説明

弾性表面波装置

【課題】通過帯域での特性劣化を生じることなく、通過帯域外で広い減衰域を得る。
【解決手段】 入力端子1と、出力端子2と、音響結合する複数の交差指状電極(IDT)とを含む弾性表面波装置で、IDTの1以上に位相回転素子(線路又はインダクタ)13を並列に接続する。音響結合する前記IDTは、入出力端子間に直列に接続する。或いは、音響結合する前記IDTが、位相回転素子が接続されかつ入出力端子間に直列に接続された直列IDTと、この直列IDTと音響結合しかつ入出力端子間の伝送路から基準電位へ分岐する伝送路上に配される分岐IDTとを含むようにしても良い。前記複数のIDTのうち、位相回転素子を接続したIDTの電極周期をλa、接続していないIDTの電極周期をλbとした場合にλa≧λbとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置に係り、特に複数の交差指状電極を音響結合させた共振器を含む音響結合型の弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電効果によって発生する弾性表面波(Surface Acoustic Wave/SAW)を利用した弾性表面波装置(以下、SAW装置という)は、小型軽量で信頼性に優れることから、携帯電話機の送受信フィルタやアンテナ分波器などに近年広く使用されている。
【0003】
かかるSAW装置は、一般に、弾性表面波を励振する複数の交差指状電極(インターデジタルトランスデューサ:Interdigital Transducer/以下、IDTという)と、このIDTで励起される弾性表面波を閉じ込める反射器とを圧電基板上に形成し、IDTを電気的にあるいは音響的に接続することにより構成される。
【0004】
IDTの接続構造としては、梯子形に複数のIDTを接続するラダー型構造や、複数のIDTを弾性表面波の伝播経路内に配して音響的に結合させる音響結合型構造が知られている。IDTの接続個数は、当該SAW装置が目的とする特性に対応して適宜選択されるが、音響結合型構造は、ラダー型構造に較べ、一般に反射器の配設数が少なく、また、共振器同士を繋ぐ配線を短くできることから小型化に有利であり、同時に、反射器内や配線抵抗によるロスを省いて挿入損失を小さく抑えることが出来る特徴を有する。
【0005】
また、このようなSAW装置を開示するものとして下記特許文献がある。
【特許文献1】特開平8−242140号公報
【特許文献2】特表平9−505974号公報
【特許文献3】特開2004−112238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、SAW装置として代表的な帯域通過フィルタを考えた場合、帯域通過フィルタは、所定の通過帯域で挿入損失を低く抑え、かつ通過帯域外では大きな減衰が得られることが望まれる。
【0007】
ところが、従来のSAWフィルタには、通過帯域に至近の周波数領域では大きな減衰を得ることが出来るものの、通過帯域から周波数が離れるに従い急激に減衰量が低下する特性があり、広範な減衰域を形成することが難しいという側面がある。一方、通過帯域外における減衰特性を改善しようとすると、通過帯域における挿入損失が増大し、通過帯域での特性劣化を引き起こすという問題が生じる。
【0008】
このため、フィルタを構成する共振器(IDTや反射器)自体の構造や接続個数、配置構成などで様々な設計上の工夫が従来からなされているが、通過帯域外で幅広くかつ大きな減衰を得るためにさらなる改良の余地が残っている。
【0009】
他方、上記特許文献1(特開平8−242140)には、音響結合型フィルタの端子の少なくとも1つに直列にインダクタンス素子を接続する構成が記載されている(同文献:図15,明細書段落0037)。ところが、この文献記載の発明は、通過帯域外の特性について考慮するものではない。また、同文献のようにインダクタンス素子を直列に接続した場合には、当該素子分だけ挿入損失が増大する難がある。
【0010】
また、上記特許文献2(特表平9−505974)も、音響結合型フィルタの基本的な構成を開示するものであって、上記特許文献1と同様に、通過帯域外におけるフィルタ特性の改善の手段を示すものではない。
【0011】
さらに、上記特許文献3(特開2004−112238)において本出願人は、SAW共振器と基準電位電極との間にインダクタンス素子を接続することにより、通過帯域外における減衰量を大きくし、良好な周波数特性を得ることを開示した(同文献:明細書段落0084)。しかしながら、この文献記載の構成は、通過帯域外において減衰を広帯域に形成できるものではない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、通過帯域外における減衰特性を良好にする点にあり、特に、通過帯域における特性劣化を引き起こすことなく、通過帯域外において減衰を広帯域に形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し目的を達成するため、本発明のSAW(弾性表面波)装置は、信号入力端子と、信号出力端子と、音響結合する複数の交差指状電極とを含むSAW装置であって、前記複数の交差指状電極のうちの少なくとも1つの交差指状電極に位相回転素子を並列に接続した。
【0014】
上記音響結合する複数の交差指状電極は、信号入力端子と信号出力端子との間に直列に接続されることがある。
【0015】
また、上記音響結合する複数の交差指状電極は、位相回転素子が接続されかつ信号入力端子と信号出力端子との間に直列に接続された直列交差指状電極と、この直列交差指状電極と音響結合しかつ信号入力端子と信号出力端子との間の伝送路から基準電位へ分岐する伝送路上に配される分岐交差指状電極とを含むことがある。
【0016】
SAWフィルタのようなSAW装置では、既に述べたように、通過帯域の至近領域では大きな減衰を得ることが出来るものの、通過帯域から離れると急速に減衰量が小さくなる傾向があり、広範な減衰域を形成することが従来難しかった。本発明者は、通過帯域外における広帯域の減衰を得るため、種々検討した結果、上記本発明のように音響結合する複数の交差指状電極のうちの少なくとも1つに位相回転素子を並列に接続することで、通過帯域外に新たな減衰極を形成することができ、これにより通過帯域外で従来より大きな(より広範な)減衰域を形成できることを見い出した。尚、この点については、後の実施形態の説明において図面を参照しつつ詳しく述べる。
【0017】
交差指状電極に接続する上記位相回転素子としては、伝送線路またはインダクタンス素子(コイル)を用いることが出来る。また、伝送線路とインダクタンス素子を組み合わせて使用しても良い。
【0018】
また、上記SAW装置では、信号入力端子と信号出力端子との間に複数の交差指状電極を直列に接続し、これら複数の交差指状電極のうち、少なくとも1つの交差指状電極に位相回転素子を並列に接続し、前記複数の交差指状電極のうち、前記位相回転素子を接続した交差指状電極の電極周期をλa、位相回転素子を接続していない交差指状電極の電極周期をλbとした場合に、λa≧λbとすることが望ましい。
【0019】
このような構成によれば、上述のように通過帯域外における減衰特性を改善できるだけでなく、通過帯域における挿入損失を低減し、通過帯域内における特性も良好にすることが出来る。
【0020】
さらに、本発明の別のSAW装置は、信号入力端子と、信号出力端子と、前記信号入力端子と前記信号出力端子との間に直列に接続された1つ以上の直列交差指状電極と、前記信号入力端子と前記信号出力端子との間の伝送路から基準電位へ分岐する伝送路上に配された1つ以上の分岐交差指状電極とを備え、前記直列交差指状電極および分岐交差指状電極のうちの少なくとも2つの交差指状電極が音響結合するSAW装置であって、前記直列交差指状電極のうちの少なくとも1つの交差指状電極に位相回転素子を並列に接続するとともに、当該位相回転素子を接続した直列交差指状電極の反共振周波数をFas1、前記分岐交差指状電極の共振周波数Frpとした場合に、Fas1<Frpとなるように前記位相回転素子の素子値を設定したものである。
【0021】
信号入出力端子間に直列に接続された直列交差指状電極と、信号入出力端子間から基準電位へ分岐する伝送路上に配された分岐交差指状電極とにより帯域通過フィルタのようなSAW装置を形成する構成が従来から知られている。このようなSAWフィルタでは通常、直列交差指状電極の共振点と分岐交差指状電極の反共振点とを略一致させることにより通過帯域を形成する一方、直列交差指状電極の反共振点により高域側の減衰極を、また分岐交差指状電極の共振点(共振周波数Frp)により低域側の減衰極を形成する。
【0022】
このようなSAWフィルタにおいて、直列交差指状電極の少なくとも1つに位相回転素子を並列に接続すれば、この位相回転素子を接続した直列交差指状電極の反共振点(反共振周波数Fas1)によって低域側の減衰域に新たな減衰極を形成することができ、これにより通過帯域外における減衰域の広帯域化を図ることが可能となる。この場合、より平坦で広い減衰域を形成するため、直列交差指状電極の反共振周波数Fas1が分岐交差指状電極の共振周波数Frpより小さくなるように(Fas1<Frp)位相回転素子の素子値を設定する。
【0023】
また、本発明に係るSAW装置は、フィルタを構成することが可能で、本発明に係るSAW(弾性表面波)フィルタは、上記本発明に係るいずれかのSAW装置を1つ以上含む。
【0024】
さらに、本発明に係る分波器は、アンテナに接続される共通端子と、この共通端子に接続された送信側フィルタと、受信側フィルタとを備える分波器であって、前記送信側フィルタおよび受信側フィルタのいずれか一方または双方が、本発明に係るいずれかのSAW装置を含む。
【0025】
このような分波器構造によれば、相手側(送信側または受信側)フィルタの通過帯域で平坦かつより大きな減衰域を形成し、良好な特性の分波器を構成することが出来る。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、通過帯域における特性を劣化させることなく、通過帯域外で平坦でより大きな減衰特性を得ることが可能となる。
【0027】
本発明の他の特徴および利点は、以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。尚、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【0029】
〔実施形態1〕
図1は、本発明の第一の実施形態に係る音響結合型SAWフィルタの構成を示す概念図である。同図に示すようにこの音響結合型SAWフィルタは、信号入力端子1と信号出力端子2との間に直列に挿入された直列共振器11と、信号入力端子1と信号出力端子2間の伝送路からグランド(基準電位端子3)へ分岐する分岐路上に接続された分岐共振器12とを備えている。
【0030】
直列共振器11は、音響結合する2つの交差指状電極21,22(以下、IDTという)と、これらのIDT21,22を挟むように両側に配置された2つの反射器23,24とを圧電基板上に設けてなる。一方、分岐共振器12は、音響結合する2つのIDT31,32と、これらのIDT31,32を挟むように両側に配置された2つの反射器33,34とを圧電基板上に設けてなる。ここで、圧電基板は、LiNbO3,LiTaO3 や水晶などの圧電単結晶、あるいはチタン酸ジルコン酸鉛系圧電セラミックスのような圧電セラミックスにより形成されている。但し、絶縁基板上にZnO薄膜などの圧電薄膜を形成したものを圧電基板として用いても良い。
【0031】
直列共振器11を構成する第一のIDT21(以下、第一直列IDTという)は、一方の電極21aが信号入力端子1に接続され、他方の電極21bは、当該第一直列IDT21と音響結合して直列共振器11を構成する第二のIDT22(以下、第二直列IDTという)と共通の電極となっている。また、直列共振器11を構成する第二直列IDT22は、一方の電極22aが信号出力端子2に接続され、他方の電極は前記第一直列IDTと共通の電極21bとなっている。
【0032】
一方、分岐共振器12を構成する第一のIDT31(以下、第一分岐IDTという)は、一方の電極31aが直列共振器11の上記共通電極21bに接続され、他方の電極31bは、当該第一分岐IDT31と音響結合して分岐共振器12を構成する第二のIDT32(以下、第二分岐IDTという)と共通の電極とされている。この共通電極31bは、基準電位電極3に接続してある。また、分岐共振器12を構成する第二分岐IDT32は、一方の電極32aが信号出力端子2に接続され、他方の電極は、前記第一分岐IDTと共通の電極31bとされて基準電位電極3に接続されている。
【0033】
さらに、本実施形態では、直列共振器内の上記第一直列IDT21に、位相回転素子として伝送線路13を並列に接続する。この位相回転用の伝送線路13を接続することで、以下のように通過帯域外でより広い減衰域が形成される。
【0034】
すなわち、図2は本実施形態のSAWフィルタの比較例である音響結合型SAWフィルタの一構成例を示すものである。このフィルタは、本実施形態のフィルタと同様に直列共振器11と分岐共振器12を備えるが、直列共振器11に位相回転素子が接続されていない点のみで本実施形態のフィルタと異なるものである。
【0035】
図3および図4は、音響結合型SAWフィルタにおける周波数−減衰特性、並びに、当該フィルタを構成する各共振器およびIDTの共振点および反共振点を示す概念図であり、図3は上記図2に示した比較例のSAWフィルタに関するものであり、図4は第一実施形態のSAWフィルタに関するものである。またこれらの図において、Frsは直列共振器の共振周波数を、Fasは直列共振器の反共振周波数を、Frpは分岐共振器の共振周波数を、Fapは分岐共振器の反共振周波数を、Frs1は位相回転素子が並列接続されたIDT(第一直列IDT)の共振周波数を、Fas1は位相回転素子が並列接続されたIDT(第一直列IDT)の反共振周波数を、F0は当該フィルタの通過帯域の中心周波数をそれぞれ示している。
【0036】
これらの図に示すように、直列共振器11と分岐共振器12とを有する上記構造のフィルタでは、通過帯域は、直列共振器11の共振周波数Frsと、分岐共振器12の反共振周波数Fapとを略一致させることにより形成することが出来る。一方、減衰域は、直列共振器11の反共振周波数Fas位置に減衰極が生じることにより高域側の減衰域が形成され、分岐共振器12の共振周波数Frp位置に減衰極が生じることにより低域側の減衰域が形成される。
【0037】
本実施形態では、さらに図4に示すように、直列共振器11(第一直列IDT21)に位相回転素子13を並列に接続することにより、当該第一直列IDT21の反共振点Fas1に減衰極が生じ、これにより比較例(図3)より広い減衰域を低域側に形成することが可能となる。尚、位相回転素子13は、第二直列IDT22に並列に接続(共通電極21bおよび第一分岐IDTの電極31a間の接続線路と、信号出力端子2との間に接続)しても、あるいは両方のIDT21,22に接続しても良く、これらの構成によっても同様の特性を得ることが出来る。
【0038】
図5は上記比較例(図2)のSAWフィルタの周波数特性を測定した結果を、また図6は本実施形態(図1)のフィルタの周波数特性を測定した結果をそれぞれ示すものである。これらの線図から、比較例のSAWフィルタに較べ、本実施形態のフィルタは、低域側の減衰域でより広範な減衰域が形成されていることが分かる。
【0039】
さらに、図7および図8は、本実施形態のSAWフィルタの比較例として、音響結合型SAWフィルタの別の構成例とその周波数特性を示すものである。このフィルタは、上記実施形態のフィルタと同様に直列共振器11と分岐共振器12を備えるものであるが、直列共振器11に位相回転素子を有しない点、および分岐共振器12と基準電位電極3との間にインダクタンス素子5を直列に接続している点で上記実施形態のフィルタと異なる。この比較例(図8)と較べても、上記実施形態に係るフィルタは、低域側の減衰域でより広範な減衰域を形成できることが分かる。
【0040】
さらに、本実施形態のSAWフィルタでは、直列共振器11の電極周期について、第一直列IDT21の電極周期λ1が、第二直列IDT22の電極周期λ2と略同一かそれより大きくなる(λ1≧λ2)ように設定することが望ましい。通過帯域における挿入損失を低減し、減衰域だけでなく、通過帯域におけるフィルタ特性も良好にするためである。この点につき詳しく述べる。
【0041】
前記図3および図4を再び参照して、通過帯域は、直列共振器11の共振周波数Frsと、分岐共振器12の反共振周波数Fapとを略一致させることにより形成することが出来ることは既に述べたとおりである。また、各共振器11,12の共振周波数および反共振周波数は、当該共振器を構成するIDTの電極周期を適宜設定することにより、所望の値に決定することが可能である。また、上記実施形態のようにIDTに位相回転素子13を並列に接続した場合でも、当該位相回転素子を接続したIDT21の共振周波数Frs1は、当該IDT21の電極周期(λ1/図12に基づいて後に述べる第一直列IDT51の電極周期λ6についても同様)でほぼ決定される。
【0042】
ここで、当該位相回転素子13を接続したIDT21は、共振周波数Frs1のときに最も低インピーダンスとなり、フィルタの挿入損失への影響は小さい。一方、共振周波数Frs1よりも周波数が低くなるにつれ、位相回転素子13を接続したIDT21のインピーダンスは増加し、反共振周波数Fas1で最も高インピーダンスとなり、フィルタの減衰極を形成する。
【0043】
このように、位相回転素子13が並列接続されたIDT21が入出力に対して直列に配置されている上記フィルタ構造にあっては、位相回転素子13を接続したIDT21の反共振周波数Fas1に近づくに従い、フィルタとしての損失が著しく増加することになる。このため、λ1<λ2(後に述べる図12のフィルタでは、λ6<λ5)とすると、反共振周波数Frs1がフィルタの中心周波数よりも高周波側に位置することとなり、またこれにつれ反共振周波数Fas1もフィルタの通過帯域側に近づき、フィルタの通過帯域における挿入損失が大きくなって、通過帯域でのフィルタ特性が悪化する。
【0044】
したがって、上述のように第一直列IDT21の電極周期λ1が、第二直列IDT22の電極周期λ2と略同一かそれより大きくなるように(λ1≧λ2となるように)設定することが、通過帯域における挿入損失を低減し、通過帯域におけるフィルタ特性を良好にする点から好ましい。
【0045】
図9は、上記本実施形態のフィルタの第一直列IDT21の電極周期λ1と、第二直列IDT22の電極周期λ2の関係を、λ1≧λ2とした場合(実線)と、λ1<λ2とした場合(破線)について、周波数特性を測定した結果を示すものであるが、λ1≧λ2とすることにより、通過帯域で良好な特性が得られることが分かる。
【0046】
尚、分岐共振器12については、分岐IDT31,32の電極周期λ3が、第二直列IDT22の電極周期λ2より大きくなるように(λ3>λ2)すれば良い。
【0047】
また、直列共振器11に並列接続する位相回転素子は、伝送線路13のほかにもインダクタンス素子とすることも可能である。図10および図11は、この構成例と周波数特性をそれぞれ示すもので、前記実施形態において伝送線路13に代え、直列共振器11の第一直列IDT21にインダクタンス素子14を並列に接続したものである。このような構成によっても、図11から明らかなように比較例(図8)と較べ、低域側の減衰域でより広範な減衰域を形成することが出来る。
【0048】
〔実施形態2〕
図12は、本発明の第二の実施形態に係る音響結合型SAWフィルタの構成を示す概念図である。同図に示すようにこの音響結合型SAWフィルタは、前記第一の実施形態のフィルタにおいて、直列共振器11に含まれ位相回転素子13を接続した第一直列IDT21を、基準電位電極に接続された分岐共振器内のIDT31,32と音響結合させたものである。
【0049】
すなわち、このSAWフィルタは、信号入力端子1と信号出力端子2との間に直列に挿入されたIDT22の両側に反射器23,24を備えた第一共振器41と、信号入力端子1と信号出力端子2間の伝送路からグランド(基準電位端子3)へ分岐する分岐路上に接続された2つのIDT31,32(第一分岐IDT31および第二分岐IDT32)並びに信号入力端子1と信号出力端子2との間に直列に挿入された1つのIDT51(以下、第一直列IDTという)を有する第二共振器42とを備えている。
【0050】
第二共振器42内の各IDT51,31,32は、音響結合され、これらIDT51,31,32を挟むように両側に反射器33,34を設けてある。また、第二共振器内の第一直列IDT51には、位相回転素子として伝送線路13を並列に接続する。
【0051】
また、第二共振器42内に配される第一直列IDT51は、一方の電極51aが信号入力端子1に接続され、他方の電極51bは、第一共振器41内のIDT22(以下、第二直列IDTという)の一方の電極22bに接続される。また、第二直列IDT22の他方の電極22aは、信号出力端子2に接続されている。
【0052】
さらに、第二共振器42内に配された第一分岐IDT31は、一方の電極31aが第二直列IDT22の一方の電極22bに接続され、他方の電極31bは当該第一分岐IDT31と音響結合する第二分岐IDT32と共通の電極とされている。この共通電極31bは、基準電位電極3に接続してある。また、第二分岐IDT32の一方の電極32aは、信号出力端子2に接続され、他方の電極は、前記第一分岐IDT31と共通の電極31bとされて基準電位電極3に接続されている。
【0053】
本実施形態における各IDTの電極周期は、第二直列IDT22の電極周期をλ5、第一直列IDT51の電極周期をλ6、第一および第二分岐IDT31,32の電極周期を共にλ7としたときに、λ6がλ5より大きく(λ6>λ5)、かつλ6がλ7にほぼ等しく(λ6≒λ7)なるように設定することが望ましい。
【0054】
図13は、本実施形態に係るフィルタの周波数特性を示すものであるが、第二共振器内の第一直列IDT51に、位相回転用の伝送線路13を並列に接続することで、前記第一の実施形態と同様に、通過帯域外でより広い減衰域を形成することが可能である。
【0055】
さらに図14は、通過帯域の周波数特性を示すもので、実線が本実施形態のフィルタ、破線が前記第一実施形態のフィルタに関するものであるが、本実施形態によれば、前記第一実施形態より通過帯域においてより良好な特性となっている。これは、第二共振器42において、上述のように第一直列IDT51の電極周期λ6と、分岐IDT31,32の電極周期λ7がほぼ等しい(大きく変化しない)ことから、第二共振器42内における損失が小さいことによる。
【0056】
したがって、本実施形態(第二実施形態)と前記第一実施形態は、いずれも通過帯域外の減衰特性を改善できるものであるが、いずれを採用するか(位相回転素子13を並列接続した直列IDT21,51を、直列IDTと分岐IDTのどちらに音響結合させるか)の判断として、位相回転素子を並列接続した直列IDT21,51の電極周期(λ1,λ6)に近い電極周期を有する方のIDTに対して当該位相回転素子を並列接続した直列IDT21,51を音響結合させることが、通過帯域においても良好な特性を得る点で好ましい。
【0057】
より具体的には、位相回転素子を接続した第一直列IDT21,51の電極周期λ1,λ6が、第二直列IDT22の電極周期λ2,λ5より分岐IDT31,32の電極周期λ3,λ7に近ければ、分岐IDT31,32に対して第一直列IDTを音響結合させる第二実施形態(図12)の構成を採り、逆に、第一直列IDT21,51の電極周期λ1,λ6が、分岐IDT31,32の電極周期λ3,λ7より第二直列IDT22の電極周期λ2,λ5に近ければ、第二直列IDT22に対して第一直列IDT21,51を音響結合させる第一実施形態(図1)の構成を採用すれば良い。
【0058】
また、上記第二実施形態のフィルタでは、前記第一実施形態と同様に、図15に示すように伝送線路13に代え、インダクタンス素子14を位相回転素子として接続しても良い。
【0059】
〔実施形態3〕
さらに図16は、本発明の第三の実施形態に係る音響結合型SAWフィルタの構成を示す概念図である。同図に示すようにこの音響結合型SAWフィルタは、前記図15に示すフィルタにおいて第二共振器内の分岐IDT31,32の共通電極31bと基準電位電極3との間にインダクタンス素子5を直列に挿入したものである。
【0060】
図17は、上記第三実施形態に係るフィルタの周波数特性を示すもので、実線は第三実施形態(第一直列IDT51に並列にインダクタンス素子14を接続するとともに上記直列接続のインダクタンス素子5を設けたもの)に関するものであり、破線は並列接続のインダクタンス素子14のみを設けた場合(前記図15のフィルタ構成)、一点鎖線は上記直列インダクタンス素子5のみを設けた場合を示す。
【0061】
同図から明らかなように、上記第三実施形態に係るフィルタによれば、上記直列インダクタンス素子5のみを設けたフィルタ構成に較べて、さらに並列接続のインダクタンス素子14のみ設けた図15のフィルタ構成と較べても、減衰量をより大きくとることが出来る。
【0062】
〔実施形態4〕
さらに、図18は、本発明に係る分波器の一例を示すものである。この分波器は、共通端子Cに接続された互いに異なる帯域中心周波数を有する2つのSAWフィルタによって送信側フィルタ61と受信側フィルタ62とを形成したもので、これら送信側フィルタ61および受信側フィルタ62のいずれか一方または双方を、前記変形例を含む第一から第三実施形態のいずれかのSAWフィルタにより構成したものである。
【0063】
分波器を構成する送信側および送信側の各フィルタ61,62は、所定の通過帯域で挿入損失を低く抑えるとともに、通過帯域外では大きな減衰が得られることが望まれる。本実施形態によれば、これらのフィルタを本発明に係るSAWフィルタで構成することにより、従来より良好な特性を有する分波器を構成することが出来る。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことが出来る。
【0065】
例えば、前記実施形態では、位相回転素子を1つ接続したが、2以上のIDTにそれぞれ並列に接続するようにしても良い。また、前記直列共振器および分岐共振器内におけるIDTの配設個数(例えば1個としてもあるいは3個以上としても良い)は、実施形態に示したほかにも変更が可能である。さらにIDTの電極指の数(図面では簡略化した形で示している)や電極周期等は、前記実施形態以外にも様々に設定することが可能である。また、共振器(IDT)の接続数についても要求されるフィルタの特性に応じて各種の形態をとることがある。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る音響結合型SAWフィルタの構成を示す概念図である。
【図2】前記第一実施形態の比較例の構成を示す概念図である。
【図3】前記比較例(図2)に係るフィルタの周波数特性、並びに、当該フィルタを構成する各共振器の共振点および反共振点を示す概念図である。
【図4】前記第一実施形態(図1)に係るフィルタの周波数特性、並びに、当該フィルタを構成する各共振器およびIDTの共振点および反共振点を示す概念図である。
【図5】前記比較例(図2)に係るフィルタの周波数特性を測定した結果を示す線図である。
【図6】前記第一実施形態(図1)に係るフィルタの周波数特性を測定した結果を示す線図である。
【図7】前記第一実施形態の別の比較例の構成を示す概念図である。
【図8】前記別の比較例(図7)に係るフィルタの周波数特性を示す線図である。
【図9】前記第一実施形態に係るフィルタにおいて、第一直列IDTの電極周期λ1と、第二直列IDTの電極周期λ2の関係を、λ1≧λ2とした場合(実線)と、λ1<λ2とした場合(破線)について周波数特性を測定した結果を示す線図である。
【図10】前記第一実施形態の変形例を示す概念図である。
【図11】前記第一実施形態の変形例に係るフィルタ(図10)の周波数特性を示す線図である。
【図12】本発明の第二の実施形態に係る音響結合型SAWフィルタの構成を示す概念図である。
【図13】前記第二実施形態に係るフィルタの周波数特性を示す線図である。
【図14】前記第二実施形態に係るフィルタの通過帯域の周波数特性を示す線図である。
【図15】前記第二実施形態の変形例を示す概念図である。
【図16】本発明の第三の実施形態に係る音響結合型SAWフィルタの構成を示す概念図である。
【図17】前記第三実施形態に係るフィルタの周波数特性を示す線図である。
【図18】本発明に係る分波器の一例(第四実施形態)を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 信号入力端子
2 信号出力端子
3 基準電位端子
5 インダクタンス素子(コイル)
11 直列共振器
12 分岐共振器
13 伝送線路(位相回転素子)
14 インダクタンス素子(位相回転素子)
21,22,51 交差指状電極(直列IDT)
31,32 交差指状電極(分岐IDT)
23,24,33,34 反射器
41 第一共振器
42 第二共振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号入力端子と、信号出力端子と、音響結合する複数の交差指状電極とを含む弾性表面波装置であって、
前記複数の交差指状電極のうちの少なくとも1つの交差指状電極に位相回転素子を並列に接続した
ことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記音響結合する複数の交差指状電極が、前記信号入力端子と前記信号出力端子との間に直列に接続された
請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記音響結合する複数の交差指状電極は、
前記位相回転素子が接続されかつ前記信号入力端子と前記信号出力端子との間に直列に接続された直列交差指状電極と、
この直列交差指状電極と音響結合しかつ前記信号入力端子と前記信号出力端子との間の伝送路から基準電位へ分岐する伝送路上に配される分岐交差指状電極と、
を含む請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
信号入力端子と信号出力端子との間に複数の交差指状電極を直列に接続し、
これら複数の交差指状電極のうち、少なくとも1つの交差指状電極に位相回転素子を並列に接続し、
前記複数の交差指状電極のうち、前記位相回転素子を接続した交差指状電極の電極周期をλa、位相回転素子を接続していない交差指状電極の電極周期をλbとした場合に、λa≧λbとした
請求項2または3に記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
信号入力端子と、
信号出力端子と、
前記信号入力端子と前記信号出力端子との間に直列に接続された1つ以上の直列交差指状電極と、
前記信号入力端子と前記信号出力端子との間の伝送路から基準電位へ分岐する伝送路上に配された1つ以上の分岐交差指状電極と、
を備え、
前記直列交差指状電極および分岐交差指状電極のうちの少なくとも2つの交差指状電極が音響結合する弾性表面波装置であって、
前記直列交差指状電極のうちの少なくとも1つの交差指状電極に位相回転素子を並列に接続するとともに、
当該位相回転素子を接続した直列交差指状電極の反共振周波数をFas1、前記分岐交差指状電極の共振周波数Frpとした場合に、Fas1<Frpとなるように前記位相回転素子の素子値を設定した
ことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項6】
前記位相回転素子は、伝送線路およびインダクタンス素子のいずれか一方または双方を含む
請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性表面波装置を1つ以上含む弾性表面波フィルタ。
【請求項8】
アンテナに接続される共通端子と、この共通端子に接続された送信側フィルタと、受信側フィルタとを備える分波器であって、
前記送信側フィルタおよび受信側フィルタのいずれか一方または双方が、前記請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性表面波装置を含む分波器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−129057(P2006−129057A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314344(P2004−314344)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】