説明

弾性波デバイス、フィルタ、通信モジュール、および通信装置

【課題】アポタイズ重み付けを適用した弾性波デバイスにおいて、櫛形電極部と先端ギャップ部との音速差を小さくすることによって、弾性波デバイスのロスを低減する。
【解決手段】圧電性基板11と、圧電性基板11上に形成された櫛形電極1及び2と、櫛形電極1及び2を覆う誘電体膜12とを備え、櫛形電極1及び2の交差幅が異なる部分を有する弾性波デバイスであって、櫛形電極1及び2の入力側の電極の先端と出力側の電極の先端とが対向した先端ギャップ3の音速を、隣接する櫛形電極1及び2が無い領域の音速より遅くしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばテレビジョン受像機や携帯電話端末、PHS(Personal Handy-phone System)端末等に搭載されるフィルタ素子や発振子に用いることができる弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波を応用したデバイスの1つとして弾性表面波素子(SAWデバイス:Surface Acoustic Wave Device)が以前より良く知られている。このSAWデバイスは例えば45MHz〜2GHzの周波数帯における無線信号を処理する装置における各種回路、例えば送信バンドパスフィルタ、受信バンドパスフィルタ、局発フィルタ、アンテナ共用器、IFフィルタ、FM変調器等に用いられる。
【0003】
近年、携帯電話などの高性能化に伴い、例えばバンドパスフィルタに用いられるSAWデバイスに対して、帯域内での低ロス化、帯域外での高抑圧化、温度安定性の向上など、諸特性の改善やデバイスサイズの小型化が求められている。中でも、低ロス化は、近年問題となっている携帯機器の駆動時間の長時間化に直結する課題であり、携帯機器用部品に求められる永遠の課題となっている。
【0004】
図16は、従来の弾性波デバイスの構成を示す。従来の弾性波デバイスは、IDT電極101a及びダミー電極101bを備えた第1の櫛形電極101と、IDT電極102a及びダミー電極102bを備えた第2の櫛形電極102とから構成されている。第1の櫛形電極101と第2の櫛形電極102とは、先端ギャップ部103を挟んで互いに対向配置している。また、図中の交差幅Z1〜Z3に示す領域は、弾性波の伝搬方向においてIDT電極101aとIDT電極102aとが交差している領域である。IDT電極の交差幅は、弾性波の伝搬方向の各位置において異なっている。このようなIDT電極の交差幅を異ならせることによる重み付けを、一般的に「アポタイズ重み付け」と呼ぶ。このような構成とすることで、高次横モードによるスプリアス応答の抑圧、電気機械結合係数の調整などを実現することができる。
【0005】
図17は、弾性波デバイスの一例であるラブ波デバイスの要部平面図である。図18は、図17におけるY−Y部の断面図である。図18に示すように、ラブ波デバイスは、圧電基板201上にIDT電極101b及び102aが形成され、さらにIDT電極101b及び102aの上および先端ギャップ部103に、SiO2からなる誘電体層202が形成されている。
【特許文献1】特開平8−222981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
櫛形電極にアポタイズ重み付けを適用した弾性波デバイスは、弾性波の伝搬する領域において、櫛形電極の長手方向で見た場合に、櫛形電極が存在する部分と、櫛形電極が存在しない部分(先端ギャップ部103)とが存在する。その結果、図18におけるグラフに示すように、IDT電極101b及び102aを通過する際の弾性波の音速は低く、先端ギャップ部103を通過する際の弾性波の音速は高くなり、櫛形電極に沿った方向での音速に不連続性が生じる。よって、弾性波が不連続部を通過する際に散乱されたり、別の波へモード変換を起こしてしまうため、弾性波デバイスのロスが増大する。
【0007】
従来は、このロスを少しでも低減するために、先端ギャップ部103の幅Xをできるだけ小さく(第1の櫛形電極101と第2の櫛形電極102とをできるだけ近づける)していた。しかし、先端ギャップ103を狭くすると、デバイス量産時に形成される櫛形電極パターンの形状ばらつきが大きくなるため歩留まりが低下したり、先端ギャップ部103に生じる電界が大きくなるために静電気によるデバイスの破壊が生じやすくなるなど、副作用が大きくなるという課題があった。
【0008】
本発明は、アポタイズ重み付けを適用した弾性波デバイスにおいて、櫛形電極と先端ギャップ部との音速差を小さくすることによって、弾性波のロスを低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の弾性波デバイスは、圧電性基板と、前記圧電性基板上に形成され、入力側電極と出力側電極とが空隙を挟んで対向するように配置された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆う誘電体膜とを備えた弾性波デバイスであって、前記空隙における弾性波の音速を、前記空隙に隣接する前記櫛形電極が無い領域における弾性波の音速より遅くしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アポタイズ重み付けを適用した弾性波デバイスにおいて、櫛形電極と先端ギャップ部との音速差を小さくすることによって、弾性波のロスを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の弾性波デバイスは、圧電性基板と、前記圧電性基板上に形成され、入力側電極と出力側電極とが空隙を挟んで対向するように配置された櫛形電極と、前記櫛形電極を覆う誘電体膜とを備えた弾性波デバイスであって、前記空隙における弾性波の音速を、前記空隙に隣接する前記櫛形電極が無い領域における弾性波の音速より遅くしたものである。このような構成とすることで、櫛形電極における弾性波の音速と、空隙における弾性波の音速との差を少なくすることができ、音速差が大きい時に生じる弾性波の散乱や別の波へのモード変換を抑圧することができる。よって、ロスが少ない弾性波デバイスを実現することができる。
【0012】
本発明の弾性波デバイスは、上記構成を基本として、以下のような態様をとることができる。
【0013】
本発明の弾性波デバイスにおいて、前記誘電体膜は、前記空隙における膜厚を、前記櫛形電極上に位置する部分の膜厚よりも厚くした構成とすることができる。このような構成とすることで、ロスが少ない弾性波デバイスを実現することができるとともに、部品点数の増加がないため低コストに実現することができる。
【0014】
本発明の弾性波デバイスは、前記誘電体膜より密度が大きな材料で形成された質量体をさらに備え、前記質量体は、前記空隙内または前記空隙に重なる位置に配されている構成とすることができる。このような構成とすることで、ロスが少ない弾性波デバイスを実現することができるとともに、誘電体膜の表面を平坦に形成することができる。
【0015】
本発明の弾性波デバイスは、前記櫛形電極と前記質量体とを電気的に分離する電極保護膜をさらに備えた構成とすることができる。このような構成とすることで、櫛形電極間のショートを無くすことができる。
【0016】
(実施の形態)
〔1.弾性波デバイスの構成〕
図1は、本実施の形態の弾性波デバイスの平面図を示す。図2は、図1におけるA−A部の断面図である(図2に示す構造の弾性波デバイスは第1の実施例)。本実施の形態の弾性波デバイスは、表面弾性波の一種であるラブ波を利用するデバイスである。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態の弾性波デバイスは、IDT電極1aとダミー電極1bとを備えた第1の櫛形電極1と、IDT電極2aとダミー電極2bとを備えた第2の櫛形電極2とを備えている。第1の櫛形電極1と第2の櫛形電極2とは、先端ギャップ部3(本発明の空隙の一例)を挟んで互いに対向配置している。より具体的には、第1の櫛形電極1のIDT電極1aと第2の櫛形電極2のダミー電極2bとが先端ギャップ部3を挟んで互いに対向配置されている。また、IDT電極1aとIDT電極2aとは、弾性波の伝搬方向において交差する領域を有し、先端ギャップ3の位置が弾性波の伝搬方向の各位置において異なるため、IDT電極1a及び2aの交差幅W1〜W3も各位置毎に異なる。本実施の形態の弾性波デバイスは、このように弾性波の伝搬方向においてIDT電極1a及び2aの交差幅を異ならせた「アポタイズ重み付け」がなされている。
【0018】
図2に示すように、本実施の形態の弾性波デバイスは、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)からなる圧電基板11上に、銅(Cu)を材料とした第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2が形成されている。また、第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2を覆うように、誘電体膜としてSiO2膜12が形成されている。なお、図1では、第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2の構成を明瞭に図示するために、SiO2膜12の図示を省略した。
【0019】
SiO2膜12は、先端ギャップ部3にも形成されている。SiO2膜12は、その表面に突起部12aが形成されている。突起部12aは、図1に示すように弾性波デバイスを平面視した時に先端ギャップ部3に重なる位置に形成されている。すなわち、SiO2膜12において突起部12aが形成された部分は、他の部分よりも膜厚が厚くなっている。本実施の形態のように櫛形電極1a及び2aを覆うようにSiO2膜12などの誘電体膜を持つデバイスは、SiO2膜12の厚さを調整することによって、その部分の音速を所望の値にすることができる。すなわち、SiO2膜12を部分的に厚くすることによって、厚くした領域を通過する際の弾性波の音速を低下させることができ、またSiO2膜12を部分的に薄くすることによって、薄くした領域を通過する際の弾性波の音速を上昇させることができる。
【0020】
本実施の形態の弾性波デバイスにおいては、従来技術における先端ギャップ部3を通過する際の弾性波の音速が他の部位を通過する際の弾性波の音速よりも高くなるという問題を解決するために、SiO2膜12の先端ギャップ部3に重なる部分に突起部12aを形成した。このような構成とすることにより、図2におけるグラフに示すように、先端ギャップ部3における弾性波の音速を、櫛形電極における弾性波の音速と同程度にすることができる。その結果、弾性波の音速の不連続性が小さくなり、弾性波のロスを低減することができる。
【0021】
図3〜図7は、第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2を覆う誘電体膜(SiO2膜12)より高密度の材料で形成された質量体4を、先端ギャップ部3に重なる位置に配置した実施例を示す。ここで、「先端ギャップ部3に重なる位置」とは、先端ギャップ部3の外側で、かつ図1に示すように弾性波デバイスを平面視した時に先端ギャップ部3の位置と一致する位置のことである。図3は、質量体4をSiO2膜12内に配置した構成である(第2の実施例)。図4は、質量体4をSiO2膜12の表面に配置した構成である(第3の実施例)。図5は、質量体4を先端ギャップ部3に配置した構成である(第4の実施例)。図6は、質量体4を先端ギャップ部3における圧電基板11上に配置した構成である(第5の実施例)。図7は、質量体4をSiO2膜12内に配置し、質量体4と櫛形電極との間に誘電体層5を備えた構成である(第6の実施例)。
【0022】
図3〜図7に示すように、誘電体膜よりも高密度の材料で形成された質量体4を、先端ギャップ部3内または先端ギャップ部3に重なる位置に配置した構成とすることにより、先端ギャップ部3を通過する弾性波の音速を遅くすることができる。質量体4としては、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)などの重い金属材料、酸化タンタル、酸化クロムなどの重い誘電体材料などを用いることができる。また、質量体4は、総重量が弾性波の音速に影響するため、質量体4として用いる材料が異なれば、最適な厚さも異なる。質量体4として用いる材料を適宜選択したり、質量体4の大きさを調整したりすることによって、先端ギャップ部3を通過する弾性波の音速を、第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2を通過する弾性波の音速と、同程度の音速にすることができる。
【0023】
なお、図5及び図6に示すように、質量体4と第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2とが近接した構造では、質量体4として金属など導電性を有する材料を用いた場合には、ダミー電極2bとIDT電極1aとの間(入出力間)でショートする恐れがある。それを防ぐために、質量体4として金属などを用いる場合には、図3及び図4に示すように質量体4と第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2とを離間して配置する構造か、図7に示すように第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2を覆うように誘電体層5を設けた構造にすることが好ましい。図7に示す誘電体層5は、少なくとも第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2と質量体4とを電気的に分離する構造であればよく、質量体4の周囲のみに設ける構成や第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2の全域を覆うように設ける構成が考えられる。また、誘電体層5の誘電体材料としては、SiNなどを用いることができる。このような構造にすることによって、第1の櫛形電極1及び第2の櫛形電極2における入出力電極間でのショートを防ぐことができる。
【0024】
また、図3,図5,図6,図7に示す構成は、SiO2膜12の表面を平坦にできるので好ましい。また、図4に示す構成は、従来の弾性波デバイスの表面に質量体4を追加した構成であるため、簡単に製造することができるというメリットがある。
【0025】
以上では、ラブ波デバイスの場合の実施形態について説明したが、本発明はラブ波デバイスに限るものではない。櫛形電極上に誘電体膜を有し、櫛形電極にアポタイズ重み付けを適用した弾性波デバイスであれば、本発明を適用可能である。例えば、弾性境界波デバイスにも適用が可能である。
【0026】
また、本実施の形態において、先端ギャップ部3に重なる部分の音速を下げるための構成は、実施例1〜6に示す構成に限らず、少なくとも先端ギャップ部3に隣接する櫛形電極が無い領域の音速よりも遅くできる構成であればよい。
【0027】
次に、本実施の形態の弾性波デバイスの製造方法について説明する。
【0028】
図8A〜図8Fは、図2に示す弾性波デバイスの第1の製造方法を説明するための断面図である。まず、図8Aに示すように、LiNbO3からなる圧電基板11を用意し、全面にSiO2膜121を成膜する。次に、図8Bに示すように、SiO2膜121上にレジストパターン110を形成する。次に、図8Cに示すように、フルオロカーボン系ガス等を用いたドライエッチング法あるいはウェットエッチング法を行い、レジストパターン110で覆われていない部分のSiO2膜121を除去する。次に、図8Dに示すように、電極膜111を、圧電基板11及びレジストパターン110上の全面に成膜する。この時、電極膜111の膜厚は、SiO2膜121の膜厚よりも薄くしておく。次に、図8Eに示すように、レジストパターン110を除去する。次に、図8Fに示すように、電極膜111及びSiO2膜121上にSiO2膜122を成膜する。SiO2膜121とSiO2膜122とは同一材料である。この時、SiO2膜121は、電極膜111よりも厚い膜厚を有するため、突起部12aを形成することができる。よって、最終的に、SiO2膜12における先端ギャップ部3に重なる部分の膜厚を、他の部分の膜厚よりも厚くした弾性波デバイスが得られる。
【0029】
図9A〜図9Iは、図2に示す弾性波デバイスの第2の製造方法を説明するための断面図である。まず、図9Aに示すように、LiNbO3からなる圧電基板11を用意し、圧電基板11の全面にSiO2膜121を成膜する。次に、図9Bに示すように、SiO2膜121上にレジストパターン110aを形成する。次に、図9Cに示すように、フルオロカーボン系ガス等を用いたドライエッチング法あるいはウェットエッチング法を行い、レジストパターン110aで覆われていない部分のSiO2膜121を除去する。次に、図9Dに示すように、電極膜111を圧電基板11及びレジストパターン110aの全面に成膜する。この時、電極膜111は、SiO2膜121の膜厚と同等の膜厚で形成することが好ましい。次に、図9Eに示すように、レジストパターン110aを除去する。次に、図9Fに示すように、電極膜111及びSiO2膜121上にSiO2膜122を成膜する。SiO2膜121とSiO2膜122とは同一材料である。次に、図9Gに示すように、SiO2膜122上にレジストパターン110bを形成する。次に、図9Hに示すように、SiO2膜122におけるレジストパターン110bで覆われていない部分をエッチングし、凹部122aを形成する。次に、図9Iに示すように、レジストパターン110bを除去することで、突起部12aが形成された弾性波デバイスが完成する。よって、最終的に、SiO2膜12における先端ギャップ部3に重なる部分の膜厚を、他の部分の膜厚よりも厚くした弾性波デバイスが得られる。
【0030】
図10A〜図10Hは、図2に示す弾性波デバイスの第3の製造方法を説明するための断面図である。まず、図10Aに示すように、LiNbO3からなる圧電基板11を用意し、圧電基板11の全面に銅(Cu)からなる電極膜111を成膜する。次に、図10Bに示すように、金属膜111上にレジストパターン110aを形成する。この時、レジストパターン110aは、後に形成される先端ギャップ部3に重なる位置に空隙110cを有するように、金属膜111上に形成する。次に、図10Cに示すように、イオンミリング法あるいはウェットエッチング法を行い、レジストパターン110aで覆われていない部分の金属膜111を除去し、空隙111aを形成する。この空隙111aが完成後の弾性波デバイスにおける先端ギャップ部3に相当する。次に、図10Dに示すように、レジストパターン110aを除去する。次に、図10Eに示すように、圧電基板11及び電極膜111上にSiO2膜121を成膜する。この時、電極膜111には空隙111aが形成されているため、SiO2膜121における空隙111aに重なる部分は凹状(凹部121a)となる。次に、図10Fに示すように、SiO2膜121の凹部121aにレジストパターン110bを形成する。次に、図10Gに示すように、SiO2膜121におけるレジストパターン110bで覆われていない部分をエッチングし、凹部121bを形成する。次に、図10Hに示すように、レジストパターン110bを除去することで、突起部12aが形成された弾性波デバイスが完成する。よって、最終的に、SiO2膜12における先端ギャップ部3に重なる部分の膜厚を、他の部分の膜厚よりも厚くした弾性波デバイスが得られる。
【0031】
図11A〜図11Hは、図2に示す弾性波デバイスの第4の製造方法を説明するための断面図である。まず、図11Aに示すように、LiNbO3からなる圧電基板11を用意し、圧電基板11の全面にCuからなる電極膜111を成膜する。次に、図11Bに示すように、電極膜111上にレジストパターン110aを形成する。この時、レジストパターン110aは、後に形成される先端ギャップ部3に重なる位置に空隙110cを有するように、金属膜111上に形成する。次に、図11Cに示すように、イオンミリング法あるいはウェットエッチング法を行い、電極膜111におけるレジストパターン110aで覆われていない部分を除去し、空隙111aを形成する。この空隙111aが完成後の弾性波デバイスにおける先端ギャップ部3に相当する。次に、図11Dに示すように、レジストパターン110aを除去する。次に、図11Eに示すように、圧電基板11及び電極膜111上にSiO2膜121を成膜する。この時、電極膜111には空隙111aが形成されているため、SiO2膜121における空隙111aに重なる部分は凹状(凹部121a)となる。次に、図11Fに示すように、SiO2膜121上にレジストパターン110bを形成する。この時、レジストパターン110bは、SiO2膜121における凹部121a以外の部分に形成する。次に、図11Gに示すように、レジストパターン110b上にSiO2膜122を成膜する。この時、SiO2膜122は、凹部121a内にも成膜される。次に、図11Hに示すように、レジストパターン110bを除去する。この時、レジストパターン110b上に形成されているSiO2膜122も除去されるため、突起部12aが形成された弾性波デバイスが完成する。よって、最終的に、SiO2膜12における先端ギャップ部3に重なる部分の膜厚を、他の部分の膜厚よりも厚くした弾性波デバイスが得られる。
【0032】
図12A〜図12Iは、図3に示す弾性波デバイスの第4の製造方法を説明するための断面図である。まず、図12Aに示すように、LiNbO3からなる圧電基板11を用意し、圧電基板11の全面にSiO2膜121を成膜する。この時に形成するSiO2膜121の膜厚により、質量体4の最終的な高さ方向の位置が決まる。次に、図12Bに示すように、SiO2膜121上にレジストパターン110aを形成する。次に、図12Cに示すように、フルオロカーボン系ガス等を用いたドライエッチングあるいはウェットエッチングを行い、SiO2膜121においてレジストパターン110aで覆われていない部分を除去する。次に、図12Dに示すように、電極膜111を圧電基板11及びレジストパターン110aの全面に成膜する。次に、図12Eに示すように、レジストパターン110aを除去する。次に、図12Fに示すように、電極膜111上にレジストパターン110bを形成する。次に、図12Gに示すように、レジストパターン110b及びSiO2膜121上に高密度材料131(例えば五酸化タンタル)を成膜する。この時に形成される高密度材料131の膜厚により、質量体4の最終的な厚さが決まる。次に、図12Hに示すように、レジストパターン110bを除去する。この時、レジストパターン110b上に形成されている高密度材料131も除去され、SiO2膜121上の高密度材料131のみが残留する。次に、図12Iに示すように、電極膜111及び高密度材料131上にSiO2膜122を成膜する。この時、SiO2膜122の表面は平坦に形成することが好ましい。これにより、SiO2膜12内に質量体4が形成された弾性波デバイスが完成する。
【0033】
なお、図12Eに示す工程の次に、図12Iに示すようにSiO2膜122を成膜し、成膜したSiO2膜122上に質量体4を形成することで、図4に示す構造の弾性波デバイスを作製できる。
【0034】
また、図12Aに示す工程において形成するSiO2膜121の膜厚を、図12Dに示す工程において形成する電極膜111の膜厚よりも薄く形成し、さらに図12Gに示す工程において高密度材料として誘電体材料を成膜することで、図5に示す構造の弾性波デバイスを作製できる。
【0035】
また、図12Aに示す工程においてSiO2膜121に代えて高密度材料として誘電体材料を成膜し、図12Eに示す工程の次に図12Iに示す工程を実施することで(図12F〜図12Hに示す工程は不要)、図6に示す構造の弾性波デバイスを作製できる。
【0036】
また、図12Eに示す工程と図12Fに示す工程との間に、電極膜111及びSiO2膜121上に誘電体層5を形成する工程を追加することで、図7に示す構造の弾性波デバイスを作製できる。
【0037】
〔2.デュープレクサの構成〕
携帯電話端末、PHS(Personal Handy-phone System)端末、無線LANシステムなどの移動体通信(高周波無線通信)には、デュープレクサが搭載されている。デュープレクサは、通信電波などの送信機能及び受信機能を持ち、送信信号と受信信号の周波数が異なる無線装置において用いられる。
【0038】
図13は、本実施の形態の弾性波デバイスを備えたデュープレクサの構成を示す。デュープレクサ52は、位相整合回路53、受信フィルタ54、および送信フィルタ55を備えている。位相整合回路53は、送信フィルタ55から出力される送信信号が受信フィルタ54側に流れ込むのを防ぐために、受信フィルタ54のインピーダンスの位相を調整するための素子である。また、位相整合回路53には、アンテナ51が接続されている。受信フィルタ54は、アンテナ51を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域のみを通過させる帯域通過フィルタで構成されている。また、受信フィルタ54には、出力端子56が接続されている。送信フィルタ55は、入力端子57を介して入力される送信信号のうち、所定の周波数帯域のみを通過させる帯域通過フィルタで構成されている。また、送信フィルタ55には、入力端子57が接続されている。ここで、受信フィルタ54及び送信フィルタ55には、本実施の形態における弾性波素子が含まれている。
【0039】
以上のように本実施の形態の弾性波デバイスを受信フィルタ54及び送信フィルタ55に備えることで、ロスが少ないデュープレクサを実現することができる。
【0040】
〔3.通信モジュールの構成〕
図14は、本実施の形態の弾性波デバイスまたは図13に示すデュープレクサを備えた通信モジュールの一例を示す。図14に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bには、本実施の形態における弾性波デバイスまたはデュープレクサが含まれている。
【0041】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0042】
以上のように本実施の形態の弾性波デバイスまたはデュープレクサを、通信モジュールの受信フィルタ62a及び送信フィルタ62bに備えることで、ロスが少ない通信モジュールを実現することができる。
【0043】
なお、図14に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本発明の弾性波デバイスを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0044】
〔4.通信装置の構成〕
図15は、本実施の形態の弾性波デバイス、デュープレクサ、または通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図15に示す構成は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Divition Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図15に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a、77、78、79、80、および送信フィルタ73bには、本実施の形態における弾性波デバイス、デュープレクサが含まれている。
【0045】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御する。
【0046】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0047】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御する。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0048】
以上のように本実施の形態の弾性波デバイス、デュープレクサ、または通信モジュールを通信装置に備えることで、ロスが少ない通信装置を実現することができる。
【0049】
なお、図15に示す通信装置の構成は一例である。
【0050】
〔5.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、アポタイズ重み付けを適用した弾性波デバイスにおいて、櫛形電極部と先端ギャップ部との音速差を小さくすることによって、弾性波の散乱や別の波へモード変換してしまうことを防止することができるので、ロスを低減することができる。
【0051】
また、先端ギャップ部3の幅(図17のX部)を小さくする必要がないため、デバイス量産時に形成される櫛形電極パターンの形状にばらつきがあったとしても、歩留まりが低下しない、また、先端ギャップ部3の幅を小さくする必要がないため、先端ギャップ部3に生じる電界が大きくならず、静電気によるデバイスの破壊が生じにくいというメリットがある。
【0052】
音速差を低減させる具体構成として、図2に示すようにSiO2膜12における先端ギャップ部3に重なる部分の膜厚を、他の部分の膜厚よりも厚くした構成がある。このような構成によれば、櫛形電極部と先端ギャップ部との音速差を小さくしてロスを低減することができるとともに、SiO2膜12の形状を変えるだけで実現できるので、部品点数の増加がなく低コストに実現できる。
【0053】
また、音速差を低減する具体構成として、図3、図5、図6、図7に示すようにSiO2膜12内に高密度材料からなる質量体4を備えた構成とすることで、櫛形電極部と先端ギャップ部との音速差を小さくしてロスを低減することができるとともに、SiO2膜12の表面が平坦な弾性波デバイスを実現できる。
【0054】
また、音速差を低減する具体構成として、図4に示すようにSiO2膜12の表面に高密度材料からなる質量体4を備えた構成とすることで、櫛形電極部と先端ギャップ部との音速差を小さくしてロスを低減することができるとともに、製造が簡単な弾性波デバイスを実現できる。
【0055】
なお、本実施の形態において、先端ギャップ部3に重なる部分の音速は、少なくとも先端ギャップ部3に隣接する櫛形電極が無い領域の音速よりも遅くすればよい。
【0056】
(付記1)
圧電性基板と、
前記圧電性基板上に形成され、入力側電極と出力側電極とが空隙を挟んで対向するように配置された櫛形電極と、
前記櫛形電極を覆う誘電体膜とを備えた弾性波デバイスであって、
前記空隙における弾性波の音速を、前記空隙に隣接する前記櫛形電極が無い領域における弾性波の音速より遅くした、弾性波デバイス。
【0057】
(付記2)
前記誘電体膜は、
前記空隙における膜厚を、前記櫛形電極上に位置する部分の膜厚よりも厚くした、付記1記載の弾性波デバイス。
【0058】
(付記3)
前記誘電体膜より密度が大きな材料で形成された質量体をさらに備え、
前記質量体は、前記空隙内または前記空隙に重なる位置に配されている、付記1記載の弾性波デバイス。
【0059】
(付記4)
前記櫛形電極と前記質量体とを電気的に分離する電極保護膜をさらに備えた、付記3記載の弾性波デバイス。
【0060】
(付記5)
前記質量体は、
金(Au)、タングステン(W)、およびタンタル(Ta)のうちのいずれか一つ、またはその合金を含む材料で形成されている、付記3記載の弾性波デバイス。
【0061】
(付記6)
前記質量体は、
酸化タンタルまたは酸化クロムを含む、付記3記載の弾性波デバイス。
【0062】
(付記7)
前記櫛形電極上を覆う前記誘電体膜は、酸化シリコン(SiO2)を主成分とする、付記1記載の弾性波デバイス。
【0063】
(付記8)
前記櫛形電極上を覆う前記誘電体膜は、前記櫛形電極より膜厚が厚い、付記1記載の弾性波デバイス。
【0064】
(付記9)
当該弾性波デバイスは、ラブ波デバイスである、付記1〜8記載の弾性波デバイス。
【0065】
(付記10)
前記ラブ波デバイスは、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)で形成された圧電基板を備えた、付記9記載の弾性波デバイス。
【0066】
(付記11)
当該弾性波デバイスは、弾性境界波デバイスである、付記1〜8記載の弾性波デバイス。
【0067】
(付記12)
付記1〜11に記載の弾性波デバイスを備えたフィルタ。
【0068】
(付記13)
付記1〜11に記載の弾性波デバイスを備えた通信モジュール。
【0069】
(付記14)
付記13に記載の通信モジュールを備えた、通信装置。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の弾性波デバイス、フィルタ、通信モジュール、および通信装置は、所定周波数の信号を受信または送信することができる機器に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施の形態における弾性波デバイスの平面図
【図2】図1におけるA−A部の断面図(弾性波デバイスの第1の実施例)
【図3】弾性波デバイスの第2の実施例の構成を示す断面図
【図4】弾性波デバイスの第3の実施例の構成を示す断面図
【図5】弾性波デバイスの第4の実施例の構成を示す断面図
【図6】弾性波デバイスの第5の実施例の構成を示す断面図
【図7】弾性波デバイスの第6の実施例の構成を示す断面図
【図8】A〜Fは、第1の実施例の弾性波デバイスの製造工程を示す断面図(第1の製造方法)
【図9】A〜Iは、第1の実施例の弾性波デバイスの製造工程を示す断面図(第2の製造方法)
【図10】A〜Hは、第1の実施例の弾性波デバイスの製造工程を示す断面図(第3の製造方法)
【図11】A〜Hは、第1の実施例の弾性波デバイスの製造工程を示す断面図(第4の製造方法)
【図12】A〜Iは、第2の実施例の弾性波デバイスの製造工程を示す断面図
【図13】デュープレクサの構成を示すブロック図
【図14】通信モジュールの構成を示すブロック図
【図15】通信装置の構成を示すブロック図
【図16】従来の弾性波デバイスの構成を示す平面図
【図17】従来の弾性波デバイスの構成を示す要部平面図
【図18】図17におけるY−Y部の断面図
【符号の説明】
【0072】
1 第1の櫛形電極
2 第2の櫛形電極
3 先端ギャップ部
4 質量体
5 誘電体層
11 圧電基板
12 SiO2膜
12a 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性基板と、
前記圧電性基板上に形成され、入力側電極と出力側電極とが空隙を挟んで対向するように配置された櫛形電極と、
前記櫛形電極を覆う誘電体膜とを備えた弾性波デバイスであって、
前記空隙における弾性波の音速を、前記空隙に隣接する前記櫛形電極が無い領域における弾性波の音速より遅くした、弾性波デバイス。
【請求項2】
前記誘電体膜は、
前記空隙における膜厚を、前記櫛形電極上に位置する部分の膜厚よりも厚くした、請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記誘電体膜より密度が大きな材料で形成された質量体をさらに備え、
前記質量体は、前記空隙内または前記空隙に重なる位置に配されている、請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記櫛形電極と前記質量体とを電気的に分離する電極保護膜をさらに備えた、請求項3記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の弾性波デバイスを備えたフィルタ。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の弾性波デバイスを備えた通信モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載の通信モジュールを備えた、通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図9G】
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【図9H】
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【図9I】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図10G】
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【図10H】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図11G】
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【図11H】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図12G】
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【図12H】
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【図12I】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−290472(P2009−290472A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139871(P2008−139871)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】