説明

強化シリコーン樹脂フィルム

少なくとも2つの高分子層を含む強化シリコーン樹脂フィルムであって、高分子層の少なくとも1つが、ジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂の硬化生成物を含み、且つ高分子層の少なくとも1つが炭素ナノ材料を含む、少なくとも2つの高分子層を含む強化シリコーン樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化シリコーン樹脂フィルム、より詳細には、高分子層の少なくとも1つが、ジシリロキサン(disilyloxane)単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂の硬化生成物を含み、且つ高分子層の少なくとも1つが炭素ナノ材料を含む、少なくとも2つの高分子層を含む強化シリコーン樹脂フィルムに関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2007年5月1日付で出願された米国仮特許出願第60/915,137号明細書の米国特許法第119条(e)項に基づく利益を主張するものである。米国仮特許出願第60/915,137号明細書は、参照により本明細書中に援用される。
【背景技術】
【0003】
シリコーン樹脂は、高い熱安定性、良好な耐湿性、優れた可撓性、高い酸素耐性、低い誘電率、及び高い透過性を含む特性のこれらの特有の組合せにより様々な用途で有用である。例えば、シリコーン樹脂は、自動車産業、電子産業、建設産業、電気機器産業及び航空宇宙産業で保護塗装又は誘電塗装として広く使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコーン樹脂コーティングは、様々な基板を保護、絶縁又は接着するのに使用することができるが、フリースタンディングシリコーン樹脂フィルムは、低い引裂き強度、高い脆性、低いガラス転移温度及び高い熱膨張率に起因して実用性が限られている。したがって、機械特性及び熱特性が改善されたフリースタンディングシリコーン樹脂フィルムが必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、高分子層の少なくとも1つが、ジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂の硬化生成物を含み、且つ高分子層の少なくとも1つが炭素ナノ材料を含む、少なくとも2つの高分子層を含む強化シリコーン樹脂フィルムに関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の強化シリコーン樹脂フィルムは、低熱膨張率を有し、且つ熱誘起クラックに対する高い耐性を示す。
【0007】
本発明の強化シリコーン樹脂フィルムは、高い熱安定性、可撓性、機械強度及び透明性を有するフィルムを要する用途で有用である。例えば、シリコーン樹脂フィルムは、可撓性ディスプレイ、太陽電池、可撓性電子板、タッチスクリーン、耐火性壁紙及び耐衝撃性窓の不可欠な構成要素として使用することができる。フィルムはまた、透明電極又は不透明電極用の適切な基板である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書中で使用される場合、「ジシリロキサン単位」という用語は、式O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2(I)(式中、R1、a及びbは以下に定義する)を有する有機ケイ素単位を表す。また、「mol%の、式(I)を有するジシリロキサン単位」という用語は、樹脂中のシロキサン単位及びジシリロキサン単位のモル数の総数に対する、シリコーン樹脂中の式(I)を有するジシリロキサン単位のモル数の比に100を乗じたものとして定義される。さらに、「mol%の、粒子の形状を有するシロキサン単位」という用語は、樹脂中のシロキサン単位及びジシリロキサン単位のモル数の総数に対する、樹脂中の粒子の形状を有するシロキサン単位のモル数の比に100を乗じたものとして定義される。
【0009】
本発明による強化シリコーン樹脂フィルムは少なくとも2つの高分子層を含み、高分子層の少なくとも1つが、式O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2(I)(式中、各R1は独立して、−H、ヒドロカルビル又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1又は2であり、且つbは0、1、2又は3である)を有するジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂の硬化生成物を含み、且つ高分子層の少なくとも1つが炭素ナノ材料を含む。
【0010】
強化シリコーン樹脂フィルムの高分子層はそれぞれ、典型的に0.01μm〜1000μm、あるいは5μm〜500μm、あるいは10μm〜100μmの厚みを有する。
【0011】
強化シリコーン樹脂フィルムの高分子層はそれぞれ、熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーを含み得る。熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーは、ホモポリマー又はコポリマーであってもよい。さらに、熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーは、シリコーンポリマー又は有機ポリマーであってもよい。本明細書中及び以下で使用される場合、「熱可塑性ポリマー」という用語は、加熱されると流体(流動性)状態に変換し、冷却されると剛性(非流動性)となる性質を有するポリマーを表す。また、「熱硬化性ポリマー」という用語は、加熱により流体状態に変換しない硬化(すなわち、架橋)ポリマーを表す。
【0012】
熱可塑性ポリマーの例としては、ポリ(ジフェニルシロキサン−co−フェニルメチルシロキサン)等の熱可塑性シリコーンポリマー、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリアクリレート及びポリエーテルイミド等の熱可塑性有機ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
熱硬化性ポリマーの例としては、硬化シリコーンエラストマー、シリコーンゲル及び硬化シリコーン樹脂等の熱硬化性シリコーンポリマー;並びにエポキシ樹脂、硬化アミノ樹脂、硬化ポリウレタン、硬化ポリイミド、硬化フェノール樹脂、硬化シアネートエステル樹脂、硬化ビスマレイミド樹脂、硬化ポリエステル及び硬化アクリル樹脂等の熱硬化性有機ポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
強化シリコーン樹脂フィルムの隣接する高分子層は、厚み、ポリマーの組成、架橋密度、及び炭素ナノ材料又は他の強化材の濃度を含む多数の物理特性及び化学特性の少なくとも1つが異なる。
【0015】
強化シリコーン樹脂フィルムは、典型的に1〜100の高分子層、あるいは1〜10の高分子層、あるいは2〜5の高分子層を含む。
【0016】
強化シリコーン樹脂フィルムの高分子層の少なくとも1つは、式O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2(I)(式中、各R1は独立して、−H、ヒドロカルビル又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1又は2であり、且つbは0、1、2又は3である)を有するジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂の硬化生成物を含む。本明細書中で使用される場合、「少なくとも1つのシリコーン樹脂の硬化生成物」という用語は、三次元網目構造を有する、少なくとも1つのシリコーン樹脂の架橋産物を表す。シリコーン樹脂、該樹脂を調製する方法、及びシリコーン樹脂の硬化生成物を調製する方法を、本発明の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法において以下で説明する。
【0017】
強化シリコーン樹脂フィルムの高分子層の少なくとも1つは、炭素ナノ材料を含む。炭素ナノ材料は、約200nm未満の少なくとも1つの物理的な寸法(例えば、粒径、繊維直径、層厚)を有するいずれの炭素材料であってもよい。炭素ナノ材料の例としては、量子ドット、中空球及びフラーレン等の、三次元とも約200nm未満である炭素ナノ粒子;ナノチューブ(例えば、単層ナノチューブ及び多層ナノチューブ)及びナノファイバ(例えば、軸方向に配向したプレートレット及びへリンボーン又はフィッシュボーンのナノファイバ)等の、二次元が約200nm未満である繊維状炭素ナノ材料;並びに、炭素ナノプレートレット(例えば、剥離グラファイト及びグラフェンシート)等の、一次元が約200nm未満である層状炭素ナノ材料が挙げられるが、これらに限定されない。炭素ナノ材料は、導電性であっても又は半導電性であってもよい。
【0018】
炭素ナノ材料はまた、高温で上記の炭素ナノ材料を酸化性酸又は酸の混合物で処理することによって調製される酸化炭素ナノ材料であってもよい。例えば、炭素ナノ材料は、濃硝酸と濃硫酸との混合物(1:3(v/v)、25mL/g炭素)中で材料を40℃〜150℃の温度で1時間〜3時間加熱することによって、酸化することができる。
【0019】
炭素ナノ材料は、上記にそれぞれ記載されているような、単一の炭素ナノ材料であっても、又は少なくとも2種類の異なる炭素ナノ材料の混合物であってもよい。
【0020】
高分子層中の炭素ナノ材料の濃度は、高分子層の総重量に基づき、典型的に0.0001%(w/w)〜99%(w/w)、あるいは0.001%(w/w)〜50%(w/w)、あるいは0.01%(w/w)〜25%(w/w)、あるいは0.1%(w/w)〜10%(w/w)、あるいは1%(w/w)〜5%(w/w)である。
【0021】
炭素ナノ材料を調製する方法は当該技術分野において既知である。例えば、炭素ナノ粒子(例えば、フラーレン)並びに繊維状炭素ナノ材料(例えば、ナノチューブ及びナノファイバ)は、アーク放電、レーザーアブレーション及び触媒化学気相成長法といった方法の少なくとも1つを用いて調製することができる。アーク放電プロセスでは、2つのグラファイトロッドの間のアーク放電が、ガス雰囲気に応じて、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ及びフラーレンを生成する。レーザーアブレーション法では、金属触媒を加えたグラファイトターゲットを管状炉内においてレーザーで照射し、単層ナノチューブ及び多層ナノチューブを生成する。触媒化学気相成長法では、炭素含有ガス又は混合ガスを、500℃〜1000℃の温度(及び種々の圧力)で金属触媒を含有する管状炉内に入れ、炭素ナノチューブ及びナノファイバを生成する。炭素ナノプレートレットは、グラファイトのインターカレーション及び剥離によって調製することができる。
【0022】
熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーに加えて、強化シリコーン樹脂フィルムの高分子層の少なくとも1つは、炭素ナノ材料、繊維強化材、及びそれらの混合物から選択される強化材をさらに含み得る。
【0023】
繊維強化材は、繊維を含む任意の強化材であり得るが、但し、強化材は、高い弾性率及び高い引張強度を有する。繊維強化材は通常、25℃において、少なくとも3GPaのヤング率を有する。例えば、強化材は通常、25℃において、3GPa〜1000GPa、あるいは3GPa〜200GPa、あるいは10GPa〜100GPaのヤング率を有する。さらに、強化材は通常、少なくとも50MPaの25℃での引張強度を有する。例えば、強化材は通常、50MPa〜10000MPa、あるいは50MPa〜1000MPa、あるいは50MPa〜500MPaの25℃での引張強度を有する。
【0024】
繊維強化材は、織布(例えば、布)、不織布(例えば、マット若しくはロービング)又は粗い(単一)繊維であり得る。強化材中の繊維は通常、形状が円筒形であり、直径1μm〜100μm、あるいは1μm〜20μm、あるいは1μm〜10μmを有する。粗い繊維は、連続的であってもよく(繊維が、一般的に途切れない様式で強化シリコーン樹脂フィルム全体にわたって伸長することを意味する)、又は切り刻まれていてもよい。
【0025】
繊維強化材は通常、使用前に熱処理して、有機混入物質を除去する。例えば、繊維強化材は通常、大気中で、高温(例えば、575℃)にて、適切な期間(例えば、2時間)加熱される。
【0026】
繊維強化材の例としては、ガラス繊維、石英繊維、グラファイト繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維(例えば、Kevlar(登録商標)及びNomex(登録商標))、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維及び炭化ケイ素繊維を含む強化材が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
高分子層中の繊維強化材の濃度は、高分子層の総重量に基づき、典型的に0.1%(w/w)〜95%(w/w)、あるいは5%(w/w)〜75%(w/w)、あるいは10%(w/w)〜40%(w/w)である。
【0028】
強化シリコーン樹脂フィルムの高分子層の1つ又は複数が、炭素ナノ材料と繊維強化材との混合物を含む場合、混合物の濃度は、高分子層の総重量に基づき、典型的に0.1%(w/w)〜96%(w/w)、あるいは5%(w/w)〜75%(w/w)、あるいは10%(w/w)〜40%(w/w)である。
【0029】
強化シリコーン樹脂フィルムの高分子層は、本発明の強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法において以下で記載するように調製することができる。
【0030】
強化シリコーン樹脂フィルムは、
第1の高分子層を形成すること、及び
第1の高分子層上に少なくとも1つのさらなる高分子層を形成することを含む方法であって、高分子層の少なくとも1つが、ジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂の硬化生成物を含み、且つ高分子層の少なくとも1つが炭素ナノ材料を含む、方法によって調製することができる。第1の高分子層及びさらなる高分子層(複数可)は、強化シリコーン樹脂フィルムの高分子層について上記に記載及び例示した通りである。
【0031】
強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法の第1の工程では、第1の高分子層を剥離ライナー上に形成する。
【0032】
剥離ライナーは、損傷を伴わずに第1の高分子層を除去することができる面を有するいずれの剛性又は可撓性の材料であってもよい。剥離ライナーの例としては、シリコン、石英;石英ガラス;酸化アルミニウム;セラミック;ガラス;金属箔;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン及びポリエチレンテレフタレート等のポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン及びポリビニルフルオライド等のフルオロカーボンポリマー;ナイロン等のポリアミド;ポリイミド;ポリ(メチルメタクリレート)等のポリエステル;エポキシ樹脂;ポリエーテル;ポリカーボネート;ポリスルホン;及びポリエーテルスルホンが挙げられるが、これらに限定されない。剥離ライナーはまた、表面がシリコーン剥離剤等の剥離剤で処理された面を有する、上記に例示されるような材料であってもよい。
【0033】
第1の高分子層は、高分子層の組成に応じて様々な方法を用いて形成することができる。例えば、第1の高分子層が熱可塑性ポリマーを含む場合、層は、(i)剥離ライナーに、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物を塗布すること、及び(ii)塗布された剥離ライナーの熱可塑性ポリマーを固体状態に変換することによって形成することができる。
【0034】
第1の高分子層を形成する先行の方法の工程(i)では、上記の剥離ライナーに、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物を塗布する。
【0035】
熱可塑性ポリマーを含む組成物は、流体(すなわち、液体)状態の熱可塑性ポリマーを含むいずれの組成物であってもよい。本明細書中で使用される場合、「流体状態の熱可塑性ポリマー」は、ポリマーが溶融状態であるか、又は有機溶媒中に溶解していることを意味する。例えば、組成物は、ポリマーの融点(Tm)又はガラス転移温度(Tg)を超える溶融状態の熱可塑性ポリマーを含み得るか、又は組成物は、熱可塑性ポリマーと有機溶媒とを含み得る。
【0036】
組成物の熱可塑性ポリマーは、第1の強化シリコーン樹脂フィルムについて上記に記載及び例示した通りである。熱可塑性ポリマーは、単一の熱可塑性ポリマーであっても、又は2種類以上の異なる熱可塑性ポリマーを含む混合物(すなわち、配合物)であってもよい。例えば、熱可塑性ポリマーはポリオレフィン配合物であってもよい。
【0037】
有機溶媒は、熱可塑性ポリマーと反応せず、且つポリマーと混和性である、任意のプロトン性、非プロトン性又は双極非プロトン性の有機溶媒であり得る。有機溶媒の例としては、n−ペンタン、ヘキサン、n−へプタン、イソオクタン、及びドデカン等の脂肪族飽和炭化水素;シクロペンタン及びシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、及びメシチレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)及びジオキサン等の環状エーテル;メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン、トリクロロエタン等のハロゲン化アルカン;ブロモベンゼン及びクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;並びにメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、1,1−ジメチル−1−エタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール(hepatanol)、及びオクタノール等のアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
上記有機溶媒は、単一の有機溶媒であっても、又は2つ以上の異なる有機溶媒を含む混合物であってもよく、各々が上記で説明及び例示した通りである。
【0039】
熱可塑性ポリマーを含む組成物は、上記に記載及び例示した炭素ナノ材料をさらに含み得る。
【0040】
スピンコーティング、浸漬、噴霧、刷毛塗り、押出又はスクリーン印刷等の従来の塗布技法を用いて、剥離ライナーに流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物を塗布することができる。組成物の量は、0.01μm〜1000μmの厚みを有する第1の高分子層を形成するのに十分なものである。
【0041】
上述の方法の工程(ii)では、塗布された剥離ライナーの熱可塑性ポリマーを固体状態に変換する。剥離ライナーを塗布するのに用いられる組成物が溶融状態の熱可塑性ポリマーを含む場合には、ポリマーを、液相−固相転移温度(Tg又はTm)未満の温度、例えば室温に冷却することにより、熱可塑性ポリマーを固体状態に変換することができる。剥離ライナーを塗布するのに用いられる組成物が熱可塑性ポリマーと有機溶媒とを含む場合には、溶媒の少なくとも一部を除去することにより、熱可塑性ポリマーを固体状態に変換することができる。有機溶媒は、溶媒を周囲温度で蒸発させることによって、又は例えばポリマーの固相−液相転移温度未満の適切な温度に塗膜を加熱することによって除去することができる。
【0042】
熱可塑性ポリマーを含む第1の高分子層を形成する方法は、工程(i)後且つ工程(ii)前に、第2の剥離ライナーを、第1の工程の塗布された剥離ライナーに付してアセンブリを形成すること、及びアセンブリを加圧することをさらに含み得る。アセンブリを加圧することにより、過剰な組成物及び/又は空気泡(エントラップトエア)を除去し、且つ塗膜の厚みを低減することができる。アセンブリは、ステンレス鋼ローラ、油圧プレス、ゴムローラ又はラミネートロールセット等の従来装置を用いて加圧することができる。アセンブリは典型的に、1000Pa〜10MPaの圧力及び室温(約23℃±2℃)〜200℃の温度で加圧される。
【0043】
熱可塑性ポリマーを含む第1の高分子層を形成する方法は、工程(i)及び工程(ii)を繰り返して高分子層の厚みを増大させることをさらに含み得るが、但し、各塗布工程では同様の組成物を使用するものとする。
【0044】
第1の高分子層が熱硬化性(すなわち、架橋)ポリマーを含む場合、層は、(i)剥離ライナーに、熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物を塗布すること、及び(ii)塗布された剥離ライナーの熱硬化性ポリマーを硬化させることによって形成することができる。
【0045】
第1の高分子層を形成する直前の方法の工程(i)では、上記の剥離ライナーに、熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物を塗布する。
【0046】
熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物は、熱硬化性ポリマーを含有するいずれの硬化性組成物であってもよい。本明細書中及び以下で使用される場合、「熱硬化性ポリマー」という用語は、硬化(すなわち、架橋)すると永久的に剛性(非流動性)となる性質を有するポリマーを表す。硬化性組成物は典型的に、熱硬化性ポリマーと、有機溶媒、架橋剤及び/又は触媒等のさらなる成分とを含有する。
【0047】
熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物の例としては、ヒドロシリル化硬化性シリコーン組成物、縮合硬化性シリコーン組成物及び過酸化物硬化性シリコーン組成物等の硬化性シリコーン組成物;ポリエチレン組成物及びポリプロピレン組成物等の硬化性ポリオレフィン組成物;硬化性ポリアミド組成物;硬化性エポキシ樹脂組成物;硬化性アミノ樹脂組成物;硬化性ポリウレタン組成物;硬化性ポリイミド組成物;硬化性ポリエステル組成物;及び硬化性アクリル樹脂組成物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物はまた、(A)式O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2(I)(式中、各R1は独立して、−H、ヒドロカルビル又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1又は2であり、且つbは0、1、2又は3である)を有するジシリロキサン単位を含むシリコーン樹脂と、(B)有機溶媒とを含む硬化性シリコーン組成物であってもよい。
【0049】
成分(A)は、式O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2(I)(式中、各R1は独立して、−H、ヒドロカルビル又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1又は2であり、且つbは0、1、2又は3である)を有するジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂である。
【0050】
1で表されるヒドロカルビル基は、典型的に1〜10個の炭素原子、あるいは1〜6個の炭素原子、あるいは1〜4個の炭素原子を有する。少なくとも3個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基は、分岐構造を有していても、又は非分岐構造を有していてもよい。ヒドロカルビル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシル等のアルキル;シクロペンチル、シクロヘキシル、及びメチルシクロヘキシル等のシクロアルキル;フェニル及びナフチル(napthyl)等のアリール;トリル及びキシリル等のアルカリル;ベンジル及びフェネチル等のアラルキル(arakyl);ビニル、アリル及びプロペニル等のアルケニル;スチリル及びシンナミル等のアラルケニル;並びにエチニル及びプロピニル等のアルキニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
1で表される置換ヒドロカルビル基は、同じ又は異なる置換基の1つ又は複数を含有し得る。ただし、置換基はアルコリシス生成物、加水分解物、又はシリコーン樹脂の形成を妨げないものとする。置換基の例としては、−F、−Cl、−Br、−I、−OH、−OR2、−OCH2CH2OR3、−CO23、−OC(=O)R2、−C(=O)NR32(式中、R2はC1〜C8ヒドロカルビルであり、R3はR2又は−Hである)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
2で表されるヒドロカルビル基は、典型的に1〜8個の炭素原子、あるいは3〜6個の炭素原子を有する。少なくとも3個の炭素原子を含有する非環式ヒドロカルビル基は、分岐構造を有していても、又は非分岐構造を有していてもよい。ヒドロカルビルの例としては、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、及びオクチル等の非分岐及び分岐アルキル;シクロペンチル、シクロヘキシル、及びメチルシクロヘキシル等のシクロアルキル;フェニル;トリル及びキシリル等のアルカリル;ベンジル及びフェネチル等のアラルキル;ビニル、アリル及びプロペニル等のアルケニル;スチリル等のアリールアルケニル;並びにエチニル及びプロピニル等のアルキニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
シリコーン樹脂は典型的に、少なくとも1mol%の、式(I)を有するジシリロキサン単位を含む。例えば、シリコーン樹脂は、典型的に1mol%〜100mol%、あるいは5mol%〜75mol%、あるいは10mol%〜50mol%の、式(I)を有するジシリロキサン単位を含む。
【0054】
式(I)を有するジシリロキサン単位に加えて、シリコーン樹脂は、99mol%までの他のシロキサン単位を含有していてもよい。他のシロキサン単位の例としては、R13SiO1/2、R12SiO2/2、R1SiO3/2及びSiO4/2(式中、R1は上記に記載及び例示した通りである)から選択される式を有するシロキサン単位が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
シリコーン樹脂は、典型的に200〜500000、あるいは500〜150000、あるいは1000〜75000、あるいは2000〜12000の数平均分子量を有する。ここで、分子量は、屈折率検出器及びポリスチレン標準試料を用いたゲル浸透クロマトグラフィにより求めている。
【0056】
シリコーン樹脂は、29Si NMRによって測定した場合に、樹脂の総重量に基づき、典型的に1%(w/w)〜50%(w/w)、あるいは5%(w/w)〜50%(w/w)、あるいは5%(w/w)〜35%(w/w)、あるいは10%(w/w)〜35%(w/w)、あるいは10%(w/w)〜20%(w/w)のケイ素結合ヒドロキシ基を含有する。
【0057】
第1の実施形態によれば、シリコーン樹脂は、式[O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2v(R13SiO1/2w(R12SiO2/2x(R1SiO3/2y(SiO4/2z(II)(式中、各R1は独立して−H、ヒドロカルビル、又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1、又は2であり、bは0、1、2、又は3であり、vは0.01〜1であり、wは0〜0.84であり、xは0〜0.99であり、yは0〜0.99であり、zは0〜0.95であり、v+w+x+y+z=1である)を有する。
【0058】
1によって表されるヒドロカルビル基及び置換ヒドロカルビル基は、上記に説明及び例示されている。
【0059】
シリコーン樹脂の式(II)では、下付き文字v、w、x、y、及びzはモル分率である。下付き文字vは、典型的に0.01〜1、あるいは0.2〜0.8、あるいは0.3〜0.6の値を有し、下付き文字wは、典型的に0〜0.84、あるいは0.1〜0.6、あるいは0.2〜0.4の値を有し、下付き文字xは、典型的に0〜0.99、あるいは0.1〜0.8、あるいは0.2〜0.6の値を有し、下付き文字yは、典型的に0〜0.99、あるいは0.2〜0.8、あるいは0.4〜0.6の値を有し、下付き文字zは、典型的に0〜0.95、あるいは0.1〜0.7、あるいは0.2〜0.5の値を有する。
【0060】
式(II)を有するシリコーン樹脂の例としては、下記式:(O2/2MeSiSiO3/20.1(PhSiO3/20.9、(O2/2MeSiSiMeO2/20.2(Me2SiO2/20.1(PhSiO3/20.7、(O2/2MeSiSiO3/20.1(O2/2MeSiSiMeO2/20.15(Me2SiO2/20.1(MeSiO3/20.65、(O1/2Me2SiSiO3/20.25(SiO4/20.5(MePhSiO2/20.25、(O2/2EtSiSiEt21/20.1(O2/2MeSiSiO3/20.15(Me3SiO1/20.05(PhSiO3/20.5(SiO4/20.2、(O2/2MeSiSiO3/20.3(PhSiO3/20.7、(O2/2MeSiSiO3/20.4(MeSiO3/20.6、(O3/2SiSiMeO2/20.5(Me2SiO2/20.5、(O3/2SiSiMeO2/20.6(Me2SiO2/20.4、(O3/2SiSiMeO2/20.7(Me2SiO2/20.3、(O3/2SiSiMe21/20.75(PhSiO3/20.25、(O3/2SiSiMeO2/20.75(SiO4/20.25、(O2/2MeSiSiMe21/20.5(O2/2MeSiSiO3/20.3(PhSiO3/20.2、(O2/2EtSiSiMeO2/20.8(MeSiO3/20.05(SiO4/20.15、(O2/2MeSiSiO3/20.8(Me3SiO1/20.05(Me2SiO2/20.1(SiO4/20.5、(O2/2MeSiSiEtO2/20.25(O3/2SiSiMeO2/20.6(MeSiO3/20.1(SiO4/20.05、(O1/2Me2SiSiMeO2/20.75(O2/2MeSiSiMeO2/20.25、(O1/2Et2SiSiEtO2/20.5(O2/2EtSiSiEtO2/20.5、(O1/2Et2SiSiEtO2/20.2(O2/2MeSiSiMeO2/20.8、及び(O1/2Me2SiSiMeO2/20.6(O2/2EtSiSiEtO2/20.4(式中、Meはメチルであり、Etはエチルであり、Phはフェニルであり、樹脂は粒子の形でシロキサン単位を含有し、丸括弧の外側の下付き数字はモル分率を示す)を有する樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。また、上述の式では、単位の順序は明示されていない。
【0061】
第1の実施形態のシリコーン樹脂は、(i)式Z3-a1aSi−SiR1b3-bを有する少なくとも1つのハロジシラン、及び任意に式R1bSiZ4-bを有する少なくとも1つのハロシランを、有機溶媒の存在下で、式R4OHを有する少なくとも1つのアルコールと反応させ、アルコリシス生成物を産生すること(式中、各R1は独立して−H、ヒドロカルビル、又は置換ヒドロカルビルであり、R4はアルキル又はシクロアルキルであり、Zはハロであり、a=0、1、又は2であり、b=0、1、2、又は3である)、(ii)アルコリシス生成物を0℃〜40℃の温度で水と反応させ、加水分解物を産生すること、並びに(iii)加水分解物を加熱して、樹脂を産生することによって調製することができる。
【0062】
このシリコーン樹脂を調製する方法の工程(i)では、式Z3-a1aSi−SiR1b3-bを有する少なくとも1つのハロジシラン、及び任意に式R1bSiZ4-bを有する少なくとも1つのハロシランを、有機溶媒の存在下で、式R4OHを有する少なくとも1つのアルコールと反応させ、アルコリシス生成物が産生される(式中、各R1は独立して−H、ヒドロカルビル、又は置換ヒドロカルビルであり、R4はアルキル又はシクロアルキルであり、Zはハロであり、a=0、1、又は2であり、b=0、1、2、又は3である)。本明細書中で使用される場合、「アルコリシス生成物」という用語は、ハロジシラン及び(存在する場合)ハロシラン中のケイ素結合ハロゲン原子(複数可)を、−OR4基(R4は以下で説明及び例示される)で置換することにより形成される産物を表す。
【0063】
上記ハロジシランは、式Z3-a1aSi−SiR1b3-b(式中、各R1は上記で説明及び例示され、Zはハロであり、a=0、1、又は2であり、b=0、1、2、又は3である)を有する少なくとも1つのハロジシランである。Zで表されるハロ原子の例としては、−F、−Cl、−Br、及び−Iが挙げられる。
【0064】
上記ハロジシランの例としては、式Cl2MeSiSiMeCl2、Cl2MeSiSiMe2Cl、Cl3SiSiMeCl2、Cl2EtSiSiEtCl2、Cl2EtSiSiEt2Cl、Cl3SiSiEtCl2、Cl3SiSiCl3、Br2MeSiSiMeBr2、Br2MeSiSiMe2Br、Br3SiSiMeBr2、Br2EtSiSiEtBr2、Br2EtSiSiEt2Br、Br3SiSiEtBr2、Br3SiSiBr3、I2MeSiSiMeI2、I2MeSiSiMe2I、I3SiSiMeI2、I2EtSiSiEtI2、I2EtSiSiEt2I、I3SiSiEtI2、及びI3SiSiI3(式中、Meはメチルであり、Etはエチルである)を有するジシランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
上記ハロジシランは、単一のハロジシランであっても、又は2つ以上の異なるハロジシランを含む混合物であってもよく、各々が式Z3-a1aSi−SiR1b3-b(R1、Z、a、及びbは上記に記載及び例示した通りである)を有する。
【0066】
ハロジシランを調製する方法は当該技術分野で既知であり、こうした化合物の多くが市販されている。また、国際公開第03/099828号に教示されているように、ハロジシランは、メチルクロロシランを生産する直接法で産生される70℃を超える沸点を有する残渣から得ることができる。直接法の残渣を分留することにより、クロロジシランの混合物を含有するメチルクロロジシラン流が生じる。
【0067】
任意のハロシランは、式R1bSiZ4-b(式中、R1、Z及びbは上記に記載及び例示した通りである)を有する少なくとも1つのハロシランである。
【0068】
ハロシランの例としては、式SiCl4、SiBr4、HSiCl3、HSiBr3、MeSiCl3、EtSiCl3、MeSiBr3、EtSiBr3、Me2SiCl2、Et2SiCl2、Me2SiBr2、Et2SiBr2、Me3SiCl、Et3SiCl、及びMe3SiBr、Et3SiBr(式中、Meはメチルであり、Etはエチルである)を有するシランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
上記ハロシランは、単一のハロシランであっても、又は2つ以上の異なるハロシランを含む混合物であってもよく、各々が式R1bSiZ4-b(R1、Z、及びbは上記に記載及び例示した通りである)を有する。さらに、ハロシランを調製する方法は当該技術分野で既知であり、こうした化合物の多くが市販されている。
【0070】
上記アルコールは、式R4OH(式中、R4はアルキル又はシクロアルキルである)を有する少なくとも1つのアルコールである。アルコールの構造は、直鎖であっても、又は分岐していてもよい。また、アルコール中のヒドロキシ基は第1級、第2級、又は第3級炭素原子に結合し得る。
【0071】
4で表されるアルキル基は、典型的に1〜8個の炭素原子、あるいは1〜6個の炭素原子、あるいは1〜4個の炭素原子を有する。少なくとも3個の炭素原子を含有するアルキル基は、分岐構造を有していても、又は非分岐構造を有していてもよい。アルキル基の例としてはメチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル、ヘキシル、ヘプチル、及びオクチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
4で表されるシクロアルキル基は、典型的に3〜12個の炭素原子、あるいは4〜10個の炭素原子、あるいは5〜8個の炭素原子を有する。シクロアルキル基の例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びメチルシクロヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
アルコールの例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、1,1−ジメチル−1−エタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、及びオクタノールが挙げられるが、これらに限定されない。上記アルコールは、単一のアルコールであっても、又は2つ以上の異なるアルコールを含む混合物であってもよく、各々が上記に記載及び例示した通りである。
【0074】
上記有機溶媒は、本方法の条件下でハロジシラン、ハロシラン、又はシリコーン樹脂産物と反応せず且つハロジシラン、ハロシラン、及びシリコーン樹脂と混和性である、任意の非プロトン性又は双極非プロトン性の有機溶媒であり得る。有機溶媒は水に非混和性であっても、又は混和性であってもよい。本明細書中で用いられる場合、「非混和性」という用語は、溶媒中の水の溶解度が25℃で溶媒100g当たり約0.1g未満であることを意味する。有機溶媒はまた、ハロジシラン及び任意にハロシランと反応する、式R4OH(R4は上記に記載及び例示した通りである)を有するアルコールであってもよい。
【0075】
有機溶媒の例としては、n−ペンタン、ヘキサン、n−へプタン、イソオクタン、及びドデカン等の脂肪族飽和炭化水素;シクロペンタン及びシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、及びメシチレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)及びジオキサン等の環状エーテル;メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン;トリクロロエタン等のハロゲン化アルカン;ブロモベンゼン及びクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;並びにメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、1,1−ジメチル−1−エタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール(hepatanol)、及びオクタノール等のアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
上記有機溶媒は、単一の有機溶媒であっても、又は2つ以上の異なる有機溶媒を含む混合物であってもよく、各々が上記に記載及び例示した通りである。
【0077】
アルコリシス生成物を産生する、ハロジシラン及び任意のハロシランとアルコールとの反応は、例えばハロシランをアルコールと接触させるのに適切な任意の標準的なリアクタにおいて実行することができる。適切なリアクタとしては、ガラスリアクタ及びテフロン(登録商標)裏打ちガラスリアクタが挙げられる。好ましくは、リアクタはかき混ぜ手段、例えば攪拌手段を備える。
【0078】
ハロジシラン、任意のハロシラン、アルコール、及び有機溶媒は任意の順序で組み合わせることができる。典型的に、ハロジシラン及び任意のハロシランを、有機溶媒の存在下で、ハロジシラン、任意のハロシラン、及び有機溶媒の混合物にアルコールを添加することによりアルコールと組み合わせる。逆の添加、すなわちシラン(複数可)をアルコールに添加することも可能である。この反応において副産物として産生されるハロゲン化水素ガス(例えば、HCl)は、典型的に反応器から酸中和トラップに移される。
【0079】
アルコールをハロジシラン及び任意のハロシランに添加する速度は、典型的に、効率の良い攪拌手段を備えた1000mL容の反応器で5mL/分〜50mL/分である。添加速度が遅過ぎる場合、反応時間を不必要に延ばすことになる。添加速度が速過ぎる場合、ハロゲン化水素ガスの激しい発生により危険になり得る。
【0080】
ハロジシラン及び任意のハロシランとアルコールとの反応は、典型的に室温(約23℃±2℃)で実行される。しかしながら、より低い温度、又はより高い温度でも反応を実行することができる。例えば、反応は10℃〜60℃の温度で実行することができる。
【0081】
反応時間は、ハロジシラン及び任意のハロシランの構造、並びに温度を含む幾つかの因子に依存する。反応は典型的に、ハロジシラン及び任意のハロシランのアルコリシスを完了するのに十分な時間、実行される。本明細書中で使用される場合、「アルコリシスを完了する」という用語は、ハロジシラン及び併用される任意のハロシラン中に元より存在するケイ素結合ハロゲン原子の少なくとも85mol%が、−OR4基に置換されることを意味する。例えば、反応時間は10℃〜60℃の温度で、典型的に5分〜180分、あるいは10分〜60分、あるいは15分〜25分である。最適反応時間は、以下の実施例の節で説明される方法を使用した通常の実験により求めることができる。
【0082】
反応混合物中のハロジシランの濃度は、反応混合物の総重量に基づき、典型的に5%(w/w)〜95%(w/w)、あるいは20%(w/w)〜70%(w/w)、あるいは40%(w/w)〜60%(w/w)である。
【0083】
ハロジシランに対するハロシランのモル比は、典型的に0〜99、あるいは0.5〜80、あるいは0.5〜60、あるいは0.5〜40、あるいは0.5〜20、あるいは0.5〜2である。
【0084】
ハロジシラン及び併用されるハロシラン中のケイ素結合ハロゲン原子に対するアルコールのモル比は、典型的に0.5〜10、あるいは1〜5、あるいは1〜2である。
【0085】
有機溶媒の濃度は、反応混合物の総重量に基づき、典型的に0%(w/w)〜95%(w/w)、あるいは5%(w/w)〜88%(w/w)、あるいは30%(w/w)〜82%(w/w)である。
【0086】
この方法の工程(ii)では、アルコリシス生成物を0℃〜40℃の温度で水と反応させて、加水分解物を産生する。
【0087】
アルコリシス生成物は典型的に、アルコリシス生成物を水に添加することによって水と混合する。逆添加、すなわち、アルコリシス生成物への水の添加も可能である。しかしながら、逆添加によってゲルが多分に形成されるおそれがある。
【0088】
水へのアルコリシス生成物の添加速度は典型的に、効率の良い攪拌手段を備えた1000mL容の反応器で2mL/分〜100mL/分である。添加速度が遅過ぎると、反応時間を不必要に延ばすことになる。添加速度が速過ぎると、反応混合物がゲルを形成することがある。
【0089】
工程(ii)の反応は、典型的に0℃〜40℃、あるいは0℃〜20℃、あるいは0℃〜5℃の温度で実行される。温度が0℃未満である場合、反応速度は概して、非常に遅くなる。温度が40℃を超える場合、反応混合物がゲルを形成するおそれがある。
【0090】
反応時間は、アルコリシス生成物の構造及び温度を含む幾つかの因子に依存する。反応は典型的に、アルコリシス生成物の加水分解を完了するのに十分な時間、実行される。本明細書中で使用される場合、「加水分解を完了する」という用語は、アルコリシス生成物中に元より存在するケイ素結合−OR4基の少なくとも85mol%が、ヒドロキシ基に置換されることを意味する。例えば、反応時間は0℃〜40℃の温度で、典型的に0.5分〜5時間、あるいは1分〜3時間、あるいは5分〜1時間である。最適反応時間は、以下の実施例の節で説明される方法を使用した通常の実験により求めることができる。
【0091】
反応混合物中の水の濃度は、典型的にアルコリシス生成物の加水分解を達成するのに十分である。例えば水の濃度は、アルコリシス生成物中のケイ素結合−OR4基1モル当たり、典型的に1モル〜50モル、あるいは5モル〜20モル、あるいは8モル〜15モルである。
【0092】
シリコーン樹脂を調製するこの方法の工程(iii)では、加水分解物を加熱してシリコーン樹脂を産生する。加水分解物は、典型的に40℃〜100℃、あるいは50℃〜85℃、あるいは55℃〜70℃の温度で加熱される。加水分解物は典型的に、200〜500000の数平均分子量を有するシリコーン樹脂を産生するのに十分な時間、加熱される。例えば、加水分解物は典型的に、55℃〜70℃の温度で1時間〜2時間、加熱される。
【0093】
この方法は、シリコーン樹脂を回収することをさらに含むことができる。工程(iii)の混合物が水に非混和性の有機溶媒(テトラヒドロフラン等)を含有する場合、シリコーン樹脂を含有する有機相を水相と分離することにより、この樹脂を反応混合物から回収することができる。分離は、混合物のかき混ぜを中断し、混合物を2層に分離し、水相又は有機相を除去することにより実行することができる。有機相は典型的に水で洗浄される。水は、洗浄中に水と有機相との間のエマルションの形成を最小限にするために、塩化ナトリウム等の中性無機塩をさらに含んでいてもよい。水中の中性無機塩の濃度は飽和状態まで可能である。有機相は、有機相を水と混合し、混合物を2層に分離し、水相を除去することにより洗浄することができる。有機相は典型的に、別々の水を用いて1回〜5回洗浄される。水の容量は典型的に、1回の洗浄につき、有機相の容量の0.5倍〜2倍である。混合は従来の方法、例えば攪拌又は振盪により実行することができる。シリコーン樹脂は、さらに単離若しくは精製することなく使用することも、又は従来の蒸発法により溶媒の大部分から分離することもできる。
【0094】
工程(iii)の混合物が水に混和性の有機溶媒(例えば、メタノール)を含有する場合、シリコーン樹脂を水相から分離することにより、この樹脂を反応混合物から回収することができる。例えば、分離は、混合物を大気圧又は低大気圧で蒸留することにより実行することができる。蒸留は0.5kPaの圧力下で、典型的に40℃〜60℃、あるいは60℃〜80℃の温度で実行される。
【0095】
あるいは、シリコーン樹脂は、この樹脂を含有する混合物を水に非混和性の有機溶媒(メチルイソブチルケトン等)で抽出することにより、水溶液から分離することができる。シリコーン樹脂は、さらに単離又は精製することなく使用することも、又は従来の蒸発法により溶媒の大部分から分離することもできる。
【0096】
第2の実施形態によれば、シリコーン樹脂が、式O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2(I)を有するジシリロキサン単位と、粒子の形状を有するシロキサン単位とを含む(式中、各R1は独立して、−H、ヒドロカルビル又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1又は2であり、且つbは0、1、2又は3である)。R1によって表されるヒドロカルビル基及び置換ヒドロカルビル基は、上記に説明及び例示されている。
【0097】
第2の実施形態のシリコーン樹脂は、式(I)を有するジシリロキサン単位と、粒子の形状を有するシロキサン単位との両方を含む。シリコーン樹脂は典型的に、少なくとも1mol%の、式(I)を有するジシリロキサン単位を含む。例えば、シリコーン樹脂は、典型的に1mol%〜99mol%、あるいは10mol%〜70mol%、あるいは20mol%〜50mol%の、式(I)を有するジシリロキサン単位を含む。
【0098】
式(I)を有するジシリロキサン単位に加えて、第2の実施形態のシリコーン樹脂は典型的に、99mol%までの、粒子の形状を有するシロキサン単位を含む。例えば、シリコーン樹脂は、典型的に0.0001mol%〜99mol%、あるいは1mol%〜80mol%、あるいは10mol%〜50mol%の、粒子の形状を有するシロキサン単位を含有する。シリコーン樹脂を調製する方法において以下で粒子の組成及び特性を説明する。
【0099】
式(I)を有する単位及び粒子の形状を有するシロキサン単位に加えて、第2の実施形態のシリコーン樹脂は、98.9mol%まで、あるいは90mol%まで、あるいは60mol%までの他のシロキサン単位(すなわち、粒子の形状を有しないシロキサン単位)を含有し得る。他のシロキサン単位の例としては、R13SiO1/2、R12SiO2/2、R1SiO3/2及びSiO4/2(式中、R1は上記に記載及び例示した通りである)から選択される式を有する単位が挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
第2の実施形態によるシリコーン樹脂の例としては、下記式:(O2/2MeSiSiO3/20.1(PhSiO3/20.9、(O2/2MeSiSiMeO2/20.2(Me2SiO2/20.1(PhSiO3/20.7、(O2/2MeSiSiO3/20.1(O2/2MeSiSiMeO2/20.15(Me2SiO2/20.1(MeSiO3/20.65、(O1/2Me2SiSiO3/20.25(SiO4/20.5(MePhSiO2/20.25、(O2/2EtSiSiEt21/20.1(O2/2MeSiSiO3/20.15(Me3SiO1/20.05(PhSiO3/20.5(SiO4/20.2、(O2/2MeSiSiO3/20.3(PhSiO3/20.7、(O2/2MeSiSiO3/20.4(MeSiO3/20.6、(O3/2SiSiMeO2/20.5(Me2SiO2/20.5、(O3/2SiSiMeO2/20.6(Me2SiO2/20.4、(O3/2SiSiMeO2/20.7(Me2SiO2/20.3、(O3/2SiSiMe21/20.75(PhSiO3/20.25、(O3/2SiSiMeO2/20.75(SiO4/20.25、(O2/2MeSiSiMe21/20.5(O2/2MeSiSiO3/20.3(PhSiO3/20.2、(O2/2EtSiSiMeO2/20.8(MeSiO3/20.05(SiO4/20.15、(O2/2MeSiSiO3/20.8(Me3SiO1/20.05(Me2SiO2/20.1(SiO4/20.5、(O2/2MeSiSiEtO2/20.25(O3/2SiSiMeO2/20.6(MeSiO3/20.1(SiO4/20.05、(O1/2Me2SiSiMeO2/20.75(O2/2MeSiSiMeO2/20.25、(O1/2Et2SiSiEtO2/20.5(O2/2EtSiSiEtO2/20.5、(O1/2Et2SiSiEtO2/20.2(O2/2MeSiSiMeO2/20.8及び(O1/2Me2SiSiMeO2/20.6(O2/2EtSiSiEtO2/20.4(式中、Meはメチルであり、Etはエチルであり、Phはフェニルであり、樹脂は粒子の形状でシロキサン単位を含有し、丸括弧の外側の下付き数字はモル分率を示す)を有する樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。また、上述の式では、単位の順序は明示されていない。
【0101】
第2の実施形態のシリコーン樹脂は、(i)式Z3-a1aSi−SiR1b3-bを有する少なくとも1つのハロジシラン、及び任意に式R1bSiZ4-bを有する少なくとも1つのハロシランを、有機溶媒の存在下で、式R4OHを有する少なくとも1つのアルコールと反応させ、アルコリシス生成物を産生すること(式中、各R1は独立して−H、ヒドロカルビル、又は置換ヒドロカルビルであり、R4はアルキル又はシクロアルキルであり、Zはハロであり、a=0、1、又は2であり、b=0、1、2、又は3である)、(ii)シロキサン粒子の存在下でアルコリシス生成物を0℃〜40℃の温度で水と反応させ、加水分解物を産生すること、並びに(iii)加水分解物を加熱して、樹脂を産生することによって調製することができる。
【0102】
第2の実施形態のシリコーン樹脂を調製する方法の工程(i)は、第1の実施形態のシリコーン樹脂を調製する方法の工程(i)について上記に記載した通りである。
【0103】
第2の実施形態のシリコーン樹脂を調製する方法の工程(ii)では、アルコリシス生成物を、シロキサン粒子の存在下で0℃〜40℃の温度において水と反応させ、加水分解物を生成する。
【0104】
本方法のシロキサン粒子は、シロキサン単位を含むいずれの粒子であってもよい。シロキサン単位は下記式:
12SiO1/2単位(M単位)、R12SiO2/2単位(D単位)、R1SiO3/2単位(T単位)及びSiO4/2単位(Q単位)(式中、R1は上記に記載及び例示した通りである)
で表され得る。
【0105】
シロキサン粒子は、典型的に0.001μm〜500μm、あるいは0.01μm〜100μmのメジアン粒径(質量に基づく)を有する。
【0106】
シロキサン粒子の形状は重要ではないが、球形を有する粒子は、一般にシリコーン組成物の粘度を他の形状を有する粒子よりも増大させないため、好ましい。
【0107】
シロキサン粒子の例としては、コロイドシリカ、分散発熱(ヒュームド)シリカ、沈降シリカ、及びコアセルベート化シリカ等のSiO4/2単位を含むシリカ粒子;MeSiO3/2単位を含む粒子、MeSiO3/2単位とPhSiO3/2単位とを含む粒子、及びMeSiO3/2単位とMe2SiO2/2単位とを含む粒子等のR1SiO3/2単位を含むシリコーン樹脂粒子;並びに、ポリ(ジメチルシロキサン/メチルビニルシロキサン)とポリ(ハイドロジェンメチルシロキサン/ジメチルシロキサン)との架橋産物を含む粒子等のR12SiO2/2単位を含むシリコーンエラストマー粒子(式中、R1は上記に記載及び例示した通りである)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
シロキサン粒子はまた、式(M+aa/2x(SiO4/2y(式中、Mは、電荷+aを有する金属カチオンであり、ここで、aは1〜7の整数であり、xは0より大きく0.01までの値を有し、yは0.99〜1未満の値であり、且つ総計x+y=1である)を有する多ケイ酸金属であってもよい。金属の例としては、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム及びカルシウム等のアルカリ土類金属;鉄、亜鉛、クロム及びジルコニウム等の遷移金属;並びにアルミニウムが挙げられるが、これらに限定されない。多ケイ酸金属の例としては、式(Na2O)0.01(SiO20.99を有する多ケイ酸塩が挙げられる。
【0109】
シロキサン粒子はまた、上記粒子の表面を有機ケイ素化合物で処理することによって調製される被処理シロキサン粒子であってもよい。有機ケイ素化合物は、シリカフィラーを処理するのに一般的に用いられる有機ケイ素化合物のいずれかであり得る。有機ケイ素化合物の例としては、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン及びトリメチルモノクロロシラン等のオルガノクロロシラン;ヒドロキシエンドブロックジメチルシロキサンオリゴマー、ヘキサメチルジシロキサン及びテトラメチルジビニルジシロキサン等のオルガノシロキサン;ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等のオルガノシラザン;並びに、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
本方法のシロキサン粒子は、シロキサン粒子の一種、又は組成、表面積、表面処理、粒径及び粒子の形の特性のうち少なくとも1つが異なる2つ以上の異なる種類のシロキサン粒子を含んでいてもよい。
【0111】
シリコーン樹脂粒子及びシリコーンエラストマー粒子を調製する方法は当該技術分野において既知である。例えば、シリコーン樹脂粒子は、米国特許第5,801,262号明細書及び同第6,376,078号明細書に例示されているように、水系アルカリ性媒体中におけるアルコキシシラン(複数可)の加水分解−縮合反応によって調製することができる。シリコーンエラストマー粒子は、特開昭59−096122号公報に記載されているように、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を噴霧乾燥及び硬化すること;米国特許第4,761,454号明細書に開示されているように、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の水性エマルションを噴霧乾燥すること;米国特許第5,371,139号明細書に開示されているように、液体シリコーンゴムのミクロ懸濁液のエマルションを硬化させること;又は架橋シリコーンゴムエラストマーを微粉砕することによって、調製することができる。
【0112】
アルコリシス生成物は典型的に、アルコリシス生成物を、水とシロキサン粒子との混合物に添加することによって水と混合する。逆添加、すなわち、アルコリシス生成物への水の添加も可能である。しかしながら、逆添加によってゲルが多分に形成されるおそれがある。
【0113】
水とシロキサン粒子との混合物へのアルコリシス生成物の添加速度は典型的に、効率の良い攪拌手段を備えた1000mL容の反応器に対して2mL/分〜100mL/分である。添加速度が遅過ぎると、反応時間を不必要に延ばすことになる。添加速度が速過ぎると、反応混合物がゲルを形成することがある。
【0114】
反応温度、反応時間及び反応混合物中の水の濃度は、第1の実施形態のシリコーン樹脂を調製する方法の工程(ii)について上記に記載した通りである。
【0115】
反応混合物中のシロキサン粒子の濃度は、反応混合物の総重量に基づき、典型的に0.0001%(w/w)〜99%(w/w)、あるいは1%(w/w)〜80%(w/w)、あるいは10%(w/w)〜50%(w/w)である。
【0116】
第2の実施形態のシリコーン樹脂を調製する方法の工程(iii)は、第1の実施形態のシリコーン樹脂を調製する方法の工程(iii)について上記に記載した通りである。さらに、第2の実施形態のシリコーン樹脂は、第1の実施形態のシリコーン樹脂について上記した反応混合物から回収することができる。
【0117】
硬化性シリコーン組成物の成分(A)は、上記にそれぞれ記載されているような、単一のシリコーン樹脂、又は2種類以上の異なるシリコーン樹脂を含む混合物を含み得る。
【0118】
成分(A)の濃度は、硬化性シリコーン組成物の総重量に基づき、典型的に0.01%(w/w)〜99.99%(w/w)、あるいは20%(w/w)〜99%(w/w)、あるいは30%(w/w)〜95%(w/w)、あるいは50%(w/w)〜80%(w/w)である。
【0119】
シリコーン組成物の成分(B)は少なくとも1つの有機溶媒である。有機溶媒は、シリコーン樹脂又は任意の成分(例えば、架橋剤)と反応せず且つシリコーン樹脂と混和性である、任意のプロトン性、非プロトン性又は双極非プロトン性の有機溶媒であり得る。
【0120】
有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、及びシクロヘキサノール等のアルコール;n−ペンタン、ヘキサン、n−へプタン、イソオクタン、及びドデカン等の脂肪族飽和炭化水素;シクロペンタン及びシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、及びメシチレン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)及びジオキサン等の環状エーテル;メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン;トリクロロエタン等のハロゲン化アルカン;並びにブロモベンゼン及びクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素が挙げられるが、これらに限定されない。成分(B)は、上記にそれぞれ規定されているような、単一の有機溶媒、又は2種類以上の異なる有機溶媒の混合物であり得る。
【0121】
成分(B)の濃度は、硬化性シリコーン組成物の総重量に基づき、典型的に0.01重量%〜99.9重量%、あるいは40重量%〜95重量%、あるいは60重量%〜90重量%である。
【0122】
硬化性シリコーン組成物は、さらなる成分を含んでいてもよいが、但し、該成分は、以下に記載するように、シリコーン樹脂が硬化シリコーン樹脂を形成することを妨げないものとする。さらなる成分の例としては、定着剤;染料;顔料;酸化防止剤;熱安定化剤;UV安定化剤、難燃剤、流動調整剤、架橋剤及び縮合触媒が挙げられるが、これらに限定されない。
【0123】
硬化性シリコーン組成物は、架橋剤及び/又は縮合触媒をさらに含み得る。架橋剤は式R3qSiX4-q(式中、R3はC1〜C8ヒドロカルビルであり、Xは加水分解性基であり、且つqは0又は1である)を有し得る。R3で表されるヒドロカルビル基は上記に記載及び例示した通りである。
【0124】
本明細書中で使用される場合、「加水分解性基」という用語は、触媒の非存在下、室温(約23℃±2℃)〜100℃の任意の温度で数分間、例えば30分間水と反応して、シラノール(Si−OH)基を生成するケイ素結合基を意味する。Xで表される加水分解性基の例としては、−Cl、−Br、−OR3、−OCH2CH2OR4、CH3C(=O)O−、Et(Me)C=N−O−、CH3C(=O)N(CH3)−及び−ONH2(式中、R3及びR4は上記に記載及び例示した通りである)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
架橋剤の例としては、MeSi(OCH33、CH3Si(OCH2CH33、CH3Si(OCH2CH2CH33、CH3Si[O(CH23CH33、CH3CH2Si(OCH2CH33、C65Si(OCH33、C65CH2Si(OCH33、C65Si(OCH2CH33、CH2=CHSi(OCH33、CH2=CHCH2Si(OCH33、CF3CH2CH2Si(OCH33、CH3Si(OCH2CH2OCH33、CF3CH2CH2Si(OCH2CH2OCH33、CH2=CHSi(OCH2CH2OCH33、CH2=CHCH2Si(OCH2CH2OCH33、C65Si(OCH2CH2OCH33、Si(OCH34、Si(OC254、及びSi(OC374等のアルコキシシラン;CH3Si(OCOCH33、CH3CH2Si(OCOCH33及びCH2=CHSi(OCOCH33等のオルガノアセトキシシラン;CH3Si[O−N=C(CH3)CH2CH33、Si[O−N=C(CH3)CH2CH34及びCH2=CHSi[O−N=C(CH3)CH2CH33等のオルガノイミノオキシシラン;CH3Si[NHC(=O)CH33及びC65Si[NHC(=O)CH33等のオルガノアセトアミドシラン;CH3Si[NH(s−C49)]3及びCH3Si(NHC6113等のアミノシラン;並びに、オルガノアミノオキシシランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0126】
架橋剤は、上記にそれぞれ記載されているような、単一のシラン又は2種類以上の異なるシランの混合物であり得る。また、三官能性シラン及び四官能性シランを調製する方法は当該技術分野において既知であり、これらのシランの多くは市販されている。
【0127】
存在する場合、シリコーン組成物中の架橋剤の濃度は、シリコーン樹脂を硬化(架橋)させるのに十分なものである。架橋剤の正確な量は所望の硬化度に応じて決まり、一般的に、架橋剤中のケイ素結合加水分解性基のモル数と、シリコーン樹脂中のケイ素結合ヒドロキシ基のモル数との比が大きくなるほど増大する。典型的に、架橋剤の濃度は、シリコーン樹脂中のケイ素結合ヒドロキシ基1モル当たり、0.2モル〜4モルのケイ素結合加水分解性基を提供するのに十分なものである。架橋剤の最適な量は日常実験により容易に求めることができる。
【0128】
上述のように、シリコーン組成物は、少なくとも1つの縮合触媒をさらに含んでいてもよい。縮合触媒は、ケイ素結合ヒドロキシ(シラノール)基の縮合を促しSi−O−Si結合を形成するのに典型的に用いられる任意の縮合触媒であり得る。縮合触媒の例としては、アミン;及びカルボン酸との鉛、スズ、亜鉛及び鉄の錯体が挙げられるが、これらに限定されない。特に、縮合触媒は、スズジラウレート、スズジオクトエート及びテトラブチルスズ等のスズ(II)及びスズ(IV)化合物;並びに、チタンテトラブトキシド等のチタン化合物から選択することができる。
【0129】
縮合触媒の濃度は、シリコーン樹脂の総重量に基づき、典型的に0.1%(w/w)〜10%(w/w)、あるいは0.5%(w/w)〜5%(w/w)、あるいは1%(w/w)〜3%(w/w)である。
【0130】
上記のシリコーン組成物が縮合触媒を含有する場合、組成物は典型的に、シリコーン樹脂と縮合触媒とが別個の部分に存在する二成分系組成物である。
【0131】
熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物は、上記に記載及び例示したような炭素ナノ材料をさらに含み得る。存在する場合、炭素ナノ材料は、熱硬化性ポリマーの総重量に基づき、典型的に0.0001%(w/w)〜99%(w/w)、あるいは0.001%(w/w)〜50%(w/w)、あるいは0.01%(w/w)〜25%(w/w)、あるいは0.1%(w/w)〜10%(w/w)、あるいは1%(w/w)〜5%(w/w)の濃度を有する。
【0132】
スピンコーティング、浸漬、噴霧、刷毛塗り、押出又はスクリーン印刷等の従来の塗布技法を用いて、剥離ライナーに熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物を塗布することができる。組成物の量は、以下に記載の方法の工程(ii)においてポリマーを硬化させた後に、0.01μm〜1000μmの厚みを有する第1の高分子層が形成されるのに十分なものである。
【0133】
第1の高分子層を形成する直前の方法の工程(ii)では、塗布された剥離ライナーの熱硬化性ポリマーを硬化させる。剥離ライナーを塗布するのに用いられる硬化性組成物の種類に応じて、ポリマーを周囲温度、高温、水分又は放射線に曝すことを含む様々な方法を用いて、熱硬化性ポリマーを硬化させることができる。
【0134】
剥離ライナーを塗布するのに用いられる硬化性組成物が、(A)式(I)を有するジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂と、(B)有機溶媒とを含む硬化性シリコーン組成物である場合、塗布された剥離ライナーのシリコーン樹脂は、シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な温度で塗膜を加熱することにより硬化することができる。例えば、シリコーン樹脂は典型的に、50℃〜250℃の温度で1時間〜50時間の間、塗膜を加熱することにより硬化することができる。縮合硬化性シリコーン組成物が縮合触媒を含む場合、シリコーン樹脂は典型的に、より低温、例えば室温(約23℃±2℃)〜200℃で硬化し得る。
【0135】
シリコーン樹脂は、大気圧又は低大気圧で硬化することができる。例えば、塗膜が2つの剥離ライナーの間に封入されるものでない場合、シリコーン樹脂は典型的に、大気圧において空気中で硬化させることができる。あるいは、以下に記載するように塗膜が第1の剥離ライナーと第2の剥離ライナーとの間に封入される場合には、シリコーン樹脂は典型的に、減圧下で硬化される。例えば、シリコーン樹脂は、1000Pa〜20000Pa、あるいは1000Pa〜5000Paの圧力下で加熱され得る。シリコーン樹脂は、従来の減圧バギングプロセスを用いて減圧下で硬化させることができる。一般的なプロセスでは、ブリーダー(例えば、ポリエステル)を、塗布された剥離ライナー上に付し、ブリーザー(例えば、ナイロン、ポリエステル)をブリーダー上に付し、真空ノズルを備えた減圧バギングフィルム(例えば、ナイロン)をブリーザー上に付し、アセンブリをテープで封止し、封止したアセンブリを減圧し(例えば、1000Pa)、必要であれば、排気したアセンブリを上記のように加熱する。
【0136】
熱硬化性ポリマーを含む第1の高分子層を形成する方法は、工程(i)後且つ工程(ii)前に、第2の剥離ライナーを、第1の工程の塗布された剥離ライナーに付してアセンブリを形成すること、及びアセンブリを加圧することをさらに含み得る。アセンブリを加圧することにより、過剰な組成物及び/又は空気泡(エントラップトエア)を除去し、且つ塗膜の厚みを低減することができる。アセンブリは、ステンレス鋼ローラ、油圧プレス、ゴムローラ又はラミネートロールセット等の従来装置を用いて加圧することができる。アセンブリは典型的に、1000Pa〜10MPaの圧力及び室温(約23℃±2℃)〜50℃の温度で加圧される。
【0137】
熱硬化性ポリマーを含む第1の高分子層を形成する方法は、工程(i)及び工程(ii)を繰り返して高分子層の厚みを増大させることをさらに含み得るが、但し、各塗布工程では同様の硬化性組成物を使用するものとする。
【0138】
第1の高分子層が熱可塑性ポリマーと繊維強化材とを含む場合、高分子層は、(a)繊維強化材を、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物中に含浸させること、及び(b)含浸繊維強化材の熱可塑性ポリマーを固体状態に変換させることによって形成することができる。
【0139】
第1の高分子層を形成する直前の方法の工程(a)では、繊維強化材を、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物中に含浸させる。
【0140】
繊維強化材は、様々な方法を用いて、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物中に含浸され得る。例えば、第1の方法によれば、繊維強化材は、(i)液体状態で熱可塑性ポリマーを含む組成物を剥離ライナーへ塗布することによりフィルムを形成すること、(ii)フィルム中に繊維強化材を埋め込むこと、及び(iii)組成物を埋め込まれた繊維強化材へ塗布することにより、繊維強化材を含浸させることができる。
【0141】
繊維強化材を含浸させる直前の方法の工程(i)では、液体状態で熱可塑性ポリマーを含む組成物を剥離ライナーに塗布してフィルムを形成する。剥離ライナー及び組成物は、上記に記載及び例示したものと同様である。スピンコーティング、浸漬、噴霧、刷毛塗り、押出又はスクリーン印刷等の従来の塗布技法を用いて、剥離ライナーに組成物を塗布することができる。組成物は、以下の工程(ii)において繊維強化材を埋め込むのに十分な量で塗布される。
【0142】
工程(ii)では、繊維強化材がフィルム中に埋め込まれる。繊維強化材は上記に記載及び例示した通りである。繊維強化材は、単に強化材をフィルム上に配置させること、及びフィルムの組成物を強化材に染み込ませることにより、フィルム中に埋め込ませることができる。
【0143】
工程(iii)では、液体状態で熱可塑性ポリマーを含む組成物を埋め込まれた繊維強化材に塗布し、含浸繊維強化材を形成する。組成物は、工程(i)について上記したような従来方法を用いて埋め込まれた繊維強化材に塗布することができる。
【0144】
繊維強化材を含浸させる第1の方法は、(iv)第2の剥離ライナーを含浸繊維強化材に付してアセンブリを形成する工程と、(v)アセンブリを加圧する工程とをさらに含み得る。また、第1の方法は、工程(ii)後且つ工程(iii)前に埋め込まれた繊維強化材をガス抜きすること、並びに/又は、工程(iii)後且つ工程(iv)前に含浸繊維強化材をガス抜きすることをさらに含んでいてもよい。
【0145】
アセンブリを加圧することにより、過剰な組成物及び/又は空気泡(エントラップトエア)を除去し、且つ含浸繊維強化材の厚みを低減することができる。アセンブリは、ステンレス鋼ローラ、油圧プレス、ゴムローラ又はラミネートロールセット等の従来装置を用いて加圧することができる。アセンブリは典型的に、1000Pa〜10MPaの圧力及び室温〜200℃の温度で加圧される。
【0146】
埋め込まれた繊維強化材又は含浸繊維強化材は、熱可塑性ポリマーの流体状態を維持するのに十分な温度で、埋め込まれた繊維強化材又は含浸繊維強化材を真空にすることによりガス抜きすることができる。
【0147】
あるいは、第2の方法によれば、繊維強化材は、(i)繊維強化材を剥離ライナー上へ堆積させること、(ii)流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物中に繊維強化材を埋め込まれること、及び(iii)組成物を埋め込まれた繊維強化材へ塗布することにより含浸繊維強化材を形成することによって、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物中に含浸させることができる。第2の方法は、(iv)第2の剥離ライナーを含浸繊維強化材に付すことにより、アセンブリを形成する工程と、(v)アセンブリを加圧する工程とをさらに含んでもよい。第2の方法において、工程(iii)〜工程(v)は、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物中に繊維強化材を含浸させる第1の方法について上記したものと同様である。また、第2の方法は、工程(ii)後且つ工程(iii)前に埋め込まれた繊維強化材をガス抜きすること、及び/又は、工程(iii)後且つ工程(iv)前に含浸繊維強化材をガス抜きすることをさらに含んでもよい。
【0148】
繊維強化材を含浸させる直前の方法の工程(ii)において、繊維強化材は、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物中に埋め込まれる。繊維強化材は、単に強化材を組成物で覆うこと、及び組成物を強化材に染み込ませることにより、組成物中に埋め込ませることができる。
【0149】
さらに、繊維強化材が織布又は不織布である場合には、組成物中に強化材を通すことにより、流体状態の熱可塑性ポリマーを含む組成物中に強化材を含浸させることができる。布は通常、1cm/分〜1000cm/分の速度で組成物に通される。
【0150】
第1の高分子層を形成する先行の方法の工程(b)では、含浸繊維強化材の熱可塑性ポリマーを固体状態に変換する。剥離ライナーを塗布するのに用いられる組成物が溶融状態の熱可塑性ポリマーを含む場合には、ポリマーを、液相−固相転移温度(Tg又はTm)未満の温度、例えば室温に冷却することにより、熱可塑性ポリマーを固体状態に変換することができる。剥離ライナーを塗布するのに用いられる組成物が熱可塑性ポリマーと有機溶媒とを含む場合には、溶媒の少なくとも一部を除去することにより、熱可塑性ポリマーを固体状態に変換することができる。有機溶媒は、溶媒を周囲温度で蒸発させることによって、又は例えばポリマーの固相−液相転移温度未満の適切な温度に塗膜を加熱することによって除去することができる。
【0151】
流体状態の熱可塑性樹脂を含む組成物と繊維強化材とを含有する第1の高分子層を形成する方法は、工程(a)及び工程(b)を繰り返して高分子層の厚みを増大させることをさらに含み得るが、但し、各含浸では同様の組成物を使用するものとする。
【0152】
第1の高分子層が熱硬化性ポリマーと繊維強化材とを含む場合、高分子層は、(a’)繊維強化材を、熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物中に含浸させること、及び(b’)含浸繊維強化材の熱硬化性ポリマーを硬化させることによって形成することができる。
【0153】
第1の高分子層を形成する直前の方法の工程(a’)では、繊維強化材を、熱硬化性ポリマーを含む硬化性組成物中に含浸させる。繊維強化材及び組成物は上記に記載及び例示したものと同様である。熱可塑性ポリマーを含む組成物中に繊維強化材を含浸させることについて上記した方法を用いて、繊維強化材を硬化性組成物中に含浸させることができる。
【0154】
第1の高分子層を形成する直前の方法の工程(b’)では、含浸繊維強化材の熱硬化性ポリマーを硬化させる。繊維強化材を含浸させるのに用いられる硬化性組成物の種類に応じて、含浸繊維強化材を周囲温度若しくは高温、水分又は放射線に曝すことを含む様々な方法を用いて、熱硬化性ポリマーを硬化させることができる。
【0155】
繊維強化材を含浸させるのに用いられる硬化性組成物が、(A)式(I)を有するジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂と、(B)有機溶媒とを含む硬化性シリコーン組成物である場合、シリコーン樹脂は、シリコーン樹脂を硬化させるのに十分な温度で含浸繊維強化材を加熱することにより硬化することができる。例えば、シリコーン樹脂は、50℃〜250℃の温度で1時間〜50時間の間含浸繊維強化材を加熱することによって硬化することができる。縮合硬化性シリコーン組成物が縮合触媒を含む場合、シリコーン樹脂は典型的に、より低温、例えば、室温(約23℃±2℃)〜200℃で硬化され得る。
【0156】
含浸繊維強化材のシリコーン樹脂は、繊維強化材を縮合硬化性シリコーン組成中に含浸させるのに使用される上記の方法に応じて、大気圧又は低大気圧で硬化され得る。例えば、塗膜が2つの剥離ライナー間に封入されるものでない場合、シリコーン樹脂は典型的に、大気圧において空気中で硬化する。あるいは、塗膜が第1の剥離ライナーと第2の剥離ライナーとの間に封入される場合には、シリコーン樹脂は典型的に、減圧下で硬化される。例えば、シリコーン樹脂は、1000Pa〜20000Pa、あるいは1000Pa〜5000Paの圧力下で加熱され得る。シリコーン樹脂は、従来の減圧バギングプロセスを用いて減圧下で硬化させることができる。一般的なプロセスでは、ブリーダー(例えば、ポリエステル)を、塗布された剥離ライナー上に付し、ブリーザー(例えば、ナイロン、ポリエステル)をブリーダー上に付し、真空ノズルを備えた減圧バギングフィルム(例えば、ナイロン)をブリーザー上に付し、アセンブリをテープで封止し、封止したアセンブリを減圧し(例えば、1000Pa)、必要であれば、排気したアセンブリを上記のように加熱する。
【0157】
熱硬化性ポリマーと繊維強化材とを含む第1の高分子層を調製する方法は、工程(a’)及び工程(b’)を繰り返して高分子層の厚みを増大させることをさらに含み得るが、但し、各含浸では同様の硬化性組成物を使用するものとする。
【0158】
強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法の第2の工程では、少なくとも1つのさらなる高分子層が第1の高分子層上に形成される。各さらなる高分子層は、各さらなる高分子層が剥離ライナーでなく既存の高分子層上に直接形成される以外は、第1の高分子層を形成する方法において上記したように形成することができる。
【0159】
第1の高分子層が剥離ライナー上に形成される場合、強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法は、第1の高分子層を剥離ライナーから分離することをさらに含む。第1の高分子層は、少なくとも1つのさらなる高分子層を形成する前又は後のいずれでも剥離ライナーから分離することができる。また、第1の高分子層は、層を剥離ライナーから機械的に剥離することによって剥離ライナーから分離することができる。第1の高分子層が2つの剥離ライナーの間に形成される場合、強化シリコーン樹脂フィルムを調製する方法は、少なくとも1つのさらなる高分子層が第1の高分子層上に形成される前に、第1の高分子層を剥離ライナーの少なくとも1つから分離させることをさらに含む。
【0160】
本発明の強化シリコーン樹脂フィルムは通常、1%(w/w)〜99%(w/w)、あるいは10%(w/w)〜95%(w/w)、あるいは30%(w/w)〜95%(w/w)、あるいは50%(w/w)〜95%(w/w)の硬化シリコーン樹脂を含む。また、強化シリコーン樹脂フィルムは通常、1μm〜3000μm、あるいは15μm〜500μm、あるいは15μm〜300μm、あるいは20μm〜150μm、あるいは30μm〜125μmの厚さを有する。
【0161】
強化シリコーン樹脂フィルムは通常、フィルムを、亀裂せずに3.2mm未満又はそれに等しい直径を有する円筒形スチールマンドレルに対して曲げることができるような可撓性を有し、ここで可撓性は、ASTM規格D522−93a(方法B)に記載されるように決定される。
【0162】
強化シリコーン樹脂フィルムは、低い線熱膨張率(CTE)、高い引張強度、高い弾性率及び熱誘起クラックに対する高い耐性を有する。例えば、フィルムは通常、室温(約23℃±2℃)〜200℃の温度で0μm/m℃〜80μm/m℃、あるいは0μm/m℃〜20μm/m℃、あるいは2μm/m℃〜10μm/m℃のCTEを有する。また、フィルムは通常、25℃において、5MPa〜200MPa、あるいは20MPa〜200MPa、あるいは50MPa〜200MPaの引張強度を有する。さらに、強化シリコーン樹脂フィルムは通常、25℃において、0.5GPa〜10GPa、あるいは1GPa〜6GPa、あるいは3GPa〜5GPaのヤング率を有する。
【0163】
強化シリコーン樹脂フィルムの透明性は、硬化シリコーン樹脂の組成、フィルムの厚さ及び強化材の種類及び濃度のような多数の要因に依存する。強化シリコーン樹脂フィルムは通常、電磁スペクトルの可視領域において少なくとも5%、あるいは少なくとも10%、あるいは少なくとも15%、あるいは少なくとも20%の透明性(%透過率)を有する。
【0164】
本発明の強化シリコーン樹脂フィルムは、高い熱安定性、可撓性、機械強度及び透明性を有するフィルムを要する用途で有用である。例えば、シリコーン樹脂フィルムは、可撓性ディスプレイ、太陽電池、可撓性電子板、タッチスクリーン、耐火性壁紙及び耐衝撃性窓の不可欠な構成要素として使用することができる。フィルムはまた、透明電極又は不透明電極用の適切な基板である。
【実施例】
【0165】
以下の実施例は、本発明の強化シリコーン樹脂フィルム及び本発明の方法をより良好に説明するために提示されるが、添付の特許請求の範囲で記述される本発明を限定するものではない。別記しない限り、実施例で説明される部及びパーセントは全て、重量に基づく。以下の材料が実施例で用いられた。
【0166】
Pyrograf Products, Inc. (Cedarville, Ohio)により販売されているPyrograf(登録商標)−IIIグレードHHT−19炭素ナノファイバは、100nm〜200nmの直径及び30000nm〜100000nmの長さを有する被熱処理(最大3000℃)炭素ナノファイバである。
【0167】
ジシラン組成物Aは、メチルクロロシランを製造する直接法で産生される残渣を分留することにより得られるクロロジシラン流である。この組成物は、総重量に基づき、Me4Cl2Si2 1.63%、Me3Cl3Si2 33.7%、及びMe2Cl4Si2 63.75%を含有する。
【0168】
SDC Technologies, Inc. (Anaheim, CA)により販売されているSDC MP101 Crystal Coat Resinは、基本的にMeSiO3/2単位及びSiO4/2単位から成る31%(w/w)のシリコーン樹脂を含有する、メタノール、2−プロパノール、水及び酢酸(約1%〜2%)の混合物溶液である。
【0169】
ガラス布は、平織り及び37.5μmの厚みを有するスタイル106電気ガラス布を、575℃で6時間加熱することによって調製される被熱処理ガラス布である。未処理ガラス布はJPS Glass (Slater, SC)から入手した。
【0170】
実施例1
本実施例では、化学的に酸化させた炭素ナノファイバの調製を説明する。Pyrograf(登録商標)−III炭素ナノファイバ(2.0g)、12.5mLの濃硝酸、及び37.5mLの濃硫酸を、冷却器、温度計、テフロン(登録商標)加工磁気攪拌棒及び温度制御器を備える500mL容の三つ口フラスコ中で順次混合した。混合物を80℃に加熱してこの温度で3時間維持した。その後、フラスコを1ガロン(3.79リットル)のバケツに入れたドライアイス層上に置くことによって、混合物を冷却した。この混合物を、ナイロン膜(0.8μm)を含有するブフナー漏斗に注ぎ、炭素ナノファイバを減圧濾過により回収した。濾液のpHが洗浄水のpHと等しくなるまで、膜上に残るナノファイバを脱イオン水で数回洗浄した。最後の洗浄後、減圧しながらさらに15分間漏斗中で炭素ナノファイバを保持した。その後、フィルター膜上に担持されるナノファイバを炉内で100℃にて1時間放置した。炭素ナノファイバをフィルター膜から取り出し、乾燥した封止ガラスジャー内に貯蔵した。
【0171】
実施例2
ジシラン組成物A(15g)を、28.6gのPhSiCl3、120gのメチルイソブチルケトン及び19.48gの無水メタノールと混合した。反応により産生されたHClを、フラスコの開口部から逃がした。液体混合物を密閉ビンに入れ、氷水浴中で冷却した後、攪拌子及び温度計を備える三つ口丸底フラスコの上部に取り付けられた添加漏斗に移した。脱イオン水(120g)をフラスコに入れ、外部の氷水浴で2℃〜4℃に冷やした。添加漏斗中の混合物は、冷却した脱イオン水に10分間にわたって継続的に添加されたが、その間、混合物の温度は3℃〜5℃上昇した。添加の完了後、混合物を氷浴中で1時間攪拌した。次にフラスコを水浴で50℃〜75℃に加熱し、1時間その温度に維持した。混合物を室温まで冷やした後、NaCl(10g)の水溶液(200mL)で4回洗浄した。各洗浄の後、水相を廃棄した。有機相を単離し、遠心分離して、濾過した。有機相はシリコーン樹脂分を21.25%(w/w)有していた。
【0172】
実施例3
実施例1の酸化させた炭素ナノファイバ(0.011g)及び26gの実施例2のシリコーン樹脂製剤をガラスバイアル内で混合した。このバイアルを超音波浴に30分間入れた。次に、この混合物を2000rpmで30分間遠心分離にかけた。上澄みシリコーン組成物を用いて、以下に記載するように強化シリコーン樹脂フィルムを調製した。
【0173】
実施例4
約5cm/秒の速度で布を組成物中に通すことによって、ガラス布(38.1cm×8.9cm)に、実施例3のシリコーン組成物を含浸させた。次に、含浸させた布をドラフトチャンバー内に室温で2時間垂直に吊り下げ、その後、サイクル(50℃、2時間;2.5℃/分で50℃から150℃まで、150℃、0.5時間)に従って空気循環炉内で硬化した。炉のスイッチを切り、強化シリコーン樹脂フィルムを室温に冷却した。
【0174】
次に、MP101 Crystal Coat Resinを2−プロパノールで10.35%(w/w)樹脂に希釈することにより調製したシリコーン組成物をフィルムに含浸させた。含浸させた布をドラフトチャンバー内に室温で一晩垂直に吊り下げ、その後、サイクル(1℃/分で室温から75℃まで、75℃で1時間、1℃/分で75℃から100℃まで、100℃で1時間、1℃/分で100℃から125℃まで、125℃で1時間)に従って空気循環炉内で硬化した。三層強化シリコーン樹脂フィルムの機械特性を表1に示す。
【0175】
実施例5
ジシラン組成物A(50g)を、31gのMeSiCl3、300gのメチルイソブチルケトン及び80mlの無水メタノールと混合した。反応により産生されたHClを、フラスコの開口部から逃がした。液体混合物を密閉ビンに入れ、氷水浴中で冷却した後、攪拌子及び温度計を備える三つ口丸底フラスコの上部に取り付けられた添加漏斗に移した。脱イオン水(250g)をフラスコに入れ、外部の氷水浴で2℃〜4℃に冷やした。添加漏斗中の混合物は、冷却した脱イオン水に10分間にわたって継続的に添加されたが、その間、混合物の温度は3℃〜5℃上昇した。添加の完了後、混合物を氷浴中で1時間攪拌した。次にフラスコを水浴で50℃〜75℃に加熱し、1時間その温度に維持した。混合物を室温まで冷やした後、NaCl(10g)の水溶液(200mL)で4回洗浄した。各洗浄の後、水相を廃棄した。有機相を単離し、遠心分離して、濾過した。有機相はシリコーン樹脂分を13.70%(w/w)有していた。80℃、5mmHg(667Pa)の圧力下で濃縮し、シリコーン樹脂を27.40%(w/w)含有する溶液を産生した。
【0176】
実施例6
実施例1の酸化させた炭素ナノファイバ(0.011g)及び26gの実施例5のシリコーン樹脂製剤をガラスバイアル内で混合した。このバイアルを超音波浴に30分間入れた。次に、この混合物を2000rpmで30分間遠心分離にかけた。上澄みシリコーン組成物を用いて、以下に記載するように強化シリコーン樹脂フィルムを調製した。
【0177】
実施例7
実施例3のシリコーン組成物を実施例6のシリコーン組成物に置き換えた以外は、実施例4の方法に従って強化シリコーン樹脂フィルムを調製した。強化シリコーン樹脂フィルムの機械特性を表1に示す。
【0178】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの高分子層を含む強化シリコーン樹脂フィルムであって、該高分子層の少なくとも1つが、式O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2(I)(式中、各R1は独立して、−H、ヒドロカルビル又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1又は2であり、且つbは0、1、2又は3である)を有するジシリロキサン単位を含む少なくとも1つのシリコーン樹脂の硬化生成物を含み、且つ前記高分子層の少なくとも1つが炭素ナノ材料を含む、強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項2】
前記高分子層がそれぞれ0.01μm〜1000μmの厚みを有する、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項3】
1〜10の高分子層を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項4】
前記炭素ナノ材料が、炭素ナノ粒子、繊維状炭素ナノ材料及び層状炭素ナノ材料の少なくとも1つから選択される、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項5】
前記炭素ナノ材料が炭素ナノファイバを含む、請求項4に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項6】
前記炭素ナノ材料が酸化された炭素ナノ材料である、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項7】
前記高分子層中の前記炭素ナノ材料の濃度が、該高分子層の総重量に基づき、0.001%(w/w)〜50%(w/w)である、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項8】
前記高分子層の少なくとも1つが、炭素ナノ材料及び繊維強化材の少なくとも1つから選択される強化材を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項9】
前記繊維強化材がガラス繊維を含む、請求項8に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項10】
前記シリコーン樹脂が、前記式(I)を有する少なくとも5mol%のジシリロキサン単位を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項11】
前記シリコーン樹脂が、前記式(I)を有するジシリロキサン単位に加えて、他のシロキサン単位を含む、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項12】
前記シリコーン樹脂が、式[O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2v(R13SiO1/2w(R12SiO2/2x(R1SiO3/2y(SiO4/2z(II)(式中、各R1は独立して、−H、ヒドロカルビル又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1、又は2であり、bは0、1、2又は3であり、vは0.01〜1であり、wは0〜0.84であり、xは0〜0.99であり、yは0〜0.99であり、zは0〜0.95であり、且つv+w+x+y+z=1である)を有する、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項13】
前記シリコーン樹脂が、式O(3-a)/21aSi−SiR1b(3-b)/2(I)を有するジシリロキサン単位と、粒子の形状を有するシロキサン単位とを含む(式中、各R1は独立して、−H、ヒドロカルビル又は置換ヒドロカルビルであり、aは0、1又は2であり、且つbは0、1、2又は3である)、請求項1に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項14】
前記シリコーン樹脂が、10mol%〜70mol%の、前記式(I)を有するジシリロキサン単位を含む、請求項13に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項15】
前記シリコーン樹脂が、前記式(I)を有するジシリロキサン単位と、粒子の形状を有するシロキサン単位とに加えて、他のシロキサン単位を含む、請求項13に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項16】
前記シリコーン樹脂が、1mol%〜80mol%の、粒子の形状を有するシロキサン単位を含む、請求項13に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項17】
前記粒子が、0.001μm〜500μmのメジアン径を有する、請求項13に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。
【請求項18】
前記粒子が、シリカ粒子、シリコーン樹脂粒子、シリコーンエラストマー粒子及び多ケイ酸金属粒子から選択される、請求項13に記載の強化シリコーン樹脂フィルム。

【公表番号】特表2010−527297(P2010−527297A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506395(P2010−506395)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/060432
【国際公開番号】WO2008/137262
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】