説明

弾性表面波フィルタ

【課題】直列腕に流れる電流を少なくして印加電力を低くし、弾性表面波フィルタの直列腕共振器の劣化および破壊を抑制する。
【解決手段】入力端に接続される第1の直列腕共振器、出力端に接続される第2の直列腕共振器、及び第1の直列腕共振器と第2の直列腕共振器との間に接続される第3の直列腕共振器それぞれが直列に接続される複数の直列腕共振器と、第1の直列腕共振器に並列に接続される第1の並列腕共振器と、第3の直列腕共振器に並列に接続される第2の並列腕共振器とを含む複数の並列腕共振器と、第1の並列腕共振器と第2の並列腕共振器とが接続される接地端とを有し、第3の直列腕共振器の共振周波数を、第1の直列腕共振器の共振周波数及び第2の直列腕共振器の共振周波数とは異ならせるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機等の小型移動体通信器において、弾性表面波共振器による梯子型構成の帯域通過形フィルタを備えた弾性表面波分波器に関し、特に、印加電力の高い場合にも使用可能な弾性表面波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型で、軽量な携帯電話機等の移動体通信機器端末の開発が急激に進められている。これに伴い、用いられる部品の小型化、高性能化が追求されている。この傾向に対応するべく弾性表面波(以下、「SAW」という)フィルタを用いたRF(ラジオ周波数)部品が開発され、用いられている。特に、図9のSAW分波器はRF部の小型化に大きく貢献するデバイスのため、活発に開発が行われ、一部、実用化され、用いられている。
【0003】
図9はSAW分波器の基本構成図である。この図では、アンテナが接続されるANT(アンテナ)端(100)を中心として、Tx端(送信端)(101)との間にTxフィルタ(送信用フィルタ)(200)が接続され、Rx端(受信端)(102)との間には分波線路(400)とRxフィルタ(受信用フィルタ)(300)が接続されている。
【0004】
これらSAWデバイスとして、近年、移動体通信機器端末の性能向上のため、通過帯域の更なる低挿入損失化及び減衰帯城の高減衰量化された高性能SAW分波器が要望されている。このSAW分波器は、移動体通信機器端末における信号の分岐、生成を行うために送信信号と受信信号が干渉しないように、図9に示す如く、Txフィルタ(200)、Rxフィルタ(300)および分波線路(400)から構成されている。
【0005】
ここで用いられる各フィルタおよび分波線路は一般的な特性のCDMA(Code Division Multiple Access)方式のものを用いた。以下、図1を除く他の各図に示される回路素子等は同様に一般的な特性のものを対象としている。また、各表のデータは本発明に係るデータ以外は一般的な特性のものに基づくデータである。表の本発明に係るデータおよび図1の回路素子等は本発明に係るAMPS/CDMA方式のものである。
【0006】
図6は実装状態を示すSAW分波器の回路構成図である。
【0007】
このSAW分波器は、ANT端(100)においてアンテナ(170)に、Tx端(101)において高電力を出力する送信電力増幅器(180)におよびRx端(102)において受信した小信号を増幅する低雑音増幅器(190)に接続されている。
【特許文献1】特開平6−29779号公報
【特許文献2】特開平10−303682号公報
【特許文献3】特開平11−251871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記送信用フィルタ(200)は、高電力が印加されることとなるため、この高電力の印加によっても特性劣化のないSAWフィルタであることが必要となる。この高電力化SAWフィルタは、例えば上記特許文献1、特許文献2および特許文献3に示されている。
【0009】
上記公報に用いられているフィルタは、図2に示すように、送信用フィルタを構成するSAW共振器の交差長、対数を増やして、単位電流当たりの面積を増やして高耐電力化したSAWフィルタが用いられている。
【0010】
図2はTxフィルタの回路構成図である。
【0011】
このTxフィルタ(200)は直列腕S1(210)、S2(211)およびS3(212)、並列腕P1(220)およびP2(221)、有極用L(230)からなる梯子型フィルタに構成されている。
【0012】
しかし、図2に示す高電力化したSAWフィルタを図9のSAW分波器に用いて、高電力を入力するようにした場合、分波器に特性劣化が生じることがわかってきた。そこでこの特性劣化についてみてみる。
【0013】
移動体通信機器端末においては、必然的にアンテナ部のインピーダンス変化は大きい。したがって、このアンテナ部(170)のインピーダンスの変化による移動体通信機器端末の性能劣化が問題になる。この問題点を技術的な要求に換言すると、分波器からみて、ANT端(100)、Rx端(102)を50Ω(オーム)で終端した場合と、ANT端(100)、Rx端(102)を開放した場合で特性上変化のない技術が求められることとなる。しかしながら、ANT端(100)、Rx端(102)を開放した場合、Txフィルタ(200)の特性劣化もしくはその直列腕の破壊によって信号断の生じることが知られている。
【0014】
一方、携帯電話機等の移動体通信端末機器における図9及び図6のSAW分波器は1本のアンテナを送信用および受信用に用いる機能と共に次の機能も求められている。
【0015】
(1)アンテナが通常に動作した場合、即ち、アンテナの人力インピーダンスが50Ωの場合、
(2)アンテナが解放の場合、即ち、アンテナの入力インピーダンスが無限大の場合、
の各場合において、特性に変化がない機能が要求されている。
【0016】
上記、(1)及び(2)の場合、インピーダンスの急激な変化の状態のため、SAW分波器に電力が印加される送信時のSAW分波器特性の変動および破壊が問題となる。このSAW分波器特性の変動および破壊は主に高電力が印加される送信用フィルタの直列腕共振器の劣化及び破壊に起因するものであることが知られている。
【0017】
本発明は、上記の問題に鑑み、直列腕に流れる電流を少なくして、直列腕の印加電力を低くし、弾性表面波フィルタの直列腕共振器の劣化および破壊を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕弾性表面波フィルタにおいて、入力端に接続される第1の直列腕弾性表面波共振器、出力端に接続される第2の直列腕弾性表面波共振器、及び前記第1の直列腕弾性表面波共振器と前記第2の直列腕弾性表面波共振器との間に接続される第3の直列腕弾性表面波共振器を含み、それぞれが直列に接続される複数の直列腕弾性表面波共振器と、前記第1の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第1の並列腕弾性表面波共振器と、前記第3の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第2の並列腕弾性表面波共振器とを含む複数の並列腕弾性表面波共振器と、前記第1の並列腕弾性表面波共振器と前記第2の並列腕弾性表面波共振器とが接続される接地端とを有し、前記第3の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数を、前記第1の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数及び前記第2の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数とは異ならせたことを特徴とする。
【0019】
〔2〕上記〔1〕に記載の弾性表面波フィルタにおいて、前記第1の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数と前記第2の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数とは等しいことを特徴とする。
【0020】
〔3〕弾性表面波フィルタにおいて、入力端に接続される第1の直列腕弾性表面波共振器、出力端に接続される第2の直列腕弾性表面波共振器、及び前記第1の直列腕弾性表面波共振器と前記第2の直列腕弾性表面波共振器との間に接続される第3の直列腕弾性表面波共振器を含み、それぞれが直列に接続される複数の直列腕弾性表面波共振器と、前記第1の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第1の並列腕弾性表面波共振器と、前記第3の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第2の並列腕弾性表面波共振器とを含む複数の並列腕弾性表面波共振器と、前記第1の並列腕弾性表面波共振器と前記第2の並列腕弾性表面波共振器とが接続される接地端とを有し、対数若しくは交差長を異ならせることによって、前記第3の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力を、前記第1の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力及び前記第2の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力とは異ならせたことを特徴とする。
【0021】
〔4〕上記〔3〕に記載の弾性表面波フィルタにおいて、前記第1の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力と前記第2の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力とは等しいことを特徴とする。
【0022】
〔5〕上記〔1〕乃至〔4〕のいずれか1項に記載の弾性表面波フィルタにおいて、前記第1の並列腕弾性表面波共振器と前記第2の並列腕弾性表面波共振器とは、共通に接続されて前記接地端に接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、直列腕に流れる電流を少なくして、直列腕の印加電力を低くし、弾性表面波フィルタの直列腕共振器の劣化および破壊を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
弾性表面波フィルタにおいて、入力端に接続される第1の直列腕弾性表面波共振器、出力端に接続される第2の直列腕弾性表面波共振器、及び前記第1の直列腕弾性表面波共振器と前記第2の直列腕弾性表面波共振器との間に接続される第3の直列腕弾性表面波共振器を含み、それぞれが直列に接続される複数の直列腕弾性表面波共振器と、前記第1の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第1の並列腕弾性表面波共振器と、前記第3の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第2の並列腕弾性表面波共振器とを含む複数の並列腕弾性表面波共振器と、前記第1の並列腕弾性表面波共振器と前記第2の並列腕弾性表面波共振器とが接続される接地端とを有し、前記第3の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数を、前記第1の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数及び前記第2の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数とは異ならせるようにしたものである。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
(第1実施例)
図1は本発明の第1実施例のTxフィルタ(200)の回路構成図である。
【0026】
図6に示す、携帯電話機等の移動体通信の端末機器は、通常、電力増幅器(180)の出力端であるPA端(103)の出力インピーダンスZPoutが50Ωに規定されている。この電力増幅器(180)の出力電力はSAW分波器のTx端(101)において、Txの入力インピーダンスZTinと電力増幅器(180)の出力インピーダンスZPoutの関係から、SAW分波器のTx端(101)からTxフィルタ(200)に入力する電力とSAW分波器のTx端(101)から電力増幅器(180)のPA端(103)に反射する電力になることが知られている。
【0027】
携帯電話機等の移動体通信の端末機器において、図6のTxフィルタ(200)は、図1の3個の直列腕S1(210)、S2(211)およびS3(212)と2個の並列腕P1(220)およびP2(221)で構成された4段T型梯子型フィルタで、その交差長および対数を表1に示す。
【0028】
【表1】

図3は、Rxフィルタ(300)の回路構成図である。Rxフィルタ(300)は、図3に示す如く、3個の直列腕S1(310)、S2(311)およびS3(312)と4個の並列腕P1(320)、P2(321)、P3(322)およびP4(323)で構成された6段π型フィルタもあり、その交差長および対数を表2に示す。
【0029】
【表2】

図7は、Txフィルタ(200)の集中定数等価回路図である。
【0030】
図8は、Rxフィルタ(300)の集中定数等価回路図である。
【0031】
図7において、直列腕S1(210)およびS3(212)はリアクタンスLS1と容量CS1の直列回路に容量CS0を並列接続した単位回路を2個直列接続した回路となり、直列腕S2(211)はリアクタンスLS2と容量CS2の直列回路に容量CS1を並列接続した単位回路を2個直列接続した回路となり、並列腕P1およびP2はリアクタンスLP1と容量CP1の直列回路に容量CP0を並列接続した単位回路を2個直列接続した回路となる。
【0032】
図8において、直列腕S1(310)、S2(311)およびS3(312)はリアクタンスLS1と容量CS1の直列回路に容量CS0を並列接続した回路となり、並列腕P2、P3およびP4はリアクタンスLP1と容量CP1の直列回路に容量CP0を並列接続した回路となり、並列腕P1はリアクタンスLP1と容量CP1の直列回路に容量CP0を並列接続した単位回路を2個直列接続した回路となる。
【0033】
各直列腕および並列腕の等価LC値を表1に示す。本発明の第1実施例は図1の梯子型Txフィルタ(200)の構成に関し、図6のSAW分波器に於いて、送信電力入力時、図9のTxフィルタ(200)の各直列腕共振器に印加される電力を小さくすることを特徴とするものである。
【0034】
信号の送信時にTxフィルタ(200)に入力する電力に注目する必要がある。図6から、このTxフィルタ(200)の入力電力はTxフィルタ(200)の入力インピーダンスZTinに関係することがわかる。即ち、送信時には、負荷はANT端(100)に並列に分波線路(400)、Rxフィルタ(300)からなる受信系のインピーダンスZRLinが接続された状態になっている。
【0035】
ここで問題なのは、Txフィルタ(200)を構成する図7の各共振器(210、211、212、220、221)に印加される電力が高くなったときに、各共振器の有限のQにより生じる共振器の櫛歯間抵抗分に、電流が流れ、この電流により共振器内に熱が発生し、この熱により共振器が破壊されることである。但し、共振器「Q」は、
Q=2π(蓄積されたエネルギー)/(1サイクル中に消失するエネルギー)
=2πf(蓄積されたエネルギー)/(消失する電力)とする。
【0036】
図4は直列腕SAW共振器の回路構成図である。
【0037】
図5は直列腕SAW共振器の集中定数等価回路図である。
【0038】
図4は直列腕共振器S1(410)の概略図であり、図5は図4の直列腕共振器S1(510)の集中定数等価回路であり、容量Cs1とリアクタンスLs1の直列回路と容量Csoの直列回路を並列接続し、それらに抵抗Rs520を直列接続した回路となる。
【0039】
通常、図4の直列腕共振器S1(410)の有限のQによる抵抗分は図5の直列腕共振器S1(510)の集中定数回路から、抵抗分Rs(520)として評価され、算出される。図5の共振器の有限のQによる抵抗分Rs(520)は共振器の集中定数等価回路から次の様に求められる。いま、共振器のQを有限のQ0 とすると、Q0 を含む直列腕共振器のインピーダンスZ、並列腕共振器のアドミタンスYは式(1)で与えられる。
Z=1/Y=Rd +jZ0 =1/(Gd +jY0 ) (1)
d ={ωC0 +ωC1 (1+ω^2*L1 *C1 )}/{(1−ω^2*L1 *C1 )^2}/Q0 (2)
0 =ω(C0 +C1 +ω^2L1 *C1 *C0 )/(1+ω^2*L1 *C1 ) (3)
各共振器のQが無限大の場合は直列腕共振器のインピーダンスはjZ0 、並列腕共振器のアドミタンスはjY0 となる。しかし、各共振器は、実際は有限のQのため、直列腕共振器の微小の抵抗分Rd 、並列腕共振器の微小のコンダクタンス分Gd が存在する。
【0040】
表1のTxフィルタ(200)の各直列腕共振器の等価LC値から、Txフィルタ(200)の824(MHz)、836(MHz)および849(MHz)における抵抗値を、各共振器のQを800として、式(1)、式(2)および式(3)から求めた値を表3に示す。
【0041】
【表3】

Txフィルタ(200)に送信電力が印加された場合、図6に示す如く、等価電力と反射電力に分かれる。この等価電力は表3に示されるTxフィルタ(200)の高周波抵抗により熱に変わる。今、表3において、周波数836(MHz)に着目すると、直列腕2の抵抗値が3.77Ωで、直列腕1、3の1.93Ωの略2倍の抵抗を持つことがわかる。即ち、直列腕2が他直列腕に比較して、略2倍の熱を発生していることがわかる。この表3の高周波抵抗を基にして各直列腕に流れる電流を求め、各直列腕の印加電力を求めると、表4になる。
【0042】
【表4】

この表4から、直列腕2に最も高い電力が印加されることがわかる。即ち、直列腕2が電力に対して最も弱いことがわかる。このことは前述の如く高周波抵抗が大きいことに起因する。
【0043】
通常、Txフィルタ(200)の直列腕は等しい共振周波数に設定されている。しかし、直列腕2の印加電力を小さくするためには、表3によれば、周波数を変えると、各直列腕の高周波抵抗が変わることから、本発明の第1実施例は図9のTxフィルタ(200)の直列腕1及び直列腕3と直列腕2の共振周波数を異ならせることにより、Txフィルタ(200)の直列腕2の高周波抵抗を小さく設定し、印加電力を少なくすることにより、耐電力特性の向上したSAW分波器とすることができることになる。
【0044】
【表5】

本発明の第1実施例は、表5に示す如く、直列腕2(R3)の共振周波数を869(MHz)から高周波側に設定することにより、直列腕2(R3)の高周波抵抗を本実施例によれば869MHzで3.77Ωから885MHzで1.93Ωへ減少させるもので、結局直列腕2の印加電力を低くするものである。
【0045】
そこで、本発明の第1実施例における、直列腕2の共振周波数を変える手段としては、具体的には、櫛歯電極の電極間ピッチを変える手段が採用可能である。例えば、グレーティング反射器の場合、グレーティング周期(金属、誘電体ストリップの配置間隔)をp、表面波速度をv0 とすると、反射器の中心周波数f0 は、f0 =v0 /2pの式から求めることができる。即ち、表面波速度が一定の場合、グレーティング周期を変えることにより直列腕2の共振周波数を変えることができる。さらには、直列腕2の共振周波数の変化により周波数特性は変化するが、この周波数特性の変化は各直列腕の交差長および対数で補正可能である。
【0046】
表5には本発明の効果が実質的に示されている。通常、各直列腕は全て869(MHz)に設定されている。表5には直列腕2の共振周波数を(869〜885)(MHz)に変化させた場合の各直列腕の場合の抵抗及び印加電力が示されている。直列腕2の共振周波数を869(MHz)から885(MHz)に変化させることにより、直列腕2の印加電力は0.074(Watt)から0.019(Watt)に変化することがわかる。
(第2実施例)
図2は、本発明のTxフィルタの回路構成図である。
【0047】
本発明の第2実施例の回路構成は図2に示す有極型構成である。
【0048】
前記第1実施例は最も印加電力の大きい直列腕2に注目して、直列腕2の共振周波数を変えて、抵抗を小さくし、印加電力を低くした。
【0049】
それに対し、この第2実施例は、図2のTxフィルタ(200)の回路において、並列腕1、2の抵抗を小さくして、直列腕2に流れる電流を並列腕1に分流して、直列腕2の印加電力を低くしたことを特徴とする。並列腕の抵抗を小さくする手段としては、歯の交差長を長くして単位面積当たりの電流値を小さくする手段、対数を増加して同じく単位面積当たりの電流値を小さくする手段、等がある。
【0050】
表6に並列腕単体の抵抗値と多段型フィルタを組んだときの各直列腕と各並列腕の抵抗値を示す。表6のNO.1の例が第1実施例で基準とした構成である。
【0051】
【表6】

この並列腕1、2の抵抗値が15Ωの例は並列腕共振器のQが200の場合である。表6には、並列腕1、2の抵抗値が15Ωから10Ω、7.62Ωと変わるにつれて、直列腕2の抵抗値のみが3.74Ωから3.71Ω、3.66Ωと減少するデータが示されている。このデータから、並列腕の抵抗値を小さくするにつれて、直列腕2の抵抗値が同じく小さくなる原理が解る。
【0052】
表7に第2実施例の並列腕単体の抵抗値と多段型フィルタを組んだときの各直列腕および並列腕に印加される電力を示す。
【0053】
【表7】

表7のNO.1は前述の如く、第1実施例で基準とした構成で、直列腕2の印加電力が最も大きい。並列腕の抵抗値を15Ωから10Ω、7.62Ωと小さくすることにより、直列腕2の印加電力を0.076(Watt)から0.064(Watt)、0.056(Watt)と小さくできることがわかる。さらには、直列腕3の印加電力も、同様の傾向を示し0.031(Watt)から0.024(Watt)、0.020(Watt)と小さくできることがわかる。このデータから、並列腕の抵抗値を小さくするにつれて、直列腕2および3の印加電力が小さくなる原理が解る。
【0054】
以上のように、第2実施例の有極型Txフィルタ(200)の回路構成における各直列腕の印加電力を低くする手段は、第1実施例の構成では得られない高性能特性が得られ、第1実施例のものと同時に適用可能である。
【0055】
第2実施例では並列腕の高周波抵抗を小さくし、直列腕に流れる電流を少なくして、直列腕の印加電力を低くする手法を用いて、有極型Txフィルタ(200)の耐電力特性を向上した。
【0056】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の弾性表面波フィルタは、直列腕共振器の劣化および破壊を抑制することができる弾性表面波フィルタとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施例のTxフィルタの回路構成図である。
【図2】Txフィルタの回路構成図である。
【図3】Rxフィルタの回路構成図である。
【図4】直列腕SAW共振器の回路構成図である。
【図5】直列腕SAW共振器の集中定数等価回路図である。
【図6】実装状態を示すSAW分波器の回路構成図である。
【図7】Txフィルタの集中定数等価回路である。
【図8】Rxフィルタの集中定数等価回路である。
【図9】SAW分波器の基本構成図である。
【符号の説明】
【0059】
100 ANT端
101 Tx端
102 Rx端
103 PT端
170 アンテナ
180 電力増幅器
190 低雑音増幅器
200 Txフィルタ
210,310 共振器(直列腕S1)
211,311 共振器(直列腕S2)
212,312 共振器(直列腕S3)
220,320 共振器(並列腕P1)
221,321 共振器(並列腕P2)
230 有極用L
300 Rxフィルタ
322 共振器(並列腕P3)
323 共振器(並列腕P4)
400 分波線路
410,510 直列腕SAW共振器S1
520 Rs(抵抗分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端に接続される第1の直列腕弾性表面波共振器、出力端に接続される第2の直列腕弾性表面波共振器、及び前記第1の直列腕弾性表面波共振器と前記第2の直列腕弾性表面波共振器との間に接続される第3の直列腕弾性表面波共振器を含み、それぞれが直列に接続される複数の直列腕弾性表面波共振器と、
前記第1の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第1の並列腕弾性表面波共振器と、前記第3の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第2の並列腕弾性表面波共振器とを含む複数の並列腕弾性表面波共振器と、
前記第1の並列腕弾性表面波共振器と前記第2の並列腕弾性表面波共振器とが接続される接地端とを有し、
前記第3の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数を、前記第1の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数及び前記第2の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数とは異ならせたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波フィルタにおいて、前記第1の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数と前記第2の直列腕弾性表面波共振器の共振周波数とは等しいことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
入力端に接続される第1の直列腕弾性表面波共振器、出力端に接続される第2の直列腕弾性表面波共振器、及び前記第1の直列腕弾性表面波共振器と前記第2の直列腕弾性表面波共振器との間に接続される第3の直列腕弾性表面波共振器を含み、それぞれが直列に接続される複数の直列腕弾性表面波共振器と、
前記第1の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第1の並列腕弾性表面波共振器と、前記第3の直列腕弾性表面波共振器に並列に接続される第2の並列腕弾性表面波共振器とを含む複数の並列腕弾性表面波共振器と、
前記第1の並列腕弾性表面波共振器と前記第2の並列腕弾性表面波共振器とが接続される接地端とを有し、
対数若しくは交差長を異ならせることによって、前記第3の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力を、前記第1の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力及び前記第2の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力とは異ならせたことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載の弾性表面波フィルタにおいて、前記第1の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力と前記第2の直列腕弾性表面波共振器に印加される電力とは等しいことを特徴とする弾性表面波フィルタ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の弾性表面波フィルタにおいて、
前記第1の並列腕弾性表面波共振器と前記第2の並列腕弾性表面波共振器とは、共通に接続されて前記接地端に接続されることを特徴とする弾性表面波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−209024(P2007−209024A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75102(P2007−75102)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【分割の表示】特願2001−328692(P2001−328692)の分割
【原出願日】平成13年10月26日(2001.10.26)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【出願人】(594091019)株式会社 沖テクノコラージュ (19)
【Fターム(参考)】