説明

形状可変ミラー

【課題】 圧電薄膜方式の形状可変ミラーにおいて精度よく収差補正を行う。
【解決手段】 形状可変ミラーは、内部可動枠と、内部可動枠の内側に形成される回動板と、第1のトーションバーを挟む形で形成された第1の圧電膜及び第1の電極と、第2のトーションバーを挟む形で形成された第2の圧電膜及び第2の電極と、を含み、第1の電極及び第2の電極に印加される電圧によって回動される回動板の回動角度が調整される圧電アクチュエータが複数配置された圧電アクチュエータアレイと、各圧電アクチュエータに設けられた前記回動板上に形成される柱部と、前記柱部によって下方より支持されるマイクロミラーと、を備え、各圧電アクチュエータに設けられた回動板の回動角度によって各マイクロミラーの反射面の角度が二次元的に調整されることによりミラー面全体の形状が変化されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミラー面の形状を変化させる形状可変ミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜方式の形状可変ミラーとしては、例えば、基板上に下部電極、圧電膜、上部電極を形成した後、第1の電極と第2の電極の少なくとも一方を互いに空けて複数の電極を形成させ、各電極に印加する電圧を調整することにより一枚のミラー面の形状を変化させるものが知られている(特許文献1参照)。そして、圧電薄膜方式の形状可変ミラーは、静電方式の形状可変ミラーに比べて駆動力が大きく、消費電力を少なくできる利点を持っている。なお、このような形状可変ミラーは、補償光学系における収差補正用デバイスとして利用される可能性を持っている。
【特許文献1】特開2007−304411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前述のような圧電薄膜方式の形状可変ミラーの場合、ミラー面の形状変化が小さく、補償光学系に配置される形状可変ミラーとして十分な収差補正を行うことが困難であった。
【0004】
本発明は、上記問題点を鑑み、精度よく収差補正を行うことができる圧電薄膜方式の形状可変ミラーを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0006】
(1) マイクロミラーが複数分離して配置され、各マイクロミラーがそれぞれ独立して駆動されることによりミラー面全体の形状を変化させる形状可変ミラーは、
基板上における固定部の内側に第1のトーションバーを介して形成される内部可動枠と、前記第1のトーションバーに対して直交する第2トーションバーを介して前記内部可動枠の内側に形成される回動板と、前記第1のトーションバーを挟む形で形成された第1の圧電膜及び該第1の圧電膜に電圧を印加する第1の電極と、前記第2のトーションバーを挟む形で形成された第2の圧電膜及び該第2の圧電膜に電圧を印加する第2の電極と、を含み、前記第1の電極及び前記第2の電極に印加される電圧によって前記第1及び第2トーションバーを回動軸として回動される前記回動板の回動角度が調整される圧電アクチュエータが複数配置された圧電アクチュエータアレイと、
該圧電アクチュエータアレイの各圧電アクチュエータに設けられた前記回動板上に形成される柱部と、
前記柱部によって下方より支持されるマイクロミラーであって、前記圧電アクチュエータの面積以上の大きさを持ち、隣り合う各マイクロミラー同士が近接して配置されるように前記柱部を介して圧電アクチュエータの上方に置かれるマイクロミラーと、を備え、
各圧電アクチュエータに設けられた回動板の回動角度によって各マイクロミラーの反射面の角度が二次元的に調整されることによりミラー面全体の形状が変化されることを特徴とする。
(2) (1)の形状可変ミラーにおいて、
前記第1の圧電膜及び該第1の電極と、前記第2の圧電膜及び該第2の電極は、内部可動枠上に形成されていることを特徴とする形状可変ミラー。
(3) (2)の形状可変ミラーにおいて、
前記柱部は前記第1のトーションバーによる回動軸と前記第2のトーションバーによる回動軸とが交わる位置に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、圧電薄膜方式の形状可変ミラーにおいて精度よく収差補正を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態に係る形状可変ミラーを上方より見た場合の上方概略図であり、図2は本実施形態に係る形状可変ミラーの一部を側方より見た場合の要部断面図である。
【0009】
形状可変ミラー10は、複数の圧電アクチュエータ101が配列された圧電アクチュエータアレイ100と、各圧電アクチュエータ101上に設けられた柱部300と、各柱部300の上部に設けられたマイクロミラー500と、に大別される構成となっている。ここで、圧電アクチュエータ101が駆動されると、駆動された圧電アクチュエータ101に対応するマイクロミラー500が傾斜され、マイクロミラー500の反射角度が変化される。なお、形状可変ミラー10は、セグメントタイプの形状可変ミラーであり、微小なミラー(マイクロミラー500)が複数分離して配置されている。そして、各ミラーがそれぞれ独立して駆動されることにより、ミラー面全体が任意の形状に変化される。なお、マイクロミラー500の大きさとしては、直径約1mm程度のものが考えられる。
【0010】
ここで、圧電アクチュエータアレイ100は、図1に示すように基板102上に複数の圧電アクチュエータ101が配列された構成となっている。本実施形態では、基板102上に、複数の圧電アクチュエータ101が格子状(ハニカム状)に配列されたような構成となっている。この場合、圧電アクチュエータが二次元的に所定の間隔で配置された構成であれば良く、例えば、複数の圧電アクチュエータが放射状に配列されたような構成であってもよい。なお、アクチュエータアレイ100には、各圧電アクチュエータ101に対応する電極端子109が複数形成されており、各電極端子109を介して各圧電アクチュエータ101に対して電圧を供給できるようになっている。
【0011】
図3は圧電アクチュエータ101を上方より見た場合の概略構成図である。図3において、第1トーションバー212a、212bによって基板102上の固定部250に対して内部可動枠203が回動可能に軸支される。また、第2トーションバー204a、204bによって内部可動枠203に対して回動板202が回動可能に軸支される。
【0012】
固定部250と内部可動枠203との間には、空隙252(図3の黒塗り部分)が形成されており、内部可動枠203は、空隙部252の内側に形成されている。さらに、回動板202は、空隙部253(図3の黒塗り部分)を介して内部可動枠203の内側に形成されている。
【0013】
内部可動枠203は、その1対の辺の中心位置から外側へ延びた第1のトーションバー212a、212bを介して固定部250に弾性的に支持されている。また、回動板202は、その1対の辺の中心位置から外側へ延びた第2のトーションバー204a、204bを介して内部可動枠203に弾性的に支持されている。ここで、第2のトーションバー204a、204bと、第1のトーションバー212a、212bとは、互いに直交関係にある。
【0014】
内部可動枠203の上には、第1のトーションバー212a、212bを両側から挟む形で、第1の上部電極217a、217b、217c、217dが形成されている。また、第1の上部電極217a〜217dの下方には圧電膜103が形成され、圧電膜103の下方には下部電極105が形成されている(図7参照)。この場合、一枚の薄膜からなる圧電膜103に関して、第1の上部電極217a〜217d(以下、第1の上部電極107と省略する場合あり)の下方に形成された圧電膜103が第1の圧電膜として機能される。また、一枚の薄膜からなる下部電極105に関して、圧電膜103を挟んで第1の上部電極217a〜217dの下方に形成された下部電極105が第1の下部電極として機能される。なお、第1の上部電極217a〜217dは、第1のトーションバー212a、212bと直交する方向が長手方向となるように形成される。
【0015】
また、内部可動枠203の上には、第2のトーションバー204a、204bを両側から挟む形で、第2の上部電極209a、209b、209c、209dが形成されている。また、第2の上部電極209a〜209d(以下、第2の上部電極209と省略する場合あり)の下方には圧電膜103が形成され、圧電膜103の下方には下部電極105が形成されている。この場合、一枚の薄膜からなる圧電膜103に関して、第2の上部電極209a〜209dの下方に形成された圧電膜が第2の圧電膜として機能される。また、一枚の薄膜からなる下部電極105に関して、圧電膜103を挟んで第2の上部電極209a〜209dの下方に形成された下部電極105が第2の下部電極として機能される。なお、第2の上部電極209a〜209dは、第2のトーションバー204a、204bと直交する方向が長手方向となるように形成される。
【0016】
なお、第1の上部電極217a〜217dは、第1のトーションバー212a、212bを介して電極端子109と電気的に接続される。この場合、第1の上部電極217a、217bが同じ電極端子109に接続され、第1の上部電極217c、217dが同じ電極端子109に接続される。また、第2の上部電極209a〜209d(以下、第2の上部電極209と省略する)においても、同様に、第1のトーションバー212a、212bを介して電極端子109と電気的に接続されている。この場合、第2の上部電極209と第1の上部電極217とが電気的に絶縁されるように、第1の上部電極217の上に絶縁膜(例えば、SiO2)を施し、その絶縁膜の上に第2の上部電極209から電極端子109への配線が形成される。
【0017】
そして、第2の上部電極209と第2の下部電極(下部電極105)との間に所定の電圧が印加されると、第2の圧電膜(圧電膜103)が凸状もしくは凹状に変形される。なお、本実施形態では、下部電極105が電気的に接地された状態(0V)において、第2の上部電極209に対してプラス電圧が印加されたときに第2圧電膜が凸状に変形され、第2の上部電極209に対してマイナス電圧が印加されたときに第2圧電膜が凹状に変形される。同様に、第1の上部電極217と第1の下部電極(下部電極105)との間に所定の電圧が印加されると、第1の圧電膜(圧電膜103)が凸状もしくは凹状に変形される。
【0018】
図4は、回動板の回動動作について説明する図である。ここで、第1の上部電極217a、217bに対して同じ符号の直流電圧が印加され、これと異なる符号の直流電圧が第1の上部電極217c、217dに対して印加されると、内部可動枠203の左辺及び右辺が変形される。この場合、第1の上部電極217a、217bに印加する電圧の符号と、第1の上部電極217c、217dに印加する電圧の符号と、がプラスマイナス逆の関係となる。この場合、例えば、第1の上部電極217a、217bの下方に形成された第1の圧電膜が凸状に変形されたとき、第1の上部電極217c、217dの下方に形成された第1の圧電膜が凹状に変形される。このとき、内部可動枠203には第1のトーションバー212a、212bを中心とした回転トルクが作用され、内部可動枠203は、第1のトーションバー212a、212bを中心軸として傾斜される(回動される)。これにより、回動板202は、回転軸X1に関して回動される。
【0019】
上記と同様の原理で、第2の上部電極209に直流電圧が印加され内部可動枠203の上辺及び下辺が変形されることにより、第2のトーションバー204a、204bを中心軸として回動板202が回動される。ここで、第1の上部電極217と第2の上部電極209に同時に電圧が印加されることにより、内部可動枠3が直交する方向にそれぞれ回動するので、回動板202は二次元的に傾斜角度が変化される。この場合、各電極に印加する電圧の絶対値が大きいほど、回動板202の傾斜角度(回動角度)が大きくなる。また、第1の上部電極217と第2の上部電極209に印加される電圧の大きさが維持されると、回動板202の傾斜角度は所定の傾斜角度に維持される。
【0020】
次に、圧電アクチュエータ101(回動板202)上に配置される柱部300とマイクロミラー500について説明する。柱部300は、回動板202の上面、より具体的には、第2トーションバー204a、204bによる回動軸Y2と第1トーションバー212a、212bによる回動軸X1とが交わる交点位置上に形成される。そして、柱部300は、回動板202とマイクロミラー500を連結すると共に、マイクロミラー500を下方から支持する。なお、本実施形態では柱部を第1トーションバーと第2トーションバーとの軸交点位置上に一つ形成するものとしているが、これに限るものではなく、マイクロミラーを支持するために回動板上の所定位置に一以上形成することもできる。
【0021】
マイクロミラー500は柱部300の上面に固定保持された状態で形成されており、その表面には、金やアルミニウム等の金属薄膜がコーティングされ、マイクロミラー500への入射光が効率よく反射されるような構成となっている。また、マイクロミラー500は、圧電アクチュエータ101の配置関係に合わせて正六角形(ハニカム状)となっている(図1参照)。なお、マイクロミラー500の反射面の大きさは、下部の圧電アクチュエータ101の大きさ(面積)以上の面積を有するとともに、隣接するマイクロミラー500同士が干渉して接触しない程度の大きさとなっている。さらに、ミラー面全体に入射される光の波面を漏れなく補償できるように,近接して配置されるマイクロミラー500同士の間隔は、出来る限り狭い方が好ましい。
【0022】
ここで、圧電アクチュエータ101の駆動によって、回動板202が第2トーションバー204a、204b(回動軸Y1)を中心に回動されると、マイクロミラー500は回動軸Y1を中心に回動され、マイクロミラー500の反射面がX1軸に対して傾斜される。一方、回動板202が第1トーションバー212a、212b(回動軸X1)を中心に回動されると、マイクロミラー500は回動軸X1を中心に回動され、マイクロミラー500の反射面がY1軸に対して傾斜される(図2参照)。
【0023】
すなわち、マイクロミラー500は、圧電アクチュエータ101の駆動により互いに直交する2軸(回動軸X1及び回動軸Y1)を中心に回動される。したがって、圧電アクチュエータに印加する電圧を調整することにより、X方向及びY方向におけるマイクロミラー500の反射角度が任意調整可能となる(例えば、±1°の範囲内)。また、印加電圧の大きさを一定に保持することにより、所定の回動角度(傾斜角度)で保持させることができる。これにより、各圧電アクチュエータ101に設けられた回動板202の回動角度によって各マイクロミラー500の反射面の角度が二次元的に調整されることによりミラー面全体の形状が変化される。
【0024】
以上のような構成とすれば、各圧電アクチュエータ101に印加する電圧をそれぞれ調整することにより各マイクロミラー500の反射角度を任意に調整できるため、ミラー面全体として十分な変位量を得るのと等価となる。よって、波面の形状を精度よく補償できる。なお、上記構成においては、第2の圧電膜及び第1の圧電膜が正方形状の内部可動枠203に形成されているため、X方向及びY方向に関して等方的な傾きが得られる。
【0025】
なお、圧電アクチュエータ101の構成は、上記構成に限るものではなく、図5に示すような構成であってもよい。この場合、固定部250と可動板230との間には、空隙263(図5の黒塗り部分)が形成されており、内部可動枠203は、空隙部264の内側に形成されている。さらに、回動板202は、空隙部265(図5の黒塗り部分)を介して内部可動枠203の内側に形成されている。
【0026】
内部可動枠203は、その1対の辺の中心位置から外側へ延びた第1のトーションバー212a、212bを介して可動板230に弾性的に支持されている。また、可動板230の一端は、固定部250に支持されている。また、回動板202は、その1対の辺の中心位置から外側へ延びた第2のトーションバー204a、204bを介して内部可動枠203に弾性的に支持されている。
【0027】
この場合、第2の上部電極209a〜209dは、第2のトーションバー204a、204bを挟むように、内部可動枠203の上辺部分及び下辺部分に形成されている。また、図3と同様に、第2の上部電極209a〜209dの下方には圧電膜103が形成され、圧電膜103の下方には下部電極105が形成されている。
【0028】
また、第1の上部電極217a〜217dは、第1のトーションバー212a、212bを挟むように可動板230上に形成されている。また、図3と同様に、第1の上部電極217a〜217dの下方には圧電膜103が形成され、圧電膜103の下方には下部電極105が形成されている。なお、図5のような圧電アクチュエータ101の動作については、上記説明と同様の駆動手法が適用できるため、説明を省略する。
【0029】
次に、本実施形態に係る形状可変ミラーの製造方法について、図6〜図7を用いて説明する。図6及び図7は、形状可変ミラーの製造工程について説明する側断面図である。なお、図6は、図3に示すA−A´線の断面、図7は、B―B´線の断面を模式的に示している。
【0030】
基板102の材料としては、SiやMgO等の単結晶材料を用いることにより圧電膜103の圧電特性を高くすることができるが、特に制限されるものではない(例えば、SOI基板)。なお、本実施形態では、基板の厚みが約525μmの単結晶Si基板を使用した。また、基板102の上にγ−Al23(アルミナ:図番号110参照)を形成することにより圧電膜103の圧電特性が高くなるようにしておく。なお、γ−Al23の形成方法は、例えば、MBE法 (Molecular Beam Epitaxy)、CVD法 (Chemical Vapor Deposition)、と多くあるが、膜を形成できる技術であれば特に限定されることはない。
【0031】
次に、基板102(アルミナ110)の上に下部電極105を形成する。下部電極105の材料としては、導電性の高い金属(例えば、Pt、Ti、等)が好適に利用される。次に、下部電極の上に圧電膜103を形成する。圧電膜103の材料としては、PZT(チタン酸ジルコニウム鉛)、PZTと同系のPbを含むペロブスカイトなどの圧電定数が高く変形の大きい材料が好適に使用される。
【0032】
なお、電極膜及び圧電膜の形成方法は、例えば、スパッタ法、CVD法(Chemical Vapor Deposition)、又はゾルゲル法と多くあるが、膜を形成できる技術であれば特に制限されることはない。本実施形態においては、下部電極の材料には、PtとTiを使用し、膜厚はそれぞれ100nm(Ti)、100nm(Pt)の二重構造とした。圧電膜103の材料にはPZTを使用し、膜厚は約2〜3μmとした。Pt及びTiの形成はスパッタ法を行い、PZTの形成はゾルゲル法を用いる。
【0033】
次に、圧電膜103の上に上部電極107を形成する。上部電極107及び形成方法は下部電極105と同様である。本実施形態においては、材料はPtを使用し、膜厚は100nmとした。また、Ptの形成はスパッタ法で行う(以上、図6(a)、図7(a)参照)。
【0034】
次に、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いて、第2の上部電極209a〜209d及び第1の上部電極217a〜217dを形成させる(図7(b)参照)。この場合、各上部電極の周辺を圧電膜103が露出されるまで除去する。
【0035】
より具体的には、上部電極107上にフォトレジストを塗布した後、第2の上部電極209a〜209d及び第1の上部電極217a〜217dの配列パターンが描かれたマスクを用いて感光した部分を残すように露光処理を行う。
【0036】
次に、反応イオンエッチング(RIE)法を用いて第2の上部電極209a〜209d及び第1の上部電極217a〜217dの周辺部に対応する領域を選択的に取り除く。その後、プラズマエッチング、溶剤、等によって残ったフォトレジストを取り除く。その後、圧電アクチュエータアレイ100の上面全体に対してSiO2(図番号112)を形成させる。なお、SiO2の形成方法としては、CVD法、スパッタリング法、などが考えられる。
【0037】
なお、第2の上部電極209と電極端子109を電気的に接続させるべく、第1の上部電極217上にSiO2を形成させた後、そのSiO2の上に電極端子109に繋がる配線を形成させる。また、本実施形態では、図6(b)に示すように、上部電極107における回動板202に対応される部分が残されるように、フォトリソグラフィー及びエッチングがなされる。
【0038】
上記処理により、第2の上部電極209に対向する領域に対応する下部電極105が第2の下部電極として機能され、第1の上部電極217に対向する領域に対応する下部電極105が第1の下部電極として機能される。また、第2の上部電極209に対向する領域に対応する圧電膜103が、第2の圧電膜として機能され、第1の上部電極217に対向する領域に対応する圧電膜103が第1の圧電膜として機能される。(以上、図6(b)、図7(b)参照)。
【0039】
次に、図6(c)及び図7(c)に示すように、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いて、空隙部252及び空隙部253を形成する。より具体的には、空隙部252及び空隙部253に対応する位置のSiO2膜、圧電膜103、下部電極105、γ―アルミナ110を除去して基板102の一部を露出させておく。なお、前述のように形成された空隙部252及び空隙部253は、後述する薄膜犠牲層400及び基板102を除去するためのエッチングガスが通過するエッチングホールとしても利用される。
【0040】
図6(d)〜図6(h)及び図7(d)〜図7(f)は、圧電アクチュエータアレイ101に薄膜犠牲層を形成させる工程からミラー面を形成させる工程までを説明する図である。ここで、図6(d)及び図7(d)に示すように、アクチュエータアレイ100上に最終的除去される薄膜犠牲層400を形成させる。
【0041】
なお、薄膜犠牲層400の材料としては、対応するエッチングガスによって除去されやすい特性を有するものが好ましく、ポリシリコン、アモルファスシリコン、PSG、BPSG、等が用いられる。また、薄膜犠牲層400の形成方法は、膜を形成できる技術であれば、特に制限されることはない。本実施形態においては、薄膜犠牲層400の材料には、ポリシリコンを使用し、膜厚を約10μmとし、スパッタリング法またはCVD法によりアクチュエータアレイ100の上側表面一面に製膜処理を施す。
【0042】
次に、図6(e)に示すように、圧電アクチュエータ101の回動板202に対応する位置における薄膜犠牲層400に孔450を形成し、上部電極107を露出させる。次に、図6(f)に示すように、露出した上部電極107上にマイクロミラー500を支持する柱部300を形成するために、犠牲層400に形成された孔450を柱部用材料で埋没させる。
【0043】
より具体的には、薄膜犠牲層400に形成された孔450に金属(In、金、等)を流し込むことにより上部電極(Pt)107の上に柱部300を形成する。また、柱部300の形成方法は、柱部を形成できる技術であれば、特に制限されることはない(例えば、電解めっき、蒸着法、等)。本実施形態においては、柱部300の材料には、Inを使用し、孔450に液体上のInを流し込んでから冷却処理を施すことにより柱部300を形成する。この場合、PtとInとの間にAuが形成されることにより、密着性が向上されるのが好ましい。なお、より好ましくは、Ni又はCrが用いられる。
【0044】
その後、薄膜犠牲層400及び柱部300の上面を平坦化させておく。この場合、例えば、CMP(化学機械研磨)を用いた手法が考えられる。これにより、平坦な上面を有する薄膜犠牲層400及び柱部300が形成される。なお、平坦化に際して、SiO2112からの柱部300の高さが予め設定された高さになるまで、平坦化を行うようにしてもよい。
【0045】
次に、図6(g)及び図7(e)に示すように、平坦化された薄膜犠牲層400及び柱部300の上面にマイクロミラー500の基板510を形成する。この場合、基板の材料としては、厚膜レジスト、SiO2、SOI基板、等が使用される。なお、圧膜レジストを用いる場合、スピンコート法が使用される、SIO2を用いる場合、CVD法もしくはスパッタ法が使用される。この場合、基板を形成できる技術であれば特に制限されることはない。
【0046】
上記のようにマイクロミラー500の基板510が形成された後、次に、図1に示すように、各圧電アクチュエータ101に対応するマイクロミラー500を分離独立させるために、フォトリソグラフィー及びエッチング法によって空隙部515を形成する。この場合、正六角形上のマイクロミラー500を形成させる。なお、空隙部515は、ドライエッチング用の気体が通過する第1通過孔としても用いられる。
【0047】
次に、図6(h)及び図7(f)に示すように、犠牲層400をエッチング法により除去する。より具体的には、薄膜犠牲層400及び基板102に反応するガス中にアクチュエータアレイ100を配置することにより、空隙部515を介して薄膜犠牲層400及び基板102を除去する。本実施形態では、薄膜犠牲層400としてポリシリコンが使用され、基板102としてSi基板が使用されているため、シリコンをエッチングする特性を有するエッチングガス(例えば、XeF2)を用いるようなことが考えられる。この場合、薄膜犠牲層400及び基板102以外の物質(例えば、マイクロミラー500、柱部300、SiO2膜、等)は、エッチングガスの影響を受けずに残る。なお、上記のように反応ガス中に薄膜犠牲層400及び基板102を曝す方法に限るものではなく、プラズマによってエッチングガスをイオン化してエッチングさせる反応性イオンエッチング法を用いても良い。
【0048】
ここで、エッチング処理が開始されると、空隙部515を通過するエッチングガスが薄膜犠牲層400を削っていく。そして、柱部300(圧電アクチュエータ101の中心部)に向けて進行するエッチングガスによって薄膜犠牲層400の柱部300を取り囲んでいた部分が除去される。また、隣接して配置された圧電アクチュエータ101(圧電アクチュエータ101の周辺側)に向けて進行するエッチングガスによって各圧電アクチュエータ101間に形成された薄膜犠牲層400が除去されると、各圧電アクチュエータ101の回動板202上に設けられた柱部300によってマイクロミラー500が下方より支持された状態となる。
【0049】
また、空隙部515から下方向に向けて進行するエッチングガスによって、薄膜犠牲層400が除去された後、エッチングガスが空隙部252及び空隙部252を通過して基板102に達し、基板102の上部がドライエッチング用の気体に曝されると、基板102が削られていき、基板102の上部が所定量除去される。
【0050】
ここで、圧電アクチュエータ101の中央部分に向けて進行するエッチングガスは、基板102における回動板202及び内部可動枠203の下側表面部分を除去する。これにより、回動板202及び内部可動枠203と、基板102の間に空洞部590が形成される。なお、回動板202及び内部可動枠203の下部に形成された空洞部590は、回動板202及び内部可動枠203が揺動されるときのスペースとして利用される。
【0051】
なお、上記のようにエッチングガスによる犠牲層400及び基板102の上部の一部を除去する場合、実験等により、エッチングガスの投入後、犠牲層400の除去及び空洞部590の形成がなされるまでの時間を予め求めておけばよい。
【0052】
なお、上記のようにして、犠牲層400の除去が完了したら、マイクロミラー500の基板510の表面にミラーコーティングを施し、基板510にミラー面520を形成させる。なお、ミラー面520の材料としては、例えば、Au、Ag、Al、等の金属、SiO2/Ta25などの低屈折率誘電体/高屈折率誘電体のλ/4多層膜が好適に使用される。また、ミラー面520の形成方法について、例えば、スパッタ法又は蒸着法と多くあるが、膜を形成できる技術であれば特に制限されることはない。
【0053】
以上のような製造方法とすれば、手間なく高い精度の形状可変ミラーを作成できる。ここで、上記のような形状可変ミラー10のミラー面に光が入射された場合、圧電アクチュエータアレイ100の駆動により各ミラーの反射角度が変化されると、入射光の波面の傾きが各ミラーで調整される。したがって、精度良く収差を補償できるようになる。よって、例えば、眼底撮影等の分野において被検眼の波面収差を補償する収差補償光学系を介して眼底撮影を行うような収差補償機能付眼底カメラにおいて、本ミラーを設けることにより精度良く収差を補償できるようになり、収差が除去された精密な眼底像を得ることが可能となる。
【0054】
なお、以上の説明においては、回動板202及び内部可動枠203の下部に空洞部590を形成させ、回動板202及び内部可動枠203が揺動されるときのスペースとして用いるものとしたが、フォトリソグラフィー及びエッチング法によって基板102を下から除去し、回動板202及び内部可動枠203に対応する領域に凹部を形成させるようにしてもよい。
【0055】
また、以上の説明においては、圧電アクチュエータ100、柱部300、及びマイクロミラー500が一体的に作成されたが、柱部300及びマイクロミラー500と、圧電アクチュエータ100とが別々に作成された後に、これらが連結されるような手法でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本実施形態に係る形状可変ミラーを上方より見た場合の上方概略図である。
【図2】本実施形態に係る形状可変ミラーの一部を側方より見た場合の要部断面図である。
【図3】圧電アクチュエータ101を上方より見た場合の概略構成図である。
【図4】回動板の回動動作について説明する図である。
【図5】圧電アクチュエータ101の構成の変容例について説明する図である。
【図6】本実施形態に係る形状可変ミラーの製造方法について説明する図である(A−A´線の断面)。
【図7】本実施形態に係る形状可変ミラーの製造方法について説明する図である(B―B´線の断面)。
【符号の説明】
【0057】
10 形状可変ミラー
100 圧電アクチュエータアレイ
101 圧電アクチュエータ
103 圧電膜
105 下部電極
202 回動板
203 内部可動枠
204 第2トーションバー
212 第1トーションバー
217 第1の上部電極
300 柱部
500 マイクロミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロミラーが複数分離して配置され、各マイクロミラーがそれぞれ独立して駆動されることによりミラー面全体の形状を変化させる形状可変ミラーは、
基板上における固定部の内側に第1のトーションバーを介して形成される内部可動枠と、前記第1のトーションバーに対して直交する第2トーションバーを介して前記内部可動枠の内側に形成される回動板と、前記第1のトーションバーを挟む形で形成された第1の圧電膜及び該第1の圧電膜に電圧を印加する第1の電極と、前記第2のトーションバーを挟む形で形成された第2の圧電膜及び該第2の圧電膜に電圧を印加する第2の電極と、を含み、前記第1の電極及び前記第2の電極に印加される電圧によって前記第1及び第2トーションバーを回動軸として回動される前記回動板の回動角度が調整される圧電アクチュエータが複数配置された圧電アクチュエータアレイと、
該圧電アクチュエータアレイの各圧電アクチュエータに設けられた前記回動板上に形成される柱部と、
前記柱部によって下方より支持されるマイクロミラーであって、前記圧電アクチュエータの面積以上の大きさを持ち、隣り合う各マイクロミラー同士が近接して配置されるように前記柱部を介して圧電アクチュエータの上方に置かれるマイクロミラーと、を備え、
各圧電アクチュエータに設けられた回動板の回動角度によって各マイクロミラーの反射面の角度が二次元的に調整されることによりミラー面全体の形状が変化されることを特徴とする形状可変ミラー。
【請求項2】
請求項1の形状可変ミラーにおいて、
前記第1の圧電膜及び該第1の電極と、前記第2の圧電膜及び該第2の電極は、内部可動枠上に形成されていることを特徴とする形状可変ミラー。
【請求項3】
請求項2の形状可変ミラーにおいて、
前記柱部は前記第1のトーションバーによる回動軸と前記第2のトーションバーによる回動軸とが交わる位置に配置されていることを特徴とする形状可変ミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−85872(P2010−85872A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256896(P2008−256896)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】