説明

弾性波フィルタ

【課題】通過帯域の劣化を抑制することができ、また小型化を図ることができる弾性波フィルタを提供する。
【解決手段】第1の直列腕2、第2の直列腕3及び並列腕3の弾性波共振子が共通の接続点に接続された回路を備えた弾性波フィルタにおいて、第1の直列腕2と、第2の直列腕3又は並列腕4の一方と、を左右方向に隣接して位置させ、これらの並びの後方側に第2の直列腕3又は並列腕4の他方を位置させ、更に第1の直列腕2、第2の直列腕3、並列腕4内の所定のバスバー22b、32b、42aを共通の接続点側に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAW(Surface Acoustic Wave)共振子等の弾性波共振子を備えた弾性波フィルタに係る。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動体端末に実装され、高周波信号の弁別を行う弾性波フィルタには、例えば図9に示すように1個の直列腕101と1個の並列腕102とを基本区間103とする定K形回路を形成し、この定K形回路の基本区間103を複数組直列に接続した構成のラダー型フィルタ100が採用されている。そして、これら基本区間103内の直列腕101の共振周波数と並列腕102の反共振周波数とをほぼ一致させることにより特定波長を有する信号を通過させることができる。
【0003】
このような直列腕101や並列腕102には、小型化が容易でありフォトリソグラフィ技術により複数の共振子を同時に形成可能なSAW共振子等が採用されることが多い。この場合には、例えば図9中に模式的に示すようにこれらの共振子101、102を共通のチップ等の上に同時形成することにより既述の定K形回路の基本区間103をモジュール化し、この共振子モジュール110を複数個接続してラダー型フィルタ100を構成することが行われている。
【0004】
図10は、従来の共振子モジュール110の構成を示した平面図であり、この共振子モジュール110には図9に示した2つ分の基本区間103a、103bが搭載されている。なお以下の説明においては、図面に向かって上方側を前方側、下方側を後方側として説明をする。図10に示した共振子モジュール110は、圧電基板131上に、IDT(Interdigital Transducer)電極とその両サイドに設けられた反射器とを含む矩形状の3つの電極部111a、111b、121が前後方向に平行に並ぶようにパターニングされ、これらを信号線132にて互いに接続した構造となっている。SAW共振子は、これら電極部111a、111b、121とその下層の圧電基板131とから構成され、前方側の電極部111aを入力ポート136と接続し、また後方側の電極部111bを出力ポート137と接続することにより、これらのSAW共振子は図9に示した定K形回路の基本区間103a、103bの直列腕101a、101bとして機能する。また中段側の電極部121を接地することにより、当該SAW共振子は定K形回路の並列腕102として機能する。なお、図10の中段に示した並列腕102は、これ1つで図9に示した基本区間103a、103b夫々に対応する2つ分の並列腕102a、102bの役割を果たしている。
【0005】
図10に示した共振子モジュール110は例えば1.0mm×1.5mm程度の圧電基板131上に形成され、これまでにも小型化が図られてきたが、図中に一点鎖線で囲った空きスペースS1〜S4が残されており更なる小型化の余地がある。例えば空きスペースS1、S2は、前方側の直列腕101aと後方側の直列腕101bとを結ぶ幅広の信号線132が各電極部111a、111b、121の配置された領域の左方へと大きくはみ出していることにより形成されている。また、空きスペースS3、S4は、直列腕101a、101bと直列腕101との各電極部111a、111b、121のサイズの違い(当該例においては幅の違い)により形成されている。また共振子モジュール全体は例えば金属製のカバーにより覆われているが、便宜上図示を省略した。
【0006】
ここで図10中の133a〜133dは共振子モジュール110の方向確認用のアライメントマーク、134はパターニングの仕上り確認パターン、135は共振子モジュール110の品番等識別用の識別コードであり、これらは上述の空き領域S1〜S4に設けられている。このように空き領域S1〜S4は、共振子モジュール110を管理する情報を設ける領域としても活用されているが、全く活用されていない無駄なスペースも多く、共振子モジュール110の更なる小型化のためにはこうした無駄なスペースを可能な限り小さくする必要がある。
【0007】
このような空きスペースS1〜S4は、信号線132を細くしたり、各電極部111a、111b、121のサイズを揃えたりすることによって解消できるようにも思える。しかしながら信号線132の幅は信号のオーミックロス(抵抗損)低減の観点から決定されており、また各電極部111a、111b、121のサイズも直列腕101a、101b、並列腕102の特性(共振周波数等)に関する設計パラメータとなっていて、いずれの値も空き領域S1〜S4の解消という観点だけでは決定できない。
【0008】
また上述の空きスペースS1〜S4とは別の問題として、オーミックロス防止の観点から図10に示すような面積の大きな信号線132を採用すると、信号線132の寄生容量が大きくなってフィルタの通過帯域の劣化を招くという問題もある。
【0009】
なお特許文献1には、直列腕共振子のIDT電極間を結ぶ信号線として並列腕共振子の反射器を用いることにより、別途信号線を配置するスペースを省いたラダー型フィルタが記載されている。しかしながら、反射器に多数設けられている電極指は例えば数μm程度と非常に細く、このような細い電極指を信号線として用いることはオーミックロスが大きく現実的でない。一方で、反射器全体の面積は従来の信号線と比較しても大きいため、寄生容量が大きくなってフィルタの通過帯域が劣化してしまう。
【特許文献1】特開2000−31780号公報:第0023段落、図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情に基づいて行われたものであり、その目的は、通過帯域の劣化を抑制することができ、また小型化を図ることができる弾性波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係わる弾性波フィルタは、第1の直列腕の弾性波共振子、第2の直列腕の弾性波共振子及び並列腕の弾性波共振子が共通の接続点に接続された回路を備えた弾性波フィルタにおいて、
圧電基板上に前後に互いに対向して設けられた第1のバスバー及び第2のバスバーと、これらバスバー間に設けられたIDT電極と、により前記第1の直列腕の弾性波共振子を構成することと、
この第1の直列腕の弾性波共振子の左右方向に隣接して位置し、圧電基板上に前後に互いに対向して設けられた第3のバスバー及び第4のバスバーと、これらバスバー間に設けられたIDT電極と、により、前記第2の直列腕の弾性波共振子及び前記並列腕の弾性波共振子のうちの一方を構成することと、
前記第1の直列腕の弾性波共振子と前記第2の直列腕の弾性波共振子及び前記並列腕の弾性波共振子のうちの一方との並びの後方側に位置し、圧電基板上に前後に互いに対向して設けられた第5のバスバー及び第6のバスバーと、これらバスバー間に設けられたIDT電極と、により、前記第2の直列腕の弾性波共振子及び前記並列腕の弾性波共振子のうちの他方を構成することと、
前記第2のバスバー、第4のバスバー及び第5のバスバーは、前記共通の接続点側に位置していることと、を備えたことを特徴とする。
ここで前記第4のバスバーは、前記第2のバスバーを延長させた部位により構成されていることが好ましく、更に前記第5のバスバーは、前記第2のバスバー及び第4のバスバーと共通化されていることがより好ましい。
【0012】
また前記弾性波フィルタは、直列腕の弾性波共振子及び並列腕の弾性波共振子により構成された定K形回路を基本区間とし、この基本区間を2つ以上ラダー型に接続することと、
出力側に並列腕の弾性波共振子が位置する第1の基本区間に含まれる直列腕の弾性波共振子が前記第1の直列腕の弾性波共振子に相当することと、
前記第1の基本区間に隣接し、入力側に並列腕の弾性波共振子が位置する第2の基本区間に含まれる直列腕の弾性波共振子が前記第2の直列腕の弾性波共振子に相当することと、を備えるように構成するとよく、
更には前記第1の直列腕の弾性波共振子及び第2の直列腕の弾性波共振子は、左右方向に並んで配置され、
前記基本区間に含まれる並列腕の弾性波共振子は、前記第1の直列腕の弾性波共振子及び第2の直列腕の弾性波共振子の並びの後方側に位置するよう構成するとよい。
【0013】
更にまた、各々、上述の弾性波フィルタからなる第1の弾性波フィルタと第2の弾性波フィルタとを互いに接続し、この第1の弾性波フィルタに設けられた第6のバスバーと、第2の弾性波フィルタに設けられた第6のバスバーと、が互いに隣接して平行に伸びるようにこれらの弾性波フィルタを配置して、夫々の弾性波フィルタの第6のバスバー同士を接続するように構成してもよく、これに加えて前記第1の弾性波フィルタの第6のバスバーと、第2の弾性波フィルタの第6のバスバーとを共通化してもよい。このとき、前記第1の弾性波フィルタ及び第2の弾性波フィルタの全てのIDT電極及びバスバーは、共通の圧電基板上に設けられていることが好ましい。
これとは別に、上述の各弾性波フィルタの第1の直列腕の弾性波共振子、第2の直列腕の弾性波共振子及び並列腕の弾性波共振子からなる回路を、モジュール用の圧電基板を用いて共振子モジュールとして構成し、これら共振子モジュールを配線基板上に複数搭載してもよい。
【0014】
この他、各弾性波共振子内の2本のバスバー及びIDT電極を電極部とすると、
前記第1の直列腕、第2の直列腕及び並列腕の各弾性波共振子の電極部が収まる矩形領域の面積に対し、これら各弾性波共振子の電極部の設置領域の面積の合計値の比が0.8以上であることが好適であり、前記電極部には、前記IDT電極に併設された反射器を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、共通の接続点にて接続された第1、第2の直列腕及び並列腕を構成する3つの弾性波共振子のうち2つを左右方向に隣接して並べ、残る1つをこれらの並びの後方側に位置させているので、共通の接続点に接続される各弾性波共振子のバスバーを互いに近接させることができる。この結果、これらのバスバーの接続点となる信号線を短くすることが可能となり、信号線を引き回すことによって生じる空きスペースを小さく抑え、弾性波フィルタの更なる小型化が可能となる。また、各弾性波共振子のバスバーを共通化して信号線として用いた場合には、信号線の引き回しを起因とする空きスペースを無くすことが可能となり弾性波フィルタを更に小さくできる。
更にまた、上述のように信号線を短くし、またバスバーを信号線として活用することにより、幅広の長い信号線を引き回す場合と比較して、オーミックロスによる信号損失や寄生容量増大によるフィルタの通過帯域の劣化を抑えることが可能となり、当該フィルタの性能向上に貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態として、弾性波共振子にSAW共振子を用いた共振子モジュールについて説明をする。図1は、本実施の形態に係る共振子モジュール1の平面図である。共振子モジュール1は、2つの直列腕2、3と、これらの直列腕2、3に共通して用いられる1つの並列腕4と、からなる定K形回路として構成され、図9に示した2組分の基本区間103a、103bがモジュール化されている。以下、2つの直列腕2、3を区別するため、後述の入力ポート52と接続された直列腕を第1の直列腕2、出力ポート53と接続された直列腕を第2の直列腕3と呼ぶ。
【0017】
第1の直列腕2、第2の直列腕3、並列腕4は、夫々周知のSAW共振子から構成されており、サイズや互いの接続部位が異なる他は、ほぼ同様の構成を有しているので、これらを代表して第1の直列腕2の構成について説明する。第1の直列腕2は、LiTaOやLiNbO、SiO等の圧電基板51上の予め定めた領域に電極部20を配置することによって形成され、電極部20はIDT電極21a、21bと、これらIDT電極21a、21bの左右に配置された反射器24a、24bとにより構成されている。
【0018】
IDT電極21a、21bは、前後に互いに対向して設けられた細長い矩形状のバスバー(第1のバスバー22a、第2のバスバー22b)に多数の電極指23a、23bを櫛歯状に接続した形状をしており、互いの電極指23a、23bを交差指状に交差させて、前後方向に相対配置させた構成となっている。これらのIDT電極21a、21bのうち、前方側の第1のバスバー22aは入力ポート52と接続され、後方側の第2のバスバー22bは他の共振子(第2の直列腕3、並列腕4)と接続される。これにより、前方側のIDT電極21aに入力された電気信号は、交差された電極指23a、23b間で電気-機械変換され弾性表面波(SAW)となって圧電基板51表面を伝搬し、対向する後方側のIDT電極21bにて逆変換され、再び電気信号として取り出される。
【0019】
反射器24a、24bは、IDT電極21a、21bの左右外側へ伝搬したSAWを反射して、反射器24a、24b内にSAWを閉じ込める役割を果たす。これらIDT電極21a、21b、反射器24a、24bは、例えばアルミニウムからなる電極部材をフォトリソグラフィによってパターニングすることにより他の電極部30、40と同時期に形成される。また図1に示すように、これらIDT電極21a、21b、反射器24a、24bから構成される電極部20は全体として「高さH11×幅L11」の矩形状となっている。
【0020】
第2の直列腕3は、上述の第1の直列腕2と同様の構成を備えている。但し、前後に互いに対向して設けられたバスバー32a、32bのうち、前方側の第3のバスバー32aは出力ポート53と接続され、後方側の第4のバスバー32bは、他の共振子(第1の直列腕2、並列腕4)と接続されている点と、電極部30の幅が「L12(>L11)」となっている点と、において第1の直列腕2と異なっている。
【0021】
並列腕4についてもその構成については第1の直列腕2と同様であるが、前後に互いに対向して設けられたバスバー42a、42bのうち、前方側の第5のバスバー42aは他の直列腕2、3と接続され、後方側の第6のバスバー42bは接地されている点と、電極部40全体のサイズ(設置領域の面積)が「高さH12×幅L(=L11+L12)」となっている点と、において既述の直列腕2、3の構成と異なる。
【0022】
以上の構成を備えた3つのSAW共振子2〜4は、背景技術において説明した空きスペースの発生を抑え、共振子モジュール1をより小型化しつつその性能を向上させるように、図10に示した従来型の共振子モジュール110とは異なるパターンで配置されている。以下、これらの配置パターンについて説明する。
【0023】
SAW共振子2〜4の配置パターンに関し本実施の形態に係る共振子モジュール1は、圧電基板51表面の前方側に第1の直列腕2、第2の直列腕3を左右に隣接させて配置し、これら第1の直列腕2、第2の直列腕3の並びの後方側に並列腕4を配置した構成となっている。3つのSAW共振子2〜4をこのように配置することにより、互いに接続され合う直列腕2、3の第2、第4のバスバー22b、32bと並列腕4の第5のバスバー42aとが隣り合う状態となる。そこで更に、これら隣り合うバスバー(第2のバスバー22b、第4のバスバー32b、第5のバスバー42a)を共通化して各SAW共振子2〜4の接続点(共通バスバー10)を構成し、この共通バスバー10を信号線として用いることで、従来例のような信号線132を引き回すスペースを省略することが可能となり、図10中に示した空きスペースS1、S2を生じないようにしている。
【0024】
また本実施の形態では、図1に示すように配置された3つのSAW共振子2〜4の各電極部20〜40のサイズを既述のように構成することで、前方側に隣接して並ぶ2つの電極部20、30の高さを揃えることができ、更にこれら2つの電極部20、30全体の左右外端位置と後方側の電極部40の左右外端位置とを揃えることができる。
【0025】
この結果、3つの電極部20〜40全体は「高さH(=H11+H12)×幅L」の矩形領域内に納められ、当該矩形領域とほぼ同サイズ(例えば、高さH(≒H)×幅L(≒L)(但し、H≧H、L≧L))の圧電基板51上に共振子モジュール1を形成できる。この結果、図10に示したSAW共振子サイズの違いに基づく空きスペースS3、S4を生じさせないようにすることが可能となる。
【0026】
以上に説明したように、直列腕2、3、並列腕4の電極部20〜40形状及びそのサイズを図1のように構成することで、空きスペースの殆どない配置を実現することができる。しかしながら背景技術にて説明したように、各電極部20〜40の高さや幅はSAW共振子2〜4の特性を決定する設計パラメータとなっているため、必ずしも図1に示したような理想的なサイズ構成に設計できるとは限らない。そこで、このように電極部20〜40のサイズが不揃いとなっている場合の配置パターンについて以下に説明する。
【0027】
図2(a)、図2(b)は第1の直列腕2と第2の直列腕3との電極部20、30の高さが揃っておらず、且つ第1の直列腕2、第2の直列腕3トータルの電極部20、30の幅と並列腕4の電極部40の幅とが異なっている場合の平面図である。このような場合においては、図1に示したように第1の直列腕2、第2の直列腕3、並列腕4全体の電極部20〜40の形状を矩形状にすることができないため、図2(a)にR〜Rで示し、図2(b)にR’、R’で示した空きスペースを生じている。
【0028】
しかしながら図2(a)、図2(b)の場合においても共通バスバー10を共通化しているので、図10に示したような信号線132を引き回すことによる空きスペースは生じていない。また、第1の直列腕2、第2の直列腕3全体の電極部20、30の幅と、並列腕4の電極部40の幅とを比較して、いずれか幅の狭い方の左右外端の位置を幅の広い方の左右外端の位置よりも内側に位置させるように各電極部20〜40を配置している。このような配置により、幅の狭い方の電極部20〜40の外端が幅の広いほうの電極部20〜40の外端よりも外側にはみ出すことによる更なる空きスペースの発生を避けている。
【0029】
更に、電極部20〜40のサイズ(設置領域の面積)が不揃いであるために空きスペースを生じてしまう場合であっても、例えば以下の手順で空きスペースの大きさを予め設定した許容率以内に抑えることができる。
(手順1)3つのSAW共振子2〜4が収まる矩形領域のサイズ(幅L×高さH)を決定する。
(手順2)(手順1)にて設定した矩形領域に対して、許容できる空きスペースの割合(空きスペース許容率)を設定する。
(手順3)仕様に基づいて第1の直列腕2の電極部20サイズ(幅L21×高さH21)、第2の直列腕3の電極部30サイズ(幅L22×高さH22)、並列腕4の電極部40サイズ(幅L23×高さH23)を設計する。
(手順4)設計した各電極部20〜40サイズが以下の(1)式を満足するか確認する。
(H×L−Σ(H2n×L2n))/(H×L)≦x…(1)
(n=1,2,3)
ここで、
:H21+H23、H22+H23のうちいずれか大きい値
:L21+L22、L23のうちいずれか大きい値
x:空きスペース許容率
(手順5)(1)式を満足する結果となった場合には設計を完了し、満足しなかった場合には、結果が収束するまで(手順3)〜(手順4)を繰り返す。
(手順6)(手順5)の結果が収束しなかった場合には、矩形領域のサイズ(幅L×高さH)を変更して(手順1)〜(手順5)までを繰り返す。
なお、上記(1)式に代えて以下の(1)’式を用いても同様の結果を得られる。
Σ(H2n×L2n)/(H×L)≧1−x…(1)’
(n=1,2,3)
【0030】
以上の手順で設計されたSAW共振子2〜4の配置パターンにおいては、前方側の第1の直列腕2と第2の直列腕3との電極部20、30のうち、前方側へ飛び出している縁の延長線と、これら2つの直列腕2、3全体の電極部20、30の左右外端と、後方側の並列腕4の電極部40の左右外端とのうち外側に位置する方の左右外端の延長線と、並列腕4の電極部40の後方側の縁の延長線と、により囲まれる矩形領域に対し、3つのSAW共振子2〜4全体の電極部20〜40の占有面積の比が予め定められた値「1−x」以上となる。この結果、空きスペースを許容率「x」以内の値に抑えつつ、仕様通りの性能を備えた共振子モジュール1が得られる。空きスペース許容率は、例えば0.2以下となることが好ましい。
【0031】
このようにして設計された共振子モジュール1は、例えば図3に示すように、第1の共振子モジュール1a(図3中、前方側に示してある)の第6のバスバー421bと、第2の共振子モジュール1b(図3中、後方側)の第6のバスバー422bとが互いに隣接して平行に伸びるようにこれら2つの共振子モジュール1a、1bを構成するIDT電極を共通の圧電基板51上にパターニングし、更に夫々の第6のバスバー421b、422b同士を共通化して接続することにより、これらの共振子モジュール1a、1bを一体に構成できる。そして第1の共振子モジュール1aの第1の直列腕2aを入力ポート52aと接続し、第2の共振子モジュール1bの第2の直列腕3bを出力ポート53bと接続することにより図4の回路図に示すように、各共振子モジュール1a、1bを形成する定K形回路がラダー型に接続されたラダー型フィルタ100を1つのチップ内に構成することができる。更に、圧電基板51上に形成する共振子モジュール1の数を更に増やすことにより、これらを直列に接続することで、より多くの定K形回路を含むラダー型フィルタ100を形成することもできる。なお、第1、第2の共振子モジュール1a、1bにおける各直列腕2a、2b、3a、3b及び並列腕4a、4bの配列法については、図6(a)、図6(b)の説明にて後述する。
【0032】
また、ラダー型フィルタ100の構成法は、図3、図4に示した例に限定されるものではなく、例えば図1に示した各共振子モジュール1を小さなチップ状に製造し、図5に示すようにこれらを共通の配線基板54上に複数個並べて搭載し、互いの出力ポート53と入力ポート52とをボンディングすることによりK形回路をラダー型に接続したラダー型フィルタ100を構成してもよい。
【0033】
以上に説明した本発明の実施の形態によれば以下の効果が得られる。弾性波フィルタの直列腕、並列腕を構成する3つのSAW共振子1〜3のうち2つ(第1の直列腕2、第2の直列腕3)をその左右方向に隣接して並べ、残る1つ(並列腕4)をこれらの並びの後方側に位置させることにより、各SAW共振子2〜4のバスバー(第2のバスバー22b、第4のバスバー32b、第5のバスバー42a)を互いに近接させることができる。この結果、これらのバスバーの接続点を共通化して共通バスバー10を構成し、この共通バスバー10に信号線として利用することができるので、図10に示した空きスペースS1、S2がなくなって、共振子モジュール1の更なる小型化が可能となる。
【0034】
また、共通バスバー10を信号線として用いることにより、従来のように幅広の長い信号線を引き回す必要がなくなるので、信号線部分でのオーミックロスによる信号損失や寄生容量の増大によるフィルタの通過帯域の劣化を防止することが可能となり、当該フィルタの性能向上に貢献する。
【0035】
なお、図1、図2(a)、図2(b)に示した共振子モジュール1においては、前方側に左右に並べて第1の直列腕2、第2の直列腕3を配置し、これらの並びの後方に並列腕4を配置した例を示したが、前方側、後方側に夫々配するSAW共振子2〜3は、このパターンに限定されない。例えば図6(a)に示すように、前方側に第1の直列腕2と並列腕4とを並べて配置し、後方側に第2の直列腕3を配置してもよく、また図6(b)に示すように、第1の直列腕2を後方側へ配置してもよい。
【0036】
ここで、空きスペース発生の防止、オーミックロスや寄生容量低減の観点からは、共通バスバー10を信号線として用いることが好ましいが、必要のある場合には、各バスバー(第2のバスバー22b、第4のバスバー32b、第5のバスバー42a)を共通化せずに別途信号線を設け、共通の接続点にて接続してもよい。実施の形態に係る既述の配置パターンを選択することで、これらのバスバー22b、32b、42aは互いに近接した位置に配置されるので、信号線の長さを必要最小限に抑えることが可能となり、空きスペースやオーミックロス、寄生容量の増加を抑えることができる。
【0037】
また、図10の従来例にて説明したアライメントマーク133a〜133d、仕上り確認パターン134、識別コード135を設ける場合には、例えば図2(a)や図2(b)に示した空きスペースにこれらを配置するとよい。また、図1のように空きスペースが殆どない場合には、これらを配置できるように圧電基板51をひとまわり大きくしてもよく、また例えば図1に示した圧電基板51の四隅に対応する反射器24a、34b、44a、44bの角部等にアライメントマーク133a〜133dや識別コード135を印刷するようにしてもよい。また、実施の形態においては、LiTaOやLiNbO、SiO等の圧電基板51上にSAW共振子2〜4を形成した場合について例示したが、圧電基板51の構成はこの例に限定されるものではない。例えばガラス基板上に圧電薄膜層を形成したもの等も本発明の圧電基板に含まれる。
【0038】
更にまた、上述の各実施の形態においては、弾性波共振子としてSAW共振子を採用した場合について説明したが、本発明に適用可能な弾性波共振子の種類はこれに限られない。例えば弾性境界波を利用するタイプの弾性波共振子であってもよい。
【実施例】
【0039】
図1、図10に夫々示す共振子モジュール1、110と同様の構造を有するフィルタモデルを作成し、夫々のフィルタモデルについてのフィルタ特性をシミュレーションした。
(シミュレーション1)
共通バスバー10、信号線132内で発生するオーミックロスを一定とし、これらの中で発生する寄生容量がフィルタの通過特性に与える影響を調べた。
(実施例1)
図1に示した共振子モジュール1の通過特性をシミュレーションした。
シミュレーション条件
圧電基板:LiTaO
チップサイズ:1.2mm×0.5mm
(比較例1)
図10に示した共振子モジュール1の通過特性をシミュレーションした。
シミュレーション条件
圧電基板:LiTaO
チップサイズ:1.0mm×1.5mm
【0040】
(シミュレーション結果)
図7(a)、図7(b)にシミュレーション結果を示す。図7(a)は各共振子モジュール1、110の通過特性の全体図であり、図7(b)は通過帯域における通過特性の拡大図を示している。各図の横軸は周波数[MHz]、縦軸は減衰量[dB]を示しており、図中の実線は(実施例1)、破線は(比較例1)のシミュレーション結果を表している。
【0041】
図7(a)に示すように、(実施例1)、(比較例1)は、全体としては似た通過特性を示しているが、図7(b)の通過帯域の拡大図を見ると、(実施例1)と比して(比較例1)においては通過帯域中央部の減衰量に凹みが見られる。これは、図10に示す幅広の信号線132を長く引き回していることによるオーミックロスに起因する差であると考えられる。なお、図7(b)上にて(実施例1)、(比較例1)を目視比較すると、減衰量の差はわずかであるようにも見えるが、当図では減衰量はデシベル単位で表示されているので、電気信号の入出力の差としてみるとかなり大きな差異となっており、移動体端末の電池寿命に大きな差が出る。
【0042】
(シミュレーション2)
共通バスバー10、信号線132内で発生する寄生容量を一定とし、これらの中で発生するオーミックロスがフィルタの通過特性に与える影響を調べた。
(実施例2)
図1に示した共振子モジュール1の通過特性をシミュレーションした。
シミュレーション条件
圧電基板:LiTaO
チップサイズ:1.2mm×0.5mm
(比較例2)
図10に示した共振子モジュール1の通過特性をシミュレーションした。
シミュレーション条件
圧電基板:LiTaO
チップサイズ:1.0mm×1.5mm
【0043】
(シミュレーション結果)
図8(a)、図8(b)にシミュレーション結果を示す。図8(a)は各共振子モジュール1、110の通過特性の全体図であり、図8(b)は通過帯域における通過特性の拡大図を示している。図中の実線は(実施例2)、破線は(比較例2)のシミュレーション結果を表しており、横軸及び縦軸の表示は図7(a)、図7(b)と同様である。
【0044】
図8(a)、図8(b)に示した結果からも分かるように、(実施例2)と(比較例2)との間においても通過帯域中央部の減衰量に差が見られる。これは、長い信号線132を引き回している従来の共振子モジュール110と、共通バスバー10に信号線の機能を持たせた実施の形態に係る共振子モジュール1とで、信号線132、共通バスバー10内に発生する寄生容量に差が生じた結果であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施の形態に係る共振子モジュールの構成を示す平面図である。
【図2】前記共振子モジュールの変形例を示す平面図である。
【図3】複数のIDT電極が共通の圧電基板上に形成されたラダー型フィルタの平面図である。
【図4】上記ラダー型フィルタの回路図である。
【図5】配線基板上に複数の共振子モジュールが搭載されたラダー型フィルタの説明図である。
【図6】前記共振子モジュールの第2の変形例を示す平面図である。
【図7】実施の形態に係る弾性波フィルタの通過特性を示す特性図である。
【図8】上記弾性波フィルタの通過特性を示す第2の特性図である。
【図9】ラダー型フィルタの構成例を示す回路図である。
【図10】共振子モジュールの従来例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0046】
S1〜S4 空き領域
1、1a、1b
共振子モジュール
2、2a、2b
第1の直列腕
3、3a、3b
第2の直列腕
4、4a、4b
並列腕
10 共通バスバー
20 電極部
21a、21b
IDT電極
22a 第1のバスバー
22b 第2のバスバー
23a、23b
電極指
24a、24b
反射器
30 電極部
31a、31b
IDT電極
32a 第3のバスバー
32b 第4のバスバー
34a、34b
反射器
40 電極部
41a、41b
IDT電極
42a 第5のバスバー
42b、421b、422b
第6のバスバー
44a、44b
反射器
51 圧電基板
52、52a
入力ポート
53、53b
出力ポート
54 配線基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の直列腕の弾性波共振子、第2の直列腕の弾性波共振子及び並列腕の弾性波共振子が共通の接続点に接続された回路を備えた弾性波フィルタにおいて、
圧電基板上に前後に互いに対向して設けられた第1のバスバー及び第2のバスバーと、これらバスバー間に設けられたIDT電極と、により前記第1の直列腕の弾性波共振子を構成することと、
この第1の直列腕の弾性波共振子の左右方向に隣接して位置し、圧電基板上に前後に互いに対向して設けられた第3のバスバー及び第4のバスバーと、これらバスバー間に設けられたIDT電極と、により、前記第2の直列腕の弾性波共振子及び前記並列腕の弾性波共振子のうちの一方を構成することと、
前記第1の直列腕の弾性波共振子と前記第2の直列腕の弾性波共振子及び前記並列腕の弾性波共振子のうちの一方との並びの後方側に位置し、圧電基板上に前後に互いに対向して設けられた第5のバスバー及び第6のバスバーと、これらバスバー間に設けられたIDT電極と、により、前記第2の直列腕の弾性波共振子及び前記並列腕の弾性波共振子のうちの他方を構成することと、
前記第2のバスバー、第4のバスバー及び第5のバスバーは、前記共通の接続点側に位置していることと、を備えたことを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記第4のバスバーは、前記第2のバスバーを延長させた部位により構成されていることを特徴とする請求項1記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記第5のバスバーは、前記第2のバスバー及び第4のバスバーと共通化されていることを特徴とする請求項2記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
直列腕の弾性波共振子及び並列腕の弾性波共振子により構成された定K形回路を基本区間とし、この基本区間を2つ以上ラダー型に接続することと、
出力側に並列腕の弾性波共振子が位置する第1の基本区間に含まれる直列腕の弾性波共振子が前記第1の直列腕の弾性波共振子に相当することと、
前記第1の基本区間に隣接し、入力側に並列腕の弾性波共振子が位置する第2の基本区間に含まれる直列腕の弾性波共振子が前記第2の直列腕の弾性波共振子に相当することと、を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記第1の直列腕の弾性波共振子及び第2の直列腕の弾性波共振子は、左右方向に並んで配置され、
前記基本区間に含まれる並列腕の弾性波共振子は、前記第1の直列腕の弾性波共振子及び第2の直列腕の弾性波共振子の並びの後方側に配置されることを特徴とする請求項4記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
各々、請求項1ないし5のいずれか一つに記載の弾性波フィルタからなる第1の弾性波フィルタと第2の弾性波フィルタとを互いに接続したことを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項7】
前記第1の弾性波フィルタに設けられた第6のバスバーと、第2の弾性波フィルタに設けられた第6のバスバーと、が互いに隣接して平行に伸びるようにこれらの弾性波フィルタを配置し、夫々の弾性波フィルタの第6のバスバー同士を接続したことを特徴とする請求項6に記載の弾性波フィルタ。
【請求項8】
前記第1の弾性波フィルタの第6のバスバーと、第2の弾性波フィルタの第6のバスバーとが共通化されていることを特徴とする請求項7に記載の弾性波フィルタ。
【請求項9】
前記第1の弾性波フィルタ及び第2の弾性波フィルタの全てのIDT電極及びバスバーは、共通の圧電基板上に設けられていることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。
【請求項10】
第1の直列腕の弾性波共振子、第2の直列腕の弾性波共振子及び並列腕の弾性波共振子からなる回路は、モジュール用の圧電基板を用いて共振子モジュールとして構成され、
これら共振子モジュールを配線基板上に複数搭載することにより構成されたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。
【請求項11】
各弾性波共振子内の2本のバスバー及びIDT電極を電極部とすると、
前記第1の直列腕、第2の直列腕及び並列腕の各弾性波共振子の電極部が収まる矩形領域の面積に対し、これら各弾性波共振子の電極部の設置領域の面積の合計値の比が0.8以上であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一つに記載の弾性波フィルタ。
【請求項12】
前記電極部には、前記IDT電極に併設された反射器を含むことを特徴とする請求項11に記載の弾性波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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