説明

弾性表面波デバイス

【課題】本発明は、結合係数が大きな弾性表面波デバイスを素子特性のばらつきなく提供することを目的とする。
【解決手段】そして、この目的を達成するために本発明は、チタンあるいはニオブの少なくとも一方を白金に混入したものをバッファ層3に用いたことにより、バッファ層に酸化物を用いないため組成ずれを起こすことがなく、そのため素子特性のばらつきを生むこともなく、且つ、白金に混入されたチタンあるいはニオブが白金の上層に偏析することにより形成されるチタンあるいはニオブの酸化物を成長の核として、その上面にX線構造解析において回折強度が最大となる第1の角度を22度付近に有し、この第1の角度の次に大きな回折強度を持つ第2の角度を45度付近に有するニオブ酸カリウムで圧電体層を形成することができるため、電気機械結合係数の大きな弾性表面波デバイスを素子特性のばらつきなく提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板を用いた弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種の弾性表面波デバイスは、断面図4に示すような構成をしていた。
【0003】
図4において、シリコン基板101の上に金属を含む酸化物で構成されたバッファ層103を形成し、このバッファ層103の上には斜方晶(001)配向のニオブ酸カリウムからなる圧電体層104を形成し、さらにその上には電極層105を形成していた。ここで、斜方晶ニオブ酸カリウムの(001)配向面とは、斜方晶ニオブ酸カリウムの格子定数のうち、最も短いものをc軸とした場合の(001)面を指すものである。この斜方晶(001)配向のニオブ酸カリウムの電気機械結合係数は大きく、これを圧電体層104に用いることで、電気機械結合係数の大きい弾性表面波デバイスを実現していた。
【0004】
なお、この出願に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2003−273706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の弾性表面波デバイスは、ニオブ酸カリウムの材料性能ばらつきによる素子特性のばらつきが問題となっていた。
【0006】
すなわち、図4に示すようなバッファ層103が酸化物薄膜からなる構成であると、その形成時において、例えばスパッタリングやCVDで形成するのであれば薄膜形成時のばらつきを考えると完全なエピタキシャル膜は得がたい。そのため、バッファ層103の配向性が不完全なものとなり、その影響が圧電体層104の配向性に影響することで、材料性能のばらつきによる素子特性のばらつきを生んでいた。
【0007】
そこで本発明は、素子特性のばらつきをなくすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、この目的を達成するために本発明は、チタンとニオブの少なくとも一方を、白金に混入したものをバッファ層に用いた。
【発明の効果】
【0009】
本発明の弾性表面波デバイスは、バッファ層に酸化物を用いないため組成ずれを起こすこともなく、そのため素子特性のばらつきを生むこともなく、且つ、白金に混入されたチタンあるいはニオブが白金の上層に偏析することによりチタンあるいはニオブの酸化物が白金の上層に形成され、そのチタンあるいはニオブの酸化物を成長の核として、その上面に、X線構造解析において回折強度が最大となる角度が22度近傍、その次に大きな回折強度となる角度が45度近傍となるニオブ酸カリウムからなる圧電体層を形成することができるため、電気機械結合係数の大きい弾性表面波デバイスを素子特性のばらつきなく提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における弾性表面波デバイスについて図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は本発明の実施の形態1における弾性表面波デバイスの断面図である。
【0012】
図1に示すシリコン基板1の上には、チタンあるいはニオブからなるバッファ層2が形成されている。このとき、バッファ層2の成膜手法としては蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリングなどが挙げられるが面内分布の均一性などを考えるとスパッタリングであることが望ましい。チタン及びニオブとシリコン基板1との密着性は非常に優れており、このバッファ層2を入れることにより、以下に示すバッファ層3とシリコン基板1との密着性を上げることができる。ここで、このバッファ層2の膜厚が5nm以上であるとなお良い。
【0013】
次に、バッファ層2の上に、白金にチタンあるいはニオブが混合されているバッファ層3を形成する。まず、蒸着、スパッタリングなどにより白金層(図示せず)を形成する。特に面内分布の均一性などを考えるとスパッタリングであることが望ましい。次に、バッファ層2と白金層(図示せず)とをアニールし、バッファ層2中のチタンあるいはニオブを白金層(図示せず)の内部から上層にかけて拡散させて、上層にチタンおよびニオブの酸化物(一酸化チタンや一酸化ニオブ)を形成したバッファ層3を形成する。この一酸化チタン及び一酸化ニオブは面心立法晶系の構造をとり、そのときの格子定数はそれぞれ4.177Åと4.2018Åとなる。このとき斜方晶ニオブ酸カリウムの(001)面の格子定数は4.036Åと4.036Åであり、また、斜方晶ニオブ酸カリウムの(110)面の格子定数は4.036Åと3.973Åであることを考えると、斜方晶ニオブ酸カリウムの(001)面と(110)面がバッファ層3上に優先的に配向する。特に斜方晶ニオブ酸カリウムの(001)面は斜方晶ニオブ酸カリウムの(110)面と比べるとバッファ層3とのミスマッチが小さいため、より優先的に配向する。また、ニオブ酸カリウムがカリウム原子、ニオブ原子、酸素原子から構成されていることを考えると、特にニオブを成長の核とした方がより効果的である。このようにして、バッファ層3上に、X線構造解析において回折強度が最大となる角度が22度近傍、その次に大きな回折強度となる角度が45度近傍となる斜方晶ニオブ酸カリウムの(001)面もしくは斜方晶ニオブ酸カリウムの(110)面を有する圧電体層4を形成する。
【0014】
ここで、このバッファ層3は200nm未満であることが望ましい。膜厚が大きくなると粒径が大きくなる。粒径が大きくなると、粒界が局在的に分布してしまうため、この上面に形成する圧電体層4にひずみが生じてしまう。これを回避するためにも、バッファ層3はあまり厚くしない事が望ましい。
【0015】
また、本実施の形態においてアニールを行っているが、酸化性雰囲気中のアニールであればよりいっそうの効果が期待できる。
【0016】
このとき、このニオブ酸カリウムの成膜手法としては蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、MOCVD、ゾルゲル法、レーザーアブレーションなどが挙げられるが面内分布の均一性、大面積化、成膜レートの安定性などを考えるとスパッタリングであることが望ましい。ここで、スパッタリングによって圧電体層4を形成する際に、スパッタリングターゲットのニオブ酸カリウムと実際に基板上に形成したニオブ酸カリウムの圧電体層4の組成比が異なる恐れがある。即ち、ニオブ酸カリウム中のカリウム原子は軽元素であり、且つ蒸気圧も高いため膜中に取り込まれにくく、形成したニオブ酸カリウム圧電膜はカリウム原子が不足した状態になる可能性が高い。カリウムの原子量を[K]、ニオブの原子量を[Nb]とした場合、ターゲット中のニオブ原子に対するカリウム原子の原子数比が[K]/[Nb]<1であると膜中のニオブ原子に対するカリウム原子の原子数比が[K]/[Nb]≧1になることはありえない。従って、スパッタリングターゲット中のカリウム原子とニオブ原子の原子数比は[K]/[Nb]≧1であることが望ましい。また、カリウム原子の量が異常に多くなると潮解性の性質を持ってしまうため、膜剥がれなどの問題が生じてしまう。図5には基板温度、ガス圧、アルゴン−酸素ガス比などのスパッタ条件は変えずにターゲット中のニオブ原子に対するカリウム原子の原子数比を変えた時の膜中のニオブ原子に対するカリウム原子の原子数比を示している。膜の組成分析は波長分散型X線マイクロアナライザを用いている。図5からも明らかなように、ターゲット中のニオブ原子に対するカリウム原子の原子数比を2.2≧[K]/[Nb]≧1とすることで優れたニオブ酸カリウムを実現できる。また、このスパッタ時の基板温度は650℃以上850℃以下でありかつスパッタ開始までの保持時間が十分であれば、結晶性が良くかつ組成ずれのない圧電体層4を得る事ができ望ましい。
【0017】
本実施の形態においてはアニールを行うことによって、チタン、あるいはニオブの拡散を促進し、バッファ層3上にそれらの酸化物を形成してきたが、バッファ層3上にチタン及びニオブを数Å程度堆積させることでも同様の効果を期待できる。
【0018】
ここで、圧電体層4の膜厚は、この圧電体層4の表面を伝搬する表面波の波長以上であることが望ましい。即ち、図1に示すように圧電体層4の膜厚をH、圧電体層4の表面を伝搬する表面波の波長をλとしたとき、(H/λ)≧1の関係を満たすことが望ましい。圧電体層4の表面を伝搬する表面波のエネルギーは特にレーリー波の場合、表面から1波長以内に90パーセント以上存在するので、圧電体層4の膜厚がこの圧電体層4の表面を伝搬する表面波の波長以上であると、損失を少なく保つことができる。
【0019】
その後、圧電体層4の上に、アルミニウムを含む少なくとも2元系以上の合金材料で電極層(図示せず)を蒸着し、この電極層とバッファ層3を用いて分極処理を行う。その後、レジスト塗布、露光、現像、ドライエッチング、レジスト除去といった工程により、図3に示すごとくインターデジタル型電極5及びグレーティング反射器7を形成する。この構成により、弾性表面波共振子の作製が可能となることから弾性表面波共振子を複数直列接続および並列接続して構成したラダー型弾性表面波フィルタの作製が可能となり、広帯域なフィルタを実現することができる。なお、本実施の形態におけるインターデジタル型電極5は3.5対、グレーティング反射器7は5本であるが、対数および本数はこれによらない。
【0020】
なお、本実施の形態ではラダー型弾性表面波フィルタについて説明しているが、縦モード結合型フィルタにも適用が可能となっている。
【0021】
以上のような構成において、バッファ層3の上にX線構造解析において回折強度が最大となる角度が22度近傍、その次に大きな回折強度となる角度が45度近傍となるニオブ酸カリウムにより構成された圧電体層4を材料性能のばらつきなく形成することが可能となるため、素子特性のばらつきなく、弾性表面波デバイスを提供することができる。
【0022】
また、シリコン基板1の上のバッファ層がチタンあるいはニオブからなるバッファ層2であることにより、シリコン基板1との密着性が高く、且つ、安価なシリコン基板1上にニオブ酸カリウムなどによって構成された圧電体層4の形成を容易にしている。
【0023】
なお、本実施の形態においてバッファ層3に酸化物ではなく金属膜を用いることで、このバッファ層3の金属膜と圧電膜上に形成した電極膜とで圧電体層4の分極処理が容易になるという効果も期待できる。
【0024】
また、本実施の形態においては圧電体層としてニオブ酸カリウムを用いてきたが、4Å前後の格子定数を有するニオブ酸アルカリ系の圧電材料、例えばニオブ酸カリウムにナトリウムを添加した材料などについても同様の効果が期待できる。
【0025】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における弾性表面波デバイスについて図面を参照しながら説明する。
【0026】
図2は本発明の実施の形態2における弾性表面波デバイスの断面図である。なお、実施の形態1の構成と同様の構成を有するものについては、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0027】
図2に示すように、シリコン酸化膜6を、シリコン基板1と、バッファ層2との間に形成する。この時、シリコン酸化膜6の成膜手法としては、蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、ゾルゲル法、熱酸化などが挙げられるが膜質が良好なシリコン酸化膜6が得られ、且つ低コストで成膜出来ることなどを考えると熱酸化であることが望ましい。
【0028】
この構成により、バッファ層3及び圧電体層4形成時の基板加熱により生じるシリコン原子の上層への拡散を防止することが可能となる。また、シリコン基板1とバッファ層3との密着性を向上させることが可能となる。さらに、温度特性に優れた弾性表面波デバイスの実現が可能となる。特にシリコン酸化膜6を20nm以上形成すればより顕著な効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の弾性表面波デバイスは、弾性表面波の伝搬性を向上させることができるという効果を有し、携帯電話などのモバイル端末の周波数フィルタなどにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1における弾性表面波デバイスの断面図
【図2】本発明の実施の形態2における弾性表面波デバイスの断面図
【図3】本発明における弾性表面波デバイスの上面図
【図4】従来例を示す断面図
【図5】ターゲット組成とNb原子に対するK原子の原子数比との関係図
【符号の説明】
【0031】
1 シリコン基板
2 バッファ層
3 バッファ層
4 圧電体層
5 インターデジタル型電極
6 シリコン酸化膜
7 グレーティング反射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、このシリコン基板上に設けられたバッファ層と、このバッファ層の上に設けられた圧電体層と、この圧電体層の上に設けられた電極層とを有する弾性表面波デバイスにおいて、前記バッファ層は白金に、チタンとニオブの少なくとも一方が混入されている弾性表面波デバイス。
【請求項2】
バッファ層の膜厚が200nm未満である請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
圧電体層の膜厚が、この圧電体層の表面を伝搬する表面波の波長以上である請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
圧電体層にニオブ酸カリウムを用いた請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
X線構造解析において回折強度が最大となる第1の角度を22度付近に有し、この第1の角度の次に大きな回折強度を持つ第2の角度を45度付近に有するニオブ酸カリウムを圧電体層に用いた請求項4に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
バッファ層の膜厚が200nm未満である請求項4に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項7】
圧電体層の膜厚が、この圧電体層の表面を伝搬する表面波の波長以上である請求項4に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項8】
シリコン基板とバッファ層との間に、チタンあるいはニオブからなる第2のバッファ層を形成した請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項9】
バッファ層の膜厚が200nm未満である請求項8に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項10】
圧電体層の膜厚が、この圧電体層の表面を伝搬する表面波の波長以上である請求項8に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項11】
圧電体層にニオブ酸カリウムを用いた請求項8に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項12】
X線構造解析において回折強度が最大となる第1の角度を22度付近に有し、この第1の角度の次に大きな回折強度を持つ第2の角度を45度付近に有するニオブ酸カリウムを圧電体層に用いた請求項11に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項13】
バッファ層の膜厚が200nm未満である請求項11に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項14】
圧電体層の膜厚が、この圧電体層の表面を伝搬する表面波の波長以上である請求項11に記載の弾性表面波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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