説明

弾性表面波素子

【課題】力学的に脆弱なフィルターであっても、これを破損することなく安定に維持できるとともに、フィルターを通しての基材と外部雰囲気との接触を良好にして応答性を向上できる弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】基材11の北極と南極に相当する部分を弦状にカットすることで第1及び第2平面部11a,11bを形成し、基材11を囲むように配設されたフィルター支持部材13の接合端面13bにフィルター15の周縁部分を導電性接着剤19により接着するとともに、フィルター15の中央部分を基材11の第1平面部11aに更に接着する構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子に関し、さらに詳しくは、球形表面を有する基材と、この基材の球形表面に弾性表面波が伝搬路を形成し、この伝搬路に弾性表面波励起手段を設けてなる弾性表面波素子に関するものである。
なお、本発明において、弾性表面波とは、境界波、回廊波、内郭を周回する表面波、弾性表面波、漏洩弾性表面波、擬似弾性表面波、擬似漏洩弾性表面波等、固体表面にエネルギーを集中させて伝搬する弾性波をいう。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波素子は、遅延線、発信器のための発振素子または共振素子、周波数を選択するためのフィルター、化学センサー、バイオセンサーなどに使用される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
次に、この種従来の弾性表面波素子について、図9〜図11を参照して説明する。
弾性表面波素子1は、図9〜図11に示すように、ニオブ酸リチウム単結晶からなる球形の基材2と、この基材2が実装される基板(プリント基板)3を備える。基材2の赤道上に対応する外周面には、弾性表面波が伝搬される伝搬路2aがエンドレスに形成され、この伝搬路2a上に位置する基材2の表面箇所には、伝搬路2aに沿って伝搬する弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段4が設けられている。この弾性表面波励起手段4は、一対の櫛形電極4aから構成され、この各櫛形電極4aは、基材2の表面に形成した一対の給電端子4bに接続されている。
基板3の表面には、基材2の下端部(球の南極に相当する部分)球面が合致する形状の凹部3aが形成され、この凹部3aに基材2の下端部が係合されている。また、基板3の表面には、一対の給電端子4bに対応する信号線5aとアース線5bが基板3の左右から凹部3aに接近する方向に延在して形成され、さらに、この信号線5aとアース線5bの一端は凹部3a内に臨ませてあり、基材2をその下端部が凹部3aに嵌合されるように基板3上にセットされた時に、信号線5aおよびアース線5bの一端が対応する電極引き出し端子4bに接続されるようになっている。
また、基板3上には、基材2の周囲を囲むようにして基材2を収容する収容室6を有するフィルター支持材7が固定され、このフィルター支持材7の収容室6は、微細な孔を形成したフィルター8、または特定のガスのみを通過させたり、あるいは特定のガスが収容室6へ侵入するのを防ぐ薄膜からなるフィルターにより閉塞されている。
【特許文献1】特開2003−115743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような弾性表面波素子において、弾性表面波励起手段4を構成する櫛形電極4aに高周波信号が供給されると、基材2の表面が励起されて弾性表面波が発生し、この弾性表面波は伝搬路2aに沿って多重周回する。
このような球形弾性表面波素子は、弾性表面波が伝送路2aを多重周回することで十分な弾性表面波の伝搬距離を確保できることから、球形表面への物質の付着が弾性表面波の伝搬速度やその減衰定数に影響を与えることを用いて圧力や、あるいは温度を測定する場合、平面板状の基材を用いた弾性表面波素子において、その基板の伝搬路を伝搬する弾性表面波を利用して圧力計を構成するものよりも遥かに高感度なものとなる。
【0005】
しかし、球形弾性表面波素子以外の弾性表面波素子は、一般的に、弾性表面波が伝搬する固体表面に、弾性表面波素子の周囲に浮遊するチリなどが付着すると、これが出力に影響して測定誤差が生じることになる。そこで、球形表面へのチリなどの付着を防止するために、図9に示すように、微細な孔を有したフィルター8や薄膜からなるフィルターを用いる必要がある。
しかしながら、球形弾性表面波素子に微細な孔を有したフィルターや薄膜からなるフィルターを使用した場合、基材2が収容されているフィルター支持材7内で気体が存在できる収容室6の体積に対して、フィルターが、可能な限り大きな面積で外部の雰囲気と接触されるようにすることが、球形弾性表面波素子の応答性を早くする観点から重要になる。
【0006】
また、弾性表面波素子を圧力変動の大きい環境で使用する場合や、外部から高速で液体や気体がフィルターに吹き付けられる環境下では、フィルターやフィルターの固定部位に対して大きな応力がかかり、フィルターが破損されるおそれがある。
また、従来の弾性表面波素子においては、図9に示すように、外部の圧力が収容室6の内部圧力より低下した場合、この内部圧力によってフィルター8に外側に向けた力がかかり、フィルターが破損される可能性がある。さらに、弾性表面波素子の櫛形電極や、その電極から延びる電気配線からの電磁的なノイズが侵入し易いという問題がある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたもので、力学的に脆弱なフィルターであっても、これを破損することなく安定に維持できるとともに、フィルターを通しての基材と外部雰囲気との接触を良好にして応答性を向上でき、併せて、電磁的なノイズの侵入を防止できる弾性表面波素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明の弾性表面波素子は、基板と、前記基板上に実装され弾性表面波が周回伝搬される伝搬路となる球面状の外周面を有する基材と、前記外周面に設けられ前記伝搬路に沿い前記弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段と、前記基板上に前記基材を囲むように設けられ前記外周面の周囲に該外周面に沿って延在する収容室を形成するフィルター支持部材と、前記フィルター支持部材に取着され前記収容室内外に被測定気体が通過できるように前記収容室を閉塞する第1フィルターと、を有する弾性表面波素子において、前記第1フィルターと対向する前記基材の箇所に第1平面部が形成され、前記第1平面部と、該第1平面部に対向する前記第1フィルターの箇所とは取着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の弾性表面波素子によれば、基材に平面部を設け、フィルター支持部材に取着されたフィルターを基材の平面部に更に取着して保持するようにしたので、力学的に脆弱な第1フィルターであっても、これを破損することなく安定に維持できるとともに、第1フィルターを通しての基材と外部雰囲気との接触を良好にして応答性を向上でき、かつ第1フィルターを利用して給電用配線などの電磁的作用に伴う弾性表面波素子へのノイズの侵入を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明にかかる弾性表面波素子の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明にかかる弾性表面波素子は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0011】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における弾性表面波素子の構成を示す側面図、図2は本発明の実施の形態1における弾性表面波素子の分解斜視図である。
この実施の形態1における弾性表面波素子10は、図1及び図2に示すように、基材11、弾性表面波励起手段12、フィルター支持部材13、基板14及びフィルター15を備える。
【0012】
基材11は、図1及び図2に示すように、球の北極と南極の部分を弦状にカットすることで形成された円形の第1及び第2平面部11a,11bと、それら平面部11a,11bの外周縁間を接続する球面状の外周面とを有する樽型の水晶球を用いて構成されている。そして、前記外周面上で球の赤道上の箇所には、弾性表面波が周回伝搬する伝搬路11cがエンドレスに形成されている。伝搬路11cには弾性表面波励起手段12が設けられている。この弾性表面波励起手段12は、伝搬路11cに沿って伝搬する弾性表面波を励起するもので、一対の櫛型電極12a,12bから構成されている。また、櫛型電極12aの給電端子12a1は、基材11の周面から第1平面部11aに延在して形成され、櫛型電極12bの給電端子12b1は、基材11の周面から第2平面部11bに延在して形成されている。
このような基材11は、その第2平面部11bが基板14と対向するようにして基板14上に実装される。
なお、基材が水晶からなる結晶球を使用し、その赤道上に櫛型電極12a,12bを配置した場合、球の地軸(第1及び第2平面部11a及び11bの中心を通る軸線)方向に水晶のC軸が位置する。
【0013】
フィルター支持部材13は、フィルター15を支持するもので、図1及び図2に示すように、基材11の周囲を囲むようにして基板14上に半田付けなどにより固定することで実装される。すなわち、このフィルター支持部材13はアルミ等の金属材から成形され、基材11の第1、第2平面部11aと11bとの間の寸法に相当する厚さを有する直方体形状を呈し、その中央部には基材11の直径より十分に大きい径の円筒穴13aが形成されており、この円筒穴13aは基材11の収容室(以下、収容室13aという)を構成している。そして、フィルター支持部材13の一方の端面13bはフィルター15が接着される接合端面として使用され、他方の端面13cは基板14への実装用の端面として使用される。また、フィルター支持部材13の接合端面13bと基材11の第1平面部11aは面が一致する同一平面上に位置しており、フィルター支持部材13の実装用端面13cと基材11の第2平面部11bは面が一致する同一平面上に位置している。
【0014】
基板14はプリント基板から構成され、この基板14の部品実装面上には、図1に示すように、一対の櫛型電極12a,12bに高周波信号を供給するための信号線16及びアース線17が形成されている。信号線16には櫛型電極12bの給電端子12b1が接続され、アース線17にはフィルター支持部材13の実装用端面13cが導電性接着剤18により接続されている。なお、フィルター支持部材13と信号線16との間は電気的に絶縁されている。
【0015】
フィルター15は、収容室13aへの塵埃の侵入を阻止し、被測定気体の通過が可能な金属メッシュから構成され、図1及び図2に示すように、フィルター支持部材13を平面視した際の表面積(輪郭)と同一もしくはそれより僅かに小さい表面積(輪郭)を有している。
このようなフィルター15は、フィルター支持部材13の接合端面13bと基材11の第1平面部11a及び櫛型電極12aの給電端子12a1に導電性接着剤19により接着されている。これにより、櫛型電極12aの給電端子12a1をフィルター15及びフィルター支持部材13を通してアース線17に接続され、櫛型電極12a,12bに図示省略の高周波信号源から信号線16及びアース線17を介して高周波信号が供給できるようになっている。
【0016】
次に、図3及び図4により基材11に櫛型電極12a,12b及び給電端子12a1,12b1を形成する場合について説明する。
まず、図3(A)に示すように、スタンプ機構の一対の給電端子用弾性版31aと31bとの間に基材11をセットした後、第1の押圧機構32aと32bを矢印A,Bの方向に動作させ、さらに、図3(B)に示すように、第2の押圧機構33aと33bを矢印C,Dの方向に動作させる。これにより、弾性版31a及び31bの版面を基材11の第1、第2平面部11a,11b及びこれに連なる周面に押し付けて、版面に塗布されている給電端子パターンを基材11に転写する。これにより、給電端子12a1,12b1を形成することができる。
給電端子12a1,12b1が形成された後は、第2の押圧機構33aと33bを後退させた後、第3の押圧機構34を矢印Eの方向に動作させて、櫛型電極用の版35を基材11の球形周面に押し付ける。これにより、版35の版面に塗布されている櫛型電極パターンを基材11に転写する。これにより、図4に示すように、基材11に給電端子12a1,12b1及び櫛型電極12a,12bを形成することができる。
【0017】
このような本実施の形態1に示す弾性表面波素子によれば、基材11の北極と南極に相当する部分を弦状にカットすることで第1及び第2平面部11a,11bを形成し、基材11を囲むように基板14に実装されたフィルター支持部材13の接合端面13bにフィルター15の周縁部分を導電性接着剤19により接着するとともに、フィルター15の中央部分を基材11の第1平面部11aに更に接着するようにしたので、外部から高速で液体や気体がフィルター15に吹き付けられる環境下、またはフィルター15やフィルター15の固定部位に対して、フィルターの内部と外部の圧力差により大きな応力が作用しても、フィルター15を破損することなく安定に維持できるとともに、フィルター15を通しての基材11と外部雰囲気との接触を良好にして、弾性表面波素子の応答性を向上できでる。
また、フィルター15を金属メッシュで構成し、金属製のフィルター支持部材13を介してアース線17に接続したので、このフィルター15により給電用配線などの電磁的作用に伴う弾性表面波素子へのノイズの侵入を防止でき、ノイズに影響されない弾性表面波素子を提供できるとともに、櫛型電極12a,12bを含めた基材11に対する電磁気的なシールドが不要になる。
【0018】
(実施形態2)
次に、図5により本発明にかかる実施の形態2について説明する。
図5は本実施の形態2における弾性表面波素子の側面図である。
この図5において、上記実施の形態1と同様な構成要素には同一符号を付してその説明を省略し、実施の形態1と異なる部分を重点に述べると、図5から明らかなように、この実施の形態2に示す弾性表面波素子10は、上記実施の形態1と同様な構成の基材11、弾性表面波励起手段12、フィルター支持部材13及び基板14を備え、さらに、上記実施の形態1と異なる構成のフィルター21を備えている。
【0019】
フィルター21は、収容室13aへの塵埃の侵入を阻止し、かつ被測定気体である特定のガスのみを通過させ、もしくは被測定気体以外の特定のガスがフィルター支持部材13の収納室13aへ侵入するのを防止する樹脂製の薄膜材から構成される。そして、図5に示すように、フィルター支持部材13を平面視した際の表面積(輪郭)より僅かに小さい表面積(輪郭)を有している。また、フィルター21の内側表面には、櫛型電極12aに給電するためのリード線22がフィルター21の中央部分から周縁方向に延在して形成されている。
このようなフィルター21の周縁部分はフィルター支持部材13の接合端面13bに接着剤により接着され、さらに、フィルター21の中央部分は基材11の第1平面部11aに接着剤により接着されている。また、リード線22の一端は櫛型電極12aの給電端子12a1に電気的に接続されている。
また、基板14の実装表面に形成した信号線16にはリード線23を介してリード線22が接続されている。また、基板14の実装表面に形成したアース線17は櫛型電極12bの給電端子12b1に接続されている。これにより、櫛型電極12a,12bに図示省略の高周波信号源から信号線16、リード線23、リード線22及びアース線17を介して高周波信号が供給できるようになっている。
なお、フィルター支持部材13と信号線16及びアース線17との間は電気的に絶縁されている。
【0020】
このような本実施の形態2に示す弾性表面波素子によれば、フィルター支持部材13の接合端面13bにフィルター21の周縁部分を接着するとともに、フィルター21の中央部分を基材11の第1平面部11aに更に接着するようにしたので、上記実施の形態1と同様に、外部から高速で液体や気体がフィルター21に吹き付けられる環境下、またはフィルター21やフィルター21の固定部位に対して、フィルターの内部と外部の圧力差により大きな応力が作用しても、フィルター21を破損することなく安定に維持できるとともに、フィルター21を通して被測定気体のみを導入して基材11と外部雰囲気との接触を良好にでき、弾性表面波素子の応答性を向上できでる。
また、本実施の形態2によれば、フィルター21の内側表面にリード線22を設けたので、櫛型電極12a,12bに対して基材11の平面部11a,12bに対応する基材11の両端側から配線することができる。
【0021】
(実施の形態3)
次に、図6により本発明にかかる実施の形態3について説明する。
図6は本実施の形態3における弾性表面波素子の側面図である。
この図6において、上記実施の形態1と同様な構成要素には同一符号を付してその説明を省略し、実施の形態1と異なる部分を重点に述べると、図6から明らかなように、この実施の形態3に示す弾性表面波素子10は、上記実施の形態1と同様な構成の基材11、弾性表面波励起手段12、フィルター支持部材13及び基板14を備え、さらに、上記実施の形態1と異なる構成のフィルター24を備えている。また、この実施の形態3の基材11に形成された櫛型電極12a及び12bの給電端子12a1,12b1が基板14に対向する基材11の第2平面部11b側に設けられている点が上記実施の形態1と異なる。
【0022】
フィルター24は、収容室13aへの塵埃の侵入を阻止し、かつ被測定気体である特定のガスのみを通過させ、もしくは被測定気体以外の特定のガスがフィルター支持部材13の収納室13aへ侵入するのを防止する樹脂製の薄膜材から構成され、そして、図6に示すように、フィルター支持部材13を平面視した際の表面積(輪郭)と同一もしくはそれより僅かに小さい表面積(輪郭)を有している。
このようなフィルター24の周縁部分はフィルター支持部材13の接合端面13bに接着剤により接着され、さらに、フィルター24の中央部分は基材11の第1平面部11aに接着剤により接着されている。
また、基板14の実装表面に形成した信号線16には櫛型電極12bの給電端子12b1が接続されている。また、基板14の実装表面に形成したアース線17は櫛型電極12aの給電端子12a1に接続されている。これにより、櫛型電極12a,12bに図示省略の高周波信号源から信号線16及びアース線17を介して高周波信号が供給できるようになっている。
【0023】
このような本実施の形態3に示す弾性表面波素子によれば、フィルター支持部材13の接合端面13bにフィルター24の周縁部分を接着するとともに、フィルター24の中央部分を基材11の平面部11aに更に接着するようにしたので、上記実施の形態1と同様に、外部から高速で液体や気体がフィルター24に吹き付けられる環境下、またはフィルター24やフィルター24の固定部位に対して、フィルターの内部と外部の圧力差により大きな応力が作用しても、フィルター24を破損することなく安定に維持できるとともに、フィルター24を通して被測定気体のみを導入して基材11と外部雰囲気との接触を良好にでき、弾性表面波素子の応答性を向上できでる。
また、本実施の形態3によれば、櫛型電極12a,12bに対して基板14側から配線することができる。
【0024】
(実施の形態4)
次に、図7により本発明にかかる実施の形態4について説明する。
図7は本実施の形態4における弾性表面波素子の側面図である。
この図7において、上記実施の形態1と同様な構成要素には同一符号を付してその説明を省略し、実施の形態1と異なる部分を重点に述べると、図6から明らかなように、この実施の形態3に示す弾性表面波素子10は、上記実施の形態1と同様な構成の基材11、弾性表面波励起手段12、フィルター支持部材13及び基板14を備え、さらに、上記実施の形態1と異なる構成のフィルター25及び温度検出素子26を備えるほか、この実施の形態4の基材11に形成された櫛型電極12a及び12bの給電端子12a1,12b1が基板14に対向する基材11の第2平面部11b側に設けられている点が上記実施の形態1と異なる。
【0025】
温度検出素子26は抵抗または熱電対からなるもので、基材11の伝搬路11cの領域に形成されている。
フィルター25は、収容室13aへの塵埃の侵入を阻止し、かつ被測定気体である特定のガスのみを通過させ、もしくは被測定気体以外の特定のガスがフィルター支持部材13の収容室13aへ侵入するのを防止する樹脂製の薄膜材から構成されている。そして、図7に示すように、フィルター支持部材13を平面視した際の表面積(輪郭)と同一もしくはそれより僅かに小さい表面積(輪郭)を有している。また、フィルター25の内側表面には、温度検出素子26への給電のための一対のリード線27がフィルター25の中央部分から周縁方向に延在して形成されている。
【0026】
このようなフィルター25の周縁部分はフィルター支持部材13の接合端面13bに接着剤により接着され、さらに、フィルター25の中央部分は基材11の第1平面部11aに接着剤により接着されている。
また、基板14の実装表面に形成した信号線16には櫛型電極12bの給電端子12b1が接続されている。また、基板14の実装表面に形成したアース線17は櫛型電極12aの給電端子12a1に接続されている。これにより、櫛型電極12a,12bに図示省略の高周波信号源から信号線16及びアース線17を介して高周波信号が供給できるようになっている。
また、温度検出素子26の両端は一対のリード線27にそれぞれ接続され、さらに、フィルター25の周縁寄りに位置する一対のリード線27の端部には端子28がそれぞれ設けられ、この端子28には、基板14に実装される図示省略の温度検出用処理回路へ接続するためのリード線29が接続されている。
【0027】
このような本実施の形態4に示す弾性表面波素子によれば、フィルター支持部材13の接合端面13bにフィルター25の周縁部分を接着するとともに、フィルター25の中央部分を基材11の第1平面部11aに更に接着するようにしたので、上記実施の形態1と同様に、外部から高速で液体や気体がフィルター25に吹き付けられる環境下、またはフィルター25やフィルター25の固定部位に対して、フィルターの内部と外部の圧力差により大きな応力が作用しても、フィルター25を破損することなく安定に維持できるとともに、フィルター25を通して被測定気体のみを導入して基材11と外部雰囲気との接触を良好にでき、弾性表面波素子の応答性を向上できでる。
また、本実施の形態4によれば、フィルター25の内側表面にリード線27を設けることにより、基材11の外周面に設けた温度検出素子26への配線及び給電を容易に行うことができる。
【0028】
(実施形態5)
次に、図8により本発明にかかる実施の形態5について説明する。
図8は本実施の形態5における弾性表面波素子の側面図である。
この図8において、上記実施の形態1と同様な構成要素には同一符号を付してその説明を省略し、実施の形態1と異なる部分を重点に述べると、図8から明らかなように、この実施の形態5に示す弾性表面波素子10は、上記実施の形態1と同様な構成の基材11、弾性表面波励起手段12、フィルター支持部材13及び基板14を備え、さらに、上記実施の形態1と異なる構成の一対の第1及び第2フィルター41,42を備えている。
【0029】
第1及び第2フィルター41,42は、収容室13aへの塵埃の侵入を阻止し、かつ被測定気体である特定のガスのみを通過させ、もしくは被測定気体以外の特定のガスがフィルター支持部材13の収容室13aへ侵入するのを防止する樹脂製の薄膜材から構成されている。そして、図8に示すように、フィルター支持部材13を平面視した際の表面積(輪郭)と同一もしくはそれより僅かに小さい表面積(輪郭)を有している。また、第1及び第2フィルター41,42の内側表面には、櫛型電極12a,12bに給電するためのリード線43,44がフィルター41,42の中央部分から周縁方向に延在して形成されている。
このような第1フィルター41の周縁部分はフィルター支持部材13の接合端面13bに接着剤により接着され、その中央部分は基材11の第1平面部11aに接着剤により接着されている。また、第2フィルター42の周縁部分はフィルター支持部材13の接合端面13cに接着剤により接着され、その中央部分は基材11の第2平面部11bに接着剤により接着されている。また、リード線43の一端は櫛型電極12aの給電端子12a1に電気的に接続され、リード線44の一端は櫛型電極12bの給電端子12b1に電気的に接続されている。
また、基板14の基材11の第2平面部11bと対向する側は開口され、この開口14a及びフィルター42を通してフィルター支持部材13の収容室13a内に被測定気体が流出入されるようになっている。
【0030】
このような本実施の形態5に示す弾性表面波素子によれば、フィルター支持部材13の接合端面13bに第1フィルター41の周縁部分を接着するとともに、その中央部分を基材11の第1平面部11aに更に接着し、さらに、フィルター支持部材13の接合端面13cに第2フィルター42の周縁部分を接着するとともに、その中央部分を基材11の第2平面部11bに更に接着するようにしたので、上記実施の形態1と同様に、外部から高速で液体や気体がフィルター41,42に吹き付けられる環境下、またはフィルターやフィルターの固定部位に対して、フィルターの内部と外部の圧力差により大きな応力が作用しても、フィルター41,42を破損することなく安定に維持できるとともに、2つのフィルター41,42を通して被測定気体の導入が可能になるので、周囲のガス(被測定気体)がフィルター支持部材内部と平行になるのに要する時間が短時間で済み、弾性表面波素子の応答性をより向上することができる。
【0031】
なお、本発明における櫛型電極と基板上の配線パターンとの接続は導電性接着剤(導電ペースト)に限らず、例えば、櫛型電極と基板上の配線パターンに金を用いて形成した場合、超音波振動を基材に加えることで溶着する方法でもよく、様々な結線方法を採用することができる。
また、本発明においては、図6に示す場合と逆に櫛型電極12a及び12bの給電端子12a1,12b1を基材11の第1平面部11a側に設け、この給電端子12a1,12b1に対応する配線パターンをフィルター24に形成することも可能である。
また、上記実施の形態では、基材に一対の櫛型電極を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、基材の球形表面に複数の伝搬路を有するものや、単一の伝搬路上に弾性表面波を励起するための櫛型電極と、周回する弾性表面波を検出して観測するための出力用の櫛型電極を形成して送受独立型の素子を形成することができる。この場合は、3本あるいは4本などより多数の配線を必要とする。
また、図5〜図8に示す実施の形態では、フィルターを樹脂性の薄膜材で構成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、薄膜材と金属メッシュとをラミネートした積層構造のフィルターを用いることができる。このようにすれば、フィルターの強度を向上できる。
【0032】
また、上記実施の形態では、櫛形電極が一対の場合の球状弾性表面波素子について説明したが、リチウムナイオベート(LiNbO3)やタンタル酸リチウム(LiTaO3)を結晶球に用いた球状弾性表面波素子では、複数の弾性表面波の周回経路を有しており、この複数の周回経路に対応して、複数の櫛形電極と複数の電極取り出し配線をフィルターが有する場合についても、本発明はそれを除外するものではない。また、本実施の形態では、フィルターに対して弾性表面波の周回経路が平行な場合について説明したが、これに限らず、フィルターに対して弾性表面波の周回経路が傾斜してもよいことはいうまでもない。
また、上記実施の形態では、第1及び第2平面部11a,11bを有する基材11について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、基材11の北極に相当する部分にのみ平面部を形成し、基板に装着される基材の面を球面のままとし、この球面に合致する凹部を基板に設け、この凹部に前記球面の部分を係合して基材を基板に実装できるように構成することができる。
また、基材に平面部を形成する方法としては、例えば樹脂で基材をモールドした後、研磨切削を行う。この場合、平面部の形成に手間のかかる工程が必要とすることから、球の北極及び南極に相当する一方の部分にのみ平面部を形成した基材であれば、基材の成形工程を軽減できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態1における弾性表面波素子の構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における弾性表面波素子の分解斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態における基材の表面に櫛型電極及び給電端子を形成する場合の過程を示す説明図である。
【図4】櫛型電極及び給電端子を形成した基材の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態2における弾性表面波素子の構成を示す側面図である。
【図6】本発明の実施の形態3における弾性表面波素子の構成を示す側面図である。
【図7】本発明の実施の形態4における弾性表面波素子の構成を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態5における弾性表面波素子の構成を示す側面図である。
【図9】従来における弾性表面波素子の構成を示す縦断側面図である。
【図10】従来における弾性表面波素子の一部の側面図である。
【図11】従来における基板部分の平面図である。
【符号の説明】
【0034】
10……弾性表面波素子、11……基材、11a……第1平面部、11b……第2平面部、11c……伝搬路、12……弾性表面波励起手段、12a,12b……櫛型電極、12a1,12b1……給電端子、13……フィルター支持部材、13a……収容室、14……基板、14a……開口、15,21,24,25,41,42……フィルター、16……信号線、17……アース線、26……温度検出素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に実装され弾性表面波が周回伝搬される伝搬路となる球面状の外周面を有する基材と、
前記外周面に設けられ前記伝搬路に沿い前記弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段と、
前記基板上に前記基材を囲むように設けられ前記外周面の周囲に該外周面に沿って延在する収容室を形成するフィルター支持部材と、
前記フィルター支持部材に取着され前記収容室内外に被測定気体が通過できるように前記収容室を閉塞する第1フィルターと、
を有する弾性表面波素子において、
前記第1フィルターと対向する前記基材の箇所に第1平面部が形成され、
前記第1平面部と、該第1平面部に対向する前記第1フィルターの箇所とは取着されている、
ことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
前記基板と対向する前記基材の箇所に第2平面部が形成され、この第2平面部と前記基板とは取着されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記フィルター支持部材は前記第1フィルターが取着される端面を有し、前記端面と前記第1平面部は同一平面上に位置していることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記基板と対向する前記基材の面は球面に形成され、前記基板に前記球面に合致する凹部が設けられ、前記凹部に前記球面の部分が係合して前記基材が前記基板に実装されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記弾性表面波励起手段は少なくとも一対の櫛型電極から構成されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
前記基板に前記櫛型電極へ給電するための配線パターンが設けられていることを特徴とする請求項5記載の弾性表面波素子。
【請求項7】
前記第1フィルターは金属製メッシュであることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項8】
前記第1フィルターは、特定の気体のみを通過させ、もしくは特定の気体が前記収容室内へ侵入するのを防止する薄膜材であることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項9】
前記薄膜材は、前記櫛型電極を前記基板の配線パターンに電気的に接続するリード線を有することを特徴とする請求項8記載の弾性表面波素子。
【請求項10】
前記第1フィルターは、金属製メッシュと、特定の気体のみを通過させもしくは特定の気体が前記収容室へ侵入するのを防止する薄膜材とを積層して構成されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項11】
前記弾性表面波励起手段は少なくとも一対の櫛型電極から構成され、
前記基板に前記櫛型電極へ給電するための配線パターンが設けられ、
前記第1フィルターは金属製メッシュからなり、
前記フィルター支持部材は導電性材料からなり、
前記一対の櫛型電極の一方が前記金属製メッシュ及び前記フィルター支持部材を介して前記基板の配線パターンに電気的に接続され、前記一対の櫛型電極の他方が前記基板の配線パターンに電気的に接続されるように構成したことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。
【請求項12】
前記基材は前記伝搬路の領域に形成された温度検出素子を有し、前記温度検出素子は前記薄膜材に形成した導電性のリード線を介して前記基板の配線パターンに電気的に接続されることを特徴とする請求項11記載の弾性表面波素子。
【請求項13】
前記基材が前記基板に実装される箇所に、被測定気体の通過を可能とした第2フィルターが設けられ、
前記基材は前記第2フィルター上に設けられ、
前記基板に、前記第2フィルターを介して前記収容室に連通する開口が設けられている、
ことを特徴とする請求項1記載の弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−42498(P2008−42498A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213772(P2006−213772)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】