弾性表面波アクチュエータ
【課題】弾性表面波アクチュエータにおいて、簡単な構成により、移動子の固定子表面との接触部の磨耗量を予測し、磨耗限界の予測を実現可能とする。
【解決手段】弾性表面波アクチュエータ1は、弾性表面波Wを励振する交差指電極4を表面に有する圧電基板からなる固定子2と、弾性表面波励振用の電力を交差指電極4に供給する高周波電源11と、交差指電極4と高周波電源11とによって圧電基板(固定子2)の表面に励振される弾性表面波Wにより駆動される移動子3と、加減速を含む単位駆動サイクルにおける移動子3の固定子2表面との接触部の磨耗量を算出する磨耗量算出部12と、算出された磨耗量を積算する磨耗量積算部13と、積算された積算磨耗量を表示する出力部14と、を備えている。移動子3の接触面の磨耗は加減速時に発生するので、単位駆動サイクルの発生回数に基づいて積算磨耗量が算出され、磨耗限界が予測され、出力部14に表示される。
【解決手段】弾性表面波アクチュエータ1は、弾性表面波Wを励振する交差指電極4を表面に有する圧電基板からなる固定子2と、弾性表面波励振用の電力を交差指電極4に供給する高周波電源11と、交差指電極4と高周波電源11とによって圧電基板(固定子2)の表面に励振される弾性表面波Wにより駆動される移動子3と、加減速を含む単位駆動サイクルにおける移動子3の固定子2表面との接触部の磨耗量を算出する磨耗量算出部12と、算出された磨耗量を積算する磨耗量積算部13と、積算された積算磨耗量を表示する出力部14と、を備えている。移動子3の接触面の磨耗は加減速時に発生するので、単位駆動サイクルの発生回数に基づいて積算磨耗量が算出され、磨耗限界が予測され、出力部14に表示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性体の表面を伝搬する弾性表面波であるレイリー波を利用したリニアモータ形式の弾性表面波アクチュエータが知られている。例えば、図13に示す弾性表面波アクチュエータは、圧電材料からなる固定子92と、固定子92の表面(XY面とする)に配置される4つの交差指電極4と、この交差指電極4を励振させる高周波電源95と、各交差性電極4への電力の供給切替を行う切替スイッチ96と、固定子92上に配置される複数の点接触部を有する移動子93と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上述の交差指電極4(Interdigital transducer,IDT)に高周波電圧が印加されると、図14に示すように、圧電材料からなる固定子92の表面が変形して弾性表面波Wが励振される。弾性表面波Wは、固定子92の表面の各点(粒子的に考えることができる)が互いに一定の時間ずれのもとで楕円運動することにより形成される。弾性表面波Wは、各粒子の楕円運動によって矢印で示す方向a1に進む。波長λ毎に現れる波の頂上部における粒子は、波の進行方向とは逆向きの速度Uを有する。
【0004】
移動子93は、上述のような速度Uの運動を行う各粒子から摩擦力を介して駆動力を受けて、速度Uの方向、すなわち弾性表面波Wの進行方向a1とは逆方向に移動する。図13に示した交差指電極4と移動子93の配置の場合、移動子93は、4方向からの弾性表面波Wを合成してなる仮想の弾性表面波の励振源に向かって移動する。その移動速度は、合成された弾性表面波の励振強度、従って、高周波電源95から供給される高周波の電圧値(振幅値)が大きいほど大きくなる。すなわち、この弾性表面波アクチュエータにおける移動子93は、弾性表面波の進行方向と励振強度の調整により、XY面における速度可変の2次元的移動を行う。
【特許文献1】特許第3466690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した図13や特許文献1に示されるような従来の弾性表面波アクチュエータにおいては、固定子92の表面とこれに配置される移動子93の点接触部との間の滑りから生じる磨耗に基づく寿命の予測について、何ら開示されていない。アクチュエータが、使用中に突然、使用不能になるのは、実用上好ましくないことから、寿命を予測できる弾性表面波アクチュエータの実現が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題を解消するものであって、簡単な構成により、移動子の固定子表面との接触部の磨耗量を予測し、磨耗限界の予測を実現できる弾性表面波アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、弾性表面波励振用の電力を前記交差指電極に供給するための高周波電源と、前記交差指電極と前記高周波電源とによって前記圧電基板の表面に励振される弾性表面波により駆動される移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、前記弾性表面波の励振開始から励振停止に至る間の前記移動子の駆動を単位駆動サイクルとし、前記単位駆動サイクルにおける前記移動子の前記固定子表面との接触部の磨耗量を算出する磨耗量算出部と、前記磨耗量算出部によって算出された磨耗量を積算する磨耗量積算部と、前記磨耗量積算部によって積算された積算磨耗量を表示する出力部と、を備えるものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、限界磨耗量を入力するための入力部と、前記磨耗量積算部によって積算された積算磨耗量と前記入力部を介して入力された限界磨耗量とを比較して前記移動子の寿命を予測する寿命演算部と、をさらに備え、前記寿命演算部は、前記積算磨耗量が前記限界磨耗量を超えた場合に前記移動子の寿命が尽きつつあると判断して前記移動子が使用不能となる前にそのことを前記出力部を介して外部に知らせるものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子を所望の距離だけ移動させるための駆動に際し、同一条件のもとで前記単位駆動サイクルを間欠的に繰り返すと共に、その繰り返しの間隔によって前記移動子の移動速度を調整するように前記交差指電極への電力供給を行い、前記磨耗量算出部は、前記単位駆動サイクルの繰り返し回数に基づいて前記磨耗量を算出するものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、前記磨耗量算出部は、前記速度測定部によって測定された前記移動子の移動速度から加速度を算出し、前記加速度の積算量に基づいて前記磨耗量を算出するものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、前記磨耗量算出部は、前記高周波電源によって供給される弾性表面波励振用の電力の大きさとその電力によって励振される弾性表面波に伴って移動する当該表面波の伝搬方向に沿った前記圧電基板の表面の移動速度(以下、基板粒子速度という)との関係を記憶しており、前記速度測定部によって測定される前記移動子の移動速度と、供給される前記電力の大きさから前記関係を用いて得られる前記基板粒子速度と、の速度差を求める共にその速度差を積算し、その積算量に基づいて前記磨耗量を算出するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、使用者が、積算磨耗量の表示に基づいて寿命の時期を認知して、すなわち、磨耗限界を予測して、寿命に対する何らかの対応をとれるので、アクチュエータが使用中に突然使用不能になる、という不具合を回避できる。磨耗は主に滑りによって発生し、その滑りは、加減速時に発生する。単位駆動サイクルには、移動子の移動開始時と停止時の加減速状態が含まれる。従って、単位駆動サイクルの発生回数やそのサイクルにおける最大印加電圧などに基づいて磨耗量や積算磨耗量を算出できる。そこで、本発明の弾性表面波アクチュエータは、簡単な構成により、移動子の固定子表面との接触部の磨耗量を予測し、磨耗限界(寿命)の予測を実現できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、予め限界磨耗量を設定して弾性表面波アクチュエータの交換や補修の時期を設定できる。
【0014】
請求項3の発明によれば、同一条件のもとで単位駆動サイクルを間欠的に繰り返すことにより、単位駆動サイクルを規格化することができ、規格化した単位駆動サイクルの繰り返し回数によって寿命を予測することができるので、規格化しない場合の単位駆動サイクルに基づく場合よりも、接触部の磨耗量や寿命をより精密に予測できる。
【0015】
請求項4の発明によれば、単位駆動サイクルにおける細部に注目して磨耗に関与する状態、すなわち、加減速の状態を抽出して接触部の磨耗量を算出するので、単位駆動サイクルの駆動回数などにより磨耗量を算出する場合に比べて、より精度良く算出できる。このような加速度の積算量に基づいて磨耗量を算出すると、規格化した単位駆動サイクルの間欠的な繰り返しによる駆動方法によらずに、間欠駆動と同様の精度の高い寿命予測ができると共に、多数回の間欠駆動による磨耗進展も回避できる。
【0016】
請求項5の発明によれば、移動子の滑り量を見積もることができる速度差の積算量によって接触部の磨耗量を算出するので、磨耗量をより精度良く算出できる。この速度差の積算量は、移動子の滑り量を直接的に数値化できる指標である。基板粒子速度は、交差指電極への印加電圧との関係量として、予め求めておくことができる。例えば、レーザドップラ速度計によって、基板粒子速度を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについて、図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについてのブロック構成を示し、図2は同弾性表面波アクチュエータにおける単位駆動サイクルの定義を示す。
【0019】
弾性表面波アクチュエータ1は、図1に示すように、弾性表面波Wを励振するための交差指電極4を表面に有する圧電基板からなる固定子2と、弾性表面波励振用の電力を交差指電極4に供給するための高周波電源11と、交差指電極4と高周波電源11とによって圧電基板(固定子2)の表面に励振される弾性表面波Wにより駆動される移動子3と、を備えている。
【0020】
また、弾性表面波アクチュエータ1は、単位駆動サイクルT(後述、図2)における移動子3の固定子2表面との接触部の磨耗量を算出する磨耗量算出部12と、磨耗量算出部12によって算出された磨耗量を積算する磨耗量積算部13と、磨耗量積算部13によって積算された積算磨耗量を表示する出力部14と、これらの高周波電源11、磨耗量算出部12、磨耗量積算部13、および出力部14を制御する制御部10と、を備えている。
【0021】
固定子2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)のように圧電体そのものであったり、シリコン基板などの上に圧電材であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の薄膜を形成したものでもよい。また、これら以外の圧電材料を用いることもできる。固定子2の表面形状は、平面とは限らず円柱面やその他の曲面でもよい。圧電体のこのような平面や曲面または、このような面上に形成された圧電体の膜の表面に、弾性表面波Wが励振される。
【0022】
交差指電極4は、一対の複数の櫛歯状の電極41を、互いの櫛歯が交互に入り込むように対向させて、固定子2の表面に形成されている。交差指電極4の電極ピッチの2倍(図中λ)は、励振される弾性表面波Wの波長に一致している。
【0023】
移動子3は、固定子2における表面波発生領域に、固定子2と接触して設けられている。移動子3は、固定子2に対して、相対的に移動する。通常、固定子2が固定され、移動子3が移動する。弾性表面波アクチュエ−タ1において、どちらが移動するかということは、相対的なものであり、移動子3が固定され、固定子2が移動する場合もある。
【0024】
移動子3は、例えば、シリコンのような硬い材料で形成される。移動子3における固定子2との接触面には、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達するための複数の突起が設けられている。このような突起は、移動子3がシリコンで形成される場合、シリコンのエッチング工法で製作される。なお、移動子3の材料は、シリコンでなくても硬い材料であればよい。さらに、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達できるのであれば、接触面32における突起も不要である。
【0025】
移動子3は、不図示の予圧手段によって予圧が加えられて、固定子2に圧接される。移動子3は、この予圧に基づく摩擦力によって駆動されて、固定子2上を移動する。固定子2の表面の弾性表面波Wは、予圧に逆らって、すなわち、移動子3を持ち上げて振動可能なエネルギをもって励振される必要がある。
【0026】
弾性表面波アクチュエ−タ1において、弾性表面波Wが励振され、移動子3に予圧が加えられた状態で、移動子3は、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆の、方向a2に向かって移動する(その速度をVとする)。このような方向関係は、弾性表面波Wが、後方楕円運動を行っていることに基づく(後述図11とその説明参照)。
【0027】
上述の単位駆動サイクルTは、図2に示すように、弾性表面波Wの励振開始時t1から励振停止時t2に至る間の移動子3の駆動単位として定義される。高周波電源11から交差指電極4への印加電圧Eの波形を、E=E0・sin(ωt+α)、とする。ここで、時間tに対する印加電圧Eの波形が、振幅E0、波長λを与える角周波数ω、および所定の時刻からの位相変化を表す初期位相αによって表されている。
【0028】
この図において、印加電圧Eは、オン・オフ切替によって制御され、時間t1〜t2において、振幅E0は一定と仮定されている。この仮定は、説明の便宜上のものであり、振幅E0を滑らかに変化させて電圧を印加することもできる。また、一般には、高周波電源11における時定数の存在などにより、滑らかな電圧変化となる。
【0029】
固定子2に励振される弾性表面波Wの振幅は、高周波電源1から交差指電極4に印加される電圧の大きさ(印加電圧の振幅E0)に依存し、これらは移動子3の移動速度Vを決める。弾性表面波Wの波束の長さは、電圧の印加時間(これを同じくTで表すと、T=t2−t1、である)に相当する。移動子3の移動距離(位置)は、印加電圧の振幅E0と印加時間Tの長さとで決まる。
【0030】
単位駆動サイクルTにおいて、移動子3の速度は、図2に示すように、励振開始時t1後に加速されて速度Vが上昇し(領域a)、その後、一定速度となり(領域b)、励振停止時t2後に減速されてゼロになる(領域c)。
【0031】
このような弾性表面波アクチュエ−タ1において、移動子3における固定子2との接触面の磨耗が、主に滑りによって発生する。その滑りは、通常、加減速時に発生する。図2に示す単位駆動サイクルTには、移動子3の移動開始時t1以降と停止時t2以降の加減速状態(領域a,b)が含まれる。このことを逆に考えると、単位駆動サイクルTの発生回数やそのサイクルにおける最大印加電圧(振幅E0)などに基づいて磨耗量や積算磨耗量を算出することができることが分かる。
【0032】
そこで、磨耗量算出部12は、単位駆動サイクルTにおける移動子3の固定子2表面との接触部の磨耗量算出の比較的単純な方法として、例えば、移動開始の回数を用いる。このような回数に基づく磨耗量算出は、特に、印加電圧Eがオン・オフ切替によって制御され、振幅E0が一定と仮定される場合に、十分実用的な算出方法となる。
【0033】
上述の算出方法を実現するために、例えば、弾性表面波アクチュエータ1における単位駆動サイクルTの繰り返し回数と移動子3の接触部の寿命との関係を予め測定して決定しておく。そして、磨耗量算出部12が移動開始を検出し、磨耗量積算部13がその回数を積算し、出力部14が積算された回数、すなわち対応する磨耗量を何らかの指標によって表示することにより、弾性表面波アクチュエータ1における移動子3の固定子2表面との接触部の磨耗量を把握して、磨耗限界(寿命)の予測を行うことがきる。磨耗量を表示する指標として、回数そのものや、最大可能回数に対するパーセント表示などを用いることができる。
【0034】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、簡単な構成により、使用者が、積算磨耗量の表示に基づいて寿命の時期を認知して、すなわち、磨耗限界を予測して、寿命に対する何らかの対応をとれるので、アクチュエータが使用中に突然使用不能になる、という不具合を回避できる。
【0035】
なお、上述の図1の構成による弾性表面波アクチュエ−タ1は、移動子3を方向a2に向けて移動できるが、移動子3を一方方向にしか移動できない。そこで、方向a2とは逆の方向に移動子3を移動させる双方向移動のためには、復帰機構を設ければよい。例えば、バネなどの付勢力を用いた復帰機構により、方向a1向きに復帰させることができる。また、復帰機構として、方向a2側に、復帰用の交差指電極を設けてもよい。このような往復運動可能な弾性表面波アクチュエ−タ1を以下に述べる。
【0036】
(交差指電極の配置と構造の変形例)
図3(a)〜(d)は弾性表面波アクチュエータの交差指電極の配置と構造の変形例を示す。これらの弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3を正逆両方向に移動可能とするように、移動子3の移動領域の両端に復帰機構として交差指電極4を備えている。さらに、これらの弾性表面波アクチュエータ1は、交差指電極4の移動子3側とは反対側に向かう弾性表面波を反射させてそのエネルギを有効利用するための機構(交差指電極5、追加電極43、反射部40など)を備えている。なお、交差指電極4,5などの構造や配置は、一例であって、これらの図に示されるものに限られない。
【0037】
図3(a)(b)に示す弾性表面波アクチュエータ1における交差指電極5は、隣接する駆動用の交差指電極4を一方向性の交差指電極とする反射用電極となっている。これらの電極は、多重反射によって弾性表面波を移動子3側に戻すものである。なお、このような櫛形電極ではなく、梯子型の電極としてもよい。
【0038】
また、図3(c)(d)に示す弾性表面波アクチュエータ1における駆動用の交差指電極4は、それぞれ、一方向性の交差指電極を構成するための構造が作り込まれている。図3(c)において、追加電極43は、互いに異極となる一対の個別電極の間に配置されており、フロート電位となって弾性表面波を反射する。
【0039】
また、図3(d)において、反射部40は、互いに異極となる交差指電極4の電極を所定間隔で配置し、これらの電極の各個別電極部分の一部表面と圧電基板(固定子2)の一部表面とにまたがる表面領域に、例えば、シリコン酸化物SiO2膜を形成したものである。反射部40は、圧電基板の表面における弾性表面波の伝搬に影響して反射材として機能する。以上の、反射用の交差指電極5、追加電極43、反射部40などと組み合わせた交差指電極4は、一方向性の交差指電極と見做すことができる。
【0040】
(第2の実施形態)
図4は第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータのブロック構成を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第1の実施形態の弾性表面波アクチュエータ1(図1)において、入力部15と寿命演算部16とをさらに備えたものであり、他の点は同様である。入力部15からは、限界磨耗量を入力することができる。
【0041】
寿命演算部16は、磨耗量積算部13によって積算された積算磨耗量と入力部15を介して入力された限界磨耗量とを比較し、移動子3の寿命を予測する。この寿命演算部16は、積算磨耗量が限界磨耗量を超えた場合に、移動子3の寿命が尽きつつあると判断して移動子3が使用不能となる前に、そのことを出力部14を介して外部に知らせる。
【0042】
このような構成の弾性表面波アクチュエータ1によれば、使用者は、予め限界磨耗量を設定して弾性表面波アクチュエータ1の交換や補修の時期を設定できる。
【0043】
(第3の実施形態)
図5は第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける移動子を間欠駆動する場合の印加電圧の振幅波形を示し、図6(a)〜(f)は間欠駆動の例を印加電圧の振幅波形と移動子の速度変化によって示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、第1、第2の実施形態の弾性表面波アクチュエータ1とは、移動子3の駆動方法(高周波電源11の動作)および磨耗量算出部12による磨耗量算出方法が異なっており、その他の点は同様である。
【0044】
すなわち、高周波電源11は、移動子3を所望の距離だけ移動させるための駆動に際し、同一条件のもとで、上述の単位駆動サイクルTを間欠的に繰り返すと共に、その繰り返しの間隔によって移動子3の移動速度Vを調整するように交差指電極4への電力供給を行う。また、磨耗量算出部12は、単位駆動サイクルTの繰り返し回数に基づいて磨耗量を算出する。
【0045】
このような間欠駆動による移動子3の移動において、各単位駆動サイクルT中の速度波形が同じになるように制御した印加電圧のもとで各単位駆動サイクルTを繰り返す制御を行う。これにより、各単位駆動サイクルを規格化して、移動距離(位置)や、移動速度を精度良く制御した移動とすることができる。
【0046】
図5において、移動子3は、時刻t3から時刻t4にかけて、単位駆動サイクルTを休止時間Δtを挟んで、4回繰り返す間欠駆動による移動を行う例が示されている。各単位駆動サイクルTの速度変化を同じにすると、各サイクルにおける磨耗量を同じとすることができる。従って、間欠駆動の回数をカウントすることにより、移動子3の接触部の磨耗量を算出できる。そこで、寿命限界の磨耗量を閾値とし、積算磨耗量が閾値を超えたら寿命がきたと予測することができる。各サイクルでの磨耗量は微量であるため測定しにくい。そこで、複数回、例えば1000回同一動作させた場合の磨耗量を測定し、その磨耗量を1000で割った値を一回駆動当たりの磨耗量とすればよい。
【0047】
また、移動子3の一定時間における移動量は、全体の移動時間における平均速度に依存する。その平均速度Vmは、図6(a)〜(f)に示すように、間欠駆動における間欠駆動の間隔によって調整することができる。すなわち、単位駆動サイクルTの時間長さと振幅を一定とし、休止時間Δtを長くすれば、平均速度Vmを遅くでき、休止時間Δtを短くすれば、平均速度Vmを速くできる。
【0048】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、同一条件のもとで単位駆動サイクルTを間欠的に繰り返すことにより、単位駆動サイクルTを規格化し、その繰り返し回数によって寿命を予測することができるので、規格化しない場合の単位駆動サイクルに基づく場合よりも、接触部の磨耗量や寿命をより精密に予測できる。
【0049】
(第4の実施形態)
図7は第4の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータのブロック構成を示し、図8は単位駆動サイクルTにおける移動子3の加速度の時間変化を示し、図9は寿命予測に用いる磨耗量と加速度の積算量との関係を示す。
【0050】
本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第2の実施形態の弾性表面波アクチュエータ1において、さらに移動子3の移動速度を測定する速度測定部17を備えたものである。寿命演算部16は、速度測定部17によって測定された移動子3の移動速度Vから加速度Aを算出し、加速度Aの積算量に基づいて移動子3の寿命を予測する。他の点は、第2の実施形態の弾性表面波アクチュエータ1と同様である。
【0051】
移動子3の接触部の寿命は、上述したように、加減速が多いと短くなる。そこで、移動子3の速度を計測し、その測定結果を時間微分することにより加速度を求めて、磨耗量を予測する。磨耗量算出部12は、図8において、加速状態aにおける加速度曲線と時間軸とで囲まれる面積S1、減速状態cにおける加速度曲線と時間軸とで囲まれる面積S2を求め、その和、S1+S2、を単位駆動サイクルTにおける磨耗量として算出する。磨耗量積算部13は、各面積Siを積算して、積算量S、S=ΣSi、を求める。
【0052】
寿命演算部16は、図9に示すように、予め求められている加減速に係る面積の積算量Sと磨耗量Rの関係式、R=f(S)に基づいて、その時点における磨耗量、従って寿命を演算する。また、寿命演算部16は、別途入力部15を介して入力された寿命限界の磨耗量を閾値とし、加速度の積算量Sから予測できる累積磨耗量Rと前記閾値とを比較し、磨耗量Rが閾値を超えたら寿命がきたと予測する。なお、R=f(S)の関係式は、加速度の面積の積算量と磨耗量とを複数測定して相関を求めて決定する。
【0053】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、単位駆動サイクルにおける細部に注目して磨耗に関与する加減速の状態を抽出し、接触部の磨耗量や寿命を予測することになるので、単位駆動サイクルTの駆動回数などのように全体から磨耗量や寿命を予測する場合に比べて、より精密に磨耗量や寿命を予測できる。また、加速度の積算量に基づいて予測すると、第3の実施形態におけるような規格化した単位駆動サイクルTの間欠的な繰り返しによる間欠駆動によらずに、間欠駆動と同様の精度の高い寿命予測ができると共に、多数回の間欠駆動による磨耗の進展を防止できる。
【0054】
(第5の実施形態)
図10は第5の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの単位駆動サイクルにおける移動子の速度および固定子の表面の移動速度の時間変化を示し、図11は移動子と固定子の接触部分を拡大して示し、図12は寿命予測に用いる磨耗量と速度差の積算量との関係を示す。
【0055】
本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第4の実施形態と同様に移動子3の移動速度Vを測定する速度測定部17を備えており、磨耗量Rの算出方法が加速度によらずに速度による点が、第4の実施形態と異なっており、その他の点は同様である。
【0056】
すなわち、寿命演算部16は、高周波電源11によって供給される弾性表面波励振用の電力の大きさとその電力によって励振される弾性表面波に伴って移動する表面波の伝搬方向に沿った圧電基板の表面の移動速度U(以下、基板粒子速度Uという)との関係を記憶しており、速度測定部17によって測定される移動子3の移動速度Vと、供給される電力の大きさから、前記関係によって得られる基板粒子速度Uと、の速度差を求める共にその速度差を積算し、その積算量に基づいて移動子3の寿命を予測する。
【0057】
移動子3の接触部の磨耗は、固定子2と移動子3との滑りの発生によって発生し、滑りが多くて磨耗が多いと寿命が短くなる。移動子3の滑りは、固定子2と移動子3との相対速度が大きいほど大きいので、両者の速度(速度V、基板粒子速度U)を求めてその差を見積もることにより、滑り、従って磨耗量を見積もることができる。
【0058】
速度V,Uの時間変化は、図3に示すように、単位駆動サイクルTにおける、移動子3の加速度状態、等速運動状態、減速状態のそれぞれに略対応して、互いに大小変化の異動を示す。そこで、各速度変化曲線と時間軸とによって囲まれる面積B1,B2,B3を求めて、これらを積算した積算量B、B=B1+B2+B3、によって、滑り量、従って磨耗量とすることができる。
【0059】
磨耗量算出部12は、図10において、面積B1,B2,B3を求めて、単位駆動サイクルTにおける磨耗量として算出する。磨耗量積算部13は、各面積Biを積算して、積算量B、B=ΣBi、を求める。
【0060】
ここで、図11によって、速度V,Uを説明する。弾性表面波Wが励振されている固定子2の表面には、表面の各点における粒子が、互いに隣同士で位相のずれた楕円運動を行うことにより、凹凸が発生している。その凸部は、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆向きの基板粒子速度Uをもって運動している。また、移動子3は、振動子3の粒子運動によって、速度Vが発生して、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆向きに移動する。
【0061】
移動子3の速度Vは、速度測定部17によって測定される。また、基板粒子速度Uは、例えば、振動子3に配置した交差指電極4に印加する高周波電圧の大きさによって決まる。従って、基板粒子速度Uは、交差指電極4に流れる電流値に基づいて、見積もることができる。また、基板粒子速度Uは、例えば、レーザドップラ速度計によって直接測定することができる。そこで、例えば、予め、印加電圧や電流値と、基板粒子速度Uとの関係を求めておくことにより、交差指電極4に流れる電流値に基づいて、基板粒子速度Uが求められる。
【0062】
寿命演算部16は、図12に示すように、予め求められている速度差に係る面積の積算量Bと磨耗量Rの関係式、R=g(B)に基づいて、その時点における磨耗量、従って寿命を演算する。また、寿命演算部16は、別途入力部15を介して入力された寿命限界の磨耗量を閾値とし、速度差の積算量Bから予測できる累積磨耗量Rと前記閾値とを比較し、磨耗量Rが閾値を超えたら寿命がきたと予測する。なお、R=g(B)の関係式は、速度差の面積の積算量と磨耗量とを複数測定して相関を求めて決定する。
【0063】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動子3の滑り量を見積もることができる速度差の積算量Bによって接触部の磨耗量Rや寿命を予測することになるので、磨耗量Rや寿命をより精密に予測できる。この速度差の積算量Bは、移動子3の滑り量を直接的に数値化できる指標である。基板粒子速度Uは、交差指電極4への印加電圧や電流値との関係量として、予め求めておくことができる。なお、積算量Bは、加減速状態だけでなく等速移動状体における滑り(面積B2)を考慮するものと成っている。この点、寿命予測精度の向上が見込まれる。
【0064】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、第1の実施形態において、移動子3の移動速度Vが一定との前提で説明したが、移動子3の移動速度Vを可変とすることもできる。速度Vを可変とするには、振幅E0を変化させればよい。例えば、振幅E0の異なる複数の単位駆動サイクルTを区別して定義し、各単位駆動サイクルT毎の寿命予測に基づいて全体の寿命予測をすればよい。また、1つの単位駆動サイクルTの中で、速度可変としてもよい。この場合、各振幅E0や移動速度Vの値に応じて変化する代表的な速度変化パターンに対して、加速や減速の回数と、磨耗量との関係を予め測定しておくことにより、上述の寿命予測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについてのブロック構成図。
【図2】同上弾性表面波アクチュエータにおける単位駆動サイクルを説明するための印加電圧波形および移動子の速度の時間変化のグラフ。
【図3】(a)〜(d)は同上弾性表面波アクチュエータの交差指電極の配置と構造の変形例を示す平面図。
【図4】第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータのブロック構成図。
【図5】第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける移動子の間欠駆動を説明するための印加電圧の振幅波形の時間変化のグラフ。
【図6】(a)(b)(c)は同上弾性表面波アクチュエータにおける間欠駆動の例を説明するための印加電圧の振幅波形の時間変化のグラフ、(d)(e)(f)はそれぞれ(a)(b)(c)の間欠駆動に対応する移動子の速度の時間変化のグラフ。
【図7】第4の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータのブロック構成図。
【図8】同上弾性表面波アクチュエータの単位駆動サイクルにおける移動子の加速度の時間変化のグラフ。
【図9】同上弾性表面波アクチュエータの寿命予測に用いる磨耗量と加速度の積算量との関係を示すグラフ。
【図10】第5の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの単位駆動サイクルにおける移動子の速度および固定子の表面の移動速度の時間変化のグラフ。
【図11】同上弾性表面波アクチュエータにおける固定子の表面の移動速度を説明する移動子と固定子との接触部分の拡大断面図。
【図12】同上弾性表面波アクチュエータの寿命予測に用いる磨耗量と速度差の積算量との関係を示すグラフ。
【図13】従来の弾性表面波アクチュエータの例を示す平面図。
【図14】一般的な弾性表面波の励振と伝搬を説明する圧電基板表面部分の拡大断面図。
【符号の説明】
【0066】
1 弾性表面波アクチュエータ
2 固定子
3 移動子
4 交差指電極
11 高周波電源
12 磨耗量算出部
13 磨耗量積算部
14 出力部
15 入力部
16 寿命演算部
17 速度測定部
A 加速度
B 積算量(速度差の)
R 磨耗量
S 積算量(加速度の)
T 単位駆動サイクル
U 速度(基板粒子の)
V 速度(移動子の)
W 弾性表面波
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、弾性体の表面を伝搬する弾性表面波であるレイリー波を利用したリニアモータ形式の弾性表面波アクチュエータが知られている。例えば、図13に示す弾性表面波アクチュエータは、圧電材料からなる固定子92と、固定子92の表面(XY面とする)に配置される4つの交差指電極4と、この交差指電極4を励振させる高周波電源95と、各交差性電極4への電力の供給切替を行う切替スイッチ96と、固定子92上に配置される複数の点接触部を有する移動子93と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上述の交差指電極4(Interdigital transducer,IDT)に高周波電圧が印加されると、図14に示すように、圧電材料からなる固定子92の表面が変形して弾性表面波Wが励振される。弾性表面波Wは、固定子92の表面の各点(粒子的に考えることができる)が互いに一定の時間ずれのもとで楕円運動することにより形成される。弾性表面波Wは、各粒子の楕円運動によって矢印で示す方向a1に進む。波長λ毎に現れる波の頂上部における粒子は、波の進行方向とは逆向きの速度Uを有する。
【0004】
移動子93は、上述のような速度Uの運動を行う各粒子から摩擦力を介して駆動力を受けて、速度Uの方向、すなわち弾性表面波Wの進行方向a1とは逆方向に移動する。図13に示した交差指電極4と移動子93の配置の場合、移動子93は、4方向からの弾性表面波Wを合成してなる仮想の弾性表面波の励振源に向かって移動する。その移動速度は、合成された弾性表面波の励振強度、従って、高周波電源95から供給される高周波の電圧値(振幅値)が大きいほど大きくなる。すなわち、この弾性表面波アクチュエータにおける移動子93は、弾性表面波の進行方向と励振強度の調整により、XY面における速度可変の2次元的移動を行う。
【特許文献1】特許第3466690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した図13や特許文献1に示されるような従来の弾性表面波アクチュエータにおいては、固定子92の表面とこれに配置される移動子93の点接触部との間の滑りから生じる磨耗に基づく寿命の予測について、何ら開示されていない。アクチュエータが、使用中に突然、使用不能になるのは、実用上好ましくないことから、寿命を予測できる弾性表面波アクチュエータの実現が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題を解消するものであって、簡単な構成により、移動子の固定子表面との接触部の磨耗量を予測し、磨耗限界の予測を実現できる弾性表面波アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、弾性表面波励振用の電力を前記交差指電極に供給するための高周波電源と、前記交差指電極と前記高周波電源とによって前記圧電基板の表面に励振される弾性表面波により駆動される移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、前記弾性表面波の励振開始から励振停止に至る間の前記移動子の駆動を単位駆動サイクルとし、前記単位駆動サイクルにおける前記移動子の前記固定子表面との接触部の磨耗量を算出する磨耗量算出部と、前記磨耗量算出部によって算出された磨耗量を積算する磨耗量積算部と、前記磨耗量積算部によって積算された積算磨耗量を表示する出力部と、を備えるものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、限界磨耗量を入力するための入力部と、前記磨耗量積算部によって積算された積算磨耗量と前記入力部を介して入力された限界磨耗量とを比較して前記移動子の寿命を予測する寿命演算部と、をさらに備え、前記寿命演算部は、前記積算磨耗量が前記限界磨耗量を超えた場合に前記移動子の寿命が尽きつつあると判断して前記移動子が使用不能となる前にそのことを前記出力部を介して外部に知らせるものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記高周波電源は、前記移動子を所望の距離だけ移動させるための駆動に際し、同一条件のもとで前記単位駆動サイクルを間欠的に繰り返すと共に、その繰り返しの間隔によって前記移動子の移動速度を調整するように前記交差指電極への電力供給を行い、前記磨耗量算出部は、前記単位駆動サイクルの繰り返し回数に基づいて前記磨耗量を算出するものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、前記磨耗量算出部は、前記速度測定部によって測定された前記移動子の移動速度から加速度を算出し、前記加速度の積算量に基づいて前記磨耗量を算出するものである。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータにおいて、前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、前記磨耗量算出部は、前記高周波電源によって供給される弾性表面波励振用の電力の大きさとその電力によって励振される弾性表面波に伴って移動する当該表面波の伝搬方向に沿った前記圧電基板の表面の移動速度(以下、基板粒子速度という)との関係を記憶しており、前記速度測定部によって測定される前記移動子の移動速度と、供給される前記電力の大きさから前記関係を用いて得られる前記基板粒子速度と、の速度差を求める共にその速度差を積算し、その積算量に基づいて前記磨耗量を算出するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、使用者が、積算磨耗量の表示に基づいて寿命の時期を認知して、すなわち、磨耗限界を予測して、寿命に対する何らかの対応をとれるので、アクチュエータが使用中に突然使用不能になる、という不具合を回避できる。磨耗は主に滑りによって発生し、その滑りは、加減速時に発生する。単位駆動サイクルには、移動子の移動開始時と停止時の加減速状態が含まれる。従って、単位駆動サイクルの発生回数やそのサイクルにおける最大印加電圧などに基づいて磨耗量や積算磨耗量を算出できる。そこで、本発明の弾性表面波アクチュエータは、簡単な構成により、移動子の固定子表面との接触部の磨耗量を予測し、磨耗限界(寿命)の予測を実現できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、予め限界磨耗量を設定して弾性表面波アクチュエータの交換や補修の時期を設定できる。
【0014】
請求項3の発明によれば、同一条件のもとで単位駆動サイクルを間欠的に繰り返すことにより、単位駆動サイクルを規格化することができ、規格化した単位駆動サイクルの繰り返し回数によって寿命を予測することができるので、規格化しない場合の単位駆動サイクルに基づく場合よりも、接触部の磨耗量や寿命をより精密に予測できる。
【0015】
請求項4の発明によれば、単位駆動サイクルにおける細部に注目して磨耗に関与する状態、すなわち、加減速の状態を抽出して接触部の磨耗量を算出するので、単位駆動サイクルの駆動回数などにより磨耗量を算出する場合に比べて、より精度良く算出できる。このような加速度の積算量に基づいて磨耗量を算出すると、規格化した単位駆動サイクルの間欠的な繰り返しによる駆動方法によらずに、間欠駆動と同様の精度の高い寿命予測ができると共に、多数回の間欠駆動による磨耗進展も回避できる。
【0016】
請求項5の発明によれば、移動子の滑り量を見積もることができる速度差の積算量によって接触部の磨耗量を算出するので、磨耗量をより精度良く算出できる。この速度差の積算量は、移動子の滑り量を直接的に数値化できる指標である。基板粒子速度は、交差指電極への印加電圧との関係量として、予め求めておくことができる。例えば、レーザドップラ速度計によって、基板粒子速度を測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについて、図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについてのブロック構成を示し、図2は同弾性表面波アクチュエータにおける単位駆動サイクルの定義を示す。
【0019】
弾性表面波アクチュエータ1は、図1に示すように、弾性表面波Wを励振するための交差指電極4を表面に有する圧電基板からなる固定子2と、弾性表面波励振用の電力を交差指電極4に供給するための高周波電源11と、交差指電極4と高周波電源11とによって圧電基板(固定子2)の表面に励振される弾性表面波Wにより駆動される移動子3と、を備えている。
【0020】
また、弾性表面波アクチュエータ1は、単位駆動サイクルT(後述、図2)における移動子3の固定子2表面との接触部の磨耗量を算出する磨耗量算出部12と、磨耗量算出部12によって算出された磨耗量を積算する磨耗量積算部13と、磨耗量積算部13によって積算された積算磨耗量を表示する出力部14と、これらの高周波電源11、磨耗量算出部12、磨耗量積算部13、および出力部14を制御する制御部10と、を備えている。
【0021】
固定子2は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)のように圧電体そのものであったり、シリコン基板などの上に圧電材であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)の薄膜を形成したものでもよい。また、これら以外の圧電材料を用いることもできる。固定子2の表面形状は、平面とは限らず円柱面やその他の曲面でもよい。圧電体のこのような平面や曲面または、このような面上に形成された圧電体の膜の表面に、弾性表面波Wが励振される。
【0022】
交差指電極4は、一対の複数の櫛歯状の電極41を、互いの櫛歯が交互に入り込むように対向させて、固定子2の表面に形成されている。交差指電極4の電極ピッチの2倍(図中λ)は、励振される弾性表面波Wの波長に一致している。
【0023】
移動子3は、固定子2における表面波発生領域に、固定子2と接触して設けられている。移動子3は、固定子2に対して、相対的に移動する。通常、固定子2が固定され、移動子3が移動する。弾性表面波アクチュエ−タ1において、どちらが移動するかということは、相対的なものであり、移動子3が固定され、固定子2が移動する場合もある。
【0024】
移動子3は、例えば、シリコンのような硬い材料で形成される。移動子3における固定子2との接触面には、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達するための複数の突起が設けられている。このような突起は、移動子3がシリコンで形成される場合、シリコンのエッチング工法で製作される。なお、移動子3の材料は、シリコンでなくても硬い材料であればよい。さらに、弾性表面波Wの運動エネルギを効率よく移動子3に伝達できるのであれば、接触面32における突起も不要である。
【0025】
移動子3は、不図示の予圧手段によって予圧が加えられて、固定子2に圧接される。移動子3は、この予圧に基づく摩擦力によって駆動されて、固定子2上を移動する。固定子2の表面の弾性表面波Wは、予圧に逆らって、すなわち、移動子3を持ち上げて振動可能なエネルギをもって励振される必要がある。
【0026】
弾性表面波アクチュエ−タ1において、弾性表面波Wが励振され、移動子3に予圧が加えられた状態で、移動子3は、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆の、方向a2に向かって移動する(その速度をVとする)。このような方向関係は、弾性表面波Wが、後方楕円運動を行っていることに基づく(後述図11とその説明参照)。
【0027】
上述の単位駆動サイクルTは、図2に示すように、弾性表面波Wの励振開始時t1から励振停止時t2に至る間の移動子3の駆動単位として定義される。高周波電源11から交差指電極4への印加電圧Eの波形を、E=E0・sin(ωt+α)、とする。ここで、時間tに対する印加電圧Eの波形が、振幅E0、波長λを与える角周波数ω、および所定の時刻からの位相変化を表す初期位相αによって表されている。
【0028】
この図において、印加電圧Eは、オン・オフ切替によって制御され、時間t1〜t2において、振幅E0は一定と仮定されている。この仮定は、説明の便宜上のものであり、振幅E0を滑らかに変化させて電圧を印加することもできる。また、一般には、高周波電源11における時定数の存在などにより、滑らかな電圧変化となる。
【0029】
固定子2に励振される弾性表面波Wの振幅は、高周波電源1から交差指電極4に印加される電圧の大きさ(印加電圧の振幅E0)に依存し、これらは移動子3の移動速度Vを決める。弾性表面波Wの波束の長さは、電圧の印加時間(これを同じくTで表すと、T=t2−t1、である)に相当する。移動子3の移動距離(位置)は、印加電圧の振幅E0と印加時間Tの長さとで決まる。
【0030】
単位駆動サイクルTにおいて、移動子3の速度は、図2に示すように、励振開始時t1後に加速されて速度Vが上昇し(領域a)、その後、一定速度となり(領域b)、励振停止時t2後に減速されてゼロになる(領域c)。
【0031】
このような弾性表面波アクチュエ−タ1において、移動子3における固定子2との接触面の磨耗が、主に滑りによって発生する。その滑りは、通常、加減速時に発生する。図2に示す単位駆動サイクルTには、移動子3の移動開始時t1以降と停止時t2以降の加減速状態(領域a,b)が含まれる。このことを逆に考えると、単位駆動サイクルTの発生回数やそのサイクルにおける最大印加電圧(振幅E0)などに基づいて磨耗量や積算磨耗量を算出することができることが分かる。
【0032】
そこで、磨耗量算出部12は、単位駆動サイクルTにおける移動子3の固定子2表面との接触部の磨耗量算出の比較的単純な方法として、例えば、移動開始の回数を用いる。このような回数に基づく磨耗量算出は、特に、印加電圧Eがオン・オフ切替によって制御され、振幅E0が一定と仮定される場合に、十分実用的な算出方法となる。
【0033】
上述の算出方法を実現するために、例えば、弾性表面波アクチュエータ1における単位駆動サイクルTの繰り返し回数と移動子3の接触部の寿命との関係を予め測定して決定しておく。そして、磨耗量算出部12が移動開始を検出し、磨耗量積算部13がその回数を積算し、出力部14が積算された回数、すなわち対応する磨耗量を何らかの指標によって表示することにより、弾性表面波アクチュエータ1における移動子3の固定子2表面との接触部の磨耗量を把握して、磨耗限界(寿命)の予測を行うことがきる。磨耗量を表示する指標として、回数そのものや、最大可能回数に対するパーセント表示などを用いることができる。
【0034】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、簡単な構成により、使用者が、積算磨耗量の表示に基づいて寿命の時期を認知して、すなわち、磨耗限界を予測して、寿命に対する何らかの対応をとれるので、アクチュエータが使用中に突然使用不能になる、という不具合を回避できる。
【0035】
なお、上述の図1の構成による弾性表面波アクチュエ−タ1は、移動子3を方向a2に向けて移動できるが、移動子3を一方方向にしか移動できない。そこで、方向a2とは逆の方向に移動子3を移動させる双方向移動のためには、復帰機構を設ければよい。例えば、バネなどの付勢力を用いた復帰機構により、方向a1向きに復帰させることができる。また、復帰機構として、方向a2側に、復帰用の交差指電極を設けてもよい。このような往復運動可能な弾性表面波アクチュエ−タ1を以下に述べる。
【0036】
(交差指電極の配置と構造の変形例)
図3(a)〜(d)は弾性表面波アクチュエータの交差指電極の配置と構造の変形例を示す。これらの弾性表面波アクチュエータ1は、移動子3を正逆両方向に移動可能とするように、移動子3の移動領域の両端に復帰機構として交差指電極4を備えている。さらに、これらの弾性表面波アクチュエータ1は、交差指電極4の移動子3側とは反対側に向かう弾性表面波を反射させてそのエネルギを有効利用するための機構(交差指電極5、追加電極43、反射部40など)を備えている。なお、交差指電極4,5などの構造や配置は、一例であって、これらの図に示されるものに限られない。
【0037】
図3(a)(b)に示す弾性表面波アクチュエータ1における交差指電極5は、隣接する駆動用の交差指電極4を一方向性の交差指電極とする反射用電極となっている。これらの電極は、多重反射によって弾性表面波を移動子3側に戻すものである。なお、このような櫛形電極ではなく、梯子型の電極としてもよい。
【0038】
また、図3(c)(d)に示す弾性表面波アクチュエータ1における駆動用の交差指電極4は、それぞれ、一方向性の交差指電極を構成するための構造が作り込まれている。図3(c)において、追加電極43は、互いに異極となる一対の個別電極の間に配置されており、フロート電位となって弾性表面波を反射する。
【0039】
また、図3(d)において、反射部40は、互いに異極となる交差指電極4の電極を所定間隔で配置し、これらの電極の各個別電極部分の一部表面と圧電基板(固定子2)の一部表面とにまたがる表面領域に、例えば、シリコン酸化物SiO2膜を形成したものである。反射部40は、圧電基板の表面における弾性表面波の伝搬に影響して反射材として機能する。以上の、反射用の交差指電極5、追加電極43、反射部40などと組み合わせた交差指電極4は、一方向性の交差指電極と見做すことができる。
【0040】
(第2の実施形態)
図4は第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータのブロック構成を示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第1の実施形態の弾性表面波アクチュエータ1(図1)において、入力部15と寿命演算部16とをさらに備えたものであり、他の点は同様である。入力部15からは、限界磨耗量を入力することができる。
【0041】
寿命演算部16は、磨耗量積算部13によって積算された積算磨耗量と入力部15を介して入力された限界磨耗量とを比較し、移動子3の寿命を予測する。この寿命演算部16は、積算磨耗量が限界磨耗量を超えた場合に、移動子3の寿命が尽きつつあると判断して移動子3が使用不能となる前に、そのことを出力部14を介して外部に知らせる。
【0042】
このような構成の弾性表面波アクチュエータ1によれば、使用者は、予め限界磨耗量を設定して弾性表面波アクチュエータ1の交換や補修の時期を設定できる。
【0043】
(第3の実施形態)
図5は第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける移動子を間欠駆動する場合の印加電圧の振幅波形を示し、図6(a)〜(f)は間欠駆動の例を印加電圧の振幅波形と移動子の速度変化によって示す。本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、第1、第2の実施形態の弾性表面波アクチュエータ1とは、移動子3の駆動方法(高周波電源11の動作)および磨耗量算出部12による磨耗量算出方法が異なっており、その他の点は同様である。
【0044】
すなわち、高周波電源11は、移動子3を所望の距離だけ移動させるための駆動に際し、同一条件のもとで、上述の単位駆動サイクルTを間欠的に繰り返すと共に、その繰り返しの間隔によって移動子3の移動速度Vを調整するように交差指電極4への電力供給を行う。また、磨耗量算出部12は、単位駆動サイクルTの繰り返し回数に基づいて磨耗量を算出する。
【0045】
このような間欠駆動による移動子3の移動において、各単位駆動サイクルT中の速度波形が同じになるように制御した印加電圧のもとで各単位駆動サイクルTを繰り返す制御を行う。これにより、各単位駆動サイクルを規格化して、移動距離(位置)や、移動速度を精度良く制御した移動とすることができる。
【0046】
図5において、移動子3は、時刻t3から時刻t4にかけて、単位駆動サイクルTを休止時間Δtを挟んで、4回繰り返す間欠駆動による移動を行う例が示されている。各単位駆動サイクルTの速度変化を同じにすると、各サイクルにおける磨耗量を同じとすることができる。従って、間欠駆動の回数をカウントすることにより、移動子3の接触部の磨耗量を算出できる。そこで、寿命限界の磨耗量を閾値とし、積算磨耗量が閾値を超えたら寿命がきたと予測することができる。各サイクルでの磨耗量は微量であるため測定しにくい。そこで、複数回、例えば1000回同一動作させた場合の磨耗量を測定し、その磨耗量を1000で割った値を一回駆動当たりの磨耗量とすればよい。
【0047】
また、移動子3の一定時間における移動量は、全体の移動時間における平均速度に依存する。その平均速度Vmは、図6(a)〜(f)に示すように、間欠駆動における間欠駆動の間隔によって調整することができる。すなわち、単位駆動サイクルTの時間長さと振幅を一定とし、休止時間Δtを長くすれば、平均速度Vmを遅くでき、休止時間Δtを短くすれば、平均速度Vmを速くできる。
【0048】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、同一条件のもとで単位駆動サイクルTを間欠的に繰り返すことにより、単位駆動サイクルTを規格化し、その繰り返し回数によって寿命を予測することができるので、規格化しない場合の単位駆動サイクルに基づく場合よりも、接触部の磨耗量や寿命をより精密に予測できる。
【0049】
(第4の実施形態)
図7は第4の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータのブロック構成を示し、図8は単位駆動サイクルTにおける移動子3の加速度の時間変化を示し、図9は寿命予測に用いる磨耗量と加速度の積算量との関係を示す。
【0050】
本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第2の実施形態の弾性表面波アクチュエータ1において、さらに移動子3の移動速度を測定する速度測定部17を備えたものである。寿命演算部16は、速度測定部17によって測定された移動子3の移動速度Vから加速度Aを算出し、加速度Aの積算量に基づいて移動子3の寿命を予測する。他の点は、第2の実施形態の弾性表面波アクチュエータ1と同様である。
【0051】
移動子3の接触部の寿命は、上述したように、加減速が多いと短くなる。そこで、移動子3の速度を計測し、その測定結果を時間微分することにより加速度を求めて、磨耗量を予測する。磨耗量算出部12は、図8において、加速状態aにおける加速度曲線と時間軸とで囲まれる面積S1、減速状態cにおける加速度曲線と時間軸とで囲まれる面積S2を求め、その和、S1+S2、を単位駆動サイクルTにおける磨耗量として算出する。磨耗量積算部13は、各面積Siを積算して、積算量S、S=ΣSi、を求める。
【0052】
寿命演算部16は、図9に示すように、予め求められている加減速に係る面積の積算量Sと磨耗量Rの関係式、R=f(S)に基づいて、その時点における磨耗量、従って寿命を演算する。また、寿命演算部16は、別途入力部15を介して入力された寿命限界の磨耗量を閾値とし、加速度の積算量Sから予測できる累積磨耗量Rと前記閾値とを比較し、磨耗量Rが閾値を超えたら寿命がきたと予測する。なお、R=f(S)の関係式は、加速度の面積の積算量と磨耗量とを複数測定して相関を求めて決定する。
【0053】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、単位駆動サイクルにおける細部に注目して磨耗に関与する加減速の状態を抽出し、接触部の磨耗量や寿命を予測することになるので、単位駆動サイクルTの駆動回数などのように全体から磨耗量や寿命を予測する場合に比べて、より精密に磨耗量や寿命を予測できる。また、加速度の積算量に基づいて予測すると、第3の実施形態におけるような規格化した単位駆動サイクルTの間欠的な繰り返しによる間欠駆動によらずに、間欠駆動と同様の精度の高い寿命予測ができると共に、多数回の間欠駆動による磨耗の進展を防止できる。
【0054】
(第5の実施形態)
図10は第5の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの単位駆動サイクルにおける移動子の速度および固定子の表面の移動速度の時間変化を示し、図11は移動子と固定子の接触部分を拡大して示し、図12は寿命予測に用いる磨耗量と速度差の積算量との関係を示す。
【0055】
本実施形態の弾性表面波アクチュエータ1は、上述の第4の実施形態と同様に移動子3の移動速度Vを測定する速度測定部17を備えており、磨耗量Rの算出方法が加速度によらずに速度による点が、第4の実施形態と異なっており、その他の点は同様である。
【0056】
すなわち、寿命演算部16は、高周波電源11によって供給される弾性表面波励振用の電力の大きさとその電力によって励振される弾性表面波に伴って移動する表面波の伝搬方向に沿った圧電基板の表面の移動速度U(以下、基板粒子速度Uという)との関係を記憶しており、速度測定部17によって測定される移動子3の移動速度Vと、供給される電力の大きさから、前記関係によって得られる基板粒子速度Uと、の速度差を求める共にその速度差を積算し、その積算量に基づいて移動子3の寿命を予測する。
【0057】
移動子3の接触部の磨耗は、固定子2と移動子3との滑りの発生によって発生し、滑りが多くて磨耗が多いと寿命が短くなる。移動子3の滑りは、固定子2と移動子3との相対速度が大きいほど大きいので、両者の速度(速度V、基板粒子速度U)を求めてその差を見積もることにより、滑り、従って磨耗量を見積もることができる。
【0058】
速度V,Uの時間変化は、図3に示すように、単位駆動サイクルTにおける、移動子3の加速度状態、等速運動状態、減速状態のそれぞれに略対応して、互いに大小変化の異動を示す。そこで、各速度変化曲線と時間軸とによって囲まれる面積B1,B2,B3を求めて、これらを積算した積算量B、B=B1+B2+B3、によって、滑り量、従って磨耗量とすることができる。
【0059】
磨耗量算出部12は、図10において、面積B1,B2,B3を求めて、単位駆動サイクルTにおける磨耗量として算出する。磨耗量積算部13は、各面積Biを積算して、積算量B、B=ΣBi、を求める。
【0060】
ここで、図11によって、速度V,Uを説明する。弾性表面波Wが励振されている固定子2の表面には、表面の各点における粒子が、互いに隣同士で位相のずれた楕円運動を行うことにより、凹凸が発生している。その凸部は、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆向きの基板粒子速度Uをもって運動している。また、移動子3は、振動子3の粒子運動によって、速度Vが発生して、弾性表面波Wの進行方向a1とは逆向きに移動する。
【0061】
移動子3の速度Vは、速度測定部17によって測定される。また、基板粒子速度Uは、例えば、振動子3に配置した交差指電極4に印加する高周波電圧の大きさによって決まる。従って、基板粒子速度Uは、交差指電極4に流れる電流値に基づいて、見積もることができる。また、基板粒子速度Uは、例えば、レーザドップラ速度計によって直接測定することができる。そこで、例えば、予め、印加電圧や電流値と、基板粒子速度Uとの関係を求めておくことにより、交差指電極4に流れる電流値に基づいて、基板粒子速度Uが求められる。
【0062】
寿命演算部16は、図12に示すように、予め求められている速度差に係る面積の積算量Bと磨耗量Rの関係式、R=g(B)に基づいて、その時点における磨耗量、従って寿命を演算する。また、寿命演算部16は、別途入力部15を介して入力された寿命限界の磨耗量を閾値とし、速度差の積算量Bから予測できる累積磨耗量Rと前記閾値とを比較し、磨耗量Rが閾値を超えたら寿命がきたと予測する。なお、R=g(B)の関係式は、速度差の面積の積算量と磨耗量とを複数測定して相関を求めて決定する。
【0063】
このような弾性表面波アクチュエータ1によれば、移動子3の滑り量を見積もることができる速度差の積算量Bによって接触部の磨耗量Rや寿命を予測することになるので、磨耗量Rや寿命をより精密に予測できる。この速度差の積算量Bは、移動子3の滑り量を直接的に数値化できる指標である。基板粒子速度Uは、交差指電極4への印加電圧や電流値との関係量として、予め求めておくことができる。なお、積算量Bは、加減速状態だけでなく等速移動状体における滑り(面積B2)を考慮するものと成っている。この点、寿命予測精度の向上が見込まれる。
【0064】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、第1の実施形態において、移動子3の移動速度Vが一定との前提で説明したが、移動子3の移動速度Vを可変とすることもできる。速度Vを可変とするには、振幅E0を変化させればよい。例えば、振幅E0の異なる複数の単位駆動サイクルTを区別して定義し、各単位駆動サイクルT毎の寿命予測に基づいて全体の寿命予測をすればよい。また、1つの単位駆動サイクルTの中で、速度可変としてもよい。この場合、各振幅E0や移動速度Vの値に応じて変化する代表的な速度変化パターンに対して、加速や減速の回数と、磨耗量との関係を予め測定しておくことにより、上述の寿命予測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータについてのブロック構成図。
【図2】同上弾性表面波アクチュエータにおける単位駆動サイクルを説明するための印加電圧波形および移動子の速度の時間変化のグラフ。
【図3】(a)〜(d)は同上弾性表面波アクチュエータの交差指電極の配置と構造の変形例を示す平面図。
【図4】第2の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータのブロック構成図。
【図5】第3の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータにおける移動子の間欠駆動を説明するための印加電圧の振幅波形の時間変化のグラフ。
【図6】(a)(b)(c)は同上弾性表面波アクチュエータにおける間欠駆動の例を説明するための印加電圧の振幅波形の時間変化のグラフ、(d)(e)(f)はそれぞれ(a)(b)(c)の間欠駆動に対応する移動子の速度の時間変化のグラフ。
【図7】第4の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータのブロック構成図。
【図8】同上弾性表面波アクチュエータの単位駆動サイクルにおける移動子の加速度の時間変化のグラフ。
【図9】同上弾性表面波アクチュエータの寿命予測に用いる磨耗量と加速度の積算量との関係を示すグラフ。
【図10】第5の実施形態に係る弾性表面波アクチュエータの単位駆動サイクルにおける移動子の速度および固定子の表面の移動速度の時間変化のグラフ。
【図11】同上弾性表面波アクチュエータにおける固定子の表面の移動速度を説明する移動子と固定子との接触部分の拡大断面図。
【図12】同上弾性表面波アクチュエータの寿命予測に用いる磨耗量と速度差の積算量との関係を示すグラフ。
【図13】従来の弾性表面波アクチュエータの例を示す平面図。
【図14】一般的な弾性表面波の励振と伝搬を説明する圧電基板表面部分の拡大断面図。
【符号の説明】
【0066】
1 弾性表面波アクチュエータ
2 固定子
3 移動子
4 交差指電極
11 高周波電源
12 磨耗量算出部
13 磨耗量積算部
14 出力部
15 入力部
16 寿命演算部
17 速度測定部
A 加速度
B 積算量(速度差の)
R 磨耗量
S 積算量(加速度の)
T 単位駆動サイクル
U 速度(基板粒子の)
V 速度(移動子の)
W 弾性表面波
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、
弾性表面波励振用の電力を前記交差指電極に供給するための高周波電源と、
前記交差指電極と前記高周波電源とによって前記圧電基板の表面に励振される弾性表面波により駆動される移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、
前記弾性表面波の励振開始から励振停止に至る間の前記移動子の駆動を単位駆動サイクルとし、前記単位駆動サイクルにおける前記移動子の前記固定子表面との接触部の磨耗量を算出する磨耗量算出部と、
前記磨耗量算出部によって算出された磨耗量を積算する磨耗量積算部と、
前記磨耗量積算部によって積算された積算磨耗量を表示する出力部と、を備えることを特徴とする弾性表面波アクチュエータ。
【請求項2】
限界磨耗量を入力するための入力部と、
前記磨耗量積算部によって積算された積算磨耗量と前記入力部を介して入力された限界磨耗量とを比較して前記移動子の寿命を予測する寿命演算部と、をさらに備え、
前記寿命演算部は、前記積算磨耗量が前記限界磨耗量を超えた場合に前記移動子の寿命が尽きつつあると判断して前記移動子が使用不能となる前にそのことを前記出力部を介して外部に知らせることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項3】
前記高周波電源は、前記移動子を所望の距離だけ移動させるための駆動に際し、同一条件のもとで前記単位駆動サイクルを間欠的に繰り返すと共に、その繰り返しの間隔によって前記移動子の移動速度を調整するように前記交差指電極への電力供給を行い、
前記磨耗量算出部は、前記単位駆動サイクルの繰り返し回数に基づいて前記磨耗量を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項4】
前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、
前記磨耗量算出部は、前記速度測定部によって測定された前記移動子の移動速度から加速度を算出し、前記加速度の積算量に基づいて前記磨耗量を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項5】
前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、
前記磨耗量算出部は、前記高周波電源によって供給される弾性表面波励振用の電力の大きさとその電力によって励振される弾性表面波に伴って移動する当該表面波の伝搬方向に沿った前記圧電基板の表面の移動速度(以下、基板粒子速度という)との関係を記憶しており、前記速度測定部によって測定される前記移動子の移動速度と、供給される前記電力の大きさから前記関係を用いて得られる前記基板粒子速度と、の速度差を求める共にその速度差を積算し、その積算量に基づいて前記磨耗量を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項1】
弾性表面波を励振するための交差指電極を表面に有する圧電基板からなる固定子と、
弾性表面波励振用の電力を前記交差指電極に供給するための高周波電源と、
前記交差指電極と前記高周波電源とによって前記圧電基板の表面に励振される弾性表面波により駆動される移動子と、を備えた弾性表面波アクチュエータにおいて、
前記弾性表面波の励振開始から励振停止に至る間の前記移動子の駆動を単位駆動サイクルとし、前記単位駆動サイクルにおける前記移動子の前記固定子表面との接触部の磨耗量を算出する磨耗量算出部と、
前記磨耗量算出部によって算出された磨耗量を積算する磨耗量積算部と、
前記磨耗量積算部によって積算された積算磨耗量を表示する出力部と、を備えることを特徴とする弾性表面波アクチュエータ。
【請求項2】
限界磨耗量を入力するための入力部と、
前記磨耗量積算部によって積算された積算磨耗量と前記入力部を介して入力された限界磨耗量とを比較して前記移動子の寿命を予測する寿命演算部と、をさらに備え、
前記寿命演算部は、前記積算磨耗量が前記限界磨耗量を超えた場合に前記移動子の寿命が尽きつつあると判断して前記移動子が使用不能となる前にそのことを前記出力部を介して外部に知らせることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項3】
前記高周波電源は、前記移動子を所望の距離だけ移動させるための駆動に際し、同一条件のもとで前記単位駆動サイクルを間欠的に繰り返すと共に、その繰り返しの間隔によって前記移動子の移動速度を調整するように前記交差指電極への電力供給を行い、
前記磨耗量算出部は、前記単位駆動サイクルの繰り返し回数に基づいて前記磨耗量を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項4】
前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、
前記磨耗量算出部は、前記速度測定部によって測定された前記移動子の移動速度から加速度を算出し、前記加速度の積算量に基づいて前記磨耗量を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【請求項5】
前記移動子の移動速度を測定する速度測定部を備え、
前記磨耗量算出部は、前記高周波電源によって供給される弾性表面波励振用の電力の大きさとその電力によって励振される弾性表面波に伴って移動する当該表面波の伝搬方向に沿った前記圧電基板の表面の移動速度(以下、基板粒子速度という)との関係を記憶しており、前記速度測定部によって測定される前記移動子の移動速度と、供給される前記電力の大きさから前記関係を用いて得られる前記基板粒子速度と、の速度差を求める共にその速度差を積算し、その積算量に基づいて前記磨耗量を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波アクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−106041(P2009−106041A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274488(P2007−274488)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】
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