説明

弾性表面波素子

【課題】 外乱ノイズの影響を抑制できる小型の弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】 圧電基板2の主面に四角形状の環状電極3が形成され、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7が、各々一方のバスバー4,5が環状電極3の対向する一対の辺の各々と一体形成されて配置され、不平衡入出力部8に接続された不平衡側接続パッド10と、平衡入出力部11,12の各々に接続された平衡側接続パッド15,16と、平衡IDT電極7および不平衡IDT電極6の弾性表面波伝播部17〜20の各々を接続する接続電極21,22とが配置されており、不平衡側接続パッド10と平衡側接続パッド15,16との間隔は等しく、不平衡IDT電極6、平衡IDT電極7、接続電極21,22および引出電極9,13,14の構成は、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7の弾性表面波伝播方向に直交して不平衡側接続パッド10の中心を通る線を対称軸として対称である弾性表面波素子1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の移動体通信機器,車載用機器または医療用機器等に用いられる弾性表面波素子に関し、特に、外乱ノイズによる影響を抑制することができる弾性表面波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波素子を用いた弾性表面波共振器または弾性表面波フィルタ等の弾性表面波装置は、マイクロ波帯を利用する各種無線通信機器,車載用機器または医療用機器等に幅広く用いられているが、各機器の小型化に伴い、更なる小型化が求められている。
【0003】
これに関して、例えば、特許文献1には、圧電基板の一方主面に、複数の電極指と一対のバスバー電極とから構成される複数のIDT電極(Interdigital Transducer電極:交差指電極)およびパッド電極を形成し、圧電基板の一方主面の外周部に接地用環状電極が形成されてなる弾性表面波素子を、回路基板上に所定間隙をあけて実装しており、少なくとも1つのIDT電極を構成する一方のバスバー電極と接地用環状電極とが一体的に形成されている構造の弾性表面波装置が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
このような弾性表面波装置においては、接地用環状電極と接続されているIDT電極の一方のバスバー電極および接地用環状電極が一体的に形成されており、その部分のパッド電極が省かれているので、IDT電極の一方のバスバー電極および接地用環状電極の間にはパッド電極が形成されていた領域が不要になることから、その分、弾性表面波装置を小型化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−153580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示された弾性表面波装置の1つの例においては、入力側のIDT電極に1つの入力パッド電極が接続されており、出力側のIDT電極に2つの出力パッド電極が接続されており、入力側のIDT電極を構成する一対のバスバー電極のうち、アース電位となる一方のバスバー電極が、最も近接する接地用環状電極と一体的に形成されている。
【0007】
しかしながら、出力側のIDT電極を構成する一対のバスバー電極のうち、アース電位となる一方のバスバー電極は、最も近接する接地用環状電極と一体的に形成されていない。従って、小型化の要求を十分に満たしていないという問題点があった。
【0008】
また、特許文献1に開示された弾性表面波装置の他の例においては、入力側および出力側のIDT電極にそれぞれ1つずつ入出力パッド電極が接続されており、入力側のIDT電極を構成する一対のバスバー電極のうちアース電位となる一方のバスバー電極が最も近接する接地用環状電極と一体的に形成されており、出力側のIDT電極においても同様に、一方のバスバー電極が最も近接する接地用環状電極と一体的に形成されている。
【0009】
しかしながら、それぞれのIDT電極の、接地用環状電極と一体的に形成されていない側のバスバー電極には、入出力パッドはそれぞれ1つずつしか形成されていないので、例えば、入力側IDT電極を不平衡な回路に接続し、出力側IDT電極を平衡な回路に接続させたい場合には不適当である。
【0010】
また、このような従来の弾性表面波装置は、一般的に、外乱ノイズの影響を受けると弾性表面波装置の特性が変動してしまうという問題点があった。
【0011】
本発明は、上記のような従来の技術における課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、弾性表面波装置の小型化が可能であり、平衡回路および不平衡回路の間にある弾性表面波装置が外乱ノイズによって受ける影響を抑制することができる弾性表面波素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の弾性表面波素子は、圧電基板の一方主面の外周部に四角形状の接地用環状電極が形成され、不平衡IDT電極および平衡IDT電極が、それぞれ一方のバスバー電極が前記接地用環状電極の対向する一対の辺のそれぞれと一体的に形成されて配置されており、これら不平衡IDT電極および平衡IDT電極の間に、前記不平衡IDT電極の不平衡入出力部に引出電極により接続された不平衡側接続パッドと、該不平衡側接続パッドの両側において前記平衡IDT電極の2つの平衡入出力部のそれぞれに引出電極により接続された2つの平衡側接続パッドと、これら2つの平衡側接続パッドの外側において前記平衡IDT電極の2つの弾性表面波伝播部のそれぞれと前記不平衡IDT電極の2つの弾性表面波伝播部のそれぞれとを接続する2つの接続電極とが配置されており、前記不平衡側接続パッドと両側の前記平衡側接続パッドとの間隔は等間隔であり、前記不平衡IDT電極、前記平衡IDT電極、前記接続電極および前記引出電極の構成は、前記不平衡IDT電極および前記平衡IDT電極における弾性表面波の伝播方向に直交して前記不平衡側接続パッドの中心を通る線を対称軸として対称であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の弾性表面波素子によれば、圧電基板の一方主面の外周部に四角形状の接地用環状電極が形成され、不平衡IDT電極および平衡IDT電極が、それぞれ一方のバスバー電極が前記接地用環状電極の対向する一対の辺のそれぞれと一体的に形成されて配置されており、これら不平衡IDT電極および平衡IDT電極の間に、前記不平衡IDT電極の不平衡入出力部に引出電極により接続された不平衡側接続パッドと、該不平衡側接続パッドの両側において前記平衡IDT電極の2つの平衡入出力部のそれぞれに引出電極により接続された2つの平衡側接続パッドと、これら2つの平衡側接続パッドの外側において前記平衡IDT電極の2つの弾性表面波伝播部のそれぞれと前記不平衡IDT電極の2つの弾性表面波伝播部のそれぞれとを接続する2つの接続電極とが配置されており、前記不平衡側接続パッドと両側の前記平衡側接続パッドとの間隔は等間隔であり、前記不平衡IDT電極、前記平衡IDT電極、前記接続電極および前記引出電極の構成は、前記不平衡IDT電極および前記平衡IDT電極における弾性表面波の伝播方向に直交して前記不平衡側接続パッドの中心を通る線を対称軸として対称であることから、不平衡側接続パッドおよび、2つの平衡側接続パッドの間の弾性表面波振動および電気信号の経路長がそれぞれ互いに同じになるので、それぞれの経路に影響する外乱ノイズの影響が同等となる。従って、素子全体として外乱ノイズの影響が電気特性に及びにくい弾性表面波素子を提供することができる。また、不平衡IDT電極および平衡IDT電極のそれぞれ一方のバスバー電極と、それぞれ対向する接地用環状電極の辺との間の領域が不要になるので、その分、弾性表面波素子を小型化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の弾性表面波素子の実施の形態の一例を示す平面図である。
【図2】図1に示す弾性表面波素子のA−A線における断面図である。
【図3】本発明の弾性表面波素子の実施の形態の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の弾性表面波素子の実施の形態の例について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の弾性表面波素子の実施の形態の一例を示す平面図である。図2は、図1に示す弾性表面波素子1のA−A線における断面図である。
【0017】
図1に示す本例の弾性表面波素子1は、圧電基板2の一方主面の外周部に四角形状の接地用環状電極3が形成され、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7が、それぞれ一方のバスバー電極4,5が接地用環状電極3の対向する一対の辺のそれぞれと一体的に形成されて配置されており、これら不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7の間に、不平衡IDT電極6の不平衡入出力部8に引出電極9により接続された不平衡側接続パッド10と、不平衡側接続パッド10の両側において平衡IDT電極7の2つの平衡入出力部11,12のそれぞれに引出電極13,14により接続された2つの平衡側接続パッド15,16と、これら2つの平衡側接続パッド15,16の外側において平衡IDT電極7の2つの弾性表面波伝播部17,18のそれぞれと不平衡IDT電極6の2つの弾性表面波伝播部19,20のそれぞれとを接続する2つの接続電極21,22とが配置されており、不平衡側接続パッド10と両側の平衡側接続パッド15,16との間隔は等間隔であり、不平衡IDT電極6、平衡IDT電極7、接続電極21,22および引出電極9,13,14の構成は、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7における弾性表面波の伝播方向に直交して不平衡側接続パッド10の中心を通る線(図示せず)を対称軸として対称である。
【0018】
このような構成により、不平衡側接続パッド10および2つの平衡側接続パッド15,16の間の弾性表面波振動および電気信号の経路長がそれぞれ互いに同じになるので、それぞれの経路に影響する外乱ノイズの影響が同等となる。従って、素子全体として外乱ノイズの影響が電気特性に及びにくい弾性表面波素子1を提供することができる。また、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7のそれぞれ一方のバスバー電極4,5と、それぞれ対向する接地用環状電極3の辺との間の領域が不要になるので、その分、弾性表面波素子1を小型化させることができる。
【0019】
弾性表面波素子1は、一般的に弾性表面波装置に用いられる。また、弾性表面波装置は、弾性表面波素子1以外にも、実装用基体,導電性バンプ部材,環状封止部材および外装樹脂部材等が用いられて構成される。
【0020】
また、弾性表面波素子1は、圧電基板2,接地用環状電極3,IDT電極6,7および接続パッド10,15,16等から構成されるものである。より具体的には、圧電基板2の一方の主面上に、IDT電極6,7,反射器電極23,24,25,26,IDT電極6,7と接続される接続パッド10,15,16および、IDT電極6,7と接続パッド10,15,16とを接続している引出電極9,13,14,これらの電極を囲んでいる接地用環状電極3等の各種電極が形成されているものである。
【0021】
圧電基板2は、水晶,ニオブ酸リチウム,四ホウ酸リチウムまたはタンタル酸リチウム等の圧電性の単結晶から成るものである。
【0022】
また、圧電基板2の概略の寸法は、図1に示す例において、それぞれのIDT電極6,7のバスバー電極4,5に沿った方向を縦とし、圧電基板2の主面に平行であって前述の縦方向に直行する方向を横とした場合に、縦が0.5〜2.5mmで、横が0.5〜2.5mm程度である。また、圧電基板2の厚みは0.15〜0.25mm程度である。
【0023】
接地用環状電極3は、前述したように、IDT電極6,7および接続パッド10,15,16等の各種電極を囲むように、圧電基板2の一方主面の外周部に四角形状に形成されたものである。また、弾性表面波素子1を実装用基体に実装する場合に、接地用環状電極3は、実装用基体において接地用環状電極3に対応して形成された環状の電極に接続されるものである。この場合には、接地用環状電極3および実装用基体側の環状の電極が接合されることによって、その内側に内部空間が形成される。そして、IDT電極6,7は、この内部空間に収納されている状態となる。
【0024】
また、接地用環状電極3の概略の寸法は、図1に示す例において、それぞれのIDT電極6,7のバスバー電極4,5に沿った方向を縦とし、圧電基板2の主面に平行であって前述の縦方向に直行する方向を横とした場合に、縦が0.4〜2.4mmで、横が0.4〜2.4mm程度である。また、接地用環状電極3の幅は50μm程度である。
【0025】
不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7は、それぞれ一方のバスバー電極4,5と、一方のバスバー電極4,5から弾性表面波の伝播方向と直交する方向に延びる複数の電極指を有している一方側の複数の櫛歯状電極と、これら複数の櫛歯状電極と電極指が交差し噛み合うように配置される他方側の複数の櫛歯状電極と、他方のバスバー電極とによって構成されている。
【0026】
また、図1に示すように、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7のそれぞれ一方のバスバー電極4,5は、接地用環状電極3の対向する一対の辺のそれぞれと一体的に形成されて配置されている。この場合には、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7のそれぞれ一方のバスバー電極4,5と、それらがそれぞれ対向する接地用環状電極3の辺との間の領域が不要になるので、その分、弾性表面波素子1を小型化することができる。
【0027】
また、不平衡IDT電極6は、不平衡入出力部8および2つの弾性表面波伝播部19,20を含むものである。図1に示す例においては、不平衡入出力部8の両側にそれぞれ弾性表面波伝播部19,20が配置されている。
【0028】
また、平衡IDT電極7は、2つの平衡入出力部11,12および2つの弾性表面波伝播部17,18を含むものである。図1に示す例においては、2つの平衡入出力部11,12の両側にそれぞれ弾性表面波伝播部17,18が配置されている。
【0029】
なお、不平衡入出力部8および平衡入出力部11,12と、それぞれの弾性表面波伝播部17,18,19,20との間には、さらに単数または複数のIDT電極が配置されていてもよい。
【0030】
また、図1に示すように、それぞれのIDT電極6,7の、弾性表面波の伝播方向における両端には、反射器電極23,24,25,26が形成されている。
【0031】
また、それぞれのIDT電極6,7の電極指の対数は50〜200対程度であり、電極指の幅は0.1〜10μm程度であり、電極指同士の間隔は0.1〜10μm程度であり、電極指の交差幅は50μm〜200μm程度である。
【0032】
また、それぞれのIDT電極6,7の概略の寸法は、図1に示す例において、それぞれのIDT電極6,7のバスバー電極4,5に沿った方向を縦とし、圧電基板2の主面に平行であって前述の縦方向に直行する方向を横とした場合に、縦が0.1〜2.0mmで、横が0.1〜2.0mm程度である。
【0033】
不平衡側接続パッド10および2つの平衡側接続パッド15,16は、それぞれの弾性表面波の伝播方向を平行にして対向して配置された不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7の間に形成されているものである。
【0034】
また、不平衡側接続パッド10は、不平衡IDT電極6の不平衡入出力部8に引出電極9によって接続されている。
【0035】
また、2つの平衡側接続パッド15,16は、不平衡側接続パッド10の両側において平衡IDT電極7の2つの平衡入出力部11,12のそれぞれに引出電極13,14によって接続されている。
【0036】
それぞれの接続パッド10,15,16の形状は、円形状,楕円形状または四角形状のいずれであってもよい。また、それぞれの接続パッド10,15,16の概略の寸法は、それぞれの接続パッド10,15,16の形状が円形状である場合であれば、直径が50〜100μm程度である。
【0037】
また、不平衡側接続パッド10および平衡側接続パッド15,16は、いずれの側が入力側電極であってもよく、いずれの側が出力側電極であってもよい。不平衡側接続パッド10および平衡側接続パッド15,16を入力側または出力側のどちらに設定するかは、入力側電極および出力側電極と接続されるそれぞれの外部の回路が平衡回路または不平衡回路のいずれの回路であるかによって決定すればよい。
【0038】
引出電極9,13,14は、それぞれの入出力部8,11,12とそれぞれの接続パッド10,15,16とを接続するためのものである。図1に示す例においては、不平衡IDT電極6の不平衡入出力部8と不平衡側接続パッド10とは、引出電極9によって接続されている。また、平衡IDT電極7の2つの平衡入出力部11,12のそれぞれと2つの平衡側接続パッド15,16とは、引出電極13,14によって接続されている。
【0039】
ここで、引出電極9,13,14が、不平衡IDT電極6の不平衡入出力部8または平衡IDT電極7の平衡入出力部11,12に接続されている状態とは、つまり、不平衡IDT電極6の不平衡入出力部8または平衡IDT電極7の平衡入出力部11,12にあたる部分のIDT電極における接地用環状電極3と接続されていない側のバスバー電極(他方のバスバー電極)が、引出電極9,13,14と接続されている状態をいうものである。
【0040】
また、引出電極9,13,14の幅は5〜50mm程度であり、長さは10〜300mm程度であるものとすればよい。
【0041】
接続電極21,22は、2つの平衡側接続パッド15,16の外側において、不平衡IDT電極6の2つの弾性表面波伝播部19,20のそれぞれと平衡IDT電極7の2つの弾性表面波伝播部17,18のそれぞれとを接続している。
【0042】
ここで、接続電極21,22が、不平衡IDT電極6の2つの弾性表面波伝播部19,20のそれぞれと平衡IDT電極7の2つの弾性表面波伝播部17,18のそれぞれとを接続している状態とは、つまり、不平衡IDT電極6の弾性表面波伝播部19,20および平衡IDT電極7の弾性表面波伝播部17,18にあたる部分のIDT電極における、接地用環状電極3と接続されていない側のバスバー電極(他方のバスバー電極)が、それぞれ接続電極21,22と接続されている状態をいうものである。
【0043】
また、接続電極21,22は、図1に示す例においては平衡側接続パッド15,16を避けるように曲線形状で形成されているが、直線形状または曲線形状のどちらでもよい。また、接続電極21,22の長さは、各IDT電極同士の距離(間隔)次第で設定すればよいが、10〜600μm程度である。また、接続電極21,22の幅は5〜50μm程度である。
【0044】
ここで、本発明の弾性表面波素子1に電気信号を入力した場合の出力までの経路を以下に説明する。なお、以下の説明においては、不平衡側接続パッド10を入力電極とし、平衡側接続パッド15,16を出力電極とする。
【0045】
不平衡側接続パッド10に電気信号を入力すると、引出電極9を介して不平衡IDT電極6に電気信号が流入する。次に、不平衡IDT電極6の不平衡入力部(不平衡入出力部8)にて弾性表面波が励振され、励振された弾性表面波が、不平衡IDT電極6の両端部に向かって、それぞれの弾性表面波伝播部19,20を介してそれぞれ伝播する。次に、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7を接続している接続電極21,22を介して、それぞれ電気信号として平衡IDT電極7の弾性表面波伝播部17,18に流入する。次に、平衡IDT電極7の両端部のそれぞれの弾性表面波伝播部17,18にて、それぞれ弾性表面波が励振され、励振された弾性表面波が、それぞれ平衡出力部(平衡入出力部11,12)まで伝播される。次に、それぞれの平衡出力部(平衡入出力部11,12)から引出電極13,14を介して2つの平衡側接続パッド15,16へ、電気信号がそれぞれ流入し、それぞれの平衡側接続パッド15,16から電気信号が出力される。なお、反射器電極23,24,25,26は、前述したような励振された弾性表面波が各IDT電極6,7の外部に漏れないように各IDT電極6,7の内側に反射させて、弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることによって共振を起こさせる役割を担うものである。
【0046】
ここで、不平衡側接続パッド10と両側の平衡側接続パッド15,16との間隔は等間隔であり、不平衡IDT電極6、平衡IDT電極7、接続電極21,22および引出電極9,13,14の構成は、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7における弾性表面波の伝播方向に直交して不平衡側接続パッド10の中心を通る線を対称軸として対称である。
【0047】
このとき、図2に示す例からも分かるように、不平衡側接続パッド10は、2つの平衡側接続パッド15,16の中間に位置している。この構成により、不平衡側接続パッド10および2つの平衡側接続パッド15,16の間の弾性表面波振動および電気信号の経路長がそれぞれ同じになるので、それぞれの経路に影響する外乱ノイズの影響が同等となる。従って、素子全体として外乱ノイズの影響が電気特性に及びにくい弾性表面波素子1とすることができる。
【0048】
また、図3に示す例においては、不平衡側接続パッド10および2つの平衡側接続パッド15,16を頂点とする二等辺三角形が形成されるような位置に、不平衡側接続パッド10および2つの平衡側接続パッド15,16を配置している。図3は、本発明の弾性表面波素子1の実施の形態の他の例を示す平面図である。
【0049】
この例の場合には、不平衡側接続パッド10と両側の平衡側接続パッド15,16との間隔は等間隔であるという条件、および不平衡IDT電極6、平衡IDT電極7、接続電極21,22および引出電極9,13,14の構成は、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7における弾性表面波の伝播方向に直交して不平衡側接続パッド10の中心を通る線を対称軸として対称であるという条件を満足して、不平衡側接続パッド10および2つの平衡側接続パッド15,16と、それぞれの接続パッド10,15,16が引出電極9,13,14により接続されている各IDT電極6,7の弾性表面波伝播部17,18,19,20との間隔を自由に設定することができる。従って、接続パッド10,15,16の配置の設計の自由度を向上させることができる。
【0050】
また、それぞれの接続パッド10,15,16を各IDT電極6,7の弾性表面波伝播部17,18,19,20の近傍に配置して各接続パッド10,15,16および各IDT電極6,7の弾性表面波伝播部17,18,19,20を接続している引出電極9,13,14を短くするよう設計した場合には、弾性表面波素子1の入力から出力までの経路長を短くすることができるため、外乱ノイズによる影響を低減させることができ、また、電気信号の損失を抑制させることが可能となる。
【0051】
また、平衡IDT電極7、不平衡IDT電極6、接続電極21,22、平衡側接続パッド15,16、不平衡側接続パッド10、引出電極9,13,14および接地用環状電極3は、圧電基板2の一方の主面に、例えばアルミニウム合金を用いてスパッタリング法,蒸着法またはCVD(Chemical Vapor deposition:化学気相成長)法等の薄膜形成法により形成し、次に縮小投影露光機(ステッパー)とRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)装置とを用いたフォトリソグラフィ法によりパターニングされ、所定の形状に形成される。IDT電極は一般的にはAl−Cu(アルミニウム−銅)系のアルミニウム合金からなるが、Cu以外にTi(チタン),Ta(タンタル),W(タングステン)またはNb(ニオブ)等を含むAl合金でも構わない。また、前述した各種電極の厚みは70〜400nm程度である。
【実施例】
【0052】
本発明の弾性表面波素子1の実施例を以下に説明する。なお、本実施例においては、図3に示す例の弾性表面波素子1を作製した。
【0053】
まず、ニオブ酸リチウムを用いて圧電基板2を作製した。また、圧電基板2の寸法は、図3に示す例において、それぞれのIDT電極6,7のバスバー電極4,5に沿った方向を縦とし、圧電基板2の主面に平行であって前述の縦方向に直行する方向を横とした場合に、縦が0.735mmで、横が1.035mmであるものとした。また、圧電基板2の厚みは0.25mmとした。
【0054】
次に、平衡IDT電極7、不平衡IDT電極6、接続電極21,22、平衡側接続パッド15,16、不平衡側接続パッド10、引出電極9,13,14および接地用環状電極3を、Al−Cuを主成分とする合金を用いてスパッタリング法によって、300nmの厚みで圧電基板2の主面に形成した。
【0055】
なお、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7の電極指の対数はそれぞれ90対および86対であり、電極指の幅は1.4μmであり、電極指同士の間隔は2μmであり、電極指の交差幅は150μmであるものとした。また、それぞれのIDT電極6,7の概略の寸法は、図3に示す例において、それぞれのIDT電極6,7のバスバー電極4,5に沿った方向を縦とし、圧電基板2の主面に平行であって前述の縦方向に直行する方向を横とした場合に、縦が185μmで、横が160μmであるものとした。
【0056】
また、接続電極21,22の形状は図3に示す例のような曲線形状であり、各IDT電極6,7同士の距離は0.43mmであり、接続電極21,22の長さは0.53mmであるものとした。また、接続電極21,22の幅は20μmとした。
【0057】
また、各接続パッド10,15,16の形状は円形状であり、直径が80μmであるものとした。また、図3に示す例のように、各接続パッド10,15,16は、各接続パッド10,15,16が2等辺三角形の頂点の位置となるように配置されたものとした。また、不平衡側接続パッド10を入力電極とし、平衡側接続パッド15,16を出力電極とした。
【0058】
なお、不平衡IDT電極6、平衡IDT電極7、接続電極21,22および引出電極9,13,14の構成が、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7における弾性表面波の伝播方向に直交して不平衡側接続パッド10の中心を通る線を対称軸として対称とすることにより、不平衡側接続パッド10および2つの平衡側接続パッド15,16の間の電気信号の経路長はそれぞれ等しくなるものとした。
【0059】
また、接地用環状電極3の概略の寸法は、縦と横を前述したように定義した場合には、縦が0.645mmで、横が0.945mmであり、接地用環状電極3の幅は50μmであるものとした。
【0060】
また、引出電極9,13,14の長さはそれぞれ120μmであり、引出電極9,13,14の幅はそれぞれ20μmであるものとした。
【0061】
また、比較例として、入力側のIDT電極に1つの接続パッドが接続されており、出力側のIDT電極に2つの接続パッドが接続されており、入力側のIDT電極を構成する、アース電位となる一方のバスバー電極が、最も近接する接地用環状電極と一体的に形成されている弾性表面波素子を作製した。なお、この弾性表面波素子において、入力側の接続パッドは、入力側の不平衡IDT電極および出力側の平衡IDT電極の間に形成した。また、出力側の2つの接続パッドは、出力側の平衡IDT電極および接地用環状電極の間に形成した。
【0062】
なお、比較例の弾性表面波素子の圧電基板の横方向の長さは1.18mmであり、接地用環状電極の横方向の長さは1.09mmであるものとした。また、引出電極の長さはそれぞれ90μmとした。また、各IDT電極同士の距離は0.2mmとし、接続電極の長さは0.25mmとした。また、入力側の接続パッドおよび出力側の一方の接続パッドの間の電気信号の経路長は0.75mmであり、入力側の接続パッドおよび出力側の他方の接続パッドの間の電気信号の経路長は0.82mmであるものとした。
【0063】
また、上記以外の構成および寸法は、全て本実施例の弾性表面波素子1の構成および寸法と同様であるものとした。
【0064】
このような実施例の弾性表面波素子1および比較例の弾性表面波素子を用いて、それぞれ実施例の弾性表面波装置および比較例の弾性表面波装置を作製した。
【0065】
それぞれの弾性表面波装置は、それぞれの弾性表面波素子以外に、実装用基体,導電性バンプ部材,環状封止部材および外装樹脂部材から構成されたものとした。
【0066】
実装用基体は、ガラスセラミック材料を使用した多層基板から成り、表面には弾性表面波素子の入出力用電極パッドと対向する基体側入出力用電極パッドが形成されたものとした。また、実装用基体の表面には、接地用環状電極に対応して基体側環状電極を形成した。これら基体側入出力用電極パッドおよび基体側環状電極は、Al−Cuを主成分とする合金から成るものとした。
【0067】
なお、基体側入出力用電極パッドと、外部の回路と接続されるための外部端子と、ビアホール導体を含む内部配線パターンにて接続した。
【0068】
また、それぞれの弾性表面波素子は、入出力用電極パッドが導電性バンプ部材を介して基体側入出力用電極パッドに電気的に接続されるように、実装用基体に実装した。また、導電性バンプ部材は、半田により形成されており、圧電基板の下面と実装用基体の上面との間に所定の間隔を形成するように配置されるものとした。
【0069】
また、弾性表面波素子を実装用基体に実装する際には、弾性表面波素子側の接地用環状電極を基体側環状電極に接触させた。そして、接地用環状電極および基体側環状電極の外周に環状封止部材を配置することによって、接地用環状電極および基体側環状電極を接合した。なお、環状封止部材は、半田から成るものとした。
【0070】
また、外装樹脂部材は実装用基体上に、弾性表面波素子の圧電基板を覆うように形成した。この外装樹脂部材には、エポキシ樹脂を主成分とするものを用いた。
【0071】
なお、外装樹脂部材を形成する際は、印刷部全体をチャンバーで囲い、その中を真空状態にして真空スクリーン印刷法によって液状樹脂を充填させた。また、印刷後は、温度150℃にて1時間加熱することで液状樹脂を硬化させた。
【0072】
実装用基体の寸法は、縦と横を前述したように定義した場合に、縦が0.735mmで、横が1.035mmであるものとした。また、実装用基体の厚みは0.25mmとした。
【0073】
また、それぞれの基体側入出力用電極パッドの形状は円形状であり、直径が80μmであり、300nmの厚みであるものとした。
【0074】
また、基体側環状電極の概略の寸法は、縦と横を前述したように定義した場合に、縦が0.645mmで、横が0.945mmであり、接地用環状電極3の幅は50μmであり、300nmの厚みであるものとした。
【0075】
また、導電性バンプ部材は、直径が80μmで、厚みが20μmである、略円柱形状のものとした。
【0076】
また、環状封止部材の厚みは、20μmとした。
【0077】
また、外装樹脂部材の概略の寸法は、縦と横を前述したように定義した場合に、縦が0.735mmで、横が1.035mmであるものとした。そして、図2に示す例において、圧電基板2の厚み方向を高さとした場合に、外装樹脂部材の概略の高さは、0.5mmとした。
【0078】
そして、これら実施例の弾性表面波装置および比較例の弾性表面波装置に、それぞれ入力ゲイン0dBmで周波数が0〜6GHzの電気信号を流し、測定器(アジレント社製ネットワークアナライザE5071B)を使用して、それぞれの平衡出力の位相を比較した。その結果、実施例の弾性表面波装置の平衡出力の位相差は2.56°であったのに対し、比較例の弾性表面波装置の平衡出力の位相差は2.86°であった。即ち、実施例の弾性表面波装置においては、不平衡側接続パッドおよび2つそれぞれの平衡側接続パッドの間の電気信号の経路長の差が、比較例において0.07mmであったものが0mmとなるよう改善されたことによって、平衡出力の位相差が0.3°小さくなった。
【0079】
ここで、平衡出力の位相差とは、平衡IDT電極に接続されている2つの平衡側接続パッドから取り出される、2つの電気信号の出力同士の位相差のことを示している。また、この平衡出力の位相差は、一般的に0°に近づく程、信号のS/N比が大きくなるので好ましい。
【0080】
また、ここでS/N比とは、信号雑音比(Signal-Noise Ratio)のことであり、電気信号の電力をノイズの電力で割った値である。S/N比が大きいほどノイズによる影響が小さく、S/N比が小さいほどノイズによる影響が大きい。すなわち、一般的な弾性表面波装置において、S/N比が大きいほど外乱ノイズの影響が抑制されるので好ましい。
【0081】
この結果より、本発明の実施例の弾性表面波素子1は、不平衡側接続パッド10と両側の平衡側接続パッド15,16との間隔が等間隔であり、不平衡IDT電極6、平衡IDT電極7、接続電極21,22および引出電極9,13,14の構成が、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7における弾性表面波の伝播方向に直交して不平衡側接続パッド10の中心を通る線を対称軸として対称であることから、S/N比が大きくなり、弾性表面波素子全体における外乱ノイズの影響が抑制されることが分かった。
【0082】
また、作製した実施例の弾性表面波素子1および比較例の弾性表面波素子を比較すると、実施例の弾性表面波素子1の圧電基板2の横方向の長さは、比較例の弾性表面波素子の圧電基板の横方向の長さより、0.145mm短くなることが分かった。
【0083】
この結果より、不平衡IDT電極6および平衡IDT電極7のそれぞれ一方のバスバー電極4,5と、それぞれ対向する接地用環状電極3の辺との間の領域が不要になるので、その分、弾性表面波素子1を小型化させることができることが分かった。
【符号の説明】
【0084】
1:弾性表面波素子
2:圧電基板
3:接地用環状電極
4,5:バスバー電極
6:不平衡IDT電極
7:平衡IDT電極
8:不平衡入出力部
9,13,14:引出電極
10:不平衡側接続パッド
11,12:平衡入出力部
15,16:平衡側接続パッド
17,18,19,20:弾性表面波伝播部
21,22:接続電極
23,24,25,26:反射器電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の一方主面の外周部に四角形状の接地用環状電極が形成され、不平衡IDT電極および平衡IDT電極が、それぞれ一方のバスバー電極が前記接地用環状電極の対向する一対の辺のそれぞれと一体的に形成されて配置されており、これら不平衡IDT電極および平衡IDT電極の間に、前記不平衡IDT電極の不平衡入出力部に引出電極により接続された不平衡側接続パッドと、該不平衡側接続パッドの両側において前記平衡IDT電極の2つの平衡入出力部のそれぞれに引出電極により接続された2つの平衡側接続パッドと、これら2つの平衡側接続パッドの外側において前記平衡IDT電極の2つの弾性表面波伝播部のそれぞれと前記不平衡IDT電極の2つの弾性表面波伝播部のそれぞれとを接続する2つの接続電極とが配置されており、前記不平衡側接続パッドと両側の前記平衡側接続パッドとの間隔は等間隔であり、前記不平衡IDT電極、前記平衡IDT電極、前記接続電極および前記引出電極の構成は、前記不平衡IDT電極および前記平衡IDT電極における弾性表面波の伝播方向に直交して前記不平衡側接続パッドの中心を通る線を対称軸として対称であることを特徴とする弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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