成されない。あるいは、十分なビッカース硬度や耐久性が得られない。
他方、上記濃度比率が30%を越えると、ガラス板の品質(物理特性、熱的特性、化学特性)が変化し、例えば、ガラス板の切断やエッチング処理が困難になり、所望の用途に使用できなくなる場合がある。この点から、上記濃度比率は、30%を上限とすることが好ましい。
また、Siリッチ層中で、最もSi原子含有量やSi原子濃度が高くなるピーク位置は、ガラス表面から0〜5nmの深さの範囲に位置する。
【0038】
Siリッチ層を、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成することで、ガラス表面と内部で十分な熱膨張率の差を得ることができ、ガラス表面に圧縮応力層14を形成することができる。また、ガラス表面のビッカース硬度や耐久性も向上させることが可能となり、ガラス板10が割れることを防止することができる。すなわち、Siは、ビッカース硬度を向上させる成分であるため、ガラス表面に形成されるSiリッチ層により、ガラス板10のガラス表面のビッカース硬度は高くなる。また、Siは耐薬品性に優れているため、Siリッチ層がガラス表面に形成されるガラス板10の耐久性も向上する。また、ガラス表面のビッカース硬度は、従来のガラス板に比べて向上するため、クラック発生率が低下し、より傷がつきにくく、破損しがたいという効果を得ることができる。
ガラス板10のガラス表面のビッカース硬度は、例えば4GPa以上であり、5GPa以上であり、5.3GPa以上であることが好ましい。あるいは、ガラス表面のビッカース硬度が、ガラス内部のビッカース硬度との比で、0.01%以上向上されており、0.02%以上、0.05%以上、0.10%以上、1%以上向上していることが好ましい。
【0039】
このように、化学強化される前のガラス板10は、内部応力の点では、引っ張り応力層12および圧縮応力層14を有し、組成の点では、ガラス表面の近くにSiリッチ層を有する。ガラス板10は、後述するガラスリボンの成形工程において、溶融ガラスあるいはガラスリボンの表面から例えば、ガラスの粘性が104.5〜105poise、あるいは温度1100〜1300℃のガラス溶融状態において、SiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分の揮発を促進させることにより、得ることができる。
上述した好ましい数値範囲の各態様も、溶融ガラスあるいは成形中のガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増大させる条件を含むガラス板の製造条件及びガラス板の組成を調整することで実現され得る。
【0040】
(化学強化処理後のガラス板の説明)
このようなガラス板10にイオン交換により化学強化処理が施されて、本実施形態の強化ガラスが得られる。すなわち、強化ガラスには、イオン交換によりイオン交換処理領域がガラス表面に形成されている。イオン交換処理領域とは、ガラス表面中の成分であるLi,Na等のイオン交換成分がイオン交換用の処理液中のK等のイオン交換成分と交換された領域である。したがって、化学強化されたガラス板10のガラス表面には、Siリッチ層に起因する圧縮応力層14に重なってイオン交換による大きな圧縮応力層が一体的に形成される。圧縮応力層はイオン交換によりガラス表面から内部に向かって形成される圧縮応力層の厚さは、20〜100μmとなる。
イオン交換により拡大された圧縮応力層の応力値(絶対値)の最大値は300MPa以上であることが好ましく、400MPa以上であることがより好ましい。応力値(絶対値)の最大値を300MPa以上とすることで、化学強化されたガラス板10、すなわち強化ガラスは、例えばディスプレイなどを保護するために十分な強度を得ることができる。なお、上記応力値(絶対値)が高いほどガラスの強度は向上するが、強化されたガラスが破損した際の衝撃も大きくなる。上記衝撃による事故を防止するために、化学強化処理されたガラス板10は、圧縮応力層の応力値(絶対値)の最大値が950MPa以下であることが好ましく、800MPa以下あることがより好ましく、700MPa以下であることがより一層好ましい。一方、ガラスを急冷することでガラス表面に圧縮応力層を形成した従来のガラス板と比較して、引っ張り応力層の応力値(絶対値)は大きくなり難い。
【0041】
化学強化処理後の圧縮応力層の厚さは、20μm以上であり、30μm以上、40μm以上が好ましい。圧縮応力層の厚さが大きい程、強化ガラスに深い傷がついても、強化ガラスが割れにくくなり、機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、圧縮応力層の厚さは100μm以下である。圧縮応力層の厚さは、強化ガラスの加工のしやすさを考慮すると、90μm以下、80μm以下とするのが好ましい。
【0042】
なお、強化ガラスの厚さは1.5mm以下であることが好ましい。ここでは、1.5mm以上の強化ガラスでは、強化ガラスそのものの強度が大きくなり、ガラス表面近傍に形成された圧縮応力層が十分に機能しないためである。つまり、本実施形態で形成される強化ガラスの厚さは、1.0mm以下、0.7mm以下、0.5mm以下、0.3mm以下であることが好ましく、強化ガラスの厚さが薄いほど、本発明の効果が顕著となる。
【0043】
また、本実施形態の強化ガラスの製造方法は、大きい強化ガラスに好適である。これは、大きな強化ガラスほど、撓み量が大きく、取り扱いに起因する微細な傷によりガラスが割れ易くなるが、ガラス表面に圧縮応力層が形成されることによって、上記問題の発生を低減できるためである。このため、強化ガラスの幅方向が1000mm以上、2000mm以上である場合に、本発明の効果が顕著となる。
【0044】
(ガラス板のガラスの種類)
本実施形態のガラス板に用いるガラスとして、アルカリシリケートガラス、アルカリアルミノシリケートガラス、アルカリアルミノゲルマネイトガラスなどのアルカリガラスが用いられ得る。なお、本発明のガラス板に適用できるガラスは上記種類に限定されるものではなく、少なくともSiO2と、ガラス溶融温度(ガラスの粘性が104.5〜105poise、あるいは温度1100〜1300℃)における飽和蒸気圧がSiO2よりも高い揮発成分と、を含む種類のガラスであればよい。なお、Al2O3は、網目形成酸化物であり、ガラスの成分の中では比較的飽和蒸気圧が低い成分である。しかし、本実施形態では、SiO2よりも飽和蒸気圧が高いため、Al2O3を揮発成分に含めることとする。
なお、ガラス組成中の揮発成分の含有量は、30質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上、40質量%以上であることがさらに好ましい。したがって、強化ガラスの内部に形成される揮発成分が揮発しない引っ張り応力層では、揮発成分の含有量は、30%質量以上となっている。ガラス組成中の揮発成分の含有量が30質量%未満であると、揮発成分の揮発が促進されず、ガラス表面にSiリッチ層や圧縮応力層が形成され難くなる。また、揮発成分を多く含有すると、揮発が増加しすぎ、ガラスの均質化が困難になる。このため、ガラス組成中の揮発成分の含有量は、60質量%以下、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
(各ガラスの組成例)
本実施形態のガラス板に用いられるアルカリアルミノシリケートガラスは、以下の成分を含むものが例示される。なお、以降で記載する組成の%表示は、質量%表示である。下記括弧内の表示は各成分の好ましい含有率である。
SiO2:50〜70%(55〜65%,57〜64%,57〜62%)、
Al2O3:5〜20%(9〜18%,12〜17%)、
Na2O:6〜30%(7〜20%,8〜18%,10〜15%)、
このとき、任意成分として、下記の組成を含んでもよい。
Li2O:0〜8%(0〜6%,0〜2%,0〜0.6%,0〜0.4%,0〜0.2%)、
B2O3:0〜5%(0〜2%,0〜1%,0〜0.8%)、
K2O:0〜10%(下限は1%、下限は2%、上限は6%、上限は5%、上限は4%)、
MgO:0〜10%(下限は1%、下限は2%、下限は3%、下限は4%、上限は9%、上限は8%、上限は7%)、
CaO:0〜20%(下限は0.1%、下限は1%、下限は2%、上限は10%、上限は5%、上限は4%、上限は3%)、
ZrO2:0〜10%(0〜5%、0〜4%、0〜1%、0〜0.1%)。
【0046】
さらに、アルカリアルミノシリケートガラスとして、下記組成が例示される。
SiO2:50〜70%、
Al2O3:5〜20%、
Na2O:6〜20%、
K2O:0〜10%、
MgO:0〜10%、
CaO:2%超〜20%
ZrO2:0〜4.8%、
さらに、好ましくは、
SiO2含有率−1/2・Al2O3の含有率:46.5〜59%、
CaO/RO(ただし、RはMg、Ca、SrおよびBaの中から選ばれる少なくとも1種である)含有量比が0.3%超、
SrO含有率+BaO含有率が10%未満、
(ZrO2+TiO2) /SiO2含有量比が0〜0.07未満、
B2O3/R12O (ただし、R1はLi、NaおよびKの中から選ばれる少なくとも1種である)含有量比が0〜0.1未満。
【0047】
さらに、別のアルカリアルミノシリケートガラスとして、下記組成が例示される。
SiO2:58〜68%、
Al2O3:8〜15%、
Na2O:10〜20%、
Li2O:0〜1%、
K2O:1〜5%、
MgO:2〜10%、
【0048】
(各成分)
SiO2はガラス板10のガラスの骨格をなす成分であり、ガラスの化学的耐久性と耐熱性を高める効果を有している。SiO2含有率が低すぎる場合には化学的耐久性と耐熱性の効果が十分に得られず、SiO2含有率が高すぎるとガラスが失透を起こしやすくなり、成形が困難になるとともに、粘性が上昇してガラスの均質化が困難になる。
【0049】
Al2O3はガラスの骨格をなす成分であり、ガラスの化学的耐久性と耐熱性を高める効果を有している。また、イオン交換性能やエッチング速度を高める効果を有している。Al2O3含有率が低すぎる場合にはガラスの化学的耐久性と耐熱性の効果が十分に得られない。一方、Al2O3含有率が高すぎると、ガラスの粘性が上昇して溶解が困難になるとともに、耐酸性が低下する。
【0050】
B2O3はガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する成分である。B2O3含有率が低すぎると、ガラスの粘性が高くなりガラスの均質化が困難になる。
【0051】
MgOおよびCaOは、ガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する成分である。また、MgおよびCaは、アルカリ土類金属の中ではガラスの密度を上昇させる割合が小さいため、得られるガラスを軽量化しつつ熔解性を向上するためには有利な成分である。ただしそのMgOおよびCaO含有率が高くなりすぎると、ガラスの化学的耐久性が低下する。
【0052】
SrOおよびBaOは、ガラスの粘性を下げて、ガラスの熔解および清澄を促進する成分である。また、ガラス原料の酸化性を高めて清澄性を高める成分でもある。ただし、SrOおよびBaO含有率が高くなりすぎると、ガラスの密度が上昇し、ガラス板の軽量化が図れないととともに、ガラスの化学的耐久性が低下する。
【0053】
Li2Oは、ガラスの粘度を低下させて、ガラスの熔解性や成形性を向上させる成分である。また、Li2Oは、ガラスのヤング率を向上させる成分である。さらに、Li2Oは、イオン交換成分の一つであり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層14の深さを大きくする効果が高い。しかし、Li2Oの含有率が高くなり過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透しやすくなるため、ダウンドロー法を利用した安定したガラスの大量生産が困難となる。また、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎて、ガラスの耐熱衝撃性が低下し、金属や有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに、ガラス基板の強化を行うためにイオン交換処理を行う場合、イオン交換処理におけるイオン交換塩の劣化がはやくなるという不都合がある。また、Li2Oの含有率が高くなり過ぎると、ガラスの低温粘度が過度に低下することで、化学強化後の加熱工程で応力緩和が発生し、圧縮応力値が低下してしまうため、十分な強度を得ることができない。
【0054】
Na2Oは、ガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの熔融性や成形性を向上させる必須成分である。また、ガラスの耐失透性を改善する成分である。Na2O含有率が6質量%未満ではガラスの熔解性が低下し、熔解のためのコストが高くなる。また、Na2Oは、イオン交換成分であり、化学強化処理を行う場合に、Na2O含有率が6質量%未満ではイオン交換性能も低下するため、十分な強度を得ることができない。また、熱膨張率が過度に低下し、金属や有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。さらに、ガラスが失透を起こしやすくなり、耐失透性も低下するので、ガラスをオーバーフローさせるダウンドロー法の適用が不可能となるため、安定したガラスの大量生産が困難となる。他方、Na2O含有率が高くなりすぎると、低温粘度が低下し、熱膨張率が過剰となり、耐衝撃性が低下し、金属や有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、ガラスバランスの悪化による耐失透性低下も生じるため、ダウンドロー法を利用した安定したガラスの大量生産が困難となる。
【0055】
K2Oはガラスの高温粘度を低下させて、ガラスの熔解性や成形性を向上させると同時に、耐失透性を改善する成分でもある。また、K2Oは、イオン交換成分であり、K2Oを含有することでガラスのイオン交換性能を向上させることができる成分である。しかし、K2Oの含有率が高くなり過ぎると、低温粘度が低下し、熱膨張率が過剰となり、耐衝撃性が低下するため、カバーガラスとして適用する場合には好ましくない。また、K2Oの含有率が高くなり過ぎると、金属や有機系接着剤などの周辺材料と熱膨張係数が整合し難くなる。また、ガラスバランス悪化による耐失透性の低下も生じるため、ダウンドロー法を利用した安定したガラスの大量生産が困難となる。
【0056】
Li2O、Na2OおよびK2Oは、ガラスから溶出してTFT特性を劣化させ、また、ガラスの熱膨張係数を大きくして熱処理時に基板を破損する成分であることから、フラットパネルディスプレイガラス基板として適用する場合には、多量に含有することは好ましくない。しかし、ガラス中に上記成分を敢えて特定量含有させることによって、TFT特性の劣化やガラスの熱膨張を一定範囲内に抑制しつつ、ガラスの溶融性を高め、かつガラスの塩基性度を高め、価数変動する金属の酸化を容易にして、清澄性を発揮させることが可能である。
【0057】
ZrO2は、ガラスの失透温度付近の粘性や歪点を高くする成分である。また、ZrO2は、ガラスの耐熱性を向上させる成分でもある。また、ZrO2は、イオン交換性能を顕著に向上させる成分である。しかし、ZrO2の含有率が高くなりすぎると、失透温度が上昇し、耐失透性が低下する。
【0058】
TiO2は、ガラスの高温粘度を低下させる成分である。また、TiO2は、イオン交換性能を向上させる成分である。しかし、TiO2の含有率が高くなり過ぎると、耐失透性が低下してしまう。さらに、ガラスが着色し、FPD用のガラス基板や電子機器の表示画面のカバーガラスなどへの適用は好ましくない。また、ガラスが着色することから、紫外線透過率が低下するので、紫外線硬化樹脂を使用した処理を行う場合に、紫外線硬化樹脂を十分に硬化することができないという不都合が生じる。
【0059】
強化ガラスにおいて、ガラス中の気泡を脱泡させる成分として清澄剤を添加することができる。清澄剤としては、環境負荷が小さく、ガラスの清澄性に優れたものであれば特に制限されないが、例えば、酸化スズ、酸化鉄、酸化セリウム、酸化テルビウム、酸化モリブデンおよび酸化タングステンといった金属酸化物から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
なお、As2O3およびSb2O3は、溶融ガラス中で価数変動を伴う反応を生じ、ガラスを清澄する効果を有する物質であるが、As2O3およびSb2O3は環境負荷が大きい物質であることから、本実施形態のガラス板10においては、ガラス中にAs2O3およびSb2O3を実質的に含まない。なお、本明細書において、As2O3およびSb2O3を実質的に含まないとは、0.01%質量未満であって不純物を除き意図的に含有させないことを意味する。
【0060】
(ガラス板の製造方法)
このような強化ガラスは、ダウンドロー法を用いて製造される。図3は、本実施形態の強化ガラスの製造方法のフローの一例を説明する図である。強化ガラスの製造方法は、熔解工程(ステップS10)と、清澄工程(ステップS20)と、攪拌工程(ステップS30)と、成形工程(ステップS40)と、徐冷工程(ステップS50)と、裁板工程(ステップS60)と、形状加工工程(ステップS70)と、化学強化処理工程(ステップS80)と、を主に有する。
【0061】
熔解工程(ステップS10)では、図示されない熔解炉で、ガラス原料が化石燃料の燃焼による間接加熱および電気通電による直接加熱により加熱されて溶融ガラスが作られる。ガラスの熔解は、これ以外の方法で行われてもよい。
次に、清澄工程が行われる(ステップS20)。清澄工程では、溶融ガラスが図示されない液槽に貯留された状態で、溶融ガラス中の気泡が上述の清澄剤を用いて取り除かれる。具体的には、溶融ガラス中で価数変動する金属酸化物の酸化還元反応によって行われる。高温時の溶融ガラスにおいて、金属酸化物は還元反応により酸素を放出し、この酸素がガスとなって、溶融ガラス中の気泡を成長させて液面に浮上させる。これにより、溶融ガラス中の気泡は脱泡される。あるいは、酸素ガスの気泡は、溶融ガラス中の他の気泡中のガスを取り込んで成長し、溶融ガラスの液面に浮上する。これにより、溶融ガラス中の気泡は脱泡される。また、脱泡後、ガラスの温度が下がってくると、金属酸化物が酸化反応をおこし、浮上せずにガラス中に残っていた小泡中の酸素を吸収する。酸素が吸収されて小泡はより小さくなりガラス中に再吸収される。
次に、攪拌工程が行われる(ステップS30)。攪拌工程では、ガラスの化学的および熱的均一性を保つために、垂直に向けられた図示されない撹拌槽に溶融ガラスが通される。攪拌槽に設けられたスターラによって溶融ガラスは攪拌されながら、垂直下方向底部に移動し、後工程に導かれる。これによって、脈理等のガラスの不均一性を抑制することができる。
【0062】
次に、成形工程が行われる(ステップS40)。成形工程では、ダウンドロー法が用いられる。オーバーフローダウンドローやスロットダウンドロー等を含むダウンドロー法は、例えば特開2010−189220号公報、特許第3586142号公報や図5示された装置を用いた公知の方法である。ダウンドロー法における成形工程については、後述する。これにより、所定の厚さ、幅を有するシート状のガラスリボンが成形される。成形方法としては、ダウンドロー法の中でも、オーバーフローダウンドローが最も好ましいが、スロットダウンドローでもよい。しかし、揮発成分の揮発を促進させあるいは揮発量を増大させて圧縮応力層14の応力値(絶対値)を高めるには、揮発量が多いオーバーフローダウンドローが好ましい。
【0063】
次に、徐冷工程が行われる(ステップS50)。具体的には、シート状に成形されたガラスリボンは、歪みが発生しないように冷却速度を制御して、図示されない徐冷炉にて徐冷点以下に冷却される。これにより、ガラスリボンは、ガラス板10と同様に、応力の点で圧縮応力層14および引っ張り応力層12を有し、組成の点でSiリッチ層を有する。
次に、裁板工程が行われる(ステップS60)。具体的に、連続的に生成されるガラスリボンは一定の長さ毎に裁板されガラス板10が得られる。
この後、形状加工工程が行われる(ステップS70)。形状加工工程では、所定のガラス板のサイズや形状に切り出す他、ガラス表面および端面の研削・研磨が行われる。形状加工は、サンドブラスト、カッターやレーザを用いた物理的手段を用いても、エッチングなどの化学的手段を用いてもよい。なお、ガラス板を複雑な形状に形状加工する際には、化学強化処理前に、上記エッチング処理を施すことが好ましい。
【0064】
ガラス板10の形状加工の一例としては、図4に示されるようなガラス板10に孔11が開けられ、曲線及び直線を含んだ外形形状に加工するエッチング処理が挙げられる。このような外形形状に加工されたガラス板10は、電子機器の表示画面のカバーガラスに用いられる。
この場合、まず、ガラス板10の両主表面上にレジスト材料がコーテイングされる。次に、所望の外形形状のパターンを有するフォトマスクを介してレジスト材料が露光される。上記外形形状は特に限定されないが、例えば、負の曲率を持つ部分(外形形状の端に沿って外形形状の領域内部を左側に見ながら進むとき、進むにつれて右側に曲がる部分)を含む外形形状である。次に、露光後のレジスト材料が現像されて、ガラス基板の被エッチング領域以外の領域にレジストパターンが形成され、ガラス板の被エッチング領域がエッチングされる。このとき、エッチャントとしてウェットエッチャントを使用した場合、ガラス板は、等方的にエッチングされる。これにより、ガラス板の端面は、中央部が外方に向かつて最も突出し、その中央部から両主表面側に向かつて緩やかに湾曲した傾斜面が形成される。なお、傾斜面と主表面との境界及び傾斜面同土の境界は、好適には、丸みを帯びた形状にする。
【0065】
エッチング工程において用いるレジスト材料は特に限定されないが、レジストパターンをマスクにしてガラスをエッチングする際に使用するエッチャントに対して耐性を有する材料を適用することができる。例えば、ガラスは一般的にフッ酸を含む水溶液のウェットエッチングや、フッ素系ガスのドライエッチングにより腐食されるので、フッ酸耐性に優れたレジスト材料などが好適である。また、上記エッチャントとしては、フッ酸、硫酸、硝酸、塩酸、ケイフッ酸のうち少なくとも1つの酸を含む混酸を適用することができる。エッチャントとしてフッ酸あるいは上記混酸水溶液を使用することにより、所望の形状の
カバーガラスを得ることができる。
【0066】
また、エッチングを利用して形状加工を行う際、マスクパターンを調整するだけで、複雑な外形形状も容易に実現することができる。さらに、エッチングにより形状加工を行うことで、より生産性も向上させることができ、加工コストも低減することができる。なお
レジスト材をガラス板から剥離するための剥離液としては、KOHやNaOHなどのアルカリ溶液を用いることができる。上記レジスト材、エッチャント、剥離液の種類は、ガラス板の材料に応じて適宜選択することができる。
なお、エッチングの方法としては、単にエッチング液に浸潰する方法のみならず、エッチング液を噴霧するスプレーエッチング法などを用いることもできる。このようなエッチングを利用してガラス板を形状加工することで、表面粗さが高平滑性である端面を有するカバーガラスを得ることが可能となる。つまり、機械加工により形状加工された際に必ず生じるマイクロクラックの発生を防止することができ、カバーガラスの機械的強度をさらに向上させることができる。
【0067】
最後に、イオン交換による化学強化処理が行われる(ステップS80)。ガラス表面近傍にSiリッチ層や圧縮応力層14が形成されたガラス板10をさらに化学強化することで、強度がさらに向上した強化ガラスを得ることができる。また、ガラスを急冷することで表面に圧縮応力層を形成する従来のガラス板と比較して、本実施形態の強化ガラスでは引っ張り応力層の応力値(絶対値)は大きくなり難い。
なお、イオン交換処理を行うためには、ガラス成分中に、イオン交換成分であるNa2OやLi2Oを含有していることが好ましい。本実施形態の化学強化された強化ガラスは、電子機器の表示画面のカバーガラスの他に、携帯端末装置の筐体、太陽電池のカバーガラス、ディスプレイ用のガラス基板、タッチパネルディスプレイのカバーガラス、タッチパネルディスプレイのガラス基板などに適用することができる。
例えば、化学強化処理は、下記のような方法を用いて行うことができる。
【0068】
化学強化処理では、ガラス板10を例えば350〜550℃程度に保ったKNO3100%の処理浴中に約1〜25時間浸漬する。このとき、ガラス表層のNa+イオンあるいはLi+イオンが処理浴中のK+イオンあるいはLi+イオンとイオン交換することで、ガラス板は化学強化される。なお、イオン交換処理時の温度、時間、イオン交換溶液などは適宜変更可能である。例えば、イオン交換溶液は2種類以上の混合溶液であってもよい。
【0069】
ガラス板の製造方法は、この他に、洗浄工程及び検査工程を有するが、これらの工程の説明は省略する。なお、形状加工工程は化学強化処理工程の前に行うが、化学強化処理工程の後に行ってもよい。
【0070】
本実施形態の強化ガラス板の製造では、成形工程において、ガラスリボンから揮発成分の揮発が促進されあるいは揮発量が増大することで、ガラスリボン中にSiリッチ層が形成され、このSiリッチ層に起因して、成形されたガラス板10に、徐冷後、裁板工程前に、圧縮応力層14および引っ張り応力層12が形成される。揮発成分とは、SiO2よりも揮発しやすい成分、言い換えれば、溶融ガラスにおいて(例えば、ガラスの粘性が104.5〜105poise、あるいは温度1100〜1300℃)、飽和蒸気圧がSiO2よりも高い成分のことを示す。揮発成分としては、例えば、Al2O3,B2O3,Li2O,Na2O,K2O,MgO,CaO,SrO,BaO,ZrO2,SnO2などを挙げることができるが、これに限定されない。なお、B2O3,アルカリ酸化物(Li2O,Na2O,K2O)、アルカリ土類金属酸化物(MgO,CaO,SrO,BaO)は、揮発性が高いため、ガラス成分として、少なくとも1種を含有することが好ましい。SnO2 は、SnOとして揮発する。
揮発が過度になるとガラス板10の成形が適切にできないため、例えば、B2O3の含有率の上限は14質量%であることがより好ましく、 13質量%であることが特に好ましい。また、SnO2の含有率が高いと、ガラスに失透が発生することがある。従って、ガラスの失透を防止するという観点からは、SnO2の含有率の上限は 0.5質量%であることがより好ましく、0.3質量%であることが特に好ましい。
【0071】
これらの揮発成分は、溶融ガラスにおいて飽和蒸気圧がSiO2よりも高いため、成形時に(ガラスが溶融した状態で)溶融ガラスあるいはガラスリボンから揮発する。つまり、溶融ガラスからガラスリボンが形成される成形工程では、ガラスリボン表面においてSiO2以外の成分が揮発するので、結果的に、成形後のガラス表面には、Si原子濃度がガラス内部のSi原子濃度よりも高くなるSiリッチ層が形成される。また、ガラス板のガラス表面にSiリッチ層が形成されると、ガラス内部との熱膨張率の差により、ガラス表面に圧縮応力層14が形成される。
【0072】
(成形装置)
図5は、ダウンドロー法による成形方法を実施する成形装置の一例を説明する図である。
成形装置101は、下向きに尖る五角形楔状(幅の狭い、野球のホームベース形状)の断面形状を成している。成形装置101は、直線的に延びる溝111が設けられた上面と、この上面に設けられた溝111と、平行な両端部から下方に向かう一対の壁面112とを有している。なお、本明細書では、説明の便宜のために、水平面上で溝111の延びる方向(図5の紙面垂直方向)をX方向、水平面上でX方向と直交する方向をY方向、鉛直方向をZ方向ともいう (図6参照)。
【0073】
溝111は、図示されない供給管から一端に供給された溶融ガラス103を全長に亘って均一にオーバーフローさせるように、一端から他端に向かうにつれて段々と深さが浅くなっている。一対の壁面112のそれぞれは、上面のY方向の端部から垂直に垂れ下がる垂直面と、この垂直面の下端部から互いに近づくように内向きに傾斜する傾斜面とを有する。これらの傾斜面の下端部同士は交わってX方向に延びる稜線を形成している。
【0074】
成形装置101は、溶融ガラス103を溝111の両側からオーバーフローさせ、そのオーバーフローした溶融ガラス同士を壁面112上で誘導して傾斜面の下端部で融合させることにより帯状のガラスリボン104を連続的に形成する。
【0075】
断熱構造体102は、成形装置101を収容する成形空間(チャンバ)を形成している。具体的に、断熱構造体102は、断熱性に優れた材料で構成されており、上下方向に成形装置101を挟んで互いに対向する底壁121および天井壁123と、底壁121と天井壁123の周縁同士をつなぐ矩形筒状の周壁122とを有している。底壁121の中央には、成形装置101によって形成されたガラスリボン104を通過させるゲート125が設けられている。なお、断熱構造体102は、中空構造となっていて、内部に加熱用または冷却用の空気が供給されるようになっていてもよい。
【0076】
本実施形態では、図5に示すように、成形装置101の壁面112に対向し、Y方向に向く周壁122の長壁部の上部に、周壁122を貫通する複数の排出口126が設けられている。さらに、周壁122のY方向に向く長壁部の下部に、周壁122を貫通する複数の導入口127が設けられている。このため、自然対流により、図5中に矢印 a,b,cで示すような空気の流れが形成される。すなわち、断熱構造体102外の空気が導入口127を通じて断熱構造体102内に導入される。導入された空気は成形装置101の壁面112上を流下する溶融ガラス103に沿って上昇し、その後に排出口126を通じて断熱構造体102外に排出される。このように、断熱構造体102内で外部から取り込んだ新鮮な空気を上昇させることにより、溶融ガラス103からの揮発成分(例えば、Al2O3,B2O3,Li2O,Na2O,K2O,MgO,CaO,SrO,BaO,ZrO2,SnO2など)の揮発を促進させることができる。この揮発成分が揮発した部分、すなわち上昇する空気と接した溶融ガラス103の表面には、ガラスリボン104が冷却されたときにSiリッチ層が形成される。このSiリッチ層の生成により、圧縮応力層14が形成される。圧縮応力層14の応力値(絶対値)を高くするためには、溶融ガラス103が多くの揮発成分を含有することが好ましい。
【0077】
なお、排出口126および導入口127は、周壁122におけるX方向に向く短壁部にも設けられていてもよい。あるいは、周壁122のX方向に向く短壁部のみに排出口126および導入口127を設けることも可能である。ただし、溶融ガラス103の全幅に亘って均一に揮発成分を揮発させるには、排出口126および導入口127が、周壁122のY方向に向く長壁部のみに一定のピッチで設けられていることが好ましい。
【0078】
また、排出口126および導入口127の形状および数量は、周壁122に必要な強度が保たれる限り適宜選定可能である。例えば、排出口126および導入口127の形状を図6に示すように円形としてもよいし、X方向に延びるスリット状として数を低減させてもよい。なお、均一に、かつ、効率よく断熱構造体102から気体を排出するためには、ガラスリボンの巾方向全体にわたって延びるスリットを用いることがより効果的である。ただし、スリットの開口面積を広げれば広げるほど、気体流量が増えすぎて、ガラス板の表面欠点の増加や、ガラスの表面凹凸の悪化、成形温度の確保が困難となる問題が生じる。但し、この問題は、以下に示すように、導入口127から断熱構造体102内に導入する空気もしくは不活性ガスの温度を断熱構造体102内の目標温度にして、且つ、断熱構造体102内の圧力が所定の圧力に維持できるように気体の流量を調整することにより、解決することができる。
【0079】
さらに、導入口127を通じて断熱構造体102内に導入される空気は、例えば溶融ガラス103やガラスリボン104の温度を低下させない程度の温度であることが好ましい。ここで、導入される空気の量が少量であれば、常温の空気を導入しても溶融ガラス103やガラスリボン104の温度はそれほど低下しない。このため、常温の空気が導入されてもよい。一方、断熱構造体102内に導入される空気の量が多量であれば、常温の空気を導入すると、溶融ガラス103やガラスリボン104の温度は大きく低下する。この場合には、導入口127を通じて導入される空気を所定の温度に加熱する図示されない加熱装置が断熱構造体102の外側または内側に設けられることが好ましい。
【0080】
以上説明した成形装置101では、断熱構造体102により取り囲まれた成形装置101の溝111の両側から溶融ガラス103がオーバーフローする一方、成形装置101の壁面112上を流下する溶融ガラス103に沿って空気が上昇した後、断熱構造体102外に排出される。ここで、上記空気は、断熱構造体102外から断熱構造体102内に導入される。このように、断熱構造体102内の空気が成形装置101の壁面112上を流下する溶融ガラスに沿って流れることにより溶融ガラス103からの揮発成分の揮発は促進する。これにより、ガラス板10のガラスの表裏両面に応力値の高い圧縮応力層14が形成されたガラス板10を得ることができる。
【0081】
なお、本実施形態では、排出口126が周壁122の上部に設けられているが、排出口126の位置は特に制限されない。例えば、図7に示すように、排出口126を天井壁123における成形装置101の真上の部分に設けてもよい。このようにしても、自然対流により、断熱構造体102外から断熱構造体102内に導入された空気を成形装置101の壁面112上を流下する溶融ガラス103に沿って上昇させた後に排出口126を通じて断熱構造体102外に排出することができる。また、この場合には、成形装置101の上部においても溶融ガラス103が断熱構造体102を通過する空気と接触するため、排出口126を周壁122の上部に設けた場合よりも揮発成分の揮発はさらに促進する。
【0082】
ただし、排出口126を天井壁123に設けた場合には、断熱構造体102の上方からの塵等の落下物が排出口126を通じて溶融ガラス103に落下する場合がある。この観点からは、図5,6に示す実施形態のように排出口126を周壁122の上部に設ける方が好ましい。
【0083】
また、図5,6に示す実施形態では、導入口127が周壁122の下部に設けられているが、導入口127の位置は、特に制限されるものではない。例えば、図8に示すように、導入口127を底壁121に設けてもよい。この場合、導入口127が成形装置101の直下の領域R内にあると、導入口127からの空気の流れがガラスリボン104の形状安定性に影響を及ぼすおそれがある。このため、導入口127は領域Rの外側に設けることが好ましい。
【0084】
また、図7に示すように、導入口127は設けられなくてもよい。このようにしても、断熱構造体102外の空気がゲート125を通じて断熱構造体102内に導入される。ただし、この場合にはゲート125をガラスリボン104と反対方向に向かって空気が通過することになり、ガラスリボン104の形状安定性が損なわれるおそれがあるため、ゲート125とは別に導入口127を設けることが好ましい。
【0085】
また、図5〜8に示す実施形態では、自然対流により断熱構造体102内への空気の導入および断熱構造体102外への空気の排出が行われるが、強制対流によって空気の導入および排出を行うことも可能である。例えば、断熱構造体102の下部に供給管が貫通するとともに断熱構造体102の上部に排出管が貫通し、供給管あるいは排出管にファンが接続すれるとよい。この場合、断熱構造体102内の空間に開口する供給管および排出管の端部がそれぞれ導入口および排出口を構成することになる。なお、空気の導入方法には、他にも、例えば、コンプレッションエアーを、フィルターを介して減圧して導入する等の方法がある。なお、空気の導入方法は上記に限定されず、他の空気導入方法を取ってもよい。
【0086】
また、導入口127あるいはゲート125を通じて断熱構造体102内に導入される気体は必ずしも空気である必要はなく、不活性ガスであってもよい。不活性ガスとしては、成形装置101や断熱構造体102の腐食を防止するという観点から、特に窒素を用いることが好ましい。
【0087】
図5〜8に示す実施形態では、気体を断熱構造体102内に導入し、溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の流れる方向に沿って気体を流すことで、断熱構造体102内における気化された揮発成分(飽和蒸気圧の高い揮発成分)の濃度を低下させることができる。気体を流さない場合、断熱構造体102内で揮発成分が飽和状態になるので、さらに揮発成分の揮発を促進することができなくなる。すなわち、断熱構造体102内に導入される気体は、断熱構造体102内における気化された揮発成分の濃度を低下させるために機能する。したがって、外部から導入される気体の流れは、上昇のみに限定されず、下降であってもよい。
【0088】
また、溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の揮発成分の揮発を促進させる別な方法として、断熱構造体102内の成形空間内を減圧雰囲気にすることもできる。断熱構造体102内の成形空間が減圧されれば、揮発成分の揮発が促進される。
例えば、図5に示される排出口126に吸引装置を設けることで、断熱構造体102内を減圧することができる。なお、断熱構造体102に設けられる排出口126や設けられる吸引装置の数は特に限定されず、1以上設けられればよい。
なお、断熱構造体102内の成形空間を減圧しすぎると、ゲート125から断熱構造体102内よりも低い温度の気体が導入され、ガラスリボン104が均一化されず、ガラス板10の厚みにばらつきが生じ、さらに歪が発生することもある。
そこで、断熱構造体102内の成形空間を、減圧前の断熱構造体102内に比較して10分の1以下の範囲で減圧することが好ましい。つまり、断熱構造体102内の成形空間の気圧が1気圧である場合には、圧力の上限を0.9気圧として減圧することが好ましい。
このようにして断熱構造体102内の成形空間の雰囲気を調整することにより、ガラスリボン104は形成される。
【0089】
さらに、溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の揮発成分の揮発を促進させる別な方法として、断熱構造体102内の成形空間の雰囲気温度を高くすることもできる。断熱構造体102内の成形空間の雰囲気温度が上昇すれば、揮発成分の飽和蒸気圧も上昇するため、揮発成分の揮発が促進される。
なお、断熱構造体102内の成形空間の雰囲気温度が上昇しすぎるとガラスリボン104の成形がし難くなり、さらにエネルギー消費量が増加する。このため、上昇させる断熱構造体102内の成形空間の雰囲気温度の上昇の範囲は0超〜100℃であることが好ましく、0超〜50℃であることがさらに好ましく、0超〜10℃であることがさらに好ましい。
このようにして断熱構造体102内の成形空間の雰囲気を調整して、断熱構造体102内の溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の表面に面する雰囲気における揮発成分の分圧と揮発成分の飽和蒸気圧の差を大きくする。これにより、揮発成分の揮発を促進させつつガラスリボン104が形成される。このような溶融したガラスおよびガラスリボンの表面から揮発成分の揮発を促進させる方法は、溶融したガラスおよびガラスリボンの両表面のほか、一方の表面のみに対して適用することもできる。
【0090】
さらに、溶融ガラス103あるいはガラスリボン104の揮発成分の揮発量を増やす方法として、成形工程における成形装置101の下端部からゲート125の上端部までの距離を長くすることができる。この距離を長くすることにより、ガラスリボン104が成形空間内を通過する通過時間を長くすることができる。その結果、断熱構造体102内の空間でガラスリボン104が高温に曝される時間が長くなり、揮発時間が増加する。このため、ガラスリボン104の揮発成分の揮発量が増える。
上記距離を長くしすぎると、成形されるガラスリボン104の厚さが変化する。このため上記距離の増加分は、0超〜20mm、0超〜10mm、0超〜5mm、0超〜1mm、0超〜0.1mmであることがさらに好ましい。
【0091】
また、成形体装置101自体のサイズを大きくして、溶融ガラス103が流れる壁面112の流れる長さを長くしてもよい。これにより、断熱構造体102内の空間で溶融ガラス103が高温に曝される時間が長くなり、揮発時間が増加する。このため、溶融ガラス103の揮発成分の揮発量が増える。
【0092】
断熱構造体102内を通過する溶融ガラスから揮発成分の揮発を促進させるあるいは揮発量を増やすための方法を種々説明したが、これらの方法は、単独であるいは組み合わせて用いることができる。
【0093】
このようにして製造されるガラス板10は、圧縮応力層14がガラス表面に薄く形成されるので、ガラス基板の加工性を保ちつつ、ガラス表面に傷がつくことを防止できる。
特に、徐冷工程においてガラスを急冷することで得られる従来のガラス板の圧縮応力層よりも薄くかつ応力値(絶対値)が大きい圧縮応力層14が得られるので、ガラス板10は、形状加工前の薄いガラス板として有効に用いることができる。
【0094】
従来のガラス板は、工程間の搬送中や切断や形状加工において、表面に傷がついてしまうことがある。しかし、ガラス板10は、化学強化を行う前にガラス表面に傷がついてしまうことを防止できるため、カバーガラス表面の傷を防止することができ、表面品質を向上させることができる。
【0095】
更に、ガラス板10に化学強化処理を施すとき、ガラスの組成を大きく変更せずに、圧縮応力層の応力値(絶対値)を大きくすることができるので、電子機器の表示画面のカバーガラスに用いる場合でも、ガラス表面に傷がつくことを防止することでき、カバーガラスの表面品質を向上させることができる。また、化学強化される前のガラス板10には、圧縮応力層14が既に形成されているので、ガラス板10をイオン交換する際に、より短時間で深い圧縮応力層を得ることができる。さらに、引っ張り応力層の応力値が大きくなりすぎてしまうこと防止することができる。
【0096】
(実施例)
図9は、アルミノボロシリケートガラスのガラス板10について実測したSiの原子濃度(%)の分布を示す図である。Siの原子濃度(%)は、X線光電子分光装置(アルバックファイ社製Quantera SXM)を用いて、表面近傍のSi原子濃度を測定した。具体的には、スパッタリングによりガラス板の表面を種々の深さまで掘り下げ、各深さにおける原子濃度を測定した。測定元素としては、 Siとともに、含有率が相対的に高い揮発成分であるAl,B,Ca,Sr,Baを指定し、測定元素中に占めるSiの比率を求めた。これらの成分は、ガラスリボンの成形工程において、ガラスリボンの表面から揮発する揮発成分である。なお、揮発成分のうちでもKおよびSnの含有率は小さく、それらの量がSi原子濃度に与える影響は少ないと考えられるため、これらは測定元素に含めていない。図9に示すガラス板A,ガラス板Bは、図5に示す装置を用いて、流れる空気の条件を変えて作製されたガラス板である。
図9に示すように、ガラス板A、ガラス板Bではいずれもガラス中心位置に比べてSi原子濃度が5%以上高い領域がガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成されている。これは、ガラス板A、ガラス板Bでは、ガラス表面近傍で揮発成分の量が内部に比べて少なくなっていることによると考えられる。
【0097】
なお、上記ガラス板Aおよびガラス板Bの各成文の含有率(質量%)は以下のとおりであった。
SiO2 60.9%
Al2O3 16.9%
B2O3 11.6%
MgO 1.7%
CaO 5.1%
SrO 2.6%
BaO 0.7%
K2O 0.25%
SnO2 0.13%
【0098】
図10は、上記ガラス板Aのガラス板10について実測した内部応力の分布を示す図である。内部応力は、微小面積複屈折計 (王子計測機器社製 KOBRA−CCD/X)を用い、ガラス板10を厚さ方向に切断した断面について表面から所定の深さごとに1cm当たりの光路差率(光路差/光路長さ)を測定し、これを光弾性定数で割って算出している。なお、「内部応力」とは、ガラス板の厚さ方向に沿った0〜10μmの厚さの平均値を示している。そのため、局部的には、図10に示す結果を超えるような応力値が形成されている場合もある。
図10に示すように、ガラス板10の表裏両面には、圧縮応力層14が形成され、その内部に略一定の引っ張り応力値を有する引っ張り応力層14が形成されていることが分かる。また、ガラス板内部に形成された引っ張り応力層14の応力値がガラス板厚さ方向に略一定で形成されていることも分かる。これは、ガラス板10のガラス表裏両面近傍では揮発成分が少なくなっていることに起因するものである。
【0099】
さらに、下記表1に示す組成の実施例1〜3と比較例の強化ガラスを下記の条件で化学強化した。比較例は、実施例1〜3と同様の方法で製造されたガラス板10の表面に形成される圧縮応力層14の部分を研磨した後、化学強化して得られた強化ガラスである。
実施例1〜3および比較例の強化ガラスは、下記表1に示される組成となるように調合したガラス原料を、耐火煉瓦製の溶解槽と白金製の境枠槽などを備えた連続溶解装置を用いて、1520℃で熔解し、1550℃清澄、1350℃で攪拌した後に図5に示す装置を用いたダウンドロ一法により厚さ0.7mmの薄板状のガラス板10を成形し、化学強化用ガラス板を得た。比較例では、ガラス板を化学強化する前にガラス板10の圧縮応力層14を表面研摩して除去した。このため、比較例の強化ガラスにおける圧縮・引っ張り応力プロファイル形状は実施例1〜3と異なる。
次に、実施例1〜3及び比較例の化学強化用ガラス板のガラス表面に引っ掻き傷をつけた。具体的には、引っ掻き荷重2N,引っ掻き長さ30mmの条件で、エリクセンモデル318(エリクセン社製)引っ掻き硬度計の先端に直径0.7mm(Bosch規格)のボールチップを設けて、実施例1〜3、比較例のガラス板に引っ掻き傷をつけた。
洗浄されたガラス板を400℃に保ったKNO3100%の処理浴中に約2.5時間浸潰して、ガラス表層に存在するNa+イオンを、処理浴中のK+イオンとイオン交換させ、ガラス板を化学強化した。化学強化後のガラス板は、洗浄槽に順次浸潰して洗浄し、乾燥した強化ガラスを得た。
【0100】
こうして得られた実施例1〜3及び比較例のガラス表面をレーザ顕微鏡で観察し、傷によるクラックが進展した強化ガラスを不良、クラックが進展していなかった強化ガラスを良好と評価した。
下記表1には、組成と評価結果を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
上記表1より、実施例1〜3の傷の評価は良好であったが、比較例の評価は不良であった。これより、圧縮応力層14と引っ張り応力層12を有するガラス板10を化学強化することが、強化ガラス表面の傷発生を防止できる点で有効であることがわかる。
【0103】
以上、本発明の強化ガラス及び強化ガラスの製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0104】
10 ガラス板
11 孔
12 引っ張り応力層
14 圧縮応力層
101 成形装置
102 断熱構造体
103 溶融ガラス
104 ガラスリボン
111 溝
112 壁面
121 底壁
122 周壁
123 天井壁
125 ゲート
126 排出口
127 導入口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板が化学強化された強化ガラスであって、
前記強化ガラスの厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成され、
前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記強化ガラスの厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置から前記強化ガラスのガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少し、
さらに、イオン交換により化学強化されたイオン交換処理領域が前記ガラス表面に形成されている、ことを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
前記強化ガラスの内部に形成された引っ張り応力層と、前記引っ張り応力層の両側に形成された圧縮応力層と、を有し、
前記圧縮応力層は、前記強化ガラスのガラス表面から、前記強化ガラスの厚さ方向に沿った20〜100μmの深さの範囲に形成される、請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
前記圧縮応力層の応力値の絶対値の最大値は300MPa以上である、請求項2に記載の強化ガラス。
【請求項4】
前記引っ張り応力層は、前記ガラス板の溶融状態においてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分を30質量%以上含む、請求項2または3に記載の強化ガラス。
【請求項5】
電子機器の表示画面のカバーガラスに用いられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の強化ガラス。
【請求項6】
ガラス原料を溶融する工程と、
ダウンドロー法を用いて、溶融したガラスからガラスリボンを成形する工程と、
前記ガラスリボンを切断し、ガラス板を形成する工程と、
形成された前記ガラス板のガラス表面をイオン交換によって化学強化する工程と、を備え、
前記ガラスリボンは、前記ガラス板の厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成され、前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記ガラス板の厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置から前記ガラス板のガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少するように成形される、ことを特徴とする強化ガラスの製造方法。
【請求項7】
溶融した前記ガラスから前記ガラスリボンを成形するとき、前記溶融したガラスおよび前記ガラスリボンの少なくとも一方の表面に面する雰囲気における前記揮発成分の分圧と前記揮発成分の飽和蒸気圧の差を大きくすることにより、前記溶融したガラスおよび前記ガラスリボンの少なくとも一方の表面からの揮発成分の揮発を促進させて、前記ガラスリボンを成形する、請求項6に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記ガラスリボンを成形するとき、前記ガラスリボンを成形する空間内の前記溶融したガラスにおいてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分の濃度を低減するために、前記ガラスリボンを成形する空間に、前記ガラスリボンに沿って気体の流れを形成する、請求項7に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記ガラスリボンを成形するとき、前記溶融したガラスにおいてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分の揮発を促進するように、前記ガラスリボンを成形する空間内の圧力および温度の少なくとも一方を調整する、請求項7に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記ガラスリボンを成形するとき、前記溶融したガラスにおいてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分の揮発量を増やすように、前記ガラスリボンを成形する空間内のガラスリボンの通過時間を調整する、請求項7に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項11】
ダウンドロー法によりガラス板を製造する装置であって、
溶融ガラスを溝の両側からオーバーフローさせ、そのオーバーフローした溶融ガラス同士を壁面で誘導して融合させることによりガラスリボンを形成する成形装置と、
前記成形装置を取り囲むとともに前記成形装置によって形成された前記ガラスリボンを通過させるゲートを有する断熱構造体と、を備え、
前記断熱構造体には、前記断熱構造体外から前記断熱構造体内に導入され、前記成形装置の壁面上を流下する溶融ガラスに沿って上昇した気体を前記断熱構造体外に排出する排出口が設けられている、
ガラス板製造装置。
【請求項12】
ダウンドロー法によりガラス板を製造する方法であって、
断熱構造体で取り囲まれる成形装置の溝の両側から溶融ガラスをオーバーフローさせながら、前記断熱構造体外から前記断熱構造体内に導入した気体を前記成形装置の壁面上を流下する溶融ガラスに沿って上昇させた後に前記断熱構造体外に排出する工程を含む、
ガラス板製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のガラス板製造方法により得られたガラス板であって、
表裏両面に圧縮応力層を有するガラス板。
【請求項1】
ガラス板が化学強化された強化ガラスであって、
前記強化ガラスの厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成され、
前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記強化ガラスの厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置から前記強化ガラスのガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少し、
さらに、イオン交換により化学強化されたイオン交換処理領域が前記ガラス表面に形成されている、ことを特徴とする強化ガラス。
【請求項2】
前記強化ガラスの内部に形成された引っ張り応力層と、前記引っ張り応力層の両側に形成された圧縮応力層と、を有し、
前記圧縮応力層は、前記強化ガラスのガラス表面から、前記強化ガラスの厚さ方向に沿った20〜100μmの深さの範囲に形成される、請求項1に記載の強化ガラス。
【請求項3】
前記圧縮応力層の応力値の絶対値の最大値は300MPa以上である、請求項2に記載の強化ガラス。
【請求項4】
前記引っ張り応力層は、前記ガラス板の溶融状態においてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分を30質量%以上含む、請求項2または3に記載の強化ガラス。
【請求項5】
電子機器の表示画面のカバーガラスに用いられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の強化ガラス。
【請求項6】
ガラス原料を溶融する工程と、
ダウンドロー法を用いて、溶融したガラスからガラスリボンを成形する工程と、
前記ガラスリボンを切断し、ガラス板を形成する工程と、
形成された前記ガラス板のガラス表面をイオン交換によって化学強化する工程と、を備え、
前記ガラスリボンは、前記ガラス板の厚さ方向の中心位置におけるSiの原子濃度(原子%)に対するSiの原子濃度(原子%)の濃度比率が5%以上高いSi高濃度領域が、ガラス表面から厚さ方向に沿って0より大きく30nm以下の深さの範囲に形成され、前記Si高濃度領域は、Si原子濃度の最大ピークを有し、前記ガラス板の厚さ方向に沿ったSi原子濃度は、前記最大ピーク位置から前記ガラス板のガラス表面および前記中心位置まで連続的に減少するように成形される、ことを特徴とする強化ガラスの製造方法。
【請求項7】
溶融した前記ガラスから前記ガラスリボンを成形するとき、前記溶融したガラスおよび前記ガラスリボンの少なくとも一方の表面に面する雰囲気における前記揮発成分の分圧と前記揮発成分の飽和蒸気圧の差を大きくすることにより、前記溶融したガラスおよび前記ガラスリボンの少なくとも一方の表面からの揮発成分の揮発を促進させて、前記ガラスリボンを成形する、請求項6に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記ガラスリボンを成形するとき、前記ガラスリボンを成形する空間内の前記溶融したガラスにおいてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分の濃度を低減するために、前記ガラスリボンを成形する空間に、前記ガラスリボンに沿って気体の流れを形成する、請求項7に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記ガラスリボンを成形するとき、前記溶融したガラスにおいてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分の揮発を促進するように、前記ガラスリボンを成形する空間内の圧力および温度の少なくとも一方を調整する、請求項7に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記ガラスリボンを成形するとき、前記溶融したガラスにおいてSiO2に比べて飽和蒸気圧の高い揮発成分の揮発量を増やすように、前記ガラスリボンを成形する空間内のガラスリボンの通過時間を調整する、請求項7に記載の強化ガラスの製造方法。
【請求項11】
ダウンドロー法によりガラス板を製造する装置であって、
溶融ガラスを溝の両側からオーバーフローさせ、そのオーバーフローした溶融ガラス同士を壁面で誘導して融合させることによりガラスリボンを形成する成形装置と、
前記成形装置を取り囲むとともに前記成形装置によって形成された前記ガラスリボンを通過させるゲートを有する断熱構造体と、を備え、
前記断熱構造体には、前記断熱構造体外から前記断熱構造体内に導入され、前記成形装置の壁面上を流下する溶融ガラスに沿って上昇した気体を前記断熱構造体外に排出する排出口が設けられている、
ガラス板製造装置。
【請求項12】
ダウンドロー法によりガラス板を製造する方法であって、
断熱構造体で取り囲まれる成形装置の溝の両側から溶融ガラスをオーバーフローさせながら、前記断熱構造体外から前記断熱構造体内に導入した気体を前記成形装置の壁面上を流下する溶融ガラスに沿って上昇させた後に前記断熱構造体外に排出する工程を含む、
ガラス板製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のガラス板製造方法により得られたガラス板であって、
表裏両面に圧縮応力層を有するガラス板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−148685(P2011−148685A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288141(P2010−288141)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(598055910)AvanStrate株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]