説明

弾性波デバイスおよびフィルタ

【課題】電気機械結合係数を精度良く制御することが可能な弾性波デバイスおよびフィルタを提供すること。
【解決手段】本発明は、圧電基板(12)と、圧電基板上に設けられた第1誘電体(24)と、第1誘電体上に設けられた櫛型電極(14)および反射電極(16)と、櫛型電極および反射電極を構成する電極指と、を具備し、第1誘電体が隣り合う電極指の間で圧電基板の表面が露出するように分離されていて、第1誘電体の側面と櫛型電極および反射電極の電極指の側面とが同一面に形成されている弾性波デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよびフィルタに関し、より詳細には電気機械結合係数を精度良く制御することが可能な弾性波デバイスおよびフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波を利用した弾性波デバイスの一つとして、圧電基板の表面に形成したIDT(インタディジタル・トランスデューサ)からなる櫛型電極および反射電極を備え、櫛型電極に電力を印加することで励振した弾性波を用いる弾性表面波デバイス(従来例1)は良く知られている。この弾性表面波デバイスは、小型軽量で高減衰量を得られることから、携帯電話端末の送受信フィルタやアンテナ分波器等に広く使用されている。
【0003】
図1(a)は従来例1に係る弾性表面波デバイスの上視図であり、図1(b)は図1(a)のA−A間の断面図である。図1(b)を参照に、例えばタンタル酸リチウム(LiTaO)からなる圧電基板12上に例えばアルミニウムからなる櫛型電極14および反射電極16が設けられている。ここで、櫛型電極14および反射電極16の電極指の数を数本で図示しているが、実際は多数設けられている。(以下、従来例において同様である。)
【0004】
また、従来例1に係る弾性表面波デバイスの櫛型電極14および反射電極16を覆うように例えば酸化シリコン(SiO)膜からなる保護膜18が設けられた弾性表面波デバイス(従来例2)も開発されている(図2参照)。ここで、保護膜18の膜厚は櫛型電極の周期λの数%以下と薄い。
【0005】
さらに、従来例2に係る弾性表面波デバイスのように保護膜18が薄い場合の他に、保護膜18が櫛型電極14よりも厚い弾性波デバイスが開発されている。例えば、ラブ波と呼ばれる弾性波が伝搬する弾性波デバイス(ラブ波デバイス、従来例3)や境界波と呼ばれる弾性波が伝搬する弾性波デバイス(境界波デバイス、従来例4)がある。ラブ波デバイスや境界波デバイスは、保護膜18に圧電基板12と逆符号の温度係数を持つ物質を選び、周波数の温度特性の補償のために利用することがある。また、境界波デバイスは、異なる2つの媒質の境界を弾性波が伝搬するもので、これによれば、2つの媒質の外表面に異物などが付着しても周波数変動や電気的損失特性に影響を与えない利点がある。
【0006】
図3は従来例3に係るラブ波デバイスの断面図である。図3を参照に、圧電基板12上に櫛型電極14および反射電極16が設けられている。櫛型電極14および反射電極16を覆うように酸化シリコン膜20が設けられている。
【0007】
図4は従来例4に係る境界波デバイスの断面図である。図4を参照に、従来例3に係るラブ波デバイスの酸化シリコン膜20上に例えば酸化アルミニウム(Al)膜22を設けた構造をしている。従来例4に係る境界波デバイスは、弾性波のエネルギーが圧電基板12表面と酸化シリコン膜20に閉じ込められていることが特徴である。
【0008】
これら弾性波デバイスでは、電気機械結合係数により共振周波数と反共振周波数との周波数間隔が決定する。よって、ラダー型フィルタや2重モードフィルタ等の場合では、電気機械結合係数によって通過帯域幅が決まる。したがって、所望の通過帯域を得るためには、それに合った電気機械結合係数を有する圧電基板を選択する必要があるが、圧電基板の種類はそれほど多くはない。このため、従来より電気機械結合係数を制御する様々な方法が考え出されている。ここで、電気機械結合係数とは、電気エネルギーから圧電エネルギーへの変換効率のことをいい、一般に電気機械結合係数が大きいほど電気信号による弾性波の励起がされやすくなる。
【0009】
特許文献1には、櫛型電極と圧電基板との間に酸化チタン(TiO)膜を設ける技術が開示されている。酸化チタン膜の膜厚を厚くすることで電気機械結合係数を小さくすることができる。特許文献2には、圧電基板の表面にアルゴン(Ar)等をイオン注入することにより圧電性を制御する技術が開示されている。これにより、電気機械結合係数を小さくすることができる。特許文献3には、櫛型電極と圧電基板との間に圧電基板の電気機械結合係数より大きな電気機械結合係数を有する圧電性薄膜を設けることにより、電気機械結合係数を大きくする技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭52−16146号公報
【特許文献2】特開平6−303073号公報
【特許文献3】特開平11−31942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、例えば特許文献1に開示されている電気機械結合係数を制御する方法は、酸化チタン膜の膜厚が0.00016λ〜0.047λと規定されている。携帯電話端末等に用いられる弾性波デバイスに一般的に使用される36度YカットX伝搬のタンタル酸リチウムの圧電基板で、1.9GHz帯のフィルタを作製する場合の櫛型電極の周期λは2μmとなる。この時の0.00016λは0.32nmとなり、あまりに膜厚が薄すぎるためプロセスとして現実的ではない。また、酸化チタン膜の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化が非常に大きいため、電気機械結合係数を制御することが難しいという課題がある。
【0011】
また、例えば特許文献2に開示されている電気機械結合係数を制御する方法は、イオン注入といった大掛かりな設備が必要であり、また、イオン注入の注入深さの制御が困難なため電気機械結合係数を制御することが難しいという課題がある。
【0012】
さらに、例えば特許文献3に開示されている電気機械結合係数を制御する方法は、圧電性薄膜の膜厚を制御することが難しいという課題がある。
【0013】
これらのように、特許文献1から特許文献3で開示されている従来の方法では、電気機械結合係数の制御が難しい。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことが可能な弾性波デバイスおよびフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に設けられた第1誘電体と、前記第1誘電体上に設けられた弾性波を励振する電極と、前記電極を構成する電極指と、を具備し、前記第1誘電体が隣り合う前記電極指の間で少なくとも一部が分離していることを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、第1誘電体の膜厚に対する電気機械結合係数の変化を緩やかにすることができるため、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことが可能な弾性波デバイスを提供することができる。
【0016】
上記構成において、前記第1誘電体の側面と前記電極指の側面とが同一面に形成されていることを特徴とする構成とすることができる。この構成によれば、製造工程を簡略化することができる。
【0017】
上記構成において、前記電極を覆うように設けられた第2誘電体を具備し、前記第1誘電体の比誘電率が前記第2誘電体の比誘電率より大きいことを特徴とする構成とすることができる。この構成によれば、電気機械結合係数の制御をより精度良く行うことができ、また、プロセスをより容易に行うことができる。
【0018】
上記構成において、前記第1誘電体上面からの前記第2誘電体の膜厚が前記第1誘電体上面からの前記電極の膜厚より厚いことを特徴とする構成とすることができる。この構成によれば、ラブ波および境界波と呼ばれる弾性波が伝搬する弾性波デバイスを提供することができる。
【0019】
上記構成において、第1誘電体は酸化アルミニウム膜および窒化シリコン膜のいずれか一方であり、前記第2誘電体は酸化シリコン膜であることを特徴とする構成とすることができる。
【0020】
上記構成において、前記第2誘電体上に第3誘電体を具備し、前記第3誘電体の音速が前記第2誘電体の音速より速いことを特徴とする構成とすることができる。この構成によれば、弾性波のエネルギーが圧電基板表面と第2誘電体に閉じ込められた境界波と呼ばれる弾性波が伝搬する弾性波デバイスを提供することができる。
【0021】
上記構成において、前記第3誘電体は酸化アルミニウム膜であることを特徴とする構成とすることができる。
【0022】
上記構成において、前記圧電基板はニオブ酸リチウムおよびタンタル酸リチウムのいずれか一方であることを特徴とする構成とすることができる。この構成によれば、大きな電気機械結合係数を得ることができ、電気機械結合係数の調整範囲を広く取ることができる。
【0023】
上記構成において、前記弾性波デバイスを有することを特徴とするフィルタである構成とすることができる。この構成によれば、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができ、通過帯域の立ち上がりが急峻で挟通過帯域幅を有するフィルタを提供することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことが可能な弾性波デバイスおよびフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照に本発明の実施例について説明する。なお、実施例の図において、櫛型電極および反射電極の電極指の数は数本で図示しているが、実際の電極指は多数設けられている。ここで、電極指とは櫛型電極の1本1本のことをいう。また便宜上、反射電極の1本1本のことも電極指と呼ぶこととする。
【実施例1】
【0026】
図5は比較例1に係る弾性表面波デバイスの断面図であり、図6は実施例1に係る弾性表面波デバイスの断面図である。図5を参照に、比較例1に係る弾性表面波デバイスは、例えば30度YカットX伝搬のニオブ酸リチウム(LiNbO)である圧電基板12上に例えば酸化アルミニウム膜である第1誘電体24が設けられている。第1誘電体24上には例えば厚さ190nmの銅(Cu)からなる櫛型電極14および反射電極16が設けられている。
【0027】
図6を参照に、実施例1に係る弾性表面波デバイスは、図5に示す比較例1に係る弾性表面波デバイスと同様の構成をしているが、比較例1に係る弾性表面波デバイスとの違いは、第1誘電体24が隣り合う電極指の間で分離していて、第1誘電体24の側面と櫛型電極14および反射電極16の側面とが同一面に形成されていることである。ここで、分離とは電極指の間で圧電基板12の表面が露出している状態をいう。
【0028】
図7は実施例1および比較例1に係る弾性表面波デバイスにおいて、酸化アルミニウム膜である第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化を示している。図7において、電気機械結合係数は有限要素法を用いて反共振周波数fa−共振周波数frから求めており、第1誘電体24の膜厚が0nmの時の電気機械結合係数を100%としている。また、この時の櫛型電極14部分の対数は200対で開口長は19.3λであり、櫛型電極14の周期λは2.084μmである。ここで、対数とは入出力端子に接続している櫛型電極を例として、入力電極側の電極指1本と出力電極側の電極指1本の対を1対といい、その対の数である。また、開口長とは入力電極側の電極指と出力電極側の電極指とが交差する長さである。
【0029】
図7より、第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化は、実施例1の方が比較例1に比べ小さい。膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化が小さい方が、プロセスでの膜厚ばらつきに対する電気機械結合係数の変化が小さくなるため、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができる。よって、第1誘電体24が隣り合う電極指の間で分離していて、第1誘電体24の側面と櫛型電極14および反射電極16の側面とが同一面に形成されている実施例1に係る弾性表面波デバイスは、第1誘電体24が圧電基板12上の全面に形成されている比較例1に係る弾性表面波デバイスに比べ、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができる。
【0030】
また、図7より、第1誘電体24の膜厚が約50nm(約0.024λ)以下では、同程度の電気機械結合係数を得るための膜厚は、実施例1の方が比較例1に比べ厚くなることが分かる。膜厚がある程度厚い方がプロセスにおいて膜厚の制御性が容易となる。よって、実施例1に係る弾性表面波デバイスは比較例1に係る弾性表面波デバイスに比べ、膜厚制御の観点からプロセスを容易に行うことができる。
【0031】
実施例1では、第1誘電体24は酸化アルミニウム膜である例を示したが、窒化シリコン膜や酸化チタン膜や酸化シリコン膜等その他の物質でも良い。
【0032】
また、実施例1に係る弾性表面波デバイスの櫛型電極14および反射電極16を例えば酸化シリコン膜である保護膜が覆っている弾性表面波デバイスでも、実施例1と同様に、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができ、また、膜厚制御の観点からプロセスを容易に行うことができる。
【実施例2】
【0033】
図8は実施例2に係る弾性表面波デバイスの断面図である。図8を参照に、例えばニオブ酸リチウムである圧電基板12上に例えば酸化アルミニウム膜である第1誘電体24が設けられている。第1誘電体24上には例えば銅からなる櫛型電極14および反射電極16が設けられている。第1誘電体24は櫛型電極14および反射電極16の隣り合う電極指の間で分離されている。ここで、分離とは実施例1で説明しているのと同様の意味である。また、実施例1に係る弾性表面波デバイスとの違いは、第1誘電体24の側面と櫛型電極14および反射電極16の側面とが同一面に形成されてなく、弾性表面波伝搬方向の櫛型電極14および反射電極16の幅と第1誘電体24の幅とが異なる点である。
【0034】
実施例2によれば、第1誘電体24が圧電基板12上全面に形成されている比較例1に比べ、第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化が緩やかになる。よって、実施例2に係る弾性表面波デバイスは比較例1に係る弾性表面波デバイスに比べ電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができる。
【0035】
また、実施例2に係る弾性表面波デバイスと実施例1に係る弾性表面波デバイスとは共に、比較例1に比べ電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができるが、実施例1に係る弾性表面波デバイスは1回のエッチングにより櫛型電極14、反射電極16および第1誘電体24を形成することができる。(つまり第1誘電体24のパターンは櫛型電極14および反射電極16のパターンで画定される。)このため、プロセス工程の簡略化の観点から、実施例1に係る弾性表面波デバイスの方が、実施例2に係る弾性表面波デバイスに比べ好ましい。
【0036】
さらに、実施例2に係る弾性表面波デバイスの櫛型電極14および反射電極16を例えば酸化シリコン膜である保護膜が覆っている弾性表面波デバイスや境界波が伝搬される弾性波デバイスやラブ波が伝搬される弾性波デバイスの場合でも、実施例2のように隣り合う電極指間で第1誘電体24を分離することにより、実施例2と同様の効果を得ることができる。ここで、境界波およびラブ波が伝搬する弾性波デバイスにおける分離とは、後述する実施例3で説明する分離のことをいう。
【実施例3】
【0037】
図9は比較例3に係る弾性波デバイスの断面図であり、図10は実施例3に係る弾性波デバイスの断面図である。図9を参照に、比較例3に係る弾性波デバイスは、例えば30度YカットX伝搬のニオブ酸リチウムである圧電基板12上に第1誘電体24が設けられている。第1誘電体24上には例えば厚さ190nmの銅である櫛型電極14および反射電極16が設けられている。櫛型電極14および反射電極16を覆うように例えば厚さ1050nmの酸化シリコン膜である第2誘電体26が設けられている。第2誘電体26上には例えば厚さ2μmの酸化アルミニウムである第3誘電体28が設けられている。
【0038】
図10を参照に、実施例3に係る弾性波デバイスは、図9に示す比較例3に係る弾性波デバイスと同様の構成をしているが、比較例3に係る弾性波デバイスとの違いは、第1誘電体24が隣り合う電極指の間で分離していて、第1誘電体24の側面と櫛型電極14および反射電極16の側面とが同一面に形成されていることである。ここで、分離とは隣り合う電極指の間で第2誘電体26と圧電基板12とが接している状態をいう。
【0039】
図11は、図9に示す比較例3に係る弾性波デバイスにおいて、第1誘電体24に酸化シリコン膜(比誘電率は4.2程度)を用いた場合と酸化シリコン膜より比誘電率の大きい酸化アルミニウム膜(比誘電率は9.0程度)を用いた場合との、第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化を示している。図11において、電気機械結合係数は図7と同様の方法から求めており、図7で説明されているので、ここでは説明を省略する。
【0040】
図12は実施例3および比較例3に係る弾性波デバイスにおいて、第1誘電体24に酸化アルミニウム膜を用いた場合の第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化を示している。図12において、電気機械結合係数は図7と同様の方法から求めており、図7で説明されているので、ここでは説明を省略する。
【0041】
図13は実施例3および比較例3に係る弾性波デバイスにおいて、第1誘電体24に酸化アルミニウム膜を用いた場合の第1誘電体24の膜厚変化に対する周波数変化を示している。図13において、周波数は有限要素法により求めている。
【0042】
図11より、第1誘電体24の膜厚が約40nm(約0.02λ)以下では、酸化アルミニウム膜の方が酸化シリコン膜に比べ第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化が緩やかであることが分かる。また、同程度の電気機械結合係数を得るのに必要な膜厚は、酸化アルミニウム膜の方が酸化シリコン膜に比べ厚くなることが分かる。よって、第1誘電体24に比誘電率の大きい酸化アルミニウム膜を用いた方が酸化シリコン膜を用いた場合に比べて、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができ、また、膜厚制御の観点からプロセスを容易に行うことができる。
【0043】
また、酸化シリコン膜で膜厚が約40nm(約0.02λ)以上の時に電気機械結合係数が再び大きくなるのは、酸化シリコン膜の膜厚が厚くなることにより、圧電基板から電気機械結合係数に与える影響よりも酸化シリコン膜から電気機械結合係数に与える影響の方が大きくなるためである。そのため、弾性波の影響に関しても酸化シリコン膜の影響が大きくなり、酸化シリコン膜の機械的共振尖鋭度の影響が出てくる。一般に成膜した酸化シリコン膜の共振尖鋭度(Q値)は、単結晶である圧電基板のQ値より悪いため、酸化シリコン膜の厚さを約40nm(約0.02λ)以上に厚くすることは望ましくない。
【0044】
さらに、携帯電話端末等に使用されている一般的な弾性波フィルタは、圧電基板に36度YカットX伝搬のタンタル酸リチウムを用いた弾性波デバイスを使用している。この場合の電気機械結合係数と同程度の電気機械結合係数を得るには、図11より、酸化シリコン膜の場合は膜厚を約10nm(約0.005λ)にし、酸化アルミニウム膜の場合は膜厚を約20nm(約0.01λ)にすることが好ましい。
【0045】
図11では、第1誘電体24が圧電基板12上の全面に形成されている比較例3に係る弾性波デバイスで、第1誘電体24に酸化アルミニウム膜と酸化シリコン膜とを用いた場合の、第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化を示したが、第1誘電体24が隣り合う電極指の間で分離していて、第1誘電体24の側面と櫛型電極14および反射電極16の側面とが同一面に形成されている実施例3に係る弾性波デバイスの場合でも同様の効果を得ることができる。
【0046】
図12より、第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化は、実施例3の方が比較例3に比べ小さいことが分かる。よって、実施例3に係る弾性波デバイスは、比較例3に係る弾性波デバイスに比べ、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができる。
【0047】
また、図12より、同程度の電気機械結合係数を得るための膜厚は、実施例3の方が比較例3に比べ厚くなることが分かる。よって、実施例3に係る弾性波デバイスは比較例3に係る弾性波デバイスに比べ、膜厚制御の観点からプロセスを容易に行うことができる。
【0048】
さらに、携帯電話端末等に使用されている一般的な弾性表面波フィルタは、圧電基板に36度YカットX伝搬のタンタル酸リチウムを用いた弾性波デバイスを使用している。この場合の電気機械結合係数と同程度の電気機械結合係数を得るためには、図12より、実施例3の場合は酸化アルミニウムである第1誘電体24の膜厚を約30nm(約0.015λ)にし、比較例3の場合は膜厚を約20nm(約0.01λ)にすることが好ましい。
【0049】
図13より、第1誘電体24の膜厚変化に対する周波数変化は、実施例3の方が比較例3に比べ小さいことが分かる。第1誘電体24の膜厚を変化させた時に周波数が変化するのは、第1誘電体24である酸化アルミニウム膜の音速が第2誘電体26である酸化シリコン膜の音速より速いので、第1誘電体24の酸化アルミニウム膜の膜厚を変化させると境界波の速さが変わるためである。実施例3のように第1誘電体24を電極指間で分離した場合は、比較例3のように第1誘電体24が圧電基板12上全面にある場合に比べ、境界波伝搬方向の第1誘電体24の幅が小さくなる。このため、第1誘電体24の境界波の速さに与える影響が、実施例3は比較例3に比べ小さくなる。よって、第1誘電体24の膜厚変化に対する周波数変化が、実施例3は比較例3に比べ小さくなる。したがって、実施例3に係る弾性波デバイスは、比較例3に係る弾性波デバイスに比べ、周波数を精度良く制御することができる。
【0050】
図13では、実施例3および比較例3に係る弾性波デバイスでの例を示したが、実施例1および比較例1に係る弾性表面波デバイスでも同様の効果を得ることができる。
【0051】
また、実施例1に係る弾性表面波デバイスの弾性表面波伝搬方向の第1誘電体24の幅は、実施例2に係る弾性表面波デバイスの第1誘電体24の幅に比べ小さい。このため、実施例1に係る弾性表面波デバイスは、実施例2に係る弾性表面波デバイスに比べ、第1誘電体24の膜厚変化に対する周波数変化が小さくなる。よって、周波数の制御精度の観点から、実施例1に係る弾性表面波デバイスの方が実施例2に係る弾性表面波デバイスより好ましい。また、境界波およびラブ波が伝搬する弾性波デバイスについても同様の理由から、弾性波伝搬方向の第1誘電体24の幅が小さい実施例3に係る弾性波デバイスが好ましい。
【0052】
実施例3では、第2誘電体26は酸化シリコン膜である例を示した。第2誘電体26はその他の物質でも良いが、周波数の温度特性の改善を図る観点から酸化シリコン膜が好ましい。また、第1誘電体24からの第2誘電体26の膜厚が第1誘電体24からの櫛型電極14および反射電極16の膜厚より厚くすることが好ましい。特に、境界波のエネルギーが圧電基板12表面と第2誘電体26に閉じ込められるために、第2誘電体26の膜厚を0.1λ〜1.0λ程度にすることが好ましい。ここでλとは、櫛型電極14の周期のことである。
【0053】
また、実施例3では、第1誘電体24は酸化アルミニウム膜である例を示したが、その他の物質でも良い。特に、電気機械結合係数の制御が精度良くでき、また、膜厚制御の観点からプロセスを容易に行えるため、第1誘電体24の比誘電率が第2誘電体26の比誘電率より大きい物質が好ましい。よって、窒化シリコン膜等の比誘電率の大きい物質が好ましい。
【0054】
さらに、実施例3では、第3誘電体28は酸化アルミニウム膜である例を示したが、弾性境界波のエネルギーが圧電基板12表面と第2誘電体26に閉じ込められるような、第2誘電体26より音速の速い物質であれば、シリコン膜や窒化シリコン膜等他の物質でもよい。
【0055】
さらに、実施例3では、境界波が伝搬される弾性波デバイスを例に示したが、ラブ波が伝搬される弾性波デバイスの場合も、実施例3と同様に、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができ、また、膜厚制御の観点からプロセスを容易に行うことができる。ここで、ラブ波が伝搬される弾性波デバイスが実施例3に係る境界波が伝搬される弾性波デバイスと異なる点は、第3誘電体28が設けられていない点である。また、ラブ波が伝搬される弾性波デバイスの場合も、周波数の温度特性の改善を図る観点から第2誘電体26に酸化シリコン膜を用いることが好ましい。また、第1誘電体24からの第2誘電体26の膜厚は、第1誘電体24からの櫛型電極14および反射電極16の膜厚より厚くすることが好ましい。特に、周波数の温度特性の改善を図る観点から、第2誘電体26の膜厚を0.1λ〜0.3λ程度にすることが好ましい。
【0056】
実施例1から実施例3では、第1誘電体24が隣り合う電極指間の開口長方向で完全に分離している例を示したが、隣り合う電極指間の開口長方向の一部で第1誘電体24が繋がっていても(つまり隣り合う電極指間で第1誘電体24の少なくとも一部が分離していれば)、圧電基板12上全面に第1誘電体24がある比較例1および比較例3の場合に比べ、第1誘電体24の膜厚変化に対する電気機械結合係数の変化を緩やかにすることができる。ここで、開口長方向とは、弾性波が伝搬する方向と垂直な方向をいう。
【0057】
実施例1から実施例3では、第1誘電体24は酸化アルミニウム膜である例を示した。酸化アルミニウム膜はドライエッチングのエッチング耐性が強いため、第1誘電体24をドライエッチングにより形成する場合に、アンダーカットを少なくすることができる。このため、特性のばらつきを抑えることができる。
【0058】
実施例1から実施例3では、圧電基板12はニオブ酸リチウムである例を示したが、その他の圧電物質でも良い。特に、第1誘電体24の膜厚を厚くすることにより電気機械結合係数を小さくする方向で電気機械結合係数の制御を行うので、電気機械結合係数の大きい物質であれば調整範囲を広く取ることができるため、タンタル酸リチウム等の電気機械結合係数の大きい物質が好ましい。
【実施例4】
【0059】
図14は実施例4に係るフィルタの模式図である。図14を参照に、ラダー型フィルタ30は3つの1ポート共振器32を直列に接続した直列腕共振器と2つの1ポート共振器32を直列腕共振器に対して並列に接続した並列腕共振器とを有している。1ポート共振器32は一対の反射電極R1とこれらの間に設けられた櫛型電極IDT1から構成されている。ここで、1ポート共振器32は実施例1から実施例3のいずれかに係る弾性波デバイスである。ラダー型フィルタ30の一端は例えば入力端子である第1端子40に接続され、他端は例えば出力端子である第2端子42に接続されている。
【実施例5】
【0060】
図15は実施例5に係るフィルタの模式図である。図15を参照に、3つのIDTよりなる2重モードフィルタで構成されるフィルタ34は2つの2重モードフィルタ36を有している。2重モードフィルタ36は一対の反射電極R2とこれらの間に設けられた櫛型電極IDT2、IDT3およびIDT4からなる。一方の2重モードフィルタ36のIDT3には例えば入力端子である第1端子40が接続され、他方の2重モードフィルタ36のIDT3には例えば出力端子である第2端子42が接続されている。ここで、2重モードフィルタ36は実施例1から実施例3のいずれかに係る弾性波デバイスである。2つの2重モードフィルタ36は互いのIDT2および互いのIDT4を接続することで直列に接続されている。
【実施例6】
【0061】
図16は実施例6に係るフィルタの模式図である。図16を参照に、1ポート共振器と2重モードフィルタとを組合せたフィルタ38は、1ポート共振器32と2重モードフィルタ36とを有している。1ポート共振器32は実施例4において図14に示されており、2重モードフィルタ36は実施例5において図15に示されているので説明を省略する。1ポート共振器32のIDT1には例えば入力端子である第1端子40が接続され、2重モードフィルタ36のIDT2およびIDT4には例えば出力端子である第2端子42が接続されている。1ポート共振器32のIDT1と2重モードフィルタ36のIDT3とが接続することで、1ポート共振器32と2重モードフィルタ36とは直列に接続されている。
【0062】
実施例4から実施例6によれば、ラダー型フィルタ、多重モードフィルタで構成されるフィルタおよび1ポート共振器と多重モードフィルタで構成されるフィルタにおいて、電気機械結合係数の制御を精度良く行うことができ、通過帯域の立ち上がりが急峻で挟通過帯域幅を有するフィルタを得ることができる。
【0063】
実施例4から実施例6において、ラダー型フィルタ、多重モードフィルタを組合せたフィルタおよび1ポート共振器と多重モードフィルタとを組合せたフィルタについて説明したが、これらに限られず、例えばこれらのフィルタを組合せたフィルタ等その他のフィルタでもよく、また、これらのフィルタを用いた分波器でも同様の効果を得ることができる。
【0064】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1(a)は従来例1に係る弾性波デバイスの上視図であり、図1(b)は図1(a)のA−A間の断面図である。
【図2】図2は従来例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図3】図3は従来例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図4】図4は従来例4に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図5】図5は比較例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図6】図6は実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図7】図7は実施例1および比較例1における、膜厚と電気機械結合係数との関係を示す図である。
【図8】図8は実施例2に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図9】図9は比較例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図10】図10は実施例3に係る弾性波デバイスの断面図である。
【図11】図11は比較例3において、酸化アルミニウム膜と酸化シリコン膜との、膜厚と電気機械結合係数との関係を示す図である。
【図12】図12は実施例3および比較例3における、膜厚と電気機械結合係数との関係を示す図である。
【図13】図13は実施例3および比較例3における、膜厚と周波数との関係を示す図である。
【図14】図14は実施例4に係るフィルタの模式図である。
【図15】図15は実施例5に係るフィルタの模式図である。
【図16】図16は実施例6に係るフィルタの模式図である。
【符号の説明】
【0066】
12 圧電基板
14 櫛型電極
16 反射電極
18 保護膜
20 酸化シリコン膜
22 酸化アルミニウム膜
24 第1誘電体
26 第2誘電体
28 第3誘電体
30 ラダー型フィルタ
32 1ポート共振器
34 フィルタ
36 2重モードフィルタ
38 フィルタ
40 第1端子
42 第2端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられた第1誘電体と、
前記第1誘電体上に設けられた弾性波を励振する電極と、
前記電極を構成する電極指と、を具備し、
前記第1誘電体が隣り合う前記電極指の間で少なくとも一部が分離していることを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第1誘電体の側面と前記電極指の側面とが同一面に形成されていることを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記電極を覆うように設けられた第2誘電体を具備し、
前記第1誘電体の比誘電率が前記第2誘電体の比誘電率より大きいことを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記第1誘電体上面からの前記第2誘電体の膜厚が前記第1誘電体上面からの前記電極の膜厚より厚いことを特徴とする請求項3記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第1誘電体は酸化アルミニウム膜および窒化シリコン膜のいずれか一方であり、前記第2誘電体は酸化シリコン膜であることを特徴とする請求項3または4記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記第2誘電体上に第3誘電体を具備し、
前記第3誘電体の音速が前記第2誘電体の音速より速いことを特徴とする請求項4または5記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第3誘電体は酸化アルミニウム膜であることを特徴とする請求項6記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記圧電基板はニオブ酸リチウムおよびタンタル酸リチウムのいずれか一方であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項記載の弾性波デバイスを有することを特徴とするフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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