説明

往復動エンジン

【課題】 環状ガス室に導入したガス圧により、コネクチングロッドの傾きから生ずるスラスト力に対抗してピストンをシリンダから浮かして支持し、ピストンとシリンダとの摺動摩擦抵抗を低減するようにした往復動エンジンを提供すること。
【解決手段】 往復動エンジン1は、ピストンリング26がピストン上面3Aに平行に設けられ、ピストンリング27がピストン2の往復動方向に対して傾斜して設けられ、ピストンリング26とピストンリング27との間がスラスト側12において巾広く、反スラスト側13に向って次第に巾狭く形成され、ピストンピン10の中心がピストン中心に対してスラスト側12に偏心されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンエンジンの改良に関する。
【0002】
詳細には、本発明はピストンのセカンドランド(第2ランド)の外周面とシリンダの内面と第1ピストンリングと第2ピストンリングとに囲まれて作成された環状ガス室にピストンの上方の燃焼高圧ガスを導入し、この導入したガス圧により、スラスト側において、ピストンをシリンダから浮かして支持し、ピストンとシリンダとの摩擦抵抗の低減を図った往復動エンジンに関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1及び特許文献2のいずれもピストンに働くスラスト力による、スラスト側におけるピストンとシリンダとのフリクションロスを低減する技術である。これらに記載の技術は燃焼圧力を受けるピストン上面部とピストンリングを装着したランド部とからなるピストン上部体と、このピストン上部体の下側に形成されたスカート部とを備えたピストンにおいて、ピストン上部体の外周面に装着された第1ピストンリングと第2ピストンリングとの間の第2ランド部に環状ガス室をスラスト側で巾広く、反スラスト側に向って次第に巾狭にして形成し、上記シリンダの内面のスラスト側の上部位において、複数の凹所が形成され、ピストンが上死点または上死点近傍に位置するとき、上記凹所を通してピストン上方の高圧ガスを上記環状ガス室に流入させ、ガス室に流入した高圧ガスによりピストンをスラスト側から支持した往復動エンジンである。
【0004】
即ち、上記環状ガス室に導入したガス圧により、コネクチングロッドの傾きから生ずるスラスト力(側圧)に対抗してピストンをシリンダから浮かして支持し、ピストンとシリンダとの摺動摩擦抵抗を低減するようにした往復動エンジンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO92/02722号
【特許文献2】国際公開第WO2004/079177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来のピストンは、ピストンピンがピストン中心線より反スラスト側に偏心している。このため、圧縮行程でピストンが上死点に達したときピストンにおいては、そのピストン上部体が反スラスト側シリンダ内面より離れ易く、ピストンの反スラスト側のトップランドに次の爆発膨張行程において燃焼ガス圧力が強く作用する。このため、スラスト側より環状ガス室にガス圧を導入しても、十分にピストンを浮かせることができず、スラスト側の摩擦抵抗が十分に低減されない。そこで、本発明は上記の欠陥を除去したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
燃焼ガス圧力を受けるピストン上面とピストンリングを装着したランド部とからなるピストン上部体とこのピストン上部体の下側に形成されたスカート部とを備えたピストンにおいて、シリンダの内面とピストン上部体の第2ランド部の外周面と第1ピストンリングと第2ピストンリングとに囲まれた環状ガス室を形成し、上記シリンダの内面のスラスト側の上部位において、複数の凹所が形成され、爆発燃焼行程においてピストンが上死点又は上死点近傍に位置するとき、上記凹所を通してピストン上方の高圧ガスを上環状ガス室に流入させ、ガス室に流入した高圧ガスによりピストンをスラスト側から支持して、降下するようにした往復動エンジンにおいて、第1ピストンリングがピストン上面に平行に設けられ、第2ピストンリングがピストンの往復動方向に対して傾斜して設けられ、上記第1ピストンリングと第2ピストンリングとの間がスラスト側において巾広く、反スラスト側に向って次第に巾狭く形成され、ピストンピンの中心がピストン中心に対してスラスト側に偏心された往復動エンジンである。
【発明の効果】
【0008】
ピストンのピストンピンがピストン中心線よりスラスト側に偏心しているため、圧縮行程でピストンが上死点に達したときもピストンのピストン上部体は反スラスト側シリンダ内面より離れが少なく、従ってピストンの反スラスト側のトップランドに作用する燃焼ガス圧力の影響は少ない。このため、ピストンは、スラスト側より環状ガス室に導入した高圧ガスによって支持され、シリンダ内面より十分に浮かされシリンダ内面とピストンとの摩擦が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態の例の縦断面説明図である。
【図2】図1に示す例の動作説明図である。
【図3】図1に示す例のピストンの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に示した実施例について説明する。
【実施例】
【0011】
第1図から第3図には、本発明の往復動エンジンの実施例が示してある。
【0012】
図1から図3には、本実施例の往復動エンジン1のピストン2が示してある。上記ピストン2は、燃焼圧力を受けるピストン上面部3とピストンリング溝4、5、6を有するランド部7とからなるピストン上部体8と、このピストン上部体8の下側に形成したスカート部9とピストンピン10を支持するピンボス部とを備える。なお、上記ランド部7は上記ピストン上部体8の外周面16をも指す。以下、ランド部7をピストン上部体8の外周面16と称す。さて、上記ピストン2において、12はスラスト側を示し、13は反スラスト側を示す。
【0013】
ピストン2は、上記ピストン上部体8が、ピストン2の中心線14に対して反スラスト側13に偏心eして形成されている。15は、上記ピストン上部体8の中心線を示す。図3に示すように、ピストン2は直立姿勢で、反スラスト側13において、上記ピストン上部体8の外周面16とスカート部9の外周面17とが垂直線18上にそろえて、形成されている。
【0014】
一方、スラスト側12において、ピストン上部体8の外周面19は、スカート部9の外周面20を通る垂直線21から内側に位置し、隙間22がある。
【0015】
特に、ピストン2は、図3に示すように、ピストン10の中心11がピストン中心線14に対してスラスト側12に偏心e2して配設されている。ピストン2は、上記の如く形状であるため、図1及び図2に示すように、シリンダ23に組込まれ、直立姿勢にあるとき、反スラスト側13において、ピストン上部体8の外周面16とスカート部9の外周面17とが共に、シリンダ23の内面24に添い当り接している。他方、スラスト側12においては、ピストン上部体8の外周面19とシリンダ23の内面24との間には隙間(クリアランス)25が存在する。ピストン上部体8のピストンリング溝4及び5には圧縮用のピストンリング26及び27が組み込まれている。即ち、ピストン上面3に一番近いところの第1ピストンリング溝4には、第1ピストンリング26が組み込まれ、次に近い第2ピストンリング溝5には、第2ピストンリング27が組み込まれている。もちろん、第1ピストンリング26はトップリング、第2ピストンリング27はセカンドリングのことである。そして、もちろん第3ピストンリング溝6にはオイルかきリング28が組み込まれている。
【0016】
第1ピストンリング26が組み込まれている第1ピストンリング溝4は、ピストン上面3Aに平行に形成されている。第2ピストンリング27が組み込まれている第2ピストンリング溝5は、スラスト側12に向かって2°から5°の下り傾斜して形成されている。即ち、第2ピストンリング溝5は、第1ピストンリング溝4及びピストン上面3Aに対して、その間の距離Dがスラスト側12において巾広く、反スラスト側13に向かって次第に巾狭に形成されている。
【0017】
従って、第2ピストンリング27は、ピストン上面3Aに平行した第1ピストンリング26に対して、その間の距離D1(第2ランド部30)は、スラスト側12において巾広く、反スラスト側13に向かって次第に巾狭になっている。
【0018】
図1及び図2に示すように、ピストン2がシリンダ23に組み込まれた状態でピストン2には、ピストン上部体8の第2ランド部30の外周面とシリンダ23の内面24と第1ピストンリング26及び第2ピストンリング27とにより囲まれた環状ガス室31が形成されている。
【0019】
第2ランド部30は上述したように、スラスト側12で巾広く、反スラスト側13に向かって次第に巾狭になっているので、上記環状ガス室31もまたスラスト側12で巾広く、反スラスト側13に向かって次第に巾狭になっている。
【0020】
そして、上記環状ガス室31に本往復動エンジン1が燃焼膨張行程の初期において、ピストン2の上方の高圧ガス38を導入し、導入したその高圧ガス39を保持させる。
【0021】
図1及び図2に示すように、シリンダ23には、スラスト側12の内面24において、その上部位33のところに凹所34が複数個(3〜4個)、円周方向35に沿って、並べて設けられている。なお、凹所34,34,34はシリンダ内面24から深く、くぼみ状に形成してある。これら凹所34,34,34は後述するが、ガス圧の通路の役目をする。これら凹所34,34,34の位置はピストン2が上死点近傍の位置にあるとき、ピストン2の第1のピストンリング26がこれら凹所34,34,34の上を通過中であるよう定めてある。
【0022】
このように、ピストン2が上死点近傍にあって、第1ピストンリング26が凹所34,34,34の上を通過中のときに、これら凹所34,34,34のそれぞれの凹み空間36,36,36と第1ピストンリング26の外周面との間が通路となり、ピストン2の上方の燃焼室37とピストン2の環状ガス室31とが連通し合い、ピストン2上方の高圧ガス38が上記環状ガス室31に矢印41で示すように流入するようになっている。
【0023】
エンジン運転時、圧縮行程から爆発膨張行程でピストン2が上死点又は上死点近傍の位置において、ピストン2のピストンピン10がスラスト側12にピストン中心線14から偏心しているため、ピストン2はピストン上部体8が反スラスト側13のシリンダ内面24からの離れが少なく、従って、ピストン2の上方の燃焼ガス圧のピストン2の反スラスト側13のランド(トップランド)に作用する影響が少ない。と同時に、更に爆発膨張行程の初期、第1ピストンリング26がシリンダ23の凹所34,34,34を通過するとき、燃焼室37内の高圧ガス38が凹み空間36,36,36を通って環状ガス室31に導入される。この環状ガス室31は受圧面積が反スラスト側13に比べスラスト側12において、はるかに大きく、かつ上記高圧ガス39はスラスト側12より導入されるため、ピストン2はスラスト側12においてガス圧によりシリンダ23の内面24から浮かされて支持され、膨張行程を降下する。
【符号の説明】
【0024】
1 往復動エンジン
2 ピストン
4 第1ピストンリング溝
5 第2ピストンリング溝
6 第3ピストンリング溝
7 ランド部
8 ピストン上部体
9 スカート部
10 ピストンピン
11 ピントン中心
12 スラスト側
13 反スラスト側
14 ピストン中心線
15 ピストン上部体の中心線
16 ピストン上部体の外周面
17 スカート部の外周面
18 垂直線
19 スラスト側ピストン上部体の外周面
20 スラスト側スカート部の外周面
21 スラスト側垂直線
22 隙間
23 シリンダ
24 内面
25 隙間(クリアランス)
26 第1ピストンリング
27 第2ピストンリング
28 オイルかきリング
30 第2ランド部
31 環状ガス室
33 上部位
34 凹所
35 円周方向
36 凹み空間
37 燃焼室
38 高圧ガス
39 高圧ガス
41 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ガス圧力を受けるピストン上面とピストンリングを装着したランド部とからなるピストン上部体とこのピストン上部体の下側に形成されたスカート部とを備えたピストンにおいて、シリンダの内面とピストン上部体の第2ランド部の外周面と第1ピストンリングと第2ピストンリングとに囲まれた環状ガス室を形成し、上記シリンダの内面のスラスト側の上部位において、複数の凹所が形成され、爆発燃焼行程においてピストンが上死点又は上死点近傍に位置するとき、上記凹所を通してピストン上方の高圧ガスを上環状ガス室に流入させ、ガス室に流入した高圧ガスによりピストンをスラスト側から支持して降下するようにした往復動エンジンにおいて、第1ピストンリングがピストン上面に平行に設けられ、第2ピストンリングがピストンの往復動方向に対して傾斜して設けられ、上記第1ピストンリングと第2ピストンリングとの間がスラスト側において巾広く、反スラスト側に向って次第に巾狭く形成され、ピストンピンの中心がピストン中心に対してスラスト側に偏心された往復動エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−64187(P2011−64187A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218191(P2009−218191)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000174220)坂東機工株式会社 (51)
【Fターム(参考)】