説明

強化ガラス板切断用保持具及び強化ガラス板の切断方法

【課題】強化ガラス板を内部加熱切断した際に、切断面に形成される突出部が欠けるのを抑制すること。
【解決手段】本発明の第1の態様に係る強化ガラス板切断用保持具100は、強化ガラス板10を内部加熱切断するために、強化ガラス板10を保持するものである。台座本体101と、台座本体101上に形成され、載置される強化ガラス板10と接触する接触部材102と、を備える。接触部材102は、強化ガラス板10と密着し、かつ、切断された強化ガラス板10同士の接触圧力を緩和するように変形可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強化ガラス板切断用保持具及び強化ガラス板の切断方法に関し、特に強化ガラス板をレーザやプラズマを利用して切断する際に当該強化ガラス板を保持する強化ガラス板切断用保持具及びこれを用いた強化ガラス板の切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や携帯情報端末(PDA:Personal Data Assistance)などの携帯機器では、ディスプレイのカバーや基板にガラス板が使用されている。携帯機器における薄型化・軽量化の要求から、ガラス板についても強度の高い強化ガラス板を用いることにより、薄型化・軽量化が図られるようになってきた。
【0003】
ところで、ガラス板の切断は、通常、ダイヤモンド等の硬質のローラやチップにより、主面に機械的にスクライブ線を導入し、当該スクライブ線に沿って折曲力を加えることによりなされる。このような手法では、スクライブ線の導入により、ガラス板の切断端面に多数の微細クラックが導入されることになる。従って、強化ガラス板であるにもかかわらず、切断端部に充分な強度が得られないという問題があった。
【0004】
このような問題に対し、近年、レーザやプラズマによりガラス板の内部を加熱し、ガラス板の主面でなく端面に導入した初期クラックの伸展を制御することにより、ガラス板を切断する方法が開発された(以下、内部加熱切断と称す)。このような内部加熱切断では、従来のように、ガラス板の主面にスクライブ線を導入する必要がない。そのため、切断端面に上述の微細クラックが導入されることもなく、高強度のガラス板を得ることができる。特許文献1には、このように、レーザ光によりガラス板を切断する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2010/126977号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者は、強化ガラス板の内部加熱切断に関し、以下の課題を見出した。
図9に示すように、強化ガラス板10の断面においては、表面層13及び裏面層15には圧縮応力が、中間層17には引張応力が残留している。そのため、内部加熱切断後の切断端面18の断面形状は、表面層13及び裏面層15が突出し、中間層17は凹んだ状態となる。
【0007】
ところで、強化ガラス板を内部加熱切断するには、テーブルなどの保持具にガラス板を載置・保持して切断する必要がある。ここで、保持具にガラス板が完全に拘束されていると、図10に示すように、切断後に切断端面18の突出部同士がぶつかり合うことにより接触圧力が大きくなり、当該突出部が欠けるおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記を鑑みなされたものであって、強化ガラス板を内部加熱切断した際に、切断面に形成される突出部が欠けるのを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1に係る強化ガラス板切断用保持具は、強化ガラス板を内部加熱切断するために、当該強化ガラス板を保持するものであって、台座本体と、前記台座本体上に形成され、載置される強化ガラス板と接触する接触部材と、を備え、前記接触部材は、前記強化ガラス板と密着し、かつ、切断された強化ガラス板同士の接触圧力を緩和するように変形可能であることを特徴とするものである。これにより、強化ガラス板を内部加熱切断した際に、切断面に形成される突出部が欠けるのを抑制することができる。
【0010】
本発明の態様2に係る強化ガラス板切断用保持具は、上記発明の態様1において、前記接触部材が、多孔質樹脂材料からなることを特徴とするものである。これにより、強化ガラス板を内部加熱切断した際に、切断面に形成される突出部が欠けるのを確実に抑制することができる。
【0011】
本発明の態様3に係る強化ガラス板切断用保持具は、上記発明の態様2において、前記接触部材が、多孔質超高分子ポリエチレンからなることを特徴とするものである。これにより、強化ガラス板を内部加熱切断した際に、切断面に形成される突出部が欠けるのをより確実に抑制することができる。
【0012】
本発明の態様4に係る強化ガラス板の切断方法は、強化ガラス板に初期クラックを導入するステップと、前記強化ガラス板を強化ガラス板切断用保持具に載置するステップと、前記強化ガラス板の内部を加熱することにより、前記初期クラックを伸展させ、当該強化ガラス板を切断するステップと、を備え、前記強化ガラス板切断用保持具に、前記強化ガラス板と密着し、かつ、切断された前記強化ガラス板同士の接触圧力を緩和するように変形可能な接触部材が設けられていることを特徴とするものである。これにより、内部加熱切断後に切断面に形成される突出部が欠けるのを抑制することができる。
【0013】
本発明の態様5に係る強化ガラス板の切断方法は、上記発明の態様4において、前記接触部材が、多孔質樹脂材料からなることを特徴とするものである。これにより、内部加熱切断後に切断面に形成される突出部が欠けるのを確実に抑制することができる。
【0014】
本発明の態様6に係る強化ガラス板の切断方法は、上記発明の態様5において、前記接触部材が、多孔質超高分子ポリエチレンからなることを特徴とするものである。これにより、内部加熱切断後に切断面に形成される突出部が欠けるのをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、強化ガラス板を内部加熱切断した際に、切断面に形成される突出部が欠けるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具100の平面図である。
【図1B】図1AのX−X線に沿った断面図である。
【図2A】本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具100の切断前の断面図である。
【図2B】本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具100の切断後の断面図である。
【図3】強化ガラス板の切断方法を説明するための斜視図である。
【図4】レーザ光を照射する前の強化ガラス板の断面図である。
【図5】レーザ光を照射する前の強化ガラス板の残留応力の分布を示す模式図である。
【図6】図3のA−A線に沿った断面図である。
【図7】図3のB−B線に沿った断面図である。
【図8A】本発明の第2の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具200の平面図である。
【図8B】図8AのX−X線に沿った断面図である。
【図9】発明が解決しようとする課題を説明するための図である。
【図10】発明が解決しようとする課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0018】
(実施の形態1)
図1A、1Bを参照して、本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具について説明する。図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具100の平面図である。図1Bは、図1AのX−X線に沿った断面図である。
【0019】
図1Aに示すように、強化ガラス板切断用保持具100は、切断用のレーザ光が透過するための貫通孔110a、110b、110cを備える。図1Aに示すように、強化ガラス板10の切断予定線31a、31b、31cが、強化ガラス板切断用保持具100の貫通孔110a、110b、110cに合うように、強化ガラス板10が強化ガラス板切断用保持具100上に載置される。図1Aの例では、1枚の強化ガラス板10が4つに分断される。図1Aの例では、3つの貫通孔110a、110b、110cが設けられているが、当然のことながら、貫通孔の個数は、適宜決定されるものであって、限定されない。
【0020】
次に、図1Bに示すように、強化ガラス板切断用保持具100は、台座本体101と、接触部材102とから構成されている。
台座本体101は、例えば真空吸着テーブルである。また、台座本体101は、例えば金属やエンジニアリングプラスチックなどの硬質材料からなる。接触部材102を介して強化ガラス板10の全体を真空吸着するために、台座本体101内部には、真空経路101aが分岐して形成されている。
接触部材102は、台座本体101上に形成され、載置される強化ガラス板10と接触する。接触部材102は、例えば多孔質超高分子ポリエチレンなどの多孔質樹脂材料からなる。強化ガラス板10を真空吸着するために多孔質である必要がある。
【0021】
次に、図2A、2Bを参照して、本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具の効果について説明する。図2Aは、本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具100の切断前の断面図である。図2Bは、本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具100の切断後の断面図である。
【0022】
図9を用いて説明したように、レーザ光20により切断されると、強化ガラス板10の表面及び裏面近傍が突出する。この様子が図2Bに示されている。そのため、分断された強化ガラス板10同士が押し合うことになる。
【0023】
ここで、本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具100では、接触部材102が変形することにより、真空吸着により分断された強化ガラス板10を保持しつつ、両者の接触圧力を緩和することができる。従って、強化ガラス板10を内部加熱切断した際に、切断面に形成される突出部が欠けるのを抑制することができる。
【0024】
なお、接触部材102の材質は、強化ガラス板10と密着可能であって、かつ、強化ガラス板10同士の接触圧力により変形可能なものであれば、特に樹脂材料に限定されない。ここで、密着とは、強化ガラス板10が接触部材102上を滑らないことを意味するものとする。一方、台座本体101の材質は、強化ガラス板10同士の接触圧力により変形しないものであれば、特に金属材料に限定されない。
【0025】
このように、本発明の第1の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具は、内部加熱切断した際に、切断面に形成される突出部の接触圧力を緩和する接触部材102を備えている。そのため、切断面に形成される突出部が欠けるのを抑制することができる。
【0026】
次に、図3〜7を参照して、強化ガラス板の切断方法について説明する。図3は、強化ガラス板の切断方法を説明するための斜視図である。図3に示すように、強化ガラス板10の表面12にレーザ光20を照射し、強化ガラス板10の表面12上で、レーザ光20の照射領域22を移動させることで、強化ガラス板10に応力を印加して、強化ガラス板10を切断する。
【0027】
強化ガラス板10は、例えば風冷強化法や化学強化法などで作製される。強化用のガラスの種類は、用途に応じて選択される。例えば、自動車用窓ガラスや建築用窓ガラス、PDP(Plasma Display Panel)用のガラス基板、カバーガラスの場合、強化用のガラスとしては、ソーダライムガラスが用いられる。また、LCD(Liquid Crystal Display)用のガラス基板の場合、強化用のガラスとしては、アルカリ金属元素を実質的に含まない無アルカリガラスが用いられる。
【0028】
風冷強化法は、軟化点付近の温度のガラスを表面及び裏面から急冷し、ガラスの表面及び裏面と内部との間に温度差をつけることで、圧縮応力が残留する表面層及び裏面層を形成する。風冷強化法は、厚いガラスを強化するのに好適である。
【0029】
化学強化法は、ガラスの表面及び裏面をイオン交換し、ガラスに含まれる小さなイオン半径のイオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、大きなイオン半径のイオン(例えば、Kイオン)に置換することで、圧縮応力が残留する表面層及び裏面層を形成する。化学強化法は、アルカリ金属元素を含むソーダライムガラスを強化するのに好適である。
【0030】
図4は、レーザ光を照射する前の強化ガラス板の断面図である。図4において、矢印の方向は、残留応力の作用方向を示し、矢印の大きさは、応力の大きさを示す。図4に示すように、強化ガラス板10は、表面層13及び裏面層15と、表面層13と裏面層15との間に設けられた中間層17とを有する。表面層13及び裏面層15には、上記風冷強化法や化学強化法により圧縮応力が残留している。また、その反作用として、中間層17には引張応力が残留している。
【0031】
図5は、レーザ光を照射する前の強化ガラス板の残留応力の分布を示す模式図である。
図5に示すように、表面層13及び裏面層15に残留する圧縮応力(>0)は、強化ガラス板10の表面12及び裏面14から内部に向けて徐々に小さくなる傾向がある。また、中間層17に残留する引張応力(>0)は、ガラスの内部から表面12及び裏面14に向けて徐々に小さくなる傾向がある。
【0032】
図5において、CSは表面層13や裏面層15における最大残留圧縮応力(表面圧縮応力)(>0)、CTは中間層17における内部残留引張応力(中間層17の残留引張応力の平均値)(>0)、DOLは表面層13や裏面層15の厚さをそれぞれ示す。CSやCT、DOLは、強化処理条件で調節可能である。例えば、CSやCT、DOLは、風冷強下法の場合、ガラスの冷却速度などで調節可能である。また、CSやCT、DOLは、化学強化法の場合、ガラスを処理液(例えば、KNO溶融塩)に浸漬してイオン交換するので、処理液の濃度や温度、浸漬時間などで調節可能である。なお、本実施形態の表面層13及び裏面層15は、同じ厚さ、同じ最大残留圧縮応力を有するが、異なる厚さを有してもよいし、異なる最大残留圧縮応力を有してもよい。
【0033】
強化ガラス板10の端部には、切断開始位置に、初期クラックが予め形成されている。初期クラックの形成方法は、一般的な方法であって良く、例えばカッタやヤスリ、レーザで形成される。なお、上述の通り、レーザやプラズマを用いた内部加熱切断では、強化ガラス板10の表面12に、切断予定線に沿ったスクライブ線(溝線)を形成する必要がない。
【0034】
強化ガラス板10の表面12上において、レーザ光20の照射領域22は、強化ガラス板10の端部から内側に向けて、切断予定線に沿って、直線状や曲線状に移動される。これによって、強化ガラス板10の端部から内側に向けてクラック30(図3参照)を伸展させ、強化ガラス板10を切断する。
【0035】
強化ガラス板10の表面12上において、レーザ光20の照射領域22を移動させるため、強化ガラス板10を保持する保持具100(図1参照)を、移動または回転してもよいし、レーザ光20の光源を移動してもよい。また、レーザ光20の経路の途中に設けられるミラーを回転してもよい。
【0036】
強化ガラス板10の表面12上において、レーザ光20の照射領域22は、例えば図3に示すように、円状に形成されているが、矩形状や楕円状などであってもよく、その形状に制限はない。
【0037】
強化ガラス板10の表面12上において、レーザ光20の照射領域22は、強化ガラス板10の厚さや、最大残留圧縮応力(CS)、内部残留引張応力(CT)、表面層13や裏面層15の厚さ(DOL)、レーザ光20の光源の出力などに応じた速度で移動される。
【0038】
レーザ光20の光源としては、特に限定されないが、例えば、UVレーザ(波長:355nm)、グリーンレーザ(波長:532nm)、半導体レーザ(波長:808nm、940nm、975nm)、ファイバーレーザ(波長:1060〜1100nm)、YAGレーザ(波長:1064nm、2080nm、2940nm)などが挙げられる。レーザ光20の発振方式に制限はなく、レーザ光を連続発振するCWレーザ、レーザ光を断続発振するパルスレーザのいずれも使用可能である。また、レーザ光20の強度分布に制限はなく、ガウシアン型であっても、トップハット型であってもよい。
【0039】
光源から出射されたレーザ光20は、集光レンズなどで集光され、強化ガラス板10の表面12に結像される。レーザ光20の集光位置は、強化ガラス板10の表面12を基準として、レーザ光源側であってもよいし、裏面14側であってもよい。また、加熱温度が高くなりすぎない、すなわち徐冷点以下を保てる集光面積であれば、レーザ光20の集光位置は強化ガラス板10中であってもよい。
【0040】
レーザ光20の光軸は、強化ガラス板10の表面12において、例えば図3に示すように表面12と直交していてもよいし、表面12と斜めに交わっていてもよい。
【0041】
本実施形態に係る切断方法では、レーザ光20に対する強化ガラス板10の吸収係数をα(cm−1)とし、強化ガラス板10の厚さをt(cm)とした場合、0<α×t≦3.0を満たすようにする。この条件で、レーザ光20の照射領域22における中間層17を徐冷点以下の温度で加熱することによって、中間層17の残留引張応力によって強化ガラス板10に生じるクラック30の伸展を制御して、残留引張応力によるクラック30によって強化ガラス板10を切断することが可能となる。なお、中間層17を徐冷点以下の温度で加熱するのは、徐冷点を超えて加熱すると、レーザ光が通過する短時間でもガラスが高温となり粘性流動が発生しやすい状態となるため、この粘性流動によりレーザ光によって発生させた圧縮応力が緩和されるからである。
【0042】
強化ガラス板10に入射する前のレーザ光20の強度をIとし、強化ガラス板10中を距離L(cm)だけ移動したときのレーザ光20の強度をIとすると、I=I×exp(−α×L)の式が成立する。この式は、ランベルト・ベールの法則と呼ばれるものである。
0<α×t≦3.0とすることで、レーザ光20が、強化ガラス板10の表面で吸収されずに内部にまで到達するようになるため、強化ガラス板10の内部を十分に加熱できる。その結果、強化ガラス板10に生じる応力は、図4に示す状態から、図6や図7に示す状態に変化する。
【0043】
図6は、図3のA−A線に沿った断面図であって、レーザ光の照射領域を含む断面図である。図7は、図3のB−B線に沿った断面図であって、図6に示す断面よりも後方の断面である。ここで、「後方」とは、レーザ光20の走査方向後方を意味する。図6及び図7において、矢印の方向は、応力の作用方向を示し、矢印の長さは、応力の大きさを示す。
【0044】
レーザ光20の照射領域22における中間層17では、レーザ光20の強度が十分に高いので、温度が周辺に比べて高くなり、図4に示す残留引張応力よりも小さい引張応力、または、圧縮応力が生じる。残留引張応力よりも小さい引張応力、または、圧縮応力が生じている部分では、クラック30の伸展が抑制される。クラック30の伸展を確実に抑制するため、図6に示すように、中間層17に圧縮応力が生じていることが好ましい。
なお、レーザ光20の照射領域22における表面層13や裏面層15では、図4に示す残留圧縮応力よりも大きい圧縮応力が生じているので、クラック30の伸展が抑制されている。
【0045】
図6に示す圧縮応力との釣り合いのため、図6に示す断面よりも後方の断面では、図7に示すように、中間層17に引張応力が生じる。この引張応力は、図4に示す残留引張応力よりも大きく、引張応力が所定値に達している部分に、クラック30が形成される。クラック30は強化ガラス板10の表面12から裏面14まで貫通しており、いわゆるフルカット切断である。
【0046】
この状態で、レーザ光20の照射領域22を移動させると、強化ガラス板10の内部において、照射領域22の位置が前述したように図6のような応力分布になっているため、クラック30が切断予定線から外れて自走するようなことはなく、照射領域22の位置に追従するようにクラック30の先端位置が移動する。従って、レーザ光20によってクラック30の伸展を制御できる。
【0047】
このように、0<α×t≦3.0とすることで、強化ガラス板10において、レーザ光20によってクラック30の伸展を制御できる。そして、照射領域22の直後をクラック30が伸展するため、切断線が照射領域22の移動軌跡どおりに形成されるため、切断精度を向上できる。なお、クラック30の先端は、照射領域22の直後を追従するのでなく、照射領域22と重なって追従してもよい。クラック30の先端が照射領域22に近いほど、または重なっていることが切断精度をより向上させる。
【0048】
ガラスは、用途によっては、高い透明度が要求されるので、使用レーザ波長が可視光の波長領域に近い場合はα×tは0に近いほど良い。しかし、α×tは、小さ過ぎると吸収効率が悪くなるので、好ましくは0.0005以上(レーザ光吸収率0.05%以上)、より好ましくは0.002以上(レーザ光吸収率0.2%以上)、さらに好ましくは0.004以上(レーザ光吸収率0.4%以上)である。
【0049】
ガラスは、用途によっては、逆に低い透明度が要求されるので、使用レーザ波長が可視光の波長領域に近い場合はα×tは大きいほど良い。しかし、α×tが大き過ぎるとレーザ光の表面吸収が大きくなるのでクラック伸展を制御できなくなる。このため、α×tは、好ましくは3.0以下(レーザ光吸収率95%以下)、より好ましくは0.1以下(レーザ光吸収率10%以下)、さらに好ましくは0.02以下(レーザ光吸収率2%以下)である。
【0050】
ところで、中間層17の内部残留引張応力(CT)が30MPa以上になると、中間層17の残留引張応力のみで、強化ガラス板10に形成されたクラックが自然に伸展する(自走する)ことが分かっている。そこで、切断に使用される引張応力のうち、中間層17の残留引張応力が、レーザ光20によって発生する引張応力よりも支配的となるように、内部残留引張応力(CT)は、15MPa以上であることが好ましい。これによって、強化ガラス板10の内部において、引張応力が所定値に達する位置、即ち、クラック30の先端位置と、レーザ光20の位置との間の距離が十分に短くなるので、切断精度を向上できる。
【0051】
中間層17の内部残留引張応力(CT)は、より好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは40MPa以上である。内部残留引張応力(CT)が30MPa以上であると、切断に使用される引張応力は中間層17の残留引張応力のみとなり、切断線の軌跡精度をさらに向上できる。
【0052】
吸収係数(α)は、レーザ光20の波長、強化ガラス板10のガラス組成などで定まる。例えば、強化ガラス板10中の酸化鉄(FeO、Fe、Feを含む)の含有量、酸化コバルト(CoO、Co、Coを含む)の含有量、酸化銅(CuO、CuOを含む)の含有量が多くなるほど、1000nm付近の近赤外線波長領域での吸収係数(α)が大きくなる。さらに、強化ガラス板10中の希土類元素(例えばYb)の酸化物の含有量が多くなるほど、希土類原子の吸収波長付近で吸収係数(α)が大きくなる。
【0053】
1000nm付近の近赤外線波長領域での吸収係数(α)は、用途に応じて設定される。例えば、自動車用窓ガラスの場合、吸収係数(α)は3cm−1以下であることが好ましい。また、建築用窓ガラスの場合、吸収係数(α)は0.6cm−1以下であることが好ましい。また、ディスプレイ用ガラスの場合、吸収係数(α)は0.2cm−1以下であることが好ましい。
【0054】
レーザ光20の波長は、250〜5000nmであることが好ましい。レーザ光20の波長を250〜5000nmとすることで、レーザ光20の透過率と、レーザ光20による加熱効率とを両立できる。レーザ光20の波長は、より好ましくは300〜4000nm、さらに好ましくは800〜3000nmである。
【0055】
強化ガラス板10中の酸化鉄の含有量は、強化ガラス板10を構成するガラスの種類によるが、ソーダライムガラスの場合、例えば0.02〜1.0質量%である。この範囲で、酸化鉄の含有量を調節することで、1000nm付近の近赤外線波長領域でのα×tを所望の範囲に調節可能である。酸化鉄の含有量を調節する代わりに、酸化コバルトや酸化銅、希土類元素の酸化物の含有量を調節してもよい。
【0056】
強化ガラス板10の厚さ(t)は、用途に応じて設定されるが、0.01〜0.2cmであることが好ましい。化学強化ガラスの場合、厚さ(t)を0.2cm以下とすることで、内部残留引張応力(CT)を十分に高めることができる。一方、厚さ(t)が0.01cm未満になると、ガラスに化学強化処理を施すことが難しい。厚さ(t)は、より好ましくは0.03〜0.15cm、さらに好ましくは0.05〜0.15cmである。
【0057】
(実施の形態2)
図8A、8Bを参照して、本発明の第2の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具について説明する。図8Aは、本発明の第2の実施形態に係る強化ガラス板切断用保持具200の平面図である。図8Bは、図8AのX−X線に沿った断面図である。
【0058】
図8Aに示すように、強化ガラス板切断用保持具200は、4つのブロックB1〜B4を備える。図8Aに示すように、強化ガラス板10は、切断予定線31a、31b、31cが、4つのブロックB1〜B4の隙間に位置するように、強化ガラス板切断用保持具200上に載置される。図8Aの例では、1枚の強化ガラス板10が4つに分断される。図8Aの例では、強化ガラス板切断用保持具200が4つのブロックB1〜B4に分割されているが、当然のことながら、ブロック数は、適宜決定されるものであって、限定されない。
【0059】
次に、図8Bに示すように、強化ガラス板切断用保持具200は、実施の形態1と同様に、台座本体201と、接触部材202とから構成されている。その他の構成も実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。本実施の形態に係る強化ガラス板切断用保持具200によっても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、レーザ光による切断に限らず、強化ガラス板を内部加熱切断するのであれば、本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 強化ガラス板
12 表面
13 表面層
14 裏面
15 裏面層
17 中間層
18 切断端面
20 レーザ光
22 照射領域
30 クラック
31a、31b、31c 切断予定線
100、200 強化ガラス板切断用保持具
101、201 台座本体
101a 真空経路
102、202 接触部材
110a、110b、110c 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化ガラス板を内部加熱切断するために、当該強化ガラス板を保持する強化ガラス板切断用保持具であって、
台座本体と、
前記台座本体上に形成され、載置される強化ガラス板と接触する接触部材と、を備え、
前記接触部材は、前記強化ガラス板と密着し、かつ、切断された前記強化ガラス板同士の接触圧力を緩和するように変形可能であることを特徴とする強化ガラス板切断用保持具。
【請求項2】
前記接触部材が、多孔質樹脂材料からなることを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス板切断用保持具。
【請求項3】
前記接触部材が、多孔質超高分子ポリエチレンからなることを特徴とする請求項2に記載の強化ガラス板切断用保持具。
【請求項4】
強化ガラス板に初期クラックを導入するステップと、
前記強化ガラス板を強化ガラス板切断用保持具に載置するステップと、
前記強化ガラス板の内部を加熱することにより、前記初期クラックを伸展させ、当該強化ガラス板を切断するステップと、を備え、
前記強化ガラス板切断用保持具に、前記強化ガラス板と密着し、かつ、切断された前記強化ガラス板同士の接触圧力を緩和するように変形可能な接触部材が設けられていることを特徴とする強化ガラス板の切断方法。
【請求項5】
前記接触部材が、多孔質樹脂材料からなることを特徴とする請求項4に記載の強化ガラス板の切断方法。
【請求項6】
前記接触部材が、多孔質超高分子ポリエチレンからなることを特徴とする請求項5に記載の強化ガラス板の切断方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−43808(P2013−43808A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183245(P2011−183245)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】