説明

弾性波フィルタ装置

【課題】本発明は、主として無線通信機器にて使用される弾性波フィルタ装置に関して、平衡度の劣化を抑制することを目的とする。
【解決手段】本発明は、圧電基板1と、この圧電基板1上に設けられた縦モード結合型フィルタ6とを備え、前記縦モード結合型フィルタ6は前記圧電基板1の伝播方向に配置された一対の反射器3と、この反射器間に併設された複数の櫛形電極からなり、前記複数の櫛形電極のうち所定の櫛形電極2bが配置された前記圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種無線通信機器等に用いられる弾性波フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話などの無線通信機器におけるRF回路ブロックに用いられる弾性波フィルタ装置は、不平衡型アンテナと平衡型増幅器との間に配置されることが多く、平衡−不平衡変換機能を搭載するバランス型弾性波フィルタ装置の開発が進められている。
【0003】
そして、このバランス型弾性波フィルタ装置に求められる重要な特性として平衡度の改善が挙げられる。この平衡度の劣化原因は主に不平衡端子から各平衡端子までの総容量の差に起因するものであり、この改善策としては対向する櫛形電極外側部分の電極指を間引きすることが提案されている。
【0004】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2004−7713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、弾性波フィルタ装置を構成する所定の櫛形電極に対して間引き重み付けを行う場合には、櫛形電極における電極を間引くことで交差幅を大きくしたり電極指本数を増やしたりしなければならず大型化に繋がってしまうため、不平衡端子と平衡端子間に生じる総容量差をなくすことが実質的に困難なものとなっていた。
【0006】
そこで、本発明はこのような問題を解決し、弾性波フィルタ装置の平衡度の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために本発明は、弾性波フィルタ装置を構成する圧電基板において所定の櫛形電極が配置された領域の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた構成としたのである。
【発明の効果】
【0008】
この構成により、弾性波フィルタ装置の平衡度の劣化を抑制することが出来るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。
【0010】
(実施の形態1)
図1は弾性波の一例である弾性表面波を用いた弾性表面波フィルタ装置を模式的に表したものであり、その基本構成は、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなどの圧電基板1上に櫛形電極2a,2b,2cを反射器3の間に並設し、中央の櫛形電極2aが不平衡端子4に接続され、両側の櫛形電極2b,2cがそれぞれ平衡端子5a,5bに接続された3電極型の縦モード結合型フィルタ6を用いた構造であり、反射器3及び櫛形電極2a,2b,2cは圧電基板1の伝播方向に沿って配置されている。
【0011】
そして、この弾性表面波フィルタ装置においては、3つの櫛形電極2a,2b,2cの電極配置を左右対称型として、さらに片側の櫛形電極2aが配置された圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域と比べ反転させた構造としていることでこの弾性表面波フィルタ装置の平衡度を向上させている。
【0012】
すなわち、この弾性表面波フィルタ装置では隣り合う電極指ピッチをλ/4に設定しているため、反射器3間で励起される波形は波線9として示されるように、中央の櫛形電極2aにおける不平衡端子4に接続された電極指8a,8b部分を“+”とした場合、両外側の櫛形電極2b,2cにおける平衡端子5a,5bに接続された電極指10部分が“−”となるのであるが、一方の櫛形電極2aが設けられた圧電基板1の領域7の分極特性が反転されていることで、この領域7に設けられた櫛形電極2aから出力される信号の位相は定在波による位相“−”を反転した“+”として出力されるので平衡端子5a,5bからの出力信号の位相が逆転した平衡出力となる。
【0013】
このように図1に示された電極構造の弾性表面波フィルタにおいて、圧電基板1の分極特性を部分的に反転することなく平衡出力を確保しようとすれば、櫛形電極2aを図中において左右反転させた図2に示されるような櫛形電極2dとすることで、一方の平衡端子5aに接続された電極指10の位相を“−”とし他方の平衡端子5bに接続された電極指10の位相を“+”というように平衡出力を得られるのであるが、それぞれの平衡端子5a,5bと不平衡端子4との間で形成される寄生容量を比較した場合、櫛形電極2aと櫛形電極2bの間に生じる寄生容量は、不平衡端子4に接続された電極指8aと平衡端子5aに接続された電極指10が直接対峙しているのに対して、櫛形電極2aと櫛形電極2dの間に生じる寄生容量は不平衡端子4に接続された電極指8bと平衡端子5bに接続された電極指10との間にアース接続される電極指11を介して対峙していることから、寄生容量に差が生じ、結果的にバランス度を劣化させた構造となる。
【0014】
一方、図1に示した本発明の弾性表面波フィルタ装置のように、圧電基板1における所定の領域7を分極反転することにより、不平衡端子4から平衡端子5a,5bまでの寄生容量の総和を一致させ逆位相の信号を形成できるようになり、結果的にバランス型の弾性表面波フィルタ装置の平衡度の劣化を抑制することが出来るのである。
【0015】
なお、この図1に示された弾性表面波フィルタ装置においては縦モード結合型フィルタ6における櫛形電極2a,2b,2cの電極構造を左右対称型の構造を挙げて説明したが、本発明はこの構造に限定されるものではなく、例えば図3に示されるように、櫛形電極2b,2c,2eの電極構造を左右対称型としない場合においても、先に述べたような隣り合う櫛形電極2b,2eおよび櫛形電極2c,2eにおける電極指(8a〜11〜10、8b〜11〜10)の配列状態を一致させることで、不平衡端子4から各平衡端子5a,5bに至る寄生容量の総和を一致させることができ、平衡度の劣化を抑制出来るのである。
【0016】
また、縦モード結合型フィルタ6として反射器3の間に櫛形電極(2a,2b,2c或いは2a,2b,2d或いは2b,2c,2e)を並設した3電極構造を用いて説明したが、本発明はこの構造に限らず、反射器3の間に5つの櫛形電極を並設する5電極構造や反射器3の間に7つの櫛形電極を並設する7電極構造といった3以上の奇数並設構造においても同様の効果を得ることが出来るのである。
【0017】
また、圧電基板1に対して部分的に分極特性を反転させるにあたっては、圧電基板1上の分極反転しない領域(領域7以外)にレジスト膜を被覆して部分的にプロトン交換処理を施し加熱することで部分的に分極特性を反転する方法や、圧電基板1の分極反転したい領域7に所定の電極パターンを形成しパルス電界を印加することで電極パターン直下の分極特性を反転させる方法など、一般的に知られている分極反転技術を用いることで実施できるものである。
【0018】
(実施の形態2)
図4に示す弾性表面波フィルタ装置は、実施の形態1に示された一方の平衡端子5aに接続される櫛形電極2b,2cが配置された圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた構造の変形例であり、上述した実施の形態1と同様の構成については同じ符号を付して説明する。
【0019】
この弾性表面波フィルタ装置は、不平衡端子4に対して縦モード結合型フィルタ6を並列接続し、縦モード結合型フィルタ6における一方の平衡端子5aに接続された両外側の櫛形電極2b,2cが配置された圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた構造としたもので、平衡端子5a,5bに接続された各縦モード結合型フィルタ6における櫛形電極2a,2b,2cが左右対称形状であり、かつ不平衡端子4に並列接続された縦モード結合型フィルタ6も左右対称形状であるので、不平衡端子4から各平衡端子5a,5bに至る寄生容量の総和を一致させることができ、平衡度の劣化を抑制出来るのである。
【0020】
(実施の形態3)
図5に示す弾性表面波フィルタ装置は、実施の形態2に示された一方の平衡端子5aに接続される櫛形電極2aが配置された圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた構造の変形例であり、上述した実施の形態2と同様の構成については同じ符号を付して説明する。
【0021】
この弾性表面波フィルタ装置は、各縦モード結合型フィルタ6における両外側の櫛形電極2b,2cを不平衡端子4に接続し、中央の櫛形電極2aを平衡端子5a,5bに接続した電極構造とし、一方の平衡端子5aに接続された櫛形電極2aが配置された圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた構造としたもので、平衡端子5a,5bに接続された各縦モード結合型フィルタ6における櫛形電極2a,2b,2cが左右対称形状であり、かつ不平衡端子4に並列接続された縦モード結合型フィルタ6も左右対称形状であり、不平衡端子4から各平行端子5a,5bに至る寄生容量の総和を一致させることができ、平衡度の劣化を抑制出来るのである。
【0022】
(実施の形態4)
図6に示す弾性表面波フィルタ装置は、実施の形態2で示された弾性表面波フィルタ装置における分極反転する領域7のみを変えた変形例であり、一方の縦モード結合型フィルタ6における不平衡端子4に接続される櫛形電極2aが配置された圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた構造となっており、電極配置が上述した実施の形態2と同様に不平衡端子4から各平衡端子5a,5bに至る寄生容量の総和を一致させた状態で分極反転により位相が逆転されているので、上述した各実施の形態と同様に平衡度の劣化を抑制出来るのである。
【0023】
(実施の形態5)
図7に示す弾性表面波フィルタ装置は、実施の形態3で示された弾性表面波フィルタ装置における分極反転する領域7のみを変えた変形例であり、一方の縦モード結合型フィルタ6における不平衡端子4に接続される両外側の櫛形電極2b,2cが配置された圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた構造となっており、電極配置が上述した実施の形態3と同様に不平衡端子4から各平行端子5a,5bに至る寄生容量の総和を一致させた状態で分極反転により位相が逆転されているので、上述した各実施の形態と同様に平衡度の劣化を抑制出来るのである。
【0024】
(実施の形態6)
図8に示す弾性表面波フィルタ装置は、実施の形態1に示された3電極型の縦モード結合型フィルタを用いた弾性表面波フィルタ装置の変形例であり、上述した実施の形態1と同様の構成については同じ符号を付して説明する。
【0025】
この弾性表面波フィルタ装置は、縦モード結合型フィルタ6における両外側の櫛形電極2b,2cを不平衡端子4に接続し、中央の櫛形電極12を圧電基板1の伝播方向に分割した分割櫛形電極12a,12bを直列接続した構造とするとともに、各分割櫛形電極12a,12bにそれぞれ平衡端子5a,5bを接続した電極構造として、不平衡端子4に接続された一方の櫛形電極2bが配置された圧電基板1の領域7の分極特性を他の領域の分極特性と反転させた構造としたもので、平衡端子5a,5bに接続された縦モード結合型フィルタ6における櫛形電極2b,2c,12が左右対称形状であり、不平衡端子4から各平衡端子5a,5bに至る寄生容量の総和を一致させた状態で分極反転により位相が逆転されているので、上述した各実施の形態と同様に平衡度の劣化を抑制出来るのである。
【0026】
なお、上述した各実施の形態においては弾性波フィルタ装置として弾性波の一例である弾性表面波を利用した弾性表面波フィルタ装置を例に挙げて説明したが、境界波などの他の弾性波を利用した弾性波フィルタにおいても同様の作用、効果が得られるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る弾性表面波デバイスは、平衡度の劣化を抑制できるという効果を有し、主として無線通信機器に用いられる弾性波フィルタ装置において有用となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施の形態1における本発明の弾性表面波フィルタ装置を示す模式図
【図2】同弾性表面波フィルタ装置の比較例を示す模式図
【図3】同弾性表面波フィルタ装置の他の実施の形態を示す模式図
【図4】実施の形態2における本発明の弾性表面波フィルタ装置を示す模式図
【図5】実施の形態3における本発明の弾性表面波フィルタ装置を示す模式図
【図6】実施の形態4における本発明の弾性表面波フィルタ装置を示す模式図
【図7】実施の形態5における本発明の弾性表面波フィルタ装置を示す模式図
【図8】実施の形態6における本発明の弾性表面波フィルタ装置を示す模式図
【符号の説明】
【0029】
1 圧電基板
2a,2b,2c,2d,2e,12 櫛形電極
3 反射器
4 不平衡端子
5a,5b 平衡端子
6 縦モード結合型フィルタ
7 領域
12a,12b 分割櫛形電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、この圧電基板上に設けられた縦モード結合型フィルタとを備え、前記縦モード結合型フィルタは前記圧電基板の伝播方向に配置された一対の反射器と、この反射器間に併設された複数の櫛形電極からなり、前記複数の櫛形電極のうち所定の櫛形電極が配置された前記圧電基板の領域の分極特性を他の領域の分極特性と反転させたことを特徴とする弾性波フィルタ装置。
【請求項2】
圧電基板に不平衡端子と一対の平衡端子を設け、前記一方の平衡端子に接続される櫛形電極が配置された前記圧電基板の領域の分極特性を他の領域の分極特性と反転させたことを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項3】
前記不平衡端子に対して第1の縦モード結合型フィルタと第2の縦モード結合型フィルタを並列接続し、前記第1の縦モード結合型フィルタに一方の平衡端子を接続し、前記第2の縦モード結合型フィルタに他方の平衡端子を接続したことを特徴とする請求項2に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項4】
圧電基板に不平衡端子と一対の平衡端子を設け、前記不平衡端子に対して第1の縦モード結合型フィルタと第2の縦モード結合型フィルタを並列接続し、前記第1の縦モード結合型フィルタに一方の平衡端子を接続し、前記第2の縦モード結合型フィルタに他方の平衡端子を接続し、前記第1の縦モード結合型フィルタにおける前記不平衡端子に接続される櫛形電極が配置された前記圧電基板の領域の分極特性を他の領域の分極特性と反転させたことを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ装置。
【請求項5】
圧電基板に不平衡端子と一対の平衡端子を設けるとともに、複数の櫛形電極は前記不平衡端子に接続された第1、第2の櫛形電極と、この第1、第2の櫛形電極の間に設けられた第3の櫛形電極とから構成し、前記第3の櫛形電極は前記圧電基板の伝播方向に分割した分割櫛形電極を直列接続して構成するとともに前記各分割櫛形電極に前記平衡端子を接続し、前記第1、第2の櫛形電極のいずれか一方が配置された前記圧電基板の領域の分極特性を他の領域の分極特性と反転させたことを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−10448(P2009−10448A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167139(P2007−167139)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】