説明

強化複合管

【課題】耐傷性があり、かつ被覆材を長手方向に圧縮して管を露出させることが可能な複合管を提供する。
【解決手段】管の周囲に樹脂発泡体からなる断熱材層を有し、さらに前記断熱材層の周囲に編組材1からなる強化層を有する複合管であって、前記編組材1の隙間4の最大面積が25mm以下である複合管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合管に関する。詳しくは、ビル用マルチエアコンの冷熱媒用配管のうち、主にビルの屋上で使用される複合管に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル全体の空調を行うシステムとしてビル用マルチエアコンがある。ビル用マルチエアコンは一台の室外機で複数の空調機を運転するので効率がよく、近年、中小型のビルを中心に普及が進んでいる。ビル用マルチエアコンは、ビルの屋上に設置された室外ユニットと、ビル内に設置された室内ユニットと、それらを接続する冷熱媒用配管とから構成されている。
このうち冷熱媒配管は、屋内で使用される部分と、ビルの屋上を中心とする屋外で使用される部分とに分けられる。屋内で使用される冷熱媒用配管としては、管の周囲に高断熱な軟質樹脂発泡体を被覆した複合管が用いられてきた。しかし、屋外配管に前記軟質樹脂発泡体を使用すると、たとえばカラスに突かれたときに耐傷性が不足するという問題があった。
そこで冷熱媒用配管の屋外に暴露される部分は、金属製の保護カバーで覆うか、またはテープで保護されるのが一般的であった(特許文献1参照)。しかし、前記保護カバーは、管を敷設してから後付けされることになるので、工期の遅延、コストの上昇を招くという問題があった。
このような保護カバーを不要にした発明として特許文献2に記載のものがある。特許文献2では、発泡体の周囲を硬い非発泡シースで被覆することで、保護カバーがなくても耐傷性や耐候性をもたせた複合管を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−310382号公報
【特許文献2】特開2006−308087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2の複合管はシースが硬質なため、施工時に長手方向に人力で圧縮することは困難であった。このため、従来の軟質樹脂発泡体では可能だったエルボ接続手法、すなわち、発泡体を長手方向に圧縮して銅管を露出させ、銅管同士をろう付けしてから圧縮していた発泡体を元に戻す、という方法がとれなかった。
本発明は上述の課題を解決するためのものである。すなわち本発明は、耐傷性があり、かつ被覆材を長手方向に圧縮して管本体を露出させることが可能な複合管を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
長手方向に圧縮するためには被覆材の発泡体は軟質でなければならない。これには、従来の軟質発泡体、例えば発泡倍率30倍以上の架橋ポリエチレン発泡体やゴム発泡体等を用いればよい。しかし、前述のように軟質発泡体だけでは耐傷性と耐候性に劣る。そこで本発明者らは、発泡体の周囲にフレキシブルかつ耐傷、耐候性に優れる素材として編組材を被覆すればよいと考えた。編組材とは金属やエンジニアリングプラスチックの繊維を平板やチューブ状に編み込んだフレキシブルかつ強靭な素材である。特に3本網代編みの編組材を用いれば、編組材の拡径、縮径が可能なため、1つの編素材で複数の断熱材径に対応できるという利点が付与される。
しかし、3本網代編みの編組材をそのまま使用することには問題があった。
3本網代編みの編組材は伸縮性を有し、長手方向に圧縮、あるいは伸長することで内径を変化させることができる。つまり、図1に示すように長手方向に最大限に圧縮(白矢印方向)したときに内径は最大となり、図2に示すように最大限に伸長(白矢印方向)したときに内径は最小となる。これら、最大限に圧縮あるいは伸長したときは編組の繊維間に隙間は見られない。しかし、最大圧縮と最大伸長の中間の状態では図3のように編組の繊維間に隙間4があき、その隙間をカラスに突かれると内部の断熱材が破損する可能性があった。
本発明者らは鋭意検討した結果、編組材を用い隙間の大きさがある一定値より小さくなるようにすればカラスは突かないか、突いてもすぐにあきらめるので樹脂発泡体が保護されることを見出した。つまり、隙間の大きさがある一定の大きさより小さくなるように編組材を織ればカラスに突かれることを抑制でき、かつ、その保護材の径を圧縮・伸長により変化させうることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
すなわち上記課題は以下の手段により解決された。
(1)管の周囲に樹脂発泡体からなる断熱材層を有し、さらに前記断熱材層の周囲に編組材からなる保護強化層を有する複合管であって、前記編組材の隙間の最大面積が25mm以下であることを特徴とする複合管。
(2)前記樹脂発泡体が被覆管上、長手方向に易圧縮性であることを特徴とする(1)記載の複合管。
(3)前記編組材の編み方が3本網代編みであることを特徴とする(1)または(2)記載の複合管。
(4)(1)、(2)または(3)に記載の複合管を屋外の配管に使用した、ビル用空調マルチエアコンシステム。
(5)周囲に樹脂発泡体からなる断熱材層を有する管材に対し、軟質発泡体の周囲に編組材を長手方向に圧縮することにより拡径してからかぶせ、次に編組材を長手方向に伸長することにより縮径して軟質発泡体に密着させて、前記編組材の隙間の最大面積を25mm以下とすることを特徴とする、保護強化複合管の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、屋外に配管したときにカラスに突かれることに対する耐傷性を有する複合管が提供できる。本発明の複合管は、施工後保護カバーで覆うなどの手間やコストが必要なく、かつ、軟質発泡材等からなる被覆材を手で圧縮することが可能で、エルボ接続手法が使用できる。本発明の保護強化複合管の製造方法によれば、網組材の径を圧縮・伸長により変化させることで、軟質発泡体等の被覆材に密着させて網組材を被覆し、複合管を保護・強化した複合管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例で用いたC1の編組材を長手方向に最大限に圧縮したときの隙間がない状態を示す正面図である。
【図2】実施例で用いたC1の編組材を長手方向に最大限に伸長したときの隙間がない状態を示す正面図である。
【図3】実施例で用いたC1の編組材を長手方向に中間程度に伸長し、隙間が最大となったときの状態を示す正面図である。
【図4】本発明の複合管の一実施態様を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の複合管は、管の周りに樹脂発泡体からなる断熱材層を有し、さらに網組材を被覆して強化したものであることを特徴とする。この複合管は特に、ビル用空調マルチエアコンシステムの屋外配管に使用するのに好適である。
図4は本発明の複合管の一実施態様を模式的に示す断面図である。管5の周囲に軟質発泡体6を被覆し、さらに軟質発泡体6の周囲に編組材1を被覆した複合管である。
(管)
本発明に用いられる管本体は、通常、ビル用空調マルチエアコンシステムの屋外配管に適用されるものであれば特に制限はなく、銅管、鋼管をはじめとする金属管の他、樹脂製の管、金属強化樹脂管などを用いることができる。管の厚みは特に制限はないが、通常0.8〜2.8mmである。管の太さも特に制限はないが、通常外径6.35〜53.98mmのものが使用される。
【0009】
(網組材)
編組材は1本以上の繊維からなる条を編むことで作製される。条は繊維が複数のときは繊維を横に並べることで形成される。条を構成する繊維の本数に制限はないが一般に1〜10本、好ましくは2〜8本、さらに好ましくは3〜5本である。繊維径は0.1〜1.0mmが好ましく、0.3〜0.5mmがさらに好ましい。
繊維の素材は特に限定されないが、耐傷性が十分に高いものでなければならない。例えば、ステンレス、鉄、アルミ、銅、チタンといった金属繊維や、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレンのような樹脂繊維、さらにカーボン繊維、ガラス繊維、セラミック繊維のような無機繊維が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
編み方は、筒状に編まれるものであって長手方向に圧縮できるものであればよいが、圧縮したときに拡径することから3本網代編みが特に好ましい。径を変化させることができるので、1種の網組材でいろいろな径の複合管に対応できるので伸縮性を有する保護材で被覆した表面保護強化複合管を提供することができる。
編組材の隙間の最大面積とは、編組材を長手方向に圧縮あるいは伸長した際に、条の間の隙間面積が最大になったときの隙間1つあたりの面積である。これを図面を参照して説明する。
図1〜3は後述する実施例でC1として使用する網組材の正面図である。図1では網組材1について、長手方向に最大限圧縮(短縮)したときの状態を示し、拡径されて条2どうしの間に隙間はほぼない。図2は網組材1を逆に長手方向に最大限伸長したときの状態を示し、縮径されてやはり条2どうしの間に隙間はほぼない。これに対し、図3の中間の状態で条2どうしの間の隙間4が最も大きい。このとき図3の隙間4の面積を最大面積とする。図中、3は条2を形成する繊維を表す。なお、隙間4の面積はばらつきがあるが、最大面積は次の手順で算出した。まず、交差する条2が互いに直角をなすように編組材の長手方向の伸度を調節し、この状態で隙間4のうち面積が最も大きいものを選定する。次に、その隙間の長片と短辺の長さをノギスで測定し、前記長辺と短辺の長さの積を採用する。
条と条の隙間が生じる場合は、それが大きすぎると発泡体がカラスに突かれるため、前記編組材の隙間4の最大面積は長手方向に、上記の圧縮も伸長もしない、中間状態で、25mm以下であるが、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下である。隙間の最大面積は、耐傷性の観点からは小さければ小さいほどよいともいえるが、圧縮、伸長することを考慮するとある程度の隙間は必要であり、5mm以上であるのが実際的である。
網組材は、長手方向に圧縮して拡径した状態で軟質発泡体を被覆した管に被せ、今度は長手方向に伸長して縮径することにより軟質発泡体に密着させることが好ましい。
【0010】
(発泡体)
管本体を被覆する発泡体を構成する樹脂は、発泡体を長手方向に圧縮できれば特に限定されないが、ポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ゴム、熱可塑性エラストマーなどが用いられる。これら樹脂は架橋しても非架橋でもよい。コストと性能のバランスを考えるとポリオレフィンが望ましい。本発明で長手方向に圧縮できる、易圧縮性とは大きくとも応力0.1MPa、好ましくは0.05MPaで、被覆発泡体を管から剥離させ、圧縮できることをいう。
樹脂発泡体の発泡方法は特に限定されないが架橋発泡、押出発泡、バッチ発泡等を使用することができる。発泡倍率の上げやすさ、発泡体の柔軟性、発泡体の歪回復性を考慮すると架橋発泡が望ましい。
【0011】
発泡剤は特に限定されないが化学発泡剤、無機ガス、炭化水素等を使用することができる。
化学発泡剤としては、アゾジカルボンアミド、4−4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N´-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、炭酸水素ナトリウム、ビステトラゾール・ジアンモニウム、ビステトラゾール・ピペラジン、5−フェニールテトラゾールなどが挙げられる。
無機ガスとしては二酸化炭素、窒素、ヘリウム、空気、水蒸気、フロン、代替フロンなどが挙げられる。
炭化水素系ガスとしては、エタン、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ヘプタン、イソヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンなどが挙げられる。
【0012】
架橋発泡の場合は、発生ガス量の多いアゾジカルボンアミドの使用が好ましく、押出発泡とバッチ発泡の場合は、樹脂へのガス溶解量が多く環境負荷の小さい二酸化炭素の使用が好ましい。
樹脂発泡体の発泡倍率は、発泡体を長手方向に圧縮できれば特に限定されないが、一般的に5〜50倍、好ましくは10〜40倍、さらに好ましくは15〜35倍である。
発泡前の樹脂に対して、結晶化核剤、結晶化促進剤、気泡化核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤などの各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合してもよい。
樹脂発泡体からなる断熱層の厚さは特に制限はないが、通常8〜20mmである。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1〜4および比較例1〜3]
表1に示す管(A)に樹脂断熱材としての発泡体(B)を厚さ10mmで被覆し、さらに網組材(C)を被覆して複合管を作製した。発泡体被覆管は、管の表面に短冊状の樹脂発泡体を丸めて、短冊の端部同士を融着する方法により被覆して作製した。なお、編組材を被覆する際には、まず編組材を長手方向に圧縮して編組材を拡径してからその中に発泡体被覆管を通し、次に編組材を長手方向に引っ張ることで樹脂発泡体と編組材を密着させた。
表中に示す記号の意味は以下の通りである。
・管(A)
A1:銅管(φ22.22mm外径、肉厚1mm)
・樹脂発泡体(B)
B1:架橋ポリエチレン発泡体(商品名:フォームエース、古河電気工業製)
B2:ゴム発泡体(商品名:アーマフレックス、ウチヤマコーポレーション製)
B3:ポリエチレンシース付き非架橋ポリプロピレン発泡体(商品名:ビルメイト、古河電気工業製)
・編組材(C)
C1:SUS製編組材、繊維径0.5mm、条構成繊維本数5本、編み方 3本網代編み、1隙間の最大面積、4mm
C2:SUS製編組材、繊維径0.5mm、条構成繊維本数3本、編み方 3本網代編み、1隙間の最大面積、25mm
C3:SUS製編組材、繊維径0.5mm、条構成繊維本数2本、編み方 3本網代編み、1隙間の最大面積、30mm
【0014】
作製した複合管について以下のとおり圧縮性と耐傷性を評価した。結果を表1に示した。
(圧縮性の評価)
複合管の網組材を取り外し、樹脂発泡体を長手方向に人力で圧縮して、圧縮性を評価した。
元の長さの半分に圧縮できれば圧縮性は○、そうでなければ×と判断した。
(耐傷性の評価)
複合管をカラスが入った檻の中に入れて1週間放置し、編組材の下の樹脂発泡体の耐傷性を評価した。樹脂発泡体に管まで達する穴や食いちぎられた跡があれば×、そうでなければ○と判断した。
【0015】
【表1】

【0016】
比較例1の複合管は、耐傷性はあったものの圧縮ができなかった。比較例2、3の複合管は耐傷性が不足した。
これに対し実施例1〜4の複合管は圧縮性、耐傷性ともに十分な複合管であった。
【符号の説明】
【0017】
1 編組材
2 条
3 繊維
4 隙間
5 管
6 軟質発泡体(樹脂発泡体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の周囲に樹脂発泡体からなる断熱材層を有し、さらに前記断熱材層の周囲に編組材からなる保護強化層を有する複合管であって、前記編組材の隙間の最大面積が25mm以下であることを特徴とする複合管。
【請求項2】
前記樹脂発泡体が被覆管上、長手方向に易圧縮性であることを特徴とする請求項1記載の複合管。
【請求項3】
前記編組材の編み方が3本網代編みであることを特徴とする請求項1または2記載の複合管。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載の複合管を屋外の配管に使用した、ビル用空調マルチエアコンシステム。
【請求項5】
周囲に樹脂発泡体からなる断熱材層を有する管材に対し、軟質発泡体の周囲に編組材を長手方向に圧縮することにより拡径してからかぶせ、次に編組材を長手方向に伸長することにより縮径して軟質発泡体に密着させて、前記編組材の隙間の最大面積を25mm以下とすることを特徴とする、保護強化複合管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−7421(P2013−7421A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139675(P2011−139675)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】