説明

弾性表面波素子

【課題】生産性が高く、周波数温度特性改善効果が高い弾性表面波素子を安価に提供する。
【解決手段】圧電基板上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する電極が形成された弾性表面波素子であって、少なくとも、圧電基板とセラミック基板とを接着剤を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップと、該複合圧電チップをフリップチップボンディングによって実装する実装基板とを具備し、前記圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、前記実装基板の膨張係数αs(ppm/℃)とが、αs<αc<αs+6なる関係を満たすように実装されたものであることを特徴とする弾性表面波素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合圧電基板を使用した弾性表面波デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の高周波通信において周波数選択用の部品として、例えば圧電基板上に弾性表面波を励起するための櫛形電極が形成された弾性表面波(Surface Acoustic Wave、SAW)素子が用いられる。これに用いられる圧電基板材料は、電気信号から機械的振動への変換効率(以下電気機械結合係数と記す)が大きいこと、また櫛形電極の電極間隔と弾性波の音速により決まるフィルタ等の中心周波数が温度により変動しないことが求められる(以下、周波数温度特性と記す)。
すなわち、大きな電気機械結合係数と小さな周波数温度係数を兼ね備えた圧電基板が有れば好ましい。
こうした特性を実現する圧電基板の一例として、圧電基板と他の基板を接合した複合圧電基板がある。
【0003】
このような複合圧電基板の一例として、圧電材料の表面に弾性波を励振・検出するための電極が設けられており、前記圧電材料裏面に複合積層体を接合したことを特徴とする温度安定化表面波装置が開示されている。この表面波装置は、制御された応力変化を前記圧電材料に誘起させることにより、前記圧電材料において温度補正がなされるというものである(特許文献1参照)。
この例では、「複合積層体にLiNbO(ニオブ酸リチウム)基板を強固に結合することにより、前述したように基板上に圧縮力が生じ、この圧縮力は温度が増大するに従って増大する。かくして、遅延時間およびフィルタ中心周波数に対する温度の影響を補正する手段を得ることができる。」とされている。これは、支持基板となる複合積層体の膨張係数は圧電材料であるLiNbO基板の弾性表面波伝播方向のそれよりも小さいことを意味し、これにより温度変化に応じて圧電基板に応力が発生してSAWデバイスの遅延時間およびフィルタ中心周波数に対する温度の影響を補正できるということを意味する。
【0004】
また、接着剤を使用して剛板と圧電板とを貼り合せて一体の基板とし、前記圧電板表面に電極を設けた機能素子を、パッケージに収納した電気部品が開示されている(特許文献2参照)。
すなわち、圧電材料とこれより小さな膨張係数を有する基板とを貼り合せた複合圧電基板を用いた弾性表面波素子は周波数温度特性が改善されること、接着剤を用いて剛板と圧電板を貼り合せて一体の基板とすることは公知の技術である。
【0005】
また、圧電性基板と、該圧電性基板上にそれぞれ形成された、複数の電極指およびこれら電極指を共通に接続するバスバーを有するインタディジタルトランスデューサ(IDT)ならびにバンプとを備える、弾性表面波素子が、前記バンプを介したフリップチップボンディングによって実装基板上に実装された、弾性表面波素子の実装構造であって、前記実装基板は、前記圧電性基板より小さい線膨張係数を有し、かつ、前記バンプは、温度変化による前記圧電性基板の熱膨張および熱収縮が前記実装基板によって抑えられるように配置されていることを特徴とする、弾性表面波素子の実装構造が開示されている(特許文献3参照)。
この例の実施例においては、圧電体としてLiTaO(膨張係数16ppm/℃)、実装基材としてアルミナ(膨張係数7ppm/℃)を使用しバンプを介してフリップチップボンディングによって実装基板上に実装された弾性表面波フィルタが、動作周波数1.9GHzにおいて温度による周波数変動が−11kHz/℃だけ改善されたことが開示されている。
この改善効果は、温度係数にして約6ppm/℃だけ改善されるものであり好ましいとされる。
【0006】
一方、非特許文献1では、圧電体として48°回転YカットLiTaOを用い、この圧電体にその支持基板であるSi基板がSiO層を介して直接接合された複合圧電基板を用いた弾性表面波デバイスが開示されている。この弾性表面波デバイスの動作周波数の温度特性は、複合圧電チップをボンディングワイヤー法で接続すると動作周波数の温度特性が−12ppm/℃であるのに対し、フリップチップボンディング法では−22ppm/℃(乃至−35ppm/℃)と温度特性が劣化してしまうことが記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開昭51−25951号公報
【特許文献2】特開平02−62108号公報
【特許文献3】特開2003−324334号公報
【非特許文献1】B.P.Abbot, J.Caron, J.Chocola, K.Lin , S.Malocha , N.Naumenko and P.Welsh, "Advances in Rf SAW Substrates",2nd International Symposium on Acoustic Wave Devices for Future Mobile Communication Systems,pp.233-243,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、生産性が高く、周波数温度特性改善効果が高い弾性表面波素子を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、圧電基板上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する電極が形成された弾性表面波素子であって、少なくとも、圧電基板とセラミック基板とを接着剤を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップと、該複合圧電チップをフリップチップボンディングによって実装する実装基板とを具備し、前記圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、前記実装基板の膨張係数αs(ppm/℃)とが、
αs<αc<αs+6
なる関係を満たすように実装されたものであることを特徴とする弾性表面波素子を提供する(請求項1)。
【0010】
このように、本発明の弾性表面波素子は、複合圧電チップにおいて圧電基板と貼り合わす基板をセラミック基板とし、また、圧電基板とセラミック基板とを接着剤を介して貼り合わせているので、比較的安価なものとすることができる。また、圧電基板とセラミック基板とを貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップと、該複合圧電チップをフリップチップボンディングによって実装する実装基板とを具備し、圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αcと実装基板の膨張係数αsとが上記関係を満たすように実装されたものなので、生産性が高く、周波数温度特性改善効果が高い弾性表面波素子とすることができる。
【0011】
このとき、前記セラミック基板は、厚さが100μm以上であるのが好ましい(請求項2)。
このように、圧電基板と貼り合せるセラミック基板の厚さが100μm以上であれば、セラミック基板の厚さにおいて、面内ばらつきが抑制されて良好な膜厚分布を得ることができるので、圧電基板とセラミック基板とを貼り合せ、圧電基板に研削加工等を施し複合圧電基板に仕上げるときに、圧電基板の厚さのばらつきが抑えられ、その結果周波数温度係数のばらつきが小さく、周波数温度特性がより優れた複合圧電基板、さらには弾性表面波素子とすることができる。さらに、例えば熱処理を加えたときに反りを抑えることが可能であるため、パターン付けや実装などの工程で問題が生じにくい。
以上のように、本発明の弾性表面波素子は、品質や製造歩留まりが高く、安価なものとできる。
【0012】
また、前記セラミック基板は、ヤング率が200GPa以上のものであるのが好ましい(請求項3)。
このように、前記セラミック基板が、ヤング率が200GPa以上のものであれば、硬くて加熱をしても反りがほとんど生じないため、パターン付けや実装などの工程で問題がより生じにくい。
【0013】
また、前記セラミック基板の貼り合せ面及び該貼り合せ面の反対側の面の面粗さを示す指標Raが0.02μm以上0.5μm以下のものであるのが好ましい(請求項4)。
このように、前記セラミック基板の貼り合せ面及び該貼り合せ面の反対側の面の面粗さを示す指標Raが0.02μm以上0.5μm以下のものであれば、セラミック基板を面内で精密に同じ厚さに調整されたものとすることができる。このため、このセラミック基板と貼り合せた圧電基板の厚さばらつきを抑えることができ、面内で周波数温度特性が極めて安定した複合圧電基板、弾性表面波素子とすることができる。また、接着層のアンカー効果が顕著となり、良好な接着を得ることができる。
【0014】
このとき、前記セラミック基板は、気孔率が0.1%以上4%未満のものであるのが好ましい(請求項5)。
このように、気孔率が4%未満のセラミック基板であれば、貼り合せ面及び該貼り合せ面の反対側の面におけるRaが例えば0.5μmを超えるような大きすぎる値となりにくく、セラミック基板、圧電基板の厚さのばらつきが抑制され、温度特性の改善効果が大きい複合圧電基板、弾性表面波素子となる。
また、0.1%以上であれば、比較的安くセラミック基板を用意することができ、安価な複合圧電基板となり、コストを低減することができるし、アンカー効果も得られる。
【0015】
さらに、前記セラミック基板は、貼り合せ面及び該貼り合せ面の反対側の面の面粗さが同じのものであるのが好ましい(請求項6)。
このように、セラミック基板において、貼り合せ面及び該貼り合せ面の反対側の面の面粗さが同じのものであれば、より良好な膜厚分布とすることができ、優れた周波数温度特性を有する複合圧電基板となる。
【0016】
また、前記圧電基板は、LiTaO、LiNbO、Liのいずれか1つからなるものであるのが好ましい(請求項7)。
このように、前記圧電基板が、LiTaO、LiNbO、Liのいずれか1つからなるものであれば、これらは電気機械結合係数が大きい結晶材料であるので、周波数選択フィルタとしての帯域幅が広く、挿入損失が小さいSAWデバイスが製造可能な複合圧電基板とすることができる。
【0017】
そして、前記セラミック基板は、アルミナを主成分とするものであるのが好ましい(請求項8)。
このように、前記セラミック基板が、アルミナを主成分とするものであれば、安価で用意することができ、また硬いために加熱しても反りが抑制される複合圧電基板とすることができる。
【0018】
また、前記複合圧電基板の圧電基板は、貼り合せ後に外周より0.1mm以上3mm以下除去されたものであるのが好ましい(請求項9)。
このように、前記複合圧電基板の圧電基板が、貼り合せ後に外周より0.1mm以上3mm以下除去されたものであれば、前記圧電基板の外周に生じやすい加工歪やクラックが生じにくく好ましい。
【0019】
さらに、前記複合圧電基板は、圧電基板側の波長365nmにおける反射率が、圧電基板単体のそれと同じものであるのが好ましい(請求項10)。
このように、前記複合圧電基板において、圧電基板側の波長365nmにおける反射率が、圧電基板単体のそれと同じものであれば、例えば0.5μm線幅のAl等のフォトリソグラフィーが圧電基板単体の場合と同様に行えるため好ましい。
【0020】
また、前記複合圧電基板は、厚さが300μm以下のものであるのが好ましい(請求項11)。
このように、厚さが300μm以下の複合圧電基板であれば、近年の薄い携帯電話等に十分搭載できるものとなり好ましい。
【発明の効果】
【0021】
このような本発明の弾性表面波素子であれば、生産性が高く、周波数温度特性の改善効果が高い弾性表面波素子とすることができる。しかも、圧電基板と貼り合わせる基板をセラミック基板とし、接着剤を介して貼り合わせたものなので安価なものとすることができる。
また、特に、圧電基板と貼り合わせるセラミック基板の厚さが例えば100μm以上のものであれば、熱による反りが小さいとともに、温度改善効果が極めて大きく、基板面内で特性変動が小さい弾性表面波デバイスとすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下では、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明に係る弾性表面波素子の実施形態の一例を示す断面概略図である。
この弾性表面波素子8は、圧電基板2とセラミック基板3とを接着剤(接着層)4を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップ1と、複合圧電チップ1をバンプ5を介してフリップチップボンディングによって実装する実装基板6とを具備する。また、圧電基板2上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する電極7が形成されたものである。
そして、圧電基板2の表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、実装基板6の膨張係数αs(ppm/℃)とが、αs<αc<αs+6なる関係を満たすように実装されたものであることを特徴とする。
【0023】
本発明の弾性表面波素子8は、このような構成を有することにより、生産性が高く、周波数温度特性改善効果が高いものとできる。
すなわち、本発明のように、上記の圧電基板2の表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波伝播方向の膨張係数αcと実装基板6の膨張係数αsとのαs<αc<αs+6なる関係を満たすようにしてフリップチップボンディングにより複合圧電基板を実装した弾性表面波素子8は、例えばチップアンドワイヤー法により実装した場合に比べて、周波数温度係数が数ppm/℃〜10数ppm/℃程度改善するだけでなく、フリップチップボンディングにより実装するので、生産性を高くできる。
【0024】
本発明で使用する複合圧電基板は、上記のように接着層4があるため複合圧電基板表面の圧電基板表面の熱による応力が緩和されてしまうが、前述のように複合圧電基板をフリップチップ実装すると圧電体表面の応力値及び応力分布が劇的に回復するので、フリップチップ実装しない場合に比べ周波数温度特性を大幅に改善することができる。
【0025】
ここで、αcがαsよりも小さい場合は、非特許文献1と同様に、フリップチップボンディングにより実装した場合の周波数温度特性がチップアンドワイヤー法により実装した場合に比べ劣化してしまうという結果をもたらし、周波数温度特性改善効果と高生産性の両方を達成することができない。また、αcがαs+6(ppm/℃)より大きな場合は、周波数温度係数の改善効果は小さい。そこで、本発明のように、αs<αc<αs+6なる関係を満たすように実装することにより、高い周波数改善効果と高生産性の両方を達成できる。膨張係数が上記関係を満たすようにするには、例えば圧電基板2の厚み、圧電基板2と支持基板であるセラミック基板3とを接着する接着層4の厚み、チップサイズ等を調整して実装すればよい。
【0026】
次に、複合圧電チップ1の構成要素について具体的に説明する。
図1で示した複合圧電チップ1は、上記のように、圧電基板2とセラミック基板3とを接着剤4を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工して形成したものである。
図2は本発明に係る弾性表面波素子8に用いる複合圧電基板9の実施形態の一例を示す概略断面図である。この複合圧電基板9は、圧電基板2と厚さが例えば100μm以上のセラミック基板3とを接着剤4を介して貼り合せて形成されたものであって、圧電基板2の表面には弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振するための金属電極7が形成されている。
このような構成により、温度変化に応じて圧電基板2に応力が発生し、効果的に補正を行うことができ、面内で一様な周波数温度特性改善効果を得る事ができる。
【0027】
このとき、図2のように例えば100μm以上の厚さのセラミック基板3を用いれば、セラミック基板3の厚さを面内で精密に調整してばらつきを抑えることができ、良好な板厚分布を有するセラミック基板3を用意することが可能である。そして、その結果、このセラミック基板3と圧電基板2とを貼り合せ、複合圧電基板9に仕上げるとき、圧電基板2に研削等の加工を施しても、圧電基板2の厚さにばらつきが生じるのが抑制されて、優れた周波数温度特性を有する複合圧電基板9とすることができる。これは、当然、周波数温度特性が優れた弾性表面波素子8を得ることにつながる。
また、熱を加えても大きな反りが生じにくく、反りがほとんどない複合圧電基板9となり、パターン付けや実装などの工程を容易に行うことが可能である。
なお、セラミック基板3の厚さの上限は特にはなく、厚ければ厚いほど変形しにくいので、例えば10mm以下とできるが、500μm程度あれば十分上記効果を得られ、より好ましくは、200μm以下とされ、これにより複合圧電基板全体の厚さも薄く抑えられるし、コストも必要以上にかからないものとすることができる。用途等に合わせて適宜決定すれば良い。
【0028】
そして、セラミックはパッケージ材料として汎用されているので安価に製造することができる。接着剤4を介して貼り合せるということも複合圧電基板9が安価なものとなる一つの要因であり、また、強固に接合することができるという利点もある。接着剤4としては、例えばエポキシメタクリレートを主成分とする紫外線硬化接着剤が挙げられる。接着剤4はこれに限定されるものではなく、エポキシを主成分とするものであっても良い。
【0029】
また、このセラミック基板3は、ヤング率が例えば200GPa以上のものであるとより良い。200GPa以上であれば十分に硬く、熱を加えても反りがほとんど生じないものとすることができる。この上限値も特に限定されるものではなく、大きい程良いが、例えば400GPa程度あれば十分である。
【0030】
さらに、このセラミック基板3について述べると、貼り合せ面及び該貼り合せ面の反対側の面の面粗さを示す指標Raが0.02μm以上0.5μm以下のもの、特に0.3μm程度のものであるのが好ましい。そして、上記両面の面粗さがほぼ同じのものであるとより良く、一層セラミック基板3の厚さばらつきが抑制されたものとなる。Raが0.02μm以上であれば、接合面においてアンカー効果が得られ、剥れるようなことがない。一方、Raが0.5μm以下であれば、面粗さが大きいことにより、厚さのばらつきやパーティクルの問題が生じることもない。
【0031】
貼り合せるセラミック基板3を用意する時に、例えば貼り合せ面のみを鏡面に加工した場合、例えば8μm程度の厚さばらつきが発生してしまい、このものを使って圧電基板2と貼り合せ、複合圧電基板9に仕上げたときに、圧電基板2の厚さばらつきが8μm程度となり、特性ばらつきが比較的大きなものとなってしまう。
【0032】
一方、セラミック基板3の両面の面粗さRaが上記範囲内であれば、セラミック基板3の厚さが基板面内で精密に同じ厚さに調整されたものとすることができる。例えば厚さのばらつきを1μm以下に抑えることが可能である。そして、上記のように、セラミック基板3の厚さばらつきが低減されたものであれば、貼り合せた圧電基板2に研削加工等を施しても、セラミック基板3の厚さばらつきが小さいので、圧電基板2の厚さばらつきも抑制することができ、複合圧電基板9の周波数温度特性が良好なものとなる。
このとき、セラミック基板3が、両面が同じ面粗さのものであれば、セラミック基板3の厚さばらつきがより抑制されたものを用意することができ、一層優れた特性を有する複合圧電基板9とすることができる。
【0033】
また、このセラミック基板3の気孔率が例えば0.1%以上4%未満のものであると良い。気孔率が4%未満であると、面粗さがRa値で1μm未満となりやすく、温度特性の改善効果が比較的大きくなり、周波数温度特性の安定性が高くなる。また、0.1%以上であると、セラミック基板3は比較的安価なものとすることができ、複合圧電基板9の製造においてコストを抑えることができる。このため、上記範囲の気孔率であれば、セラミック基板3の厚さのばらつきを抑えることができて、より品質の高い複合圧電基板9とすることができる。
【0034】
そして、セラミック基板3の材料としては、主成分がアルミナであると良い。アルミナを主成分とするものであれば、比較的安価であり、硬いため加熱しても反りが抑制される複合圧電基板9とすることができる。例えばアルミナが92.0%のものであれば、ヤング率は250GPa程度であり、99.9%のものであれば、ヤング率は400GPa程度であり十分に硬いものである。
【0035】
また、圧電基板2としては、LiTaO、LiNbO、Liのいずれか1つからなるものが好ましい。これらは電気機械結合係数が大きい結晶材料であるので、周波数選択フィルタとしての帯域幅が広く、挿入損失が小さいSAWデバイスが製造可能な複合圧電基板9とできる。
【0036】
そして、この複合圧電基板9は、圧電基板2側の波長365nmにおける反射率が、圧電基板単体のそれと同じものであるのが好ましい。このようなものであれば、例えば0.5μm線幅のAl等のフォトリソグラフィーが圧電基板単体の場合と同様に行えるため好ましい。
これに対し、セラミック基板3の代わりに例えばSi基板などを用いると、複合圧電基板9の接合界面より反射が生じるため、反射率が通常圧電基板単体より大きくなり、フォトリソグラフィーにおいて露光の異常が生じて好ましくない。
【0037】
このような複合圧電基板9は、例えば圧電基板2及びセラミック基板3の一方または両方に接着剤4を塗布し、真空下で張り合せ強固に接合することにより作製することができる。接着剤4に異物が混入しないように貼り合せ前に各基板の表面を洗浄することが好ましく、また、表面をアンモニア−過酸化水素水溶液等で親水化処理をしたり、またはプラズマ処理をしたり、例えば基板を100℃に加熱して波長200nm以下の短波UV光及びオゾン(好ましくは高濃度オゾン)により前処理することにより接着力を高めてもよい。
複合圧電基板9の大きさは特に限られず、例えば直径100mmのものとできるがそれ以上でもそれ以下でもよい。
【0038】
そして、この複合圧電基板9を面取り加工した後、圧電基板2の表面側を研削及びラップ加工により削り落とし、さらにポリッシュ加工を施して圧電基板2を所定の厚さ(例えば20μm程度)になるように加工する。
また、このとき、上記のように貼り合せて面取り加工を施した後に、複合圧電基板9の圧電基板2の外周を0.1mm以上3mm以下の幅の分だけ除去するとより良い。この除去工程は例えば特殊面取りホイールなどを用いて行うことが可能である。このような圧電基板2の外周より0.1mm以上3mm以下除去された複合圧電基板9であれば、その後に行う圧電基板2の研削工程等で、圧電基板2に加工歪やクラック等が生じにくくなる。0.1mm未満ではこれらの発生の防止の効果がうすく、また3mmより多く除去したものであると必要以上に除去したものとなり、生産効率が低くなってしまう。0.1mm以上0.3mm以下の範囲で除去することにより、効率良く加工歪やクラックの発生を抑制することができ、割れ等が生じにくい複合圧電基板11となる。
【0039】
この後、複合圧電基板9の上、すなわち圧電基板2上に蒸着やスパッタ、CVDなどの方法により金属材料の膜を形成し、エッチングなどによりパタニングすることで金属電極7を形成することが可能である。この金属電極7は、例えばAl、Cu、及びその合金などからなるものが好ましい。
また、複合圧電基板9の裏面、すなわちセラミック基板3の側を削ることにより、厚さが300μm以下の複合圧電基板9とすれば、昨今の薄い携帯電話等に搭載することのできるものとなり、用途の幅を拡げることができる。本発明の複合圧電基板9は上記のように圧電基板2にセラミック基板3を接着剤4を介して貼り合せており、このセラミック基板3はそもそも非常に硬く、そのためバックグラインド等を用いて削っても、セラミック基板3の厚さが特には100μm以上あれば反りやクラックは生じにくいし、複合圧電基板9のデバイス特性は変動しにくい。
【0040】
そして、そのようにして作製された複合圧電基板をダイシングしてチップ状に切断し、本発明の弾性表面波素子8は、このような複合圧電チップ1を用い、例えばAuやSnからなるバンプ5を介して従来のフリップチップボンディングによって実装基板6に実装されたものである。実装基板6は、アルミナ(膨張係数8ppm/℃)や低膨張セラミック(膨張係数5.5ppm/℃)からなるものであれば、膨張係数が適当な値であり、膨張係数αcとαsとが前述の関係を満たすように調整して実装することが容易であるが、他の材料からなる実装基板でもよい。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例および比較例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
支持基板であるセラミック基板として、直径4インチ(100mm)で厚さが290μmであり、貼り合せ面とその反対側の面のそれぞれの表面粗さRaが共に0.3μmであって、気孔率が2%、ヤング率が380GPa、抵抗率が1015Ωcmであるアルミナ基板を用意した(表1参照)。図3に、このアルミナ基板表面の電子顕微鏡による観察図を示す。
また、圧電基板として直径4インチ(100mm)の36°回転Yカットタンタル酸リチウム(LiTaO)基板を用意して、この圧電基板の厚さが180μmとなるよう両面粗研磨により表裏面の粗さが0.13μmとなるよう仕上げた。
【0042】
そして、前記アルミナ基板を60℃に加熱しながら200nm以下の短波UV光及び高濃度オゾンにより前処理した。前記アルミナ基板にエポキシメタクリレートを主成分とする紫外線硬化接着剤をスピンコートし貼り合せ面上に均一に塗布した。
また、前記LiTaO基板の貼り合せ面を洗浄し、前記接着剤を同様に塗布し、前記アルミナ基板の接着剤塗布面と前記LiTaO基板の接着剤塗布面を圧力1×10−3mbarの真空下で貼り合せた。
次に、この貼り合わせた複合圧電基板に、照度50mW/cmの紫外線を10分間照射し、接着剤を硬化させた。このとき貼り合せた基板面内で接着剤の層は一様に5μmの厚さだった。
この後、この貼り合せ基板をN雰囲気下130℃の温度で2時間キュアをおこなった。
【0043】
そして、この前記複合圧電基板を面取り加工した後、圧電基板であるLiTaO基板の外周約0.5mmを特殊面取りホイールにて削り落とした。次いで、LiTaO基板の表面側(貼り合せ面と反対側)をラップ及び研削により130μm削り落とし、さらにポリッシュによりLiTaO基板の厚さが20μmになるようにした。
この複合圧電基板の圧電基板側の365nmでの反射率はLiTaO基板単体のそれと同じ値であった。
【0044】
以下の表2に示すように、前記アルミナ基板の厚みは290μm±0.5μmと極めてバラツキが少なく、前記複合圧電基板のLiTaO基板の厚みは20±0.5μmと極めて小さかった。また、LiTaO基板に加工歪やクラックは観察されなかった。
【0045】
次に、上記の複合圧電基板上にAl電極(厚み0.07μm、電極幅0.5μm)からなる1ポートSAW共振子のパターンをプラズマエッチング法にて形成した。図4に、その1ポートSAW共振子の電子顕微鏡による観察図を示す。
【0046】
この複合圧電基板の表面を保護テープに貼り付け、研削機により前記複合基板の裏面側、すなわちアルミナ基板を約150μm削り落とし、厚み約160μmのパターン付き複合圧電基板(アルミナ基板厚さは約140μm)を作製した。このような厚さであれば、昨今の薄い携帯等に十分に搭載できるものである。
この複合圧電基板を170℃で加熱したところ、反りは0.8mmと小さかった(表2参照)。
また、この複合圧電基板を290℃で加熱しても基板は割れなかった。
【0047】
この複合圧電基板を2mm角に切断し、チップを260℃空気中で5分間さらしその後、−40℃〜85℃のヒートサイクルに1000サイクルかけてもLiTaO基板のワレ、剥離は生じなかった。
【0048】
また、上記の電極が形成された複合圧電基板を同様にしてチップ形状に加工して得た複合圧電チップにおいて、LiTaO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=10ppm/℃であった。
次にこの複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
【0049】
表2に示すように、前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の反共振周波数の温度係数は−13ppm/℃と小さく、周波数温度特性改善効果が高いものとなった。
また、基板面内の温度係数のばらつきは1ppm/℃以下であり、周波数温度特性の安定性の高いものとなった。
実施例1で得られたSAW共振子の共振特性を図5に示す。
【0050】
なお、前述と同様の方法でLiTaO基板の厚みを15μm及び25μmとした場合、前記LiTaO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=9ppm/℃及び10.5ppm/℃であった。
次に、前述と同様にして電極が形成された複合圧電チップを、各々アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポートSAW共振子の反共振周波数の温度係数は各々−7ppm/℃、−18ppm/℃と小さく、基板面内の温度係数のばらつきは1ppm/℃以下であった。
このように、周波数温度特性が良好であり、高品質の弾性表面波素子が得られていることが判る。
【0051】
(実施例2)
支持基板であるセラミック基板として、直径4インチ(100mm)で厚さが100μmであり、貼り合せ面とその反対側の面のそれぞれの表面粗さRaが共に0.02μmであって、気孔率が0.1%、ヤング率が400GPa、抵抗率が1015Ωcmであるアルミナ基板を用意した(表1参照)。
この用意したセラミック基板を以下の2点を除き、実施例1と同様にして、複合圧電基板を作製し、Al電極(厚み0.07μm、電極幅0.5μm)からなる1ポートSAW共振子のパターンをプラズマエッチング法にて形成した。1点目として、貼り合せ後の圧電基板の外周除去は3mmとした(実施例1では0.5mm)。2点目として、実施例1では、パターン形成後にアルミナ基板を150μm削り落としているが、実施例2では十分な薄さであるのでこの研削は行わなかった。
【0052】
そして、この複合圧電基板をチップ形状に加工した。
このとき、LiTaO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=9ppm/℃であった。
次に電極が形成された前記複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
【0053】
表2に示すように、前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の反共振周波数の温度係数は−12ppm/℃と小さく、周波数温度特性改善効果が高いものとなった。
また、基板面内の温度係数のばらつきは1ppm/℃以下であり、周波数温度特性の安定性の高いものとなった。
【0054】
また、このようにして得られた弾性表面波素子に関して、以下の3項目について実施例1と同様にして測定したところ、セラミック基板の厚さばらつき:100μm±0.6μm、圧電基板の厚さばらつき:20μm±0.5μm、加熱(170℃)による反り:0.9mmであった(表2参照)。
いずれも良好な結果を示しており、実施例1と同様に、高品質の弾性表面波素子を得ることができた。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
(実施例3−9)
支持基板であるセラミック基板として、実施例2で用意したアルミナ基板とそれぞれ以下の点で異なる基板を用意し、実施例2と同様の手順で弾性表面波素子を作製した。
実施例3…面粗さRa(貼り合せ面:0.07μm、反対側の面:0.3μm)
実施例4…面粗さRa(両面0.7μm)
実施例5…面粗さRa(両面0.01μm)
実施例6…ヤング率(50GPa:低温焼成のアルミナを主成分とするLTCC(low temperature co fired ceramic))
実施例7…ヤング率(180GPa:アルミナを主成分とするセラミクス)
実施例8…気孔率と面粗さRa(気孔率5%、面粗さRaは両面1μm)
実施例9…ヤング率(200GPa:アルミナを主成分とするセラミクス)
実施例10…セラミック基板厚さ(90μm)
そして、実施例2と同様にして上記項目について測定したところ表3に示す結果となった。
【0058】
実施例1−10は、いずれも本発明を実施した例である。いずれの場合においても、周波数温度係数の値が−13から−16程度で小さく、周波数温度特性改善効果が高く、良好な周波数温度特性を備えた弾性表面波素子を得ることができる。また、フリップチップボンディングにより実装したものなので生産性高く得られる。
さらには、これらの本発明の弾性表面波素子では、圧電基板と貼り合せる支持基板としてセラミック基板を用い、接着剤により貼り合せているので安価に得ることが可能である。
【0059】
そして、このとき、表2、表3から判るように、特に、支持基板であるセラミック基板の厚さが100μm以上の実施例1−9の弾性表面波素子は、100未満の実施例10のものと比べて、基板面内の温度係数のばらつきがより小さくて安定性が高く、より良好な周波数温度特性を有するものとなっている。また、複合圧電基板部の反りに関しても、実施例1−9のほうが良い結果となっている。
【0060】
さらには、実施例1−9において、セラミック基板の厚さばらつき、圧電基板の厚さばらつき、基板面内の温度係数のばらつき、加熱による反りの4項目に関して、貼り合せに用いたセラミック基板が、面粗さRaが両面共に0.02μm以上0.5μm以下、さらに両面が同じ面粗さのものであって、ヤング率が200GPa以上、気孔率が0.1%以上4%未満である実施例1および実施例2並びに実施例9の複合圧電基板の方が、面粗さが両面で差がある実施例3、面粗さが両面とも0.5μmより大きい実施例4、面粗さが両面とも0.02μmより小さい実施例5、ヤング率が200GPa未満である実施例6・7、気孔率が4%以上であり、面粗さが両面ともに1μmを越えている実施例8のいずれの複合圧電基板よりも、より優れた結果を示している。
【0061】
【表3】

【0062】
なお、貼り合せ後の圧電基板の外周除去の工程を省略すること以外は実施例2と同様にして複合圧電基板を20枚作製したところ、3枚に圧電基板の外周部にクラックが発生した。
また、除去を外周より0.08mmとした場合では、20枚中1枚に圧電基板の外周部にクラックが発生した。これらは熱処理工程でワレの原因となった。
実施例1−10と比較して、貼り合せ後に圧電基板の外周より1mm以上除去することにより、圧電基板にクラック等が生じるのを効果的に防止できることが判る。また、コスト、生産性を考慮すると、除去の上限は3mm程度に抑えると良い。
【0063】
(比較例1−3)
支持基板であるセラミック基板として、実施例10で用意したアルミナ基板と同様のアルミナ基板を用意した(比較例1)。また、実施例10で用意したアルミナ基板とそれぞれ以下の点で異なる基板を用意した(比較例2、3)。そして、実装基板として実施例10とは異なる基板を用意して、実施例10と同様の手順で弾性表面波素子を作製した。
比較例2…面粗さRa(両面0.7μm)
比較例3…ヤング率(180GPa:アルミナを主成分とするセラミクス)
なお、比較例1−3において、LiTaO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、各々αc=9ppm/℃であり、実装基板の膨張係数αsは10ppm/℃であった。すなわち、比較例1−3では、本発明におけるαsとαcの関係(αs<αc<αs+6)とは異なり、αs>αcになっている。
そして、実施例10と同様にして上記項目について測定したところ表4に示す結果となった。
【0064】
【表4】

【0065】
このように、周波数温度係数について、表4に示すように比較例1では−28ppm/℃、比較例2では−36ppm/℃、比較例3では−30ppm/℃と、どの例においてもその値は大きく、周波数温度特性改善効果が低いものとなった。本発明による実施例1−10(表2、表3)と比べて周波数温度係数に関して大きな値を示していることが判る。
【0066】
(比較例4)
直径4インチ(100mm)で厚さが200μmであるガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)基板を用意した。次に直径4インチ(100mm)の36°回転Yカットタンタル酸リチウム(LiTaO)基板を厚さが0.2mm(200μm)で両面ラップにより表面のRaが0.12μmとなる様加工した。
【0067】
次いで、GGG基板の表面を洗浄し、さらにこの基板を100℃に加熱しながら波長200nm以下の短波UV光及び高濃度オゾンにより前処理し、エポキシメタクリレートを主成分とする紫外線硬化接着剤をスピンコートし片側表面上に均一に塗布した。次いで、前記LiTaO基板の裏面を洗浄し、前記接着剤を同様に塗布し、前記GGG基板の接着剤塗布面と前記LiTaO基板の接着剤塗布面を圧力1×10−3mbarの真空下で貼り合せた。
【0068】
次に、この貼り合わせた複合圧電基板に、照度50mW/cmの紫外線を10分間照射し、接着剤を硬化させた。このとき基板面内で接着層は一様に5μmの厚さだった。そして、この複合圧電基板を面取り加工した後、LiTaO基板の表面側を研削及びラップにより155μm削り落とし、さらにポリッシュによりLiTaO基板の厚さが20μmになるようにした。
【0069】
次に、前記複合圧電基板をチップ形状に加工し、この複合圧電チップ上にAl電極(厚み0.07μm、電極幅0.5μm)からなる1ポートSAW共振子のパターンをプラズマエッチング法にて形成した。。
【0070】
このとき、LiTaO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向±0.5°の膨張係数αcを、前記複合圧電チップを加熱及び冷却し電極幅の温度変化をその場観察により求めたところ、αc=15ppm/℃であった。
【0071】
次に電極が形成された前記複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にSnからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。すなわち、本発明におけるαsとαcの関係(αs<αc<αs+6)とは異なり、αc>αs+6になっている。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の反共振周波数の温度係数は−39ppm/℃と温度特性改善はほとんど無かった。
【0072】
また、前記複合圧電チップをチップアンドワイヤー接続して実装した1ポート弾性表面波共振子の反共振周波数の温度依存性を周囲温度を−40℃から85℃まで変化させて調べ、温度係数を調べた結果、反共振周波数の温度係数は−40ppm/℃と温度特性改善効果は無かった。
【0073】
(比較例5)
実施例1で用意した複合圧電チップ(LiTaO基板の厚さ20、15、25μm)をチップアンドワイヤー法にて実装した1ポート共振子の反共振周波数の温度係数は各々−17ppm/℃、−10ppm/℃、−22ppm/℃であり、良好な温度特性であったが、実装作業が煩雑であり、生産性が高いものではない。
【0074】
以上のように、本発明のように、圧電基板と貼り合せる支持基板としてセラミック基板を用い、接着剤を介して貼り合せた複合圧電基板を使用し、圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αcと、実装基板の膨張係数αsとが、αs<αc<αs+6なる関係を満たすように実装したものであれば、生産性高く、安価に製造されたものであり、かつ、周波数温度係数を小さなものとし、高い周波数温度特性改善効果が得られ、周波数温度特性が優れた弾性表面波素子とすることができる。
さらには、特に上記セラミック基板の厚さが例えば100μm以上であれば、面内周波数温度係数のバラツキが小さく、周波数温度特性が安定したものとすることが可能であり、より優れた周波数温度特性となる。そして、熱により生じる反りも小さなものになる。
【0075】
なお、本発明は、上記形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る弾性表面波素子の実施形態の一例を示す断面概略図である。
【図2】本発明に係る弾性表面波素子に用いられる複合圧電基板の一例を示した概略断面図である。
【図3】アルミナ基板(気孔率2%、表面粗さRa=0.3μm)の電子顕微鏡による観察図である。
【図4】36°YカットLiTaO基板/接着層(5μm)/アルミナ基板(気孔率2%)構造の複合圧電基板に形成したAl電極(厚み0.07μm、電極幅0.5μm)からなる1ポートSAW共振子の電子顕微鏡による観察図である。
【図5】実施例1で得られた1ポートSAW共振子の共振特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1…複合圧電チップ、 2…圧電基板、 3…セラミック基板、
4…接着剤(接着層)、 5…バンプ、 6…実装基板、 7…電極、
8…弾性表面波素子、 9…複合圧電基板。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する電極が形成された弾性表面波素子であって、少なくとも、圧電基板とセラミック基板とを接着剤を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップと、該複合圧電チップをフリップチップボンディングによって実装する実装基板とを具備し、前記圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、前記実装基板の膨張係数αs(ppm/℃)とが、
αs<αc<αs+6
なる関係を満たすように実装されたものであることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記セラミック基板は、厚さが100μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記セラミック基板は、ヤング率が200GPa以上のものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記セラミック基板の貼り合せ面及び該貼り合せ面の反対側の面の面粗さを示す指標Raが0.02μm以上0.5μm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記セラミック基板は、気孔率が0.1%以上4%未満のものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
前記セラミック基板は、貼り合せ面及び該貼り合せ面の反対側の面の面粗さが同じのものであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の弾性表面波素子。
【請求項7】
前記圧電基板は、LiTaO、LiNbO、Liのいずれか1つからなるものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の弾性表面波素子。
【請求項8】
前記セラミック基板は、アルミナを主成分とするものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の弾性表面波素子。
【請求項9】
前記複合圧電基板の圧電基板は、貼り合せ後に外周より0.1mm以上3mm以下除去されたものであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の弾性表面波素子。
【請求項10】
前記複合圧電基板は、圧電基板側の波長365nmにおける反射率が、圧電基板単体のそれと同じものであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の弾性表面波素子。
【請求項11】
前記複合圧電基板は、厚さが300μm以下のものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の弾性表面波素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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