説明

弾性波素子と、この弾性波素子の製造方法

【課題】透光性誘電体層の膜厚測定の正確性を向上する。
【解決手段】本発明の弾性波素子8は、圧電体9と、圧電体9の上に形成されたIDT電極10と、圧電体9の上にIDT電極10の少なくとも一部を覆うように形成された透光性誘電体層12とを備え、圧電体9の上に透光性誘電体層12に覆われるように形成されると共に可視光波長領域において圧電体9の反射率よりも高い反射率を有する反射膜14を有する構成とした。この構成により、弾性波素子8の製造過程において、透光性誘電体層12の成膜後に、光干渉式法による膜厚測定法等にて透光性誘電体層12の膜厚測定を実施する際、可視光波長領域において圧電体9の反射率よりも高い反射率を有する反射膜14からの反射光を用いることができる。これにより、より正確な透光性誘電体層12の膜厚測定を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波素子と、この弾性波素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下、従来の弾性波素子について、図面を用いて説明する。図5は従来の弾性波素子1の上面模式図である。図5において、弾性波素子1は、例えば、ニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウム等からなる圧電体2と、この圧電体2の上に形成された例えば銅等の金属からなるIDT電極3と、圧電体2の上であってIDT電極3の両端に設けられたグレーティング反射器7と、圧電体2の上に形成されると共にIDT電極3に電気的に接続されたアルミニウム等の金属からなるパッド電極4と、圧電体2の上にIDT電極3を覆うように形成された酸化ケイ素等からなる透光性誘電体層5とを備える。尚、この透光性誘電体層5は、素子外部とパッド電極4とを導通可能とする為、パッド電極4の上面の一部、もしくは全部を透光性誘電体層5から露出する開口部6を有する。
【0003】
上記従来の弾性波素子1の製造過程において、透光性誘電体層5の成膜後に、エリプソメータ等にて入射光の偏光状態と圧電体2から反射される反射光の偏光状態とを比較することによって、透光性誘電体層5の膜厚測定を実施していた。
【0004】
なお、この出願に関連する先行技術文献として特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−162878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の弾性波素子1において、エリプソメータ等にて入射光の偏光状態と圧電体2から反射される反射光の偏光状態とを比較することによって膜厚測定を実施する場合、可視光波長領域における圧電体2の光反射率が十分高いとは言えず、また、基板表面の荒れに非常に敏感なため正確な膜厚測定を行うことが困難であった。その為、周波数規格から外れる弾性波素子によって歩留まりが悪くなり、生産性が低下するという問題が生じていた。これは、透光性誘電体層5の膜厚に対して弾性波素子の周波数特性が大きく変化する為である。
【0007】
そこで本発明は、透光性誘電体層の膜厚測定の正確性を向上することにより、弾性波素子の生産性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の弾性波素子は、圧電体と、圧電体の上に形成されて主要波を励振させるIDT電極と、圧電体の上にIDT電極の少なくとも一部を覆うように形成された透光性誘電体層とを備え、圧電体の上に透光性誘電体層に覆われるように形成されると共に可視光波長領域において圧電体の反射率よりも高い反射率を有する反射膜を有し、反射膜の最小幅は、前記IDT電極における主要波伝搬方向に対し垂直方向のバスバー幅より大きい構成とした。
【発明の効果】
【0009】
上記構成により、弾性波素子の製造過程において、透光性誘電体層の成膜後に、光干渉式法による膜厚測定法等にて透光性誘電体層の膜厚測定を実施する際、可視光波長領域において圧電体の反射率よりも高い反射率を有する反射膜からの反射光を用いることができる。これにより、より正確な透光性誘電体層の膜厚測定を行うことができ、その結果、周波数規格から外れる弾性波素子によって歩留まりが悪くなることを抑制する。即ち、弾性波素子の生産性を向上させることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1における弾性波素子の上面模式図
【図2】同弾性波素子の製造工程を示す断面模式図
【図3】(a)は、図3(b)におけるC−C´間の弾性波素子の断面模式図、(b)は、同弾性波素子の他の上面模式図
【図4】同弾性波素子の他の上面模式図
【図5】従来の弾性波素子の上面模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について、図面を用いて説明する。図1は、実施の形態1における弾性波素子の上面模式図である。
【0012】
図1において、弾性波素子8は、圧電体9と、この圧電体9の上に形成されてSH波等の主要波を励振させるIDT(Inter Digital Transducer)電極10と、圧電体9の上であってIDT電極10の両端に設けられたグレーティング反射器15と、圧電体9の上に形成されると共にIDT電極10に電気的に接続されて電気信号の入出力を行うためのパッド電極11と、圧電体9の上にIDT電極10を覆うように形成された透光性誘電体層12とを備える。尚、この透光性誘電体層12は、素子外部とパッド電極11とを導通可能とする為、パッド電極11の上面の一部、もしくは全部を透光性誘電体層12から露出する開口部13を有する。
【0013】
圧電体9は、例えば、ニオブ酸リチウム系、タンタル酸リチウム系、又はニオブ酸カリウム系の媒質である。
【0014】
IDT電極10、グレーティング反射器15、及びパッド電極11は、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、白金、クロム、モリブデンの少なくとも一種からなる単体金属、若しくはこれらを主成分とする合金、又はこれら金属が積層された構造である。
【0015】
透光性誘電体層12は、例えば、酸化ケイ素からなるが、圧電体9とは逆の周波数温度特性を有する媒質であれば何でも構わない。これにより、周波数温度特性を向上することができる。また、透光性誘電体層12は、圧電体の上に順に形成された、第1媒質と、この第1媒質を伝搬する横波の速度よりも速い横波が伝搬する第2媒質との積層構造であっても良い。例えば、第1媒質として、酸化ケイ素が挙げられ、第2媒質として、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、シリコンの少なくとも一種が挙げられる。
【0016】
また、この透光性誘電体層12の膜厚は主要波であるSH波の波長λの0.8倍以上であることが望ましい。これにより、主要波を、弾性波素子8の中に閉じ込めることができる。望ましくは、第2透光性誘電体層の膜厚が主要波であるSH波の波長λ以上であると、主要波を、弾性波素子8の中にほぼ完全に閉じ込めることができる。
【0017】
更に、弾性波素子8は、圧電体9の上に透光性誘電体層12に覆われるように形成されると共に可視光波長領域において圧電体の反射率よりも高い反射率を有する膜厚測定用の反射膜14を有する。
【0018】
この反射膜14は、例えば、IDT電極10と同一の構成であって、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、白金、クロム、モリブデンの少なくとも一種からなる単体金属、若しくはこれらを主成分とする合金、又はこれら金属が積層された構造である。
【0019】
上記構成により、弾性波素子8の製造過程において、透光性誘電体層12の成膜後に、光干渉式法による膜厚測定法等にて透光性誘電体層12の膜厚測定を実施する際、可視光波長領域において圧電体9の反射率よりも高い反射率を有する反射膜14からの反射光を用いることができる。これにより、より正確な透光性誘電体層12の膜厚測定を行うことができ、その結果、周波数規格から外れる弾性波素子8によって歩留まりが悪くなることを抑制する。即ち、弾性波素子8の生産性を向上させることができるのである。
【0020】
以下、本実施の形態1における弾性波素子の製造工程について説明する。
【0021】
図2の(a)〜(e)は、弾性波素子8の製造工程を示す断面摸式図である。まず、図2(a)に示すように、ニオブ酸リチウム系等の媒質からなる圧電体9の上面に、電極膜21を蒸着又はスパッタ等の方法で成膜する。次に、図2(b)に示すように、電極膜21の上面のレジスト膜22を形成する。次に、図2(c)に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いてレジスト膜22を所望の形状に加工する。次に、図2(d)に示すように、ドライエッチング技術等を用いて電極膜21をIDT電極10やグレーティング反射器15(図2では図示せず)、そして反射膜14の所望の形状に加工した後、レジスト膜22を除去する。ここで、図2には示していないが、IDT電極10に電気的に接続するように信号入出力用のパッド電極11を圧電体9上に別途、上記と同様に形成する。次に、図2(e)に示すように、IDT電極10や反射膜14等を覆うようにSiO2等を材料とした透光性誘電体層12を蒸着又はスパッタ等の方法により形成する。
【0022】
この後、透光性誘電体層12の表面にレジスト膜(図示せず)を形成し、露光及び現像技術等を用いてレジスト膜を所望の形状に加工し、ドライエッチング技術等を用いて、パッド電極11上部における透光性誘電体層12に開口部13(図2では図示せず)を設け、レジスト膜を除去する。その後、入射光を反射膜14に入射させ、反射膜14からの反射光を用いて透光性誘電体層12の膜厚測定を実施する。
【0023】
尚、図3(a)に示す様に、透光性誘電体層12が、2層の媒質12A、12Bからなる場合、図3(b)に示す様に、反射膜14を2ヶ所形成し、さらに、一方の反射膜14Aの上には2層の媒質12A、12Bを積層させ、他方の反射膜14Bの上には1層の媒質12Bのみを積層させることにより、透光性誘電体層12Bの膜厚を測定することが可能となる。すなわち、透光性誘電体層12A形成時には透光性誘電体層12Aの膜厚を、透光性誘電体層12B形成時には透光性誘電体層12Bの膜厚を独立に測定することが可能となる。さらに、透光性誘電体層12が、3層以上存在する場合には、透光性誘電体層12の層数と同数以上の反射膜14Aを圧電体9上に形成することにより、同様の効果を得ることが出来る。尚、パッド電極11上部における透光性誘電体層12Aに開口部13を設ける際に反射膜14Bの上部にも開口部を設けることで、上記構成を実現することができるのである。
【0024】
最後に、透光性誘電体層12の膜厚が規格内である場合、ダイシングにより個々のダイに分割し、弾性波素子8を製造する。
【0025】
尚、上記説明の様に、IDT電極10を形成する際に反射膜14もIDT電極10と同一の材料にて同時に形成することが望ましい。これにより、別途、反射膜を形成する工程を省略することになり、製造プロセスを簡略化することができるのである。
【0026】
尚、反射膜14の最上層を構成する材質を、IDT電極10の最上層を構成する材料より可視光波長領域において反射率の高い材質としても良い。この場合、IDT電極10の形成工程とは別に反射膜14を形成することとなる。これにより、透光性誘電体層12の成膜後に、光干渉式法による膜厚測定法等にて透光性誘電体層12の膜厚測定を実施する際、可視光波長領域においてIDT電極10の反射率よりも高い反射率を有する反射膜14からの反射偏光を用いることができる。これにより、より正確な透光性誘電体層12の膜厚測定を行うことができる。
【0027】
また、反射膜14の最小幅は、IDT電極における主要波伝搬方向に対し垂直方向のバスバー幅16より大きいことが望ましい。これにより、光干渉式法による膜厚測定法等を用いて透光性誘電体層12の膜厚測定を実施する際、入射光を反射膜14に容易に入射させることができる。
【0028】
さらに、具体的にはこの反射膜14の幅は、5μm以上であり、反射膜の最大幅は、300μm以下であることが望ましい。反射膜14の最小幅が5μm以上により、光干渉式法による膜厚測定法等を用いて透光性誘電体層12の膜厚測定を実施する際、入射光を反射膜14に容易に入射させることができる。また、反射膜14の最大幅が300μm以下であることにより、弾性波素子8が反射膜14により大型になることを抑制することができるのである。
【0029】
さらに、測定位置精度、チップ面積の小型化を考えると、反射膜14は矩形であり、その一辺の長さは、50μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0030】
さらにまた、弾性波素子8がIDT電極10の両端に配置されたグレーティング反射器15を有する場合は、反射膜14を、IDT電極10の主要波伝搬方向におけるグレーティング反射器15の最外端からIDT電極10のピッチの2倍以内の間隔をあけて形成することにより、グレーティング反射器15が適切に形成され、弾性波素子8の製造不良を抑制することができる。
【0031】
この理由を以下説明する。
【0032】
図2(b)において、光源(図示せず)からの露光光を、マスク(図示せず)を通してレジスト膜22に対して照射し、その後に現像処理を行うことにより、図2(c)に示すように、未露光部のみにレジスト膜22を残存させる。ここで、最外端のグレーティング反射器の櫛15iを形成するためのレジスト22iが適切に形成されない結果、最外端のグレーティング反射器の櫛15iが適切に形成されない場合がある。これは、最外端のグレーティング反射器の櫛15iと反射膜14との間の上部におけるマスク(図示せず)の開口率がIDT電極10の上部のマスク(図示せず)の開口率と比較して大きく、最外端のグレーティング反射器の櫛15iを形成するためのレジスト膜22に過剰な露光量を供給することとなるからである。これにより、グレーティング反射器15が適切に形成されず、弾性波素子8の製造不良が生じる。
【0033】
そこで、反射膜14を、IDT電極10の主要波伝搬方向におけるグレーティング反射器15の最外端からIDT電極10のピッチの2倍以内の間隔をあけて形成することにより、最外端のグレーティング反射器の櫛15iと反射膜14との間の上部におけるマスク(図示せず)の開口率を小さくし、最外端のグレーティング反射器15を適切に形成することができるのである。
【0034】
尚、図4に示す様に、反射膜14は、圧電体9の上面端部、特に圧電体9の上面角部に形成されていることが望ましい。これにより、透光性誘電体層12の膜厚測定を実施する際、ダイシングにより個々の弾性波素子8に分割する前における面積の広い反射膜14を反射面として用いることができる。即ち、光干渉式法による膜厚測定法等を用いて透光性誘電体層12の膜厚測定を実施する際、入射光を反射膜14に容易に入射させることができるのである。
【0035】
また、反射膜14は、IDT電極10と電気的に接続されていないことが望ましい。または、反射膜14は、圧電体の上面上でIDT電極10と接続されていないことが望ましい。これにより、反射膜14と電気的に接続されることによる弾性波素子8の特性劣化を抑制することができる。
【0036】
本実施の形態1の弾性波素子8を共振器(図示せず)に適用しても構わないし、ラダー型フィルタもしくはDMSフィルタ等のフィルタ(図示せず)に適用しても構わない。さらに、弾性波素子8を、このフィルタと、フィルタに接続された半導体集積回路素子(図示せず)と、半導体集積回路素子(図示せず)に接続されたスピーカ等の再生部とを備えた電子機器に適用しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかる弾性波素子は、生産性を向上させるという特徴を有し、携帯電話等の電子機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
8 弾性波素子
9 圧電体
10 IDT電極
11 パッド電極
12 透光性誘電体層
13 開口部
14 反射膜
15 グレーティング反射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
前記圧電体の上に形成されて主要波を励振させるIDT電極と、
前記圧電体の上に前記IDT電極の少なくとも一部を覆うように形成された透光性誘電体層とを備え、
前記圧電体の上に前記透光性誘電体層に覆われるように形成されると共に可視光波長領域において前記圧電体の反射率よりも高い反射率を有する反射膜を有し、
前記反射膜の最小幅は、前記IDT電極における主要波伝搬方向に対し垂直方向のバスバー幅より大きい弾性波素子。
【請求項2】
前記透光性誘電体層は複数の媒質層からなると共に、前記反射膜が複数形成された請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記IDT電極と前記反射膜とは同一の材料で構成された請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項4】
前記反射膜の最上層を構成する材料は、前記IDT電極の最上層を構成する材料より可視光波長領域において反射率の高い請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項5】
前記弾性波素子は、前記IDT電極の両端に配置されたグレーティング反射器を備え、
前記反射膜は、前記IDT電極の主要波伝搬方向における前記グレーティング反射器の最外端から前記IDT電極のピッチの2倍以内の間隔をあけて形成された請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項6】
前記反射膜は、前記圧電体の上面端部に形成された請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項7】
圧電体と、
前記圧電体の上に形成されたIDT電極と、
前記圧電体の上に前記IDT電極の少なくとも一部を覆うように形成された透光性誘電体層とを備え、
前記圧電体の上に前記透光性誘電体層に覆われるように形成されると共に可視光波長領域において前記圧電体の反射率よりも高い反射率を有し、前記反射膜の最小幅は、前記IDT電極における主要波伝搬方向に対し垂直方向のバスバー幅より大きい反射膜を有する弾性波素子の製造方法であって、
前記透光性誘電体層の膜厚測定法が光干渉式法による膜厚測定法である、
弾性波素子の製造方法。
【請求項8】
前記IDT電極を形成する際に前記反射膜も形成する請求項7に記載の弾性波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−239613(P2010−239613A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51382(P2010−51382)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】