説明

形状測定装置及び形状測定方法

【課題】 接触式プローブによって、垂直に近いような急傾斜面であっても、安定して接触力を制御し、高精度な形状計測を行う。
【解決手段】 接触式プローブを被測定物の表面に沿って移動させることで、被測定物の表面形状を測定する形状測定方法において、プローブに加わる接触力の分力の大きさにより、被測定面の傾斜を推定し、垂直に近い状態であると判断するとプローブ支持手段の移動方向に交差する方向にプローブ支持手段を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズやミラーなど光学素子、及び光学素子を製作するための型の表面形状などを、ナノメートルオーダの高精度で測定する触針式プローブを有する形状測定方法及び装置に関する。特に傾斜角度が急峻な形状、例えば水平から垂直へ切り立った壁面の形状計測にも対応できる形状測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にレンズやミラーのような、三次元形状を有する被測定物表面の特定部位の座標や、形状を測定する形状測定方法として、プローブと呼ばれる触針を用いる測定方法が知られている。この測定方法は、プローブを被測定物の表面に所定の接触力で押圧しながら被測定物の表面に倣って走査させるとともに、あらかじめ定めた原点からのプローブの位置や、プローブの姿勢を計測することで、被測定物の形状を測定する。
【0003】
従来、このような形状測定方法においては、特許文献1に開示されているような、接触式プローブを用いた測定方法が知られている。この方法では、ハウジングから懸架された板バネによって支持された触針式プローブを用いて測定を行う。そのプローブには、ハウジングに対するプローブの、相対位置を測定できる変位センサが設けられている。これらセンサとあらかじめ計測された懸架された板バネの各方向の剛性(バネ定数)に基づき、プローブが被測定物に接触した時に生じた変位から、接触力を測定することができる。得られた各方向の接触力Fx,Fy,Fzを合成することで、被測定物からプローブに働く垂直抗力を推定することができる。この計測されたプローブ接触時の接触力F(垂直抗力)の大きさを一定に保ちながら、倣い動作を行い、形状測定を行う。従って特許文献1記載の形状計測方法によると、被測定物が急傾斜面を有していても、プローブから被測定物に与える接触力の大きさを一定に保ちつつ形状計測することができる。したがって被測定物表面の傾斜に応じて計測中に接触力が上下することにともなう系統誤差の発生を低減しつつ形状測定を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−37197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、ハウジングを定められた走査軌道にそって水平方向に駆動させてプローブを走査するとともに、サーボモータ等により駆動されるハウジングを鉛直方向に変位させることで、プローブに働く接触力F(垂直抗力)を制御している。
そのため、被測定物表面が垂直な面など急峻な斜面を有する場合、即ち力制御するためのハウジングの変位方向と被測定物の斜面の接線とが略平行になる場合には、ハウジングを鉛直方向に変位させても被測定物へ接触力はほとんど変化しないので接触力の制御は困難となる。
【0006】
また、走査軌道に沿って水平方向にプローブを移動させつつ、プローブが被測定物の垂直な面に接した場合、ハウジングの移動によってプローブに付勢された力Sのうち被測定物の接線方向の分力Stの大きさが非常に小さくなるためプローブが動かず、倣い走査が困難になる。
従って、鉛直方向にハウジングを変位させることでプローブに働く接触力Fを制御しつつ、垂直など急峻な面にプローブが接触している場合、プローブに倣い動作させることができず、形状測定を行うことは困難だった。
【0007】
本発明は上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものである。本発明は、鉛直方向にプローブを支持するプローブ支持手段を変位させることでプローブに働く接触力Fを制御しつつ、垂直面などの急傾斜面を有する被測定物の形状測定を可能にする、形状測定装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本出願に係る発明は、接触式プローブを被測定物に接触させつつ、前記被測定物の表面を走査させると共に前記接触式プローブの位置を計測することで、前記被測定物の形状を測定する形状測定装置において、
三次元方向に移動可能なプローブ支持手段と、
前記プローブ支持手段に対して弾性支持された接触式プローブと、
接触式プローブの位置および姿勢を計測する計測手段と、
計測した接触式プローブの位置または姿勢から前記被測定物に対して接触式プローブが受ける接触力を演算する演算手段と、
を有し、
前記接触力の前記プローブ支持手段の移動方向成分を含む分力が、あらかじめ定められた閾値を超える場合は、前記プローブ支持手段の移動方向と交差する方向に前記プローブ支持手段を駆動させることで前記接触式プローブを移動させることを特徴とする形状測定装置を提供するものである。
【0009】
また本出願にかかる発明は、三次元方向に移動可能なプローブ支持手段に弾性支持された接触式プローブを被測定物に接触させつつ、前記被測定物の表面を走査させると共に前記接触式プローブの位置を計測することで、前記被測定物の形状を測定する形状測定方法において、
前記接触式プローブの位置および姿勢を測定して、計測した接触式プローブの位置または姿勢に基づいて接触力を演算する工程、
前記接触力を目標値に近づけるように力制御手段が制御しつつ、前記プローブ支持手段を移動させることで前記接触式プローブが被測定物表面を走査する工程、
前記接触力の前記プローブ支持手段の移動方向成分を含む分力が、あらかじめ定められた閾値を超える場合は、前記プローブ支持手段の移動方向と交差する方向に前記プローブ支持手段を駆動させることで前記接触式プローブを移動させる工程、
とを有することを特徴とする形状測定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本出願にかかる発明によれば、プローブに加わる接触力と、プローブ支持手段の移動方向の成分の大きさに基づいてプローブ支持手段の移動方向と交差する方向に前記プローブ支持手段を駆動させる。これにより、急傾斜面であってもプローブに被測定物の表面に対する倣い動作を行わせることが可能となる。従って、垂直な面を持つ被測定物であっても、形状計測を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態のプローブの構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態のプローブの構成図である。
【図3】本発明の第2の実施形態のプローブの構成図である。
【図4】本発明を説明する図で、被測定物4と先端球21の位置による接触力Fおよびその分力Fx、およびプローブの軌道方向との関係を模式的に描いた図である
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
<第1の実施例>
図1は本発明の特徴をもっとも良く表す図面であり、第1の実施形態を示す構成図である。同図において、床1に形状測定装置が設置されることになる。まず、床1上に除振台2a、2bを設け、その上に計測ベース3を設ける。除振台により、床1から計測ベースへ伝わる振動を減衰させることができる。なお、この計測ベースは被測定物4と、位置の基準となる3つの基準ミラーとを固定するものであり、本測定装置は、これらの基準ミラーに対する被測定物表面上の点の位置を測定するものである。
計測ベース3は箱状の構造物であり、これに被測定物4を固定し、水平方向の位置基準であるX基準ミラー5、及び図示しないY基準ミラーと鉛直方向の位置基準であるZ基準ミラー7を備えている。これらの計測ベース及び基準ミラーは、測定の基準となるものであるので、線熱膨張係数の小さな材料、例えば低熱膨張セラミック、或いは低熱膨張鋳鉄や低熱膨張ガラスなどの材料を用いて製作する。これらの基準ミラーは後述するレーザ測長器で距離を測定するときの位置基準となるものである。
プローブを移動させるスライドについて説明する。床1上に除振台8a、8bを設置し、その上に走査軸ベース9を設ける。その走査軸ベース9を固定子として、図中のX方向に相対的に移動可能なX軸スライド10と、X軸モータ11とが走査軸ベース9に設けられている。更に、X軸スライド10に対してY方向に相対的に移動可能なY軸スライド12とY軸モータ13とがX軸スライド10に設けられている。同様にY軸スライド12に対してZ方向に相対的に移動可能なZ軸スライド14とZ軸モータ15とがY軸スライド12に設けられている。
【0014】
このような構成をとることで、Z軸スライド14はXYZ方向の3次元的に移動可能となる。Z軸スライド14には、プローブ支持手段17が固定されており、プローブ支持手段17から懸架された板バネ18でプローブシャフト19を支持する。板バネ18は、1枚或いは複数枚の薄い金属製の板によって構成されており、図では片持ち梁の構造で表されているが、両持ち梁の構造であっても良い。またプローブシャフト19は、熱に対する安定性を確保するために線熱膨張係数の小さな材料、例えば低熱膨張セラミック、或いは低熱膨張鋳鉄や低熱膨張ガラスなどの材料を用いて製作する。
プローブシャフト19は、その上端にZ方向とX及びY方向にミラー面を持つ3面ミラー20を設け、下端に被測定物4と接触する先端球21を設ける。
【0015】
以上のように上述のX軸スライド,Y軸スライド,Z軸スライドにプローブ支持手段17が固定されて、三次元方向に移動可能なプローブ支持手段を構成される。またこのプローブ保持手段に対してプローブシャフト19と先端球21とからなる接触式プローブが弾性支持されている構成となる。
【0016】
さらに、プローブのXY方向変位を計測するためのプローブ用小型ミラー22を3面ミラー20とは間隔をおいてプローブシャフト19に更に設ける。一方、プローブ支持手段17には3面ミラー20の変位を計測してプローブの位置や姿勢を測定するための干渉計を配置する。干渉計はX方向の変位を計測する干渉計Xp1と、図示はしていないが同様にY方向の変位を計測する干渉計Yp1とZ方向の変位を計測する干渉計Zpである。プローブ用小型ミラー22との距離を計測するために、X方向の変位を計測する干渉計Xp2と、図示はしていないが同様にY方向の変位を計測する干渉計Yp2をプローブ支持手段17に設ける。また、プローブ支持手段17にはZ距離測定用小型ミラー23を設け、Z基準ミラー7との距離を計測するためにZ軸用干渉計Z1を設ける。このZ軸用干渉計Z1及び干渉計Zpの測定軸はプローブの軸、そして先端球21の中心を通るように配置する。
【0017】
また、X基準ミラー5とプローブ支持手段との距離を2箇所で計測するためのX距離測定用小型ミラー24a、24bをプローブ支持手段17にそれぞれ設け、これらの距離を測定するためのX軸用干渉計X1、X2をZ軸スライド14に設置する。図示していないが、Y方向についても同様に、Y軸用干渉計Y1、Y2をZ軸スライド14に設置する。これら干渉計について、レーザ測長器を用いて計測した距離を干渉計と同じ記号で表すものとする。例えば、干渉計X1で計測した距離をX1などと表す。また、各XY方向の干渉計を設置するZ方向の間隔を以下の記号で表す。
L1 干渉計X1とX2との間隔(不図示の干渉計Y1とY2との間隔と同じ)
L2 干渉計X2とXp1との間隔(不図示の干渉計Y2とYp1との間隔と同じ)
L3 干渉計Xp1とXp2との間隔(不図示の干渉計Yp1とYp2との間隔と同じ)
L4 干渉計Xp2とプローブ先端球21の中心位置との間隔(不図示の干渉計Yp2と先端球21との間隔と同じ)
プローブ支持手段17とプローブに取り付けられた各ミラーとの距離を計測した5つのXp1、Xp2、Yp1、Yp2、Zpについて、以下の式により、プローブ先端球21の中心位置Xs、Ys、Zs及び、鉛直方向に対するプローブシャフトの回転角度Xm、Ymをプローブ位置姿勢計算手段28によって計算する。
【0018】
以下の式ではXp1、Xp2、Yp1、Yp2、Zpを図1中で描かれた各干渉計にて計測された、矢印で示された距離を示すものとする。
Xs = Xp1+(Xp2−Xp1)*(L3+L4)/L3 ・・・(式1)
Ys = Yp1+(Yp2−Yp1)*(L3+L4)/L3 ・・・(式2)
Zs = −Zp ・・・(式3)
Xm = (Xp2−Xp1)/L3 ・・・(式4)
Ym = (Yp2−Yp1)/L3 ・・・(式5)
これらの符号については、干渉計の取り付け向き、座標のとり方によって決まる。
これらの各ミラーや干渉計等から上述の接触式プローブの位置および姿勢を計測する計測手段が構成されている。
【0019】
Xmは長さL3に対するプローブの干渉計Xp1の位置に対する干渉計Xp2の位置を表す(Xp2 - Xp1)の比を表していて、これは鉛直方向に対するプローブシャフトの傾き角Xmの正接tan(Xm)を表している。このときXmは非常に小さな値のためtan(Xm)≒Xmとしてよい。したがって、先端球21に対して外力が加わった際に生じる先端球21のX方向の変位δxは、プローブ支持手段に支持されたプローブシャフトの回転中心から先端球21までの長さをLとするとL *Xmとなる。
【0020】
プローブの回転中心は、接触式プローブをプローブ支持手段に弾性支持した上で、プローブシャフトや先端球21に外力を加えることで、どの位置が外力に対して不動なのかをあらかじめ計測することで、求めることができる。
したがって、δ、δ、δと、予め求めておいたプローブの剛性Kx、Ky、Kzを用いて、プローブの接触力Fを
F = ((Kx*δ+(Ky*δ+(Kz*δ1/2 ・・・(式6)
のように、接触力ベクトル演算手段27によって計算する。このFをなるべく一定にするように、接触力Fをあらかじめ定められた目標値Ftに近づけるようにX軸モータ11の動きを接触力制御器26によって制御し、X軸スライド10を駆動させる。同様にY軸、Z軸も制御する。これを接触力制御と呼ぶ。
【0021】
この接触力制御を行いながらプローブを走査することで、被測定物4の表面を倣うプローブの先端球21の位置を求めることができる。接触に伴うプローブの回転中心が変化しないことを前提とすれば、プローブ用小型ミラー22を省略し、Xp2とYp2をゼロとしても良い。但し、このときのL3及びL4は、プローブの回転中心からXp1、プローブ用小型ミラー22までの距離とする。こうすることで、3面ミラー20の変位を計測するだけで、簡便にプローブ接触力Fと先端球21の位置を求めることができる。
【0022】
プローブを走査する場合はXY平面上に、例えばラスター軌道のような走査軌道を上位コントローラ29から与え、X軸スライド10及びY軸スライド12を移動させる。このときのX軸及びY軸の動きは、位置制御器25によってモータを駆動し、スライドを所望の位置へ動かす位置制御となっている。Z軸スライド14に関しては、Fを一定に制御する接触力制御による動作によってのみ動かされることとなる。従って、Fを一定にしつつプローブ走査を行う場合は、X軸とY軸には位置制御による指令と、接触力制御による指令を、それぞれX軸方向移動量算出手段30とY軸方向移動量算出手段31において加算する。これにより、X軸及びY軸に接触力制御と位置制御を同時に行わせることによって走査を行う。
【0023】
図4は、急な傾斜角の傾斜面を有する被測定物4とプローブ先端球21の位置による接触力Fおよびその分力Fx、およびプローブの軌道方向との関係を模式的に描いた図である。
図4を用いて以下説明する。なお図4では説明のためプローブシャフトは省略して描かれている。
図4中のP1の位置に先端球21がある場合のように、被測定物4がXY平面に対し高い傾斜角(例えば垂直)の表面を持ち、その傾斜面を測定しなければならない場合、プローブを走査するときに、被測定物4の面法線とプローブ走査軌道が向きを違えて平行になってしまう。このような場合には、位置制御と接触力制御を行うと、それぞれ接触力Fと走査軌道方向の位置制御のために発生させた力Sとを加算した際に互いに相殺しあってしまい、位置P1にて先端球21が進むべき破線で示したZ軸の正の方向にプローブが被測定物に対して走査ができなくなってしまう。
【0024】
また、被測定物4の面法線と走査軌道が完全に平行ではなくとも、例えば図4中のP2の位置にあるように、平行に近い状態の場合、位置制御と接触力制御を加算した際に、プローブが進むべき被測定物4の接線方向に作用する力St(力Sの被測定物4に対する接線方向の分力)による動作量は、著しく小さくなりプローブの走査が困難になる可能性がある。
【0025】
一方、図4のP4の位置に示されるように、プローブの走査軌道の方に対し、急な傾斜面をプローブが下る場合もプローブ走査が困難になる。急な傾斜面を下る場合、先端球21が被測定物4の接線方向に作用する力Stが、力Sに対して非常に小さくなる。このような場合、プローブが被測定物に対して浮遊する恐れがあり、接触力Fを特定の値に維持しつつ被測定物4の形状計測を継続することが困難になる可能性がある。
このような困難を解消するため、本実施例では、接触力FのXY平面内の分力Fx,、Fyもしくはその合力Fxyを更に算出し、接触力制御の状態を監視する。このとき、Fxyは、
Fxy = ((Kx*δ+(Ky*δ1/2 ・・・(式7)
によって接触力ベクトル演算手段で計算される。
【0026】
FxまたはFyの目標値のいずれか一方が0の場合には、Fxy においてはFxおよびFyのいずれかを用いて以下の制御を行うことと同義である。したがって、以下ではその両方の場合を含むFxyの制御を挙げて本実施例の形状計測方法を説明する。
接触力F のXY成分であるFxyが増加しFの値に近づくにつれて、接触力制御との相殺に伴って位置制御が妨げられることになる。そこで、Fxyについて接触力Fに対して定められた閾値Thxyを設け、これら閾値を越えた力に比例するプローブ支持手段と交差する方向(本実施例ではZ軸の正の方向)の速度VzをZ軸に与えることで、プローブを上方向に移動させ、走査を継続することができる。閾値Thxyは、例えば接触力制御における接触力Fの目標値の0.8倍という具合に決定する。そして比例係数をaとすると、Vzは以下のように計算される。
Vz = (Fxy−Thxy) * a ・・・(式8)
このようにすることで、プローブをプローブ支持手段の移動方向と交差する方向に移動させる際に、プローブを被測定物に対して押し込みすぎたり、逆にプローブが被測定物から離れたりすることを防ぐことができる。このとき、速度Vzの代わりに加速度Azを与えても良く、プローブ支持手段の移動方向と交差する方向にプローブ支持手段を駆動させることで接触式プローブを変位させればよい。また接触力Fがどの程度の大きさかが既知の場合は、Thxyは接触力Fに対して関連付けずに値を決めても良い。
【0027】
また、位置制御による命令が都合のいい場合には、閾値Thxyと算出された分力Fxyとの差の積分値に比例する位置を与えても良い。以上により接触力制御と位置制御の相殺を防ぎつつ、走査を行うことができるようになる。したがって、垂直に近い急傾斜の面を有する被測定物であっても、傾斜面に沿った駆動力をプローブに適切に与えることができ、形状計測が可能となる。
【0028】
図3に、XY平面に対し垂直に近い面を持つ被測定物4の表面に対してプローブを接触させつつプローブを走査して形状計測を行う際の、プローブ動作を説明するフローチャートを示す。
【0029】
(S1,a)まず、プローブの先端球21を被測定物4に接触させ、その際に生じる接触力Fを上述のようにプローブの位置および姿勢からもとめ、接触力Fが目標値Ftに対してちかづくように制御しながらプローブを走査する。これは、プローブの針圧を一定値にちかづける制御に相当する。
(S2,a)接触力Fのうち、プローブ支持手段の移動方向、すなわちプローブの走査方向の成分を有する分力を算出する。この工程は上述の説明において、接触力Fのうちプローブの走査方向の成分であるFxyを算出することに相当する。図4に描かれたP2及びP4の位置における先端球21に加わった力からも分かるように、上述の分力は、前記走査方向に対して正の成分を有する場合(P4)と負の成分を有する場合(P2)がある。もちろん算出された分力はプローブの走査方向と平行である必要はなく、走査方向の成分を有する分力であればよい。プローブ支持手段の移動方向は、ラスター走査などの形状計測を開始する前にあらかじめ定められたプローブの走査軌道から、既知である。
(S3,a)あらかじめ定められた閾値Thより、その分力が大きいかどうかを判定する。分力(上述の例ではFxy)が閾値Thより大きくない場合は、プローブの走査方向から交差する方向への分力の成分が大きいことに相当する。したがってプローブ走査に伴う位置制御と接触力制御とによって生じる力が互いに相殺することなく、プローブを被測定物4の表面に沿って走査することができる。(例えば図4の位置P3の状態に例示される)この場合、プローブを走査しつつ接触力Fのプローブの走査方向(プローブ支持手段の移動方向)の成分を有する分力の算出、および閾値Thとの比較を再びおこなう。
(S4,a)一方、分力が閾値Fhより大きい場合は、定められた走査軌道うちの現在の走査方向に対して交差する方向へのプローブの移動が困難となっているため、まず走査方向に交差する方向の針圧の力制御を無効化する。本実施例においてはZ方向の針圧の力制御を無効化する。
ここで「無効化」とは、力制御することを停止することを指し、具体的には接触力制御器26に内蔵された積分器のゲインを0にすることなどによって実現できる。
【0030】
閾値Thxyを分力Fxyが越えた際、Z方向など、プローブの走査方向と交差する方向にプローブ支持手段を駆動させることによりプローブを移動させる。このとき、例えばZ方向へのプローブの移動に伴ってZ方向針圧が減ずる現象が発生する。これは、摩擦力によってプローブがその場に留まろうとするからである。従って、プローブを移動させる場合にはZ針圧を一定化するための力制御を無効化する。
(S5,a)プローブ支持手段の移動を停止し、プローブ走査を停止する。
(S6,a)つづいて、停止時のプローブの走査軌道の方向、すなわちプローブ支持手段の移動方向に対し、該移動方向に交差する方向にプローブ支持手段を駆動することで、プローブを変位させる。交差する方向は被測定物4の形状からどの方向の変位を与えればよいかは決まる。図4に示した半球部と柱状部とを共に備えた部材の場合、先端球21が位置P1に在るとすると、Z軸の正の方向成分をもった速度もしくは加速をプローブ支持手段17に与えればよい。逆にZ軸の負の方向に変位するように速度もしくは加速度を与えると、プローブの先端球21が移動した結果、計測ベース3に衝突するおそれがあるため不都合である。被測定物4の概略の形状はあらかじめ分かっている場合がほとんどなので、どの方向にプローブ支持手段を移動させればよいかは、あらかじめ設定して良い。
(S7,a)プローブの移動によって再び分力Fxyが閾値Thxyを下回った際には、Z針圧一定化制御を「有効化」することで、緩斜面走査時の動作に戻ることができる。
これは、0にした積分器のゲインを、0ではない値に設定することで再び力制御を「有効化」することで実現できる。
(S8,a)その後、プローブ走査を再開し、被測定物4の形状計測を再開する。
(S9,a)被測定物4の目的の測定領域を終了したかどうかを判定し、終了ならば計測を終了し、そうでないならば再び(S1,a)からのステップを行う。
【0031】
なお、閾値を超える分力が生じた場合にプローブが移動する際、被測定物4表面がXY平面に対し垂直である場合、プローブ支持手段17が走査軌道に沿った動作を行ったままでは、被測定物4の表面に向かってプローブが進み続けることになり、針圧が上がり続けることになる。あるいは、急な傾斜面を下る場合は、プローブが被測定物4の表面を離れて針圧がゼロになり浮遊することになる。
【0032】
そこで、図3の(A)のフローチャートに示した形状計測においては、分力Fxyが閾値Thxyを越えた際、プローブ支持手段17の走査軌道の方向(例えば、ラスター走査する際の現在の進行方向)への駆動を停止し、プローブの走査を停止させている。プローブが垂直な区間を越えれば、プローブ支持手段17の走査軌道の方向への走査を再開させることによって、被測定物4が垂直な面を有する場合であってもプローブによる被測定物4の表面の倣い走査が可能になる。
【0033】
被測定物4が、垂直な面など急斜角面を有していない場合では、図3(B)のフローチャートに示した形状計測方法のように閾値Thxyを分力Fxyが越えた際の、ステージの走査を停止、及びそれを再開させる措置を省略しても良い。図3(B)のフローチャートに示した形状計測方法は図3(A)の場合の(S5,a)及び(S9,a)に示したプローブ支持手段17の走査の停止及び再開の工程を省略したもので、他は同様である。
これにより、誤判断による形状計測の途中停止を防ぎ、安定的な動作をさせる上で有利である。
【0034】
ここで、Thxyについては、Fxyが該Thxyに達する前と後で値を変化させる、所謂ヒステリシストリガーを適用してもよい。その場合、FxyがThxyを超えて変化した際に起こる振動的なプローブの動作を防ぎ、より安定な走査を行うことができる。
【0035】
Fxyに代えて、走査軌道に平行な成分を算出し、上述の(式8)に定めた関係などを利用して、同様にプローブ走査しても良い。この場合、強制変位と接触力制御によってプローブをZとXYのいずれかを含む“斜め上方向”に逃げることが可能になり、より安定な走査が行える。但し、結果的にプローブが辿った走査軌跡のXY平面への射影が、当初与えた走査軌道と異なることになり、与えた走査軌道にそって厳密に形状計測したい場合には使用できない。
【0036】
また、接触力Fと分力Fxyの大きさを比較することによって、プローブが接する被測定面の傾斜を推定することができる。特に接触力Fとその分力Fxyが殆ど等しい場合には、被測定面は、XY平面に対し垂直な面であることが予想できる。そのような場合には、プローブのXY方向の走査速度を減速、或いは停止させ、プローブ移動手段17をZ方向の正の向きに移動させ続けることで、垂直な面に向かってプローブが進行することを回避することができる。これにより、XY平面に対し垂直な壁面など急傾斜面を有する被測定物であっても、XY平面上の走査軌道のみを与えてZ方向の走査軌道は与えずに、安定に形状計測を行うことが可能となる。
【0037】
<第2の実施例>
本発明にかかる第2の実施例について、図2を用いて説明する。第1の実施例とは微動テーブル16と補償制御器32の部分だけが異なるので、その部分だけを説明する。微動テーブル16はZ軸スライド14に、XYZ方向に移動可能に設けられている。また、プローブ支持手段17は微動テーブル16に固定されている。
制御に関して説明する。三次元方向に微動可能なテーブルである微動テーブル16は接触力の力制御だけを受け持ち、プローブの位置制御には関与しない。微動テーブル16のXYZ方向の制御によって接触力Fを一定に保ち、微動テーブル16のZ方向の移動に関しては、Z軸スライド14の制御によって補償を行う。これは、微動テーブル16の出力を補償制御器32に入力し、Z方向の移動量がゼロとなるようにZ軸モータ15を制御し、Z軸スライド14を移動させるもので、微動テーブル16のストロークを補う効果を持つ。この微動テーブル16には、例えばピエゾアクチュエータなどの高速に応答しうる駆動手段を有するテーブル用いることで、Z軸スライド14を含めたZ軸の制御帯域を向上させる効果を持たせることができる。
【0038】
このように、Z軸の制御帯域を向上させることができれば、位置制御による力と接触力制御による力が互いに相殺し、プローブの走査が困難となった際に、より高速にプローブを移動させることができる。従って、より高速走査を行った際にも、位置制御と接触力制御が相殺した際に、接触力制御の飽和を防ぐことが可能になり、より接触力偏差の小さい誤差の少ない形状計測を行うことができる。また、本実施例においては、接触力制御は微動テーブル16だけで行い、XYの各スライドには接触力制御による影響が及ばないので、初期に与えた走査軌跡をより厳密に守らせてプローブを被測定物4に対して走査することができる。
【0039】
実施例1,2いずれにおいても、Xp1等のプローブの位置姿勢を測定する手段として、レーザ測長器を想定して説明を行ったが、他の測定手段、例えば、静電容量変位計、渦電流変位計などを用いても同じことである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は上記構成、作用を有するもので、垂直に近いような急峻な面を持つに被測定物に対しても高精度の測定することが可能になり、産業上、科学技術上の効果は大きい。
【符号の説明】
【0041】
1 床
2 除振台
3 計測ベース
4 被測定物
5 X基準ミラー
6 Y基準ミラー(図示せず)
7 Z基準ミラー
8 除振台
9 走査軸ベース
10 X軸スライド
11 X軸モータ
12 Y軸スライド
13 Y軸モータ
14 Z軸スライド
15 Z軸モータ
16 微動テーブル
17 プローブ支持手段
18 板バネ
19 プローブシャフト
20 3面ミラー
21 先端球
22 プローブ用小型ミラー
23 Z距離測定用小型ミラー
24 X距離測定用小型ミラー、
25 位置制御器
26 接触力制御器
27 接触力ベクトル演算手段
28 プローブ位置姿勢計算手段
29 上位コントローラ
30 X軸方向移動量算出手段
31 Y軸方向移動量算出手段
32 補償制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触式プローブを被測定物に接触させつつ、前記被測定物の表面を走査させると共に前記接触式プローブの位置を計測することで、前記被測定物の形状を測定する形状測定装置において、
三次元方向に移動可能なプローブ支持手段と、
前記プローブ支持手段に対して弾性支持された接触式プローブと、
接触式プローブの位置および姿勢を計測する計測手段と、
計測した接触式プローブの位置または姿勢から前記被測定物に対して接触式プローブが受ける接触力を演算する演算手段と、
を有し、
前記接触力の前記プローブ支持手段の移動方向成分を含む分力が、あらかじめ定められた閾値を超える場合は、前記プローブ支持手段の移動方向と交差する方向に前記プローブ支持手段を駆動させることで前記接触式プローブを移動させることを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
前記プローブ支持手段の移動方向成分と前記閾値との差に比例する速度又は加速度が前記プローブ支持手段に与えられることで前記プローブ支持手段が駆動すること特徴とする請求項1記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記プローブ支持手段は、三次元方向に移動可能なスライドと前記スライドに対して更に三次元方向に移動可能に前記スライドに保持されたテーブルとを有し、
前記テーブルを移動させることで前記接触式プローブの位置を移動させて前接触力の大きさを目標値に近づけることを特徴とする請求項1記載の形状測定装置。
【請求項4】
三次元方向に移動可能なプローブ支持手段に弾性支持された接触式プローブを被測定物に接触させつつ、前記被測定物の表面を走査させると共に前記接触式プローブの位置を計測することで、前記被測定物の形状を測定する形状測定方法において、
前記接触式プローブの位置および姿勢を測定して、計測した接触式プローブの位置または姿勢に基づいて接触力を演算する工程、
前記接触力を目標値に近づけるように力制御手段が制御しつつ、前記プローブ支持手段を移動させることで前記接触式プローブが被測定物表面を走査する工程、
前記接触力の前記プローブ支持手段の移動方向成分を含む分力が、あらかじめ定められた閾値を超える場合は、前記プローブ支持手段の移動方向と交差する方向に前記プローブ支持手段を駆動させることで前記接触式プローブを移動させる工程、
とを有することを特徴とする形状測定方法。
【請求項5】
前記プローブ支持手段の移動方向成分と前記閾値との差に比例する速度又は加速度が前記プローブ支持手段に与えられることで前記プローブ支持手段が駆動することを特徴とする請求項4記載の形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−168001(P2012−168001A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28716(P2011−28716)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】