説明

弾性表面波デバイス

【課題】本発明は、主として移動体通信機器にて使用される表面実装型の弾性表面波デバイスに関して、耐モールド性および耐熱性を向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明の弾性表面波デバイスは、異方性を有する圧電基板1の表面に設けられた櫛形電極2およびパッド電極3と、圧電基板1上に設けられ櫛形電極2を囲む側壁7と、この側壁上に設けられ櫛形電極1の励振空間を覆う天板8と、天板8および圧電基板1表面を覆うフィラー入り封止樹脂5を備え、天板8は側壁7の開口部を覆う金属箔8aと、この金属箔8a上に設けられた金属箔8aよりも厚いメッキ層8bからなり、圧電基板1とメッキ層8bで、線膨張率の差が大きくなる方向にメッキ層8bを分離させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として移動体通信機器にて使用される表面実装型の弾性表面波デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の弾性表面波デバイスは図3に示されるように、圧電基板1に設けられた櫛形電極2とパッド電極3とこれらを覆う金属カバー4を接着層9を介して封止するとともに、全体を封止樹脂5で覆い、封止樹脂5の表面に外部電極11を設け、封止樹脂5を貫通する柱状の接続電極10を用いて外部電極11とパッド電極3を接続する構造が知られている。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2000−261284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような弾性表面波デバイスにおいては、弾性表面波デバイスを基板に実装した後、実装された基板全体をトランスファーモールド機により樹脂成形する場合が多くなり、トランスファーモールド時の50気圧から100気圧という大きな圧力で破壊する、またリフロー等の熱が加わった場合、圧電基板と金属カバーの熱膨張率の差によってその接着面が破壊されるという問題を有していた。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題を解決し、弾性表面波デバイスの外力および熱への耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明は、異方性を有する圧電基板と、この圧電基板の表面に設けられた櫛形電極およびパッド電極と、圧電基板上に設けられ櫛形電極を囲む側壁と、この側壁上に設けられ櫛形電極の励振空間を覆う天板と、天板および圧電基板表面を覆うフィラー入り封止樹脂と、この封止樹脂上に設けられパッド電極と電気的に接続された外部電極とを備え、天板は側壁の開口部を覆う金属箔と、この金属箔上に設けられた金属箔よりも厚いメッキ層からなり、圧電基板とメッキ層で、線膨張率の差が大きくなる方向にメッキ層を分離させたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、弾性表面波デバイスの外力および熱への耐久性を向上させることが出来るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について図を用いて説明する。なお、上述した従来の弾性表面波デバイスと同様の構成については同じ符号を付して説明する。
【0009】
図1は本発明の一実施の形態における弾性表面波デバイスを模式的に示したものであり、その基本的な構造は、圧電基板1上に櫛形電極2およびパッド電極3を設け、櫛形電極2を側壁7で囲み、側壁7の開口部を天板8で覆うことにより櫛形電極2の励振空間6を確保している。ここで天板8は金属箔8aの上にメッキ層8bを設けた構成となっている。さらにその上に封止樹脂5で覆うことで形状を確保し、封止樹脂5を貫通する接続電極10により封止樹脂5上に設けられた外部電極11とパッド電極3を電気的に接続することにより弾性表面波デバイスを構成している。
【0010】
ここで圧電基板1は、板厚約350μmの回転YカットX伝播のタンタル酸リチウムを用い、金属箔8aには厚さ約3μmの銅箔を用い、メッキ層8bには銅を用い厚さ約35μmとし、封止樹脂5には平均粒径約8μmの酸化シリコンよりなるフィラーを重量比で約90%混入したエポキシ樹脂を用いている。
【0011】
回転YカットX伝播のタンタル酸リチウムでは、弾性表面波の伝播方向であるX軸方向の線膨張率は約16ppm/℃であり、X軸に対して垂直な方向には約4ppm/℃の線膨張率を有している。一方金属箔8a、メッキ層8bに用いられている銅の線膨張率は、約17ppm/℃である。圧電基板と、その上に設ける天板の線膨張率をほぼ合わすことができれば、熱が加わった場合でも同じように膨張するため、熱によって破壊する現象は起こらないが、タンタル酸リチウムのように異方性を有している圧電基板では、天板の方が異方性を持っていないため、膨張率を合わせることは不可能である。
【0012】
上記のように圧電基板の板厚約350μmに対して、金属箔8aの厚さを板厚の100分の1より薄い約3μmとした場合、その線膨張率の差はほとんど影響しなくなるが、金属箔8aの厚さがこれだけ薄くなると、外力に対する耐久力が劣化してしまうので、実用的ではない。そのためにメッキ層8bを形成することで厚膜化し、機械的強度をアップさせるが、熱膨張率の差の影響が出て熱に対する耐久性が劣化する。
【0013】
これに対し本発明では、金属箔8aを全体に設けるとともに、その上に設けるメッキ層8bを、線膨張率の差が大きくなるX軸に対して垂直な方向に分離させて形成したものである。このようにすることにより、メッキ層8bの熱による膨張は分離されている部分で分断されるため、全体への影響は小さくなり、線膨張率の差による影響を低減できるとともに、機械的強度も確保することができる。但し金属箔8aの厚さが厚くなるとメッキ層8bを分離してもあまり効果が出なくなるため、金属箔8aの厚さをメッキ層8bの厚さの5分の1以下、望ましくは10分の1以下とすることが望ましい。なおX軸方向に対しては線膨張率の差がほとんどないため影響しない。
【0014】
なお本発明の一実施形態では、金属箔8aとメッキ層8bを同じ材料を用いているが、異なる材料でもかまわない。この場合はメッキ層8bと圧電基板1との線膨張率の差が効いてくるため、この間の一方の線膨張率を近づけ、他方の線膨張率が大きく異なる方向に対して、メッキ層8bを分離することが望ましい。
【0015】
また、メッキ層8bを分離する距離を約30μmとした。機械的強度を考えると、分離する距離は小さい方が望ましいが、あまり小さくしすぎると封止樹脂5中のフィラーがその分離した間に十分に入らなくなり、好ましくない。逆に分離する距離が大きすぎると強度が劣化するため、メッキ層8bを分離する距離は、フィラーの平均粒径の3〜6倍程度にすることが望ましい。
【0016】
また、封止樹脂中のフィラーの含有量は重量比で85%以上とすることが望ましい。このようにすることで体積比でも60%以上にすることができ、分離されたメッキ層の間でフィラー同士が接触した状態となり、外力が加わった場合でも天板が撓みにくくなる。
【0017】
また、外力がデバイスに加わった場合、天板8と封止樹脂5が剥離するように力が働く場合があるが、メッキ層を分離した部分で、天板8にフィラー入り封止樹脂5が食い込んだ形となるため、剥離しにくくなり、外力に対する強度も向上することができる。
【0018】
さらに、メッキ層8bの断面形状を順テーパ状にすることが望ましい。このようにすることによりメッキ層8bを分離した間にフィラーが十分に入るようにできるため、機械的強度をより向上させることができる。
【0019】
さらに、メッキ層8bの形成領域を、金属箔8aの外周よりも内側に後退させている。熱膨張率の差による影響で最も大きいのが、金属箔8aの剥離であるが、剥離は金属箔8aの周端部が起点となって発生するため、その部分にメッキ層8bを設けないようにする。このようにすることにより、熱への耐久性をさらに向上させることができる。
【0020】
また、メッキ層を分離することで、天板8の表面積を大きくすることができ、これにより放熱性を高めることができ、特に弾性表面波デュプレクサのように大電力が通過するものに対しては、耐電力性をも向上させることができる。
【0021】
なお、上記実施の形態で櫛形電極が一つのもので構成したが、これに限定されるものではない。櫛形電極により構成した共振子を複数個組み合わせることにより弾性表面波デバイスを構成したものであってもよい。この場合、側壁は個々の共振子を個別に囲むとともに、一つの天板で共振子全ての励振空間を覆うようにすることが望ましい。このようにすることにより、天板と側壁との密着性を向上させることができるとともに、量産性をも向上させることができる。
【0022】
次に本発明の弾性表面波デバイスの製造方法について図2を参照しながら説明する。
【0023】
まず図2(a)のようにタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムといった圧電基板ウェハ1の表面に、フォトリソグラフィ技術を用いて櫛形電極2やパッド電極3をアルミニウムを主成分とする合金で形成する。
【0024】
次に図2(b)のように感光性ポリイミド樹脂を圧電基板ウェハ1に塗布し、露光、現像することにより櫛形電極2を囲む側壁7を形成する。このとき側壁7の高さを約10μmとする。
【0025】
次に厚さ約3μmの銅箔8aを、接着層9を介して側壁7の上に貼り合わせ、その上にレジストを形成したのち銅箔8aを所定のパターンにエッチングし、図2(c)を得る。この上にTi,Cuからなるスパッタ膜を成膜する。
【0026】
次に図2(d)のように圧電基板ウェハ1上に、メッキ層8bを形成する部分のみが開口したレジストパターンを形成する。このとき露光条件を最適化することにより、レジストパターンが逆テーパ状になるように形成する。このようにすることによりメッキ層8bの断面形状を順テーパ状にすることができる。
【0027】
次に図2(e)のように銅箔8aとパッド電極3上に電解メッキを施すことにより、銅箔8aの上面に弾性表面波伝播方向とは垂直な方向に分離されたメッキ層8bと接続電極10を形成する。
【0028】
次に接続電極10上のみが開口したレジストパターンを形成し、図2(f)のように接続電極10上に電解メッキを施すことにより接続電極10を更に上まで形成する。
【0029】
次にレジストパターンを除去し、ウェハ表面全体を封止樹脂5で覆い、表面を研磨して平坦化した後に接続電極10と電気的に接続された外部電極11を形成し、ダイシングにより圧電基板ウェハ1および封止樹脂5を同時に切断することにより、図2(g)のような個片の弾性表面波デバイスを得る。
【0030】
なおウェハ表面全体を封止樹脂で覆う工程では、スクリーン印刷を用いる。このときスクリーン印刷のスキージの移動する方向と、メッキ層を分離している方向と同じ方向とする。このようにすることにより、封止樹脂中のフィラーが分離しているメッキ層の間に入りやすくなり、デバイスの外力に対する強度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る弾性表面波デバイスは、弾性表面波デバイスの外力への耐久性、および熱に対する耐久性を向上させることができ、主として移動体通信機器に用いられる面実装型の弾性表面波フィルタや弾性表面波デュプレクサなどの弾性表面波デバイス等において有用となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態における弾性表面波デバイスの断面図
【図2】本発明の一実施形態における弾性表面波デバイスの製造方法を説明する図
【図3】従来の弾性表面波デバイスを示す断面図
【符号の説明】
【0033】
1 圧電基板(ウェハ)
2 櫛形電極
3 パッド電極
5 封止樹脂
6 励振空間
7 側壁
8 天板
8a 金属箔(銅箔)
8b メッキ層
9 接着層
10 接続電極
11 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性を有する圧電基板と、この圧電基板の表面に設けられた櫛形電極およびパッド電極と、前記圧電基板上に設けられ前記櫛形電極を囲む側壁と、この側壁上に設けられ前記櫛形電極の励振空間を覆う天板と、前記天板および前記圧電基板表面を覆うフィラー入り封止樹脂と、この封止樹脂上に設けられ前記パッド電極と電気的に接続された外部電極とを備え、前記天板は前記側壁の開口部を覆う金属箔と、この金属箔上に設けられた前記金属箔よりも厚いメッキ層からなり、前記圧電基板と前記メッキ層で、線膨張率の差が大きくなる方向に前記メッキ層を分離させた弾性表面波デバイス。
【請求項2】
櫛形電極により構成した共振子を複数個有し、側壁は個々の前記共振子を個別に囲むとともに、一つの天板で前記共振子全ての励振空間を覆っている請求項1記載の弾性表面波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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