説明

弾性表面波フィルタおよび弾性表面波フィルタの製造方法

【課題】 くし型変換器および反射器のパターンの欠陥がほぼ解消され、電気的な特性が良好であり、高周波数帯でも動作可能な弾性表面波フィルタおよびこの弾性表面波フィルタを高い歩留りで製造することが可能な弾性表面波フィルタの製造方法を提供すること。
【解決手段】 圧電基板上に形成されたくし型変換器に隣接した反射器を有し、前記くし型変換器および反射器にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いた弾性表面波フィルタにおいて、前記反射器を構成し、かつ前記くし型変換器に対して外側となる電極指の幅と、該電極指に接続するブスバーの幅とを、前記電極指のピッチ間隔の20〜30倍としたことを特徴とする弾性表面波フィルタおよびドライエッチングに用いるエッチングガスが四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素、塩素および希ガスからなる混合ガスであることを特徴とする弾性表面波フィルタの製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動体通信等に用いられる弾性表面波フィルタと、弾性表面波フィルタの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、移動体通信においては、周波数の利用効率、秘話性、信頼性およびデータ通信への適用等の問題から、利用帯域の高周波数化が図られている。そして、この利用帯域の高周波数化に伴い、移動体通信用の弾性表面波フィルタを構成するくし型変換器および反射器の微細化が著しくなっている。
【0003】すなわち、テレビ用の中間周波数帯で用いられている弾性表面波フィルタにおいては、動作周波数が40〜60MHzであるので、弾性表面波フィルタを構成するくし型変換器および反射器の電極指の幅およびピッチ間隔が7〜10μm程度であるのに対し、携帯電話用の高周波数帯で用いられている弾性表面波フィルタにおいては、動作周波数が800MHz〜1.9GHzであることから、弾性表面波フィルタを構成するくし型変換器および反射器の電極指の幅およびピッチ間隔を0.54〜1.3μm程度にまで微細化しなければならないのである。
【0004】ここで、図4により、一般的な弾性表面波フィルタの製造工程を説明する。
【0005】はじめに、圧電基板1上に蒸着あるいはスパッタリング等によりアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属膜2を成膜する(図4(a))。次に、金属膜2上にポジ型フォトレジスト3を塗布(図4(b))した後、露光・現像を行ってフォトレジストのパターン形成を行う(図4(c))。次いで、リン酸、酢酸および硝酸等からなる混酸のエッチャントによるウェットエッチングによって、くし型変換器および反射器のパターンを形成する(図4(d))。そして、最後に、不要となったフォトレジストを剥離する(図4(e))。こうして、弾性表面波フィルタが製造される。
【0006】ところで、弾性表面波フィルタのくし型変換器および反射器は、通常、図5(a)の4および5に示した形状であるが、混酸のエッチャントを用いたウエットエッチングは等方性エッチングのため、金属膜にはサイドエッチング(厚さ方向だけではなく横方向にも進行するエッチング)が作用する。こうしたサイドエッチングにより、弾性表面波フィルタのくし型変換器および反射器の電極指の幅が所定の幅より細くなったり、ばらついたり、くし型変換器および反射器の端部に凹凸が発生する。その結果、くし型変換器および反射器にショートおよびオープン不良が発生したり、電気的な特性に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0007】また、上記ウェットエッチングによって動作周波数1.9GHz帯の携帯電話に用いられる弾性表面波フィルタのくし型変換器および反射器を0.6μmL&S(線幅&スペース)で形成する場合、ウェットエッチングを行う際に必要なサイドエッチングの補正量(片側約0.3μm)を、予めフォトレジストパターンで確保しなければならない。しかしながら、この場合、フォトレジストパターンのギャップ部は完全に埋まってしまうため、くし型変換器および反射器を形成することは事実上不可能であり、高周波数帯で用いられる弾性表面波フィルタを得ることは困難であるという問題があった。
【0008】一方、三塩化硼素等のみからなるイオン化ガスを利用するドライエッチング法は、サイドエッチングの作用が少ないために、くし型変換器および反射器の形成においてはウェットエッチングと比較して容易に行える。
【0009】しかしながら、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるくし型変換器および反射器のエッチングに塩素系のガスを使用すると、圧電基板上に残留した塩素と空気中の水分とが反応して塩酸が形成され、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるくし型変換器および反射器にアフターコロージョンが発生する。このアフターコロージョンは、特に図5(b)に示したくし型変換器4および反射器5の斜線部に起こりやすく、また、レジスト剥離時に側壁保護膜の除去が困難であるという問題があった。
【0010】したがって、動作周波数が高周波数帯である弾性表面波フィルタのくし型変換器および反射器を精度よく、高い歩留りで形成することは困難であるという問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の問題を解決すべくなされたもので、くし型変換器および反射器のパターンの欠陥がほぼ解消され、電気的な特性が良好であり、高周波数帯でも動作可能な弾性表面波フィルタおよびこの弾性表面波フィルタを高い歩留りで製造することが可能な弾性表面波フィルタの製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明に係る弾性表面波フィルタは、圧電基板上に形成されたくし型変換器に隣接した反射器を有し、前記くし型変換器および反射器にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いた弾性表面波フィルタにおいて、前記反射器を構成し、かつ前記くし型変換器に対して外側となる電極指の幅と、該電極指に接続するブスバーの幅とを、前記電極指のピッチ間隔の20〜30倍としたことを特徴としている。
【0013】本発明の弾性表面波フィルタにおいては、反射器を構成し、くし型変換器に対して外側となる電極指の幅および隣接する前記電極指に接続するブスバーの幅が電極指のピッチ間隔の20〜30倍とされる。したがって、圧電基板上にくし型変換器と反射器を形成するにあたり、特に、電極指端部(図5(b)に示したくし型変換器4および反射器5の斜線部)における反応物の生成を最少にする事ができ、アフターコロージョンおよびフォトレジストの剥離残滓の発生等もほぼ抑制する事ができる。
【0014】ここで、「電極指の幅」とは、弾性表面波フィルタにおける表面波の伝搬方向に沿った電極指の長さのことであり、「ブスバーの幅」とは、弾性表面波フィルタにおける表面波の伝搬方向に直交したブスバーの長さのことである。
【0015】また、本発明の弾性表面波フィルタにおいては、電極指のピッチ間隔を1μm以下、例えば、0.6〜0.7μmに狭められるので、携帯電話等の高周波数帯で用いられている弾性表面波フィルタとして用いることが可能である。
【0016】さらに、くし型変換器のブスバーの幅については特に限定されないが、通常は反射器のブスバーの幅に合わせられる。
【0017】次に、本発明に係る弾性表面波フィルタの製造方法は、アルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いたくし型変換器および反射器をドライエッチングにより圧電基板上に形成する弾性表面波フィルタの製造方法において、前記ドライエッチングに用いるエッチングガスが四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素、塩素および希ガスからなる混合ガスであることを特徴としている。
【0018】本発明の弾性表面波フィルタの製造方法においては、エッチングガスとして四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素、塩素および希ガスからなる混合ガスを用いたドライエッチングにより、圧電基板上にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いたくし型変換器および反射器が形成される。したがって、高精細のくし型変換器および反射器の形成が可能となり、電気的特性のバラツキの少ない弾性表面波フィルタを高い歩留りで得ることができる。
【0019】ドライエッチングに用いる四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素、塩素および希ガスからなる混合ガスの希ガス成分あるいは混合ガスの組成比等は、弾性表面波フィルタの規格および製造条件により適宜決定されるものである。しかしながら、混合ガスの希ガス成分としては、分子量の最も小さなヘリウムを好適に用いることができる。
【0020】また、混合ガスの希ガス成分として特にヘリウムを用いた場合には、混合ガスの組成比を、四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素:塩素:ヘリウム=117〜143:36〜44:90〜110(体積比)、好ましくは混合ガスの組成比を、四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素:塩素:ヘリウム=130:40:100(体積比)とする。
【0021】さらに、ドライエッチングの条件は、混合ガスの組成比および弾性表面波フィルタの規格等により、適切な条件が適宜設定される。例えば、四塩化ケイ素、塩素およびヘリウムを混合ガスとし、アルミニウムからなる層厚が1500オングストロームのくし型変換器および反射器を形成する場合には、1.パワー(高周波電力):100〜200W2.混合ガスの圧力 :22〜26Pa3.定常エッチング時間 :70〜80sec4.エッチング時間 :8〜12sec(ここで、エッチング時間とは、定常エッチングの終了検知からの処理時間を表す)の範囲内でドライエッチングの条件を設定する。
【0022】また、電極材料として、銅を含有したアルミニウム合金を用いた場合、従来のエッチングによれば銅等の金属残滓物が発生するが、こうした系にも本発明の弾性表面波フィルタの製造方法を用いることにより、金属残滓物の発生をほぼ防止することが可能である。ただし、このときは、より高精細なパターンを形成することができることから、混合ガスの成分として三塩化硼素ではなく四塩化ケイ素を選択することが望ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
(実施例1およびは比較例1)以下に、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。
【0024】図1は、本発明の一実施例である弾性表面波フィルタの製造工程を示した図である。
【0025】はじめに、図1(a)に示すように、厚さ350μmのLiTaO3 からなる圧電基板1上に、RFスパッタリングにより厚さ0.15μmのアルミニウム合金(Al−Cu0.5%−Si0.5%)の金属膜2を成膜した。
【0026】次に、図1(b)に示すように、i線用のポジ型フォトレジスト3を塗布し、露光・現像を行って、図1(c)に示したようにレジストパターンの形成を行った。
【0027】次いで、四塩化ケイ素:塩素:ヘリウム=117〜143:36〜44:90〜110(体積比)からなる混合ガスをエッチングガスに用いたドライエッチングにより、図1(d)に示すようなパターン形成を行った。なお、ドライエッチングの条件は、1.パワー(高周波電力): 100W2.混合ガスの圧力 : 26Pa3.定常エッチング時間 :60〜70sec4.エッチング時間 : 10sec(ここで、エッチング時間とは、定常エッチングの終了検知からの処理時間を表す)と設定された。
【0028】最後に、図1(e)に示したように、不要となったポジ型フォトレジスト3を剥離した。こうして、図2に示された弾性表面波フィルタ6を得た。なお、くし型変換器4および反射器5の形状は、図3に示された通りである。また、図3において、A、B、C、D、EおよびFの幅は、それぞれ20、20、0.71、0.71、0.71および0.7μmとなっている(実施例1)。
【0029】一方、図4に示したように、リン酸、酢酸および硝酸等からなる混酸のエッチャントによるウェットエッチングによって、図5(a)に示したくし型変換器4および反射器5のパターンを形成した以外は、実施例1と同様にして弾性表面波フィルタ6を得た(比較例1)。なお、C、D、EおよびFの幅は、図3と同様であり、Jの幅は20μmである。
【0030】そして、実施例1および比較例1の弾性表面波フィルタのくし型変換器および反射器を比較検討したところ、実施例1のくし型変換器および反射器においてはドライエッチング後のアフターコロージョンやフォトレジストの残滓物の発生は見られなかったが、比較例1のくし型変換器および反射器においては、アフターコロージョンやフォトレジストの残滓物の発生が多く見られた。
【0031】したがって、実施例1においては、比較例1と比べて高精細なくし型変換器および反射器を得ると共に、高い歩留まりを実現することができた。
【0032】なお、本実施例および比較例においては、圧電基板としてLiTaO3 を用いたが、圧電基板としてLiNbO3 を用いても同様な効果を得ることができる。また、本発明は、共振型あるいはトランスバーサル型といった、各種の弾性表面波フィルタに適用可能であることはいうまでもない。
【0033】
【発明の効果】以上、説明したように、本発明によれば、アルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いて形成された弾性表面波フィルタのくし型変換器および反射器において、反射器を構成しくし型変換器に対して外側となる電極指の幅および隣接する電極指に接続するブスバーの幅を、電極指のピッチ間隔の20〜30倍とすると共に、弾性表面波フィルタの製造方法において、ドライエッチングに用いるエッチングガスを四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素、塩素および希ガスからなる混合ガスとしたので、サイドエッチングやアフターコロージョンによるくし型変換器および反射器の線幅の減少や腐食およびフォトレジストの残滓物の発生をほぼ抑制することができ、くし型変換器および反射器のパターンの欠陥がほぼ解消され電気的な特性が良好であり、高周波数帯でも動作可能な弾性表面波フィルタおよびこの弾性表面波フィルタを高い歩留りで製造することが可能な弾性表面波フィルタの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である弾性表面波フィルタの製造工程を示した図。
【図2】本発明の一実施例である弾性表面波フィルタを示した図。
【図3】本発明の一実施例である弾性表面波フィルタのくし型変換器および反射器の形状を示した図。
【図4】一般的な弾性表面波フィルタの製造工程を示した図。
【図5】一般的な弾性表面波フィルタのくし型変換器および反射器の形状を示した図。
【符号の説明】
1……圧電基板 2……金属膜 3……ポジ型フォトレジスト
4……くし形変換器 5……反射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電基板上に形成されたくし型変換器に隣接した反射器を有し、前記くし型変換器および反射器にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いた弾性表面波フィルタにおいて、前記反射器を構成し、かつ前記くし型変換器に対して外側となる電極指の幅と、該電極指に接続するブスバーの幅とを、前記電極指のピッチ間隔の20〜30倍としたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】 前記電極指のピッチ間隔が1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項3】 アルミニウムあるいはアルミニウム合金を用いたくし型変換器および反射器をドライエッチングにより圧電基板上に形成する弾性表面波フィルタの製造方法において、前記ドライエッチングに用いるエッチングガスが四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素、塩素および希ガスからなる混合ガスであることを特徴とする弾性表面波フィルタの製造方法。
【請求項4】 前記希ガスがヘリウムガスであることを特徴とする請求項3に記載の弾性表面波フィルタの製造方法。
【請求項5】 前記混合ガスの組成比が四塩化ケイ素あるいは三塩化硼素:塩素:ヘリウム=130:40:100(体積比)であることを特徴とする請求項4に記載の弾性表面波フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平9−181553
【公開日】平成9年(1997)7月11日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−341347
【出願日】平成7年(1995)12月27日
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)