説明

形状可変型放射線検出器

【課題】簡便な構成で複雑な形状を有した被検体の表面汚染を測定する放射線検出器を提供する。
【解決手段】放射線が入射すると蛍光を発するシンチレーションファイバ1を、表面に粘着剤または接着剤が塗布された、例えば可とう性のプラスチックシート等の形状可変基板2の上に配線し、片端を束線部4にて束線し、全体を薄い遮光膜3で覆い、光検出素子である光電子増倍管5に接続し、放射線入射により信号を前置増幅器6にて増幅して信号を取り出せるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子力炉施設、核燃料施設、核燃料再処理施設、放射性同位元素使用施設、放射線発生装置使用施設等において、放射性表面汚染モニタ等に使用される放射線検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の形状が存在するものの放射性表面汚染測定には被検体の形状を検出する形状検出手段を備え、その形状に基づいて放射線検出素子を駆動させる必要があった。(例えば特許文献1参照)また、局部的な形状を認識するセンサを用いて被検体の形状を認識しつつ放射線測定器を走査して放射能を測定する必要があった。(例えば特許文献2参照)
【0003】
【特許文献1】特開平6−186342号公報
【特許文献2】特開平9−127247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、種々の形状が存在するものの放射性表面汚染測定には放射線検出器以外に何らかの形状検出手段を必要とするため、測定装置そのものが大掛かりなものになるという問題があった。
【0005】
この発明は前記のような問題を解決するためになされたものであり、簡便な構成で複雑な形状を有した被検体の表面汚染を測定する放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わる形状可変型放射線検出器は、形状可変基板、この形状可変基板上に配置され、放射線が入射すると蛍光を発するシンチレーションファイバと、このシンチレーションファイバを覆う遮光膜と、前記シンチレ−ションファイバの端面に光学的に接続され、前記蛍光を電気信号に変換する光検出素子と、この光検出素子からの電気信号を増幅する増幅器とを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明の形状可変型放射線検出器によれば、形状が複雑な被検体の表面形状に沿って検出器を配することができるため、被検体表面からの距離が短くなり効率よく被検体からの放射線を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図1に基づいて説明する。図1は、片端が束になっている形状可変型放射線検出器100について説明するもので、放射線が入射すると蛍光を発するプラスチックシンチレータで構成される。
実施の形態1の形状可変型放射線検出器100は、上記のようなシンチレーションファイバ1を、配線材接着のため表面に粘着剤または接着剤が塗布された、例えば可とう性のプラスチックシート等の形状可変基板2の上に配線し、片端を束線部4にて束線し全体を薄い遮光膜3で覆い、光検出素子である光電子増倍管5に接続し放射線入射により信号を前置増幅器6にて増幅して信号を取り出せるようにしたものである。
なお、光電子増倍管5と前置増幅器6は光検出部ケース7に収納した形とすることで小型化が図れる。
【0009】
前記のように構成することによって、形状可変型放射線検出器100が実現でき、形状可変基板2上に配置したシンチレーションファイバ1に放射線が入射することによって発光し、遮光膜3で外部との光との識別がつけられた状態で光電子増幅器5へ入射し前置増幅器6で増幅して放射線の入射に対応した信号が外部に取り出せる。
このような形状可変型放射線検出器を用いれば、形状が複雑な被検体の表面形状に沿って検出器を配することができるため、被検体表面から形状可変型放射線検出器の距離が短くなり効率よく被検体からの放射線を測定することができ、そのため測定の短時間化が可能となり、また光電子増幅器と前置増幅器を組み込むことで小型化が図れる。
また、形状可変型であるため折りたたんでの持ち運びも可能であり、必要箇所へ必要時のみ運搬することや収納時の省スペース化も図れる。
なお、形状可変基板2として、例えばタングステン含有の合成樹脂・スーパーシールデイングレジン(三菱電機株式会社の商品名)による0.5mm厚のプラスチックシートを用いると、β線の検出効率をより高くでき、また遮光膜3として、例えば0.1mm厚のカーボン含有導電性PTFE(四フッ化エチレン樹脂)を用いると、帯電発光による誤検出が少ない形状可変型放射線検出器100が得られる。
【0010】
実施の形態2.
前記実施の形態1では束線部4を1つにして、1つの光電子増倍管5に光学接続させるようにしたが、図2はU型に配線した帯状シンチレーションファイバを用いた形状可変型放射線検出器101を示すもので、U字型に配線した2束の帯状シンチレーションファイバ1,1の一端と他端でそれぞれ束線部4a,4bを一括して設け、それぞれの一括した束線部4a,4bに光電子増倍管5a,5bをそれぞれ光学接続し、それぞれを前置増幅器6a,6bに接続し、光検出部ケース7aに光電子増倍管5aと前置増幅器6aを収納し、光検出部ケース7bに光電子増倍管5bと前置増幅器6bを収納し、それぞれの出力を受ける測定部側(図示せず)で同時計数できるようにしたものである。
【0011】
放射線の入射による発光ならば光電子増倍管5aへ入射した時間に対して前後所定時間(例えば1nsec程度)以内の時間帯に光電子増倍管5bにも入射する。この場合のみ放射線の入射があったことと判定する同時計数処理により、光電子増倍管の自ら発するノイズパルスを除去することが可能となり、光電子増倍管のノイズレベルに近接したレベルまで、または、そのノイズレベル領域に入り込んで低エネルギー放射線を測定することが可能になる。
また、検出下限の計測範囲は通常の周辺環境によるバックグランドでの計測値からどれくらい多く計測できるかに依存する。すなわち周辺環境によるバックグランドでの計数のゆらぎはバックグランドの平均標準偏差の3倍以上の計数値が得られれば識別可能となり、それが検出下限となる。従って、周辺環境によるバックグランドの計数が小さいほど検出感度を高めることができる。
同時計数方式を採用することで光電子増倍管の自ら発するノイズを除去できるため周辺環境によるバックグランドでの計数値が小さくでき、検出感度を高めることができる。
なお、この実施の形態2では2束のU字型シンチレーションファイバ1,1を用いているため、1束の場合に比べてより広い範囲の放射線測定が行うことが可能であり、必要に応じて2束以上用いることも可能である。
【0012】
実施の形態3.
図3は、時間差測定装置及び計数装置と組合わせた形状可変型放射線検出器を示す概略構成図で、実施の形態2の形状可変型放射線検出器101における前置増幅器に6a,6Bに時間差測定及び計数装置9を接続することによって放射線入射の位置及び入射放射線量の計測ができるようにしたものである。
時間差測定装置では、まず光電子増倍管5a、前置増幅器6aを経由して入射する信号に対して、光電子増倍管5b、前置増幅器6bからの入射信号を遅延ファイバに-より一定時間遅らせて入射させ、光電子増倍管5a、前置増幅器6aを経由して入射した信号から、所定の時間以内に光電子増倍管5b、前置増幅器6bから信号が入射した場合にのみ後段にパルス信号を発生させる。またその際にその時間差も併せて測定しておくと共に、その装置からのパルスを計数装置で計測するようにする。
また、その測定した時間差によって光電子増倍管5aへの入射に対して光電子増倍管5bへの入射の遅れ時間が判明する。なお、一定時間遅らせて光電子増倍管5aへ入射させることにより、入射の時間差を大きくすることができ時間測定の精度が向上する。このようにすることで放射線入射による光発生源の位置が算出できる。
これにより、放射線検出器101のうちのどこに放射線が入射したかの位置(図3の左右方向)を特定することが可能となり、位置を特定する目的で被測定対象物をポイントで計測し順次場所を変えて測定する方法に対して、一括で測定し放射能箇所を特定することができる。
【0013】
実施の形態4.
図4は、計数装置と組合わせた形状可変型放射線検出器を示す概略構成図で、実施の形態2の形状可変型放射線検出器101の束線部4を一括して光電子増倍管5に結合し、前置増幅器6に計数装置10を接続することによって入射放射線量の計測ができるようにしたものである。
これによって、形状可変型放射線検出器101に入射した放射線量を単純な構成で測定できる。
なお、この実施の形態では、位置の特定はできないが検出器の測定した範囲のいずれかの箇所に放射能が存在することで用がたり、大面積を一括で測定する簡易な測定の場面にて適用できる。
【0014】
実施の形態5.
図5は、形状可変型放射線モニタを格子状に実現するための構成を示す概略構成図である。
形状可変基板2の上にシンチレーションファイバ1を格子状に配線し、全体を薄い遮光膜で覆うと共に、たて側シンチレ−ションファイバ端面及び横側シンチレ−ションファイバ端面をそれぞれ複数束線して光電子増倍管5に光学的に接続し、その縦横複数の光電子増倍管6の信号に基づき放射線入射箇所を特定及びその測定個数で入射放射線量を計測するようにしたものである。
前記実施の形態3では測定器側には時間差測定装置が必要であったが、図5に示すように構成することによって、格子状のいずれの位置に放射線が入射したかを検知することができ、時間差測定が不要な単純な形状可変型放射線検出器102が実現できる。
【0015】
実施の形態6.
図6は、形状可変型放射線モニタを形状不特定の被検体へ被せる場合の使用例を模式的に示す図で、同図(a)は上面図、(b)は側面図である。
図6のごとく、形状が不特定な被検体11に対して図1に示した形状可変型放射線検出器100,図2〜4に示した形状可変型放射線検出器101、図5に示した形状可変型放射線検出器102のいずれかで全体を被せるように覆い、被検体11に密着させる形で被検体11からの放射線をシンチレ−ションファイバ1に入射させ、その光を光検出部ケース7へ導き、その信号を計数することにより表面汚染の箇所及び表面汚染の程度が簡便な方法で測定できる。
【0016】
実施の形態7.
図7は、形状可変型放射線モニタを横臥人体への被せる使用例を模式的に示す図である。
図7に示すように、横臥した人体12に対しても、図1に示した形状可変型放射線検出器100,図2〜4に示した形状可変型放射線検出器101、図5に示した形状可変型放射線検出器102のいずれかで全体を被せるように覆い人体12に密着させる形で人体表面からの放射線をシンチレ−ションファイバ1に入射させ、その光を光検出部ケース7へ導き、その信号を計数することによりにより表面汚染の箇所及び表面汚染の程度が簡便な方法で測定できる。
これにより、小型検出器を手で持ってサーベイし、全身にわたって測定していた表面汚染の測定が一括で短時間で測定できるようになる。
【0017】
実施の形態8.
図8は、担架組み込みの形状可変型放射線モニタを示す概略構成図で、同図(a)は、側面図、同図(b)は平面図である。
横臥した人体が傷病者である場合等は、担架に載せて搬送が必要であるが、その際放射線管理区域から傷病者を搬送するのであれば、その人体の表面汚染を測定しなければならない。サーベイメータなどで傷病者を動かしながら測定するのではなく、図8の通り巻き取り可能な形状可変型放射線検出器100,101,102を担架13に装着した装置200による、傷病者12の横臥面及び反横臥面を測定することで傷病者及び測定者に負担がかからない測定装置を供することができる。
このようにこの実施の形態によれば、傷病者を臥した状態で覆うことで表面汚染を測定できるため傷病者を動かしサーベイメータ等で表面汚染を測定するような傷病者に苦痛を与えるような測定を排除することができ、表面汚染部位の特定、除染の短時間化が図れる。
【0018】
実施の形態9.
図10は、ハンドフットクロスモニタに適用した形状可変型放射線モニタを模式的に示す図で、(a)は全体を示す概略斜視図、(b)はその要部を示す拡大説明図である。
人体の表面汚染の検査に用いるハンドフットクロスモニタ202において、クロス部分(衣服部分)は通常検者自身が手で持つ形の検出器で自らの汚染検査を行う煩雑さや検査の不均一さがあった。図10(a)に示すように、前記形状可変型放射線検出器100,101,102にて体型に沿う形に配置した形状可変型検出器103で自動的に測定できるハンドフットクロスモニタを構成することができる。さらに体型に添う形で自ら形状を選択できる体形選択機構18を設けることにより、より密着した形で高感度の表面汚染検査を行えるハンドフットクロスモニタ202を得ることができる。
また、図10(b)に示すように体形選択機構18でクロス部分の形状可変型放射線検出器103の開き角度を指定し、被測定者12である自分自身の体の線に沿った形で、より密着させた位置に移動させることができ、効率的な体表面衣服の表面の汚染の検査が行える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1に係わる形状可変型放射線検出器を示す概略構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係わる形状可変型放射線検出器を示す概略構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係わる形状可変型放射線検出器を示す概略構成図である。
【図4】この発明の実施の形態4に係わる形状可変型放射線検出器を示す概略構成図である。
【図5】この発明の実施の形態5に係わる形状可変型放射線検出器を示す概略構成図である。
【図6】この発明の実施の形態6に係わる形状可変型放射線モニタの使用例を模式的に示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態7に係わる形状可変型放射線モニタの使用例を模式的に示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態8に係わる形状可変型放射線モニタを示す概略構成図である。
【図9】この発明の実施の形態9に係わるハンドフットクロスモニタを示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0020】
1 シンチレーションファイバ
2 形状可変基板
3 遮光膜
4 束線部
5 光電子増倍管
6 前置増幅器
7 光検出部ケース
9 時間差測定及び計数装置
10 計数装置
11 被検体
12 人体
13 担架
18 体形選択機構
100,101,102 形状可変型放射線検出器
103 形状可変型放射線検出器
201 形状可変型放射線モニタ
202 形状可変型放射線モニタ
203 ハンドフットクロスモニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状可変基板と、この形状可変基板上に配置され、放射線が入射すると蛍光を発するシンチレーションファイバと、このシンチレーションファイバを覆う遮光膜と、前記シンチレ−ションファイバの端面に光学的に接続され、前記蛍光を電気信号に変換する光検出素子と、この光検出素子からの電気信号を増幅する増幅器とを備えたことを特徴とする形状可変型放射線検出器。
【請求項2】
前記形状可変基板としてタングステン含有のプラスチックシートを用い、前記遮光膜としてカーボン含有導電性PTFE(四フッ化エチレン樹脂)を用いたことを特徴とする請求項1記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項3】
シンチレ−ションファイバをU字型に配置し、このU字型シンチレーションファイバの一端と他端でそれぞれ束線部を一括して設け、それぞれの一括した束線部に前記光検出素子及び増幅器を接続したことを特徴とする請求項1または2記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項4】
前記U字型シンチレ−ションファイバは2束又はそれ以上配置されていることを特徴とする請求項3記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項5】
前記増幅器に時間差測定装置及び計数装置を接続し、前記U字型シンチレーションファイバの一端と他端での計測の時間差を測定することにより放射線入射箇所の特定及び入射放射線量を特定するようにしたことを特徴とする請求項3または4記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項6】
前記前置増幅器に計数装置を接続し、放射線入射量を計測するようにしたことを特徴とする請求項3または4記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項7】
前記シンチレーションファイバを格子状に配置し、たて側シンチレ−ションファイバ端面及び横側シンチレ−ションファイバ端面をそれぞれ束線して光検出素子に光学的に接続し、その縦横複数の光検出素子からの電気信号に基づき放射線入射箇所を特定するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項8】
被検体の形状に沿って形状が自在に変化できるようにしたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項9】
被検体の形状に沿って被せて被検体からの放射能を測定できるようにしたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項10】
傷病者を搬送する担架の床面とその上に載せた傷病者の形状に沿って被せ、該傷病者からの放射能を測定するようにしたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の形状可変型放射線検出器。
【請求項11】
人体の表面汚染測定において使用するハンドフットクロスモニタのクロス部分の自動測定に供することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の形状可変型放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−114145(P2007−114145A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308381(P2005−308381)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】